ひさしぶりのガジェットもの。
パソコンまわりの、キーボード、マウス、モニターあたりは業務効率に直結するので、よりよいものがないかは常に気にしているところ。ノートパソコン本体だけでは、もはやまともに仕事ができない身体になってしまっている。
なんですが、なかなかちょうどよいのが見当たらなく。
以前紹介したキーボード、購入から3年超経過してそろそろ入れ替えたいと思い物色していまして。
Logicool G910R(ゲーミングキーボード)
今回は「G813」にしてみました。
Logicool G ロジクールG813
以下選択ポイントを箇条書きで。
・G910比で、サイズがだいぶコンパクトになりました。キーピッチ自体は変わっていないように思いますが、薄くなってパームレストが不要になったりと、全体的に余計なガワが減っています。
・重さは1045gありますが、変にズレたりしないのでこれくらいでいいと思います。
・上記機種の「G913」は無線モデルですが、シャレオツデスクを目指しているわけではないので、無線は無くてもよいかなと(無線が無い=有線)。
・有線モデルだと「USBパススルー」機能有りとかってなっているんですが、USB口を余計に1個使って1個だけなので、私にはいらないやつ。しかもそのせいか、コードが太くて取り回しに難あり。
・キータイプが「タクタイル・リニア・クリッキー」とかってあるのですが、説明読んだだけではいまいち違いが分かりません。とりあえず普通っぽいタクタイルにしてみました。
高度なメカニカル ゲーミング スイッチ(Logicool G)
・Gボタンが5個×3とだいぶ少なくなってしまいましたが、まあ仕方ない(G910は驚異の9個×3)。厳選して設定することにします(ソフトごとの設定が可)。
・右上のメディアボタン(再生停止・早送り・巻き戻し・ミュート・音量)は、今どきの動画再生文化にとって超絶便利。
・耐久性はこれからですが、「G910」は無事3年使えたので一応信用はしておきます。ゲーミングギアなんだから、(タイピング)大人しめの子が普通の仕事に使う程度でどうにかなったりしないでしょう(とはいえ、当たり外れがありますので)。
○
ちなみに、マウスは未だに「G300」のままです。後に「S」とか「Sr」とかついていますが、違いは不明。
Logicool G G300Sr
同じノリで無線のものがあれば、と思っているのですがなかなか見つからない。
下記のものが、無線、左右対称でボタン数もいい感じなのですが、ボタンの位置と使用時間の短さがいまいち。
Logicool G PRO (G-PPD-002WLr)
ベストマウス探しは終わらない。
2022年01月31日
Logicool G813(ゲーミングキーボード)
posted by ウロ at 10:05| Comment(0)
| ガジェット
2022年01月24日
土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)
改訂チキンレースに打ち克つことができました。
土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)
「改訂チキンレース」とは、積読本に対し、通読が先か改訂版の出版が先かを競うものです。
私がなぜ本書を購入していたのか記憶はないのですが、おそらく厚めの体系書フェチとしての嗅覚が作動したのでしょう。で、購入したものの、差し迫った必要があったわけではなかったため、まあ積みますよね。
が、結構お高いですし、未開のまま改訂版がでるのは悲しいということで、どうにか通読しました(理解できているかどうかは別問題)。
○
タイトルが「労働契約法」となっていますが、実定法としての『労働契約法』の解説だけに限定しているのではなく。
『労働契約法』の解説だけで986頁も書くのは、さすがに難しいでしょう。下記書籍はまさしく『労働契約法』だけの解説本ですが、「詳説」を名乗ってはいても本文298頁どまりです(残りは資料編)。
荒木尚志ほか「詳説 労働契約法 第2版」(弘文堂2014)
○
類書と比べた本書の特徴は、労働法全体を『契約法』の観点から詳細に記述している点にあります。
労働法規は、民事法/行政法/刑事法と複数の顔があります。のに、類書だとそのことについての一般的な説明はあるものの、個別の記述においてはこの違いが意識されていることはあまりないです。
対して、本書は契約法(民事法)の観点に視点を絞った記述をしています。記述の仕方として《労使間の合意により労働契約が成立し、それが労働条件に反映される》という枠組みが徹底されているので、読み進めていくうちに、自然とそのような思考スタイルで考えられるようになってきます。
通常この手の鈍器系体系書は必要箇所だけ辞書的につまみ食いしがち。ですが、本書は頭から通読することで、より効用が得られるように思います。
○
このような思考スタイルが身につくと、労働基準法などの労働法規の位置づけもよく理解できます。
普通に労働法の勉強をしていると、法律から直接、あらゆる労働条件が発生するかのように錯覚しがち。
ですが、たとえば1日何時間働けばよいかについては、前提として労働契約において労働時間の定めが存在している必要があります。労働基準法は、あくまでも約定の労働時間が法定労働時間を超過している場合にかぎり発動されるものです。労使間の約定がないのに、勝手に労働時間を創出するものではありません。
もしかしたら将来的に、「一定時間以上働ける権利」みたいなものが創設されることがあるかもしれませんが(ある種のパラダイムシフトが必要でしょう)。
以前、労働契約の「解約ルール」について検討した際も、ベースは労働契約における当事者の合意にあって、それを民法・労基法・労契法がどのように制約しているか、という観点から論じました。
零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
やはり労働法の勉強をスタートするにあたっては、いきなり労働基準法などの労働法規から手を付けるのではなく、民法の契約法まわりから始めて、契約法の基礎理論を身につけるべきではないかと思います(近時の「同一労働同一賃金」などの衡平志向な風潮からすると、より遡って憲法から、とすべきかもしれませんが)。
○
そもそもの話として、実定法としての『労働契約法』をわざわざ労働基準法とは別建てで制定したのも、労働法の領域において「合意原則」を名実ともに原則として復権させつつ、労使間の真意に基づく合意形成を促進するためではなかったかと思います。
が、その成果はご存知の通り。労働基準法/労働契約法のバランスが、実態としての「強行法/合意」のバランスに比例しているといっても過言ではない。
本来は、契約(法)が本体で、強行法規が外付けパーツという位置づけのはずです(主として、労働者にとっての利益保護パーツ)。だというのに、ガンダム試作3号機(デンドロビウム)におけるステイメン(労働契約)とオーキス(強行法規)のようなバランス感になってしまっているのが現状でしょうか。ステイメンがなければオーキスは機能しないのに、あたかもオーキスが本体のように見えてしまう。
デンドロビウム(RX-78GP03)
(どれがステイメンでしょうか?)
また、あとから入れられた「有期雇用法制」のようなごちゃついた規定、合意重視の建前からすれば似つかわしくないもののはずです。合意促進が本来の『労働契約法』の役割であるならば、法があれこれ細かい小言をいうのは望ましくない。良くも悪くも、労働契約法16条(解雇)くらいの緩やかさが絶妙なさじ加減かと。
労働契約法の位置づけが、もともとの理念とは異なり、行政法/刑事法としてまで規制する必要のない規定を突っ込んでおくための、いわば労働基準法の別働隊ポジションになってしまっているのではないでしょうか。
○
本書に話を戻して。
契約法に視点を絞るといっても、行政法規をガン無視しているわけではなく。
たとえば「労働安全衛生法」は本拠は行政法・刑事法に属しているわけですが、その規律内容が「安全配慮義務」などの民事法上の道具立てによって、どのように労働契約の内容に取り込まれることになるか、という観点から記述されることになります。
また、「労働協約」に関する規律も、本拠は集団法(労働組合法)ですが、労働契約の内容に影響するということでこちらも詳しく論じられています。
といったように、視点が絞られているにもかかわらず、カバーしている範囲は相当広い。
また、判例・裁判例の紹介が豊富なので、本書を読むだけでも、裁判所の判断がどういう傾向にあるかが一定程度把握できます。
ちなみに、本書で明記されているわけではないので意図的かどうかが分かりませんが、最高裁→判例、下級審→裁判例と、きちんと言葉の使い分けをしているように思います。
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
○
類書と比べて、「国際的側面」についての記述も豊富(第13章 国際的労働契約法)。この手の領域は実務先行で理論が手薄になりがちなので、より発展していってほしいところ。
また、一番最後に「要件事実」についても一通り触れられています(888頁〜)。
この箇所を読むことで、本書で得た実体法の理解を、要件事実論の観点から立体的に理解できるようになります。そういう意味で、長大な本書の復習として利用することもできます。
○
以上、本書を「読む」ことは強くおすすめできるものの、「買う」ことまでおすすめできるかといえば微妙。本書出版の2016年以降も、法改正・新判例のラッシュが続いているわけで、もはや最新の情報とは言い難い。
今から定価で購入したとして、改訂チキンレースに勝てる自信のある方はぜひどうぞ。
あえて、お安くなった「初版」を買うことで、改訂チキンレースに乗っからないのもありかもしれません。余裕かまして第3版まで待機しておくと。
初版は2008年に出版されているので、実定法としての『労働契約法』は反映されています。というか、制定直後に紛らわしいタイトルで出版されていたわけです。
土田道夫「労働契約法」(有斐閣2008)
ただ、初版ではその後の「有期雇用法制」の改正が反映されていません。
○
また、「労働法の体系書でどれか一冊」と言われたときも、第一候補にはなりえません。
カバー範囲が広いといってもフルカバーではないわけです。
本書がカバーしていない範囲だけを対象とした「労働行政法」「労働刑事法」という体系書があればいいのでしょうが、まあないですよね。
一応、下記シリーズのような「お役所系」労働法規解説書があるにはあります。同シリーズ内に『労働契約法』が含まれていないのは、まさしく「民事不介入」であることの証左といえるでしょうか。
厚生労働省労働基準局「令和3年版 労働基準法 上巻 (労働法コンメンタールNo.3)」(労務行政2022)
厚生労働省労働基準局「令和3年版 労働基準法 下巻 (労働法コンメンタールNo.3)」(労務行政2022)
が、あくまでも実務用の逐条解説であって、理論的体系書ではない。近時の「行政法総論」や「刑法総論」の知見がふんだんに取り込まれている、などということは無く、個別の労働法規の解説がメイン。
ということで、一冊だけ買うのであれば、普通にフルカバーした『労働法』の体系書にしておくのが無難。
菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)
荒木尚志「労働法 第5版」(有斐閣2022)
水町勇一郎「詳解 労働法 第2版」(東京大学出版会2021)
○
なお、同著者には「概説」名の教科書もあります。
土田道夫「労働法概説 第4版」(弘文堂2019)
こちらは労働法全体をカバーしているものの、512頁の薄い本です。決して分かりにくい本ではないのですが、記述の厚い本書を読んでからこちらの『概説』を読むと、どうにも窮屈な印象。
一般論としてですが、薄い本で理解できない箇所があったら、同書の同じ箇所を何度も読むよりも、一度は記述が厚めな本に目を通すべきなのでしょう。
土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)
「改訂チキンレース」とは、積読本に対し、通読が先か改訂版の出版が先かを競うものです。
私がなぜ本書を購入していたのか記憶はないのですが、おそらく厚めの体系書フェチとしての嗅覚が作動したのでしょう。で、購入したものの、差し迫った必要があったわけではなかったため、まあ積みますよね。
が、結構お高いですし、未開のまま改訂版がでるのは悲しいということで、どうにか通読しました(理解できているかどうかは別問題)。
○
タイトルが「労働契約法」となっていますが、実定法としての『労働契約法』の解説だけに限定しているのではなく。
『労働契約法』の解説だけで986頁も書くのは、さすがに難しいでしょう。下記書籍はまさしく『労働契約法』だけの解説本ですが、「詳説」を名乗ってはいても本文298頁どまりです(残りは資料編)。
荒木尚志ほか「詳説 労働契約法 第2版」(弘文堂2014)
○
類書と比べた本書の特徴は、労働法全体を『契約法』の観点から詳細に記述している点にあります。
労働法規は、民事法/行政法/刑事法と複数の顔があります。のに、類書だとそのことについての一般的な説明はあるものの、個別の記述においてはこの違いが意識されていることはあまりないです。
対して、本書は契約法(民事法)の観点に視点を絞った記述をしています。記述の仕方として《労使間の合意により労働契約が成立し、それが労働条件に反映される》という枠組みが徹底されているので、読み進めていくうちに、自然とそのような思考スタイルで考えられるようになってきます。
通常この手の鈍器系体系書は必要箇所だけ辞書的につまみ食いしがち。ですが、本書は頭から通読することで、より効用が得られるように思います。
○
このような思考スタイルが身につくと、労働基準法などの労働法規の位置づけもよく理解できます。
普通に労働法の勉強をしていると、法律から直接、あらゆる労働条件が発生するかのように錯覚しがち。
ですが、たとえば1日何時間働けばよいかについては、前提として労働契約において労働時間の定めが存在している必要があります。労働基準法は、あくまでも約定の労働時間が法定労働時間を超過している場合にかぎり発動されるものです。労使間の約定がないのに、勝手に労働時間を創出するものではありません。
もしかしたら将来的に、「一定時間以上働ける権利」みたいなものが創設されることがあるかもしれませんが(ある種のパラダイムシフトが必要でしょう)。
以前、労働契約の「解約ルール」について検討した際も、ベースは労働契約における当事者の合意にあって、それを民法・労基法・労契法がどのように制約しているか、という観点から論じました。
零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
やはり労働法の勉強をスタートするにあたっては、いきなり労働基準法などの労働法規から手を付けるのではなく、民法の契約法まわりから始めて、契約法の基礎理論を身につけるべきではないかと思います(近時の「同一労働同一賃金」などの衡平志向な風潮からすると、より遡って憲法から、とすべきかもしれませんが)。
○
そもそもの話として、実定法としての『労働契約法』をわざわざ労働基準法とは別建てで制定したのも、労働法の領域において「合意原則」を名実ともに原則として復権させつつ、労使間の真意に基づく合意形成を促進するためではなかったかと思います。
が、その成果はご存知の通り。労働基準法/労働契約法のバランスが、実態としての「強行法/合意」のバランスに比例しているといっても過言ではない。
本来は、契約(法)が本体で、強行法規が外付けパーツという位置づけのはずです(主として、労働者にとっての利益保護パーツ)。だというのに、ガンダム試作3号機(デンドロビウム)におけるステイメン(労働契約)とオーキス(強行法規)のようなバランス感になってしまっているのが現状でしょうか。ステイメンがなければオーキスは機能しないのに、あたかもオーキスが本体のように見えてしまう。
デンドロビウム(RX-78GP03)
(どれがステイメンでしょうか?)
また、あとから入れられた「有期雇用法制」のようなごちゃついた規定、合意重視の建前からすれば似つかわしくないもののはずです。合意促進が本来の『労働契約法』の役割であるならば、法があれこれ細かい小言をいうのは望ましくない。良くも悪くも、労働契約法16条(解雇)くらいの緩やかさが絶妙なさじ加減かと。
労働契約法の位置づけが、もともとの理念とは異なり、行政法/刑事法としてまで規制する必要のない規定を突っ込んでおくための、いわば労働基準法の別働隊ポジションになってしまっているのではないでしょうか。
○
本書に話を戻して。
契約法に視点を絞るといっても、行政法規をガン無視しているわけではなく。
たとえば「労働安全衛生法」は本拠は行政法・刑事法に属しているわけですが、その規律内容が「安全配慮義務」などの民事法上の道具立てによって、どのように労働契約の内容に取り込まれることになるか、という観点から記述されることになります。
また、「労働協約」に関する規律も、本拠は集団法(労働組合法)ですが、労働契約の内容に影響するということでこちらも詳しく論じられています。
といったように、視点が絞られているにもかかわらず、カバーしている範囲は相当広い。
また、判例・裁判例の紹介が豊富なので、本書を読むだけでも、裁判所の判断がどういう傾向にあるかが一定程度把握できます。
ちなみに、本書で明記されているわけではないので意図的かどうかが分かりませんが、最高裁→判例、下級審→裁判例と、きちんと言葉の使い分けをしているように思います。
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
○
類書と比べて、「国際的側面」についての記述も豊富(第13章 国際的労働契約法)。この手の領域は実務先行で理論が手薄になりがちなので、より発展していってほしいところ。
また、一番最後に「要件事実」についても一通り触れられています(888頁〜)。
この箇所を読むことで、本書で得た実体法の理解を、要件事実論の観点から立体的に理解できるようになります。そういう意味で、長大な本書の復習として利用することもできます。
○
以上、本書を「読む」ことは強くおすすめできるものの、「買う」ことまでおすすめできるかといえば微妙。本書出版の2016年以降も、法改正・新判例のラッシュが続いているわけで、もはや最新の情報とは言い難い。
今から定価で購入したとして、改訂チキンレースに勝てる自信のある方はぜひどうぞ。
あえて、お安くなった「初版」を買うことで、改訂チキンレースに乗っからないのもありかもしれません。余裕かまして第3版まで待機しておくと。
初版は2008年に出版されているので、実定法としての『労働契約法』は反映されています。というか、制定直後に紛らわしいタイトルで出版されていたわけです。
土田道夫「労働契約法」(有斐閣2008)
ただ、初版ではその後の「有期雇用法制」の改正が反映されていません。
○
また、「労働法の体系書でどれか一冊」と言われたときも、第一候補にはなりえません。
カバー範囲が広いといってもフルカバーではないわけです。
本書がカバーしていない範囲だけを対象とした「労働行政法」「労働刑事法」という体系書があればいいのでしょうが、まあないですよね。
一応、下記シリーズのような「お役所系」労働法規解説書があるにはあります。同シリーズ内に『労働契約法』が含まれていないのは、まさしく「民事不介入」であることの証左といえるでしょうか。
厚生労働省労働基準局「令和3年版 労働基準法 上巻 (労働法コンメンタールNo.3)」(労務行政2022)
厚生労働省労働基準局「令和3年版 労働基準法 下巻 (労働法コンメンタールNo.3)」(労務行政2022)
が、あくまでも実務用の逐条解説であって、理論的体系書ではない。近時の「行政法総論」や「刑法総論」の知見がふんだんに取り込まれている、などということは無く、個別の労働法規の解説がメイン。
ということで、一冊だけ買うのであれば、普通にフルカバーした『労働法』の体系書にしておくのが無難。
菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)
荒木尚志「労働法 第5版」(有斐閣2022)
水町勇一郎「詳解 労働法 第2版」(東京大学出版会2021)
○
なお、同著者には「概説」名の教科書もあります。
土田道夫「労働法概説 第4版」(弘文堂2019)
こちらは労働法全体をカバーしているものの、512頁の薄い本です。決して分かりにくい本ではないのですが、記述の厚い本書を読んでからこちらの『概説』を読むと、どうにも窮屈な印象。
一般論としてですが、薄い本で理解できない箇所があったら、同書の同じ箇所を何度も読むよりも、一度は記述が厚めな本に目を通すべきなのでしょう。
posted by ウロ at 08:17| Comment(0)
| 労働法
2022年01月17日
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
年末調整が終わると、その流れで法定調書合計表へとステージが移ります。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
当ブログは、巷のお役立ち記事とは違い、斜め上(下?)のお役立たない記事を掲載しているわけですが、法定調書合計表についてもご多分に漏れず。
○
「給与所得の源泉徴収票」を税務署に提出する範囲について。
運営の手引によると下記の通り。

令和3年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引 P.9
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/tebiki2021/index.htm
疑問に思ったのが、「年調無・甲欄・給与2000万円以下」の人がどこにも当てはまらないということです(以下、扶養控除申告書を提出した場合を甲欄と表現します)。
もちろん、本来は2000万円以下であれば年調義務があるわけですが、ルールに従わず年末調整をしなかった場合はどうするか、という話です。
「提出する必要がある方」のどこにも該当しないのだから、提出不要でいいんじゃん、と結論づけるのは早計。
すでに、『年末調整のしかた』につき《規範論的アプローチ》と《類型論的アプローチ》による分析を行った我々には、運営列挙の類型漏れがち、という事実が分かっているわけです。
ので、面倒ながら自力で条文を読み込まざるをえない。
なお、ブログタイトルに『日常系税務』を冠しているとおり、なんでもかんでも条文にさかのぼって、などという《条文原理主義者》のつもりは全くありません。特に、年末調整や合計表などの作業系の業務なんて、運営作成の手引でつつがなく処理できるならば、それに越したことはない。
法定調書合計表にリーガルマインドを発揮するとか、ヤベえ奴よ。《羹に懲りて膾を吹く》感が強い。
が、『年末調整のしかた』でみたとおり、残念ながら鵜呑みにできない。
ので、仕方なく条文を検討します(法は所得税法、規は同法施行規則)。
○
法 第二百二十六条(源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる給与等を除く。以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより当該税務署長の承認を受けた場合は、この限りでない。
規 第九十三条(給与等の源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において法第二百二十六条第一項(給与等の源泉徴収票)に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払をする者は、同項の規定により、その給与等の支払を受ける者の各人別に、次に掲げる事項を記載した源泉徴収票二通を作成し、一通をその給与等に係る所得税の法第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地の所轄税務署長(第一号イ及び第六号イ(1)において「所轄税務署長」という。)に提出し、他の一通をその給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。(略)
2 前項の場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号の規定に該当する給与等に係る同項の源泉徴収票は、税務署長に提出することを要しない。
一 同一人に対するその年中の法第百九十条の規定の適用を受けた給与等(法第二百四条第一項第二号(報酬、料金等に係る源泉徴収義務)に規定する者に支払う給与等及び次号に規定する給与等を除く。)の支払金額が五百万円以下である場合
二 同一人に対するその年中の法第百九十条の規定の適用を受けた給与等で法人がその役員(相談役、顧問その他これらに類する者を含む。)に対して支払うものの支払金額が百五十万円以下である場合
三 同一人に対するその年中の前二号に規定する給与等以外の給与等で給与所得者の扶養控除等申告書を提出した者(前号の役員を除く。)に対してその提出の際に経由した給与等の支払者が支払うものの支払金額が二百五十万円以下である場合
四 同一人に対するその年中の前三号に規定する給与等以外の給与等の支払金額が五十万円以下である場合
手引では、提出が必要な人の類型が限定列挙されています。
が、条文構造はそれとは逆に、原則は全員提出必要で(法184条は無視します)、規則2項各号の限定列挙された事由に該当すれば提出不要、という建て付けになっています。このような規律の仕方ならば、必ずいずれかに含まれることになり、原理上漏れが生じません。
ところが、この枠組みを、手引のように必要な人を限定列挙する書き方に改変してしまうと、高確率で遺漏が生じます(実際そうなっている)。
各号の不要な人を列挙すると次の通り。
1号 500万円以下 年調あり、役員・士業以外
2号 150万円以下 年調あり、役員
3号 250万円以下 甲欄、1,2号,役員以外
4号 50万円以下 1,2,3号以外
ここで「士業」とあるのは、あくまでも「給与」としてもらう場合です。「報酬・料金」の規定から概念お借りしちゃってますが、『者』の部分をお借りしているだけ。
ちなみに、今どきのソフトは提出範囲を自動判定してくれたりしますが、士業給与まで対応しているものってありますかね?社員情報に「士業」であることを入力する項目、無いですよね。
法 第二百四条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
このように、条文では手引にあるような「退職」云々や「2000万円」云々といった切り分け方はされていません。また、手引の「提出範囲」によると、150,250,500,250,50,全部,50、と合計7類型あることになっていますが、条文では4つの除外事由しかありません。
通常、退職者は年調無となるわけですが、甲欄であれば3号により、乙欄・丙欄であれば4号により判定されるということです。退職者という類型が列挙されているわけではありません。
要するに、おせっかいで、条文の規律をばらけさせているということです。
たとえば、(2)年調有・士業給与と(4)イ甲欄・退職者(社員)の250万円は、別々のルールではなく同じ「3号」に対応します。
また、(4)ロの2000万円というのは本来、手引で赤字になっている判定金額で使うもののはずです。のに「受給者の区分」のほうに組み込んでしまったせいで、提出範囲には「全部」などと書くしかなくなっています(ぶざま)。
結果として全部提出することにはなるのですが、条文上どうやって導くかといえば、役員以外は3号で250万円超だから、役員は4号で50万円超だから、提出するということです。適用号数の異なるものが、2000万円超という圧倒的額面によってサイレント呉越同舟させられてしまっている。
○
以上の《規範論的アプローチ》によれば、手引ではどこにも該当しない「年調無・甲欄・給与2000万円以下」の場合も、自ずと結論を導くことができます。
この場合は、役員以外は3号で250万円超ならば、役員は4号で50万円超ならば、提出が必要になるということです。
除外ルールを、条文構造にしたがって整理すると次の通り。

社員と士業で違いがあるのは、年調有の場合だけです。年調無で甲欄250、乙欄丙欄50というのは同じです。
役員は年調の有無でのみ結論がかわります。年調無ならすべて50となります。
退職とか2000万円といった事由はここにはでてきません。
通常、退職の場合は年調無となるので、あとは甲欄/乙欄・丙欄、社員・士業/役員かで判定すると。
また、2000万円超云々は、区分としてでてくるのではなく、金額のあてはめの段階ででてくるものです。どこに該当しようが上限500までしかないので、結果として全部提出することになる、ということです。
せっかくなので、手引の出来損ない類型をどうにかむりやり条文構造に近づけようとしてみると、次のようになります。

2000万円超の「全部」が不自然なのと、「?」のところに隙間が空いてしまっていることが分かります。
また、「退職者かつ年2000万円超」の人は、「退職者」「2000万円超」どちらに当てはめればよいでしょうか。
どこに該当しようがどうせ提出、ということではありますが、当てはめに迷いがでるのは、類型の出来の悪さの一端かとは思います。
○
ちなみに、「退職所得の源泉徴収票」については、
役員: 全部提出
それ以外: 提出不要
と単純なルールなので、「役員だけ提出」と書けば漏れなくカバーできます。
法 第二百二十六条(源泉徴収票)
2 居住者に対し国内において第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(第二百条(源泉徴収を要しない退職手当等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる退職手当等を除く。以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した退職手当等について、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その退職の日以後一月以内に、一通を税務署長に提出し、他の一通を退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
規 第九十四条(退職手当等の源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において法第二百二十六条第二項(退職手当等の源泉徴収票)に規定する退職手当等(以下この条において「退職手当等」という。)の支払をする者は、同項の規定により、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に、その者に係る次に掲げる事項を記載した源泉徴収票二通を作成し、一通をその退職手当等に係る所得税の法第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地の所轄税務署長(第一号イにおいて「所轄税務署長」という。)に提出し、他の一通をその退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。(略)
2 前項の場合において、法人がその前条第二項第二号に規定する役員に対して支払う退職手当等以外の退職手当等については、前項の源泉徴収票は、税務署長に提出することを要しない。
ということで、手引P.19のような記述で特に問題ありません。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
当ブログは、巷のお役立ち記事とは違い、斜め上(下?)のお役立たない記事を掲載しているわけですが、法定調書合計表についてもご多分に漏れず。
○
「給与所得の源泉徴収票」を税務署に提出する範囲について。
運営の手引によると下記の通り。

令和3年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引 P.9
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/tebiki2021/index.htm
疑問に思ったのが、「年調無・甲欄・給与2000万円以下」の人がどこにも当てはまらないということです(以下、扶養控除申告書を提出した場合を甲欄と表現します)。
もちろん、本来は2000万円以下であれば年調義務があるわけですが、ルールに従わず年末調整をしなかった場合はどうするか、という話です。
「提出する必要がある方」のどこにも該当しないのだから、提出不要でいいんじゃん、と結論づけるのは早計。
すでに、『年末調整のしかた』につき《規範論的アプローチ》と《類型論的アプローチ》による分析を行った我々には、運営列挙の類型漏れがち、という事実が分かっているわけです。
ので、面倒ながら自力で条文を読み込まざるをえない。
なお、ブログタイトルに『日常系税務』を冠しているとおり、なんでもかんでも条文にさかのぼって、などという《条文原理主義者》のつもりは全くありません。特に、年末調整や合計表などの作業系の業務なんて、運営作成の手引でつつがなく処理できるならば、それに越したことはない。
法定調書合計表にリーガルマインドを発揮するとか、ヤベえ奴よ。《羹に懲りて膾を吹く》感が強い。
が、『年末調整のしかた』でみたとおり、残念ながら鵜呑みにできない。
ので、仕方なく条文を検討します(法は所得税法、規は同法施行規則)。
○
法 第二百二十六条(源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる給与等を除く。以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより当該税務署長の承認を受けた場合は、この限りでない。
規 第九十三条(給与等の源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において法第二百二十六条第一項(給与等の源泉徴収票)に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払をする者は、同項の規定により、その給与等の支払を受ける者の各人別に、次に掲げる事項を記載した源泉徴収票二通を作成し、一通をその給与等に係る所得税の法第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地の所轄税務署長(第一号イ及び第六号イ(1)において「所轄税務署長」という。)に提出し、他の一通をその給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。(略)
2 前項の場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号の規定に該当する給与等に係る同項の源泉徴収票は、税務署長に提出することを要しない。
一 同一人に対するその年中の法第百九十条の規定の適用を受けた給与等(法第二百四条第一項第二号(報酬、料金等に係る源泉徴収義務)に規定する者に支払う給与等及び次号に規定する給与等を除く。)の支払金額が五百万円以下である場合
二 同一人に対するその年中の法第百九十条の規定の適用を受けた給与等で法人がその役員(相談役、顧問その他これらに類する者を含む。)に対して支払うものの支払金額が百五十万円以下である場合
三 同一人に対するその年中の前二号に規定する給与等以外の給与等で給与所得者の扶養控除等申告書を提出した者(前号の役員を除く。)に対してその提出の際に経由した給与等の支払者が支払うものの支払金額が二百五十万円以下である場合
四 同一人に対するその年中の前三号に規定する給与等以外の給与等の支払金額が五十万円以下である場合
手引では、提出が必要な人の類型が限定列挙されています。
が、条文構造はそれとは逆に、原則は全員提出必要で(法184条は無視します)、規則2項各号の限定列挙された事由に該当すれば提出不要、という建て付けになっています。このような規律の仕方ならば、必ずいずれかに含まれることになり、原理上漏れが生じません。
ところが、この枠組みを、手引のように必要な人を限定列挙する書き方に改変してしまうと、高確率で遺漏が生じます(実際そうなっている)。
各号の不要な人を列挙すると次の通り。
1号 500万円以下 年調あり、役員・士業以外
2号 150万円以下 年調あり、役員
3号 250万円以下 甲欄、1,2号,役員以外
4号 50万円以下 1,2,3号以外
ここで「士業」とあるのは、あくまでも「給与」としてもらう場合です。「報酬・料金」の規定から概念お借りしちゃってますが、『者』の部分をお借りしているだけ。
ちなみに、今どきのソフトは提出範囲を自動判定してくれたりしますが、士業給与まで対応しているものってありますかね?社員情報に「士業」であることを入力する項目、無いですよね。
法 第二百四条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
このように、条文では手引にあるような「退職」云々や「2000万円」云々といった切り分け方はされていません。また、手引の「提出範囲」によると、150,250,500,250,50,全部,50、と合計7類型あることになっていますが、条文では4つの除外事由しかありません。
通常、退職者は年調無となるわけですが、甲欄であれば3号により、乙欄・丙欄であれば4号により判定されるということです。退職者という類型が列挙されているわけではありません。
要するに、おせっかいで、条文の規律をばらけさせているということです。
たとえば、(2)年調有・士業給与と(4)イ甲欄・退職者(社員)の250万円は、別々のルールではなく同じ「3号」に対応します。
また、(4)ロの2000万円というのは本来、手引で赤字になっている判定金額で使うもののはずです。のに「受給者の区分」のほうに組み込んでしまったせいで、提出範囲には「全部」などと書くしかなくなっています(ぶざま)。
結果として全部提出することにはなるのですが、条文上どうやって導くかといえば、役員以外は3号で250万円超だから、役員は4号で50万円超だから、提出するということです。適用号数の異なるものが、2000万円超という圧倒的額面によってサイレント呉越同舟させられてしまっている。
○
以上の《規範論的アプローチ》によれば、手引ではどこにも該当しない「年調無・甲欄・給与2000万円以下」の場合も、自ずと結論を導くことができます。
この場合は、役員以外は3号で250万円超ならば、役員は4号で50万円超ならば、提出が必要になるということです。
除外ルールを、条文構造にしたがって整理すると次の通り。

社員と士業で違いがあるのは、年調有の場合だけです。年調無で甲欄250、乙欄丙欄50というのは同じです。
役員は年調の有無でのみ結論がかわります。年調無ならすべて50となります。
退職とか2000万円といった事由はここにはでてきません。
通常、退職の場合は年調無となるので、あとは甲欄/乙欄・丙欄、社員・士業/役員かで判定すると。
また、2000万円超云々は、区分としてでてくるのではなく、金額のあてはめの段階ででてくるものです。どこに該当しようが上限500までしかないので、結果として全部提出することになる、ということです。
せっかくなので、手引の出来損ない類型をどうにかむりやり条文構造に近づけようとしてみると、次のようになります。

2000万円超の「全部」が不自然なのと、「?」のところに隙間が空いてしまっていることが分かります。
また、「退職者かつ年2000万円超」の人は、「退職者」「2000万円超」どちらに当てはめればよいでしょうか。
どこに該当しようがどうせ提出、ということではありますが、当てはめに迷いがでるのは、類型の出来の悪さの一端かとは思います。
○
ちなみに、「退職所得の源泉徴収票」については、
役員: 全部提出
それ以外: 提出不要
と単純なルールなので、「役員だけ提出」と書けば漏れなくカバーできます。
法 第二百二十六条(源泉徴収票)
2 居住者に対し国内において第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(第二百条(源泉徴収を要しない退職手当等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる退職手当等を除く。以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した退職手当等について、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その退職の日以後一月以内に、一通を税務署長に提出し、他の一通を退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
規 第九十四条(退職手当等の源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において法第二百二十六条第二項(退職手当等の源泉徴収票)に規定する退職手当等(以下この条において「退職手当等」という。)の支払をする者は、同項の規定により、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に、その者に係る次に掲げる事項を記載した源泉徴収票二通を作成し、一通をその退職手当等に係る所得税の法第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地の所轄税務署長(第一号イにおいて「所轄税務署長」という。)に提出し、他の一通をその退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。(略)
2 前項の場合において、法人がその前条第二項第二号に規定する役員に対して支払う退職手当等以外の退職手当等については、前項の源泉徴収票は、税務署長に提出することを要しない。
ということで、手引P.19のような記述で特に問題ありません。

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| 年末調整
2022年01月10日
機能的年末調整論(その4) 〜年末調整と死別(子)
ちょっとアレなので、機械的に検討していきましょう。
○
基本的には、法85条により「死亡日の現況」で判断となるため、年の中途で死別したら当年は「扶養親族(子)あり」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
2 所得金額調整控除
前年 23歳未満の扶養親族有りとして適用していた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
4 社会保険料控除
前年 子負担分につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは通達がないからです。
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
6 生命保険料控除
前年 受取人子で適用を受けていた(一般・介護)
当年 死別まで支払分は適用あり(通76-1)
急いで受取人変更する必要があるかどうかは、死別(配偶者)のところで述べたところです。
なお、「個人年金」については、受取人:扶養親族(子含む)は控除対象外です。
7 地震保険料控除
前年 子所有住居につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、上記同様。
もし、住宅を相続すれば、引き続き適用を受けられることになります。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
なお、年齢要件も死亡日の現況で判断します。ので、「12/31の現況」で23歳になるはずだった場合でも、当年は特定扶養親族でいける可能性があるということです。
10 障害者控除
前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 影響なし
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用を受けていた
当年 当年は適用受けられる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
なお、「単身赴任」の場合の問題は前々回・前回と同様です。
○
以上、《印紙税法学》樹立の夢が絶たれた今、《年末調整法学》樹立に夢を託すしかない。
ということで、年末調整に対する「機能的考察」を試みてみました。
さよなら契約の成立と印紙税法 (結局いつもひとり)
年末調整についても「電子化」の波に呑まれつつあるわけですが、これが年末調整「存続」の方向に働くのか、それとも個々人が電子で申告すべきだとして「解体」の方向にいくのか、今のところはまだ分かりません。
○
基本的には、法85条により「死亡日の現況」で判断となるため、年の中途で死別したら当年は「扶養親族(子)あり」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
2 所得金額調整控除
前年 23歳未満の扶養親族有りとして適用していた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
4 社会保険料控除
前年 子負担分につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは通達がないからです。
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
6 生命保険料控除
前年 受取人子で適用を受けていた(一般・介護)
当年 死別まで支払分は適用あり(通76-1)
急いで受取人変更する必要があるかどうかは、死別(配偶者)のところで述べたところです。
なお、「個人年金」については、受取人:扶養親族(子含む)は控除対象外です。
7 地震保険料控除
前年 子所有住居につき適用を受けていた
当年 死別まで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、上記同様。
もし、住宅を相続すれば、引き続き適用を受けられることになります。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
なお、年齢要件も死亡日の現況で判断します。ので、「12/31の現況」で23歳になるはずだった場合でも、当年は特定扶養親族でいける可能性があるということです。
10 障害者控除
前年 配偶者を障害者として適用を受けていた
当年 当年は適用できる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 影響なし
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用を受けていた
当年 当年は適用受けられる
死亡日の現況で判断となるため、当年までは適用できます。
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
なお、「単身赴任」の場合の問題は前々回・前回と同様です。
○
以上、《印紙税法学》樹立の夢が絶たれた今、《年末調整法学》樹立に夢を託すしかない。
ということで、年末調整に対する「機能的考察」を試みてみました。
さよなら契約の成立と印紙税法 (結局いつもひとり)
年末調整についても「電子化」の波に呑まれつつあるわけですが、これが年末調整「存続」の方向に働くのか、それとも個々人が電子で申告すべきだとして「解体」の方向にいくのか、今のところはまだ分かりません。
posted by ウロ at 10:30| Comment(0)
| 年末調整
2022年01月03日
機能的年末調整論(その3) 〜年末調整と結婚(子)
今回は、親としては悲喜交々な出来事。
今まで扶養していた子供が結婚して、生計が別になった場合の、年末調整に及ぼす影響についてです。
機能的年末調整論(その1) 〜年末調整と離婚(配偶者)
機能的年末調整論(その2) 〜年末調整と死別(配偶者)
○
基本的には、法85条により「12/31の現況」で判断となるため、「扶養親族(子)なし」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
離婚・死別(配偶者)の場合と同じです。
2 所得金額調整控除
前年 23歳未満の扶養親族有りとして適用していた
当年 生計別になったら適用不可
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
4 社会保険料控除
前年 子負担分につき適用を受けていた
当年 生計別になるまで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、前回・前々回同様、通達が抜けているからです。
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
6 生命保険料控除
前年 受取人子で適用を受けていた
当年 生計別になっても適用あり
生命保険料控除については、生計要件が課せられていないので、生計別になっても適用継続となります。
ここが他の控除と違いが出るところです。
7 地震保険料控除
前年 子所有住居につき適用を受けていた
当年 生計別になるまで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、社会保険料控除と同じく規定がないからです。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 生計別になったら適用なし
10 障害者控除
前年 子を障害者として適用を受けていた
当年 生計別になったら適用なし
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 影響なし
寡婦控除のほうは、子は関係なしです。
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用を受けていた
当年 生計別になったら適用なし
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
ただし、もし「単身赴任」で子のみ居住で適用を受けていた場合、この状態で子が居住しなくなると当年から適用できなくなると思われます。
○
以上、特徴的なのは、生命保険料控除の受取人要件につき、生計一要件がないというところくらいでしょうか。
今まで扶養していた子供が結婚して、生計が別になった場合の、年末調整に及ぼす影響についてです。
機能的年末調整論(その1) 〜年末調整と離婚(配偶者)
機能的年末調整論(その2) 〜年末調整と死別(配偶者)
○
基本的には、法85条により「12/31の現況」で判断となるため、「扶養親族(子)なし」扱いとなります。が、控除の性質に応じて若干の違いがでてきます。
1 給与所得控除
前年 適用あり
当年 本人の給与収入のみで判定なので影響なし
離婚・死別(配偶者)の場合と同じです。
2 所得金額調整控除
前年 23歳未満の扶養親族有りとして適用していた
当年 生計別になったら適用不可
3 基礎控除
前年 適用していた
当年 本人の所得のみで判定なので影響なし
4 社会保険料控除
前年 子負担分につき適用を受けていた
当年 生計別になるまで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、前回・前々回同様、通達が抜けているからです。
5 小規模企業共済等掛金控除
前年 適用を受けていた
当年 本人負担分のみなので影響なし
6 生命保険料控除
前年 受取人子で適用を受けていた
当年 生計別になっても適用あり
生命保険料控除については、生計要件が課せられていないので、生計別になっても適用継続となります。
ここが他の控除と違いが出るところです。
7 地震保険料控除
前年 子所有住居につき適用を受けていた
当年 生計別になるまで支払分は適用あり(?)
「?」とあるのは、社会保険料控除と同じく規定がないからです。
8 配偶者控除・配偶者特別控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
9 扶養控除
前年 子を控除対象として適用していた
当年 生計別になったら適用なし
10 障害者控除
前年 子を障害者として適用を受けていた
当年 生計別になったら適用なし
11 寡婦控除(女性・合計所得金額500万円以下)
前年 適用なし
当年 影響なし
寡婦控除のほうは、子は関係なしです。
12 ひとり親控除(合計所得金額500万円以下)
前年 適用を受けていた
当年 生計別になったら適用なし
13 勤労学生控除
前年 適用を受けていた
当年 本人が勤労学生の場合だけなので影響なし
14 住宅ローン控除
前年 適用を受けていた
当年 影響なし
ただし、もし「単身赴任」で子のみ居住で適用を受けていた場合、この状態で子が居住しなくなると当年から適用できなくなると思われます。
○
以上、特徴的なのは、生命保険料控除の受取人要件につき、生計一要件がないというところくらいでしょうか。
posted by ウロ at 11:15| Comment(0)
| 年末調整