その1からその6まで、毎回メインボーカルを入れ替えて記述していましたが、ここで全員一緒に歌ってもらおうと思います。
要するにここまでのまとめです。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)
【想定例】
A社:日本の居住者
B社:甲国の居住者(日本にPEなし)
日本・甲国租税条約:使用料は債務者主義
1 A社は「日本」でB社の著作物を利用するため著作権の使用料を支払った。
2 A社は「甲国」でB社の著作物を利用するため著作権の使用料を支払った。
3 A社は「乙国」でB社の著作物を利用するため著作権の使用料を支払った。
【分岐1】
所得税法にいう「著作権の使用料」が『法定利用行為』に対するものに限定されるかどうか。
ア 限定されない 《抽象的権利説》
「創作者に付与される権利」などと抽象化することで、特定の国の「著作権法」には影響されないようにする。
この説、外国法をどうやって取り込むかの一見解としてあげましたが、本来は最初の分岐ででてくるもの。
機能的にみると、著作権という権利概念を事実概念に転換することで、著作権を「属地主義」から解放していることになります。
ので、この説によれば、「属地主義」がどうたらとかいった以下の問題は、すべてすっ飛ばすことができます。
1 課税される
2 課税される
3 課税される
イ 限定される ⇒【分岐2】へ
こちらのルートは茨の道。
ここまでごちゃごちゃ書いたとおり、所得税法、所得税基本通達、租税条約、著作権法、法の適用に関する通則法といった魔物を相手に、ひのきの棒一本で戦う覚悟があるかどうか。
【分岐2】
限定されるというのが「日本の」著作権法で、かつ「属地主義」をそのまま適用した場合には、日本が使用地以外の事例(想定例2、3)でおよそ課税できないことになってしまいます。
そこで、ここを乗り越えるかどうか。
ア 乗り越えない 《日本法限定説》
日本の著作権法に限定され、かつ同法は日本国内でしか効力が生じない、として課税をあきらめる。
1 課税される
2 課税されない
3 課税されない
イ 乗り越える ⇒【分岐3】へ
さすがに課税できないというわけにはいかないので、どうにか乗り越える理屈を考える。
【分岐3】
乗り越えるとして、「外国の」著作権法を取り込むかどうか。
ア あくまで日本の著作権法に限定される。 《日本法置換説》
所得税法 ←日本の著作権法
ただし著作権から「地理的範囲」を除外し、利用地を日本法に置き換えた場合に著作権が成立するかで考える。
1 課税される
2 日本法で著作権に該当するなら課税される
3 日本法で著作権に該当するなら課税される
イ 外国の著作権法を取り込む。 ⇒【分岐4】へ
【分岐4】
外国の著作権法を取り込むとして、どのように取り込むか。
ア 全ての著作権法が直接日本の所得税法に含まれているとする。《全著作権法説》
所得税法 ←全ての著作権法
1 課税される
2 どこかの国で著作権に該当するなら課税される
3 どこかの国で著作権に該当するなら課税される
外国の著作権法が含まれる、を素直に解釈するならば、全ての著作権法が含まれるとすべきと思えます。
事案によって適用される著作権法がころころ変化するなんて、税法にあるまじき状態だ!と言われそうですし。
が、どう考えても課税範囲が広すぎるので、この説はとりえない。
イ 利用地の著作権法が直接日本の所得税法に含まれているとする。 《利用地法説》
所得税法 ←利用地国の著作権法
1 課税される
2 甲国法で著作権に該当するなら課税される
3 乙国法で著作権に該当するなら課税される
ということで、直接取り込むとしたら、あくまで「利用地の」という限定をせざるをえない。
租税条約適用前の所得税法レベルではあくまで「利用地主義」なんだから、そこでいう著作権法も利用地のそれ、という意味だと。
で、租税条約で置き換わるのはソース・ルールだけで、著作権の意義は(日本法の、ではなく)「利用地法の」という意味で固定されたままと。
なかなかテクニカルな解釈になりますね。
ウ 法の適用に関する通則法を経由する。 《法適用通則法説》
所得税法 ←法適用通則法 ←外国の著作権法
法適用通則法は税法(内の私法概念)にも適用されるとする。
法適用通則法上の「条理」により利用地準拠法で判断する。
租税回避事案には法適用通則法上の「公序」で対応する(利用地法説だと明文の武器がない)。
1 課税される
2 甲国法で著作権に該当するなら課税される
3 乙国法で著作権に該当するなら課税される
これによれば、事案によって適用される著作権法がかわってしまう、ことに対する法的根拠は明確になります。
○
これまでの記事を一気にまとめるとこういうことになるみたい。
私個人としては、法的根拠が明確な《法適用通則法説》が妥当かなと(条理だけど)。
一般的には、《抽象的権利説》か《日本法置換説》で考えられているっぽいんですけど、そもそも「属地主義」のことが考慮されていないような気がしないでもない。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その8)
2019年08月26日
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その7)
posted by ウロ at 09:33| Comment(0)
| 国際租税法
2019年08月19日
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)
このシリーズ、長くなったのは、
・所得税法・通達
・租税条約
・著作権法
・法の適用に関する通則法
が絡み合っているせいです。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)
そこで、記事ごとにメインボーカルを入れ替えながら、同じ曲を順番に謳ってもらったわけです。
その1 所得税法
その2 所得税基本通達
その3 租税条約(二国間)
その4 著作権法
その5 租税条約(三国間)
本来ならみんな一緒に謳ってもらったほうがまとまりがあっていいんでしょう。
が、この手の学際的な論点て、両分野に跨って深く論じられたものがないのが通常。
【学際的とは】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
ので、各分野ごとに検討する、というアプローチにならざるをえないところです。
○
ということで、今回は「法の適用に関する通則法」をセンターに据えて、謳っていただきます。
以下、同法を「法適用通則法」と略します。「通則法」と略したいところですけど、税法には「国税通則法」様がいらっしゃいますので(DAIGO(DaiGo)ってBREAKERZなのかMentalistなのか、みたいな話)。
○
法適用通則法、学問分野としては「国際私法」に分類されているせいで、「公法」である税法とは無縁と思いがち。
が、「私法からの借用概念」とかいっているとおり、税法上の概念のなかには「私法」の概念を利用しているものがあるわけです。
そして法適用通則法自身も、規定されている「単位法律関係」が私法関係に関するものではあるものの、自身の適用範囲を私法に限っているわけではありません。
法の適用に関する通則法 第一条(趣旨)
この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。
見給え、この堂々たる趣旨の謳いっぷり。
「法の」とあって「私法の」に限っていないわけです。
ので、「公法」だからといって法適用通則法の適用が当然に排除されるのではなく、税法の中にある私法概念を確定する際に、法適用通則法を経由すべきか、ということが問題になりうるわけです。
○
ということで、税法において「私法から借用」といった場合に、どこから・どうやって借用してくるのか、ということを検討しなければなりません。
(これ、税法に限らず「刑事法」とかでも私法概念を利用している場合には同じ問題が生じるはずですよね。)
「どこから」というのは、日本の私法だけなのか外国の私法もなのかということ。
「どうやって」というのは、直接税法に適用するのか、法適用通則法を経由するのかということ。
事案が日本国内に収まっているかぎり問題にならなかったものが、渉外案件になったとたん顕在化したわけです。
ちなみに、日本国内に収まっている場合でも、バックグラウンドで法適用通則法が粛々と働いている、と考えるのが道垣内正人先生の見解(というか、道垣内説を税法に応用しただけ)。
視野を広げるための、国際私法
○
で、著作権のような「属地性」をもった権利概念の場合、ストレートに日本の著作権法を丸ごともってきてしまうと「債務者主義」が機能しませんでした。
日本の居住者が外国で著作権を利用して使用料を支払った。
↓
使用地主義では課税できない。
債務者主義に置き換えることで課税できるはず。
↓
ところが日本法の著作権は外国では効力なし(属地主義)
↓
「著作権」の使用料が日本法のそれだとすると課税できない。
と、せっかく債務者主義に転換しても、結論が使用地主義と変わらないことになってしまう。
のはずなのに、一般的には当たり前のように「課税できる」とされています。
てことは、ここに何らかの発想の飛躍があるはずです。
そこで、その飛躍部分の穴埋めを考えてみます。
○
外国が使用地の場合でも「著作権の使用料」に該当するという結論に導くための理屈としては、
1 日本法置換説
あくまでも日本の著作権法に限る。
ただし、日本を利用地に置き換えた場合に著作権が発生するかで判断する。
2 利用地法説
利用地の著作権法で判断する。
3 法適用通則法説
法適用通則法を経由して考える。
ただし、著作権という単位法律関係はないので、条理により使用地準拠法で判断する。
(結論は2と同じ)
4 抽象的権利説
「創作者に付与される物権類似の権利」などと抽象化して判断する。
といったところ。
なお、法適用通則法を経由する場合には、単位法律関係の「範囲確定」という問題もあります。
全体を使用地準拠法のみで考えるのか、それともそれは「著作権の効力」だけに限られ、それ以外の部分は「契約」や「不法行為」の準拠法で考えるのか。
このあたりは国際私法プロパーの問題なので、問題点の指摘のみしておきます。
○
上記理屈は「著作権」の場合の話です。
純粋な「私権」というにはやや微妙な権利。
これが「契約」一般の場合はどのように考えられるか。
2説のような直接外国法に連結させる考えは、著作権のような「属地性」のある権利でしか成り立たないかと思います。
債権一般で、権利の性質と地理的範囲がここまで密接に関連するものは考えにくい。
とすると、契約一般まで広げて考えた場合には、2説より3説のほうが望ましいということになりそう。
あとは、134でどれが結論妥当かで判断するしかないのでは。
ただ、3説に対しては、著作権の場合はいいとして、契約一般まで考慮に入れた場合、国際私法上の「当事者自治」により当事者が任意に課税要件を選択できてしまい妥当でない、という批判があるかもしれません。
法の適用に関する通則法 第七条(当事者による準拠法の選択)
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
著作権の場合は、準拠法は利用地で固定なので、当事者が任意に選択するのは難しいわけです。
あえて選択したい国にオリジナルを送ってコピーをする、とか、できなくもないでしょうが。
他方で、契約一般に関しては、日本に居ながらにして「課税回避」となるような国の法を準拠法として選択することもできてしまうと。
でもまあ、その場合は「公の秩序」に反するとして、セーフガード条項使えばいいんじゃないですかね。
法の適用に関する通則法 第四十二条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
これに対しては、この「公序」はあくまで国際私法上の、という反論があるかもしれません。
が、準拠法の任意選択によって国家の課税公権が侵害されているなら、まさしく「公の秩序」に反すると評価していいと思うんですけど。
ということで、私自身は法適用通則法を経由する3説がいいと思うんですけど、どうでしょうね。
○
と、いう感じで、検討すべき問題があれこれあるわけで、「借用概念を私法と同義と解すれば法的安定性が保たれる」なんていうのは、気のせいでは、と思わずにいられない。
源泉の要否を検討していたはずが、いつの間にか「借用概念ディスり」で終わる結果に。
そして、一通りメンバー全員センターをとったわけで、ここで一旦このネタ終わるはず、と思いきや、もう少し続きます。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その7)
・所得税法・通達
・租税条約
・著作権法
・法の適用に関する通則法
が絡み合っているせいです。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)
そこで、記事ごとにメインボーカルを入れ替えながら、同じ曲を順番に謳ってもらったわけです。
その1 所得税法
その2 所得税基本通達
その3 租税条約(二国間)
その4 著作権法
その5 租税条約(三国間)
本来ならみんな一緒に謳ってもらったほうがまとまりがあっていいんでしょう。
が、この手の学際的な論点て、両分野に跨って深く論じられたものがないのが通常。
【学際的とは】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
ので、各分野ごとに検討する、というアプローチにならざるをえないところです。
○
ということで、今回は「法の適用に関する通則法」をセンターに据えて、謳っていただきます。
以下、同法を「法適用通則法」と略します。「通則法」と略したいところですけど、税法には「国税通則法」様がいらっしゃいますので(DAIGO(DaiGo)ってBREAKERZなのかMentalistなのか、みたいな話)。
○
法適用通則法、学問分野としては「国際私法」に分類されているせいで、「公法」である税法とは無縁と思いがち。
が、「私法からの借用概念」とかいっているとおり、税法上の概念のなかには「私法」の概念を利用しているものがあるわけです。
そして法適用通則法自身も、規定されている「単位法律関係」が私法関係に関するものではあるものの、自身の適用範囲を私法に限っているわけではありません。
法の適用に関する通則法 第一条(趣旨)
この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。
見給え、この堂々たる趣旨の謳いっぷり。
「法の」とあって「私法の」に限っていないわけです。
ので、「公法」だからといって法適用通則法の適用が当然に排除されるのではなく、税法の中にある私法概念を確定する際に、法適用通則法を経由すべきか、ということが問題になりうるわけです。
○
ということで、税法において「私法から借用」といった場合に、どこから・どうやって借用してくるのか、ということを検討しなければなりません。
(これ、税法に限らず「刑事法」とかでも私法概念を利用している場合には同じ問題が生じるはずですよね。)
「どこから」というのは、日本の私法だけなのか外国の私法もなのかということ。
「どうやって」というのは、直接税法に適用するのか、法適用通則法を経由するのかということ。
事案が日本国内に収まっているかぎり問題にならなかったものが、渉外案件になったとたん顕在化したわけです。
ちなみに、日本国内に収まっている場合でも、バックグラウンドで法適用通則法が粛々と働いている、と考えるのが道垣内正人先生の見解(というか、道垣内説を税法に応用しただけ)。
視野を広げるための、国際私法
○
で、著作権のような「属地性」をもった権利概念の場合、ストレートに日本の著作権法を丸ごともってきてしまうと「債務者主義」が機能しませんでした。
日本の居住者が外国で著作権を利用して使用料を支払った。
↓
使用地主義では課税できない。
債務者主義に置き換えることで課税できるはず。
↓
ところが日本法の著作権は外国では効力なし(属地主義)
↓
「著作権」の使用料が日本法のそれだとすると課税できない。
と、せっかく債務者主義に転換しても、結論が使用地主義と変わらないことになってしまう。
のはずなのに、一般的には当たり前のように「課税できる」とされています。
てことは、ここに何らかの発想の飛躍があるはずです。
そこで、その飛躍部分の穴埋めを考えてみます。
○
外国が使用地の場合でも「著作権の使用料」に該当するという結論に導くための理屈としては、
1 日本法置換説
あくまでも日本の著作権法に限る。
ただし、日本を利用地に置き換えた場合に著作権が発生するかで判断する。
2 利用地法説
利用地の著作権法で判断する。
3 法適用通則法説
法適用通則法を経由して考える。
ただし、著作権という単位法律関係はないので、条理により使用地準拠法で判断する。
(結論は2と同じ)
4 抽象的権利説
「創作者に付与される物権類似の権利」などと抽象化して判断する。
といったところ。
なお、法適用通則法を経由する場合には、単位法律関係の「範囲確定」という問題もあります。
全体を使用地準拠法のみで考えるのか、それともそれは「著作権の効力」だけに限られ、それ以外の部分は「契約」や「不法行為」の準拠法で考えるのか。
このあたりは国際私法プロパーの問題なので、問題点の指摘のみしておきます。
○
上記理屈は「著作権」の場合の話です。
純粋な「私権」というにはやや微妙な権利。
これが「契約」一般の場合はどのように考えられるか。
2説のような直接外国法に連結させる考えは、著作権のような「属地性」のある権利でしか成り立たないかと思います。
債権一般で、権利の性質と地理的範囲がここまで密接に関連するものは考えにくい。
とすると、契約一般まで広げて考えた場合には、2説より3説のほうが望ましいということになりそう。
あとは、134でどれが結論妥当かで判断するしかないのでは。
ただ、3説に対しては、著作権の場合はいいとして、契約一般まで考慮に入れた場合、国際私法上の「当事者自治」により当事者が任意に課税要件を選択できてしまい妥当でない、という批判があるかもしれません。
法の適用に関する通則法 第七条(当事者による準拠法の選択)
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
著作権の場合は、準拠法は利用地で固定なので、当事者が任意に選択するのは難しいわけです。
あえて選択したい国にオリジナルを送ってコピーをする、とか、できなくもないでしょうが。
他方で、契約一般に関しては、日本に居ながらにして「課税回避」となるような国の法を準拠法として選択することもできてしまうと。
でもまあ、その場合は「公の秩序」に反するとして、セーフガード条項使えばいいんじゃないですかね。
法の適用に関する通則法 第四十二条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
これに対しては、この「公序」はあくまで国際私法上の、という反論があるかもしれません。
が、準拠法の任意選択によって国家の課税公権が侵害されているなら、まさしく「公の秩序」に反すると評価していいと思うんですけど。
ということで、私自身は法適用通則法を経由する3説がいいと思うんですけど、どうでしょうね。
○
と、いう感じで、検討すべき問題があれこれあるわけで、「借用概念を私法と同義と解すれば法的安定性が保たれる」なんていうのは、気のせいでは、と思わずにいられない。
源泉の要否を検討していたはずが、いつの間にか「借用概念ディスり」で終わる結果に。
そして、一通りメンバー全員センターをとったわけで、ここで一旦このネタ終わるはず、と思いきや、もう少し続きます。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その7)
posted by ウロ at 10:23| Comment(0)
| 国際租税法
2019年08月12日
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)
租税条約の使用料条項の教科書事例として、「第三国」が出てくる事例もあります。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その4)
○
《教科書事例》
日本のA社は、乙国内で甲国のB社の著作物を利用するため、著作権の使用料を支払った。
で、教科書的な解答は次のとおり。
・国内法 税率20.42%
しかし使用地主義なので課税なし
・租税条約 税率10%
債務者主義なので課税あり
・国内法 租税条約で源泉地が置き換わるので課税あり
といった感じ。
(その3)で書いた二国間の場合と同じですね(使用地がどこだろうと支払った人の住所で決める、というのが「債務者主義」の趣旨なので、同じなのは当然といえば当然)。
○
が、著作権の「属地性」を意識すると、上記事例は正確には次のとおりとなるはずです。
《事例》
日本のA社は、乙国内で甲国のB社の著作物を利用(支分権d)したい。
利用行為dは、日本・甲国では著作権に含まれないが、乙国の著作権法では支分権dに該当する。
そこで、AはBに対し、乙国法上の著作権dの利用料を支払った。
各国の支分権のズレ
日本法:ab
甲国法:bc
乙国法:de
(著作権の条約加盟国同士なら、ここまでの支分権のズレはないかもしれませんが)
なぜ「乙国法上の」かといえば、乙国内でBの著作物を利用するためには、乙国内上の著作権法に従う必要があるからです。
もちろん、AB当事者間だけの問題なら、何国法の著作権だろうが「契約」で取り決めておけばすむ話なんでしょう(著作権の問題を「契約」で上書きできるか、という実質法+抵触法上の問題はありますが)。
が、税法の立場からは、それが国内源泉所得に該当するかどうかを判断しなければならない。
○
で、この事例、課税できるの当たり前みたいに書かれていることが多いのですが、日本でも甲国でも著作権でない支分権dに対する支払が、日本の所得税法や租税条約における「著作権の使用料」に該当しないのではないか、といった問題があることがわかります。
(しかもこれ、乙国の国内法や乙国との租税条約(日本−乙、甲−乙)も検討しないといけないような気もします。が、さしあたりこの点は省略しておきます。)
○
では、日本の所得税法上の「著作権」をどの国の著作権法で判断するのか。
ありうる組み合わせとしては、
1 日本(ab) 《国内法説》《支払者国説》
2 甲国(bc) 《受領者国説》
3 乙国(de) 《利用地国説》
4 日本∨甲国(abc)
5 甲国∨乙国(bcde)
6 日本∨甲国∨乙国(abcde)
7 日本∧甲国(b)
8 日本∧乙国(なし)
9 甲国∧乙国(なし)
10 日本∧甲国∧乙国(なし)
といった感じ。
さらに思い切って、
11 創作者に付与される何らかの権利 《抽象的権利説》
と抽象化しまくる、という考えもありえます。
実務書とかで当たり前に課税と書いているのは、おそらくですけど、属地性とか気にせずに、日本で著作権ならどこでも著作権だろ、くらいの捉え方しているんじゃないかなあと。
日本で食パンなら海外でも食パンだろ、くらいのノリ。
○
この事例において、属地主義×債務者主義のもとで国内課税するためには、何らかのかたちで利用地国の著作権法を取り込まざるをえないです。
あくまでも乙国法上の著作権に対する支払いしかしていませんので。
が、そうすると、所得税法上の『著作権』が「借用概念」だというのは、全世界の著作権が借用先になっている、ということになります。
「借用」といっても暗黙のうちに国内法を前提としていたはずで、全世界の著作権にまで及んでいると考えていいのかどうか。
しかも、そこでいう「著作権」にどこまでの権利を含めるのか。
条約ネットワークによってある程度共通化しているとはいえ、当然保護範囲にずれがあるわけです。そのずれをそのまま受け入れるのか、あくまでも日本法を通して反映させるのか。
「著作権」などという、平気で国境を飛び越えるくせに属地主義とかいっている概念をお借りした時点で、そういう悩みをかかえる宿命なんだと諦めるしかないですか。
○
以上は「支分権のズレ」で代表させて書いていますが、権利制限規定の有無とか保護期間の長短とか、要するに各国著作権法の保護範囲のずれがある事項なら、同じ問題が生じます。
所得税法 第百六十一条(国内源泉所得)
この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
十一 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの
ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
所得税基本通達 161−35(使用料の意義)
法第161条第1項第11号ロの著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号((定義))に規定する著作物をいう。以下この項において同じ。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれることに留意する。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その4)
○
《教科書事例》
日本のA社は、乙国内で甲国のB社の著作物を利用するため、著作権の使用料を支払った。
で、教科書的な解答は次のとおり。
・国内法 税率20.42%
しかし使用地主義なので課税なし
・租税条約 税率10%
債務者主義なので課税あり
・国内法 租税条約で源泉地が置き換わるので課税あり
といった感じ。
(その3)で書いた二国間の場合と同じですね(使用地がどこだろうと支払った人の住所で決める、というのが「債務者主義」の趣旨なので、同じなのは当然といえば当然)。
○
が、著作権の「属地性」を意識すると、上記事例は正確には次のとおりとなるはずです。
《事例》
日本のA社は、乙国内で甲国のB社の著作物を利用(支分権d)したい。
利用行為dは、日本・甲国では著作権に含まれないが、乙国の著作権法では支分権dに該当する。
そこで、AはBに対し、乙国法上の著作権dの利用料を支払った。
各国の支分権のズレ
日本法:ab
甲国法:bc
乙国法:de
(著作権の条約加盟国同士なら、ここまでの支分権のズレはないかもしれませんが)
なぜ「乙国法上の」かといえば、乙国内でBの著作物を利用するためには、乙国内上の著作権法に従う必要があるからです。
もちろん、AB当事者間だけの問題なら、何国法の著作権だろうが「契約」で取り決めておけばすむ話なんでしょう(著作権の問題を「契約」で上書きできるか、という実質法+抵触法上の問題はありますが)。
が、税法の立場からは、それが国内源泉所得に該当するかどうかを判断しなければならない。
○
で、この事例、課税できるの当たり前みたいに書かれていることが多いのですが、日本でも甲国でも著作権でない支分権dに対する支払が、日本の所得税法や租税条約における「著作権の使用料」に該当しないのではないか、といった問題があることがわかります。
(しかもこれ、乙国の国内法や乙国との租税条約(日本−乙、甲−乙)も検討しないといけないような気もします。が、さしあたりこの点は省略しておきます。)
○
では、日本の所得税法上の「著作権」をどの国の著作権法で判断するのか。
ありうる組み合わせとしては、
1 日本(ab) 《国内法説》《支払者国説》
2 甲国(bc) 《受領者国説》
3 乙国(de) 《利用地国説》
4 日本∨甲国(abc)
5 甲国∨乙国(bcde)
6 日本∨甲国∨乙国(abcde)
7 日本∧甲国(b)
8 日本∧乙国(なし)
9 甲国∧乙国(なし)
10 日本∧甲国∧乙国(なし)
といった感じ。
さらに思い切って、
11 創作者に付与される何らかの権利 《抽象的権利説》
と抽象化しまくる、という考えもありえます。
実務書とかで当たり前に課税と書いているのは、おそらくですけど、属地性とか気にせずに、日本で著作権ならどこでも著作権だろ、くらいの捉え方しているんじゃないかなあと。
日本で食パンなら海外でも食パンだろ、くらいのノリ。
○
この事例において、属地主義×債務者主義のもとで国内課税するためには、何らかのかたちで利用地国の著作権法を取り込まざるをえないです。
あくまでも乙国法上の著作権に対する支払いしかしていませんので。
が、そうすると、所得税法上の『著作権』が「借用概念」だというのは、全世界の著作権が借用先になっている、ということになります。
「借用」といっても暗黙のうちに国内法を前提としていたはずで、全世界の著作権にまで及んでいると考えていいのかどうか。
しかも、そこでいう「著作権」にどこまでの権利を含めるのか。
条約ネットワークによってある程度共通化しているとはいえ、当然保護範囲にずれがあるわけです。そのずれをそのまま受け入れるのか、あくまでも日本法を通して反映させるのか。
「著作権」などという、平気で国境を飛び越えるくせに属地主義とかいっている概念をお借りした時点で、そういう悩みをかかえる宿命なんだと諦めるしかないですか。
○
以上は「支分権のズレ」で代表させて書いていますが、権利制限規定の有無とか保護期間の長短とか、要するに各国著作権法の保護範囲のずれがある事項なら、同じ問題が生じます。
所得税法 第百六十一条(国内源泉所得)
この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
十一 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの
ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
所得税基本通達 161−35(使用料の意義)
法第161条第1項第11号ロの著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号((定義))に規定する著作物をいう。以下この項において同じ。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれることに留意する。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)
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| 国際租税法
2019年08月05日
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その4)
過去3回まで書いたこのネタ、これまでの記事に組み込まなかったものを拾い上げておきます。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その3)
○
(その2)では「法定利用行為限定説」を前提とした場合、「利用」を無料にして「使用」の料金だけにしたら、源泉不要になるのか、ということを書きました。
この著作権等の対価を無料にすれば源泉不要、というスキームが通用するのだとすると、次のようなパターンではどうなるか。
《疑問1》
「著作者人格権」の不行使の対価のみにしたらどうか。
たとえば、
・複製するのも使うのも自由
・ただし、使うためには「改変」をすることになっている
・この「改変」の料金のみ徴収する
法にも通達にも、なぜか「著作者人格権」は明示されていないところ。
この事例では「同一性保持権」不行使の対価のみ徴収しているわけですが、これは「著作権の使用料」に該当しないことになるのか。
もちろん、著作権法20条2項の除外事由にあたれば、著作者人格権の対価ですらないわけですが。
著作権法 第二十条(同一性保持権)
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
ちなみに、この「人格権をお金に換える」みたいことができるの、プログラムのような「機能的著作物」を著作権に取り込んでおきながら著作者人格権もそのまま適用、なせいでのバグみたいに思います。
しかも奇しくも「改変」なんていう、プログラムにふさわしい用語使っているし。
で、税法側が著作者人格権を無視しているのは、完全なる推測ですけど、「著作者人格権はお金に換えられる」という側面が意識されていなかった時代の名残なんじゃないかと。
所得税法の「著作権の使用料」とか、通達の「著作物の利用の対価」とかいった表現をみると、どうも著作権というのを「利用できる権利」として理解している気がします。
しかし、著作権はあくまでも「利用禁止権」です。
他者が自己の著作物を利用するのを禁止する権利なわけで、正確に表現するならば、「著作権の不行使料」とか「著作物の利用禁止解除の対価」と言わなければなりません(私の一連の記事でも、本当はちゃんと表現したいところ)。
著作者人格権にしても、同じように「禁止権」として作用するわけです。
著作者人格権をここにあてはめると、
著作者人格権の使用料
だとしっくりきませんが、
著作者人格権の不行使料
だと意味が通じることになります。
人格権を他人が代わりに利用することはできませんが、本人がお金をもらって人格権を行使しない、ということはできるわけです。
いずれにしても、著作者人格権(不行使)の対価にすれば源泉不要と現行法上は読めてしまう、これでいいのか、ということです。
《疑問2》
「所有権」の譲渡代金のみとした場合はどうか。
著作権法47条の3により複製権は制限されるので、「著作権の使用料」に該当しないということでよいか。
著作権法 第四十七条の三(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。ただし、当該実行に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。
2 前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。
「所有権」の譲渡なら該当しないというなら、以下のようなスキームが成り立つのかどうか。
【事例】
日本のA社は、海外のソフトウェア会社Bの販売代理店
AはBからあらかじめ販売用のデータを預かっておく
Aが顧客から注文を受けると、手元にあるデータを複製して顧客に送信
Aは複製の数量に応じてBに料金を支払う
⇒これでは「著作権(複製権)の使用料」に該当してしまう。そこで、
【代替案1】
Aは顧客から注文を受けるとBに連絡する。
Bが複製をして顧客に送信
Aは送信数に応じた料金をBに支払う
【代替案2】
Aは顧客から注文を受けるとBのサーバーにアクセスして顧客にデータを送信
Aは送信数に応じた料金をBに支払う
【代替案3】
AはBから販売予定数量のデータを購入する
Aは顧客から注文を受けると顧客にそのままデータを送信
Aの在庫がなくなったらBからデータを補充してもらう
これら代替案なら、著作権の対価ではなくなって源泉不要ということになるかどうか。
【代替案2】は、Bがサーバーにアクセスして送信の過程に「複製」がある、とこじつけることも可能でしょうか。
【代替案3】は、このデジタル時代においてギャグみたいな案ですが、Aが複製しないかぎり複製権の対価とはならないわけで。「カラオケ法理」だって、著作者B自身の複製を複製権侵害とまではいわないでしょう。
《疑問3》
「みなし侵害」の場合はどうか。
「みなし侵害」は、あくまでも著作権そのものが行使できないことを前提に、著作権侵害行為とみなすという規定です。
たとえば著作権法113条2項だと、法定利用行為に該当しないプログラムの「使用」行為をみなし侵害としています。
これは明らかに「著作権の」ではないわけですが、このような場合にも使用料を支払ったらどうなるのか。
著作権法 第百十三条(侵害とみなす行為)
2 プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(当該複製物の所有者によつて第四十七条の三第一項の規定により作成された複製物並びに前項第一号の輸入に係るプログラムの著作物の複製物及び当該複製物の所有者によつて同条第一項の規定により作成された複製物を含む。)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。
《疑問4》
「私的録音録画補償金」の支払いはどうなるか。
(この制度に『海外メーカー』がどう絡んでくるのかちゃんと理解していないのですが)機器購入時の代金に含まれる補償金は「著作権の使用料」に該当しないのか。
この補償金の性質が、複製権制限の一部解除なのか、それとも複製権とは全く別物なのか、でも評価がかわってきそうですが。
著作権法 第三十条(私的使用のための複製)
2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
○
このように、「所得税法の『著作権』は著作権法の借用概念である」というだけでは、判断できない問題があるわけです。
単に表向きの定義だけを借りてくるのか、上記のような制限規定や拡張規定まで取り込んで判断する必要があるのか。
また、著作権法の「文言」だけを借りてくるのか、「解釈論」まで借りてくるのか。
さらに、上記はいずれも「日本の」著作権法に即して記述していますけど、利用地が日本以外の場合に、当該国の著作権法を取り込む必要があるのか、取り込むとしてどのように国内税法に反映させるのか。
(その3)では触れませんでしたが、他国の著作権法を取り込む際に「法の適用に関する通則法」を介在させるのか、あるいは日本の著作権法を通して反映させるのか、それとも属地性からダイレクトに国内税法に反映させるのか、といったことも考える必要があります。
・外国の著作権法 ⇒ 法の適用に関する通則法 ⇒ 国内税法
・外国の著作権法 ⇒ 日本の著作権法 ⇒ 国内税法
・外国の著作権法 ⇒ 国内税法
これ、渉外案件だから問題が表にでてきてますけど、本来は『借用概念』全般の問題だと思います。
税法が「私法」から概念を借用している、といったときに、その「私法」は国内法だけなのか外国法も含むのか、外国法も含むとした場合「法の適用に関する通則法」を経由するのか、国内私法を通して反映させるのか、それともダイレクトに反映させるのか、といった点。
しかもこれが、たとえば『翻訳』のような事実概念だったら、どこの国の、なんてことを論じなくても概念確定ができていたはずです。
のに、『著作権』なんて権利概念を用いてしまったせいで、準拠法を決定せざるを得なくなってしまったわけです。
当然のことながら、これらの問題について借用先には何も書かれていないわけで、「借用」といいながら、結局のところ税法独自の観点から解決していくしかないのではないかと。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その3)
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(その2)では「法定利用行為限定説」を前提とした場合、「利用」を無料にして「使用」の料金だけにしたら、源泉不要になるのか、ということを書きました。
この著作権等の対価を無料にすれば源泉不要、というスキームが通用するのだとすると、次のようなパターンではどうなるか。
《疑問1》
「著作者人格権」の不行使の対価のみにしたらどうか。
たとえば、
・複製するのも使うのも自由
・ただし、使うためには「改変」をすることになっている
・この「改変」の料金のみ徴収する
法にも通達にも、なぜか「著作者人格権」は明示されていないところ。
この事例では「同一性保持権」不行使の対価のみ徴収しているわけですが、これは「著作権の使用料」に該当しないことになるのか。
もちろん、著作権法20条2項の除外事由にあたれば、著作者人格権の対価ですらないわけですが。
著作権法 第二十条(同一性保持権)
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
ちなみに、この「人格権をお金に換える」みたいことができるの、プログラムのような「機能的著作物」を著作権に取り込んでおきながら著作者人格権もそのまま適用、なせいでのバグみたいに思います。
しかも奇しくも「改変」なんていう、プログラムにふさわしい用語使っているし。
で、税法側が著作者人格権を無視しているのは、完全なる推測ですけど、「著作者人格権はお金に換えられる」という側面が意識されていなかった時代の名残なんじゃないかと。
所得税法の「著作権の使用料」とか、通達の「著作物の利用の対価」とかいった表現をみると、どうも著作権というのを「利用できる権利」として理解している気がします。
しかし、著作権はあくまでも「利用禁止権」です。
他者が自己の著作物を利用するのを禁止する権利なわけで、正確に表現するならば、「著作権の不行使料」とか「著作物の利用禁止解除の対価」と言わなければなりません(私の一連の記事でも、本当はちゃんと表現したいところ)。
著作者人格権にしても、同じように「禁止権」として作用するわけです。
著作者人格権をここにあてはめると、
著作者人格権の使用料
だとしっくりきませんが、
著作者人格権の不行使料
だと意味が通じることになります。
人格権を他人が代わりに利用することはできませんが、本人がお金をもらって人格権を行使しない、ということはできるわけです。
いずれにしても、著作者人格権(不行使)の対価にすれば源泉不要と現行法上は読めてしまう、これでいいのか、ということです。
《疑問2》
「所有権」の譲渡代金のみとした場合はどうか。
著作権法47条の3により複製権は制限されるので、「著作権の使用料」に該当しないということでよいか。
著作権法 第四十七条の三(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。ただし、当該実行に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。
2 前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。
「所有権」の譲渡なら該当しないというなら、以下のようなスキームが成り立つのかどうか。
【事例】
日本のA社は、海外のソフトウェア会社Bの販売代理店
AはBからあらかじめ販売用のデータを預かっておく
Aが顧客から注文を受けると、手元にあるデータを複製して顧客に送信
Aは複製の数量に応じてBに料金を支払う
⇒これでは「著作権(複製権)の使用料」に該当してしまう。そこで、
【代替案1】
Aは顧客から注文を受けるとBに連絡する。
Bが複製をして顧客に送信
Aは送信数に応じた料金をBに支払う
【代替案2】
Aは顧客から注文を受けるとBのサーバーにアクセスして顧客にデータを送信
Aは送信数に応じた料金をBに支払う
【代替案3】
AはBから販売予定数量のデータを購入する
Aは顧客から注文を受けると顧客にそのままデータを送信
Aの在庫がなくなったらBからデータを補充してもらう
これら代替案なら、著作権の対価ではなくなって源泉不要ということになるかどうか。
【代替案2】は、Bがサーバーにアクセスして送信の過程に「複製」がある、とこじつけることも可能でしょうか。
【代替案3】は、このデジタル時代においてギャグみたいな案ですが、Aが複製しないかぎり複製権の対価とはならないわけで。「カラオケ法理」だって、著作者B自身の複製を複製権侵害とまではいわないでしょう。
《疑問3》
「みなし侵害」の場合はどうか。
「みなし侵害」は、あくまでも著作権そのものが行使できないことを前提に、著作権侵害行為とみなすという規定です。
たとえば著作権法113条2項だと、法定利用行為に該当しないプログラムの「使用」行為をみなし侵害としています。
これは明らかに「著作権の」ではないわけですが、このような場合にも使用料を支払ったらどうなるのか。
著作権法 第百十三条(侵害とみなす行為)
2 プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(当該複製物の所有者によつて第四十七条の三第一項の規定により作成された複製物並びに前項第一号の輸入に係るプログラムの著作物の複製物及び当該複製物の所有者によつて同条第一項の規定により作成された複製物を含む。)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。
《疑問4》
「私的録音録画補償金」の支払いはどうなるか。
(この制度に『海外メーカー』がどう絡んでくるのかちゃんと理解していないのですが)機器購入時の代金に含まれる補償金は「著作権の使用料」に該当しないのか。
この補償金の性質が、複製権制限の一部解除なのか、それとも複製権とは全く別物なのか、でも評価がかわってきそうですが。
著作権法 第三十条(私的使用のための複製)
2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
○
このように、「所得税法の『著作権』は著作権法の借用概念である」というだけでは、判断できない問題があるわけです。
単に表向きの定義だけを借りてくるのか、上記のような制限規定や拡張規定まで取り込んで判断する必要があるのか。
また、著作権法の「文言」だけを借りてくるのか、「解釈論」まで借りてくるのか。
さらに、上記はいずれも「日本の」著作権法に即して記述していますけど、利用地が日本以外の場合に、当該国の著作権法を取り込む必要があるのか、取り込むとしてどのように国内税法に反映させるのか。
(その3)では触れませんでしたが、他国の著作権法を取り込む際に「法の適用に関する通則法」を介在させるのか、あるいは日本の著作権法を通して反映させるのか、それとも属地性からダイレクトに国内税法に反映させるのか、といったことも考える必要があります。
・外国の著作権法 ⇒ 法の適用に関する通則法 ⇒ 国内税法
・外国の著作権法 ⇒ 日本の著作権法 ⇒ 国内税法
・外国の著作権法 ⇒ 国内税法
これ、渉外案件だから問題が表にでてきてますけど、本来は『借用概念』全般の問題だと思います。
税法が「私法」から概念を借用している、といったときに、その「私法」は国内法だけなのか外国法も含むのか、外国法も含むとした場合「法の適用に関する通則法」を経由するのか、国内私法を通して反映させるのか、それともダイレクトに反映させるのか、といった点。
しかもこれが、たとえば『翻訳』のような事実概念だったら、どこの国の、なんてことを論じなくても概念確定ができていたはずです。
のに、『著作権』なんて権利概念を用いてしまったせいで、準拠法を決定せざるを得なくなってしまったわけです。
当然のことながら、これらの問題について借用先には何も書かれていないわけで、「借用」といいながら、結局のところ税法独自の観点から解決していくしかないのではないかと。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その5)
posted by ウロ at 10:11| Comment(0)
| 国際租税法