2021年06月28日

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法

 制定法、慣習(法)ときて、次に検討するのは「判例(法)」となります。

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)
フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)
フローチャートを作ろう(その5) 〜慣習法

 『判例』なるものについては、当ブログでもしばしばネタにしてきました。

判例の機能的考察(タイトル倒れ)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 今回は、判例が法解釈のフローチャートとどう絡んでくるか、という観点から検討します(判決と判例は、文脈にあわせて使い分けます)。


定義解釈プロセス.png


 少なくとも、スタートの「制定法」のポジションに入ることはないと考えてよいでしょう。
 判決というのは、何かしらの制定法を解釈したものであるはずなので。

 もし何らの制定法もないにも関わらず解釈論を展開するならば、裁判官による「法創造」になってしまいます。とはいえ、現実には「法の欠缺領域に一般条項を適用する」ということも行われているわけで、実質、裁判官による法創造とかわらないのでしょうが(おそらく「条理」もこのへんにかかわります。)。

 ここでは、そのような実質論ではなく、あくまでもチャート化したらどうなるかという観点から論じています。ので、制定法のポジションには入らない、という整理をしておきます。


 以下、記述が抽象的になりそうなので、具体例として「ホステス報酬源泉徴収事件最高裁判決」(最判平成22年3月2日)を想定しながら記述していきます。

裁判例結果詳細(最高裁サイト)

所得税法 第二百四条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
六 キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金

所得税法 第二百五条(徴収税額)
 前条第一項の規定により徴収すべき所得税の額は、次の各号の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする。
二 前条第一項第六号に掲げる報酬から政令で定める金額を控除した残額に百分の十の税率を乗じて計算した金額

所得税法施行令 第三百二十二条(支払金額から控除する金額)
 法第二百五条第二号(報酬又は料金等に係る徴収税額)に規定する政令で定める金額は、次の表の上欄に掲げる報酬又は料金の区分に応じ、同表の中欄に掲げる金額につき同表の下欄に掲げる金額とする。

上欄 法第二百四条第一項第六号に掲げる報酬又は料金
中欄 同一人に対し一回に支払われる金額
下欄 五千円に当該支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額(当該報酬又は料金の支払者が当該報酬又は料金の支払を受ける者に対し法第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする場合には、当該金額から当該期間に係る当該給与等の額を控除した金額)


 (以下では所得税法を「法」、所得税法施行令を「令」と略します)


 なお、条文に「ホステス等」と書いてあるので、当記事でも「ホステス」と記述しますが、この言葉には違和感あり。下記記事の「145頁」への指摘として書いたことと同じ趣旨です。

三木義一「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)

 判旨は次のとおり。

(1) 一般に,「期間」とは,ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった,時的連続性を持った概念であると解されているから,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間」も,当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然であり,これと異なる解釈を採るべき根拠となる規定は見当たらない。
 原審は,上記4のとおり判示するが,租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではなく,原審のような解釈を採ることは,上記のとおり,文言上困難であるのみならず,ホステス報酬に係る源泉徴収制度において基礎控除方式が採られた趣旨は,できる限り源泉所得税額に係る還付の手数を省くことにあったことが,立法担当者の説明等からうかがわれるところであり,この点からみても,原審のような解釈は採用し難い。
 そうすると,ホステス報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合においては,施行令322条にいう「当該支払金額の計算期間の日数」は,ホステスの実際の稼働日数ではなく,当該期間に含まれるすべての日数を指すものと解するのが相当である。


 この判決、表向きの理解としては、令322条の「期間」を《文理解釈》したものとして紹介されます。が、判決では実際にはそれだけで終わらせずに、ホステス報酬源泉の《趣旨》にも触れています。

 そうすると、この判決の解釈の型としては、文理に基づき「命題1」を導いた上で、さらに立法担当者の説明等からうかがわれる制度趣旨に基づき「命題2」を導いたものと表現することができます(「命題1=命題2」型)。


 さて、この判決が先行判決として存在することを前提に、後続判決にはどのような影響があるでしょうか。
 これが、一般的に『判例の拘束力』として論じられているものにあたります。

 この判決が判例として機能する場合には、後続判決においても命題1・2を同じように解釈する必要があります。
 後続事案の業務形態が本判決と同じ業務形態であれば、本判決の判例としての射程がそのまま及ぶといってよいでしょう。
 他方で、異なる業務形態にまで本判決の射程が当然に及ぶと考えるのは、『判例を一般化しがち』。
 『判例は事案との関係で理解すべき』だというならば、本判決と異なる業務形態にも当然に及ぶ、などと考えるべきではないです。

【法6号列挙の業務形態】
 ・キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設で
 ・フロアにおいて客にダンスをさせ 又は
  客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて
 ・客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者


 本判決の射程を理解するのに手がかりとなるのが、ホステス報酬源泉の趣旨を「還付の手数を省く」と述べているところ。
 法列挙の業務形態のうち、この趣旨が及ぶかぎりは同じように解釈すべきであるし、そうでなければ及ぼすべきではないと解釈することができます。

 本判決を単純な「文理解釈の判例」と理解してしまうと、このような発想がでてこない。同じ条項の同じ文言なのになぜ別意に解する余地があるのか、文理だけでは区分のしようがないでしょう。
 が、一般的に説かれている『判例は事案との関係で理解すべき』を正統に実践するかぎりは、判例の射程を分析するにあたっては「事案が同じかどうか」から入るべきです。


 判例の射程を検討するのに、制定法解釈のフローチャートとは別にサブチャートを作成してみてもよいかもしれません。

判例の射程プロセス.png


 ・事案が同じであればそのまま適用する、それが不当であれば縮小系の解釈にすすむ
 ・事案が違えば適用しない、それが不当であれば拡大系の解釈へすすむ

 あくまでも判例の射程を検討するためのサブチャートであって、本筋は制定法解釈のチャートのほうです。
 このサブチャートは、先行判決をどこの解釈手法に入れ込むかを検討するためのものです。

 なお、このチャートの形状をみて、マ・クベ氏が搭乗していそうとか、アッザム・リーダー出しそうとか、銘々思うところがあるかもしれません。が、それは『他モビルアーマーの空似』というやつです。



 U.C.ガンダムBlu-rayライブラリーズ 機動戦士ガンダム
 参照:第18話「灼熱のアッザム・リーダー」


 本来であれば、各業務形態ごとの判決が積み重なることで、本判決が判例として確立していくものだと思います。
 が、実務的には、本判決に右に倣えとばかりに、6号報酬はすべて歴日数で計算となるのでしょう。

 納税者有利とはいえ、判例を一般化しがちな運用はいまいち腑に落ちない。今回はたまたま納税者有利なだけで、納税者不利な場合にも一般化されるおそれがあります。
 有利だろうが不利だろうが、「一般化してもよいか」の検討はしっかりしておくべきです。

 とはいえ、さすがに他の条項の「期間」という文言にまで、本判決の『判例としての』射程を広げることはできないでしょう。
 せいぜいできるとしたら、本判決から「後から返す手間を減らすため、先に多めに取るのは避ける」という一般命題を抽出し、他の条項にもその命題の趣旨を及ぼす、といったところでしょうか。

 なお、「住所」に関して完全なる横流しを敢行したのが「武富士事件最高裁判決」(最判平成23年2月18日)だと、私は思っています。

裁判例結果詳細(最高裁サイト)

 ただし、過去の判決を「参照」とだけあって「当裁判所の判例とするところである」とまでは言い切っていません。ので、「判例の一般化」とまではなっておらず、セーフですかね。
 なんせ「民集」に登載されていませんし。
 なのに、住所につき客観説を採用した判例として崇め奉る風潮には、大変違和感あり。



 「判決」と「判例」の違いについて、解釈の素材にとどまるのが「判決」、命題として扱えるものが「判例」と整理するのがよさそうです。

判決と判例.png


 この区別を前提とすると、『判例を一般化すべきでない』というのは、異なる事案にまで「命題」として扱うべきではなく、あくまでも「素材」として使うべき、と言い換えることができるでしょう。
 この説明であれば、武富士事件の最高裁判決は、過去の異なる事案に関する判決を「素材」として参照しただけだからセーフということができますね。のに、本判決をもって、あたかも客観説が判例であるかのように評価するのは『判例を一般化しがち』。
 今のところは、客観説的に判断した事例判決がいくつかある、という評価に止めておくべきでしょう。

 で、判決が素材として繰り返し使われることで「判例法」と呼ばれることになり、安定した運用がなされるようになれば「判例の明文化」ということで制定法に組み込まれることもあると。
 

 判例についても慣習と同じく『判例は法源か?』という問いが立てられます。

 これについては、素材としての「判決」は法源ではないが、命題化し解釈される側となった「判例」は法源のように機能する、と整理しておけばよいと思います。

 なお、慣習と同様、実際の機能を理解することが重要なので、法源と呼ぶかどうかにはそれほどこだわりません。


 「判決」の解釈についても、「制定法」の解釈と同じように【縮小系】や【拡大系】といった様々な手法が想定できるはずです。が、そのことを明示的に論じている書籍の存在を存じ上げておりません。
 ので、さしあたり思いついたものだけ列挙しておきます。

【縮小系】
・事案は同じようにみえるが、よく分析すれば違う事案なので射程は及ばない。
・事案は同じなので射程は及ぶが、命題が広すぎるので本件では狭めて適用する。

【拡大系】
・事案は違うようにみえるが共通要素があるので適用する。
・事案が違うが、似ているので適用する。
・事案は同じなので射程は及ぶが、命題が狭すぎるので本件では広げて適用する。
・判決から一般命題を抽出して本件に適用する。

 事案(≒要件)と命題(≒効果)のそれぞれが、縮小・拡大の対象となるということです。

  判決の構成要素:事案→命題

 今後、先行判決を判例として引用している判決を読むにあたっては、このあたりを気にしながら読んでみることにします。


 以上、6回にわたって解釈手法ごとに検討をすすめてみました。

 が、あくまでも「法解釈をフローチャート化する」という側面からの分析に留まります。フローチャート上にどのように表現したら思考過程にそった形になるか、という観点からのものにすぎません。

 ので、今回作成したフローチャートも完成品ではなく、暫定版として都度見直しの対象となります。(完)
posted by ウロ at 11:50| Comment(0) | 基礎法学

2021年06月21日

フローチャートを作ろう(その5) 〜慣習法

 ここまでは「制定法」の解釈を前提としてきました。

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)
フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)

 では「慣習」はどのように位置づけられるでしょうか。

 解釈の際の「素材」として使われることは確かです。

慣習法 素材.png


 ではそれ以外の役割を果たしているでしょうか。

 『慣習(法)は法源か?』という問いがこの点に関わってきます。
 が、『法源』という用語自体が各論者の想いがこもったコトバとなってしまっているため、このような問いに正面から答えるのは一旦保留します。

 ここでは、慣習をどのようにチャート化できるか、という観点からのみ論じます。

 法適用通則法3条と民法92条からすると、次のようなチャート化が可能ではないかと思います(個別の条文に「慣習」が組み込まれているものも、同様の型になると思います)。

慣習法プロセス.png


法の適用に関する通則法 第三条(法律と同一の効力を有する慣習)
 公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。

民法 第九十二条(任意規定と異なる慣習)
 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。


 前者が「法律と同一の効力」、後者が「法律行為」の解釈の問題なので、扱っているレベルは違います。ですが、『契約に関する慣習の解釈』の限りでは同レベルのものとして扱っても支障はないと思うので、ひとつのパーツの中に納めておきます。

 なお、両者の関係については種々争われています。
 が、さしあたり、一般法としての通則法3条があり、プラスして、法律行為については、慣習による意思がある(と認められる)ときは、その慣習で任意規定を上書きできる、と理解しておけばよいと思います。


 チャートは、通則法3条・民法92条を使って、慣習から命題1を導くことを表しています。

 また、制定法と同様に「定義付け解釈」から命題2を導いているのは次のような考慮からです。

 すなわち、「命題1」はあくまでも事実として存在する慣習をそのまま認定したものを想定しています。
 これをそのまま事案に適用できる場合には包摂作業へ行くが、そのままでは適用できない場合には定義付け解釈を行い、包摂作業が可能な法命題に仕立て上げると。

 もちろん、一段階で一気に法命題にまで仕上げてしまってもよいのでしょう。
 が、事実として存在する慣習の発見と、それを法的に精緻化する作業とは区別しておいたほうがよいのでは、という考慮から二段階に分けてみました(これが上告受理事由などで問題となる「事実問題/法律問題」に対応するものであるかどうか、までは詰めて考えていません)。


 一応具体例をあげておきます。

 たとえば、『当地では、土地の買主は事前に近隣に挨拶をしなければならない。』という慣習があったとします。
 この慣習があるということ自体を認定するのが「命題1」までの解釈。そして、当該事案において近隣をどの範囲までと理解するか、これを守らなかった場合にはどのような効果が生ずるか、などの解釈をするのが「命題2」までの解釈。

 こういうふうに切り分けておいたほうが、思考過程が明確になるんじゃないですかね。


 それ以降の作業は制定法の場合と同じです。

 その慣習が適用されるが妥当でない場合は【縮小系】へ、適用されないが妥当ではない場合は【拡大系】へ、それぞれ向かうことになります。


 私としては、事実として存在する慣習が、通則法3条・民法92条(と定義付け解釈)を経由することで「慣習法」となる、これをさして『慣習が法源になる』といってよいと思っています。
 これに対しては、「慣習は、通則法3条・民法92条があってはじめて法源扱いされるにすぎないから、法源とはいえない」という言い方も可能かもしれません。
 が、これを言い出したら「制定法は、憲法76条3項があってはじめて法源扱いされるにすぎないから、法源とはいえない。」ということも言えてしまいます。

憲法 第七十六条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。


 そしてさらに「憲法は〜」などと続いてしまうため、これ以上この議論には深入りしません。


 整理しておくと、慣習には、
  1 事実としての慣習
  2 素材としての慣習
  3 命題としての慣習(慣習法)
があるということになります。

 まずは事実としての慣習があるかどうかを認定し(1)、それがある場合には制定法解釈の素材として使われたり(2)、通則法3条などを通して命題化したりする(3)、ということかと。

 次回は「判例(法)」を検討してみます。

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
posted by ウロ at 09:24| Comment(0) | 基礎法学

2021年06月14日

フローチャートを作ろう(その4) 〜拡大解釈(拡大系)

 前回、前々回と余計なものがはさまりましたが、話を戻して次は【拡大系】の法解釈です。

フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
フローチャートを作ろう(その3) 〜縮小解釈(縮小系)


 文理解釈・定義付け解釈では適用範囲に含まれないが、適用されないことが妥当でない場合に拡大系の解釈が試みられます。

拡大解釈プロセス.png


 すでに述べたとおり、拡大系は、縮小系と比べてなぜか手法が充実しています。

 ・拡大解釈
 ・類推解釈
 ・一般命題化
 ・勿論解釈

 「一般命題化」というのは一般的な用語ではありません。
 これはたとえば、民法94条2項から「権利外観法理」という一般命題を抽出し、それを別の事案に適用するというものを想定しています。

民法 第九十四条(虚偽表示)
1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


 「類推解釈」は、民法94条2項の典型例である事例aと似ていることを理由に、事例bにも適用する、というものです。
 これに対して「一般命題化」は、事例aとは似ていない事例cに「権利外観法理」という一般命題を経由して適用するというものです。類推解釈とは思考の「型」が違うので区別することにしました。

 なお、個別類推・総合類推という区別もありますが、これは条文が単数か複数かという違いなだけで思考の型としては違いはありません。ので、チャート上は区別してありません。


 「勿論解釈」は、『本権は占有(権)より強い』などといった抽象命題(と呼んでおきます)を使って、占有訴権があるなら本権にも物権的請求権がある、などと解釈するものです。

民法 第百九十七条(占有の訴え)
 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。


 ここでは形式論理は成立していません。

【不成立】
 ・占有には物権的請求権がある
 ・本権は占有より強い
 ・ゆえに本権にも当然物権的請求権がある

 この論証の説得力は、形式論理にではなく「本権は占有(権)より強い」という抽象命題が有無を言わせないほど強烈なものであることに依存しています(他の例でいうと「生命は財産より価値が高い」とか)。
 「占有にあるからといって本権にあるとは限らないじゃないか」といった、形式論理に基づく正当な異論を許さないなどの強烈な。


 これら手法の順序としては、ぎりぎり言葉の範囲に含められる場合は「拡大解釈」、含められないが似ている場合は「類推解釈」、似ていないが一般命題が当てはめられる場合は「一般命題化」、強烈な抽象命題がある場合は「勿論解釈」、という感じになるかと。

 こう並べてみてわかるとおり、「勿論解釈」だけノリがだいぶ違います。
 ので、チャート上は拡大解釈とは分岐させて独立に判断する形にしてあります。

 イメージ化するとこんな具合。

拡大系イメージ.png



 これら解釈ができない場合は、縮小系と同じく、反制定法解釈、例外則、立法論と続きます。

 ただし、拡大系の「反制定法解釈」というものの具体例が、さしあたり思いつきません。
 拡大系の手法は豊富だし、実体法レベルでも一般条項が活用されているし、ということで、いずれかの解釈手法で解決できる場面が多いということかもしれません。
 で、いずれの解釈手法も及ばないのだとしたら、それはもはや解釈論の範疇ではどうにもならないと。というか、勿論解釈なんてもはや立法論みたいなものでしょうし。

 拡大系の反制定法解釈があるのだとしたら、法の趣旨に反するにもかかわらず、何のつながりもない全く別の事例に横流しする、というようなものになるのだと思います。


 刑法では「拡大解釈は許されるが類推解釈は許されない」というお題目が唱えられています。

 が、処罰されるかされないかの瀬戸際だというのに、この拡大解釈/類推解釈の区別がはっきりしていない。
 抽象的にいえば「言葉の範囲内にぎりぎり含まれるか」ということになるのでしょう。が、それ以上詳細な判断基準は示されていない。

 ここでも「国民の予測可能性」を基準にすることが考えられます。国民が予測できる⇒拡大解釈、できない⇒類推解釈、といったように。
 が、これを基準としてしまうと、たとえば「勝手に電気とったら窃盗罪で処罰されるって普通の人なら思うでしょ」という理由で『所有物』(当時)に電気を含めても問題ないということになりかねない。「物は有体物に限られる」なんていうのは法律専門家の特殊な考えであって、国民一般の考えとは違うんだと。

 他方で、『悪意』とは悪い気持ちを持つことであって、単に知っているだけで悪意ありとされてしまうのは「国民の予測可能性」を害するため許されない、などという帰結も出せてしまいます。が、こちらも妥当ではないでしょう。
 ということで、「国民の予測可能性」はここでも基準としては機能し難い。

 抽象概念としては、「言葉に含まれる」と「言葉に含まれないが似ている」とは、明らかに違うはずです。が、電気窃盗を処罰すべきなどの現実的な要請のせいで、明確な区別基準をいまだに示せていないというのが現状でしょうか。


 次回は、制定法を対象とする解釈手法を離れて、「慣習(法)」を対象にしてみようと思います。
posted by ウロ at 11:12| Comment(0) | 基礎法学

2021年06月07日

珍奇な新規(続) 〜『人材確保等促進税制御利用ガイドブック(令和3年5月31日公表版)』

 前回記事をアップした5/31と同じ日に、経済産業省の「ガイドブック」「Q&A集」がでてました。

珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)

賃上げ・生産性向上のための税制(経済産業省)

 今まで「ご利用」だったのが「御利用」になったのは、何か理由があるのでしょうか。
 P.1の「ご覧下さい。」はひらがなのくせに。

 それはさておき、前回いくつかあげた疑問のうち、回答となっているのは「支給日判定」という点だけでした。
 それ以外は条文をなぞっただけ。

 ということで、「ガイドブック」をベースに、前回記事に関わる部分の検証をしていきます。

 以下、頁数は「ガイドブック」のもの、「A○○」は「Q&A集」のものを指します。
 また、前回同様、条数を省略して、法・令・規のそれぞれ項・号で特定します。
  法 第四十二条の十二の五 3項
  令 第二十七条の十二の五 
  規 第二十条の十 2項


P.3
国内雇用者とは
 法人の使用人のうちその法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者で国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます。


 前回述べたとおり「国内勤務」は要件ではありません。令の「賃金台帳」で上書きされてしまっているので。

法九 国内雇用者
 法人の使用人(略)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するものをいう。

令18
 法第四十二条の十二の五第三項第九号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第百八条に規定する賃金台帳に記載された者とする。


 A24には、その旨書いてあります。
 ので、国内勤務が要件であるかのようなガイドブックの書きぶりは誤解を招く。
 法の「雇用者として」を勝手に「雇用者で」に変換してしまっているのが問題。

P.3
国内新規雇用者とは
 法人の国内雇用者のうち、当該法人の有する国内の事業所に勤務することになった日(労働基準法第107条に規定する「労働者名簿」に氏名が記載された日)から1年を経過していない者をいいます。


 令どまりで、なぜか規の「雇入の年月日」が反映されていません。

法二 国内新規雇用者
 法人の国内雇用者のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるものをいう。


3 法第四十二条の十二の五第三項第二号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内雇用者のうち国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿(労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿をいう。)に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日(次項において「雇用開始日」という。)から一年を経過していないもの(次に掲げる者を除く。)とする。(略)

規 
2 施行令第二十七条の十二の五第三項に規定する財務省令で定める日は、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された同項各号列記以外の部分に規定する国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日とする。


労働基準法施行規則 第五十三条
1 法第百七条第一項の労働者名簿(様式第十九号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
四 雇入の年月日



 また、法・令の繋げ方が、上記『国内雇用者』の定義の書きぶりとは違って、こちらでは令を(カッコ)に入れています。
 この不揃い感、どういうつもりなんでしょうか。

 ということで、前回検討した「実際の雇入日」なのか「記載雇入日」なのか問題は、未解決のまま。

P.4
新規雇用者給与等支給額とは
 国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額をいいます。


 ここだけが唯一、条文に解釈を加えた部分となります。1年以内は「支給日判定」なんだと。
 法5号に同2号を代入するとそう読めるということなんでしょう。

法五 新規雇用者給与等支給額
 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額をいう。


P.6
 「支給日判定」に従った具体例が図示されています。

 A〜Gまで例があがっているものの、いずれも「月単位」での例になってしまっています。
 が、条文上は「雇入年月日」から1年と、「日単位」で判定することになっているはずです。

 雇入日と支給日がきれいにそろわない場合の悩みが、ここでは一切表現されていません。


 また、「締日判定」が認められるのかどうかがはっきりしません。

 この点、A31、A32には、損金算入した未払給与も含めると書いてあります。これ自体は条文記載のとおりです(法5号)。
 が、これと1年以内判定との関係が不明です。未払計上日で判定してよいということでしょうか。

 もしそうだとすると、3/30で1年が経過してしまう場合は、3/31未払計上分は含めないということになりますか。どうしても含めたければ、3/30で未払計上すればいいのかどうか(30日締めとする合理的な理由があるとして)。


 上述した、A24について気になる点。

 同箇所には、国内事業所で作成された賃金台帳に記載されていれば「海外に長期出張等していた場合でも」「一時的に海外で勤務をしていても」国内新規雇用者に該当する、と書いてあります。

 「一時的」な「長期出張」とは何ぞや、という疑問はありますが、それはさておき。
 「一時的」ではなく1年以上の予定で出国した非居住者の場合はどうなるのか。いやに「一時的」を強調していることからすると、非該当と考えているようにも読めますが、はっきりしません。
 『賃金台帳に記載されていればいい』のであれば、非居住者だろうがなんだろうが、給与等を支給しているかぎり該当するでしょうし。

 ここで問題となるのが、令の文言。

 「労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿」
 「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」


 (日本の)労働基準法を引用しているわけです。
 これの読み方として、

 A 日本の労働基準法が適用される労働者の名簿・台帳に限られる。
 B 日本の労働基準法が定める名簿・台帳の様式に従ってさえいればいい。

のいずれなのか。

 もしAだとした場合でも、非居住者だから当然に非該当になるわけではありません。
 日本の労働基準法が適用されるかどうかについては、僕たち私たちの『法の適用に関する通則法』が存在するからです。

国際私法(カテゴリ)

法の適用に関する通則法
第七条(当事者による準拠法の選択)
 法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

第八条(当事者による準拠法の選択がない場合)
1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

第十二条(労働契約の特例)
1 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。


 「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」に該当するかどうかを判定するのに、法適用通則法を経由する必要があるのかどうか。
 それとも、税法の側で勝手に、非居住者・国外源泉所得は対象外などと決め打ちしてしまうのか。

 仮に、法適用通則法を経由させるとどうなるか。

 同法の規律では、原則として当事者の選択に委ねることになっています。最密接関連地の強行規定についてさえも、あくまでも労働者の意思表示に委ねられています。
 これをそのまま認めると、名簿・台帳について日本法・外国法の準拠法選択をコントロールすることで、本制度の適用の可否・控除税額を調整できることになりかねません。

 労働者名簿・賃金台帳の作成については罰則による規制があるといっても、それはあくまでも日本法が適用される場合に限られます。
 『強行法規の特別連結』的な発想で、無理やり日本法が適用されることにするのか。
 「的な」というのは、ここで保護しようとしているのは国家の課税権であって、労働基準法上の保護法益などではないからです。およそ当事者が望んでもいない規律を、国家の都合で適用しようとしている。

 A24は、「一時的」という言い方をすることで、非居住者には適用されないかのような《刷り込み》をしようとしています。が、条文上はそういう縛りはありません。
 あくまでも「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」の解釈でコントロールするしかない。


 他方で、Bなら問題がないかというとそういうことではなく。

 賃金台帳を作成するかしないかによって集計範囲をコントロールできてしまうのは同じです。
 不作成による罰則を適用しようとしても、外国法を選択されたらどうなるのか、という問題も同じ。

 賃金台帳につき、「あたる/あたらない」でコントロールするか、「作る/作らない」でコントロールするかの違いにすぎません。


 根本的な問題はやはり、令が法の「国内勤務」を上書きしてしまっているところにあるのでしょう。

 国内勤務かつ賃金台帳に記載、というルールならば、問題がゼロになるわけではないものの、納税者がコントロールできる幅はだいぶ狭まります。

 なぜ、法の実質要件を令では形式要件に置き換えてしまったのか。
 国内賃金台帳に記載があれば国内勤務と「推定」する、という事実認定レベルの問題であれば理解はできます。が、要件そのものを置き換える必要があったのかどうか。

 これもある意味で「台帳課税主義」みたいなものです(逆作用ですが)。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 固定資産税の場合は、形式判断とすることに合理的な根拠があるわけです。そして形式不合理な場合は例外を認めると。
 他方で、本制度において形式判断とすることに合理的な根拠はあるでしょうか。私にはさっぱり思いつきません。


 なお、以前に、「所得税法×著作権法×法適用通則法」の絡みについて検討したことがあります。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)

 所得税法にいう「著作権」とは、一体どこの国の著作権なのかと。

 今回は日本の労働基準法を明示的に引用していることから、意味が明確になるかと思いきやそうではなく。
 かえって、日本法に固定したせいで、そもそも適用されるかどうかの問題が生じることになっています。

 国境を跨ぐ以上、準拠法選択の問題は消去されえない。


 『借用概念は、法的安定性・納税者の予測可能性に資する』というのがいかにイリュージョンであるか、ということの一例がまたここに。

金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 お借りするのは勝手ですが、ちゃんとそのお借りの仕方まで明示しておいてくれないと困る。
posted by ウロ at 11:47| Comment(0) | 法人税法