2022年02月28日

リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除

 今回は蛇足。ですが、全くの空想というわけでもない。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除

 次のような事例はどうなるでしょうか。

【検討事例】
1 取得年
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:本人に同行
  配偶者の父母:入居・継続居住
2 翌年
  配偶者:死亡
  配偶者の父母:継続居住

法第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


通達41-1(居住の用に供した場合) 1
・「その者の居住の用に供した場合」とは、第1項に規定する居住用家屋(「居住用家屋」)で建築後使用されたことのないものの取得(「新築等」)をした者が、現にその居住の用に供した場合をいうのであるが、
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、
・その取得の日から6月以内にその家屋をこれらの親族がその居住の用に供したときで、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・これに該当するものとする。

通達41-2(引き続き居住の用に供している場合)
「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1)
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、
・その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。



 まず、通達41-1,41-2により、配偶者の父母が本人にとって生計一の扶養親族に該当すれば、取得年は適用を受けられます。

 では、配偶者死亡後はどうなるでしょうか。

 民法728条によれば、本人と(元)配偶者の父母との姻族関係は当然には終了せず、本人の意思表示により終了させられるとあります。

民法 第七百二十八条(離婚等による姻族関係の終了)
1 姻族関係は、離婚によって終了する。
2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。


 とすると、この意思表示をせず、かつ、ちゃんと面倒を見てあげているかぎり(生計一)、適用を継続できるということになります。

 この枠組を前提とすると、必ずしも円満でない場合の各当事者の思惑としては、

  本人:自分が帰郷してから終了の意思表示すれば継続して適用を受けられるのか。
  配偶者の父母:本人帰郷前の年末ぎりぎりにでも転居すれば今後適用を受けられなくなるのか。

という感じになるでしょうか。

 極めて不健全な想定ではありますが、現行の制度をあるがままに受け入れるかぎり、そういう結論になります。

 悲しいけどこれ現実なのよね。
posted by ウロ at 10:44| Comment(0) | 所得税法

2022年02月21日

リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除

 今回は、前回・前々回の検討を踏まえて「死別」の場合を掘り下げてみます。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除


 前座として「本人死亡」の場合から。

【事例1】
1 取得年
  本人:入居・継続居住
2 翌年
  本人:死亡 ⇒空家

 取得年は当然適用ありです。では、翌年はどうなるか。

 前回までの引用では省略していましたが、イ(継続居住要件)の「その年の十二月三十一日」の後ろにはカッコ書きで(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)というのが挿入されています。

法第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


 それゆえ、翌年においても「死亡日の現況」で判断されるので、適用を受けることが可能になります(準確定申告)。借入金残高は死亡日時点の残高となります。

 なお、誰かが住居を「相続」したとしても、相続は住宅ローン控除における取得原因とはならないので、翌年以降は住宅ローン控除の適用を受けることはできません。


 これを踏まえて真打ち。

【事例2】
1 取得年
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年
  配偶者:死亡 ⇒空家

 通達41-1と41-2で要件ア・イを拡張してくれているおかげで、取得年は適用を受けられます。

41-1(居住の用に供した場合)
 措置法第41条第1項、第6項、第10項、第13項及び第16項に規定する「その者の居住の用に供した場合」とは、同条第1項に規定する居住用家屋(以下第41条関係において「居住用家屋」という。)の新築若しくは居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは同項に規定する既存住宅の取得若しくは同条第10項に規定する認定住宅(以下第41条関係において「認定住宅」という。)の新築若しくは認定住宅で建築後使用されたことのないものの取得(以下第41条関係において「新築等」という。)又は同条第1項に規定する増改築等(以下第41条関係において「増改築等」という。)をした者が、現にその居住の用に供した場合をいうのであるが、その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、その新築の日若しくはその取得の日又は増改築等の日から6月以内にその家屋(増改築等をした家屋については、その増改築等に係る部分。以下41-5までにおいて同じ。)をこれらの親族がその居住の用に供したときで、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、これに該当するものとする。

41-2(引き続き居住の用に供している場合)
 措置法第41条第1項、第6項、第10項、第13項及び第16項に規定する「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等又は増改築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1) その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。


 では、配偶者が「死亡」した翌年はどうなるか。

 今回、通達を省略せずに掲載してみましたが、「家族死別」の場合のルールは何も書かれていません。
 そうすると、通達の文理解釈()からすれば、拡張デバイスの効力が切れて適用を受けられなくなる、という帰結になります。


 では、配偶者と死別後、本人が「帰郷」したら、23項で再適用を受けることができるか。

 23項にも(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)というカッコ書きが挟まっていますが、これはあくまでも「本人死亡」の場合です。

法第23項
・第一項の規定の適用を受けていた個人が、
・その者に係る所得税法第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(「給与等の支払者」)からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基因して
・その適用に係る第一項の居住用家屋をその者の居住の用に供しなくなつたことにより第一項の規定の適用を受けられなくなつた後、
・これらの家屋を再びその者の居住の用に供した場合における第一項の規定の適用については、
・同項に規定する居住年以後十年間(同項に規定する十年間をいう。)の各年のうち、その者がこれらの家屋を再び居住の用に供した日の属する年(その年において、これらの家屋を賃貸の用に供していた場合には、その年の翌年)以後の各年(同日以後その年の十二月三十一日(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)は、同項に規定する適用年とみなす。


 また、通達41-3の拡張条件は「配偶者が本人と同居するために転居した場合」に限られています。

41-3(居住の用に供しなくなった場合)
 措置法第41条第23項及び第26項に規定する「その者の居住の用に供しなくなった」とは、新築等又は増改築等をした者が現に居住の用に供しなくなったことをいうのであるが、同条第23項及び第26項に規定する給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基づいてその者が居住の用に供しなくなった後も、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族がその家屋を引き続き居住の用に供していた場合で、これらの親族がその者と共に居住することに伴い転居してその家屋を居住の用に供しなくなったときは、これに該当するものとする。


 そうすると、配偶者「死亡」により空家になった場合は、通達41-3は機能しないことになります。

 が、下記【事例3】【事例4】と比べると、どうもアンバランス。

【事例2】 (配偶者が死亡)
1 取得年 ○(1項、通達41-1,2)
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年 ×
  配偶者:死亡 空家
3 翌々年 ×(?)
  本人:帰郷

⇒配偶者死亡により空家になっているため、翌年・翌々年は適用不可

【事例3】 (配偶者が本人と同居)
1 取得年 ○(1項、通達41-1,2)
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年 ×
  配偶者:本人と同居 ⇒空家
3 翌々年 ○(23項+通達41-3)
  本人+配偶者:帰郷

⇒翌年は空家になっているため適用不可だが、翌々年は法23項+通達41-3により適用可。

【事例4】 (23項の典型例)
1 取得年 ○(1項)
  本人:入居・居住継続
2 翌年 ×
  本人:転勤 ⇒空家
3 翌々年 ○(23項)
  本人:帰郷

⇒翌年は空家になっているため適用不可だが、翌々年は法23項により適用可。


 もちろん、「趣旨解釈」を展開することで、配偶者死亡の場合にも適用を拡張することが可能になるのかもしれません。
 が、措置法分野でそのような拡張解釈が望み薄なのは、すでに述べたとおりです。

「居住の用に供しなくなった場合」とは
  法23項:本人転勤で空家になった場合【事例4】
 通達41-3:家族のみ居住で、家族が「本人と同居」して空家になった場合に拡張【事例3】
 趣旨解釈:家族のみ居住で、家族が「死亡」して空家になった場合に拡張(?)【事例2】


 そうすると、1項を継続適用できるようにするため、配偶者の死を「予知」して単身赴任を早めに切り上げて戻ってこい、ということになるでしょうか。

【税法と予知(オカルティック租税法)】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)

リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
posted by ウロ at 10:54| Comment(0) | 所得税法

2022年02月14日

リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除

 前回タイトルから、なんか増えていますが。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除

 まあ、人生山あり谷ありということで。


 前回検討のそもそものきっかけは、次のような事例で住宅ローン控除がどうなるかを確認するためでした。

【検討事例】
1 取得年
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年
  配偶者と離婚
3 離婚年に本人帰郷 または 離婚翌年に本人帰郷

 まず、1の取得年は、通達41-1,41-2のおかげで法1項が適用できます。
 では、翌年離婚した以降はどうなるでしょうか。

 このような問題、例によって、タックスアンサーや《税務お役立ち記事》に書かれることはありません。
 ので、自分で条文にあたるしかない。

 私自身も、ブログネタになるから頑張ってイジり倒しているだけであって、何の必要もないのに何でもかんでも条文に遡る気はありません。特に措置法の条文なんて、所属が措置法だと分かった時点で、忌避感を抱いてしまう類のものです。

 が、どこにも書いていないから、やるしかない。


 前回同様、素材の提示から。

第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


 法からすれば、要件イを満たさず「適用なし」となるところです。
 では、通達41-2の要件イ拡張デバイスが使えるかどうか。

41-2(引き続き居住の用に供している場合)
「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1)
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、
・その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。


 離婚して「他人」となってしまった以上、通達41-2は機能しません。
 仮にその他人(元配偶者)が引き続き居住していたとしてもです。他人は他人。


 では、本人が帰郷すれば適用ができるかどうか。

 まず、離婚前帰郷であれば、「○まだ配偶者⇒○ご本人」と居住継続が途切れないので、要件イを満たすことになるように思われます。

 これが、離婚後帰郷(離婚年または離婚翌年いずれでも)の場合は、「○まだ配偶者⇒×もう他人⇒○ご本人」と、他人が挟まってしまうので、要件イを満たせないことになりそうです。

 「帰郷するまで離婚待ってください」とでも言わないといけないということでしょうか。


 ここで、通達41-3が機能しないかどうか。
 通達41-3が機能してくれるのであれば、本人帰郷後に法23項が使えることになるはずです。

41-3(居住の用に供しなくなった場合)
・「その者の居住の用に供しなくなった」とは、新築等をした者が現に居住の用に供しなくなったことをいうのであるが、
・給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基づいてその者が居住の用に供しなくなった後も、
・配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族がその家屋を引き続き居住の用に供していた場合で、
・これらの親族がその者と共に居住することに伴い転居してその家屋を居住の用に供しなくなったときは、
・これに該当するものとする。


 が、通達41-3が想定しているのは、
  1 本人:単身赴任、配偶者:入居・継続居住
  2 配偶者:本人と同居
というものです。
 1は【検討事例】のとおりですが、2が全然違う。離婚の場合などはおよそ想定されていません。


 通達を文理解釈()するかぎり【検討事例】では使いようがありません。

【通達の文理解釈()】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 あとは「趣旨解釈」でどうにかならないか。

 確かに、近時いやに「趣旨解釈」を強調しがちな裁判例が現れています。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 が、他方でそれ以上に「措置法の特例は例外なんだから厳格に解釈すべし」という根強い通念が存在しています。
 ということで、おそらく「趣旨解釈」による救済の見込みは極めて低い、というのが私の見立て。

 タイミングが前後するだけで結論が逆転するという、税制お馴染みの落とし穴が、ここにもあるということです。

リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
posted by ウロ at 10:43| Comment(0) | 所得税法

2022年02月07日

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除

 「令和4年度税制改正大綱」では住宅ローン控除についてもかなり手を入れることとされています。
 が、当ブログは例によって改正内容云々をご説明するつもりはなく。

 先日の記事では、年末調整における控除項目が、ご家庭の事情の変化にどう影響されるかということを検討しました。

機能的年末調整論(その1) 〜年末調整と離婚(配偶者)
機能的年末調整論(その2) 〜年末調整と死別(配偶者)
機能的年末調整論(その3) 〜年末調整と結婚(子)
機能的年末調整論(その4) 〜年末調整と死別(子)

 その中で、「住宅ローン控除」についてもほんのり触れました。
 ですが、いまいち理解しきれなかったので、もう少し検討を進めてみます。


 かつての住宅ローン控除、「転勤」の多い日本的雇用システム(長期雇用、年功賃金など)にそぐわない側面があったわけですが、法改正や通達によって一定程度のカバーがされてきました。

No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等

 上記タックスアンサー様(以下「TA」という。)にまとめて頂いているわけですが、例によって《類型論的アプローチ》での記述となっており、網羅性に欠ける。

 ということで、条文を確認してみます。

【以下の検討のお約束事項】
・新規取得で代表させて記述します。
・控除期間は10年前提で記述します。
・要件のうち「居住の用に供した場合」「引き続き居住の用に供している場合」のみを対象とします。
・「入居」は、取得から6ヶ月以内に居住の用に供したことを前提とします。
・転勤は国内を想定し、「特定事由」に該当するものとします。
・転勤が終わって再居住することを「帰郷」と表現します。
・属性は、単身者と単身赴任とします(家族全員転勤は単身者と同じ)。
・転勤のタイミングを、入居前/入居後適用前/入居後適用後に場合分けします。
・「措置法41条」は省略して項数のみで引用します。
・条文は、関係箇所以外を派手に省略して引用します。
・いつ以降の居住・転勤かによってルールが異なりますが、現時点のルールを前提とします。
・25項、28項の宥恕規定は省略します。


 まずは、大原則である「1項」について。

第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


 所得者本人が、家屋取得から6ヶ月以内に入居し、各適用年の12/31まで継続居住していることを要求しています。

 次に「23項・24項」について。

第23項(実体要件)
・第一項の規定の適用を受けていた個人が、
・その者に係る所得税法第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(「給与等の支払者」)からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基因して
・その適用に係る第一項の居住用家屋をその者の居住の用に供しなくなつたことにより第一項の規定の適用を受けられなくなつた後、
・これらの家屋を再びその者の居住の用に供した場合における第一項の規定の適用については、
・同項に規定する居住年以後十年間(同項に規定する十年間をいう。)の各年のうち、その者がこれらの家屋を再び居住の用に供した日の属する年(その年において、これらの家屋を賃貸の用に供していた場合には、その年の翌年)以後の各年(同日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)は、同項に規定する適用年とみなす。

第24項(手続要件)
・前項の規定は、同項の個人が、
・同項の家屋をその居住の用に供しなくなる日までに同項に規定する事由その他の財務省令で定める事項を記載した届出書(第四十一条の二の二第七項の規定により同項の証明書(これに類するものとして財務省令で定める書類を含む。)の交付を受けている場合には、当該証明書のうち同日の属する年以後の各年分に係るものの添付があるものに限る。)を当該家屋の所在地の所轄税務署長に提出しており、
・かつ、前項の規定の適用を受ける最初の年分の確定申告書に当該家屋を再びその居住の用に供したことを証する書類その他の財務省令で定める書類(次項において「再居住に関する証明書類」という。)の添付がある場合に限り、適用する。


 適用後に転勤になった場合、
  転勤前:届出書を提出+証明書を返還
  帰郷後:確定申告書+再居住証明書類を提出
をすれば、再居住年から再適用を受けられる(残存期間のみ)、ということです(賃貸してたら翌年から)。

 そして、「26項・27項」について。

第26項(実体要件)
・個人が、
・住宅の取得等をし、かつ、当該住宅の取得等をした第一項の居住用家屋を同項の定めるところによりその者の居住の用に供した場合において、
・当該居住の用に供した日以後その年の十二月三十一日までの間に、その者に係る給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由(「特定事由」)に基因してこれらの家屋をその者の居住の用に供しなくなつた後、
・これらの家屋を再びその者の居住の用に供したときは、
・第一項に規定する居住年以後十年間(同項に規定する十年間をいう。)の各年のうち、その者がこれらの家屋を再び居住の用に供した日の属する年(その年において、これらの家屋を賃貸の用に供していた場合には、その年の翌年)以後の各年(同日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)は、
・同項に規定する適用年とみなして、同項の規定を適用することができる。

第27項(手続要件)
・前項の規定は、同項の個人が、
・同項の規定の適用を受ける最初の年分の確定申告書に、同項の規定により第一項の規定の適用による控除を受ける金額についてのその控除に関する記載があり、
・かつ、当該金額の計算に関する明細書、前項の家屋を特定事由が生ずる前において居住の用に供していたことを証する書類、当該家屋を再びその居住の用に供したことを証する書類、登記事項証明書その他の財務省令で定める書類(「再居住等に関する証明書類」)の添付がある場合に限り、適用する。


 入居後適用前に転勤になった場合、
  帰郷後:確定申告書+再居住証明書類の提出
すれば、再居住年から適用を受けられる(残存期間のみ)、ということです(賃貸してたら翌年から)。

 23項・26項とも、1項のイ「引き続き居住の用に供している場合」を緩和する(みなす)制度です。
 ア「居住の用に供した場合」については、23項では当初居住年で満たしていることが前提となっており、26項では要件の中に組み込まれています。

 これが転勤絡みの制度の枠組みです。
 次に、単身者・単身赴任の場合ごとに、どのタイミングで転勤するかで適用関係がどのように変わるかを検討します。


 A 単身者の場合

1 入居前に転勤

 誰も・一度も入居していない以上、ア「居住の用に供した場合」を満たさず適用を受けることはできません。
 上記の通り、23項・26項ともイ「引き続き居住の用に供している場合」の緩和制度に留まるので、入居前転勤事例には手が出せません。

2 入居後適用前に転勤

 ア「居住の用に供した場合」は満たしますが、イ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしません。
 26項の適用場面となるため、帰郷後に確定申告すれば適用を受けることができます。

 なお、タックスアンサーの2(3)では、なぜか家族がいる前提での記述となっているのですが、26項はそんなものは要求していません。ので、単身者でも当然適用を受けることができます。
 適用範囲を狭める方向に誤解させがちな、タックスアンサーの悪い性癖。

パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○

3 入居後適用後に転勤

 当初適用時はイ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしていましたが、その後イを満たさなくなったということです。
 23項の適用場面となるため、転勤前に届出、帰郷後に確定申告をすれば適用を受けられます。


 B 単身赴任の場合

1 入居前に転勤

 本人は、ア「居住の用に供した場合」もイ「引き続き居住の用に供している場合」も満たしていません。

 アの緩和通達が41-1にあり、「転勤+家族入居+本人帰郷予定」であればアを満たすものとされています。
 また、イの緩和通達が41-2にあり、「転勤+家族継続居住+本人帰郷予定」であればイを満たすものとされています。

 これら条件に合致すれば、当初居住年から適用を受けることができます。
 この場合に適用されるのは、23項でも26項でもなく1項になります。

41-1(居住の用に供した場合)
・「その者の居住の用に供した場合」とは、第1項に規定する居住用家屋(「居住用家屋」)で建築後使用されたことのないものの取得(「新築等」)をした者が、現にその居住の用に供した場合をいうのであるが、
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、
・その取得の日から6月以内にその家屋をこれらの親族がその居住の用に供したときで、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・これに該当するものとする。

41-2(引き続き居住の用に供している場合)
「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1)
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、
・その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。


2 入居後適用前に転勤

 ア「居住の用に供した場合」は満たしますが、イ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしません。

 通達41-2の条件に合致すればイを満たすことになり、当初居住年から適用を受けることができます。こちらも1項が適用されます。

3 入居後適用後に転勤

 当初適用時はイ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしていましたが、その後イを満たさなくなったということです。

 通達41-2の条件に合致すればイを満たすことになり、本人転勤後も引き続き適用を受けることができます。こちらも1項が適用されます。


 なお、通達41-3、41-4というのがあります。

41-3(居住の用に供しなくなった場合)
・「その者の居住の用に供しなくなった」とは、新築等をした者が現に居住の用に供しなくなったことをいうのであるが、
・給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基づいてその者が居住の用に供しなくなった後も、
・配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族がその家屋を引き続き居住の用に供していた場合で、
・これらの親族がその者と共に居住することに伴い転居してその家屋を居住の用に供しなくなったときは、
・これに該当するものとする。

41-4(再び居住の用に供した場合)
・「再びその者の居住の用に供した」とは、新築等をした者が現に再び当該家屋を居住の用に供したことをいうのであるが、
・その者の配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族が再びその居住の用に供したときで、
・「給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由」が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・これに該当するものとする。


 上記B1〜3は、第1項の適用場面を通達41-1、41-2で拡張したものであって、23項・26項はでてきませんでした。
 これに対して、単身赴任後に残った家族が本人と同居した場合が通達41-3、家族だけが再居住した場合が通達41-4に書かれており、これらの場合に23項・26項の適用範囲を拡張するものです。

 局面でいうと、B1〜3の後の展開です。
 ただし、41-3は単身赴任スタートになっていますが、41-4は必ずしも単身赴任スタートである必要はありません。家族ごと転居からの家族のみ再居住も含まれています。


 さて、翻ってタックスアンサーの2をみてみると、記述範囲が中途半端です。

(1) 単身赴任
 1入居前転勤の場面だけが書かれてて、2・3が書かれていない。
(2) 3入居後適用後 
 家族ごと転居の場合が書かれているが、単身者の場合が書かれていない。
(3) 2入居後適用前
 家族ごと転居の場合が書かれているが、単身者の場合が書かれていない。

 また、家族ごと転居の場合の「1入居前転勤」は適用無しだからでしょうか、記述がされていません。

 そもそも、(1)は人の属性なのに、(2)(3)は転勤のタイミングと、違うものが並べられていて、ものすごい不安になる。私がセンチメンタルなだけですか。

TA1234.png


 人の属性/転勤のタイミングごとに整理することもなく、ただ単に、法律と通達に書かれていることを無思考で陳列しようとすると、こういう記述になります。

リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
posted by ウロ at 09:35| Comment(0) | 所得税法