2019年10月28日

米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)

 「法学学習」という観点からみて、1つの望ましいかたち。



米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)

 下記記事で引き合いに出しましたが、正面から記事にしておきます。

内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)


 一般的に、民法の学習単位は、

  民法総則
  物権法
  担保物権法
  債権総論
  契約総論
  契約各論
  事務管理・不当利得・不法行為
  親族法
  相続法

と、民法典の編成に倣っているのがほとんど。
 順番を組み替えるなどの工夫はされることはあるものの、上記単位より小さくバラすことまではされていない。

 大学だと複数教員で分担することになるので、最大公約数的な意味合いで民法の編成に倣わざるをえないんですかね。

 が、民法総則なんて特にですけど、抽象化抽象化を繰り返した末の制度の寄せ集めなわけで、それ単体では理解しにくい。
 完成図がわからない1000ピースパズルを組み立てるくらいの苦行(しかも端っこのピースが除かれている)。

 なわけで、「学習」という観点からすれば、民法典の編成に従うのは悪手だ、というのが私の見立て。

 じゃあどうすればいいのかというと、民法典の編成に拘らず個々の契約類型ごとに学習していくというのが望ましいのでは、と思っています。

 民法典の編成は、知識を整理するための「お道具箱」として活用する感じで。


 で、この本。

 この本では不動産売買契約を軸として、

  第1章 ⇒不動産売買契約のノーマルな状況
  第2章 ⇒不動産売買契約のアブノーマルな状況
  第3章 ⇒その他のサブシステム

といった構成になっています。

 (※もとの章タイトルは以下のとおり。
  第1章 売買の交渉から契約の成立、その履行終了まで
  第2章 契約が履行されなかったときの法的処理
  第3章 その他の紛争の法的処理)

・民法典の編成を無視
・特定の契約類型を軸にした解説

なので、基本的に1つの事例を思い浮かべながら読み進められます。
 あれやこれやの事例が出てくるせいで逐一頭を切り替えなきゃいけない、という事態にならずにすむ。

また、

・ノーマルな事例からイレギュラーな事例へ

という流れなのも理解しやすいです。

 今どきは「事例でわかる」とか「事例で学ぶ」といったタイトルのついた本が沢山でています。
 なんですが、そこでいう事例は、判例の事案をベースにした論点もりもりな事例であることがほとんど。

 でも、最初の段階では、当該制度を普通に利用した場合の事例から始めたほうがよいと思います。

【通常事例思考について】


 フリチョフ・ハフト「レトリック流法律学習法」(木鐸社1993)

 さらに、

・論点解説の中で、民法解釈方法論にも触れられている。

といったところもよい。

 たとえば、

  実質論と形式論
  要件と効果の関係
  解釈論と立法論
  利益衡量の方法
  一般条項の用い方
  法律概念の相対性

などについて、論点解説の流れの中で丁寧に説明されています。

 こういう方法論て、それだけを取り出して説明するよりも、個々の論点の中で方法論を展開するほうが理解しやすいはず。


 また、「債権法改正」も反映されています。

 類書だと、改正条文の引き写しで終わらせがちなところですが、この本では、単なる制度の説明にとどまらず、従来の議論との関係も触れられていたりします。
 たとえば、541条但書で「軽微」な場合に解除できないとされたことと「信頼関係破壊理論」との関係性とか。

 あるいは、一応改正はされたけども今後議論の余地があるところを示唆していたり。


 ただ、全くの初心者がいきなり読んでも理解しにくいところはあるかもしれません。

 ので、1回この本を読んで契約類型に即した民法の見取り図を作ったあとに、民法典の編成に従って個々の論点を掘り下げる、そしてまたこの本に戻って知識を整理し直す、という使い方をしてもよいかもしれません、


 とまあ、こういう内容を先日の借地借家法の本に期待して読んだわけです。

 が、残念ながら普通の「借地借家法」の条文判例解説本だった、のでがっかりしたと。
posted by ウロ at 13:40| Comment(0) | 民法

2019年10月21日

税金(地方税)の納付の仕方(前進)

 以前、地方税の納付方法をまとめた記事を書きましたが、そのころからぐっと前進したので更新しておきます(2019.10.1〜)。

税金(地方税)の納付の仕方(いまいち)

※eLTAXの「利用届出」は提出済みであることを前提とします。
※税理士事務所で「電子申告」済みであることを前提とします。

1 銀行窓口+納付書

 ・従来の納付方法です。

 × 時期により待たされることが多い。
 ○ 納付書は各自治体のサイトにエクセルの書式あり。

2 銀行ATM+Pay-easy

 【事前準備】「PCdesk(DL版)」で納付先を登録しておく。

 【PCdesk】DL版orWEB版 納付情報発行依頼 ⇒ATMで納付

 × Pay-easy対応ATMに限られます(コンビニATMは不可)。
 × 時期により待たされることが多い。
 × ATMで納付情報を入力する必要がある。
 ○ 個人/法人いずれの口座からでも納付できる。
 ○ ネットバンクの開設不要

3 ネットバンク(+Pay-easy)

 【事前準備】「PCdesk(DL版)」で納付先を登録しておく。
 【事前準備】ネットバンク開設(個人/法人いずれでも)

 【PCdesk】 DL版orWEB版 納付情報発行依頼 ⇒ネットバンクで納付

 ○ 個人/法人いずれの口座からでも納付できる。
 × ネットバンクへのログインが必要。

4 ダイレクト納付

 【事前準備】PCdeskで「口座振替依頼書」を作成し提出しておく。
 【事前準備】「PCdesk(DL版)」で納付先を登録しておく。

 【PCdesk】 DL版orWEB版 納付情報発行依頼 ⇒ネットバンクで納付

 ○ ネットバンクの開設は不要です。
 × 対応金融機関が限られます(ネット専業銀行は不可)。
 × 本人名義の口座である必要があります。


※上記のとおり、納付先の登録は(DL版)のみなので注意。


○おまけ

 利用者情報のフリガナ欄は、以下のように変更しておく必要があります。

 小文字 ⇒大文字
 長音 ⇒全角マイナス
 中黒 ⇒削除or全角ピリオド

※利用者情報を変更できるのはDL版のみ。
posted by ウロ at 08:36| Comment(0) | 税務

2019年10月14日

内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

我妻榮『民法案内』という超絶名著がありまして。



我妻榮「民法案内1 私法の道しるべ(第2版)」(勁草書房2013)

 もし、何の条件も無しに「法学の本でなんかお勧めない?」と聞かれたら、問答無用でお勧めするのがこの本。
 この本読んでみて、法学って面白そうと思えれば、その先に進んでみると。


 で、今回紹介する本なんですが、同じ出版社でタイトルに「案内」とあって、しかも「勁草法学案内シリーズ」とかいうシリーズ名が付けられています。



 内田 勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

 ので、我妻先生の名著のコンセプトをなにがしか受け継いでいるのかと思うじゃないですか。
 が、そういう感じでもなく。

 語尾が「ですます調」で、一応入門書風にはなっています。
 でも、語尾を全部「である」に入れ替えても違和感のない、お硬めの文章。
 いわゆる「語尾だ系」。

 そもそも我妻民法案内は「ですます調」じゃないし。
 それでも読者に語りかけてくる筆致が、名著たる所以なわけです。


 アマゾンの「内容紹介」には以下のようなことが書いてあって、ものすごい良さげじゃないですか。

 規定の内容を断片的に書き並べるのではなく、法制度の趣旨、背景等の本質的なしくみに重きを置き、法が織りなす全体像を縦糸(歴史的沿革)と横糸(比較法、社会的実態)から立体的にわかりやすく解きほぐす。相互の法令を有機的に連関させ、法的・論理的な思考方法をも習得できる。学生、各種国家試験受験生等、はじめて学ぶひとたちへ。

 実際のところは、「条文+判例紹介」が記述のほとんどを占めています。

 この手の本にしては、判例の紹介が多めなので、判例の動向を把握するにはいいのかもしれません。
 が、入門書ポジションだとしたら、あまり望ましくない。
 そういう役割は、判例付き六法でもこなせることで、入門書の役割ではない。



 有斐閣判例六法Professional 令和2年版(有斐閣2019)
 有斐閣判例六法 令和2年版 (有斐閣2019)


 次々と判例の紹介がされていくんですが、判例から判例へつないでいく感じの記述なので見通しがよろしくない。
 「賃料債権と物上代位」のところとか、あれこれ判例の展開が書かれているんですが、で、結局どういうルールなの?ということが読み取りにくい。
 色々パターンがある中で、どのパターンにまだ判例が無いのかとか、これまでの判例からすればどのような帰結になりそうか、とか、そういったことが検討しにくいわけです。


 判例になるような事案て、要するにイレギュラーな事例です。
 そういう事例ばかり並べられても、断片的な理解になってしまいがち。

 判例を沢山知っている、じゃあ借地借家法を日常使いできるか、というと、まあ無理ですよね。

 もちろん、紛争予防のために判例を勉強する、というのは有りですが、判例で問題になった事案なんて世の中にある借地借家問題のうちの一部分にすぎません。
 どれだけ大量に判例を勉強したところで、それは実務のうちの一部分にとどまるわけです。
 
 判例にならない領域というのが確実にあって。
 このブログでもよく対比しているように、「紛争系」に対する「日常系」の領域。

 判例を詳述するならするで、あわせて「判例の読み方」も書いていてくれていればいいんですが、そういう方法論が書かれているわけでもなく。


 ちなみに、このあたりのこと、下記の本で「通常事例思考」と言われているものと同じものだと、私は勝手に思っています。



 フリチョフ・ハフト「レトリック流法律学習法」(木鐸社1993)

 この本、『法学学習本』として私の中では最高峰の本なので、しっかり読み直してからちゃんと紹介したいところ。
 タイトルの「レトリック流」というのが、「ビームサーベ流」ぽくてアレなんですが。


 話は戻って、いろいろ気になる記述はあるんですが、主なものだけ。

・「定期借地権」のところ、事業用が二種類(10〜30年と30〜50年)あるのなんで?と思ったんですが、それぞれの制度の内容が並列的に書かれているだけで、そういう視点からの記述がありません。

・民法(債権関係)改正(案)を反映しているとあるんですが、あくまでも601条以下の「賃貸借」の改正箇所がメイン。
 たとえばですが、「根保証」の改正のような、保証人条項に大きく関わる改正については触れられていません(同じことを下記の記事でも書きました)。

 後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 「担保責任」の改正については、改正内容だけは書かれているのですが、この改正が借地借家関係にどのような影響を及ぼすのか、といったことが書かれていない。売買の条文をなぞっただけ。

 実務本でもない、民法学者の書く「借地借家法」単独の本に期待するとしたら、「賃貸借」の箇所の改正のみならず、それ以外の箇所の改正も含めて、改正法を借地借家関係に当てはめたときにどのように投影されるか、ということではないかと思います。
 ある特定の契約類型を前提になされた改正が、借地借家関係とうまく接合するのか気になるわけですが、まあそういう視点では書かれていない。

・立退料の支払と物件明渡しの関係が先履行か同時履行かって話で、執行文付与とか強制執行開始の要件とかってことがちらっと書いてあります。これだけ書かれたって初学者は理解できませんよね。

 すでに「手続法」も一通り勉強していることを前提としてしまっているんでしょう。

 が、上記記事でも書いたとおり、手続法について書くならそれだけ読んで理解できるように書いてほしい。
 入門書のつもりならば。

 「民事執行法」などで一般的に議論されていることが、借地借家関係に当てはめたときにどうなるか、というのは、「民事執行法」側でも正面から論じられているわけでもないですし。

紙幅の関係云々いうなら、はじめから書かなければいいし。


 ここまで書いてきてふと思ったのが、米倉明先生の『プレップ民法』のこと。



 米倉明「プレップ民法(第5版)」弘文堂2018

 こちらは「民法を勉強したい」と言われた場合に必ず勧める本です。

 この本では1つの売買契約を軸に、民法の財産法全体を解説しています。

 私が民法の教科書に対して常々不満に思っている、パンデクテン方式の編別順に学習していくことの理解しにくさや、論点ごとに想定されている契約類型があれこれ変わってしまうといった問題点が、見事に解消されています。

 今回の本も、借地借家法の解説をメインにするのではなく、借地借家契約を軸にして民法全体を解説する、という本にすればよかったのに、と思いました。

 売買の場合は売主と買主の力関係は場合によって入れ替わりますが、借地借家の場合は、例外はあるにせよ一般的には、貸主(強い):借主(弱い)という力関係が多いはず。
 ので、利益衡量の手習いをするには、売買よりもやりやすいでしょうし。

 また、不動産売買をしたことがなくても不動産賃借はしたことがある、という人は多いと思うので、自分の身におきかえて想像することもしやすいでしょうし。


 ということで、借地借家法の「入門書」に期待するとしたら、

・民法の知識を前提とせず、むしろ(借地借家にかかわる)民法の知識も身につけることができる。
・手続法の知識を前提とせず、むしろ(借地借家にかかわる)手続法の知識も身につけることができる。
・民法や手続法で議論されていることを、借地借家関係に投影したときにどうなるか具体的に検討している。
・借地借家法の勉強をしながら、法学の学び方や判例の読み方も勉強することができる。

といった感じ。
posted by ウロ at 15:10| Comment(0) | 民法

2019年10月07日

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)

 長くなってしまったので、まとめておきます。
 これで終われるはずです。

(その1) 所得税法

 当初は、所得税法161条1項11号の「その他これに準ずるもの」とは何だ?という疑問からのスタートでした。

 ちなみに、コメントで「報酬請求権」等のことだと指摘されている方がいらっしゃったのですが、

 ・著作権法上は著作隣接権から「除く」とあるだけで「準ずるもの」とはされていない。
  実際、著作隣接権の何かを「準用」しているわけでもない。
 ・著作権法学説上も「準ずる権利」と表現している人はいない(はず)。

ということからすると、このような用法は所得税法固有の表現の仕方ということなんでしょうかね。

 が、「著作権法○条に規定する権利」と書けばきちんと特定できるのに、わざわざ「準ずるもの」などという曖昧な表現をとったのはなぜなのか。

 そもそも、著作隣接権だけ「準ずるもの」に広げて著作権は広げないというアンバランスは、どういう理由からなのか。

 こういう疑問がまだ残ったままです。

(その2) 所得税基本通達

 著作権法上は「利用」と「使用」を明確に使い分けているにもかかわらず、所得税法側ではその区分に無頓着であるように感じました。

 そこで、著作権法の区分にならって所得税法+通達を読んでみたわけですが、そのごちゃつき具合がこの記事で表現されています。

(その3) 租税条約(二国間)

 「利用」と「使用」の区分を租税条約も交えて検討してみました。

 ここで「著作権法」といっても、「日本の」とは限らないんじゃないかということが見えてきました。

(その4) 著作権法

 みなし侵害や著作者人格権のような、著作権そのものでない場合の該当性について検討してみました。

 また、もし「外国の」著作権法が取り込まれるのだとしたら、どのように取り込むのかについて軽く触れました。

(その5) 租税条約(三国間)

 ここまで検討したことにつき、租税条約で「債務者主義」をとった場合の傷口の広がり具合を書きました。

(その6) 法適用通則法

 道垣内正人先生の、法適用通則法の適用範囲についての見解を参考に、著作権法・租税法への外国法の取り込み方を検討しました。

(その7) 中間まとめ

 ここまでの議論を分岐型でまとめました。
 ここで終わらせるつもりだったはずが、もうちょっとだけ続くことに。

(その8) 消費税法

 そういえば消費税法にも著作権のこと書いてあったな、と思い出してしまい、税法⇔税法間の貸し借りなどにつき検討しました。

(その9) 法適用通則法

 租税法への外国法の取り込み方について、より突っ込んで検討しました。

(その10) 相続税法

 相続税法にでてくる「著作権」について、「属地主義」との相性の悪さにつき検討しました。

(その11) 借用概念

 ここまでちらちらディスられていた「借用概念」につき、正面から扱ってみました。

(その12) 判例理論

 借用概念論の実態は判例の拘束力の問題にすぎないのでは、ということを論じました。


 以上、所得税法の「その他これに準ずるもの」という文言からはじまって、最終的には「借用概念論」に対するディスりで終わりました。
 あれこれ検討してみて結論はさっぱり出ていませんが、自分の中で税理士的な落とし所は掴めたのでまあ良しとします。(了)
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 国際租税法