2020年08月03日

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民1)

 先日書いた記事。

「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)

 予告通り、突っ込みながらのアクティブ・ラーニングを実践していきます。
 なお、格好つけてタイトルに【実践編】とか謳っていますけども、さしあたり【理論編】は構想にありません。ひたすら実践。

 また「実税民」は本書の略語。他著でもやるかもしれませんので、念のため。


1 人(胎児・外国人)

 胎児の記述が相続法のところの記述とダダカブり。
 そして、外国人の税務については一切触れられていないという。

 他所でもそうなんですが、項目を、機械的に民法の編別どおりに細分化したことの弊害のひとつ。
 構成に、特になんの工夫もなく。

 「人と税務」というくくりであれば、能力とか代理とか法人とかをまとめて扱ったほうがいいと思うんですけど、とにかくバラバラかつ中途半端な記述が散開されている。


2 権利能力・意思能力・行為能力

 「〜納税申告書も作成したという事件がありました。そしてその確定申告書にかかる〜」

 用語を統一せえ。


 「契約の成立について不完全であっても、その契約にもとづいた経済的効果について、有効な納税申告書の提出などにより、租税債務は有効に成立します。」

 成立要件と効力要件とは別物、というのが一般的な理解であって、ここでいう「契約の成立について不完全」というのが何を指しているのか不明。

 また「経済的効果について」というのも意味不明。
 「経済的効果が生じていれば」の意か。


3 住所・居所

Question「どのような点に注意すべきでしょうか」

と書いてあるのに、何が注意すべき点なのかが明示されていない。
 海外移住で注意すべき課税関係を聞かれて「住所」の意義だけ答えたら、「で?」と反応されるでしょうよ。
 広がりのある質問であるにもかかわらず、項目が極端に狭いせいでそうなる。

 法学部の1年生が、家族から法律の質問をされて「民法総則」のことしか答えられない、みたいな状況が想起される。
 
 この、問いに正面から答えない系のやつ、あまりにも多数にのぼるので以降はいちいち突っ込みません(が、あまりにヒドイのは触れざるをえないかも)。


4 不在者・失踪宣告

 なぜか「死亡退職金」の相続税ルールの記述がねじ込まれている。
 失踪宣告特有の問題でもなんでもないはずなのに。

 ていうか、失踪宣告されるような状態にある人が退職金もらえるって、どんな状況よ。
 こんな状況からでももらえる退職金があるんですか。


「失踪宣告を受けるとその時点から死亡したものとみなされるため」

「時点」というと、宣告時が死亡日とみなされるように読めてしまう。


6 権利能力なき社団

「(3)Questionに対する回答」

 珍しく、正面から問に答えている。
 このように、ちゃんとあてはめまでやっているの、本書では少数派。


8 通謀虚偽表示

「実際に、当事者によって作成された取引関係が真実のものか、虚偽表示かを判断することは困難ですので、形式どおりに扱っています(相基通9-9参照)。」

 無償取引の場合の相続税実務ルールが、あたかも所得課税にも適用されるかのような書き方。

 で、設問の「売買」を仮装した場合はどうなるのさ。
 無償で移転登記がされている、ということで贈与税が課税されるんですか。

 実質課税との相剋でみんな悩んでいるというのに、とある場面の相続税の通達ルールを出したところでなんの解決になるっていうんですか。


9 錯誤
10 無効・取消し

 財産分与の錯誤の裁判例、どっちかにしときなよ。

 また、錯誤、無効、取消、条件・期限、解除あたりは、当初の契約関係に変動があった場合としてまとめて税務上のルールを整理すべきところですが、例によって項目ごとにバラバラに取り扱われているだけ。


10 無効・取消し

 「租税訴訟は課税処分の取消しを求めるものが一般的ですが(取消訴訟中心主義)、」

 「取消訴訟中心主義」て、そういうことを意味するんですか。

 実体法レベルにおいて、私人と課税庁(国)との関係が「租税債務関係」にあって、処分されてはじめて紛争対象ができあがるから、ほとんどの争い方が取消訴訟になるってだけじゃないんですか。
 承認をもとめるといった「義務付け訴訟」とかも想定できますが、数としてはやはり課税処分の取消しが多数でしょう。

 別に、他の訴訟類型でやるべきものを、無理やり取消訴訟に翻訳させられているわけではない。

 この「取消訴訟中心主義」といわれるの、私人と行政の関係が多様化しているにもかかわらず、何でもかんでも取消訴訟に押し込めるのおかしいだろ、という文脈ででてくるものです。
 が、「租税関係」については、まだそんな議論煮詰まってないですよね。

 可能性があるとしたら、たとえば「源泉徴収」にまつわる三面関係(国×徴収者×被徴収者)とかですかね。
 現状のルールだと、「国×徴収者」(公法)と「徴収者×被徴収者」(私法)との関係が分断されているわけです。
 これを三面関係として捉えて一体として解決すべきだ、とか。

 にしても、これはあくまで実体法レベルの問題をまず解決すべきであって、その上で、じゃあどのような訴訟類型がとれるのか、という問題になるはずです。


11 代理

「一般に、申告書を代理人が提出することが認められています(税理士法2条1項1号)。」

 税務代理は税理士の独占業務なわけだが、これを「一般に」と表現するのか。
 そのことを条文で示そうと思いきや、そのものずばりの条文が参照されているのだが。

 どういうこと?

12 条件・期限

 Question「死亡したら土地をAに譲渡する」
 「被相続人が契約締結したときは相続開始前ですが、実際に土地を引き渡したのは、相続開始後になりますので、土地の譲渡所得は被相続人ではなく相続人の所得として申告することになります。」

 ここ、なんの悩みもなくサラッと結論書いてありますが、そういうことでいいんですか。

 ありうる考えとして、被相続人の準確定申告とも考えられるわけですが、そうではなく、土地を相続した上で相続人が自分の譲渡所得として申告するんですって。

 これは「相続財産」と絡む問題であって、「条件・期限」という括りで限定して扱うべきものではないです。


「所得税法では、〜となりました(所基通36-12)。」

 主語が法で、参照しているのが通達。
 筋が悪い。


「停止条件付契約の場合、課税権の除斥期間によって課税できない場合があるため、税法では遡及できません。」

 どういう場合を想定しているのかが謎。
 とりあえず贈与契約だけして寝かしとく、みたいなやつですか。でもあれは停止条件つけるわけじゃないし。

 「税法では」とか言ってますけど、民法上だって特約がないかぎり遡及はしませんよね。

 というか、「除斥期間で課税できないから遡及できない」というのは理由付けになるんですか。
 「遡及されると困る」のはわかりますが、それはそう解すべき必要性のはなし。


13 期日

 本書の中では珍しく、しっかり実務寄りな解説。


 以上、「T 総則」まで。
 まだまだ軽めですね。

(実税民2へ続く)
posted by ウロ at 12:22| Comment(0) | アクティブ・ラーニング