「令和4年度税制改正大綱」が発表されましたが、当ブログでは、内容陳列記事を作成するつもりはありません。
というのも、要綱の段階では条文の体をなしておらず、当ブログのテーマたる「条文イジり」が発動しえないからです。
改正法にふれるとしても、法律・政令・省令あたりが出揃ってから、やっと検討してみるか、という感じになります(あくまでブログとして、であって実務家としてはまた別のお話)。
下記記事はまさにそういう趣旨のもので、「国内新規雇用者」の定義が、法律・政令・省令で一気通貫しているか、ということを扱っています。
珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)
さらに、《運営》が発表する手引の類が、条文をどのように落とし込んでいるか、というのも検討対象になりえます。
珍奇な新規(続) 〜『人材確保等促進税制御利用ガイドブック(令和3年5月31日公表版)』
今回扱ってみようと思ったものは、これからの改正内容というよりも、現行法レベルで気になるところがあったからです。
タイトルからご想像されるとおり、税法世界における「二枚舌概念」の問題です。「同居しているがしていない」「生活に必要だが必要でない」といった具合の。
【税法二枚舌概念】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
○
ということで、素材提供から。
P91
六 納税環境整備
5 その他
(地方税)
(1) 上場株式等の配当所得等に係る課税方式
@ 個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとする。
A 上記@に伴い、次の措置を講ずる。
イ 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用要件が所得税と一致するよう規定の整備を行う。
口 その他所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和6年度分以後の個人住民税について適用するとともに、所要の経過措置を講ずる。
(2)個人住民税における合計所得金額に係る規定の整備
@ 公的年金等控除額の算定の基礎となる公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額には、個人住民税における他の所得控除等と同様に、退職手当等を含まない合計所得金額を用いることとする。
(注)上記の改正は、令和4年度分以後の個人住民税について適用する。
A 給与所得者の扶養親族申告書及び給与支払報告書並びに公的年金等受給者の扶養親族申告書及び公的年金等支払報告書について、退職手当等を有する一定の配偶者及び扶養親族の氏名等を記載し、申告することとする等の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和5年1月1日以後に支払われる給与等及び公的年金等について適用する。
B 確定申告書における個人住民税に係る附記事項に、退職手当等を有する一定の配偶者及び扶養親族の氏名等を追加する。
(注)上記の改正は、令和4年分以後の確定申告書を令和5年1月1日以後に提出する場合について適用する。
C その他所要の措置を講ずる。
令和4年度税制改正大綱
(1)もあれなんですが、今回は(2)のほうです。
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これだけ読んでなんのことやら理解できる人はどれだけいるでしょうか。
この中身に入る前に、前提として地方税法における個人住民税(所得割額)の建て付けを説明します(というかこれがメイン)。
【以下のお約束事項】
・地は「地方税法」、所は「所得税法」
・地方税法の引用条文は「道府県民税」で代表させます。
・所得税法200条の場合など、源泉徴収をしない退職所得は考慮外とします。
○
年金収入だけある人であれば、以下の手順で「所得割額」を算出します(ざっくり)。
1 年金収入
2 年金所得
3 総所得金額
4 所得控除
5 課税総所得金額
6 所得割額
このうち1、2の、何が年金収入にあたり、そこからどのように年金所得を算出するかについては、所得税法(政令等含む)に依存しています。
地(所得割の課税標準)
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
他方で、3以下は、地方税法に直接書き込まれています。これは2項にいう「この法律又はこれに基づく政令で特別の定め」にあたります。
つまり、地方税法は、個人住民税について自給自足な定めとなっていないということです。
キマイラ感溢れる継ぎ接ぎ税目。
○
所得税法によれば年金所得は次のように算出されます。
所(雑所得)
第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額
二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額
3 前項に規定する公的年金等とは、次に掲げる年金をいう。
一 第三十一条第一号及び第二号(退職手当等とみなす一時金)に規定する法律の規定に基づく年金その他同条第一号及び第二号に規定する制度に基づく年金(これに類する給付を含む。第三号において同じ。)で政令で定めるもの
二 恩給(一時恩給を除く。)及び過去の勤務に基づき使用者であつた者から支給される年金
三 確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金(第三十一条第三号に規定する規約に基づいて拠出された掛金のうちにその年金が支給される同法第二十五条第一項(加入者)に規定する加入者(同項に規定する加入者であつた者を含む。)の負担した金額がある場合には、その年金の額からその負担した金額のうちその年金の額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額に相当する部分に限る。)その他これに類する年金として政令で定めるもの
4 第二項に規定する公的年金等控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額がないものとして計算した場合における第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額(次号及び第三号において「公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額」という。)が千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が六十万円に満たない場合には、六十万円)
イ 四十万円
ロ その年中の公的年金等の収入金額から五十万円を控除した残額の次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(1) 当該残額が三百六十万円以下である場合 当該残額の百分の二十五に相当する金額
(2) 当該残額が三百六十万円を超え七百二十万円以下である場合 九十万円と当該残額から三百六十万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額との合計額
(3) 当該残額が七百二十万円を超え九百五十万円以下である場合 百四十四万円と当該残額から七百二十万円を控除した金額の百分の五に相当する金額との合計額
(4) 当該残額が九百五十万円を超える場合 百五十五万五千円
二 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が千万円を超え二千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が五十万円に満たない場合には、五十万円)
イ 三十万円
ロ 前号ロに掲げる金額
三 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が二千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が四十万円に満たない場合には、四十万円)
イ 二十万円
ロ 第一号ロに掲げる金額
文字で書かれるとなんのこっちゃ、て感じでしょうが、下記ページの表で「公的年金等控除」の内容をご確認ください。
No.1600 公的年金等の課税関係
ここでは「公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額」によって公的年金等控除額が異なることになっています(4項1号〜3号)。
○
では「合計所得金額」とはなんぞや、ということですが、これは次の箇所に書かれています。
所(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十 寡婦 次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいう。
イ 夫と離婚した後婚姻をしていない者のうち、次に掲げる要件を満たすもの
(1) 扶養親族を有すること。
(2) 第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であること。
所(課税標準)
第二十二条 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第七十条第一項若しくは第二項(純損失の繰越控除)又は第七十一条第一項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
一 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(第三十三条第三項第一号(譲渡所得の金額の計算)に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額(これらの金額につき第六十九条(損益通算)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額
二 譲渡所得の金額(第三十三条第三項第二号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び一時所得の金額(これらの金額につき第六十九条の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額の二分の一に相当する金額
3 退職所得金額又は山林所得金額は、それぞれ次節の規定により計算した退職所得の金額又は山林所得の金額(これらの金額につき第六十九条から第七十一条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
何「寡婦」引用しちゃってんの、と思うかもしれません(コピペレポートがばれる大学生のごとく)。が、これ間違いではなく。
「寡婦」の定義の中にこっそり紛れていて、これを各所で使いまわしています(不格好)。
そして上記のとおり、「退職所得の金額」も合計所得金額に含まれています。
合計所得金額(国税庁)
(このページは確定申告絡みのページなので参照条文が省略されてしまっていますが、所得税法や租税特別措置法の規律をまとめた結果が書かれています。)
分離だから入れなくていいんじゃないの、と思いきや。
退職所得は確定申告しなくていい(場合がある)とは書いてあるものの、合計所得金額から除かれるということまでは書かれていません。
所(確定所得申告を要しない場合)
第百二十一条
2 その年において退職所得を有する居住者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税退職所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。
一 その年分の退職所得に係る第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この項において「退職手当等」という。)の全部について第百九十九条(退職所得に係る源泉徴収義務)及び第二百一条第一項(退職所得に係る源泉徴収税額)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合
二 前号に該当する場合を除き、その年分の課税退職所得金額につき第八十九条(税率)の規定を適用して計算した所得税の額がその年分の退職所得に係る退職手当等につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額以下である場合
じゃあ、源泉分離課税・申告不要制度の利子所得や配当所得が加算されないとか、申告分離課税を選択すると加算されるとかそのあたりはどうなっているのか、というと、これは「租税特別措置法」が差配をしています。が、話が長くなるので今回は省略。
措置法が適用される所得については、措置法が足したり引いたりしているわけですが、所得税法本体のみが適用される退職所得については、所得税法で明記されないかぎり、合計所得金額から逃れることはできないということです。
ということで、結論として、多額の退職金をもらった年は、合計所得金額が膨らむことで公的年金等控除が少なくなることになりうるわけです。分離だから総合所得とは無関係、というのではなく、一定の影響を及ぼすことになります。
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で、「地方税法」の話ですが、年金所得の算出についてはこの所得税法の規律をそのままお借りしているので、個人住民税を計算する際の年金所得も連動します。
ではあるのですが、厄介なのが、上記の通り全面的に所得税法の規律に依存しているのではないということ(キマイラ税目がキマイラたる所以)。
「所得控除」については地方税法に独自の規定が存在しています(以下「配偶者控除」で代表させます)。
地(所得控除)
第三十四条 道府県は、所得割の納税義務者が次の各号に掲げる者のいずれかに該当する場合には、それぞれ当該各号に定める金額をその者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除するものとする。
十 控除対象配偶者を有する所得割の納税義務者 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める金額
イ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百万円以下である場合 三十三万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者(控除対象配偶者のうち、年齢七十歳以上の者をいう。以下この条及び第三十七条第一号イにおいて同じ。)である場合には、三十八万円)
ロ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百万円を超え九百五十万円以下である場合 二十二万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、二十六万円)
ハ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百五十万円を超え千万円以下である場合 十一万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、十三万円)
地(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
八 控除対象配偶者 同一生計配偶者のうち、前年の合計所得金額が千万円以下である道府県民税の納税義務者の配偶者をいう。
配偶者控除が「所得税だと38万円なのに住民税では33万円」などといった違いがあるのは、所得税法83条から5万円減らしている、ということではなく、地方税法自体に33万円と書き込まれているからです。
控除額は異なるものの、要件は同じとなっています(のに、お借りすることなくしっかり書き込まれている)。
ここで所得税法と同じ「合計所得金額」という言葉が出てくるため、所得税法と同じように退職所得も含めて判定するのかと思いきや。
そう早合点してはいけない。
○
「合計所得金額」の定義は地方税法にもあります。
地(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十三 合計所得金額 第三十二条第八項及び第九項の規定による控除前の同条第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。
寡婦の定義に紛れ込ませるなんてことはせず、ちゃんと独立の号で規定されています。エレガントですね(が、そもそもキマイラ)。
これだけみると、所得税法と言い回しはそっくりなので、やっぱり「退職所得金額」も含まれるんじゃん、と思いきや。
まだ早合点してはいけない。
次の規定により、合計所得金額から退職所得が除かれることになっています。
地(退職所得の課税の特例)
第五十条の二 第二十四条第一項第一号の者が退職手当等(所得税法第百九十九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきものに限る。以下本目において同じ。)の支払を受ける場合には、当該退職手当等に係る所得割は、第三十二条、第三十五条及び第三十九条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分し、本目に規定するところにより、当該退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在におけるその者の住所所在の道府県において課する。
地(所得割の課税標準)
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
この条文だけ読んで、「合計所得金額」から退職所得を除くと読め、というのはかなりの難題。ですが、そう読めということらしい。
我々は結論が分かっているから無理やりにでもそのように読むことができますけども、フラットな状態で読んだとして、そのような理解に到れるかは極めて怪しい。
それはともかく、結果として「配偶者控除」(地)の判定をする際の本人と配偶者の「合計所得金額」には、退職所得は含まれないということになります。
ので、所得税では退職所得のせいで配偶者控除が受けられなかったが、住民税では配偶者控除が受けられる、という事態が生じえます。
【合計所得金額に退職所得は含まれるか?】
所 公的年金等控除 含む
所 所得控除 含む
地 公的年金等控除 含む
地 所得控除 含まない!
総所得金額等の違いについて - 富田林市
(検索して一番上に出てきたので。他意はありません)
上記サイトでは、源泉分離課税の退職所得は合計所得金額に含まれないことが明記されていますが、自治体によっては書かれていないものもあったりします。
また、上記サイトでもさすがに、公的年金等控除を判定する場合には含める、ということまでは書かれていません。
○
ここまでの長い道のりを辿ってはじめて、大綱の「現行法では退職所得が公的年金等控除の判定には含まれるが所得控除の判定には含まれない」ということの意味が理解できることになります。
で、地方税法32条2項でいうところの「この法律又はこれに基づく政令で特別の定め」をおくことで、公的年金等控除についても地方税法の合計所得金額を使う旨を規定するということなのでしょう。
所得の計算に地方税法の独自要素をねじ込むという、現行法の「頭は所得税法、体は地方税法」の均衡を突き崩す、かなり大胆な改正提案だと思うのですが。「頭はライオン、体と口が山羊」的な。
なのに、所得課税のところではなく、納税環境整備のその他なんてところに記載されているという。
また、配偶者・扶養親族の退職所得情報を追加しろ、とも書いてあります。
これはおそらく、本人については支給した会社からだったり確定申告書だったりで把握できるけども、配偶者・扶養親族が退職金もらっているかどうかを把握するのが、現状困難ということなんでしょう。
仮に、所得税の確定申告で配偶者控除の適用を受けていなかったとして、その理由が、配偶者がその年退職金を沢山もらっていたからなのか、それともそれ以外の所得があったからなのか、分からないでしょうし。
「納税環境整備」の箇所に記載されているというのも、改正提案の趣旨が、決して税額を軽減する目的ではなく、自治体が退職所得を把握しやすくする、というのがメインだからではないでしょうか。
で、総務省がなんか要望していて特に害もなさそうだからとりあえず入れておくか、ぐらいのノリ。
このあたりの、所得税と住民税とで連携が取れているようで取れていない、という現状を鑑みるに、やはり、自治体から送られてくる「住民税税額決定通知書」、ちゃんと内容をみて、正しく計算されているか確認するべきものなんでしょう。
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なお、公的年金等控除と同じポジションのものに「所得金額調整控除」があります。
No.1411所得金額調整控除
給与850万円というのは「収入」判定だからいいとして、同一生計配偶者・扶養親族の合計所得金額や給与・年金双方ある場合の年金所得の計算はどうするんでしょうかね?
自治体の業務効率を図ることがメインで、公的年金等控除の改正はそのバーター、なのだとしたら、所得金額調整控除までは手を加えないのかもしれません。
が、そこだけ残すのも、極めて落ち着きが悪い。
【合計所得金額に退職所得を含めるか?】
所得税 住民税
所得金額調整控除(子ども等) 含める 含める(?)
所得金額調整控除(年金) 含める 含める(?)
公的年金等控除 含める 含める(改正予定)
所得控除 含める 含めない
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
2021年12月27日
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
posted by ウロ at 10:25| Comment(0)
| 地方税法
2021年12月20日
機能的年末調整論(その2) 〜年末調整と死別(配偶者)
年末調整、人様のプライベートずかずか覗き込み業務なわけで、悲喜こもごも様々な出来事に出くわすことがあります。
ではありますが、仕事は仕事でしっかり仕上げなければなりません。
今回のようなことを検討しておくのは、そういった場合でも冷静に対応するための「備えもん」という位置づけです。
では、配偶者と「死別」した場合、前年と当年の処理がどのように変わってくるか。前回同様、各控除はそれぞれ独立したものとし、年末調整でやるもののみを検討対象とします。
○
基本的には、法85条により「死亡日の現況」で判断となるため、年の中途で死別したら当年は「配偶者あり」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
離婚の場合と同じです。
2 所得金額調整控除
前年 配偶者(特別障害者)として適用していた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
離婚の場合と同じです。
4 社会保険料控除
前年 配偶者負担分につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、前回述べたとおり通達がないからです。
もし「支払時の現況」で判断してよいのであれば、離婚と同様、死別まで支払分は適用を受けられることになるはずです。
なお、通達124・125−4によれば、本人死亡の「準確定申告」の場面では、本人死亡日まで支払分を含めることになっています。
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
離婚の場合と同じです。
6 生命保険料控除
前年 受取人配偶者で適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(通76-1)
「支払時の現況」で判断となるため、死別まで支払分は適用を受けることができます。
離婚と異なるのは、死別によって直ちに受取人が他人扱いになるわけではないという点です。
保険契約にもよるでしょうが、通例、受取人が死亡した場合はその「法定相続人」が受取人となる扱いかと思います。
一般・介護については子やその他親族が受取人でも適用を受けられるわけで、もし受取人変更しないまま保険料の支払を継続していた場合に、引き続き適用を受けられるのかどうか。
配偶者の法定相続人に相当する人が本人の親族の範囲内に納まっていれば、適用ありでもよいように思えます。が、このような疑義があるわけで、速やかに受取人変更をしておくのが無難でしょう。
7 地震保険料控除
前年 配偶者所有住居につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、上記同様。
もし、住宅を「相続」すれば、引き続き適用を受けられることになります。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 影響なし
死別の場合、扶養関係が変わることは通常ないでしょう。
離婚のような、扶養親族の奪い合いは生じないということです。
10 障害者控除
前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族がいなくても適用できる
死別すれば「寡婦」となります。
離婚と違って、扶養親族がいなくても適用を受けられます。
ひとり親控除が受けられる場合はそちらが優先です。
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族(子)がいれば適用できる
離婚すれば「ひとり親」になります。
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
ただし、「単身赴任」で配偶者のみ居住で適用を受けていた場合、この状態で配偶者と死別をすると当年から適用できなくなりそうです。
この「単身赴任」の例外は通達レベルでの緩和ですが、同通達では、配偶者死亡の場合については何も触れられていません。死を予知したら速攻、戻ってこなければならないでしょうか。
○
以上、各控除間には、法的な連動だけではなく、事実上の連動というものもありました。こういった記述、世の「税務本」ではほぼほぼ望み得ない。
もちろん、実務家として大量処理をするなかで、そんなところまで気を遣ってられるか、ということもあるかとは思います。
が、『当事務所はそこらの敷居の高い士業事務所などとは異なり、顧客に《寄り添った》サービスを提供します』とか謳いたいのならば、そういったきめ細やかな気遣いもしてあげたらいいんじゃないですかね。
○所得税法
(扶養親族等の判定の時期等)
第八十五条 第七十九条第一項(障害者控除)又は第八十条から第八十二条まで(寡婦控除等)の場合において、居住者が特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時。以下この条において同じ。)の現況による。ただし、その居住者の子がその当時既に死亡している場合におけるその子がその居住者の第二条第一項第三十一号イ(定義)に規定する政令で定める子に該当するかどうかの判定は、当該死亡の時の現況による。
2 第七十九条第二項又は第三項の場合において、居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が同項の規定に該当する特別障害者(第百八十七条(障害者控除等の適用を受ける者に係る徴収税額)、第百九十条第二号ハ(年末調整)、第百九十四条第一項第三号(給与所得者の扶養控除等申告書)、第二百三条の三第一号ト(徴収税額)及び第二百三条の六第一項第五号(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)において「同居特別障害者」という。)若しくはその他の特別障害者又は特別障害者以外の障害者に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。
ただし、その同一生計配偶者又は扶養親族がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
3 第七十九条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しくはその他の控除対象配偶者若しくはその他の同一生計配偶者若しくは第八十三条の二第一項(配偶者特別控除)に規定する生計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
4 一の居住者の配偶者がその居住者の同一生計配偶者に該当し、かつ、他の居住者の扶養親族にも該当する場合には、その配偶者は、政令で定めるところにより、これらのうちいずれか一にのみ該当するものとみなす。
5 二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす。
6 年の中途において居住者の配偶者が死亡し、その年中にその居住者が再婚した場合におけるその死亡し、又は再婚した配偶者に係る同一生計配偶者及び第八十三条の二第一項に規定する生計を一にする配偶者並びに扶養親族の範囲の特例については、政令で定める。
○所得税基本通達
(控除の対象となる生命保険料等)
76−1 法第76条第1項に規定する「新生命保険料」(76−6において「新生命保険料」という。)、同項に規定する「旧生命保険料」(76−2において「旧生命保険料」という。)、同条第2項に規定する「介護医療保険料」、同条第3項に規定する「新個人年金保険料」(76−8において「新個人年金保険料」という。)又は同項に規定する「旧個人年金保険料」(76−8において「旧個人年金保険料」という。)に該当するかどうかは、保険料又は掛金を支払った時の現況により判定する。
ではありますが、仕事は仕事でしっかり仕上げなければなりません。
今回のようなことを検討しておくのは、そういった場合でも冷静に対応するための「備えもん」という位置づけです。
では、配偶者と「死別」した場合、前年と当年の処理がどのように変わってくるか。前回同様、各控除はそれぞれ独立したものとし、年末調整でやるもののみを検討対象とします。
○
基本的には、法85条により「死亡日の現況」で判断となるため、年の中途で死別したら当年は「配偶者あり」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
離婚の場合と同じです。
2 所得金額調整控除
前年 配偶者(特別障害者)として適用していた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
離婚の場合と同じです。
4 社会保険料控除
前年 配偶者負担分につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、前回述べたとおり通達がないからです。
もし「支払時の現況」で判断してよいのであれば、離婚と同様、死別まで支払分は適用を受けられることになるはずです。
なお、通達124・125−4によれば、本人死亡の「準確定申告」の場面では、本人死亡日まで支払分を含めることになっています。
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
離婚の場合と同じです。
6 生命保険料控除
前年 受取人配偶者で適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(通76-1)
「支払時の現況」で判断となるため、死別まで支払分は適用を受けることができます。
離婚と異なるのは、死別によって直ちに受取人が他人扱いになるわけではないという点です。
保険契約にもよるでしょうが、通例、受取人が死亡した場合はその「法定相続人」が受取人となる扱いかと思います。
一般・介護については子やその他親族が受取人でも適用を受けられるわけで、もし受取人変更しないまま保険料の支払を継続していた場合に、引き続き適用を受けられるのかどうか。
配偶者の法定相続人に相当する人が本人の親族の範囲内に納まっていれば、適用ありでもよいように思えます。が、このような疑義があるわけで、速やかに受取人変更をしておくのが無難でしょう。
7 地震保険料控除
前年 配偶者所有住居につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、上記同様。
もし、住宅を「相続」すれば、引き続き適用を受けられることになります。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 影響なし
死別の場合、扶養関係が変わることは通常ないでしょう。
離婚のような、扶養親族の奪い合いは生じないということです。
10 障害者控除
前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族がいなくても適用できる
死別すれば「寡婦」となります。
離婚と違って、扶養親族がいなくても適用を受けられます。
ひとり親控除が受けられる場合はそちらが優先です。
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族(子)がいれば適用できる
離婚すれば「ひとり親」になります。
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
ただし、「単身赴任」で配偶者のみ居住で適用を受けていた場合、この状態で配偶者と死別をすると当年から適用できなくなりそうです。
この「単身赴任」の例外は通達レベルでの緩和ですが、同通達では、配偶者死亡の場合については何も触れられていません。死を予知したら速攻、戻ってこなければならないでしょうか。
○
以上、各控除間には、法的な連動だけではなく、事実上の連動というものもありました。こういった記述、世の「税務本」ではほぼほぼ望み得ない。
もちろん、実務家として大量処理をするなかで、そんなところまで気を遣ってられるか、ということもあるかとは思います。
が、『当事務所はそこらの敷居の高い士業事務所などとは異なり、顧客に《寄り添った》サービスを提供します』とか謳いたいのならば、そういったきめ細やかな気遣いもしてあげたらいいんじゃないですかね。
○所得税法
(扶養親族等の判定の時期等)
第八十五条 第七十九条第一項(障害者控除)又は第八十条から第八十二条まで(寡婦控除等)の場合において、居住者が特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時。以下この条において同じ。)の現況による。ただし、その居住者の子がその当時既に死亡している場合におけるその子がその居住者の第二条第一項第三十一号イ(定義)に規定する政令で定める子に該当するかどうかの判定は、当該死亡の時の現況による。
2 第七十九条第二項又は第三項の場合において、居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が同項の規定に該当する特別障害者(第百八十七条(障害者控除等の適用を受ける者に係る徴収税額)、第百九十条第二号ハ(年末調整)、第百九十四条第一項第三号(給与所得者の扶養控除等申告書)、第二百三条の三第一号ト(徴収税額)及び第二百三条の六第一項第五号(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)において「同居特別障害者」という。)若しくはその他の特別障害者又は特別障害者以外の障害者に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。
ただし、その同一生計配偶者又は扶養親族がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
3 第七十九条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しくはその他の控除対象配偶者若しくはその他の同一生計配偶者若しくは第八十三条の二第一項(配偶者特別控除)に規定する生計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
4 一の居住者の配偶者がその居住者の同一生計配偶者に該当し、かつ、他の居住者の扶養親族にも該当する場合には、その配偶者は、政令で定めるところにより、これらのうちいずれか一にのみ該当するものとみなす。
5 二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす。
6 年の中途において居住者の配偶者が死亡し、その年中にその居住者が再婚した場合におけるその死亡し、又は再婚した配偶者に係る同一生計配偶者及び第八十三条の二第一項に規定する生計を一にする配偶者並びに扶養親族の範囲の特例については、政令で定める。
○所得税基本通達
(控除の対象となる生命保険料等)
76−1 法第76条第1項に規定する「新生命保険料」(76−6において「新生命保険料」という。)、同項に規定する「旧生命保険料」(76−2において「旧生命保険料」という。)、同条第2項に規定する「介護医療保険料」、同条第3項に規定する「新個人年金保険料」(76−8において「新個人年金保険料」という。)又は同項に規定する「旧個人年金保険料」(76−8において「旧個人年金保険料」という。)に該当するかどうかは、保険料又は掛金を支払った時の現況により判定する。
posted by ウロ at 09:38| Comment(0)
| 年末調整
2021年12月13日
機能的年末調整論(その1) 〜年末調整と離婚(配偶者)
年末調整に関しては、「理論書」なり「体系書」というものが皆無です。
あるのは、1年サイクルの使い捨て感満載の「実務書」だけ。1年サイクルとはいっても、実際に使われるのは出版から数ヶ月だけでしょうし。
また、たとえば、年の中途で配偶者と離婚したとか死別したとかいった異動が生じた場合に、全体にどういった影響があるのか、といった「機能的」な観点からの書籍も皆無。
個々の所得控除ごとに書いてあったりなかったりで、まとまった記述をしてくれているものがない。
ということで、整理をしてみることにしました。
今回は配偶者と「離婚」した場合です。以下、各控除はそれぞれ独立したものとし、年末調整でやるもののみを検討対象とします。
そして、離婚したことで前年と当年の処理がどのように変わってくるか、という観点から記述します。
余談ですが、「一度正面からひととおり勉強した後に、基本的な事例につきパラメータを少しずついじることで、要件のあてはめがどのように変化するか」という観点から勉強をするの、かなり有益だと個人的には思っています。
少なくとも、長文の判決文を闇雲に読ませるようなやり方よりは。
○
基本的なスタンスは、法85条により「12/31の現況」で判断となるため、年の中途で離婚をしたら当年は「配偶者なし」扱いとなります。
が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。以下、控除ごとに個別にみてみます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
2 所得金額調整控除
前年 配偶者(特別障害者)として適用していた
当年 離婚したら適用できない
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
4 社会保険料控除
前年 配偶者負担分につき適用を受けていた
当年 離婚まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、生命保険料控除については通達76-1に「支払時の現況」で判断とあるのに、社会保険料控除についてはそのような規定がないからです。いわゆる保険料グループとしておそらく同じであろう、という私見による解釈にとどまります。
こういう通達にないもの、そこらの「実務書」の類には絶対に(絶対に)記載されることがない。
【税務本の表と裏】
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
他の保険料グループと違って、これは本人負担分しか認められていません。
「離婚」という横串を通すことで、縦割りの「実務書」では見えてこなかった控除ごとの違いがよく見えてきます。
6 生命保険料控除
前年 受取人配偶者で適用を受けていた
当年 離婚まで支払分は適用あり(通76-1)
上記の通り、生命保険料控除については「支払時の現況」だとする通達があります。
離婚したばかりでお忙しいでしょうがすみやかに受取人変更しましょう、ということになります。
7 地震保険料控除
前年 配偶者所有住居につき適用を受けていた
当年 離婚まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、社会保険料控除と同じく規定がないからです。
なお、財産分与なりで所有権の移転を受けたら、引き続き適用を受けられることになります。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 離婚したら適用できない
まあ、当然だと。日割りとかはないわけです。
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 離婚により子が扶養親族でなくなったら適用できなくなる
AB離婚後、Aは同居して育てている/Bは養育費を支払っている、という場合にどちらの扶養親族となるか。
帰属ルールは法85条5項・令219条に定められていますが、いずれにしても重複適用はできません。
いわゆる「親権」をとるとらない、という民法上のド派手な権利レベルの紛争だけでなく、どちらの扶養親族とするか、という税法上の争いもあるということです。
10 障害者控除
前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
当年 離婚したら適用を受けられなくなる
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族(子以外)がいれば適用できる
離婚すれば「寡婦」になるわけです。
子以外とあるのは、子の場合は次の「ひとり親控除」になるからです。
子以外の場合は血族/姻族で分断されるわけだから、子のような奪い合いは生じないでしょうか(ただし、孫以下は子と同じか?)。
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族(子)がいれば適用できる
離婚すれば「ひとり親」になります。税法上の扶養親族(子)の奪い合いになるのは上記のとおり。
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
これは、あくまで本人だけなんですよね。
もしかしたら、離婚して一人で子供を育てることになったので学校に通う時間がなくなった、ので退学した、ということがありうるかもしれません。この場合は「12/31の現況」で判断となるので適用受けられなくなります。
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 離婚後も引き続き居住していれば影響なし
なお、配偶者に「財産分与」してしまうと、本人は適用を受けられなくなります。
この場合、配偶者の側で適用を受けられる可能性があります。
財産分与により住宅を取得した場合(質疑応答事例)
また、「単身赴任」で配偶者のみ居住でも適用を受けられることになっていますが、この状態で離婚をすると適用できなくなります。仮に、離婚後も元配偶者に引き続き居住してもらったとしても、もはや「他人」なので適用不可です。
No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等
次回は「死別」の場合を検討します。
○所得税法
(扶養親族等の判定の時期等)
第八十五条 第七十九条第一項(障害者控除)又は第八十条から第八十二条まで(寡婦控除等)の場合において、居住者が特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時。以下この条において同じ。)の現況による。ただし、その居住者の子がその当時既に死亡している場合におけるその子がその居住者の第二条第一項第三十一号イ(定義)に規定する政令で定める子に該当するかどうかの判定は、当該死亡の時の現況による。
2 第七十九条第二項又は第三項の場合において、居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が同項の規定に該当する特別障害者(第百八十七条(障害者控除等の適用を受ける者に係る徴収税額)、第百九十条第二号ハ(年末調整)、第百九十四条第一項第三号(給与所得者の扶養控除等申告書)、第二百三条の三第一号ト(徴収税額)及び第二百三条の六第一項第五号(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)において「同居特別障害者」という。)若しくはその他の特別障害者又は特別障害者以外の障害者に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。
ただし、その同一生計配偶者又は扶養親族がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
3 第七十九条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しくはその他の控除対象配偶者若しくはその他の同一生計配偶者若しくは第八十三条の二第一項(配偶者特別控除)に規定する生計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
4 一の居住者の配偶者がその居住者の同一生計配偶者に該当し、かつ、他の居住者の扶養親族にも該当する場合には、その配偶者は、政令で定めるところにより、これらのうちいずれか一にのみ該当するものとみなす。
5 二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす。
6 年の中途において居住者の配偶者が死亡し、その年中にその居住者が再婚した場合におけるその死亡し、又は再婚した配偶者に係る同一生計配偶者及び第八十三条の二第一項に規定する生計を一にする配偶者並びに扶養親族の範囲の特例については、政令で定める。
○所得税法施行令
(二以上の居住者がある場合の扶養親族の所属)
第二百十九条 法第八十五条第五項(扶養親族等の判定の時期等)の場合において、同項に規定する二以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者の提出するその年分の前条第一項に規定する申告書等(法第百九十五条の二第一項(給与所得者の配偶者控除等申告書)の規定による申告書を除く。以下この条において「申告書等」という。)に記載されたところによる。ただし、本文又は次項の規定により、その扶養親族がいずれか一の居住者の扶養親族に該当するものとされた後において、これらの居住者が提出する申告書等にこれと異なる記載をすることにより、他のいずれか一の居住者の扶養親族とすることを妨げない。
2 前項の場合において、二以上の居住者が同一人をそれぞれ自己の扶養親族として申告書等に記載したとき、その他同項の規定によりいずれの居住者の扶養親族とするかを定められないときは、次に定めるところによる。
一 その年において既に一の居住者が申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、当該親族は、当該居住者の扶養親族とする。
二 前号の規定によつてもいずれの居住者の扶養親族とするかが定められない扶養親族は、居住者のうち総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額又は当該親族がいずれの居住者の扶養親族とするかを判定すべき時における当該合計額の見積額が最も大きい居住者の扶養親族とする。
○所得税基本通達
(控除の対象となる生命保険料等)
76−1 法第76条第1項に規定する「新生命保険料」(76−6において「新生命保険料」という。)、同項に規定する「旧生命保険料」(76−2において「旧生命保険料」という。)、同条第2項に規定する「介護医療保険料」、同条第3項に規定する「新個人年金保険料」(76−8において「新個人年金保険料」という。)又は同項に規定する「旧個人年金保険料」(76−8において「旧個人年金保険料」という。)に該当するかどうかは、保険料又は掛金を支払った時の現況により判定する。
あるのは、1年サイクルの使い捨て感満載の「実務書」だけ。1年サイクルとはいっても、実際に使われるのは出版から数ヶ月だけでしょうし。
また、たとえば、年の中途で配偶者と離婚したとか死別したとかいった異動が生じた場合に、全体にどういった影響があるのか、といった「機能的」な観点からの書籍も皆無。
個々の所得控除ごとに書いてあったりなかったりで、まとまった記述をしてくれているものがない。
ということで、整理をしてみることにしました。
今回は配偶者と「離婚」した場合です。以下、各控除はそれぞれ独立したものとし、年末調整でやるもののみを検討対象とします。
そして、離婚したことで前年と当年の処理がどのように変わってくるか、という観点から記述します。
余談ですが、「一度正面からひととおり勉強した後に、基本的な事例につきパラメータを少しずついじることで、要件のあてはめがどのように変化するか」という観点から勉強をするの、かなり有益だと個人的には思っています。
少なくとも、長文の判決文を闇雲に読ませるようなやり方よりは。
○
基本的なスタンスは、法85条により「12/31の現況」で判断となるため、年の中途で離婚をしたら当年は「配偶者なし」扱いとなります。
が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。以下、控除ごとに個別にみてみます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
2 所得金額調整控除
前年 配偶者(特別障害者)として適用していた
当年 離婚したら適用できない
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
4 社会保険料控除
前年 配偶者負担分につき適用を受けていた
当年 離婚まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、生命保険料控除については通達76-1に「支払時の現況」で判断とあるのに、社会保険料控除についてはそのような規定がないからです。いわゆる保険料グループとしておそらく同じであろう、という私見による解釈にとどまります。
こういう通達にないもの、そこらの「実務書」の類には絶対に(絶対に)記載されることがない。
【税務本の表と裏】
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
他の保険料グループと違って、これは本人負担分しか認められていません。
「離婚」という横串を通すことで、縦割りの「実務書」では見えてこなかった控除ごとの違いがよく見えてきます。
6 生命保険料控除
前年 受取人配偶者で適用を受けていた
当年 離婚まで支払分は適用あり(通76-1)
上記の通り、生命保険料控除については「支払時の現況」だとする通達があります。
離婚したばかりでお忙しいでしょうがすみやかに受取人変更しましょう、ということになります。
7 地震保険料控除
前年 配偶者所有住居につき適用を受けていた
当年 離婚まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、社会保険料控除と同じく規定がないからです。
なお、財産分与なりで所有権の移転を受けたら、引き続き適用を受けられることになります。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 離婚したら適用できない
まあ、当然だと。日割りとかはないわけです。
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 離婚により子が扶養親族でなくなったら適用できなくなる
AB離婚後、Aは同居して育てている/Bは養育費を支払っている、という場合にどちらの扶養親族となるか。
帰属ルールは法85条5項・令219条に定められていますが、いずれにしても重複適用はできません。
いわゆる「親権」をとるとらない、という民法上のド派手な権利レベルの紛争だけでなく、どちらの扶養親族とするか、という税法上の争いもあるということです。
10 障害者控除
前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
当年 離婚したら適用を受けられなくなる
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族(子以外)がいれば適用できる
離婚すれば「寡婦」になるわけです。
子以外とあるのは、子の場合は次の「ひとり親控除」になるからです。
子以外の場合は血族/姻族で分断されるわけだから、子のような奪い合いは生じないでしょうか(ただし、孫以下は子と同じか?)。
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 扶養親族(子)がいれば適用できる
離婚すれば「ひとり親」になります。税法上の扶養親族(子)の奪い合いになるのは上記のとおり。
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
これは、あくまで本人だけなんですよね。
もしかしたら、離婚して一人で子供を育てることになったので学校に通う時間がなくなった、ので退学した、ということがありうるかもしれません。この場合は「12/31の現況」で判断となるので適用受けられなくなります。
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 離婚後も引き続き居住していれば影響なし
なお、配偶者に「財産分与」してしまうと、本人は適用を受けられなくなります。
この場合、配偶者の側で適用を受けられる可能性があります。
財産分与により住宅を取得した場合(質疑応答事例)
また、「単身赴任」で配偶者のみ居住でも適用を受けられることになっていますが、この状態で離婚をすると適用できなくなります。仮に、離婚後も元配偶者に引き続き居住してもらったとしても、もはや「他人」なので適用不可です。
No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等
次回は「死別」の場合を検討します。
○所得税法
(扶養親族等の判定の時期等)
第八十五条 第七十九条第一項(障害者控除)又は第八十条から第八十二条まで(寡婦控除等)の場合において、居住者が特別障害者若しくはその他の障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日(その者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時。以下この条において同じ。)の現況による。ただし、その居住者の子がその当時既に死亡している場合におけるその子がその居住者の第二条第一項第三十一号イ(定義)に規定する政令で定める子に該当するかどうかの判定は、当該死亡の時の現況による。
2 第七十九条第二項又は第三項の場合において、居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が同項の規定に該当する特別障害者(第百八十七条(障害者控除等の適用を受ける者に係る徴収税額)、第百九十条第二号ハ(年末調整)、第百九十四条第一項第三号(給与所得者の扶養控除等申告書)、第二百三条の三第一号ト(徴収税額)及び第二百三条の六第一項第五号(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)において「同居特別障害者」という。)若しくはその他の特別障害者又は特別障害者以外の障害者に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。
ただし、その同一生計配偶者又は扶養親族がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
3 第七十九条から前条までの場合において、その者が居住者の老人控除対象配偶者若しくはその他の控除対象配偶者若しくはその他の同一生計配偶者若しくは第八十三条の二第一項(配偶者特別控除)に規定する生計を一にする配偶者又は特定扶養親族、老人扶養親族若しくはその他の控除対象扶養親族若しくはその他の扶養親族に該当するかどうかの判定は、その年十二月三十一日の現況による。ただし、その判定に係る者がその当時既に死亡している場合は、当該死亡の時の現況による。
4 一の居住者の配偶者がその居住者の同一生計配偶者に該当し、かつ、他の居住者の扶養親族にも該当する場合には、その配偶者は、政令で定めるところにより、これらのうちいずれか一にのみ該当するものとみなす。
5 二以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、政令で定めるところにより、これらの居住者のうちいずれか一の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなす。
6 年の中途において居住者の配偶者が死亡し、その年中にその居住者が再婚した場合におけるその死亡し、又は再婚した配偶者に係る同一生計配偶者及び第八十三条の二第一項に規定する生計を一にする配偶者並びに扶養親族の範囲の特例については、政令で定める。
○所得税法施行令
(二以上の居住者がある場合の扶養親族の所属)
第二百十九条 法第八十五条第五項(扶養親族等の判定の時期等)の場合において、同項に規定する二以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者の提出するその年分の前条第一項に規定する申告書等(法第百九十五条の二第一項(給与所得者の配偶者控除等申告書)の規定による申告書を除く。以下この条において「申告書等」という。)に記載されたところによる。ただし、本文又は次項の規定により、その扶養親族がいずれか一の居住者の扶養親族に該当するものとされた後において、これらの居住者が提出する申告書等にこれと異なる記載をすることにより、他のいずれか一の居住者の扶養親族とすることを妨げない。
2 前項の場合において、二以上の居住者が同一人をそれぞれ自己の扶養親族として申告書等に記載したとき、その他同項の規定によりいずれの居住者の扶養親族とするかを定められないときは、次に定めるところによる。
一 その年において既に一の居住者が申告書等の記載によりその扶養親族としている場合には、当該親族は、当該居住者の扶養親族とする。
二 前号の規定によつてもいずれの居住者の扶養親族とするかが定められない扶養親族は、居住者のうち総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額又は当該親族がいずれの居住者の扶養親族とするかを判定すべき時における当該合計額の見積額が最も大きい居住者の扶養親族とする。
○所得税基本通達
(控除の対象となる生命保険料等)
76−1 法第76条第1項に規定する「新生命保険料」(76−6において「新生命保険料」という。)、同項に規定する「旧生命保険料」(76−2において「旧生命保険料」という。)、同条第2項に規定する「介護医療保険料」、同条第3項に規定する「新個人年金保険料」(76−8において「新個人年金保険料」という。)又は同項に規定する「旧個人年金保険料」(76−8において「旧個人年金保険料」という。)に該当するかどうかは、保険料又は掛金を支払った時の現況により判定する。
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| 年末調整
2021年12月06日
租税法教科書における記述割合の変化 〜金子宏「租税法」(弘文堂)を素材に。
「第24版」のはしがきによると、「単著」としては最後にしたいとお考えのようで。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
私の手元にある一番古い版が1981年出版の「補正版」。1976年出版の「初版」の次の版。
5年経っても補正版どまりとは、牧歌的な時代ですね。
もちろん、現役で購入したわけでなく。
昔の租税法教科書がどんなものだったのか知りたくて、あえて購入したものです。
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
○
ということで、新旧ボリューム比較をしてみます。
ただし、縦書き(補正版)・横書き(第24版)となっていて頁数では単純比較がしにくいので、割合もみていきます。

こんな具合。
全体が倍以上。租税実体法の増加率が突出している。
初版「はしがき」の時点から、「個別の課税要件を詳しく記述した」とされています。ので、他著と比べて記述割合がどの程度違うかを見てみましょう。
私の手元にある一番古い租税法教科書が、1972年出版の下記書籍です(もちろん現役で以下略)。
新井隆一編「租税法講義(青林講義シリーズ)」(青林書院新社1972)
こちらの記述割合を整理すると次の通り。

「租税実体法」に着目すると、全体の23.75%を占めています。
そこまで少なくはないように思うかもしれませんが、これは個別の税目の話ではなく、実体法の総論の話や通則法レベルの話がメインを占めています。
では、個別の税目の話はどこにでてくるかというと、巻末の「資料」のところです(全7頁)。表形式で簡潔にまとめられていて、解釈論の展開は皆無。
こちらの扱いのほうが、当時の租税法における個別税目の位置づけを代表しているのでしょうか。
だとすると、金子租税法がいかに画期的だったのかが分かります。
○
本書に話を戻して。
個別税目のうち、所得税法・法人税法・相続税法の頁数を拾ってみると、次の通り。

縦書き⇒横書きなので、文字数レベルで比較したらさらなる増加率になるはずです。
法人税法が突出しているわけですが、組織再編税制や国際課税あたりが特に増加に貢献しているでしょうか。
それにしても個別税目の記述、分解してみるとそれほど多いわけではない。所得税法とか137頁だけ。
本書は分厚いようにみえて、個々の記述は微に入り細に入り、という感じではない。あくまでも最初に通過すべきインターフェイスとして利用すべきなのでしょう。
○
いい加減、租税法学者による個別税目ごとの「体系書」が求められている。
私の知っている限り、岡村忠生先生の法人税法以降、プロパーの租税法学者による個別税目ごとの「体系書」を見かけていない。
岡村忠生「法人税法講義(第3版)」(成文堂2007)
岡村先生ご自身も共著の薄い教科書に行ってしまっているわけで、「今どきそんな需要はない!」ということなんでしょうか(体系書ノスタルジック)。
岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)
○
以上、さしあたりの浅めな整理。本当はより微細に分析すべきものなのでしょうが。
そして、中身については、私がどうこう言えるようなものではなく。
とはいいつつも、本ブログでは「租税法規の明確性」「納税者の予測可能性」「権利確定主義」「借用概念論」といった、本書を代表するテクニカルタームについては、総じて否定的な立場から論ずることが多いです。
ではありますが、本書の「基本書」「基準書」としての役割は、いささかも揺るがないものであることに変わりはないはずです。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
私の手元にある一番古い版が1981年出版の「補正版」。1976年出版の「初版」の次の版。
5年経っても補正版どまりとは、牧歌的な時代ですね。
もちろん、現役で購入したわけでなく。
昔の租税法教科書がどんなものだったのか知りたくて、あえて購入したものです。
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
○
ということで、新旧ボリューム比較をしてみます。
ただし、縦書き(補正版)・横書き(第24版)となっていて頁数では単純比較がしにくいので、割合もみていきます。

こんな具合。
全体が倍以上。租税実体法の増加率が突出している。
初版「はしがき」の時点から、「個別の課税要件を詳しく記述した」とされています。ので、他著と比べて記述割合がどの程度違うかを見てみましょう。
私の手元にある一番古い租税法教科書が、1972年出版の下記書籍です(もちろん現役で以下略)。
新井隆一編「租税法講義(青林講義シリーズ)」(青林書院新社1972)
こちらの記述割合を整理すると次の通り。

「租税実体法」に着目すると、全体の23.75%を占めています。
そこまで少なくはないように思うかもしれませんが、これは個別の税目の話ではなく、実体法の総論の話や通則法レベルの話がメインを占めています。
では、個別の税目の話はどこにでてくるかというと、巻末の「資料」のところです(全7頁)。表形式で簡潔にまとめられていて、解釈論の展開は皆無。
こちらの扱いのほうが、当時の租税法における個別税目の位置づけを代表しているのでしょうか。
だとすると、金子租税法がいかに画期的だったのかが分かります。
○
本書に話を戻して。
個別税目のうち、所得税法・法人税法・相続税法の頁数を拾ってみると、次の通り。

縦書き⇒横書きなので、文字数レベルで比較したらさらなる増加率になるはずです。
法人税法が突出しているわけですが、組織再編税制や国際課税あたりが特に増加に貢献しているでしょうか。
それにしても個別税目の記述、分解してみるとそれほど多いわけではない。所得税法とか137頁だけ。
本書は分厚いようにみえて、個々の記述は微に入り細に入り、という感じではない。あくまでも最初に通過すべきインターフェイスとして利用すべきなのでしょう。
○
いい加減、租税法学者による個別税目ごとの「体系書」が求められている。
私の知っている限り、岡村忠生先生の法人税法以降、プロパーの租税法学者による個別税目ごとの「体系書」を見かけていない。
岡村忠生「法人税法講義(第3版)」(成文堂2007)
岡村先生ご自身も共著の薄い教科書に行ってしまっているわけで、「今どきそんな需要はない!」ということなんでしょうか(体系書ノスタルジック)。
岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)
○
以上、さしあたりの浅めな整理。本当はより微細に分析すべきものなのでしょうが。
そして、中身については、私がどうこう言えるようなものではなく。
とはいいつつも、本ブログでは「租税法規の明確性」「納税者の予測可能性」「権利確定主義」「借用概念論」といった、本書を代表するテクニカルタームについては、総じて否定的な立場から論ずることが多いです。
ではありますが、本書の「基本書」「基準書」としての役割は、いささかも揺るがないものであることに変わりはないはずです。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
posted by ウロ at 10:41| Comment(0)
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