2021年05月31日

珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)

 法解釈フローチャート作成の途中ではありますが、条文出揃ったので例のヤツ検討しておきます。


 散々おイジりあそばせてきた「継続雇用者」概念。令和3年度改正で無事お亡くなりになりました。
 ブログネタをご提供いただきありがとうございました。

【所得拡大促進税制(令和3年度改正前)】
税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ

 ところが令和3年度改正では、性懲りもなく、新たに「国内新規雇用者」なる概念を産み出しています。
 例によって判定の仕方が怪しいので、以下検討します。

 ブログネタをご提供いただきありがとうございます。


 なお、「中小企業版」の所得拡大促進税制については、この珍奇概念は利用せずに、単純に前期→当期の雇用者給与支給額での比較になっています(要件ごとの助成金を含む・含まないの見極めは必要ですが)。

 計算の仕組みをみるかぎり、ほとんどの中小企業は中小企業版を使うことになるはずです。そうだとすると、この珍奇概念の直接的な影響を受けるのは中小企業版を受けられない法人ということになります。


 まずは、検討事項を限定します。

 「人材確保等促進税制」の要件検討にあたって、気をつけなければならないこととしては他にも、
  ・一般被保険者だけかどうか
  ・役員等の除外者に該当しないか
  ・雇用安定助成金額を控除するか
  ・0円の場合はどう判定するか
などがあります。
 が、今回はあくまでも「国内新規雇用者」の『新規』の部分のみに絞って検討を加えます。

 また、現時点では、イジりの対象になりうる『令和3年度 改正税法のすべて』がまだ出ていません。
 ので、条文のみが検討の対象となります。

 ちなみに、今回は正面から「労働基準法」を絡めた概念規定をしているので、たぶんまた変なことを書いてくれるはずです。


 今回の検討事項に関わる箇所に絞って、大胆に省略しつつ条文を列挙します(租税特別措置法、同施行令、同施行規則)。

法 第四十二条の十二の五(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
1 青色申告書を提出する法人が、平成三十年四月一日から令和五年三月三十一日までの間に開始する各事業年度において国内新規雇用者に対して給与等を支給する場合において、(略)

3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
二 国内新規雇用者
 法人の国内雇用者のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるものをいう。
五 新規雇用者給与等支給額
 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額をいう。

令 第二十七条の十二の五(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
3 法第四十二条の十二の五第三項第二号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内雇用者のうち国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿(労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿をいう。)に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日(次項において「雇用開始日」という。)から一年を経過していないもの(次に掲げる者を除く。)とする。(略)

規 第二十条の十(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
2 施行令第二十七条の十二の五第三項に規定する財務省令で定める日は、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された同項各号列記以外の部分に規定する国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日とする。


 以下では、条数を省略して、法・令・規のそれぞれ項・号で特定します。
 なお、私が財務省サイトの新旧対照表を閲覧した時点では規2の冒頭が「施行令第二十七条の十二の四の二第三項に規定する」となっていましたが、これはアレですか。一太郎濡れ衣騒動のひとつ?

 あわせて労働基準法、同施行規則も。

法 第百七条(労働者名簿)
1 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
2 前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。

規 第五十三条
1 法第百七条第一項の労働者名簿(様式第十九号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
一 性別
二 住所
三 従事する業務の種類
四 雇入の年月日
五 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)
六 死亡の年月日及びその原因



 国内新規雇用者の定義部分を並べると次のとおり。
 枝葉を落として『新規』にかかわる部分のみ抽出します。


 国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるもの

 国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日から一年を経過していないもの

 施行令3に規定する財務省令で定める日は、国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日

 これ、ちゃんと委任の枠内に納まっていますか?
 さらに削ぎ落としてみるとこうなります。

  法 勤務することとなつた日
  令 労働者名簿に氏名が記載された日
  規 労働者名簿の雇入日

 法では「実態」としての勤務開始日を要求しているのに対して、令は名簿への氏名記載日、規は同名簿の雇入日とそれぞれ別の日を指定しているように読めます。
 法と規は、同じものの実質/形式で対応しているようにもみえますが、そうすると令は何だっていうんですか。

 規の読み方として、「記載された」という文言が、
  A 氏名が記載された「国内雇用者の雇入年月日」
と、雇入年月日にかかると読むか、あるいは、
  B 氏名が記載された国内雇用者の「雇入の年月日」
と、年月日にはかからないと読むか、いずれでしょうか。
 Bであれば、法・規は同じものの実質で完全一致することになります。

 言い回しだけからすれば、Bが素直な読み方にも思えます。
 が、実質判断でよいのであれば「勤務を開始した日」と直接いえばいいのであって、わざわざ労働基準法施行規則をかます必要はあるでしょうか。


 仮に、雇入日を間違えて記載してしまった場合、実質と形式どちらで判断するのか。

 「継続雇用者」のときは、労働基準法24条2項違反な支給を認めちゃっていたくせに、労働者名簿は必ず真実に従って記載されていることを前提としているのでしょうか。
 ちなみに、違反時の法定刑はどちらも同じです(労基法120条1号)。

 たとえばですけど、実際は3/1が勤務開始日なのに、3/5に労働者名簿を作成し、そこに間違えて雇入日を3/10と記載してしまった場合、いつが起算点となるのでしょうか。

  勤務開始日 3/1
  氏名記載日 3/5
  記載雇入日 「3/10」(3/5に記載)

 法・規については、上記A読みならば3/1と3/10でズレる、B読みならば3/1で一致ということになります。
 他方で、令では3/5です。

 あるいは、雇入日は勤務開始日に正しく記載したものの、氏名の正式な漢字が分からなかったので、氏名欄だけ空欄の労働者名簿を作成しておいて、後日氏名を追記した場合はどうか。

  勤務開始日 3/1
  氏名記載日 3/15
  記載雇入日 「3/1」(3/1に記載)

 法・規はABいずれでも3/1で一致します。
 他方で、令はあくまでも「氏名」の記載日なので3/15となります。

 このような疑問はあるものの、以下ではすべて同日であるとして話をすすめます(記述は常識的にそぐう「勤務開始日」で代表させます)。


 では、勤務開始日を起算点とした1年経過の判定日はいつになるのでしょうか。

 当然に「事業年度終了日」なのかと思ったんですが、条文上ははっきりと書かれていません。
 ので、可能性としては「各支給日」(または各締日)ごとに判定することも考えられます。 

 事例で考えてみましょう。

【事例1】
 ・3月決算
 ・給与〆日末日・翌月10日支給
 ・給与は支給時に損金計上
 ・Aさん 勤務開始日 2021年3月1日
 ・適用年度 2022年3月期

 「事業年度終了日」で判定するとどうなるか。

支給日計上.png


 事業年度終了日である2022年3月31日時点では、勤務開始日から1年を経過しているため新規雇用者に該当しません。
 他方で、前年度では、2021年3月31日時点で1年未経過のため比較新規雇用者に該当します。しかし、初回支給日が2021年4月10日となるため、前年度中の比較新規雇用者給与は0円となります。
 ので、Aさんの給与は、前年度も適用年度も新規雇用者給与にカウントされません。


 なお、前年度の比較新規雇用者給与が「0円」の場合は、2%増要件満たせないと令22項に書いてあります。とすると、前期の新規給与が0円だと、適用年度になってどれだけ大量採用したとしても適用は受けられないということになってしまいます。

 『前期はコロナの影響もあって新規採用を停止していたけど、今期はどんどん採用していくぞ!』の場合に適用できないという罠。
 3月決算の会社なんてもう手遅れよ。初年度適用は諦めろということですか。

 新規採用を促進する特例じゃないんですか、これ。
 教育訓練費みたいに、0→0はダメだけど0→1はOKとなっていないんですよね(令24項)。

 この事例の場合にかぎっては、前期決算が確定する前であれば、給与の計上時期を支給日から締日に変更することで、0円不可ルールを回避することが考えられます。
 が、締日計上に変更すると前期に13ヶ月分の給与が計上されてしまうので、増加率要件を満たせなかったり、仮に満たせたとしても控除額が少なくなったりするといった問題が生じます。

 なお、中小版にも「0円不可ルール」はありますが(令23)、全体での比較なのでまだましです。
 新規じゃなくても、誰かしら支給を受けていればいいので。

 前期が役員等しかいない場合はダメですが。


 では、「支給日」ごとで判定するとどうなるか。

 この場合は、2021年4月10日から2022年2月10日までに支給を受けた給与が新規雇用者給与となります。
 とはいえ、こちらも前期支給額は無しなので、「0円不適用問題」は解消されません。

【事例2】
 【事例1】で、損金算入時期が「締日」だった場合はどうでしょうか。

締日計上.png


 「終了日判定」の場合は、当然のことながら、新規雇用者に該当するかどうかは【事例1】と同じです。前期は新規該当、当期は新規非該当になると。
 が、前期中に2021年3月分給与が締日計上されているので、同給与が比較新規雇用者給与となります。ゆえに、0円不適用問題は回避できます。
 ではありますが、Aさんは当期新規非該当なので、増加率要件を満たすには、他の人が新規で入る必要があります。「継続雇用者」と違い、同じ人である必要がないのが救いですね。


 「締日判定」の場合は、2021年3月分給与から2022年2月分給与までが1年未経過となります。
 で、2021年3月分給与が前期、2021年4月分給与〜2022年2月分給与までが当期の新規雇用者給与となります。

 結論的にはこれが素直な帰結のような気がしますが、これを条文解釈として導けるものなのかどうか。


 上記事例からすると、「終了日判定」では「とにかくご新規を増やせ」という趣旨を促進できていないですよね。Aさんが当期の新規雇用者ではなくなってしまうわけで。

 また、「支給日判定」でも、勤務開始日・締日・支給日の組み合わせによっては12ヶ月目の給与が抜けてしまうことになってしまいます。
 もちろん、前期・当期の比較に使うものなので、抜けることが必ずしも不利になるわけではありません。前期・当期とで同じルールで集計することが、比較要件では重要です(ので、前期・当期で給与の計上ルールが違う場合にそのまま集計していいのかどうか)。

 とはいえ、上記事例はやはり変です。

 ので、「締日判定」とするのがよさそうです。
 ただし、上記事例では、《初日入社・末日締日・締日計上・締日判定》と、条件をきれいに揃えていたから、単純に集計できました。
 が、これらがズレたときにどうなるか・・・、ちょっと考えるのはやめておきます。


 あとひとつだけ、「退職」した場合はどうなるか。

 「継続雇用者」のときは、24ヶ月支給が要求されていたせいで、結果としてそれら支給を受けられる期間の在籍が要求されていました。
 他方で、「新規雇用者」については、在籍要件が明記されているわけではありません。

 この点、
  終了日判定=終了日在籍
  支給日判定=支給日在籍
   締日判定=締日在籍
と、判定時点と在籍要件が連動しそうですが、必ずしもそうとは限りません。

 ここで効いてくるのが労働者名簿の「雇入年月日」。
 退職したとしても労働者名簿を廃棄しないかぎりは記載された雇入日は残っているわけです。

労働基準法 第百九条(記録の保存)
 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない


労働基準法施行規則 第五十六条
1 法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日


 ので、終了日判定の場合であっても、退職者も含めて記載された雇入日から事業年度終了日までで1年経過しているかどうかで判定する、ということも考えられます。
 また、終了日在籍を要求してしまうと、「継続雇用者」のときと同様、事業年度が終了するまで誰が集計対象者かが決まらない、という問題が生じてしまいます。

 とすると、終了日判定の場合でも、記載雇入日〜事業年度終了日で1年経過しているかを判定し在籍要件は要求しない、とするのが簡明でよさそうです。


 「支給日判定」「締日判定」の場合はイコールでもよいでしょうか。

 が、イコールだからといって問題がなくなるわけではありません。
 たとえば最後の支給日時点では退職している場合、支給日在籍を要求してしまうと、最後の給与が対象から外れてしまいます。退職日と同日に最後の給与を支給した場合にしか含められないことになってしまいます。
 これが退職ではなく、海外事業所に転勤とかでも同じことです。国内最後の給与が支給された時点では非居住者になっていた場合にどうなるのか。

 これらのことからすると、どこか後の時点で新規国内雇用者であることを判定するのではなく、勤務開始日から1年経過するまでの勤務期間の対価であれば含まれる、と考えるのがよさそうです。
 条文に、1年の起算点だけあって後ろが書いていないのは、そういう趣旨ですか?

 ただ、雇入年月日から1年とだけあって、「1年経過後の最初の締日」などではないので、厳密には「日割り」の問題がでてきます。必ずしも、入社日と締日がきれいにそろうわけではない。
 ここはさすがに、締日単位で集計することになるのかどうか。


 なお、支給額を集計する際には、国内事業所作成の「賃金台帳」に記載されているか、という枠がハメられています。
 退職・海外転勤の場合も、そのことゆえに集計対象外となるのではなく、「賃金台帳」から外れたことにより集計対象外になるということでしょう。

 ・勤務開始日から1年以内で、かつ、
 ・国内事業所作成の賃金台帳に記載されている

 ここでも「賃金台帳」という労働基準法上の道具をお借りしてしまっているわけですが、この点も気になるので一応軽く触れておきます。

法 第四十二条の十二の五 3項
九 国内雇用者 法人の使用人(略)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するものをいう。

令 第二十七条の十二の五
18 法第四十二条の十二の五第三項第九号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第百八条に規定する賃金台帳に記載された者とする。



 国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるもの

 当該法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者

 法では国内勤務を要求しているのに対して、令では国内事業所作成の賃金台帳に載っていればいいことになっています。「国内勤務者であって政令で定めるもの」ではなく、「国内勤務者として政令で定めるもの」という書き方なので、令が法を上書きすることになります。

 これが委任の範囲におさまっているのか疑問はあります。が、令を額面通りに受け取るならば、非居住者であっても国内事業所で賃金台帳を作成してさえいれば対象になるということになります。

 あくまでも「労働基準法108条に規定する」賃金台帳であって、日本の労働基準法が適用されない労働者の賃金台帳は同条の賃金台帳ではない、とでもいうのでしょうか。


 以上、疑問は残ったままですが、さしあたりはここまで。
 あくまでも、条文だけを読んだかぎりでの推測どまりです。

 特に措置法上の新規概念なんて、通常の法解釈のお作法が通用しにくいところなので、上記解釈がことごとく的外れであっても、驚きません。
 そういう限度のものとして、お読みいただければ。

 ・措置法通達
 ・『令和3年度 改正税法のすべて』
 ・経済産業省、中小企業庁のハンドブック

あたりが出揃って、なにか突っ込みどころがあれば続編を書きます。
posted by ウロ at 10:24| Comment(0) | 法人税法

2021年05月24日

フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)

 今回は【縮小系】の解釈について。

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈

縮小解釈プロセス.png

 文理解釈または定義付け解釈により導かれた命題を事案にあてはめ、結論が妥当でない場合に【縮小系】の解釈が試みられます。

 「縮小系」と表現しているのは、「拡大系」と対比するためです。
 が、「拡大系」が、拡大解釈・類推解釈・勿論解釈などいろんな広げ方があるのに対して、縮小系はなぜか「縮小解釈」だけです。「反制定法解釈」は、縮小しすぎという縮小解釈のライン上の問題にすぎません。

 これが実態としてそうなのか、それとも十分な深堀りがされていないだけのか、私にもよく分かりません。定義付け解釈のように、見落とされているのかもしれませんし。
 

 「対比」とは書きましたが、縮小解釈と拡大解釈とを、単純な裏表の関係にあるものと理解してよいかは留保が必要です。
 立法者が適用すべきとして書いた範囲はそのままにそれを広げること(拡大系)と、その範囲を削り取ること(縮小系)とは、立法への反逆具合が違うのではないか、ということです。

 厄介なのは、規定内容によって、縮小系と拡大系とで方向性が逆転するということ。
 租税法でいうと、同じ縮小解釈でも、解釈対象が課税根拠規定の場合は納税者有利、課税制限規定の場合は納税者不利となり、これが拡大解釈の場合は逆になります。

縮小系・拡大系裏表.png


 課税制限規定の拡大解釈・縮小解釈につき、「適用範囲」を軸にすれば言葉と図が一致します。

 
軸:適用範囲.png


 が、「課税範囲」を軸にしてしまうと、これが逆転します(認知不協和)。

軸:課税範囲.png


 ので、「縮小解釈は緩やかに/拡大解釈は厳しく」というように、解釈手法ごとの解釈方針を示すことはできません。規定内容によって「緩和/厳格」を判断する必要があります。

 このように、規定内容により逆転する関係にあるにも関わらず、拡大系だけ手法が豊富なのは、やはりよくわかりません。

 ということで、一連の記事では、規定内容や解釈方針云々ということには踏み込まず、あくまでも「解釈手法」という外形的な観点からのみ検討することとしています。


 なお、反対解釈と類推解釈も反対概念として掲げられることがあります。

  拡大解釈⇔縮小解釈
   ↓    ↓
  類推解釈⇔反対解釈

 確かに、帰結を並べると反対っぽくみえます。

  反対解釈: 適用範囲外だし・違うから・適用しない。
  類推解釈: 適用範囲外だけど・似てるから・適用する。

 が、適用範囲外の場合に適用しないのは当たり前のことなのに対し、似てるからといって適用範囲外の事案に適用するのは相当異常な事態です。これを単純な裏表の関係にあると位置づけてよいのか、私には疑問ありです。

 また、反対解釈を縮小解釈の系列に並べるのもしっくりきません。
 前々回であげた(旧)民法511条でいうと、反対解釈により差押前取得の債権に同条を適用しないと解釈したとして、これは同条を「縮小」したわけではありません。

民法(旧) 第五百十一条(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
 支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。


 数値化していうと、適用範囲が0〜10の場合に、11には適用しないといっているだけで、0〜10はそのままです。もとの適用範囲を縮小しているわけではありません。

 確かに、縮小解釈の思考過程を無理くり分解すると、

 【縮小解釈(広義)の思考過程】
  1 文理解釈: 適用範囲0〜10
  2 縮小解釈: 適用範囲を0〜8に縮小する
  3 反対解釈: 当該事案は9なので及ばない

と、縮小解釈(広義)の中には3の反対解釈が仕込まれていると見ることもできます(2は狭義の縮小解釈)。
 が、こんなものをあえて取り分ける必要があるとは思えません。

 【縮小解釈の思考過程】
  1 文理解釈: 適用範囲0〜10
  2 縮小解釈: 適用範囲を0〜8に縮小。当該事案は9なので及ばない。

 これで足りる。
 もし取り分ける必要性があるとしたら、縮小解釈とカップリングになるのが反対解釈だけでなく、「縮小解釈+○○解釈」のような別のカップリングがある場合とかでしょう。

 【(広義の)縮小解釈】
  1 縮小解釈+反対解釈
  2 縮小解釈+○○解釈
  3 縮小解釈+××解釈

 拡大系に比べて縮小系は手法が貧弱、という問題、どうもこのカップリングを見い出せば解決できそうです。が、さしあたり私には何のアイディアも浮かんでいません。

 ということで、当チャートでは、反対解釈は【通常系】、縮小解釈は【縮小系】、類推解釈は【拡大系】にそれぞれ納めるという整理をしています。


 前回の記事では、民法177条の「第三者」の解釈を例に、定義付け解釈と縮小解釈の使い分け方について記述しました。
 この例では「第三者」の文言解釈が明確だったため、定義付け解釈を経由せずに縮小解釈がなされました。

文理解釈→縮小解釈.png


 他方で、文理解釈では命題が導けない場合には、一旦定義付け解釈をはさむ必要があります。そして、この定義付け解釈による命題を狭めたい場合に、縮小解釈をすることになります。

文理解釈→定義付け解釈→縮小解釈.png


 前回の記事でも述べたとおり、定義付け解釈と縮小解釈の境目は固定的なものではありません。
 文理解釈を100%、空文化を0%とすると、その間に定義付け解釈→縮小解釈→反制定法解釈が並びます。
 
 100% 文理解釈
     定義付け解釈
     縮小解釈
     反制定法解釈
   0% 空文化

 上図のイメージでいうと、文理解釈では輪郭がぼやけているのを明確化するのが「定義付け解釈」、文言解釈・定義付け解釈の適用範囲を狭めるのが「縮小解釈」、狭めすぎると「反制定法解釈」と評価されるようになり、適用範囲が完全に無くなると「空文化」となる、といった感じです。
 そして、縮小解釈だったものが確立するに従って定義付け解釈に移行すると。

 あくまでもイメージであって、「○%〜○%までが縮小解釈」などと数値化することはできません。
 文言から離れるにしたがって呼び方が変わるわけです。が、ある論者は「これは縮小解釈として許される」といい、別の論者は「文言から離れすぎた反制定法解釈であり許されない」といったように、レッテル貼りの道具として使われることがあります。
 ので、あくまでも解釈の中身を見るようにすべきでしょう。


 反制定法解釈が許されない場合には、解釈論ではどうにもならず「立法論」に委ねることになります。ただし、当該事案限りでの「例外則」の発動により救済を図ることもありえます。
 このような逃げ口があるのが「概念法学」との違いのひとつです。

 一連の記事では「憲法解釈論」については考慮外にしているのですが、もしチャートに入れ込むならこの「例外則」のところになりそうです。

 憲法論を「例外則」に入れ込むとは何事か、とお叱りのご意見はあるかと思います。
 「レイヤー」という概念を用いるならば、普段は非表示にしているだけで、チャート全体を憲法論というレイヤーが覆っていることになるのでしょう。
 が、実相としてはやはり例外的に発動されることになることになるため、申し訳ありませんが、さしあたりここに収まっておいていただければと思います。

 縮小系についてはこの程度で、次回が【拡大系】となります。

フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)
フローチャートを作ろう(その5) 〜慣習法
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
posted by ウロ at 09:14| Comment(0) | 基礎法学

2021年05月17日

フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈

 前回の【文理解釈】につづいて、次は【定義付け解釈】について。

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)

定義解釈プロセス.png


 定義付け解釈が必要となるのは、
  ア 文理解釈ではあてはめができない
  イ 反対説があって文理だけでは説得力が弱い
などといった場合です。

 イの例としてぱっと思いつくのが、「ホステス報酬源泉徴収事件」の最高裁判決(最判平成22年3月2日)。

裁判例結果詳細(最高裁サイト)

 「期間」を文理解釈しておしまいと思いきや、それがホステス報酬源泉の趣旨にも合致する、なんてことも付け足しているわけです。

 文理どおりの解釈なのに、なんでわざわざ趣旨まで持ち出すのか。
 もちろん、高裁(と課税庁)の変な趣旨解釈を否定するためでもあります。が、それだけではなく、現代の法解釈論における文理の地位が相当低いからに他なりません。

 最高裁ほどの権威がありながら、です。「『期間』は文字通り!異論は認めん!」で済ませられない。

 このような最高裁の慎ましやかさと比べて、例の高裁判決が、高裁のくせに・通達のくせに・いうほど文言どおりじゃないくせにドヤ顔で判決出しているのは、何重にもどうかしてるぜ!であることがわかると思います。

【例の高裁判決】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 「最高裁は文理解釈を採用した」というだけでは、最高裁判決の慎ましやかさを余すことなく評価したことにはならないでしょう。
 そしてまた、例の勝ち抜き方式型の系統図・分類図では、この「表向き文理解釈のくせに趣旨にも触れる」解釈手法の収まり場所がありません。

金井高志「民法でみる法律学習法 第2版」(日本評論社2021)
法律解釈のフローチャート(助走編)

 趣旨にふれているのは、「期間」のこの読み方が通用するのはあくまでもこの趣旨が当てはまる場合に限ると、射程範囲を示唆していると見ることもできます。
 ので、最高裁阿り系の高裁判事が、この趣旨があてはまらない別の「期間」にまでこの判決を横流ししだしたら、「事案が違う!」と一喝されるのでしょう。
 
【最高裁阿り系判決】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

○ 
 さて、一般的な法解釈手法の解説書で、この定義付け解釈が明示されることはないです(ので、決まった名前がなく、私が勝手にネーミングしているだけ)。
 文理解釈の説明が終わったら、その次は縮小解釈・拡大解釈の話しに流れてしまいます。

 が、たとえば民法95条の「錯誤」について、「表意者の認識なしに意思と表示が食い違うこと」という帰結を文理解釈の範疇で導き出すことはできないでしょう(例は「過失」でもなんでもよいです)。
 「善意/悪意」のように、争いのない定義とはいいがたい。

 かといって、文理解釈では「勘違い」とだけ言っておいて、これに縮小解釈(拡大解釈)を施すことで上記命題を導く、というのもどこかおかしい。
 やはりこの間に、錯誤を法的に定義付ける解釈という段階を挟んだほうがしっくりくるのではないでしょうか。

 この解釈手法を暫定的に【定義付け解釈】(定義解釈)と呼んでおきます。
 が、いまいちしっくりこないので、何か相応しい名称があればご紹介ください。

 税理士らしく、たまたま手近にあった税法解釈の例もあげておきます。

 『国税通則法74条1項の「その請求をすることができる」とは、法律上権利行使の障害がなく、権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることを要すると解する。』

 こんな解釈、文理だけからはでてこないし、かといって何かを縮小・拡大しているわけでもないですよね。


 定義付け解釈が明示されない風潮、法学が「異常事例思考」であることの一局面だというのが、私の見立て。

【通常事例思考】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

 文理解釈についてはさすがに触れざるをえないということで最初に出てくるものの、定義付け解釈のような「普通の」解釈手法が意識から抜け落ちてしまっているわけです。
 縮小解釈・拡大解釈などのアブノーマル系の解釈手法に、すぐ飛びつきたがる。

 学生に対しては「論点に飛びつくな」とか指導をしているはずなんですけども。


 定義付け解釈で使われる素材としては、立法者意思、制度趣旨、法体系、先行判決、慣習、外国法などといったものがあります。
 文理解釈では手法も素材も形式的だったところに、実質的な考慮を加えることになります。

 この定義付け解釈を文理解釈に含めてしまうという整理も可能ではあります。が、「まずは形式判断から」という形を明確にするためには、段階を分けておくのが望ましいでしょう。
 ましてや、「国民の予測可能性」を文理解釈重視の根拠とする見解なら、なおさら分ける必要があるはずです。

解釈手法分類.png



 他方で、縮小解釈・拡大解釈との区別については、固定的・絶対的なものではありません。
 
 たとえば、民法177条の「第三者」。

民法 第百七十七条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。


 『当事者もしくはその包括承継人以外の者で、不動産物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当の利益を有する者』というのが確立した解釈になっています。

 これを細かく分けると、
  ア 当事者以外の者 ⇒文理解釈T(日常系)
 +イ 当事者もしくはその包括承継人以外の者 ⇒文理解釈U(法文系)
 +ウ 不動産物権の得喪及び変更の登記欠缺を主張する正当の利益を有する者
   ⇒定義付け解釈?縮小解釈?
となるでしょう。

 日常用語では当事者以外の者は全員第三者になるはずのところ、さらに法律用語としては包括承継人も第三者から除外すると。
 問題は、ウの実質論の部分を定義付け解釈とみるか縮小解釈とみるか。

 別に、どちらにするかで何かが変わるわけではありません。
 ではありますが、この論点に関しては、次のように整理しておくとよいと考えます(およそ正しい歴史認識ではありません)。

 1 当初はアイの文理解釈がベース。
 2 これに縮小解釈を施してウを付加した。
 3 ウが確立した解釈となることによって定義付け解釈にランクアップ。
 4 様々な事例へのあてはめにより「正当な利益」の中身を精緻化。
 5 限界事例は「正当な利益」に縮小解釈・拡大解釈を施すことによりあてはめ。
 6 それら解釈も確立することで定義付け解釈に取り込まれる。

 このように、定義付け解釈/縮小解釈・拡大解釈の区別については、形式面から固定的に区分するのではなく、流動的に可変するものだと捉えておくのがよいのではないでしょうか。当初は縮小解釈・拡大解釈だったものが、確立することによって定義付け解釈のポジションに移行すると。
 なので、確定した解釈をいまだに縮小解釈の一例として紹介するのは、私にはしっくりきません。

 ちなみに、「背信的悪意者排除論」は4の中の一作業で、「正当な利益」の下位基準のひとつだと理解すればよいと思います。
 これを「正当な利益」そのもの、あるいは縮小解釈と理解するのは正確ではないでしょう。「通行地役権」に関する例の判決のおさまり場所がなくなってしまいますので。

 上位命題   下位基準
 正当な利益 −背信的悪意者排除ルール
       −通行地役権ルール
       −・・・

 なお、「正当な利益」という定式自体は動いていないので、この論点に関してはまだ5・6にはたどり着いていないことになります。
 というか、「正当な利益」という物言いが抽象的過ぎるので、どうとでも中身が決められるということかもしれません。上記の下位基準以外も追加的に納めることができる、開かれた命題といえるでしょう。


 完全な余談ですが、いわゆる判例付き六法の類が、判決要旨を抜き出した上でベタッと横並びで陳列していることには違和感ありです。一応の項目立てはされていますが。
 これは自分で立体的に組み立てるための素材提供にとどまる、と位置づけておけばよろしいでしょうか。



 有斐閣判例六法 令和3年版(有斐閣2020)
 有斐閣判例六法Professional 令和3年版(有斐閣2020)


 さらにこの先、前回の記事で触れた民法511条1項後段のように、確立した解釈が「制定法化」されることでさらなるランクアップがなされることもあります(チャートのスタートに組み込まれる)。

 民法423条の7も、債権者代位権の「転用」と呼ばれていたものが制定法にランクアップした一例ですよね。

民法 第四百二十三条の七(登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権)
 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。


 ので、いつまでも「転用」呼ばわりするのはおかしい。

【おかしい】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)


 以降の流れは文理解釈のときと同じなので、合流させた形でフローチャートを表現しています。

 前回と今回の、文理解釈・定義付け解釈・反対解釈までを【通常系】の解釈手法として括っておき、以降の【縮小系】と【拡大系】とは区別します。

 なお、一般的な解説書では、文理解釈以外の解釈につき「論理解釈」の名前で括られることがあったりします。
 が、文"理"解釈といいながらそれを「論理解釈」から除外するのはおかしいし、それ以外の解釈も「論理」でひとまとめに括れるほど一枚岩ではないです。勿論解釈なんて特に、論理による解釈などとはいいがたい。

 前回述べた反対解釈について、一般的な解説書におけるポジション取りがおかしいのは、解釈手法の機能に即した分類をせず、一括りにしてしまっているところに原因がありそうです。

 ということで、この「論理解釈」という用語は用いません。
 どうしても、文理解釈とそれ以外を区別したいのであれば、「客観的解釈/主観的解釈」「形式解釈/実質解釈」のほうがよいかと思います。
 もちろん文理解釈は、純潔性が確保されていることを前提としてです。

 次回は【縮小系】の解釈です。

フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)
フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)
フローチャートを作ろう(その5) 〜慣習法
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
posted by ウロ at 10:10| Comment(0) | 基礎法学

2021年05月10日

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)

 法解釈のフローチャート、前から順番に検討しながら積み上げていってみます。
 さしあたり「制定法」の解釈手法に焦点を絞り、慣習法と判例法については余力があれば検討します。

【準備稿】
法律解釈のフローチャート(助走編)
フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論

 まずは文理解釈から。
 さすがに文理解釈は簡単かと思いきや、よくわからないところがあって。


文理解釈(基本).png


 これは「制定法を文理解釈することによって命題1を導く」という意味を表しています。
 命題に番号を付けているのは、文理解釈だけで終わるとはかぎらないからです。

 この、文理解釈をする際の素材として考えられるのは、次のもの。
  T 《日常系素材》 日常用語・一般論理
  U 《法文系素材》 法律用語・法律論理

 法律用語というのは「善意=知っている/悪意=知らない」など、法律論理というのは「後法は前法に優先する」「特別法は一般法に優先する」などを想定しています。「及び・並びに」の用法などは、まあどちらに入れても構いません。

文理(日常系・法文系).png


 わざわざT・Uと系統分けをしているのは、文理解釈を重視する理由として「国民の予測可能性」「納税者の予測可能性」の確保を持ち出す見解が存在することを意識してのことです。

 同説に従うならば、文理解釈ではTまでしか使えないはずです。
 「国民の予測可能性」を持ち出しておきながらUを含めるのだとしたら、「国民は当然Uを理解しているはずだ」という現状認識をお持ちだということでしょうか。
 ここには、
  『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』
的なアッパークラス感がにじみ出ています。

 そうではなく、「Uを理解できない国民は無視する」ということでしょうか。
 こちらだとすると、
  『パンがなければ何も食べなければいいじゃない』
という、さらにヤバいご主張になるわけですが、さすがに違いますよね。

 いずれにしても、「国民」とU《法文系素材》の噛み合わせは悪い。
 現実には文理解釈からUを除外する法学者などいないわけで、『文理解釈なら国民の予測可能性を確保できる』なんてのは、あくまでも文理解釈Tまでで解釈が終われる場合の話だと、割り引いて聞いておくべきものだと思います。

 ということで、以降はTUを区別せずに論じます。


 文理解釈からスタートすること自体は間違いではなくって。
 思うにその根拠は、解釈の「一義性」「一意性」を確保するためではないでしょうか。
 「国民の・予見可能性」などという、フィクション味溢れる主観的な理由では決してなく。

 誰の主観も入れずに済ませられるなら、それに越したことはない。
 解釈に争いがあって最終的には最高裁に決めてもらわないといけない、なんてのは極めて生産性が悪い。とにかく事前に不動のルールが存在している、ということ自体にメリットがあるわけです。

 「誰の主観も」ということでいうと、「立法者意思」ましてや「立案者意思」も考慮しないということです。

【立法者意思・立案者意思】
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 これらの意思そのものが主観チックであるのに加え、それを認定する作業にも主観が混入します。
 もちろん、立法者個人の心の中を直接探るのではなく、議事録等の資料を素材とすることになります。ので、主観そのものの探求ではありません。
 が、書かれている条文だけを素材とするのと比べたら、不安定なのは間違いないでしょう。

 であれば、誰もが争いえない言葉の意味・用法だけを素材とする解釈ですませたほうが、安定はします。
 改正後の立案担当者による解説本において、「実はこういうつもりだった」などとあれこれ後付けな説明を施すのではなく、きっちり法文に書き込んでおきなさいと(ただ、これを強く要請しすぎると「要件書き込み」で趣旨解釈がお亡くなりになります)。

 上記のとおり、「誰の主観も入れない」という方針からすると、Uの法律論理の例でいうところの「前法/後法」「一般法/特別法」の関係なども、形式的に判定できる場合に限るべきでしょう。
 これら関係にあるかどうかにつき実質的な判断が必要な場合は、文理解釈の範疇では行わないほうがよい。


 以上の主張は、「文理解釈」の名の元にあれやこれやの猥雑物を混入させようとする勢力から、文理解釈の純潔性を守ろうというプロテスト仕草にすぎません。
 猥雑物の混入それ自体を否定しているのではなく。混入させたいならそれ以降の解釈手法でやってください、というだけの話です。

 ちなみに、「概念法学」というのが、この純潔性守ろう活動と親和性が高い。

 概念法学、すでに克服された学説であるかのように記述されることが多いです。が、本気で「国民の予測可能性」を確保したいと思っているのならば、概念法学に行き着くはずなんですけども。
 概念法学を否定すると同時に国民の予測可能性を確保しようとするの、「概念法学=悪、国民の予測可能性=善」という偏見まみれの図式的なレッテル貼りがなせる所作ではないでしょうか。

 同じ「○○市水道局の水道水」なのに、容れ物に、Aには「○○市の水道市」、Bには「富士山麓の天然水」というラベルを貼ったら、「さすがBは美味しい!」とか言っちゃう、似非ミネラルウォーターソムリエ感が溢れ出てますよね。


 さて、文理解釈により事案へのあてはめが可能となれば、これを適用して結論を導きます。

文理解釈プロセス.png


・適用ありの場合
  結論が妥当かどうかの《価値判断》を行い、妥当であればそのまま適用してお終い。
  不当であれば【縮小系】の解釈手法へ向かいます。

・適用なしの場合
  結論が妥当かどうかの《価値判断》を行い、妥当であれば適用しないでお終い。
  不当であれば【拡大系】の解釈手法へ向かいます。

 文理解釈だけで終わる場合でも、最後まで形式判断だけで終わるわけではありません。
 その帰結が妥当か、という実質判断は必要となります。あくまでも、解釈手法のところが形式判断なだけ。
 ここに実質を入れ込むところが「概念法学」との分かれ道です。


 適用なし・妥当YESでお終いとなる場合の解釈には【反対解釈】という名前がついています。

 適用なしの場合に適用しないのだから、それ以上何がしかの解釈手法を差し挟む必要はないように思います。
 が、規定外の事柄については、積極的に適用を否定する趣旨なのか、何も判断をしていないだけなのか、文言だけでは明らかになりません。そこで、このいずれであるかについて、確認をする必要があります。
 そして、及ぼさなくてよいという確認ができてはじめて、適用なしという結論で終えることができます。


 【反対解釈】については、一般の教科書でも不正確な記述があるので一言加えておきます。
 例として、旧法時代の、差押え前に取得した債権で相殺できるか(「差押えと相殺」)に関する記述をあげます。

民法(旧) 第五百十一条(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
 支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。


『無制限説によれば、民法511条の【反対解釈】により相殺できると解することとなる』

 この記述の何がおかしいかといえば、511条の反対解釈だけでは、相殺が「できる」ことまでは導かれないという点です。
 511条の反対解釈からでてくるのは、差押え前に取得した債権による相殺に511条は適用されないというところまで。
 相殺ができるのは、あくまでも505条の要件を満たすからです。

民法 第五百五条(相殺の要件等)
1 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。


 で、511条による制限がかからないから、原則通り505条で相殺ができるという帰結がでてきます。

 抽象化していうならば、反対解釈からでてくるのは、解釈対象である条項が「適用されない」という帰結まで。そこから先、何か別の効果が生ずることまではでてこない。
 別の効果が生ずるとしたら、それはあくまでも別の条項の解釈によるものです。

 この違いをちゃんと理解していないと、【類推解釈】などの拡大系の解釈と、反対解釈とを同じような判断構造だと勘違いすることになります。

  解釈対象:「Aならばaが生ずる」
   類推解釈    A'はAと似ているからa'が生ずる
   反対解釈(誤) BはAと違うからbが生ずる
   反対解釈(正) BはAと違うからaは生じない

 反対解釈それ自体からは、何らの効果も発生しません。
 bが生ずるのだとしたら、それは別の条項に基づくものです。

 反対解釈を縮小系・拡大系の解釈と横並びで記述している解説書、このような違いがあることを理解していないのか、それとも単に、文理解釈以外のやつらという程度の整理で済ませているだけなのか。
 いずれにしても、学習者側は、無自覚な解説書の記述を鵜呑みにするのではなく、各解釈手法の機能の違いに気をつけておく必要があります。


 ちなみに改正法の条文(505条は改正なし)。

民法 第五百十一条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
1 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。


 裏表を両方書き込むという、珍しいタイプの法文に仕上がっています。
 これは「制限説」の息の根を止めようという意図からでしょう。

 が、反対解釈を明文化してもまだ、【縮小解釈】による解釈の余地は残されています。もちろん、改正前よりはやりづらくなっているでしょうが。
 濫用論でガス抜きを図っているみたいだし。


 なお、当ブログでは「要件書き込みは趣旨解釈を駆逐する」をテーマにした記事をいくつか書いたことがあります。

【文言解釈VS趣旨解釈】
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ

 この状態をチャート上で表現しようと思うと、最初にあげた「制定法→文理解釈→命題1」の部分を肥大化させ、それ以降の解釈を上書きするような書き方をすることになります。
 より正確には文理解釈U【法文系】のほうだけを拡大します。「要件書き込み」は、もっぱら法律用語・法律論理を使って行われますので。

 以降の記事では、チャート上の各パーツのサイズを揃えて作成しますが、そういった現状にあることは念頭においていただくのがよろしいかと思います。
 そしてそれは、ただただ「租税法律主義」をご宣託のようにありがたがって唱え続けてきた人たちの招いた厄災だと、ご理解いただければと。


 文理解釈だけではあてはめできない・しにくい場合は【定義づけ解釈】に進みます。

 ということで、次回は【定義付け解釈】を検討します。

フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)
フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)
フローチャートを作ろう(その5) 〜慣習法
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
posted by ウロ at 09:41| Comment(0) | 基礎法学

2021年05月03日

遠藤博也「行政法スケッチ」(有斐閣1987)

 内容については、およそ私が語りえるものではなく。

 表紙デザインがあまりに素敵だったので、思わず撮影。

IMG_3042.jpg

 当初、どこかのおしゃれ書店のブックカバーがついているのかと思いきや。

 決して表紙デザインをおちょくるだけではないのです。
 よいものはよいと、ちゃんと言う。

【表紙デザインイジり】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)

 ちなみに、カバーめくった本体にも同じデザインが書かれています。

 名画ペーストだったらたまに見かけますが、これはおそらくオリジナルですよね。
 装幀「遠藤田鶴」とあって、はしがきに絵画の心得があるように書かれていることからすると、もしかしてご本人作なのでしょうか。

 オンデマンド版がでているようです。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/4641913153

 学習書でオンデマンド対応とは珍しい。だいたい研究書・体系書レベルのものが出がちですので。
 学術的な価値の高さが推測される。

 ですが、オンデマンド版になると、カバー・表紙が無デザインになってしまいます。
 もちろん、本は中身が大事ではあるのですが。

 非常にもったいない。



遠藤博也「行政法スケッチ」(有斐閣1987)
posted by ウロ at 10:07| Comment(0) | 行政法