2021年10月18日

零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール

 では、今回は「無期雇用」の解約ルールについて。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール

 まずは民法のルールから。

ア 原則 ⇒できない
イ 報酬期間なし ⇒いつでも・予告期間2週間
ウ 報酬期間6ヶ月未満 ⇒いつでも・予告期間2週間(労働者)
             次期・予告期間当期の前半(使用者)
エ 報酬期間6ヶ月以上 ⇒いつでも・予告期間2週間(労働者)
             次期?・予告期間3ヶ月(使用者)
オ やむを得ない事由 ⇒直ちに・損害賠償


 これを原則といってよいかは微妙ですが、「期限なしと決めた以上は解約できない」というものを契約の拘束力の大原則として置いておきます。もちろん、すぐにひっくり返されるわけですが(マッチポンプ)。

イ 民法627条1項
 2項の反対解釈から、1項は「期間によって報酬を定めない場合」の規律ということになります。これはどのような内容の雇用契約でしょうか。「成果物の引き渡しごとに報酬を支払う」だと請負(or成果報酬型委任)になりそうですし(ただし下記「期間」理解参照)。

Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法

 この点、労働基準法27条には「出来高払制・請負制」の労働契約についての定めがあります。このようなタイプの労働契約が該当することになるのでしょうか。

ウ・エ 627条2項・3項
 改正により、労働者側はイと同じく「いつでも・予告期間2週間」になりました。ここは旧法/新法いずれが適用されるかでかなり扱いが変わる点ではないかと思います。
 たとえば、給与が毎月末締めの会社で、1/16に解約申入れをした場合、旧法だと2/28、新法だと1/30の満了をもって解約となります。つまり、1ヶ月もずれることになります(ただし下記「期間」理解参照)。

エ 627条3項
 予告期間3ヶ月のほうですが、ここの読み方がはっきりしません。3ヶ月は2項但書に代入されるだけで本文の「次期以降」は残るのかどうか。

《例》報酬期間2021年1/1〜12/31の1年で、12/1に解約申入れ。

 ・残る説
  2022年12/31満了で解約(次期解約に間に合っていないので次々期満了時に解約)
 ・残らない説
  2021年3/1満了で解約(次期解約に間に合わない場合は申入から3ヶ月後)

 従前は、労働者にも3ヶ月ルールが適用されたことから、残る説だとまずいという問題意識があったのかもしれません。が、改正後は使用者側だけのルールになったので、議論のポイントが変わるかもしれません。とはいえ、旧法適用の契約もまだまだ残るわけで、議論の必要性が消えたことにはなりません。

 ただ、「期間によって報酬を定めた場合」自体の解釈も別れています。たとえば「年俸制」というのが報酬期間1年なのか、それとも労働基準法が適用されるかぎり毎月支払わなければならないのだから(24条2項)、報酬期間1ヶ月ということになるのか。
 菅野和夫先生の体系書に「年俸制は報酬期間1年」と書いてあるからといって、鵜呑みにしていいわけではない。



菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)

 実際のところ、年俸制を謳っていながらも「年俸制、12で割ったら月給制」「月給制、12で掛けたら年俸制」といった感じの、「なんちゃって年俸制」も少なくないのではないでしょうか。
 こういう場合ならば、支払サイクルで考えるのがよいかもしれません。

 さらに詰めて考えると、「期間」と書いてある以上、期間以外の要素で給与が変動する場合は「期間によって報酬を定めた場合」に該当しない、と考えることもできそうです。たとえば、欠勤したら日割りで基本給が削られるとしたら、それは勤務日数で報酬が定まっているのであって期間によってではない、とか。

 このような「期間」理解、おなじみ「ホステス報酬源泉徴収事件」の最高裁判決にも沿うものです。

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法

 このような理解が正しいとすると、ウエの出番はほどんどなく、ほぼイで処理されるということになります。ウエが適用されるとしたら「管理監督者」などの場合になるでしょうか。

 と、解釈上不明瞭な箇所がいくつもあるというのに、それらを放置したまま小手先の労働者保護方向の改正だけを施し、「民法の根本的な発想を転換してやったぜ」などとドヤ顔しているのだとしたら、始末に負えない。
 旧法が長期で残ることを考慮に入れるならば、上記のような「期間」理解をして、ウエの適用場面を狭める方向で考えることもできたはずです。のに、そのような理解を示すこともなく、小手先の改正を実施したことによってかえって、「旧法が適用される労働者の皆さんは会社辞めるまでウエの古い方のルールで我慢してね」と切り捨てられたということになります。
 立法事実として、管理監督者などの限られた労働者のためだけの改正だったとは思えないのであって、普通の労働者にもウエが適用される前提での改正だったはずです。

 このような改正所作を見る限り、真に労働者保護を志向していたのではなく、とにかく民法典に人の属性をねじ込みたかっただけなのではないかと邪推してしまいます。

オ 民法628条
 規定上ははっきりしませんが、無期雇用にも適用されると解されています。


 これら民法の規律が、労働基準法・労働契約法でどのように修正されているか。

イウエ 労働基準法24条(賃金の支払)
 毎月払いを「報酬期間1ヶ月」と理解するならば、イとエは想定しがたく、ほとんどがウになるのでしょう。
 他方で、上記の「期間」理解によるならば、ウエがほとんどなくてイがメインとなります。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)
 使用者からの解雇につき「解雇時期・事由」や「予告期間」に制限が加えられています。

 問題は、予告期間につき、民法の「当期の前半」(ウ)「3ヶ月」(エ)と労働基準法の「30日」のいずれが適用されるのかです。この点は、どちらかといえば労働基準法適用説が優勢でしょうか。
 ただし、上記の「期間」理解によればウエがほとんどなくなるので、あまり悩まずにすみます。

 また、19条・20条それぞれの1項但書にある除外事由と、民法でいう「やむを得ない事由」とが、内容的に連関するのかどうかも気になりますが、さしあたり指摘だけしておきます。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)
 就業規則記載の解雇事由を「限定列挙」と解するならば、この規律も解雇事由の制約として働くことになります。

全 労働契約法16条(解雇)
 オのやむを得ない事由とは考慮要素がかなり重複しそうです。
 イ〜オのいずれの解雇権を行使するとしても、結局のところ「解雇権濫用法理」の枠組みで判断されることになるでしょうか。

オ 労働基準法15条(労働条件の明示)
 「明示された労働条件が事実と違う」場合に労働者が即時に解約できる、というのはオの上書きと位置づけることができるでしょうか。


 以上、無期雇用における民法と労働基準法・労働契約法の関係、有期雇用と比べると比較的シンプルではないかと思います。

・労働者の辞職は、民法の規定がストレートに適用される。ただし改正法の経過措置に注意。
 実務的には、一律2週間として会社で呑んでしまうことにするか。
・使用者の解雇は、解雇権発生の根拠のみ民法で、それ以外の規律は労働基準法・労働契約法で派手に制約されている。

 問題なのは、法間インターフェイスのところではなく、民法それ自体の意味内容に不明瞭な箇所が残されているところです。しかも、改正で手を入れたくせに、それが原因で、とばっちりで旧法適用下の労働者が見捨てられることになっていることです。
 
 今後、最高裁様が、立案者意思を鵜呑みにするのか、それとも自分のところの税法上の「期間」理解を労働法分野にも及ぼすのか、見ものではあります。


 いずれにしても、民法によって解約権が発生し、そのうち使用者の解雇権は労働基準法・労働契約法によって制約される、という判断構造は理解しておくべきでしょう。

 なお、前回・今回は法律レベルの交通整理でしたが、この先に、労働契約・就業規則などでどこまでこの規律を崩せるか、という問題があります(強行規定/任意規定の区別)。
 が、ここから先は個別事案抜きで判断できるものではなさそうなので、そこまで踏み込むのはいたしません。

零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

○労働基準法

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
A 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
B 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
A 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
A 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
B 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(賃金の支払)
第二十四条
A 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
(適用除外)
第百十六条 第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については、適用しない。
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

○労働契約法

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(適用除外)
第二十一条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

○民法

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
posted by ウロ at 09:55| Comment(0) | 労働法