2021年11月08日

リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

 何やら大仰なタイトルですが。
 単純に、年末調整が条文でどのように表現されているかを確認してみる、というだけの話です。
 とりあえず、「年末調整の対象となる人/ならない人」のところだけさらっとみるだけのつもりで手をつけてみました。

○ 
 《日常系税務》としては、いちいち条文など確認することもなく、運営(国税庁)が出している公式ガイドブックに全乗っかりで処理して済むなら、それに越したことはない。何でもかんでも条文に立ち返る必要なんて、ない(時間が)。

【運営公式ガイド】
令和3年分 年末調整のしかた (以下「しかた」といいます)

 が、たとえば、(元)従業員から「会社が年末調整してくれなかったせいで自分で確定申告せざるをえなかった!」などと言われた場合を想定するならば、「法律レベル」で対象者がどのように規律されているかを見ておく必要があるはずです。

 ということで、条文と「しかた」を対比しながら、年末調整の対象者となる/ならないについての整理をしてみたいと思います。


 まずは条文から(必要箇所のみ抜粋)。

所得税法190条
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)


 ここから要件らしきものを抽出すると、

@ 居住者
A 扶養控除等申告書提出
B 年の確定給与2000万円以下
C Aの提出を受けた支払者が年最後の給与を支払
D 12/31までにCの支払者以外に扶養控除等申告書を提出する見込みがある場合を除く

となります(以下これらを「要件」といいます)。

 よくある解説モノでは、「2000万円超は対象外」と表現されがちですが、条文上は「2000万円以下なら対象」という書き方になっています。
 もちろん実体法的には同じことの表裏にすぎません。が、租税法を《要件事実論的思考()》によって構成しようとするならば、表から書くか裏から書くかは重要な違いです。条文の書きぶりを、整理の都合だけでお気軽に裏っ返してよいものではない。

【租税法と要件事実論()】
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 さらに「要件事実論的思考()」を展開するならば、Dの「見込み」は、年末調整の対象にならないと主張する側が「あること」につき立証責任がある事実だということになります。

 しかしまあ、税法で「見込み」ときくと非常に憂鬱な気分になります。合併のような一大イベントならともかく、年末調整のような大量処理が必要な局面において、逐一「見込み」で切り分けをしなければならないとか、どこまで真面目にやってられるのでしょうか。

【税法における見込みと予測可能性】
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)

 要件事実論()イジりはこの程度にして。


 他方で、「しかた」(6頁)によれば、対象者になる/ならないは次のように整理されています(一部省略と連番振り直しをしています)。

【年末調整の対象となる人】
(1) 1年を通じて勤務している人
(2) 年の中途で就職し、年末まで勤務している人
・年の中途で退職した人のうち、次の人
(3) 死亡により退職した人
(4) 著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人
(5) 12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人
(6) いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払受けると見込まれる場合を除きます。)
(7) 年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人(非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人をいいます。)

【年末調整の対象とならない人】
(8) 本年中の主たる給与の収入金額が2000万円を超える人
(9) 2か所以上から給与の支払を受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人や、年末調整を行うときまでに扶養控除等申告書を提出していない人(月額表又は日額表の乙欄適用者)
(10) 年の中途で退職した人で、(3)〜(6)に該当しない人
(11) 非居住者
(12) 継続して同一の雇用主に雇用されないいわゆる日雇労働者など(日額表の丙欄適用者)


 一見して、条文上の要件とうまく噛み合っていない印象を受けます。以下、個別にみていきます(順不同)。

○ (1) 1年を通じて勤務している人

 要件では「1年間勤務」など要求されていません。これは、親切心で典型的な類型を最初に括りだしてあげた、ということなのでしょう。
 このようなアプローチ、いわゆる《類型論的アプローチ》ということができます。

 本来であれば、条文上の個別の要件ごとに解釈・あてはめをしなければなりません。このようなアプローチを《規範論的アプローチ》ということができるでしょう。

 が、非専門家にとって法解釈・あてはめをするのはしばしば難解です。そこでいくつかの類型を掲げておくことで、その類型にあたりさえすれば、個別の解釈・あてはめをしないでも法適用ができるようにする、これが《類型論的アプローチ》です。

 《規範論的アプローチ》: 要件の解釈及びあてはめが必要
 《類型論的アプローチ》: 類型にあたるかだけを判断

 このように、《類型論的アプローチ》は、類型の設定がうまくできているかぎり、非常に分かりやすいものになります。
 「しかた」は、決してプロ向けではなく、非専門家がスムースに年末調整業務ができるように、という趣旨でいくつかの類型を掲げてくださっているのでしょう。

 にもかかわらず、《規範論的アプローチ》の観点から難癖をつけようとしている本ブログ、どうかしていますよね。全然納税者に《寄り添って》いねえじゃねえかと。

 しかしながら《類型論的アプローチ》、決して良いことばかりではなく。
 掲げられた類型に抜けがある場合には一気に弱点が露呈します。そして、私には「しかた」の掲げる類型には強い「ヌケ感」があるように感じられます。


 当初のつもりでは、単に「しかた」記載のなる人/ならない人を条文に当てはめて終わらす予定でした。
 が、《規範論的アプローチ》と《類型論的アプローチ》という視点が出てきてしまったので、やや込み入った話をする必要がありそうです。

 ということで、ここで一旦区切って、次回、「しかた」の《類型論的アプローチ》を《規範論的アプローチ》から批判的に検討する、ということをしてみたいと思います。

リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
posted by ウロ at 09:22| Comment(0) | 年末調整