※以下は初版(2017)の書評です。アクティブ・ラーニング済みなので第2版はたぶん読みません。
改訂版が正統進化とならない、とあるひとつの実例。
「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)
前著(いわゆる無印)は、民法と税法が絡む問題につき深く論じられていて、示唆を得るところ大でした。
「実務家のための税務相談 民法編」(有斐閣2006)
「新」がでてしまったせいで同書の改訂はもはや望めないわけですが、同書で展開されている「考え方」は非常に参考になるので、今からでも購入していいと思います。
(リメイク版があまりにも不評だったため、あらためてオリジナルスタッフで製作しなおす、みたいなドラマ・アニメもあったりしますが)
○
さて問題は、この「新」がついている本書。
前著の後継かと思ってノールックで購入してしまったのですが、中身が全くの別物にすり替わっていました。
・むやみに多数の項目が取り上げられていて、
・やたらと多数の執筆者が参加していて、
・一項目がどれもこれも3,4頁程度と短く、
・当該項目にかかわる法規定と通達・裁決・判決をパラパラと並べた、
感じの記述が延々と続く。
特に新しい何かを学べる、というものでもなく。
執筆者多数なので、決してすべてがそうだということではないのですが、
× 設例(Question)があるのに、その設例にまともに答えていない。
× 設例がふんわりしすぎ。
× ★で項目を重要度をランクづけしているのに、どれもこれも同じ分量。
× 特に税法上の問題がない項目を無理やりねじ込んでいる。
× 項目を細分化しすぎて記述がダブついている。
× 当該項目に関する税法上の制度・論点をランダムに並べているだけ。
× 事案もかかずに判例の規範部分だけ書かれても射程が不明。
× 個人(所得税)と法人(法人税)がごちゃごちゃ。
× (売買でいうと)売主側の問題なのか買主側の問題なのかがごちゃごちゃ。
× 印紙税や消費税の問題を、論じたり論じなかったり。
× 実務で使う、という視点が希薄。
× 法律用語の使い方が不正確。
などといった問題が散見される。
きつきつの分量で中途半端な解説をするくらいなら、当該項目に関連する制度を完全網羅した「インデックス」に徹しておけばいいのに。
個々の内容は、信頼のおける他書の該当箇所だけ指示しておいてもらえればいいですよ、と。
○
これはアレです、アクティブ・ラーニング系。
【アクティブ・ラーニング系】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
三木義一「よくわかる税法入門 第14版」(有斐閣2020)
(そろそろ独立のカテゴリをつくってもいいかもしれない。)
※追記
しました。
カテゴリ(アクティブ・ラーニング)
信頼のおける書籍を座右に置きながら、本書の記述が正しいかどうかを点検しながら読む感じの。
本書の記述を鵜呑みにできないおかげで、自分の知識があやふやな部分を再確認できるので、そういう意味ではいい素材ではある(皮肉)。
金子宏先生の体系書なんて、ありがたく拝読するという感じになってしまって、批判的に読むのはなかなか難しいですからね。
金子宏「租税法 第23版」(弘文堂2019)
例によって、このことに途中から気づくという致命的なミス。
や、どうも怪しいな、とは思っていたんですよ(言い訳)。
ツッコミどころ、かなりの数になりそうなので、今回の記事は「これから検討していくよ。」という所信表明です。
○
一応、軽く頭出しだけしておきます。
61 クレジットカード契約
「信販会社は立替払をしています。そうすると、この支払いをしたときに、経費の支出があるため、損金が計上されることになります。それにあわせて、利用者に対する貸付金債権が発生するため、それを益金計上することになると思います。」
信販会社側の税務処理なんて、私にはおよそ縁のない話だと思います(私どころか大多数がそうだと思うので、それをわざわざ本書で記述する必要ある?というのはさておき)。
が、これ、何言っているんでしょうか。
ここでいう「経費」とはなんなのか。まさか立替払のことか。
「それを益金計上」というのは、貸付金債権のことなのか、そうなのか。
ていうか、立替払をすると売掛金が貸付金になるのか。
仕訳にするとこうですね、マジかよ信販会社(見慣れぬ科目名はオリジナル)。
立替金費(損金)/現金
貸付金/貸付金収入(益金)
てっきり手数料だけが売上になるのかと思っていましたよ。
利用者の利用額が、加盟店の売上になるだけでなく、信販会社の売上にもなるってことですね。
これ、会計素人の人が「銀行から借入すると収入、返済すると(元本返済も)費用になる」みたいなことを言っているのと似ているような気が。
全力で善解して、「ファイナンスリース」のことを言っていると読めばどうにかなりますか。
や、無理だわ。別途「ファイナンスリース契約」の項目もあるし。
あるいは、これはあくまでも税務処理であって会計処理ではないのだ、と考えてみましょうか。
そうすると、会計で計上されていない貸付金収入と立替金費を、申告書上で加減算すればいいんですかね。
意味ねえな。
そもそも会計とズラすには法的根拠が必要なはずですけど、そういう規定があるわけでもないですし。
また、ここでは「立替払方式」のことしか書かれていません。
「債権譲渡方式」についてや、あるいは「三当事者型」以外のタイプについては一切触れられていません。
小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)
○
という具合で、不可解な記述がちらほら散見されるので、うまくまとめられたら記事にします。
たぶん、一回ではとても終わらない。
「会社法編」もあるけども、この調子で突っ込みながら読んでいって、そこまで到達できるだろうか。
「新 実務家のための税務相談(会社法編) 第2版」(有斐閣2020)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民1)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民2)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民3)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民4)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民5)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)
2020年07月27日
「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)
posted by ウロ at 08:27| Comment(0)
| 租税法の教科書
2020年07月20日
下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)
労働法の教科書・体系書、近年は特に肥大化が進んでいます。
下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)
基準としての菅野和夫先生の体系書だと、1227頁。
菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)
それと比べれば本書は588頁と、一見薄い(?)ように思えます。
が、いわゆる「雇用関係法」に記述を絞っているからそうなっているだけです。
内容は非常に濃い目。
重要論点はフォントを落としているので、かなりぎっしり。
○
今どきの教科書のようにガチャつかず、極めてオーソドックスな構成。
図表の類は一切ありません。
もう少しわかり易さを求めるならば、水町勇一郎先生の教科書がいいと思います。
事例に基づいた具体的な記述が多めですので。
水町勇一郎「労働法 第8版」(有斐閣2020)
○
本書は労働法の知識が一通りある人が、最近の法改正・判例を体系的におさらいし直す、という使い方がいいと思います。
中には就業規則の法的性質論とか、かなり突っ込んで記述されているものもあって、読み応えはしっかり。
いわゆる「働き方改革」関連の法制にも触れられています。
が、おそらく改訂作業終盤でねじ込んだと思われ、いまいち体系に溶け込んでいないような。
次回の改訂に期待(さていつになるでしょう)。
○
本書にかぎらず、労働法の教科書を読んでいて思うところ。
たとえば、労働時間の法規制とか、言葉だけで理解しようと思っても無理がありますよね。
図表や具体例をあれこれあげてもらわないと、初見で理解するのは大変。
ので、図表が豊富な「わかりやすい」系の実務書を併用するのが望ましい。
いっそのこと、誰が書いても同じになる制度の説明は、文字通りの「基本書」として出版しといてほしい。
「日常系労務」ということで。
これと同じようなことは、民事訴訟法の教科書についての記事でも書きました。
新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019) 〜付・民事訴訟法と税理士
もちろん、図表だけでの理解にとどめず、きちんと条文でどのように表現されているかを確認することは必要です。
大垣尚司先生の会社法の教科書では、制度の解説を大胆に削って図表で代替されています。
が、これもちゃんと条文と照らし合わせてね、という前提があってのことでしょう。
大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)
○
しかし、この「有斐閣法学叢書」とかいうシリーズ、現役で出版されているのはもはや本書しかないんじゃないですか。
私が知っているかぎりでいうと、下記の「名著」はしれっとシリーズから外れていますし。
龍田節・前田雅弘「会社法大要 第2版」 (有斐閣2017)
中森喜彦「刑法各論 第4版」(有斐閣2015)
名前の紛らわしい「有斐閣法律学叢書」というシリーズなんて、2冊出たっきり。
大村敦志「家族法 第3版」(有斐閣2010)
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)
邪推するに、デビュー前のサイレント脱退があったんじゃないかと。
グループでデビューするはずだったのにいきなりソロデビューしている、みたいな。
この、過去のシリーズを有耶無耶で終わらせる所業、どうにか悔い改めてほしい。
「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。
下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)
基準としての菅野和夫先生の体系書だと、1227頁。
菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)
それと比べれば本書は588頁と、一見薄い(?)ように思えます。
が、いわゆる「雇用関係法」に記述を絞っているからそうなっているだけです。
内容は非常に濃い目。
重要論点はフォントを落としているので、かなりぎっしり。
○
今どきの教科書のようにガチャつかず、極めてオーソドックスな構成。
図表の類は一切ありません。
もう少しわかり易さを求めるならば、水町勇一郎先生の教科書がいいと思います。
事例に基づいた具体的な記述が多めですので。
水町勇一郎「労働法 第8版」(有斐閣2020)
○
本書は労働法の知識が一通りある人が、最近の法改正・判例を体系的におさらいし直す、という使い方がいいと思います。
中には就業規則の法的性質論とか、かなり突っ込んで記述されているものもあって、読み応えはしっかり。
いわゆる「働き方改革」関連の法制にも触れられています。
が、おそらく改訂作業終盤でねじ込んだと思われ、いまいち体系に溶け込んでいないような。
次回の改訂に期待(さていつになるでしょう)。
○
本書にかぎらず、労働法の教科書を読んでいて思うところ。
たとえば、労働時間の法規制とか、言葉だけで理解しようと思っても無理がありますよね。
図表や具体例をあれこれあげてもらわないと、初見で理解するのは大変。
ので、図表が豊富な「わかりやすい」系の実務書を併用するのが望ましい。
いっそのこと、誰が書いても同じになる制度の説明は、文字通りの「基本書」として出版しといてほしい。
「日常系労務」ということで。
これと同じようなことは、民事訴訟法の教科書についての記事でも書きました。
新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019) 〜付・民事訴訟法と税理士
もちろん、図表だけでの理解にとどめず、きちんと条文でどのように表現されているかを確認することは必要です。
大垣尚司先生の会社法の教科書では、制度の解説を大胆に削って図表で代替されています。
が、これもちゃんと条文と照らし合わせてね、という前提があってのことでしょう。
大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)
○
しかし、この「有斐閣法学叢書」とかいうシリーズ、現役で出版されているのはもはや本書しかないんじゃないですか。
私が知っているかぎりでいうと、下記の「名著」はしれっとシリーズから外れていますし。
龍田節・前田雅弘「会社法大要 第2版」 (有斐閣2017)
中森喜彦「刑法各論 第4版」(有斐閣2015)
名前の紛らわしい「有斐閣法律学叢書」というシリーズなんて、2冊出たっきり。
大村敦志「家族法 第3版」(有斐閣2010)
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)
邪推するに、デビュー前のサイレント脱退があったんじゃないかと。
グループでデビューするはずだったのにいきなりソロデビューしている、みたいな。
この、過去のシリーズを有耶無耶で終わらせる所業、どうにか悔い改めてほしい。
「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。
posted by ウロ at 11:57| Comment(0)
| 労働法
2020年07月13日
井上康一・仲谷栄一郎「租税条約と国内税法の交錯 第2版」(商事法務2011)
商事法務の税務ものって、意外と少ない気がします。
まあ社名に法務ってあるんだから、税務がそれほどでも、意外でも何でもないのかもしれませんが。
井上康一・仲谷栄一郎「租税条約と国内税法の交錯 第2版」(商事法務2011)
本書は「国際租税法」の中でも、国内税法と租税条約の絡み具合に絞って徹底的な分析をしたもの。
○
ちなみに、私の中では書籍のジャンルとしての「国際課税、国際税務」と「国際租税法」とは便宜的に使い分けています。
一般的な使い分けではありませんが、次のとおり大きく二方向に分かれること自体はイメージいただけるかと。
・国際課税、国際税務(実務書)
とにかくそういう制度になっている、ということばかりが書いてあるもの。
法令・通達・国税庁のサイトに書かれていること以外には踏み出さない。
書かれていること以外にはさっぱり応用が効かない。
・国際租税法(理論書)
法解釈論が展開されているもの。
なぜなに、といった理由づけがしっかり書かれている。
なので書かれていない論点にも応用が効く。
あくまでも、書籍のタイトルではなく中身を読んでの判断です。
後者(理論書)の代表が本書であり、あるいは増井先生・宮崎先生の下記教科書。
制度の説明に終止しがちなところ、きっちり理論を展開しています。
増井良啓・宮崎裕子「国際租税法 第4版」(東京大学出版会2019)
両書とも、実務でも応用可能な理論書、という評価ができるかと思います。
前者(実務書)については名指しはしませんが、読んでいて「無味乾燥でつまんねー」と感じたら前者だと思っていいのではないでしょうか。
○
本書は残念ながら、改訂が2011年の第2版で止まってしまっています。
総合主義⇒帰属主義への改正が反映されていないなど、ちょっとつらい。
が、上記の通り応用が効く理論書なので、「国際課税」な実務書とは違っておよそ使い物にならねえ、ということにはなりません。
そもそもこの領域、あれやこれやの租税条約に応用して当てはめていく必要があります。
書籍で全ての租税条約を網羅しているはずもなく。だいたいネタになる租税条約の規定は、お馴染みのメンツばかりです。
国内税法 ←租税条約(いろいろ)
それが今度は国内税法のほうがかわりました、ということなので、応用の延長線上の話です(共時的な応用が通時的な応用へ)。
国内税法(旧法⇒新法) ←租税条約(いろいろ)
しかも、本書の場合、国内税法⇔租税条約の関係をメインに論じたものなので、個別の規定に改正が入ったとしても、そこまで露骨に影響を受けたりしない。
これが「実務書」だと、制度が変わった時点でその記述はまるごと参考にならなくなる、という事態に陥ります。
まあ、さすがにちょっと古いかなあ、とは思いますが。
そうはいっても、このレベルの類書がないので代替がきかない。
○
以前の記事における私の問題関心の中心は、税法における著作権の「準拠法」はどのように決まるかという点にありました。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)
本書には、「準拠法選択」という観点が意識された分析はありませんでしたが、その手前までは書かれていたので敷衍してみます。
なお、本書では「日本法人が韓国法人に韓国での特許権の譲渡対価を支払った」という事例で検討されていますが、下記事例に引きつけて論じます(という応用ができるのが、本書の優れたる所以)。
《事例》
日本法人A社が甲国法人B社(日本にPEなし)に対し、B社の著作権を甲国内で利用するための利用料を支払った(日本・甲国租税条約の使用料条項は債務者主義)。
所得税法 第百六十一条(国内源泉所得)
この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
十一 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの
ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
161−35(使用料の意義)
法第161条第1項第11号ロの著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号((定義))に規定する著作物をいう。以下この項において同じ。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれることに留意する。
まずは一般的な実務書の記述。
【普通の実務書】
・国内税法 税率20.42%
しかし使用地主義なので課税なし
・租税条約 税率10%
債務者主義なので課税あり
・国内税法 租税条約で源泉地が置き換わるので課税あり
とにかくこうなる、という結論だけが書かれていると。
対して本書では、この結論に至る根拠が詳細に分析されています。
【本書による目地埋め】
・国内税法における所得の定義自体は、租税条約による変更は受けない。
・源泉地の置き換えは租税条約の「使用料条項」の働きによる。
このことは下記の第一文で確認されている(確認的規定)。
・租税条約上の使用料が国内源泉所得となっても、自動的に11号所得になるわけではない。
下記第二文により、使用料条項に対応する11号所得に決定される(創設的規定)。
所得税法 第百六十二条
(第一文)
租税条約(第二条第一項第八号の四ただし書(定義)に規定する条約をいう。以下この条において同じ。)において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる。
(第二文)
この場合において、その租税条約が同条第一項第六号から第十六号までの規定に代わつて国内源泉所得を定めているときは、この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その租税条約により国内源泉所得とされたものをもつてこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす。
(以下、それぞれ「第一文」「第二文」といいます。)
所得税法162条の、特に第二文に重要な役割をもたせる、というのが特徴的ですね。
なお、第一文について、本書では租税条約の置き換えを確認しただけ(確認的規定)という理解を示されています。
が、租税条約段階では「課税できる」とされるだけで「課税すべき」とはなっていません。
私としては、この第一文が「租税条約にしたがって課税しますね」と宣言しているように読めるのですが(創設的規定)、まあ大した話ではないですかね。
租税条約: 債務者所在地で課税してもいいよ。
第一文: 債務者所在地で課税するよ。
ここまではなるほどそうなんですね、というところですが、私の最大の関心事である著作権の準拠法がどう決まるかがはっきりしません。
本書の記述によると、国内税法上は日本の著作権法を前提としている、租税条約で源泉地が置き換えられることで甲国の著作権法が取り込まれる、と考えているように読めます。
が、租税条約には源泉地の置き換えのことしか書かれていないのであって、著作権の準拠法については特に何も書かれていません(もちろん全租税条約をチェックしたわけではないですが)。
使用地が日本か甲国のいずれかならまだしも、第三国の場合にはどうなるのか。
この点、私見では、国内税法上の著作権も租税条約上の著作権も、日本の通則法上の「条理」にしたがって使用地の著作権法が準拠法となる、と考えることは以前の記事通り(法適用通則法説。以下、条理なので明文はないものの、便宜的に「通則法によれば」などと表現します)。
同説によれば、11号ロにいう著作権には、通則法により外国の著作権が含まれることになります。
日本の著作権が外国の著作権に「置き換わる」わけではありません。
・外国法置換説
11号ロの著作権 ⇒ 日本の著作権 ⇒(置換)外国の著作権
・法適用通則法説
11号ロの著作権 ⇒ 使用地国の著作権
結局取り込まれるんだから同じじゃねえか、と思うかもしれませんが、この後に述べる「取込み方」に違いがでてくる可能性があります。
なお、租税条約に関しては、次のような条項があるのが通常です。
「一方の国においてこの条約を適用する場合には、この条約において特に定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約が適用される租税に関するその国の法令上有する意義を有するものとする。」
準拠法選択について租税条約が何も述べていない以上、租税条約上の著作権は国内税法の著作権と同義に解することになると。
本書の分析に、「準拠法選択」という視点を加えた場合の《事例》のあてはめは次のとおり(制限税率は考慮外)。
・国内税法
「著作権」は使用地である甲国の著作権(条理)。
「国内において」とあるので国外源泉所得となる。
・租税条約
「著作権」は使用地である甲国の著作権(条理)。
A社の所在地でも課税できるとあるので国内源泉所得となる。
・国内税法 第一文(確認的規定?)
租税条約による源泉地の置き換えを容認。
・国内税法 第二文(創設的規定)
租税条約の「著作権」は11号の「著作権」に対応するので11号所得となる。
○
さて、使用地国の著作権法により判断するとして、具体的に外国著作権法の何がどのように国内税法に取り込まれるのでしょうか。
第二文でいうところの「対応」というのをどう考えるかです。
たとえば、日本の著作権が支分権aとbからなるとして、使用地国の著作権法が次のような場合はどう判断されるか。
A 支分権がa、cの場合
B 支分権がc、dの場合
C 著作権があらゆる使用行為に及ぶとされている場合
D 著作権が「著作者が利用できる権利」として構成されている場合
E 出版権にも著作隣接権にも該当しない権利が規定されている場合
F 著作者人格権が著作権に含まれて規定されている場合
G 独自の権利制限規定が設けられている場合
外国著作権法を11号ロにどのように代入するか、ということです。
11号ロ 「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)」
○
「法適用通則法説」によれば、それぞれの権利を使用地国の著作権法で判断することになります。
・著作権 ⇒使用地国の著作権
・出版権 ⇒使用地国の出版権
・著作隣接権 ⇒使用地国の著作隣接権
・その他これに準ずるもの ⇒使用地国のその他これに準ずるもの
A〜Dは、外国著作権法上「著作権」として扱われているのであれば、すべて著作権に含まれることになるのでしょう。
Eも外国著作権法上「出版権」「著作隣接権」として扱われているのであれば、やはり該当するとの判断になるのでしょう。
ただし、厄介なのが「その他これに準ずるもの」です。
日本の著作権法上もこれが何なのかよく分からないのに、外国の著作権法でこれが何にあたるのかを特定するの難しそう。が、これは国内税法の定め方の問題。
Fも、外国著作権法で著作権として扱われている以上、該当することになるのでしょう。
Gは、準拠法が日本の著作権法でも問題となることであって、外国著作権法特有の問題ではありません。
権利制限規定が適用されるにもかかわらず使用料を支払った場合に、「著作権の使用料」となるか。
私は該当しないと思うのですが、どうでしょうか。
このように、それぞれの権利の内容はあくまでも外国の著作権法によって判断すべきことであって、日本の著作権法にあわせて改変すべきでないと。
で、もしもこれら結論がおかしい場合は通則法上の「公序」で排除することになるのでしょう。そして、排除後にどうするかは国際私法学で論じられているところに倣うと。
法適用通則法 第四十二条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
○
これに対して「外国法置換説」によれば、何らかの形で日本の著作権法も考慮に入れることが考えられます。
外国の著作権を日本の著作権で絞りをかける場合のあてはめは、次のようになると思われます。
A すべて一致を要する or 当該事案で一致(a)していればよい?
B 完全不一致なので非該当?
C 日本の著作権法に対応する利用があれば該当?
D 日本の著作権法に対応する利用があれば該当?
E 国内法に列挙されていないので非該当?
F 国内法に列挙されていないので非該当?
G 日本の著作権法に規定されていないので考慮外?
このように判断がややこしくなるのはさておき、日本の著作権法によって外国法の取込みを制限するの、租税条約どおりに課税すると定めた第一文に反していると思います。
第二文にしても、課税される前提で何号所得に該当するかの帰属を決定しているだけで、課税されないという結論は導けないはずです。
そうすると、外国法置換説によったとしても、日本の著作権法による絞りはかけずに、外国の著作権法がそのまま適用されると解すべきなんでしょう。
そうだとして、11号ロの「著作権+出版権+著作隣接権+その他これに準ずるもの」という枠組みを維持した上でそれぞれの権利に上書きをするのか、それとも、完全に外国の著作権法に取って代わるのか、そのあたりはどう判断することになるのか。
また、法適用通則法説における「公序則」のようなセーフガード条項無しに無条件で取り込むの、大丈夫なんだろうかとやや心配になる。
排除するにしても、何らの道具立てもないわけで。
ということで、外国法の取込みに関しては信頼と実績のある「法適用通則法」さんを頼りにする、というのが当ブログの推し取込み。
まあ社名に法務ってあるんだから、税務がそれほどでも、意外でも何でもないのかもしれませんが。
井上康一・仲谷栄一郎「租税条約と国内税法の交錯 第2版」(商事法務2011)
本書は「国際租税法」の中でも、国内税法と租税条約の絡み具合に絞って徹底的な分析をしたもの。
○
ちなみに、私の中では書籍のジャンルとしての「国際課税、国際税務」と「国際租税法」とは便宜的に使い分けています。
一般的な使い分けではありませんが、次のとおり大きく二方向に分かれること自体はイメージいただけるかと。
・国際課税、国際税務(実務書)
とにかくそういう制度になっている、ということばかりが書いてあるもの。
法令・通達・国税庁のサイトに書かれていること以外には踏み出さない。
書かれていること以外にはさっぱり応用が効かない。
・国際租税法(理論書)
法解釈論が展開されているもの。
なぜなに、といった理由づけがしっかり書かれている。
なので書かれていない論点にも応用が効く。
あくまでも、書籍のタイトルではなく中身を読んでの判断です。
後者(理論書)の代表が本書であり、あるいは増井先生・宮崎先生の下記教科書。
制度の説明に終止しがちなところ、きっちり理論を展開しています。
増井良啓・宮崎裕子「国際租税法 第4版」(東京大学出版会2019)
両書とも、実務でも応用可能な理論書、という評価ができるかと思います。
前者(実務書)については名指しはしませんが、読んでいて「無味乾燥でつまんねー」と感じたら前者だと思っていいのではないでしょうか。
○
本書は残念ながら、改訂が2011年の第2版で止まってしまっています。
総合主義⇒帰属主義への改正が反映されていないなど、ちょっとつらい。
が、上記の通り応用が効く理論書なので、「国際課税」な実務書とは違っておよそ使い物にならねえ、ということにはなりません。
そもそもこの領域、あれやこれやの租税条約に応用して当てはめていく必要があります。
書籍で全ての租税条約を網羅しているはずもなく。だいたいネタになる租税条約の規定は、お馴染みのメンツばかりです。
国内税法 ←租税条約(いろいろ)
それが今度は国内税法のほうがかわりました、ということなので、応用の延長線上の話です(共時的な応用が通時的な応用へ)。
国内税法(旧法⇒新法) ←租税条約(いろいろ)
しかも、本書の場合、国内税法⇔租税条約の関係をメインに論じたものなので、個別の規定に改正が入ったとしても、そこまで露骨に影響を受けたりしない。
これが「実務書」だと、制度が変わった時点でその記述はまるごと参考にならなくなる、という事態に陥ります。
まあ、さすがにちょっと古いかなあ、とは思いますが。
そうはいっても、このレベルの類書がないので代替がきかない。
○
以前の記事における私の問題関心の中心は、税法における著作権の「準拠法」はどのように決まるかという点にありました。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)
本書には、「準拠法選択」という観点が意識された分析はありませんでしたが、その手前までは書かれていたので敷衍してみます。
なお、本書では「日本法人が韓国法人に韓国での特許権の譲渡対価を支払った」という事例で検討されていますが、下記事例に引きつけて論じます(という応用ができるのが、本書の優れたる所以)。
《事例》
日本法人A社が甲国法人B社(日本にPEなし)に対し、B社の著作権を甲国内で利用するための利用料を支払った(日本・甲国租税条約の使用料条項は債務者主義)。
所得税法 第百六十一条(国内源泉所得)
この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
十一 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの
ロ 著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価
161−35(使用料の意義)
法第161条第1項第11号ロの著作権の使用料とは、著作物(著作権法第2条第1項第1号((定義))に規定する著作物をいう。以下この項において同じ。)の複製、上演、演奏、放送、展示、上映、翻訳、編曲、脚色、映画化その他著作物の利用又は出版権の設定につき支払を受ける対価の一切をいうのであるから、これらの使用料には、契約を締結するに当たって支払を受けるいわゆる頭金、権利金等のほか、これらのものを提供し、又は伝授するために要する費用に充てるものとして支払を受けるものも含まれることに留意する。
まずは一般的な実務書の記述。
【普通の実務書】
・国内税法 税率20.42%
しかし使用地主義なので課税なし
・租税条約 税率10%
債務者主義なので課税あり
・国内税法 租税条約で源泉地が置き換わるので課税あり
とにかくこうなる、という結論だけが書かれていると。
対して本書では、この結論に至る根拠が詳細に分析されています。
【本書による目地埋め】
・国内税法における所得の定義自体は、租税条約による変更は受けない。
・源泉地の置き換えは租税条約の「使用料条項」の働きによる。
このことは下記の第一文で確認されている(確認的規定)。
・租税条約上の使用料が国内源泉所得となっても、自動的に11号所得になるわけではない。
下記第二文により、使用料条項に対応する11号所得に決定される(創設的規定)。
所得税法 第百六十二条
(第一文)
租税条約(第二条第一項第八号の四ただし書(定義)に規定する条約をいう。以下この条において同じ。)において国内源泉所得につき前条の規定と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、同条の規定にかかわらず、国内源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる。
(第二文)
この場合において、その租税条約が同条第一項第六号から第十六号までの規定に代わつて国内源泉所得を定めているときは、この法律中これらの号に規定する事項に関する部分の適用については、その租税条約により国内源泉所得とされたものをもつてこれに対応するこれらの号に掲げる国内源泉所得とみなす。
(以下、それぞれ「第一文」「第二文」といいます。)
所得税法162条の、特に第二文に重要な役割をもたせる、というのが特徴的ですね。
なお、第一文について、本書では租税条約の置き換えを確認しただけ(確認的規定)という理解を示されています。
が、租税条約段階では「課税できる」とされるだけで「課税すべき」とはなっていません。
私としては、この第一文が「租税条約にしたがって課税しますね」と宣言しているように読めるのですが(創設的規定)、まあ大した話ではないですかね。
租税条約: 債務者所在地で課税してもいいよ。
第一文: 債務者所在地で課税するよ。
ここまではなるほどそうなんですね、というところですが、私の最大の関心事である著作権の準拠法がどう決まるかがはっきりしません。
本書の記述によると、国内税法上は日本の著作権法を前提としている、租税条約で源泉地が置き換えられることで甲国の著作権法が取り込まれる、と考えているように読めます。
が、租税条約には源泉地の置き換えのことしか書かれていないのであって、著作権の準拠法については特に何も書かれていません(もちろん全租税条約をチェックしたわけではないですが)。
使用地が日本か甲国のいずれかならまだしも、第三国の場合にはどうなるのか。
この点、私見では、国内税法上の著作権も租税条約上の著作権も、日本の通則法上の「条理」にしたがって使用地の著作権法が準拠法となる、と考えることは以前の記事通り(法適用通則法説。以下、条理なので明文はないものの、便宜的に「通則法によれば」などと表現します)。
同説によれば、11号ロにいう著作権には、通則法により外国の著作権が含まれることになります。
日本の著作権が外国の著作権に「置き換わる」わけではありません。
・外国法置換説
11号ロの著作権 ⇒ 日本の著作権 ⇒(置換)外国の著作権
・法適用通則法説
11号ロの著作権 ⇒ 使用地国の著作権
結局取り込まれるんだから同じじゃねえか、と思うかもしれませんが、この後に述べる「取込み方」に違いがでてくる可能性があります。
なお、租税条約に関しては、次のような条項があるのが通常です。
「一方の国においてこの条約を適用する場合には、この条約において特に定義されていない用語は、文脈により別に解釈すべき場合を除くほか、この条約が適用される租税に関するその国の法令上有する意義を有するものとする。」
準拠法選択について租税条約が何も述べていない以上、租税条約上の著作権は国内税法の著作権と同義に解することになると。
本書の分析に、「準拠法選択」という視点を加えた場合の《事例》のあてはめは次のとおり(制限税率は考慮外)。
・国内税法
「著作権」は使用地である甲国の著作権(条理)。
「国内において」とあるので国外源泉所得となる。
・租税条約
「著作権」は使用地である甲国の著作権(条理)。
A社の所在地でも課税できるとあるので国内源泉所得となる。
・国内税法 第一文(確認的規定?)
租税条約による源泉地の置き換えを容認。
・国内税法 第二文(創設的規定)
租税条約の「著作権」は11号の「著作権」に対応するので11号所得となる。
○
さて、使用地国の著作権法により判断するとして、具体的に外国著作権法の何がどのように国内税法に取り込まれるのでしょうか。
第二文でいうところの「対応」というのをどう考えるかです。
たとえば、日本の著作権が支分権aとbからなるとして、使用地国の著作権法が次のような場合はどう判断されるか。
A 支分権がa、cの場合
B 支分権がc、dの場合
C 著作権があらゆる使用行為に及ぶとされている場合
D 著作権が「著作者が利用できる権利」として構成されている場合
E 出版権にも著作隣接権にも該当しない権利が規定されている場合
F 著作者人格権が著作権に含まれて規定されている場合
G 独自の権利制限規定が設けられている場合
外国著作権法を11号ロにどのように代入するか、ということです。
11号ロ 「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)」
○
「法適用通則法説」によれば、それぞれの権利を使用地国の著作権法で判断することになります。
・著作権 ⇒使用地国の著作権
・出版権 ⇒使用地国の出版権
・著作隣接権 ⇒使用地国の著作隣接権
・その他これに準ずるもの ⇒使用地国のその他これに準ずるもの
A〜Dは、外国著作権法上「著作権」として扱われているのであれば、すべて著作権に含まれることになるのでしょう。
Eも外国著作権法上「出版権」「著作隣接権」として扱われているのであれば、やはり該当するとの判断になるのでしょう。
ただし、厄介なのが「その他これに準ずるもの」です。
日本の著作権法上もこれが何なのかよく分からないのに、外国の著作権法でこれが何にあたるのかを特定するの難しそう。が、これは国内税法の定め方の問題。
Fも、外国著作権法で著作権として扱われている以上、該当することになるのでしょう。
Gは、準拠法が日本の著作権法でも問題となることであって、外国著作権法特有の問題ではありません。
権利制限規定が適用されるにもかかわらず使用料を支払った場合に、「著作権の使用料」となるか。
私は該当しないと思うのですが、どうでしょうか。
このように、それぞれの権利の内容はあくまでも外国の著作権法によって判断すべきことであって、日本の著作権法にあわせて改変すべきでないと。
で、もしもこれら結論がおかしい場合は通則法上の「公序」で排除することになるのでしょう。そして、排除後にどうするかは国際私法学で論じられているところに倣うと。
法適用通則法 第四十二条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
○
これに対して「外国法置換説」によれば、何らかの形で日本の著作権法も考慮に入れることが考えられます。
外国の著作権を日本の著作権で絞りをかける場合のあてはめは、次のようになると思われます。
A すべて一致を要する or 当該事案で一致(a)していればよい?
B 完全不一致なので非該当?
C 日本の著作権法に対応する利用があれば該当?
D 日本の著作権法に対応する利用があれば該当?
E 国内法に列挙されていないので非該当?
F 国内法に列挙されていないので非該当?
G 日本の著作権法に規定されていないので考慮外?
このように判断がややこしくなるのはさておき、日本の著作権法によって外国法の取込みを制限するの、租税条約どおりに課税すると定めた第一文に反していると思います。
第二文にしても、課税される前提で何号所得に該当するかの帰属を決定しているだけで、課税されないという結論は導けないはずです。
そうすると、外国法置換説によったとしても、日本の著作権法による絞りはかけずに、外国の著作権法がそのまま適用されると解すべきなんでしょう。
そうだとして、11号ロの「著作権+出版権+著作隣接権+その他これに準ずるもの」という枠組みを維持した上でそれぞれの権利に上書きをするのか、それとも、完全に外国の著作権法に取って代わるのか、そのあたりはどう判断することになるのか。
また、法適用通則法説における「公序則」のようなセーフガード条項無しに無条件で取り込むの、大丈夫なんだろうかとやや心配になる。
排除するにしても、何らの道具立てもないわけで。
ということで、外国法の取込みに関しては信頼と実績のある「法適用通則法」さんを頼りにする、というのが当ブログの推し取込み。
posted by ウロ at 10:56| Comment(0)
| 国際租税法
2020年07月06日
大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)
会社法どこから入るか問題、私の中ではいまだに定説がありません。
大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)
一応、おすすめ教科書の記事を書いたこともありますが、これは、税理士のように実務経験が一定程度ある前提で書いています。
高橋美加ほか「会社法(第2版)」 (弘文堂2018) 〜付・税理士と会社法の教科書
完全なるガチの初学者にとっての正解、というのはあるんだろうかと。
○
本書はガチの初学者にすすめるには、あまりにも分量がありすぎ(752頁)。
ではあるんですが、一通り読んでみて、確かに会社法を理解するには、会社法それ自体のみならず周辺の法領域や金融絡みの知識が必要だよなあと実感。
変に遠回りするよりも、この本を読み通したほうが、その後の会社法学習が捗りそう。
企業の発展に即した設例が随所に織り込まれていたりして、かなりイメージがしやすいですし。
○
タイトルに「金融から学ぶ」とあって、確かにファイナンス方面の記述も豊富。
学生さんにはイメージしにくい資金調達のところとか、会社法に書かれた制度を並べただけの記述とはひと味(以上)違うので、だいぶ理解しやすいのではないかと。
それにとどまらず、会社法以外の関連法領域やら経営絡みの記述やらも盛り込まれています。
通常「○○から学ぶ」といったタイトルをつけるのって、広大な会社法をそのまま学ぶのではなく、視線を限定することで効率よく勉強するためだと思うんです。
が、逆に「金融」以外にまで広げちゃっている。
「いい意味で」看板に偽りあり。いい意味で(念のためリフレイン)。
どうしてもタイトルに「金融」を入れたいというなら、「金融から(も)学ぶ」といったほうが、実際の中身に即している気がしますけども。
普通の教科書的な、論点に関する学説の対立みたいなものは少なめなので、一応削れるところは削ってはいます。
に、してもボリューミー。
が、実際に会社法を理解しようと思ったら、これだけの周辺知識もいるってことですからね。
○
図やら表も豊富です。仕訳で説明している箇所もあったり。
親切設計ではありますが、制度を整理した表については、ちゃんと自分で条文引きながらその表の内容を理解すべきでしょうね。
○
いくつか「税制」についても触れられている箇所がありますが、やや気になる記述が。
147頁 役員報酬の税法上の取扱い
役員報酬は、会社法上は職務執行の対価として会社にとって費用となる。会計上も基本的には同じである。しかし、税法上は設問のような濫用を避けるために、取締役報酬は剰余金配当と同様、原則として損金算入が認められない。ただし、あらかじめ税務署に届け出て一定額あるいは当期利益をもとに一定の算式に従って客観的に計算される金額を支払う場合は従業員の給与と同じように損金に算入することができる。
会社法、会計、税法と、ちゃんと区別して書かれているのはいいですよね。
が、「剰余金配当と同様」という説明の仕方に「う〜ん」となる。
結論としてはどちらも損金不算入なのはそのとおりです。
が、そうなるルートが違う。
法人税法第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
法人税法第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
役員報酬が損金不算入となるのは、法人税法22条3項2号に入りそうなところ、同項柱書の「別段の定め」からの同法34条1項ルートによるもの。
他方で、剰余金配当が損金不算入となるのは、同法22条3項3号で「資本等取引」が除外されていることによるものです。
にもかかわらず、単純に「同様」と並べられてしまうのは、どうにも違和感あり。
この違和感、おそらくですけど、単なる条文の書き分けだけからではなく、そこに、かつての「利益処分」概念を彷彿とさせるからかもしれません。
役員賞与も利益配当も、課税済所得からの支出だから損金にならない、とかいう。
今となっては役員報酬と剰余金配当は全く別の概念なんだから、安易に並べないほうがよいのではないかと。
あえて損金不算入でグループ化するならば、交際費とか寄付金とかのグループだと思う。
また、「ただし」以下では、例外として損金算入できる役員報酬のことが書かれています。
このうち「一定額」のほうは「事前確定届出給与」ことだと分かります。
が、「当期利益〜」のほうは「業績連動給与」のことなんでしょうか。
「税務署に届け出て」が掛かっちゃっているようにも読めるのですが。
そもそも、肝心の「定期同額給与」のことが書かれていないのはなぜなのか。
賞与的なものを念頭においた記述なのかなあとも思ったのですが、「従業員の給与」と書かれているので、そういうつもりでもなさそうですし。
【定期同額給与とは】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
○
こういう気になる記述があるものの、ここまで多方面に豊富な内容を盛り込んだ類書はないんじゃないですかね。
ので、頑張って本書を一通り読んで全般的な知識を身に着けてから、それぞれの分野を深堀りしていくのがよさそう。
そういう意味では、文字通りの「金融(だけ)から学ぶ会社法」とか「税法(だけ)から学ぶ会社法」のように、本当に視線を限定した書籍の出版が望まれる。
たとえばこの本が「税法から学ぶ会社法」に相当しますかね。
東京弁護士会 「新訂第七版 法律家のための税法[会社法編]」 (第一法規2017)
○
大垣先生の教科書、以下のものもありますが、特に民法のほうは2017年改正が反映されていないので、素直に改訂をまったほうがいいかもしれません。
そういう意味では会社法のほうも改正前ではありますが、非公開会社(≒同族会社)にとっては大勢に影響はないかなあと。
大垣尚司「金融から学ぶ民事法入門 第二版」(勁草書房2013)
大垣尚司「金融と法 企業ファイナンス入門」(有斐閣2010)
大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)
一応、おすすめ教科書の記事を書いたこともありますが、これは、税理士のように実務経験が一定程度ある前提で書いています。
高橋美加ほか「会社法(第2版)」 (弘文堂2018) 〜付・税理士と会社法の教科書
完全なるガチの初学者にとっての正解、というのはあるんだろうかと。
○
本書はガチの初学者にすすめるには、あまりにも分量がありすぎ(752頁)。
ではあるんですが、一通り読んでみて、確かに会社法を理解するには、会社法それ自体のみならず周辺の法領域や金融絡みの知識が必要だよなあと実感。
変に遠回りするよりも、この本を読み通したほうが、その後の会社法学習が捗りそう。
企業の発展に即した設例が随所に織り込まれていたりして、かなりイメージがしやすいですし。
○
タイトルに「金融から学ぶ」とあって、確かにファイナンス方面の記述も豊富。
学生さんにはイメージしにくい資金調達のところとか、会社法に書かれた制度を並べただけの記述とはひと味(以上)違うので、だいぶ理解しやすいのではないかと。
それにとどまらず、会社法以外の関連法領域やら経営絡みの記述やらも盛り込まれています。
通常「○○から学ぶ」といったタイトルをつけるのって、広大な会社法をそのまま学ぶのではなく、視線を限定することで効率よく勉強するためだと思うんです。
が、逆に「金融」以外にまで広げちゃっている。
「いい意味で」看板に偽りあり。いい意味で(念のためリフレイン)。
どうしてもタイトルに「金融」を入れたいというなら、「金融から(も)学ぶ」といったほうが、実際の中身に即している気がしますけども。
普通の教科書的な、論点に関する学説の対立みたいなものは少なめなので、一応削れるところは削ってはいます。
に、してもボリューミー。
が、実際に会社法を理解しようと思ったら、これだけの周辺知識もいるってことですからね。
○
図やら表も豊富です。仕訳で説明している箇所もあったり。
親切設計ではありますが、制度を整理した表については、ちゃんと自分で条文引きながらその表の内容を理解すべきでしょうね。
○
いくつか「税制」についても触れられている箇所がありますが、やや気になる記述が。
147頁 役員報酬の税法上の取扱い
役員報酬は、会社法上は職務執行の対価として会社にとって費用となる。会計上も基本的には同じである。しかし、税法上は設問のような濫用を避けるために、取締役報酬は剰余金配当と同様、原則として損金算入が認められない。ただし、あらかじめ税務署に届け出て一定額あるいは当期利益をもとに一定の算式に従って客観的に計算される金額を支払う場合は従業員の給与と同じように損金に算入することができる。
会社法、会計、税法と、ちゃんと区別して書かれているのはいいですよね。
が、「剰余金配当と同様」という説明の仕方に「う〜ん」となる。
結論としてはどちらも損金不算入なのはそのとおりです。
が、そうなるルートが違う。
法人税法第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
法人税法第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
役員報酬が損金不算入となるのは、法人税法22条3項2号に入りそうなところ、同項柱書の「別段の定め」からの同法34条1項ルートによるもの。
他方で、剰余金配当が損金不算入となるのは、同法22条3項3号で「資本等取引」が除外されていることによるものです。
にもかかわらず、単純に「同様」と並べられてしまうのは、どうにも違和感あり。
この違和感、おそらくですけど、単なる条文の書き分けだけからではなく、そこに、かつての「利益処分」概念を彷彿とさせるからかもしれません。
役員賞与も利益配当も、課税済所得からの支出だから損金にならない、とかいう。
今となっては役員報酬と剰余金配当は全く別の概念なんだから、安易に並べないほうがよいのではないかと。
あえて損金不算入でグループ化するならば、交際費とか寄付金とかのグループだと思う。
また、「ただし」以下では、例外として損金算入できる役員報酬のことが書かれています。
このうち「一定額」のほうは「事前確定届出給与」ことだと分かります。
が、「当期利益〜」のほうは「業績連動給与」のことなんでしょうか。
「税務署に届け出て」が掛かっちゃっているようにも読めるのですが。
そもそも、肝心の「定期同額給与」のことが書かれていないのはなぜなのか。
賞与的なものを念頭においた記述なのかなあとも思ったのですが、「従業員の給与」と書かれているので、そういうつもりでもなさそうですし。
【定期同額給与とは】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
○
こういう気になる記述があるものの、ここまで多方面に豊富な内容を盛り込んだ類書はないんじゃないですかね。
ので、頑張って本書を一通り読んで全般的な知識を身に着けてから、それぞれの分野を深堀りしていくのがよさそう。
そういう意味では、文字通りの「金融(だけ)から学ぶ会社法」とか「税法(だけ)から学ぶ会社法」のように、本当に視線を限定した書籍の出版が望まれる。
たとえばこの本が「税法から学ぶ会社法」に相当しますかね。
東京弁護士会 「新訂第七版 法律家のための税法[会社法編]」 (第一法規2017)
○
大垣先生の教科書、以下のものもありますが、特に民法のほうは2017年改正が反映されていないので、素直に改訂をまったほうがいいかもしれません。
そういう意味では会社法のほうも改正前ではありますが、非公開会社(≒同族会社)にとっては大勢に影響はないかなあと。
大垣尚司「金融から学ぶ民事法入門 第二版」(勁草書房2013)
大垣尚司「金融と法 企業ファイナンス入門」(有斐閣2010)
posted by ウロ at 11:24| Comment(0)
| 会社法・商法