2020年04月27日

続々・契約の成立と印紙税法(代理法がこちらをみている)

 前回、民法・通則法と印紙税法の絡みについて記事にしながら、あえて触れなかった箇所があります。

続・契約の成立と印紙税法(法適用通則法がこちらをみている)

 チラチラとこちらを見ていたのは気づいていたのですが、ややこしいことに巻き込まれたくないな、と思って見ないふりをしていました。

 でもまあ、ちょっと気になるなあということで考えてみたんですが、「やめときゃよかった」のやつでした。

【やめときゃよかったシリーズ】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 そうはいっても、途中でやめるのは気持ち悪いので、できるところまで前進してみます。
 以下、本題。


 民法学では成立要件と効力要件の2つに分けている、と書きましたが、より細かく分けているものもあります。
 この手の概念分類が精密な四宮和夫先生の教科書だとこんな感じ。
 
  ・成立要件: 申込みと承諾の一致だけ
  ・効力要件: 意思表示の瑕疵とか
  ・効果帰属要件: 代理とか
  ・効果発生要件: 期限、条件とか

 要件満たす場合の結果はいずれも同じなんでしょうが、満たさない場合の救済ルールが違うのでこういう区別をしておこう、ということかなあと、たぶん(想像)。



四宮和夫、能見善久「民法総則 第9版」(弘文堂2018)


 前回までの記事では、「効力要件」が欠けたら印紙税法はどう評価されるか、ということを論じてきました。が、精密に議論するなら、「効果帰属要件」「効果発生要件」が欠けた場合も検討する必要があるのでしょう。
 ということで、今回は「効果帰属要件」が欠けた場合の印紙税法の課否判定を検討してみます(素材は「任意代理」に限定します)。


 「効力要件」の場合は、二当事者間の問題に留まっていました。
 他方「効果帰属要件」となると、本人、代理人、相手方と三者でてきます。

 そうすると、印紙税法上検討しなければならないのが、誰が印紙税を負担するのかという「納税義務者」の問題。
 そこでまず、印紙税法における「納税義務者」ルールを確認します。

印紙税法
第三条(納税義務者)
 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

印紙税法基本通達
第42条(作成者の意義)
 法に規定する「作成者」とは、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる者をいう。
(1) 法人、人格のない社団若しくは財団(以下この号において「法人等」という。)の役員(人格のない社団又は財団にあっては、代表者又は管理人をいう。)又は法人等若しくは人の従業者がその法人等又は人の業務又は財産に関し、役員又は従業者の名義で作成する課税文書 当該法人等又は人
(2) (1)以外の課税文書 当該課税文書に記載された作成名義人

第43条(代理人が作成する課税文書の作成者)
1 委任に基づく代理人が、当該委任事務の処理に当たり、代理人名義で作成する課税文書については、当該文書に委任者の名義が表示されているものであっても、当該代理人を作成者とする。
2 代理人が作成する課税文書であっても、委任者名のみを表示する文書については、当該委任者を作成者とする。


 法には単に「作成者」とだけあって、これを通達が敷衍していると。
 整理すると次のとおり。

【納税義務者ルール(通達)】
 A 原則は書面上の作成名義人
 B 法人の役員・従業者名義 ⇒法人
 C 委任者+任意代理人名義 ⇒代理人
 D 委任者名義のみ ⇒委任者

  (以下、委任者と本人は互換的に用います)

 これはあくまで通達ルールですが、以下これをベースに話をすすめます(が、当然のようにイチャモンをつける)。


 なお、今回の論点とは関係ないですが、Cで代理人が納税義務者になるってことは、この場合に本人が印紙代を負担してしまうと、

  代理人: 租税公課(対象外)/売上高(課税売上)
  本人:  委託費(課税仕入)/現金

となるってことですかね。
 
 不動産売買契約で、買主が購入日〜年末までに対応する固定資産税相当額を負担する場合のアレと同じです。
 本来の納税義務者でない人が税金を負担した場合には、立替払いとはならないと。

消費税法基本通達
10−1−6(未経過固定資産税等の取扱い)
 固定資産税、自動車税等(以下10−1−6において「固定資産税等」という。)の課税の対象となる資産の譲渡に伴い、当該資産に対して課された固定資産税等について譲渡の時において未経過分がある場合で、その未経過分に相当する金額を当該資産の譲渡について収受する金額とは別に収受している場合であっても、当該未経過分に相当する金額は当該資産の譲渡の金額に含まれるのであるから留意する。


 法定代理ならともかく任意代理でこのルール、どうにも実態にそぐわない気がします。が、通達上はそうなっています。


 前提を確認したところで、《課否判定》(=課税物件該当性)と《納税義務者》とが絡み合ったややこしい話を以下進めます(前述の通り、任意代理に限定)。

 まずは普通の事例から(通常事例思考)。

【通常事例思考】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

1 有権代理

 事例1:
 代理人が本人から委任を受けて本人のために相手方から甲不動産を購入した。

・課否判定

 これは課税で問題なしと。

・納税義務者

  ア 名義:本人+代理人 →代理人 C
  イ 名義:本人のみ   →本人 D

 通達どおりあてはめると、こうなります。
 上述のとおりCルールに違和感があるものの、一応これが正しいものとしておきます(仄めかし)。

 問題はここから。

2 無権代理(まったくの無断で)

 事例2:
 代理人が本人から委任を受けずに本人のために相手方から甲不動産を購入した。
 (以下、無権代理人を含めた意味で「代理人」と指称します)

・課否判定

 そもそもこの場合に印紙税法上の「契約書」となるのかどうか。
 書面上はいかにも効果帰属要件が備わった契約書ができあがっているものの、民法上は本人に効果帰属しません。

 ここは、前回までで論じた「効力要件」のところを「効果帰属要件」に置き換えればいいんでしょう。
 特殊性があるとしたら、民法117条で代理人が履行責任を負うというのが、結論課税を導くのに味方になりそうってところでしょうか。

民法
第百十七条(無権代理人の責任)
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。


【民法レベル】
 成立要件 代理人と相手方の意思表示が一致
 効力要件 意思表示に瑕疵なし
 効果帰属要件 本人に帰属しないが代理人に帰属(履行責任選択)

 無権代理なのに「意思表示が一致」というの、ものすごい違和感あるかもしれませんが、通説的な成立要件理解からするとこうなります。これは成立要件段階では抜け殻みたいな意思表示しか要求していないせいです。

 そして書面上は「甲代理人乙」と書いてある限り、印紙税法上「契約の成立を証明する目的」に欠けることはないと。

・納税義務者

 委任に基づくものではないので、CDは適用されません。
 原則に戻ってAが適用されると。

 ア 名義:本人+代理人 →本人? A
 イ 名義:本人のみ   →本人? A

 結論としては、どう考えても代理人課税とすべきでしょう。勝手に契約書作っているわけで。
 しかし「作成名義人」といった場合、通常は本人を指すものとして使われているはずです。にもかかわらず、代理人課税という結論を導くことができるか。

 ここでCルールが使えれば、妥当な結論を導くことができたはずです(ラッキーパンチ)。が、「委任に基づく」と書かれてしまっていて、ここでは使えません。

 「甲代理人乙」
  有権代理: Cルール⇒代理人
  無権代理: Aルール⇒本人?
 ←いずれも望ましい結論と逆。

 他方で、本人のほうはアイともに書面上に自分の名前が記載されており、一般的に「作成名義人」に該当することになります。
 が、文書作成に何も関与していない本人が、名義が記載されているというだけで納税義務者となってしまうのは、さすがにまずい。
 けども、Aルールには「文書に記載された」とだけあって、関与云々といった事情を考慮することになっていません。


 このように、「作成者=作成名義人」というAのルール、無権代理の場面になるとどこかおかしい。
 特に、イで、勝手に文書を作成しておきながら、書面上に一切現れていないことを理由に代理人を納税義務者とすることができないとしたら、極めて不合理。

 代理人課税という結論を導きたいのであれば、書面から読み取れる作成名義人である本人を納税義務者から外し、かつ文書の物理的な記入者である代理人を納税義務者に取り込む、というルールを創出する必要があります(事実説的な)。
 が、このようなルールは、「文書の記載から判断する」という印紙税法の基本コンセプトからは、かなり外れてしまいます。
 ので、それをやると今度は別のところに不都合が生じて(以下ループ)、ということになりそうです。

 単純に物理的な書面の作成者を納税義務者にすれば済む問題でもない。
 そうした場合、次はBの法人ルールをどうするか、などといった問題がでてきてしまいます。

 ということで、法人などの組織の場合、署名代行の場合などなど、あらゆる場面に通用するルールが求められている。

【パンドラの匣】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)


 そもそも、通達のA〜Dの一連のルールが、いったいどのようなポリシーに基づいて導き出されたものなのかがよくわかりません。

 ACDをあわせてみると、書面上に現れた文書作成者を「作成者」としているように読めます(事実説に記載説をプラス)。

  A 「甲」      →甲が書面を作成したと読める →甲
  C 「甲代理人乙」  →代理人乙が書面を作成したと読める →乙
  D 「甲」(乙が作成)→本人甲が書面を作成したと読める →甲

 ところが、Bでは法人自身が作成者になるとしているので、これと同じ理屈では説明がつきません。

  B 「甲社代表取締役乙」 →が書面を作成したと読める →

 Bは結論自体は妥当だと思うものの、ACDセットとうまく噛み合わない。
 そこで、CをはずしてABDをセットにしてみると、こちらは意思説(+記載説)的な説明ができます。

  A 「甲」        →甲が書面の意思主体と読める   →甲
  B 「甲社代表取締役乙」 →甲社が書面の意思主体と読める  →甲
  D 「甲」(乙が作成)  →本人甲が書面の意思主体と読める →甲

 そして案の定、Cが仲間外れに。

  C 「甲代理人乙」  →本人が書面の意思主体と読める →


 日常系税務の世界では、たとえ筋の通らない通達であっても、こういう理屈っぽいことをゴチャゴチャ言わずに、おとなしく通達どおりに処理していく、というのもひとつの知恵ではあります。

みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い

 が、こういう揺らぎがあるせいで、無権代理・表見代理のようなイレギュラーなケースがでてきたときには、どうあてはめたらいいかまるで参考になりません。

 ここで代理権の有無といった《実体》で判定するとしたら、「記載された作成名義人」ルールは全面的な組み直しが必要になります。
 またもし、課否判定に効果帰属要件を持ち込まないのだとすると、課否判定でスルーした効果帰属要件を納税義務者判定で持ち込むことになるが、そういうことでいいのかどうか。

 課否判定:  成立要件のみで判定
 納税義務者: 効果帰属要件を含めて判定?


 この最適解のみつからない「名義人・作成者」問題、刑法各論の「文書偽造罪」のところで論じられている問題と同根です。
 頭のいい刑法学者の皆さんがあれこれアイディアを出しているものの「帯に短し襷に長し」といった具合で、あらゆる場合に最適な結論を導き出せる、決定版といえるようなルールがいまだ開発されていないように思われます。

 このように刑法学者の皆さんがあれこれ頭を悩ませている問題にもかかわらず、「作成者=作成名義人」と無邪気にイコールで繋いじゃっている印紙税法基本通達の無神経さよ。
 そして、BとCとで真逆のルールを採用しているようにみえる無秩序・無軌道さ。

 Bは代表、Cは代理と、言葉遣いは違うものの、法的効果に違いがあるわけではない。
 のに、これが印紙税法上の納税義務者判定にどのような違いをもたらすというのか。

  B 代表:代表者の行為が法人に帰属する
  C 代理:代理人の行為が本人に帰属する


 書面作成におよそ関与していない本人が課税されないようにするには、やはり納税義務者判定に「効果帰属要件」を持ち込まざるをえないように思います。
 効果帰属要件について実体的な判断をした上で、ある場合は意思主体を納税義務者とする(意思説)、ない場合は物理的な書面作成者を納税義務者とすると(事実説)。

《効果帰属要件あり》 意思説
  A 「甲」(甲が作成)  →甲が書面の意思主体   →甲
  B 「甲社代表取締役乙」 →甲社が書面の意思主体  →甲
  C 「甲代理人乙」    →本人甲が書面の意思主体 →
  D 「甲」(乙が作成)  →本人甲が書面の意思主体 →甲

→Cは通達と異なり、意思説側によせる。
 これで印紙税を本人が負担しても立替にならない、などという実態にそぐわない結論は回避できます。

《効果帰属要件なし》 事実説
  B 「甲社代表取締役乙」 →乙が作成した →乙
  C 「甲代理人乙」    →乙が作成した →乙
  D 「甲」(乙が作成)  →乙が作成した →乙

 話の流れで、いきなり効果帰属要件の有り無しから分岐が始まっていますが、実際の判断過程は次のようになると思います。

 一 物理的な書面作成者を特定する
 二 文書から読み取れる意思主体を特定する
 三 一と二が同一人物であればその人が納税義務者
 四 一と二が別人物であれば効果帰属要件の有無で判定


 印紙税法は文書課税だから文書の記載で判断する、とかいって、課否判定のみならず納税義務者まで文書の記載だけで判断しようとしたのが混乱の原因。

 というか、通達の42条と43条とで、すでに混乱しているように読めます。
 Aは「文書に記載された」とあって記載ベース、Cは「委任に基づく」とあって権限ベースでの判定。
 Dは、Cを受けての規定であれば権限ベースでしょうが、「前項に規定する代理人」など明示されているわけでもない。
 Bは、「その法人の業務又は財産に関し」というのが権限内であることを前提としているのであれば権限ベースでしょうが、こちらもはっきり読み取れない。
 記載と実体が入り混じっているように読めますが、いったいどういうつもりなのか。

・相手方

 結論としての代理人課税が問題ないとして、相手方(売主)が課税されてもいいのかどうか。

 課税文書であるかぎり相手方課税は避けようがない。相手方のほうは意思主体でもあり物理的な文書作成者でもあるので。

 無効・取消・解除事由がある文書でも課税だというならば、効果不帰属な文書が課税でもおかしくないのでしょう。
 が、相手方に何の帰責性もない場合にも課税されるというのは、どことなく違和感があります。
 確かに、相手方の主観だけから見れば通常の有権代理の場合とかわりはないんですけども。

 まあこれによる相手方の損失は、民法117条の賠償責任に印紙負担相当額を含めればいいのでしょう。
 が、代理人無資力のリスクを相手方が負担することになってしまうと。

3 無権代理(権限踰越、民法110条に対応)

 事例3:
 代理人に甲不動産を1000万円までで買うことを委任したら5000万円で購入してきた。

・課否判定

 この事例では、民法110条の表見代理が認められる可能性があります。

民法
第百十条(権限外の行為の表見代理)
 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。


 そうすると、表見代理が認められるかどうかによって印紙税法の課否判定が左右されるか、ということが問題となります。
 この点も前回の記事で「効力要件」について論じたことを当てはめればいいんでしょう。

 結局のところ「証明する目的」の有無が勝負の分かれ目になりそうです。

・納税義務者

 事例2と違って、権限を超えているとはいえ1000万円までの委任はあります。
 この場合でも委任に基づかないとしてCDは排除されるかどうか。

 有権代理の場合と同じルールというのはおかしいとは思うものの、そもそものポリシーが不明なので、排除されるのかどうかも判断がつかない。
 しかも排除されたところでAに戻るだけなので、どっちにしても問題解決とはならない。

 ア 名義:本人+代理人 →本人? A
 イ 名義:本人のみ   →本人? A

 事例2では本人課税は明らかにまずかったわけです。
 他方、こちらで表見代理が成立する場合には、民法上本人にも一定の「帰責性」があると評価されている点で違いがあります。
 このことが、印紙税法上の納税義務者かどうかの判定に影響を及ぼすか。

 結論として影響を及ぼすのはおかしいとは思うものの、やはり作成名義人ルールをどうにかしないかぎり、本人課税を回避することは不可能です。


 2では効果帰属要件のあり/なしで分岐させて、無権代理は「なし」の事実説で判断すべきとしました。
 表見代理についても同じく「なし」のほうでいくのが望ましいと思います。
 一定の「帰責性」があるにしても、当該文書の意思主体でないのは無権代理と同じだからです。
 
 有権代理《帰属する》 :効果帰属要件ありルール
 無権代理《帰属しない》:効果帰属要件なしルール
 表見代理《帰属する》 :効果帰属要件なしルール

 そうすると、表見代理・無権代理・表見代理に共通するルールとして記述するのであれば、「効果帰属要件あり/なし」でわけるよりも「実際の意思主体がいる/いない」でわけたほうが正確かもしれません。

有権代理 ⇒本人課税
 書面作成者 代理人
 書面上の意思主体 本人
 実際の意思主体 本人

無権代理 ⇒代理人課税
 書面作成者 代理人
 書面上の意思主体 本人
 実際の意思主体 なし

表見代理 ⇒代理人課税
 書面作成者 代理人
 書面上の意思主体 本人
 実際の意思主体 なし

※無権代理・表見代理で実際の意思主体「なし」としているのは、本人はもちろん、代理人自身も自己に帰属させるつもりはないからです。
 が、ここでいう意思主体というのを何をもって判断するのか、という点はきちんとつめておく必要があると思います。ここではさしあたり「契約効果を自己に帰属させる意思」としておきます。

 で、実際の判断過程は次のとおり。

 一 物理的な書面作成者を特定する
 二 書面上の意思主体を特定する
 三 一と二が同一人物であればその人が納税義務者(本人契約)
 四 一と二が別人物の場合
   実際の意思主体がいればその人が納税義務者(有権代理)
   実際の意思主体がいなければ一の書面作成者が納税義務者(無権代理・表見代理)
 
 ちなみに、委任の範囲内である1000万円までの印紙税は負担すべき(一部連帯)なんてのは、さすがにないでしょう。


 なお、印紙税法のレベルでは、民法109条(代理権授与の表示)と民法112条(代理権消滅後)は2、3のヴァリエーションで考えればいいと思います(ここで脳が力尽きた)。

民法
第百九条(代理権授与の表示による表見代理等)
1 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

第百十二条(代理権消滅後の表見代理等)
1 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。


・相手方

 2の場合に相手方課税となるのであれば、こちらでも課税となっておかしくないのでしょう。
 表見代理が認められるなら別にいいじゃん、て思うかもしれませんが、そのことが印紙税課税の結論の左右するのはやはり違和感がありますけども。 


 以上、《課否判定》については前回の記事で論点出尽くしていて、問題の本体は《納税義務者》のほうでした。

 そして、納税義務者については、書面の記載だけで判定するのではなく実体を入れて判定すべきだと。
 このような解釈手法について、次の通達との関係を整理しておく必要があるかもしれません。

印紙税法基本通達
(課税文書に該当するかどうかの判断)第3条
1 文書が課税文書に該当するかどうかは、文書の全体を一つとして判断するのみでなく、その文書に記載されている個々の内容についても判断するものとし、また、単に文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言によることなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断するものとする。
2 前項における記載文言の実質的な意義の判断は、その文書に記載又は表示されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律の規定、当事者間における了解、基本契約又は慣習等を加味し、総合的に行うものとする。


 ここには「心はホットに頭はクールに」みたいな感じのことが書いてあって、ちょっとした紐解きが必要になります。
 これはまず、判定の対象は文書の記載だけであって書かれていないことを持ち込んではいけない、という考えが前提にあります。その上で、書かれているものについては、形式的に読むのではなく実質的に読みなさいと。

 ここには意外にもちゃんと「課税文書に該当するかどうかは」と書かれていて、適用場面が限定されています。
 なので、あくまでこれは《課否判定》だけの話。《納税義務者》の判定には及んでいません。

 ということで、納税義務者の解釈手法については、振り出しに戻って法の「作成者」という文言そのものの解釈からスタートをすると。

 素直な文言解釈をするならば、やはり物理的に文書を作った人が作成者となる、というのがまずは原則なんでしょう(事実説)。
 その上で、たとえば、代書屋さんに文書をつくってもらった本人、代理人に契約してもらった本人、代表者に業務執行してもらった法人、なども当該文書の意思主体となるものとして作成者の意味に含ませることができると(意思説)。

 通達のAルールがいう「当該課税文書に記載された作成名義人」が納税義務者となるのは、その人が、
  ・物理的な書面作成者と一致する場合(本人契約)
  ・実際の意思主体と一致する場合(有権代理)
に限られるのであって、無条件で納税義務者となるわけではない。

 というか、作成名義人であることそれだけで納税義務者とすべきではありません。
 無権代理・表見代理の場合のように、勝手に名義を使われた場合にまで印紙税課税となってしまいますので。


 全く関係のない話ですが、課否判定と納税義務者とに分け、前者は文書記載ルール、後者は実体ルールを適用する、そして実体ルールの中でも意思主体の存否で判定を分けるみたいな考え、手形法における前田庸先生のお考えに似ているなあと、ふと思いました。

前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣 1983)

 前田先生のご見解も、まずは妥当な結論を考え、その上でそれら結論を導くことができる統一的な理論を構築する、という思考の流れでした。


 実は、ここまで論じた中に、印紙税法側にもう一回転ネジを回さないといけない箇所があるのですが、長くなりすぎたので一旦ここで締めます。
posted by ウロ at 10:36| Comment(0) | 印紙税法

2020年04月20日

続・契約の成立と印紙税法(法適用通則法がこちらをみている)

 以前、印紙税法をダシにして、民法をイジリたおしたことがあります。

 私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法

 そこでは、民法(学)が成立要件と効力要件を分けてくれたおかげで、印紙税法の「契約書」の範囲が拡大し課税範囲が広がった、ということを書きました(迷惑)。


 この成立要件と効力要件を分けるという考え、民法学上も異論がないわけではないです。

 私がその異論をみたのは我らが石田穣先生の体系書。
 が、石田先生が通説に異論を唱えているなんてどうせ異説だろ、ということで記事には反映しませんでした。

 石田穣『民法総則』(悠々社1992・信山社2014)

 なお、「どうせ異説だろ」というのは、決して石田先生をサゲているのではありません。
 むしろ私のサゲは、こういった、通説に対する適切な批判を取り入れることが出来ない、民法学に対して向けられています。

 ので、冒頭の記事では「キャッツ・アイ」まで持ち出して、分ける考えに対して揶揄感を仄めかしながら書いていました(弔い合戦)。


 で、あらためてこの記事を蒸し返そうと思ったのは、通則法の条文を読んで、あれ?と思ったからです。

法の適用に関する通則法
第七条(当事者による準拠法の選択)
  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。


 僕たちの「通則法」といえば、国税通則法ではなく法の適用に関する通則法。

 ここに「成立」って文言がでてきます。
 「効力」(=効果)と対比して書かれていることからもわかるとおり、通則法上は、民法学でいうところの「効力要件」もこの「成立」の中に含まれています。
 要件(成立)と効果(効力)の2つで分けているわけですね。

 なお「方式」が第10条で別に取り出されているのは、このように書かなければ「成立」の中に含まれてしまうところ、別の連結ルールを採用するため、です。

法の適用に関する通則法
第十条(法律行為の方式)
1 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。
2 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。
3 法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっては、その通知を発した地を行為地とみなす。
4 法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。
5 前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は処分する法律行為の方式については、適用しない。


【通則法の言葉遣い】
 成立: 要件(実質)
 方式: 要件(形式)
 効力: 効果

 ここでいう「方式」というのは、たとえば保証契約は書面でしなければならない、のようなものです。

民法
第四百四十六条(保証人の責任等)
1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。



 さて、そうなると、民法(学)と通則法とで「成立」の意味が違うということになるのでしょうか。

 今までだったら、成立要件/効力要件なんて講学上の概念分類にすぎない、といえていたのかもしれません。
 条文上の成立には効力要件も含むものなんだと。

 が、2017年民法改正によって、分ける考えベースの条文が作られてしまいました。

民法
第五百二十二条(契約の成立と方式)
1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。


 この条文の読み方として、ここでいう申込みと承諾は効力要件を備えていることを前提にしている、と読み込むことができるのかもしれません。
 が、従前の一般的な見解を明文化したというならば、やはり効力要件は含まれていないと読まざるをえないんでしょう。  

 なお、2項で「方式」のことを書いていますが、これも通則法と同じく「成立」の中に「方式」が含まれていることを前提にしていると思います。

 もちろん、通則法は世界中の「法律行為の成立」を取り込まなければならない、他方で民法の「成立」は日本民法内部の問題にすぎない、ということで、必ずしもイコールである必要はありません。
 が、国内法同士で足並みが揃っていないの、いきなり出足から躓いている感じで、なんか嫌ですね。


 とはいえ、この論点、民法上は別にどっちであろうと結論はかわりません。
 「成立する/しない」といおうが、「効力が生じる/生じない」といおうが、民法上はどちらでも結論は同じなので(立証責任云々は訴訟法レベルのはなし)。

 実際、民法内部でも用語を正しく使い分けているか怪しいですし。

民法
第五百五十五条(売買)
 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


 この555条を522条と見比べてもらえば分かるとおり、522条を売買に反映させたかのような言い回しになっています(できたのは555条のほうがはるか前ですが)。
 ところが、522条は「成立する」、555条は「効力を生ずる」となぜか違うことが書いてあります。

  522条: 申込み+承諾 → 成立する (成立要件?)
  555条: 売ります+買います →効力を生ずる (効力要件?)

 「当然の原則は書かない」という明治民法以来の伝統壊してやったぜ、とかドヤ顔しているのかもしれませんが、既存の規定との整合性にちゃんと配慮したのか、非常に疑わしい。

 「瑕疵担保責任」まわりの改正でも足並み揃わない感出しまくりなのは、下記記事で論じたところ。

ドキッ!?ドグマだらけの民法改正


 それはともかく、問題は印紙税法です。

 冒頭の記事で書いたとおり、印紙税法では「契約の成立」を証すべき文書を「契約書」(=課税文書)だとしています。
 そのため、ここでいう「成立」に効力要件が含まれるかどうかで、印紙税の課税範囲が変わってきます。

  効力要件含む   →課税範囲狭くなる
  効力要件含まない →課税範囲広くなる

 さあ!借用概念肯定論者の諸君、この「成立」につき、民法から借用するのか通則法から借用するのか、どちらからお借りてしてくるのか決め給え!(煽り)

 通則法の成立: 成立要件+効力要件
 民法の成立:  成立要件

【借用概念論について】 
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)

【ビアンカ・フローラ論争について(付デボラ)】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その7)


 通則法の1条をみるかぎり、民法よりも通則法のほうがポジションは上だと思うんです。
 一般的には、準拠法を選ぶためだけの法律としか思われていない気がしますが。

法の適用に関する通則法
第一条(趣旨)
 この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。


【鳩と蟻】
視野を広げるための、国際私法

 他方で、通達はいかにも民法学からお借りしてきたっぽい言い回し(そのせいで民法522条が通達を真似したみたいになっている)。

印紙税法基本通達
第14条(契約の意義)
 通則5に規定する「契約」とは、互いに対立する2個以上の意思表示の合致、すなわち一方の申込みと他方の承諾によって成立する法律行為をいう。



 効力要件を取り込むこととした場合に、問題となるのは以下の事由。
  ・無効原因
  ・取消原因
  ・解除原因

 これら原因がある場合に、課否判定はどうなるのか。

 公式では取消・解除しても還付しないということが書いてあります。

収入印紙の交換と印紙税の還付について(国税庁)

 が、なぜそうなのか理由までは書いていない。
 取消・解除というのは契約書作成後の事情だから、という素朴な理由からでしょうか。

 確かに、取消権・解除権の行使自体は契約書作成後ではあります。
 けども、取消原因自体は契約書作成時にすでにあるものです。
 解除原因のほうも、従前は契約後の事情に限られていましたが、原始的不能を債務不履行に取り込んだせいで、契約前の事情も含まれることになりました。

 取消原因・解除原因が契約書作成時にあっても、その時点では有効な契約が成立しているのであって、間違って印紙を貼ったことにはならない、ということでしょうか。

 そうだとして、無効原因がある場合はどうなのか。

 無効の場合、理屈上は、形成権行使をまたずにはじめから効力が生じていないわけです。
 それでも、取消・解除と同様の扱いとなるのか。

 無効の場合も課税するのであれば、やはり印紙税法の「成立」に効力要件は含まれないとするのが素直でしょう。
 錯誤みたいに無効→取消に変更されることもあるわけで、無効と取消とで扱いを変える合理性もないでしょうし。


 一応、筋道としては以下のとおり。

【通則法からお借りする1】 《完全遡及説》
ア 解除 →不課税
イ 取消 →不課税
ウ 無効 →不課税

 ⇒取消・解除されたらさかのぼって課税根拠を失う。

【通則法からお借りする2】 《原因時説》
ア 解除(後) →課税
  解除(前) →不課税
イ 取消(前) →不課税
ウ 無効(前) →不課税

 ⇒原因が契約書作成前か後かで判定する。

【通則法からお借りする3】 《作成時説・不遡及説》
ア 解除 →課税
イ 取消 →課税
ウ 無効 →不課税

 ⇒作成時に効力が生じていたかどうかで判定する。

【民法からお借りする】 効力要件はずし
ア 解除 →課税
イ 取消 →課税
ウ 無効 →課税

 どうしても無効の場合も課税したいというならば、民法からお借りすることになると。


 上記筋道は、お借りしてきたものがそのまま印紙税法側の結論に直結することを前提としています。
 借用概念だというならば、本来はそうでなければならない。

 が、どちらからお借りしてくるかにかかわらず、印紙税法の側で、契約の成立を「証明する目的」で作成されているかどうかで課否判定をする、ということも考えられます。

印紙税法
別表第一 課税物件表(第二条―第五条、第七条、第十一条、第十二条関係)
課税物件表の適用に関する通則
5 この表の第一号、第二号、第七号及び第十二号から第十五号までにおいて「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。

印紙税法基本通達
第12条(契約書の意義)
 法に規定する「契約書」とは、契約当事者の間において、契約(その予約を含む。)の成立、更改又は内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証明する目的で作成される文書をいい、契約の消滅の事実を証明する目的で作成される文書は含まない。


 ※ここで、法が「証すべき文書」と表現しているものを、通達が「証明する目的で作成される文書」と言い換えてしまっているのが気になります。
 確かに、前者はいまいち意味が取りにくい。としても、ここから後者のような読み方ができるのかどうか。
 といった疑問はありますが、さしあたり通達の解釈にのっかって話をすすめます。
 
 仮に効力要件を取り込んだとしても、印紙税法が問題とするのは効力要件の存否それ自体ではなく、それを「証明する目的」で書面を作成したかどうか、で判定をするんだと。しかも「目的」とはいいながら、当事者の主観により判断するのではなく、あくまでも文書の記載上から読み取れるかで判断すると。
 印紙税は文書課税云々という理屈からすれば、こちらの筋のほうが正しいとなるのでしょう。

 たとえば、「虚偽表示」ならば効力要件は満たさず契約は無効になります。
 が、書面上はあくまでもそれが有効であるかのように作成されるわけで、契約の成立を「証明する目的」はある(と書面から読み取れる)んだと。

 借用しておいてそりゃないぜ、て感じ。
 通達がいかにも民法からお借りしてきたみたいな言い回しをしているのは、完全なブラフかよ。

  通則法ルート: 成立かつ有効+それを証明する目的
  民法ルート : 成立    +それを証明する目的

 通則法ルートのほうが一見せまくなるようにみえます。
 が、契約書というのは、書面上は有効になるようにつくられるのであって、有効であることを「証明する目的」が読み取れない、などということは考えにくい。

 考えられるとしたら、殺人依頼の対価として不動産を譲渡する、みたいな書面だけみても無効であることが明らかな場合でしょうか。
 いくら内心で有効だと思っていたとしても、どうあってもこれが有効になることはないわけです。ので、有効を「証明する目的」にはなりえないと。
 「法の不知は許されない」のヴァリエーション。

 こういう極限の事例になってはじめて、どちらからお借りするかで結論がかわることになりそう。民法ルートならこんな事例でも当然課税でしょう。
 ただし、税法の世界では「違法所得も課税される」みたいな変則ルールもあるので、通則法ルートであっても、お構いなしに印紙税課税と判断されるのかもしれませんが。

 結局のところ、この「証明する目的」というのは、「契約の成立」に対する制御デバイスとして働くのではなく、むしろ拡張デバイスとして働いていることになります。

  通則法ルート:{成立かつ有効}を証明する目的が書面から読み取れるか
  民法ルート :{成立}    を証明する目的が書面から読み取れるか

 通則法ルートか民法ルートかなんて、真面目に論じるだけ無駄じゃねえか。

 さあ!決めるのは印紙税法、君自身よ!(ぶん投げ)


 念のため、私がわかる範囲ではありますが、時系列に従って並べておきますので、誰が誰からお借りしているのかご教授ください。

民法(1896年)
法例8条(1898年)
民法学(?)
印紙税法(1967年)
印紙税法基本通達(1969年)
通則法7条(2006年)
民法522条(2017年)

【つづき】
続々・契約の成立と印紙税法(代理法がこちらをみている)
posted by ウロ at 11:13| Comment(0) | 印紙税法

2020年04月13日

解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 「物言わぬは腹ふくるるわざなり」

 かつては一生駄洒落など言うまい、と思っておりました。
 が、今となってはどうしても言いたくなるときがあります。

 や、決してこれが面白いと思っているのではなく。
 とにかく頭に思い浮かんだことを吐き出しておきたい、ということです(お葬式で笑っちゃう的なエビスイズム)。


 さて、速報ベースで書いた先日の記事。
 
 判決文よく読んでみましたが、予測したとおり初見の感想と変わらず。
 
 ということで、タイトル変えただけ(あと余計な脚色を追加)で再掲。

解釈の解釈は終わりました。〜最高裁令和2年3月24日判決【判例速報】


 結論だけいうと、譲渡所得は売主の含み益に課税するものなんだから、同族会社となるかどうかは譲渡前の売主の支配力によって判定すると。
 「通達を文理解釈する」などというストレンジ判決は、破棄されました。

【最高裁のサイト】
取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」につき,配当還元価額によって評価した原審の判断に違法があるとされた事例
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89339
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/339/089339_hanrei.pdf


 当ブログでも原判決である東京高裁判決をイジり倒したところですが、補足意見を含めた最高裁判決の判断、このブログとほぼ同旨といっていいんじゃないでしょうか。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の終わり? 〜さらば東京高裁平成30年7月19日判決

 そうはいっても、残念ながらこれは「予測が的中したぜ、いえ〜い!」とドヤ顔できるほどのことではないです。
 最高裁が、「通達を文理解釈する」などというエキセントリックな手法をとらず、法律の趣旨に則った解釈をするという、品行方正・清廉潔白な王道の手法をとったからにすぎません(対して原判決が邪道の極み)。

 大昔のコンピュータリバーシゲーム的な。
 定石どおりにしか打たないので、手が読めてしまう感じの。
 もっというと、右足と左足を交互に前に出したら前に進むよ、くらいの。

 判決はドキドキハラハラなゲームじゃないんだから、「予測可能性」という観点からはそれでいいのです。
 今の御時世、ツイスターゲームなんて厳禁なんでしょうね(かなりの確率で「三蜜」という誤字を見かける)。

 理由付けがシンプルで説得力のある判決だと思います(急に謎の上から目線)。

 最高裁であっても、一般民事・刑事以外の領域だと特に、ときとして妙な判決を出すことはあります。
 結論はともかく、たとえば武富士事件判決には、そこはかとなくそういう感を、私は感じます(ということから、やたらと最高裁判決を神格化させる学習法には違和感バリバリ)。

【借用概念論】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 が、今回はちゃんとお作法通りの解釈となりました。
 やはり、宇賀克也判事、宮崎裕子判事が所属されている第三小法廷だった、というのが大きいんでしょうね。租税事件だという特殊性に惑わされることなく。


 やや脱線しますが、プロパー裁判官でないからといって、必ずしも自己の学問的良心にしたがった判断をするとは限りません。
 特に学者出身の最高裁判事の場合、過去の判例とマッチしない学説を主張していた場合は悩みどころ。

 そのことを主題としているものとして、たとえば伊藤正己先生のご著書。



伊藤正己 裁判官と学者の間(有斐閣1993)

 伊藤正己先生・判事ご自身は、積極果敢に少数意見を書かれていて、それが一冊の本として仕上がっているのですが、皆が皆そうできるわけではない。


 話を戻して、結論は「破棄差戻し」。
 ということは、納税者側にもワンチャン(ワン・チャンス)なくはない。

 というのも、宇賀判事、宮崎判事お二人の補足意見をみると、通達に対するダメ出しをされています(特に宮崎判事はキツめ)。
 ここに突破口を見出すと。

 以前の記事でも最後にちらっとふれたところですが、「通達が分かりにくいのが悪い」ということで「信義則」などで救済してもらう道も考えられなくはない。

 が、そんな最高裁に歯向かうような判決を、東京高裁に期待するのは望み薄でしょう。

 確かに、最高裁自身が信義則云々について、反するとも反しないとも明言しているわけではありません。
 けども、信義則云々を明言しないまま納税者有利の原判決を破棄して差戻ししているってことは、信義則云々は本件で問題としない、ということが暗に示されているからだと考えられます(信義則と弁論主義の関係はさておき)。
 とすると、差戻審たる東京高裁が、そこをほじくり返すなんてことはしないだろうなと。

 そもそも、東京高裁の判事をやっているほどの優秀な裁判官が、「通達を文理解釈する」なんてビザールな法解釈をしたこと自体が不可解なわけです。
 法解釈のお作法なんて、当然心得ているはずで(ずっと事務方だった、とかでない限り)。

 その行動原理をどうにか説明するならば、近時の最高裁の文理重視の税法解釈におもねったからだと考えざるをえません。最高裁が税法の文理解釈を重視しているのならば、通達も文理解釈するのが最高裁のお眼鏡にかなうはずだろうと。
 「納税者を救済したい」などという熱い気持ちでは、法解釈の常道を踏み外させることはできなかったでしょう。

 で、それが完全に的外れだったと。

 これは決して高裁判事を揶揄しているのではなく。
 優秀なはずの裁判官を、ひどく奇妙な解釈へ向かわせたことの合理的な説明をするとしたら、こういう方向で考えるしかないのではないかという観点からの推測です。

 このあたりは、楊修が曹操に処刑された理由を想起してもらえれば大丈夫です。

 われわれ外野の立場からすれば、東京高裁には、最高裁に嫌がられようとも「信義則アタック」をかましてもらいたいところ。
 で、再度最高裁に上告受理されてその点を明示的に判断してもらえれば、税務信義則判例がまた一つ増えることになりますし(ので、揶揄のつもりはないが煽ってはいる)。


 最初にこのブログとほぼ同旨と言いましたが、私が全然考慮していなかったところが一つ。

 お二人の補足意見では、やけに、所得税基本通達59-6の「例により」に着目されていました。

所得税基本通達59−6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23〜35共−9に準じて算定した価額による。この場合、23〜35共−9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、「財産評価基本通達」の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。


 補足意見のこの箇所、私には、

 『「例により」ってのは、評価通達をそのまま横流しするんじゃなく、所得税法の趣旨にあわせるってことを言っているんだよな、な、そうだよな、そうだったってことにしておこうな。』

と言っているように読めました。

 通達の出来の悪さを論難しておきながらあとからフォローしてあげる、いわゆる「ツンデレ補足意見」です。
 しかも、通達の文言の中でも脇役っぽい子をいきなり表舞台に立たせて活躍させる的な。シンデレラですか。

 さすがに私には、このようなツンデレ要素やシンデレ要素というのが備わっていないので、ここまでの予測はできませんでした。
 精進いたします(宮崎判事のほうは「ツン」が強すぎる気がしますが)。


 ところで、同じくこのブログでイジった東京高裁判決(TPR事件)も上告中です。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)


 こちらの高裁判決は趣旨解釈らしきことをしているので、譲渡所得課税の趣旨から解釈をしている今回の最高裁判決と軌を一にするかのように思えるかもしれません。
 が、散々イジったとおり、こちらの高裁判決、趣旨解釈とはいっても「横流し系」「ロンダリング系」の邪道な趣旨解釈だというのが私の見立て。

 しかもその趣旨というのを立法担当者の解説から流用している、というところがいかにもまずい。
 最高裁が趣旨解釈を重視している、という傾向におもねったつもりなんでしょうが、違うそうじゃない。

 もしまた第三小法廷に係属してしまったら、宮崎判事に「いち立法担当者の解説を鵜呑みにしてんじゃねえ、ちゃんと裁判所として整合性のとれた解釈を示せよ」と言われてしまう気がする。

 なんか感情移入して泣きそう。
 誰か、ツンデレ解釈またはシンデレ解釈をしていただけませんか(介錯ではなく)。

【追記】
 補足意見でボロクソ言われてしまったので、ということで通達改正案がパブリックコメントに出されてますね。

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(所得税基本通達59−6《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》)に対する意見公募手続の実施について
posted by ウロ at 10:57| Comment(0) | 判例イジり

2020年04月06日

「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 古典的な論点である「定期同額給与」もの。

 もちろん、近時あれこれ改正入っているところなので、改正点をネタにすることはあるでしょう。
 他方で、古典中の古典たる「3ヶ月以内改定」なんて、今さらブログ記事にする人もいないのかもしれません。

 が、世の中の需要をまるで考慮しないこのブログ、条文イジりという観点から整理してみます。
 
【いまさら条文シリーズ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
無償減資で均等割下げ(節税系の記事ではなく)


 以下、このタックスアンサーでいうと、1の(1)と(2)イに限定します。
 また、事例は「12月決算」の株式会社を前提とします。

No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

 まずは条文。
 直接関係があるところのみ大胆に省略いれつつ抜粋。

法人税法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(「定期給与」)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(「定期同額給与」)

法人税法施行令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(「定期給与」)で、次に掲げる改定(「給与改定」)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月を経過する日(「三月経過日等」)までにされた定期給与の額の改定



 法律上は大きく2つに分かれます。

法34条1項1号:
1 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(「定期給与」)で
  当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
2 その他これに準ずるものとして政令で定める給与

 「その他」とあるので、法で定めるものに「プラス」して政令で定めるものがあるということ。
 で、政令に3ヶ月以内改定のことが書いてあります。

 条文の引用のない解説ものだと政令のほうしか書いていなかったりしますが、条文の構造上は法の1がベースにあって、政令のやつはあくまでも「これに準ずるもの」だということになっています。

 会社法の側から考えると、定時総会での改定が通常ルールのように思えますが、法人税法上はまずは「事業年度」単位で考えるんだと。


 1によれば、定時総会まで待たずに期首月からの改定も許されることになります。

《事例0》
 1年12月 50万円
 2年 1月 100万円 (改定)
  〜
 2年12月 100万円

⇒2年1月〜12月 同額

 「定時株主総会によらず期首から改定するのは定期同額給与の趣旨に反するから否認リスクあり」みたいな記述を見かけたことがありますが、それはこの条文構造をおよそ踏まえない独自の見解。


 で、政令のほうが本日のメイン。

 まずは要件を分解します。

ア 定期給与:
  その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与
イ 給与改定:
  事業年度開始の日から三月を経過する日までにされた改定
ウ 同額給与:
  当該事業年度開始の日から給与改定後の最初の支給時期の前日まで
  給与改定前の最後の支給時期の翌日から当該事業年度終了の日まで
 の間の各支給時期における支給額が同額

 アは書いてあるとおり。
 イもこれ自体は書いてあるとおりなんですが、3ヶ月以内に改定決議だけしておけばいいのか、その改定による支給も3ヶ月以内にする必要があるのか、という問題があります。
 結論的には、決議だけでよいとなるのですが、ア・ウとの関係でおのずから制限がでてきます(後述)。

 ということで、問題の総本山がウの要件。


 まず、ノーマルな事例であてはめてみます(通常事例思考)。

【通常事例思考】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

《事例1》
 1年12月 50万円
 2年 1月 50万円 (1/31支給)
 2年 2月 50万円 (2/28支給)
 2年 3月 100万円 (3/25改定決議、3/31支給)
   〜
 2年12月 100万円 (12/31支給)

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(3/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒3/31〜12/31 同額

 一般向けの解説書だと、単に3ヶ月以内に改定すればいいよ、とウの要件を書いていないものもあったりします。
 それは、このような一定期間を設定しその間に到来する支給時期で比較する、という回りくどい要件を書いてもどうせ理解してもらえない、という配慮からでしょうか。

 まあ、実際上記のような《通常事例》ならば、結論は変わらないから実害はないんでしょう。


 が、次のような事例がでてくると、条文に立ち返らざるをえない。

《事例2》
 1年12月 50万円
 2年 1月 50万円 (1/31支給)
 2年 2月 50万円 (2/28支給)
 2年 3月 50万円 (3/31支給)
 2年 4月 100万円 (4/30支給) 3/25改定決議による
   〜
 2年12月 100万円 (12/31支給)

 なぜ、3/25改定決議の反映が、直後の3/31支給ではなく4/30支給からになるのか。
 それは、この会社では3/25に決議された役員報酬は、同日からの職務期間に対応するものだとしているからです。
 3/25から1ヶ月分の報酬を4/30に支給すると(後払)。

 にもかかわらず、《事例1》と同じようにあてはめをすると、

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(3/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒3/31〜12/31 同額でない

となってしまいます。

 また、改定決議自体は3ヶ月以内に行っているものの、その改定に対応する支給は3ヶ月後になってしまっています。
 そうすると、イの要件を満たすのかどうかも問題になります。


 この点、国税庁の「Q&A」では「職務執行期間」という考えを導入して、このようなものを容認しています(決算期がズレててすまん。オフィシャル事例、そろそろ12月決算にそろえないか)。

役員給与に関するQ&A - 国税庁(P.8)

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜3/31 同額
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(4/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒4/30〜12/31 同額

 Q&Aではウの緩和しか明示されていませんが、イについても、決議を3ヶ月以内にすれば支給は3ヶ月後でもいい、ということを前提にしていると思います。


 納税者有利な結論ではあるものの、この考えが政令の解釈として出てくるものなのか、国税庁が勝手に緩和してくれているだけなのかがはっきりしません(通達ですらない)。
 Q&Aに書いてあるのは「ウチはそう考える」というだけで、条文解釈の体裁をとっていません。
 政令の文言をどう解釈すれば、この結論が出てくるというのかが不明。

 納税者有利だから別にいいじゃん、て思うかもしれません。
 が、これが正当な法解釈でないとすると、あとから裁判所でひっくり返されることもありえます(信義則やら禁反言などはそう当てにはできない)。

 そこで、頑張って政令の解釈をするならば、
イ 給与改定
 文字通り改定決議日が3ヶ月以内であればいいということ
ウ 同額給与
 「給与改定前」「給与改定後」とあるのは、改定決議日そのものではなく、職務執行期間を考慮するということ(決議日3/25ではなく、新しい職務執行期間1ヶ月目の終了日4/25の前後で判定)

とでも読むことになりますか。
 政令も支給が後ろの月にずれる場合を想定しているはずだと。

 ただ、イでは決議日が基準になるといっておきながら、ウでは決議日ではなく職務執行期間に紐付けるというところに、そこはかとなく不整合感を感じます。
 条文ではわざわざ「給与改定」を定義づけた上でイとウを繋いでいるにもかかわらず、それぞれ違う意味合いで解釈をすることになるわけで。


 この「職務執行期間」を考慮する解釈、翻って典型例である《事例1》にあてはめるとこうなります。

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜2/28、3/31 同額でない
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(4/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒4/30〜12/31 同額

 駄目じゃんか。

 もちろん、この事例が
  新しい職務執行期間3/25〜 ⇒対応する1ヶ月目の支給日3/31(一部前払?)
だというならば、あてはめは最初に書いたとおりになるからセーフです。

 が、大半の中小企業は、職務執行期間なんか気にせずに改定・支給しているはずです。
 そうすると、今までは単純に、決議日の直後の支給日から反映させればいいと考えられていたものを、その支給日が新しい職務執行期間の1ヶ月目に対応するものかを確認しなければならなくなります。

 この結論がおかしいのだとすると、ウを二通りに解釈しなければなりません。

ウ 同額給与
 「給与改定前」「給与改定後」とあるのは、
 ・文字通り改定決議日の前後
 ・新しい職務執行期間1ヶ月目終了日の前後

 このどちらでもいいんだと。
 が、こんなご都合解釈、ますます条文解釈からは出てきそうにない。
 

 では、ウが緩和されたってことで、3/25決議で7/31支給からの変更が許されるかといったら、それは駄目っていうんでしょう。
 あくまでも1ヶ月サイクルのずれに収まるかぎりでの許容だと。

 確かに、不整合感は残るにしても、職務執行期間で縛っておかないとどこまでも後ろにずらせることになります。

 そうはいっても、このような限定が条文解釈から導けるかどうか。
 定期同額ルールの究極の趣旨である「利益調整許すまじ」という発想からすれば、3ヶ月以内に決めたものであるかぎり、いつから反映してもいいように思いますし。
 遡りさえしなければいいわけで。

 まあ中小企業の現実として、後付け議事録云々という問題はあるんでしょう。
 が、そういった現実が条文解釈に直結するわけでもない。

 ただし、制度趣旨を理由に条文上表現されていない解釈を創造することの問題点は、前に高裁判決をイジり倒したとおりです。
 1ヶ月サイクルに限る/限らない、いずれと解するにしても、あくまでも条文解釈として可能な範囲にとどまらなければなりません。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)


 では、1で期首から改定が許される+2で3ヶ月以内改定が許される、というのを合成して、2段階改定したらどうなるか。
 ややこしくなるので「職務執行期間」のことを気にしなくていいという前提で考えます。

《事例3》
 1年12月 50万円
 2年 1月 70万円 (1/1改定決議、1/31支給)
 2年 2月 70万円 (2/28支給)
 2年 3月 100万円 (3/1改定決議、3/31支給)
   〜
 2年12月 100万円

 1月に70万円に増額したものの、やっぱり今期はもっといけそうってことで3月に100万円に増額した、というストーリー。

 2年12月末の時点から振り返ってみると、2年1月〜12月が同額でないので1の要件は満たしていません。
 では2はどうか。

 2年1月・3月2回の改定は、いずれも3ヶ月以内改定なのでイは満たしています。
 問題はやはり、ウをどう考えるかです。

「@当該事業年度開始の日又はA給与改定前の最後の支給時期の翌日からB給与改定後の最初の支給時期の前日又はC当該事業年度終了の日まで」

 この条文をどう読むのかがあらためて問題になります。

 通常は、上記のとおり、
  @〜B A,C
  A〜C B,D
の間がそれぞれ同額かを見ればすみます。
 では、改定を2回した場合にはどうあてはめるのか、たすき掛けしてA〜B(E)もみる必要があるのかどうか。
 ちなみに、@〜Cは1と同じになっておよそ同額ではなくなってしまうので、検討からはずします(このことからすると、たすき掛け読みすべきでない、という方向になりそうですが)。

 無理くりやってみます。

1月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(1/30)まで
 ⇒なし。
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒1/31〜12/31 同額でない

3月改定
C 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額
D 給与改定前の最後の支給時期の翌日(3/1)から当該事業年度終了(12/31)の日まで
 ⇒3/31〜12/31 同額

1月改定〜3月改定
E (1月)給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から(3月)給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額

 う〜ん、て感じですよね。
 2回改定がある場合には、A+E+Dで見ればいいのか、2回目のC+Dだけを見ればいいのか、それともA〜E全部みるのか。

 仮に、A〜E全部でみて損金不算入になるのだとしたら、一体どの部分が不算入額として扱われるのか。


 では、《事例3》に「職務執行期間ズラし」をプラスしたらどうなるか。

《事例4》
 1年12月 50万円
 2年 1月 70万円 (1/25改定決議、1/31支給)
 2年 2月 70万円 (2/28支給)
 2年 3月 70万円 (3/31支給)
 2年 4月 100万円 (3/25改定決議、4/30支給)

1月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(1/30)まで
 ⇒なし。
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒1/31〜12/31 同額でない

3月改定
C 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜3/31 同額
D 給与改定前の最後の支給時期の翌日(4/1)から当該事業年度終了(12/31)の日まで
 ⇒4/30〜12/31 同額

1月改定〜3月改定
E (1月)給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から(3月)給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜3/31 同額

 何気なくあてはめしてますけど、ここでは、
  1月改定 決議日で判定
  3月改定 職務執行期間を考慮して判定
と、同じ「給与改定」という言葉を違う意味で解釈しています。

 《事例2》と《事例3》のように、違う事例での使い分けが許されるとしても、同じ事例で同時に使い分けるのは、さすがに無理じゃないですかね。
 1月改定で職務執行期間サイクルを無視した改定をしているくせに、3月改定では職務執行期間を考慮するなんて、合理的な説明できないですよね。

 もし仮に違う意味解釈が許されたとしても、《事例3》同様、BCを除け者にして判定していいのかどうかが問題。


 ここまで、「決議」とだけ書いてきましたが、これが「定時総会」である必要があるのか、それとも「臨時総会」でもいいのか、ということも問題にはなります。

 「3ヶ月以内」とあるので、いかにも定時総会を想定しているように思えます。
 が、少なくとも条文上は限定されていない。

 限定したいのであれば、会社法の条数を引用してそのものずばりを書くなり、あるいは「職務執行期間」に紐付けて特定することができたはずです(事前確定みたいに)。
 ですが、そういう縛りはありません。

 ではあるのですが、Q&Aが「職務執行期間」を梃子にしてウを緩和しているわけで、その見返りに、支給が後ろにずれる場合は「定時総会」に限定される、みたいな交換条件がでてきてもおかしくない。

 例の「変な趣旨解釈」みたく、条文上書いてもいない限定要件を一般的否認規定経由で勝手に付加する、というのに似ていますが、ちょっと毛並みが違う。
 有利な緩和とのバーターになっているわけで。

【変な趣旨解釈】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)


 そもそも定期同額給与について、法のレベルでは「事業年度」単位で判定になっていて会社法のことなんて気にしていないのに、それに準ずるはずの政令で「職務執行期間」なんて概念を持ち出すのが、変といえば変です。
 
 とすると、あくまでも法令上は支給が後ろにずれるのはアウトだけども、実情に鑑みてあえて否認はしませんよ、と捉えるのが無難でしょうか。
 こういう理解でいいのだとすると、通達に書かずにQ&Aでとどめていることの奥ゆかしさ、慎ましさみたいなところに趣を感じます。

 そういう視点で通達の「定期同額給与」のところをみると、あえて避けているようにも読めてくるから不思議。

法人税基本通達 定期同額給与
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_03.htm

 これに対して「短期前払費用の特例」のでしゃばり具合。
 みんなにチヤホヤされて、さぞ嬉しかろうが。
 しかしちょっとでも機嫌を損ねるとブチ切れる感がきついよ、この人。

法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。



 と、何も結論でていないものの、私個人の見立ては以下のとおり。

《法令解釈》
・政令上は「改定決議⇒その直後の支給」と読まざるをえないのであって、職務執行期間を考慮して後ろにずらすのは許されない。これは「令の不備」。
・はみ出さないパターンならば、決議は3ヶ月以内でありさえすれば定時総会である必要はない。
・2回改定はA〜Bのたすき掛け読み(A+E+Dでみる)で許容可能か。

《実務運用》
・職務執行期間ズラしは政令上はアウトだが、実態に鑑みて、国税庁様があえて否認はしないよと言ってくれている。
 ので、後ろにズラせるのは、Q&A記載のとおりの「定時総会による改定+1ヶ月サイクル」におさまる場合に限られる。
 この優しさを裏切ってはみ出しチャレンジをした場合には、徹底的に否認されるはず。

  法律; 事業年度 ⇒セーフ
  政令; 改定+直後支給 ⇒セーフ
  Q&A; 定時改定+職務執行期間考慮  ⇒アウトだが容認
  勇者; Q&Aはみ出し ⇒完全アウト

《裁判》
・裁判になったとしても同様に、政令上は直後支給のみが許容されている、合理的な範囲のズラしは個別救済、と判断されそう。
 で、補足意見で政令の出来の悪さを論難されると。


 マニアックな特例ならともかく、定期同額給与なんてメインストリームの制度なのに、なんでこんなできの悪い条文のままなのか。
 誰かチャレンジングな人がギリギリを攻めて裁判にならないかぎり、このまま放置され続けるんでしょうかね。

 ちなみに、下記の判決では最高裁判事に通達の出来の悪さをボロクソに論難されたわけで、近いうちに通達改正がされるんでしょう。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の終わり? 〜さらば東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈は終わりました。〜最高裁令和2年3月24日判決【判例速報】
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決


 条文なぞって終わり、で済むかと思いきや、よくわからない論点が出てきてしまいました(藪蛇)。

 定期同額給与なんてみんな知ってるよ、という類のものなので、こういう疑問を会計事務所・税理士事務所の人に聞いても、結論だけは自信満々に言ってくれるけどもなぜそうなのかの理由付けを説明してくれない、タイプのやつです。

 2回改定が「許される」とか「許されない」とか結論をいうのはいいんですが、それがこの条文をどうあてはめたら出てくるのか、理由付けのほうを知りたいんですけども。

 私自身も、今のところこれで勝負をかけようとは全く思いませんが、最後に残るものが「希望」となるのかどうか、もう少し考えてみます。
posted by ウロ at 10:56| Comment(0) | 法人税法