2019年03月25日

多層的請求権競合論と、メロンの美味しいところだけいただく感じの。

 前回、国際私法に関する記事を書いた中で、「請求権競合」についてちらっと触れました。

 視野を広げるための、国際私法

 頭の整理をしておきたいので、ちょっと書いておきます。

法の適用に関する通則法(e-Gov)


 「請求権競合」というのは、たとえば、ある事実関係について契約責任と不法行為責任が成立しうるときに、どちらも請求していいの、といった論点です(もちろん、この例だけに限りません)。

 民法上は、両責任が併存するか、契約責任が優先するか、両責任を統合させるか、といった見解が主張されています。
 また、民事訴訟法上は、訴訟物の個数の問題という形で争われています(新旧訴訟物理論)。

 ここにさらに、国際私法上の争いが追加されるということで、さらに議論が錯綜します。

 民法、民事訴訟法では、あくまで両責任とも「日本法」が適用されることを前提にしていたわけです。

 が、通則法によって、契約法が「甲国法」、不法行為法が「乙国法」と違う準拠法が指定されることもありうるわけで、両責任を請求してきた場合には通則法上どう処理するんだ、ということがさらに問題になります(以下、通則法上は「法律行為の成立及び効力」となっているものを契約と言い換えます)。


 道垣内正人先生の論点本だと、通則法上で別々のルールを定めているんだから、契約は通則法7条・8条、不法行為は同法17条等でそれぞれ準拠法決めておしまい、実質法レベルで議論することなんてないよ、はい解散、みたいな感じのことが書いてあります(あくまで個人の印象です)。



道垣内正人 ポイント国際私法 総論 第2版 有斐閣2007
道垣内正人 ポイント国際私法 各論 第2版 有斐閣2014


 極めてシンプルで分かりやすい見解ですけども、そういうことでいいのかなあと思うわけです。


 請求権競合に関する諸外国の実質法のルールなんて私にはわかりませんので、理論的にあり得る立場を列挙してみると、

 A 併存認める。どちらかが成立すれば請求認容。
 B 併存認める。どちらかが不成立なら請求棄却。
 C 契約責任を優先する。
 D 不法行為責任を優先する。
 E 両責任を統合する。

といったあたりが考えられるかと。

 で、たとえば、

  甲国契約法=A、乙国不法行為法=A

みたいに、それぞれの指定準拠法が同じ立場なら、表立った不整合は生じないですよね(ただし、E×Eの場合は、統合の仕方が同じなら、という極めて限定された場合だけ)。

 他方で、たとえば、

  甲国契約法=D(不法行為優先)、乙国不法行為法=C(契約優先)

みたいに、両国がお互いに「どうぞどうぞ」状態になったらどう判断するんでしょう。どちらでも責任追及ができなくなるのかどうか。

 また、その国の請求権競合ルールが実質法(実体法)上にはなく、「手続法」で調整がされている場合は、「手続法は持ち込まない」ってことで、請求権競合ルール無しと扱うのか。
 それとも、本来、実質法で定めるべきものを手続法に外出ししてるだけ、てことで、手続法から請求権競合ルールを切り出してその国の実質法と扱うのか。


 道垣内先生の見解というのは、こういった込み入った議論を全部飛ばせるように、という考慮もあるのかもしれません。
 通則法上で併存を認めていることにしちゃって、かつ、実質法からは請求権競合ルールをすべて排除すると。

 が、通則法の解釈で、これまでの民法上の議論を全部すっ飛ばしてしまうような、他領域に踏み込んだ立場まで導けるのか、不勉強な私にはわかりません。
 通則法上でだって、当事者が一つの事実関係に複数の法的観点を主張してきた場合に、準拠法を指定する前、あるいは指定した後に、何らかの形で統合をするという道もありうるわけであって。


 ちなみに、以下は全く根拠のない邪推。

 日本の実務だと、実質法上も併存、手続法上も併存、が当然であるかのように扱われているところです。
 が、片方の準拠法が外国法になりそうだと分かった途端、日本法のほうに寄せようと、統合しだすんじゃないかなあと。
 「隙きあらば日本法」の法則が発動して。


 以上、国際私法に関しては、民法や刑法にも増して素人感満載なので、そういうレベルのものとして扱ってください。

 この論点、もっと深掘りするには以下のような本などを読むべきなんでしょうけども、なんせ趣味の範囲なものですから。



四宮和夫 請求権競合論 (一粒社1978)
国友明彦 国際私法上の当事者利益による性質決定 (有斐閣2002)
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2019年03月18日

金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)



金子宏 「租税法 第23版」(弘文堂2019)


 「○○と解すべきである(反対、判例)」と書けるのは金子先生だけ、でおなじみの。

 この名著、もうとっくに記事にしているかと思ったら、書いてなかったので記事化。


 この本、明確に使いみちが決まっていて。
 改訂されるたびに必ず買っています。

 去年は改訂がなかったので、第23版では、2017年度、2018年度、2019年度(要綱)の税制改正が反映されています。
 でも、改正の内容それ自体を理解するには、それ専用の改正本を読んだほうが早い。

 税務の本て、「○年度版」とかいって毎年改訂されてて、当然最新版を手元においておくべきなんですが、同じ本を買う必要はあまりなくって。
 ので、同じジャンルで別の人の最新版を買うとかしています。


 この本はそういう使い方ではなく。
 
 毎回頭から通読することで、

・以前の改訂から後に得た個別の知識を、体系的に整理する。
・税制改正が体系のどこに関わるものなのかを確認する。
・どのあたりに最新判例がでているかを把握する。

といったあたり。

 これ読み終わると、バトルものの映画を見終わった後に自分も強くなった気になる、みたいな、謎の税務万能感を得られます(気のせい)。
 が、その後難問に出くわすたびに削られて、等身大に戻る(でもちょっとは成長しているはず)。

 ちなみに、自分の理解ぐあいの「マイルストーン」として使う、という意味では、団藤重光先生の『法学の基礎』と同じ位置づけ。



団藤重光 「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)

団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)


 決して初学者が手を出してはいけない。
 たぶんですけど、税法に苦手意識をもってしまうはず。

 素直に、以下の記事で紹介したような入門書・教科書でしっかり実力をつけてから、挑むべきものだと思います。

中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 私は、実務を経験しているおかげで、抽象的な記述も具体例を思い浮かべながら理解できるようにはなっています。
 が、研究者の人とか、いきなり大学で座学やって難しい論文書いたりできるの、どれだけ頭いいんだろうか、と思ったり。


 ちなみに、税理士でも改訂されたら必ず買うべき学者本としては、この他に江頭憲治郎先生の『株式会社法』と菅野和夫先生の『労働法』があります。
 


江頭憲治郎 「株式会社法 第7版」(有斐閣2017)



菅野和夫 「労働法 第12版」(弘文堂2019)
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2019年03月14日

ネット古書店 購入お作法(含、小トラブルご報告)

 法学書の古書店、実店舗がほとんど無くなってしまって、今となってはネット購入がメインになっています。

 本に限らず、新品ならともなく中古品をネットで買うの、見極め難しいですよね。

 私がこのところ、リピートして利用させていただいているのが、

 ・VALUE BOOKSさん
 ・もったいない本舗さん

あたりです。どちらも、アマゾンや楽天市場に出店されています。

 商品状態の記載が正確だったり、あるいは、記載されていない不具合があったことを報告すると、返品だったり値引だったりで対応してもらえるので、安心して利用できます。
 ので、他店と比べて値段が多少高い場合でも、安心料込みということで優先して購入したりします(多少、ね。)。


 こういう安心して購入できるお店がある一方で、「じゃない」お店があるのも事実。

 もちろん古書店となると、高齢のご夫婦がよく分からないなりに頑張ってネット販売している、のが見て取れるみたいなお店もあって(『日本の古書店』にありがちな)、そういうのは温かく応援すればいいと思うのです。
 クレジット決済できるとか書いてあるけど、手数料のこと考えたら、銀行振込にしておこう、とか。

日本の古書店

 そういうのではなく、対応に不誠実感満載なお店もあるわけで、そのてのお店の見極めが必要になってきます。


 話は逸れますが、『日本の古書店』で思い出したエピソード。

 とある本を日本の古書店経由で注文しました。
 通常は、そのあとに店舗から受注メールが来て、支払、発送と進んでいきます。

 が、なぜかお店から電話がかかってきました。
 何ごとかと思ったら、ご高齢の店長さんで、日本の古書店からメールが来たけど、自分ではメールが打てないので電話しました、と。
 それだけだったらすぐ忘れたと思うんですけど、本が届いてしばらくしてから、お店から手書きのハガキが届きました。
 なにかと思って読んでみたら、店長が亡くなってしまったけど妻のほうで引き継いでやっていきます、みたいな内容でした。
 なんていうか、そんなタイミングでお電話もらってたのね、というので、日本の古書店を利用するたびに思い出すエピソード。


 話は戻って、最近あった変なお店の事例。

 とあるネットショップで購入した本。
 読み進めていくと、やたらと書き込み・線引きが多いことに気づきました。
 商品状態には何の記載もなかったのに。

 カウントしてみたら、本文453ページ中158ページに書込み・線引きがありました。

 もちろん、こちらもネット古本ベテラン勢ですから、多少の書き込みは許容範囲。
 ので、途中まで消しゴムで消せるものは消しながら読んでました。
 が、本文の1/3の書き込みは流石に多いかなあと。

 ということで、問い合わせフォームから質問してみました。

 「本文453ページ中158ページに書込みがありましたが、そういう商品状態前提での販売でしょうか」と。ちゃんと具体的な不具合を記載して。

 ここで、ちゃんとしたお店だと、「返品か値引かで対応します」と回答がくるところ。

 他方で、よろしくないお店の場合は、「ノーリターンノークレーム!」と返ってきます。
 それならそれで、二度とそのお店で買わなければいいだけの話なので、まあ泣き寝入る。

 どちらのルートでも、普通はここでお話しは終わります(ブログのネタにもなりませぬ)。

 が、今回のお店はそのどちらでもなく。

 「弊社HPにも記載させて頂いておりますとおり、中古商品に関しましては弊社販売基準を定めさせて頂いておりますがそれ以上の瑕疵がございましたでしょうか。」(Aさん)

といって、その販売基準のURLを貼り付けてきました。

 これは、購入者側で販売基準のあてはめをしてください、ということですか?

 販売基準持ち出すにしても、具体的な不具合を先に書いておいたんだから、

  「販売基準どおりだから返品対応しません」

とか

  「販売基準に抵触してるから返品対応します」

とか、どっちかでくるかと思っていたんですが、まさかの『弊社基準あてはめお願いルート』を差し込んでくるとは。

 これははじめての体験。

 が、販売基準なんて問い合わせ前に確認した上で聞いているわけで、即座に、

 「販売基準には『多少の書き込みはあります』って書いてますけど、これ『多少の』と言えます?」

とあてはめしてあげたら、今後は別の人(Bさん)から、

 「返金対応するので返品してください、到着したら返金手続します」

という回答が。

 せっかくあてはめしてあげたのに、販売基準云々については一言も触れてくれないので、私のあてはめが正しかったのかが分からないまま。
 すっとぼけから、いきなり返金対応へのチェンジする間に、一体何があったんですか。

 ので、質問してみました。

 「具体的な不具合を書いただけでは取り合ってもらえず、こちら側で販売基準へのあてはめもしないと回答してもらえないのでしょうか」と。

 そしたら、「購入者にも一回販売基準を確認してもらってます」(Bさん)という、なんかよくわからない回答でした。

 それはともかく、途中まで私のほうで書き込みを消しながら読みすすめていたので、いまさら返品とか言われても困るわけです。
 ので、「値引で対応してください」と返信。

 そしたら、また販売基準持ち出してきて、「返品のみでしか対応していません。ただ商品状態を確認したいので書き込みのあるページをメールで送ってください」(Bさん)と。
 1回スルーした販売基準がまたしても復活。

 書き込み158ページあるんだって言ってるのに、いったいどれだけ送ればいいのよ。
 しかも、「1通に5MBしか添付できません」て、スパム並みに何十通も送るんかい、と。

 わからなかったので、とりあえず1回で送れる分だけ送って「あと何ページ分必要ですか」と返信したら、また別の人(Cさん)から「これで判断するので連絡お待ち下さい」と。

 というのが最後、2月9日のメールですが、1ヶ月以上経過した現在でも連絡はありません。


 確かに、個人でやっているせどり屋さんだったら、そこまで必死になるのはまあ理解はできる。

 が、実店舗が何店舗もあるようなチェーン店で、社員かアルバイトの人かはわかりませんが、そういう立場の人がここまで頑なな態度っていうのは、どういう事情なんでしょうね。
 クレームを認めてしまうと、どんな理由かにかかわらず人事評価がさがってしまうとか、そういうことなんですか。

 ということで、二度と買わない店リストに加えました。
タグ:駿河屋
posted by ウロ at 19:17| Comment(0) | 日記

2019年03月11日

田中成明ほか『法思想史』(有斐閣1997)

 最近、ブログ記事が法学書イジりばかりなので、どうにか軌道修正しようと、税務寄りな法学書である『租税法概説 第3版』を頑張って読むことにしました。



  中里実他 『租税法概説 第3版』 有斐閣2018

 ところが、いつの間にか『法思想史』を読んでいる自分がいました。



  田中 成明他 『法思想史』 (有斐閣Sシリーズ)  有斐閣1997

中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018

 読む順は前後しましたが、ブログ記事は『租税法概説』のほうを先に書いたのでセーフ(何が?)。

 ということで、今回は『法思想史』のほうを以下書きました。


 この本、入門書風な感じですが、初学者がいきなり読んで理解できるようなものではないです。
 はしがきにも書いてあるとおり、これは入門書ではなく「概説書」ですね。

 「概説書」というのは、明確なカテゴリー分けがあるわけではないですが、

  ・対象領域を万遍なく扱っている
  ・個々の記述は簡潔

といったあたりが特徴です。

 ので、初学者に配慮したような記述ではなく、一通り勉強が進んだ人が、知識の整理をするのに使う用なんだと思います。
 あるいは、大学の講義のガイドとして使うとか。

 紛らわしいのが、最初に書いた『租税法概説』みたく、タイトルに「概説」とあるのにここでいう「概説書」よりは踏み込んだ記述になっている本もあったりすること。
 じゃあ、その本は初学者がいきなり読んで理解できるようになっているかというと、こちらはこちらで、税法特有の事情からやっぱり理解が難しい記述が多いです(という感じのことを、先日の記事にも書きました)。


 ちなみに、この「有斐閣Sシリーズ」とかいうの、本の「そで」に「豊富な図表・具体例の採用、重要ポイントなどが一目で分かるような表示など、読みやすさとわかりやすさに徹したシリーズです。」とか書いてあります。

 有斐閣Sシリーズ

 他の本は知りませんが、少なくともこの本に関しては、図表も具体例も重要ポイントがひと目で分かるような表示も、特にないです。

 ところどころ思想家の写真・肖像画・レリーフ(?)などが載っているくらい。

 「へー、ソクラテスおじさんって、こんな顔してこんなこと言っちゃうんだあ」

てなるか!(これはノリツッコミですか?)


 そんなこんなで、以下、私の思うこの本の使い方。

 民法とか刑法とか憲法とか、個別法の勉強しているときに、歴史の記述が出てきたりします。
 で、そういうところで得たばらばらの知識を時系列で整理し直すのに、この本を頭から読むといいです。
 「アウトラインプロセッサ」的に、時系列に沿って知識を並べ直していく感じ。

【アウトラインプロセッサもの】


Tak. 「アウトライナー実践入門」 技術評論社2016

 で、興味のある箇所がでてきたら、この本から離れて、それが詳しく書かれた本にあたると。
 少なくとも、この本を一生懸命読んでも、何ごとか新しいことを理解するのは難しい気がします。


 この本は「法思想」の歴史の本なので、余裕があれば「世界史」の年表とかも並行してみていくと、より理解が進むかも。

 しかしまあ、「法思想史」で括ったときに、見事なまでに「西洋」法思想史になるのね。
 それ以外の世界が全く出てこない。

 世界史年表のほかに「世界地図」とか「地球儀」とかもあれば、と一瞬思ったんですが、欧(と米)だけあれば足りるので、そこまでは必要ないなあと。

posted by ウロ at 11:58| Comment(0) | 基礎法学

2019年03月04日

小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)



小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)

 法学書の中では類書のあまり無い、かなりユニークな本。

 手形や小切手に関わったことなくても、クレジットカードや電子マネーなんかは使ったことあるはずなので、それらがどういう法の仕組みなのか、知っておくといいと思いますよ。

 本書で扱っているのが、次のような制度。

  ・電子マネー
  ・仮想通貨
  ・銀行振込
  ・デビットカード
  ・収納代行
  ・小切手
  ・為替手形
  ・約束手形
  ・電子記録債権
  ・クレジットカード

 身近なものからそうでないものへ
 決済機能のみのものから信用機能が備わったものへ

という流れなので、無理なく前から順番に読んでいけます(親切設計)。


 で、何が「ユニーク」かというと、支払決済に関する法制度を横断的に扱っている、という「記述対象」の点ではなく。

 法制度や判例に対する記述が、徹底して「機能的」な側面からの説明になっているところ。
 それら結論が、どのようなリスク分配が望ましいと判断した結果か、という説明なので、とても理解しやすい。
 どういう価値基準に基づいているか分からない、融通無碍な「利益衡量論」とは違って、結論に至る判断過程が明確なわけです。

(ジャンルは違いますが、田村善之先生の「インセンティブ論」が同様の説明の仕方なので、こちらも同じように理解しやすいです。)



田村善之「知的財産法 第5版」(有斐閣2010)


 また、この手の、新しめの法制度を扱った概説書だと、どうしても「条文引き写し」になりがちなところ、そうではなく、十分噛み砕いた記述になっています。
 微に入り細に入りな感じの今どきな条文を、そのまま貼り付ける系の記述にはなっていないので、読みやすい(ただし、「電子記録債権」の章が、他の章に比べてどうも条文引き写し感強めな気が)。

 「正確には逐条解説ものでどうぞ」という、理解しやすさ優先の割り切りがいいですね。

【新しめの法律が条文引き写しな】
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)


 と、全力で褒めておいて。

 機能的な観点からの説明といった点では一貫しているのですが、そこに統一的な理論体系があるわけではないです。
 というか、むしろ「そんなものいらねえ」というのがこの本のバックボーンにある考えだと思います。

 が、かつて前田理論に魅せられながら判例通説に日和った身からすると、未だに、こういった制度に共通する基礎理論・体系のようなものがないのだろうか、という夢を夢想する。

 あえての「馬から落馬する」系の文法。それだけの「儚い夢」という自覚。

【統一理論体系への憧憬】
前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣 1983)

 もちろん、ガチムチの理論体系というよりは、「ムーバブルフレーム(Movable Frame)(wiki)」のようなイメージですよ(伝わらない)。


 ちなみに、「クレジットカード」のところ読んでてふと思ったのが、刑法各論の教科書の「詐欺罪」のところに出てくる「クレジットカード詐欺」の論点。

 その論点であげられている事例が、この本でいう「基本形」(カード会社・加盟店・カード保有者の三角関係)だけな気がします。
 アクワイアラ・イシュア・決済代行業者などがでてくるパターンの事例を、刑法の教科書で見かけた記憶がない(あくまで私の観測範囲)。
タグ:支払決済法
posted by ウロ at 12:28| Comment(0) | 会社法・商法

2019年03月01日

みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い

 生保が損金算入制限されても倒産防は制限されない、でおなじみの。

経営セーフティ共済(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)

 さっそく条文をみてみましょう(以下、条文イジりの記事であって節税系の記事ではないです)。

租税特別措置法(e-GOV)

第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
(一号と三〜五号は省略)

2 前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。


租税特別措置法関係通達(法人税編)第66条の11《特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例》関係

66の11−2(負担金の損金算入時期)
 措置法第66条の11に規定する負担金の損金算入時期は、法人が当該負担金を現実に支払った日を含む事業年度となることに留意する。

66の11−3(中小企業倒産防止共済事業の前払掛金)
 中小企業倒産防止共済法の規定による共済契約を締結した法人が独立行政法人中小企業基盤整備機構に前納した共済契約に係る掛金は、前納の期間が1年以内であるものを除き、措置法第66条の11第1項第2号に掲げる掛金に該当しない。



 まず、法(66条の11は略します)の1項では、支払った事業年度の損金に「算入する」と書いてあって、「算入できる」ではないんですね。
 ので、本来は問答無用で損金算入しなければならないはず。
 が、法2項で、明細添付しないと適用しないよと書いてあるせいで、事実上「できる規定」のようなことになってしまっています。


 また、損金算入するための要件として「明細添付」は要求されていますが、「損金経理」は要求されていません。
 ので、「保険料」で費用計上せずに、「保険積立金」で資産計上した場合でも、申告書上で課税所得を減算することになります。

 そうするとここで、《資金調達に強い!》みたいな触れ込みのコンサルさんが登場してきて、次のような提案をしてくることが考えられます(あくまで仮想例。こういうとき、私はゲーテの『ファウスト』を頭の中に思い浮かべています)。



 『保険積立金として計上すれば、損益計算書をよく見せつつ税金も減らせるよ!御社の顧問税理士はそんなアドバイスしてくれないでしょ!』

という感じの。

 これ、どういうことか具体的に考えてみましょう。

 年間240万円掛金納付したとして(諸々細かい事情は捨象します)

A 保険料として計上した場合

  売上高   240
  保険料   240
  税引前損益  0
  法人税    0
  当期損益   0

  課税所得 0

B 保険積立金として計上した場合

  売上高   240
  税引前損益 240
  法人税    0
  当期損益  240

  課税所得 0(当期損益240−減算240)

 なんと!当期損益が掛金納付分プラスになっているではないですか!
 しかも税額0円のまま!と。

 これだけみせられると、ついつい「保険積立金で処理します!ついては当社の顧問となっていただけますか。」と、乗っかってしまいそうになりますが、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

 保険モノは常に《出口戦略》が重要なわけで。

 ということで、掛金累計800万円を「保険積立金」で計上したあと、解約した場合はどうなるかというと、

  売上高    0
  税引前損益  0
  法人税   200 (税率25%とします)
  当期損益 ▲200

  課税所得 800(当期利益0+加算800)

 税引前損益が0円なのに法人税が発生するという、「どうかしてる系の損益計算書」になります。もちろん、資本金等、従業者、事業所が多いなどで「均等割」が高額になることはありますが、それはそういう説明ができるわけで。

 まあ、税引前損益0円というのは極端な事例であって、利益が1億円くらい出ていてくれれば、紛れてくれます。
 が、倒産防を解約するなんていうのは、800万円でもすぐに現金が欲しい、というカツカツな状況のはず。

 これを、むりやり普通の損益計算書ぽくしようとするなら、解約事業年度以降「なんちゃって税効果会計」みたいなことをやって、誤魔化すしかないような気がします(いや私には無理です)。

 ので、「保険積立金」で処理するにしても、ちゃんと出口のことを考えておこうね、ということです。


 また、節税商品としておすすめする際に、当然のように「前納は1年先まで!」てことになっています。

 これ、条文上どう書いてあるかというと、

  法:支払ったらそのとき損金算入な。
  通:でも前納は1年以内だからね。


と、「1年」て書いてあるの通達だけなんですよね。

 だから、なに通達で勝手に制限しちゃってるの、という点は、問題になっておかしくない。
 今どきの、文言解釈重視の判例の流れからいえば、「勝手な制限は違法」と判断される可能性もあるわけで。

 法自体の解釈から「損金算入される前納は1年まで」を読み取れないといけないはず。

【ちょっと違いますが参照】
解釈を解釈する解釈(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 あえて課税側に寄り添って解釈してあげるならば、次のような解釈ですかね。

・法1項2号には「中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための」と書いてあるんだから、実際に対象期間がきて充当されるまではこれに該当しないはずだ。
・でも、通達で、1年以内だったら充当されてない期間分も認めてあげるね。
・ので、この通達は、法の制限ではなく拡張だからセーフ。

て感じ。

 確かに、中小企業倒産防止共済法の15条みると、対象月の初日の到来で納付扱いになるんですよね。
 だから、こういう読み方も可能っちゃ可能かと。

中小企業倒産防止共済法 第十五条(前納)
1 機構は、共済契約者が、その納付すべき月の前月末日以前にする掛金の納付(以下「掛金前納」という。)をしたときは、経済産業省令で定めるところにより、その掛金の額を減額することができる。
2 掛金前納がされた掛金については、その納付すべき各月の初日が到来した時に、それぞれその月の掛金が納付されたものとみなす。


 が、そうすると今度は、何勝手に広げちゃっているの、という逆の問題が生じてしまいます。
 納税者有利だからいいだろ、と単純にいえないのが税法上の「合法性」の問題。

 けども、そこを突っ込みだすと、『みんなもっと大好き!短期前払費用の特例』の立場も怪しくなってしまうわけで。
 あまりイジらないほうがいいですか。

法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。



 そのへんの節税本でも当たり前にのっている倒産防ですが、税法解釈の観点から眺めると、実はイジりがいのある論点があるわけです。
posted by ウロ at 16:21| Comment(0) | 法人税法