2021年11月22日

リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

 今回は、残りの類型について検討します。

リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

 《規範論的アプローチ》: 要件の解釈及びあてはめが必要
 《類型論的アプローチ》: 類型にあたるかだけを判断

【運営公式ガイド(しかた)】(類型)
令和3年分 年末調整のしかた 

【条文】
所得税法190条
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)

【要件】(規範)
@ 居住者
A 扶養控除等申告書提出
B 年の確定給与2000万円以下
C Aの提出を受けた支払者が年最後の給与を支払
D 12/31までにCの支払者以外に扶養控除等申告書を提出する見込みがある場合を除く

【年末調整の対象となる人】
(1) 1年を通じて勤務している人
(2) 年の中途で就職し、年末まで勤務している人
・年の中途で退職した人のうち、次の人
(3) 死亡により退職した人
(4) 著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職ができないと見込まれる人
(5) 12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人
(6) いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払受けると見込まれる場合を除きます。)
(7) 年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人(非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人をいいます。)

【年末調整の対象とならない人】
(8) 本年中の主たる給与の収入金額が2000万円を超える人
(9) 2か所以上から給与の支払を受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人や、年末調整を行うときまでに扶養控除等申告書を提出していない人(月額表又は日額表の乙欄適用者)
(10) 年の中途で退職した人で、(3)〜(6)に該当しない人
(11) 非居住者
(12) 継続して同一の雇用主に雇用されないいわゆる日雇労働者など(日額表の丙欄適用者)



○ (2) 年の中途で就職し、年末まで勤務している人

 要件Cで、最後の給与を支払った者が年末調整することになっているので、これが対象になることに何の問題もありません。
 「しかた」では(1)を最初に掲げてしまったせいで、(2)を別の類型として掲げざるを得なくなった、ということです。

 ただし、この書きぶりは不正確。
 というのも、要件Cは年最後の「支払」を要求しているのであって、「勤務」を要求しているのではないからです。仮に12月に転職したとして、転職先の支給が12月中に無かった場合は、要件Cを満たさないことになります。
 《規範論的アプローチ》からは、年末まで「勤務」していても自社での「支給」がなければ対象外、というのが正しい。

 次の(5)とあわせて、12月転職絡みは次回整理したいと思います。

○ (5) 12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人

 通達190-1(4)に掲げられているものです。
 普通に要件を満たすものなので、《規範論的アプローチ》からすればあえて取り上げる必要のないものです。
 他方で《類型論的アプローチ》では、(1)で「年を通じて」としてしまったせいで、わざわざ別に掲げなければならなくなったものです。

 (6)と違って「見込みあり」の場合の除外が書かれていないのは謎です。
 12月中退職であってもその後12月中に別会社から給与の支払いを受けることもあるのであって、この場合を除外しなくてもよいのか。

 当然《規範論的アプローチ》からは要件Dとして必ず要求されるものです。が、「しかた」では、(6)にはあるが(5)にはないという「反対解釈()」を施すことによって、(5)では「見込みあり」でも対象者となるように読むことができてしまいます。

 また、この類型をみて即座に思い浮かぶ疑問は、12月中に「退職⇒支給」の順番の場合はどうなのか、ということです。
 支給時期が一部前払いの会社でもないかぎり、退職後に支給となるのが通常でしょう。のに、このような典型例を掲げずに、「支給⇒退職」という今どき珍しいパターンだけ掲げているのは不親切極まりない。

 では、実際どうなのか、というと、退職によって扶養控除等申告書の効力が無くなるので、Aの要件を満たさず「対象者とならない」というのが、《規範論的アプローチ》からの帰結です。
 通達194・195-6というのもありますが、これによって要件Aが緩和されるとしても、要件Dまで緩和されるとは理解しがたいです。

 この点は、次回検討します。

○ (6) いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後本年中に他の勤務先等から給与の支払受けると見込まれる場合を除きます。)

 各類型に縷々イチャモンをつけてきましたが、これが一番の謎類型。通達190-1にも列挙されていないのに、しれっと中途退職者グループの並びに掲げられています。

 《規範論的アプローチ》からすれば、パートタイマーかどうか、103万円以下かどうか、などで対象に「なる/ならない」の違いは生じません。どこの要件にも該当するものがない。
 また、カッコ書きの「見込み」はDに対応している風ですが、Dは扶養控除等申告書を「提出」する見込みかあるかどうかであって「支払い」の見込みなどではありません。

 もしかしてですが、『パートタイマー・103万円以下の中途退職者は、「103万円の壁」に阻まれて退職したに決まっている。だとしたら、年内に再就職することなんてありえないから、どんなに手前で退職した場合でも年末調整しちゃって問題ない』とでもいう、角度キツめの決めつけによるものでしょうか。
 つまり、Dの見込み無し要件を類型的に充足するパターンなんだと。
 
 パートタイマー・103万円以下に何某かの意味合いを持たせようと思ったら、それくらいしか思いつきません。


× (10) 年の中途で退職した人で、(3)〜(6)に該当しない人

 この書き方ができるのは、(3)〜(6)で中途退職者で対象者となる人が完全にカバーできている場合に限られます。
 が、ここまで述べた通り、(3)〜(6)は決して出来のよい類型とはいえず、このような「バスケット類型」をもって残りものをすべて対象外の側に流し込むのが適切とは思えません。

 傲慢にも程がある。


 このように、《類型論的アプローチ》は、出来の悪い類型が列挙されている場合には、《規範論的アプローチ》による検証におよそ耐えられるものではないことが分かります。

 法律の要件から離れて独り歩きした上で、ありうる場合をまともにカバーできていないのだとしたら、とても使える類型に仕上がっていない、未完成のものだということです。

 また、類型論を展開するのであれば、年末調整の対象者、対象となる給与の範囲、判定の時期などを、類型ごとに一気通貫で揃えて記述するべきです。そうしないと、要件の正確な再現を犠牲にしてまで類型化した意味が無くなります。


 まあ、この時期に、各サイトの『年調お役立ち記事』に紛れて、こんな記事を混入させるのは迷惑極まりない話でしょう。《日常系税務》にとっては余計な知識です。

 が、類型にあてはまらない事案に出くわした場合に備えて、「法律レベル」で年末調整の対象となる/ならないを理解しておくことが、大事なことだと、私は思います。

リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
posted by ウロ at 11:23| Comment(0) | 年末調整