2022年03月28日

長崎年金二重課税訴訟の要件事実(と称するところのもの)

 全く全然、続ける気はなかったのですが、あまりにも酷かったので。気力を振り絞って整理しておきます。

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 同書には、いわゆる長崎年金二重課税訴訟の要件事実だとかいって、次のような記述が出てきます(同書43頁)。

【長崎年金二重課税訴訟】
 最高裁平成22年7月6日判決(最高裁のサイト)

(引用ここから)
訴訟物
 本件更正処分の違法性

請求原因
(行政処分の存在)
@ 処分行政庁による,Xの平成14年分の所得につき,年金払保障特約付生命保険契約に基づき支払われた第1回目の年金支給額を雑所得と認定して行った所得税に係る更正処分が存在する。
(違法性の主張)
A 本件更正処分は違法である。

〔争点:本件生命保険契約に基づき支払われる年金受給権は,相税3条1項により,相続により取得したものとみなされて,相続税の課税財産に含められているところ,旧所税9条1項15号は,相続税により取得するものを非課税所得としているから,本件年金受給権に基づき取得した本件第1回目の年金支給額を雑所得として認定判断してなした本件更正処分には,法条の解釈を誤った違法があるといえるか否か。〕

抗弁(更正処分の適法性に関する評価根拠事実)
1 本件年金受給権は,本件生命保険契約によれば,亡Aを契約者兼被保険者とし,Xを保険金受取人とする有期定期金債権であり,相税3条1項1号所定の相続財産に該当する。
2 Xは,本件生命保険契約に基づいて,本件年金受給権という基本権とは異なり,保険事故が発生した日から10年間毎年の応当日に発生する,年金受給に係る支分権に基づき,保険会社から現金を受領した。

〔主張の趣旨:当該定期金は,相続税の課税対象たる年金受給権(基本権)とは異なる,別個の定期金請求権(支分権)に基づくものであるから,所得税の課税対象となる。〕

再抗弁(更正処分の適法性に関する評価障害事実)
3 本件生命保険契約によれば,本件支分権が行使されることにより,生命保険金に係る基本的権利である本件年金受給権は徐々に消滅していく関係にある。
4 本件支分権たる有期定期金の価額は,相税及び財産評価基本通達によれば,その残存期間に受けるべき給付金の総額に,その期間に応じた一定の割合を乗じて計算した金額とされているところ,この割合は,将来支給を受ける各年金の課税時期における現価を複利の方法によって計算し,その合計額が支給を受けるべき年金の総額のうちに占める割合を求め,端数整理をしたものとされている。

〔主張の趣旨:相続法による年金受給権の評価は,将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現在価値に引き直したものであるから,これに対して相続税を課税したうえで,さらに個々の定期金に所得税を課税することは,実質的に,同一の資産に対して相続税と所得税を二重に課税するもので,所税9条1項15号の規定に違反するものである。〕
(引用ここまで)


 (抗弁・再抗弁の数字を1〜4に変えてあります。)

所得税法 第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
十七 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)



 前回の記事をご覧いただくとおわかりになるかと思いますが、以前と全く同じ愚挙をおかしています。

 2で「基本権と異なり」などと書かれていますが、基本権と支分権が異なるかどうかはもっぱら裁判所による「評価」の問題です。これを要件事実の中に混ぜ込むことなど、およそ許されるものではありません。

 (およそありえない想定ですが)仮に、納税者が「2は認める」などと認否したとしても、裁判所が2の《評価部分》に拘束されることはありません。当事者の認否の対象となるのは「事実」であって「評価」ではないからです。

 そもそも、本件最高裁の立場からすれば、2の《事実部分》がすべて認定できたとしても、更正処分が是認されることにはなりません。端的にいえば「主張自体失当」。

 「評価的要件」の場合、プラスっぽい事情を評価根拠事実として課税庁に、マイナスっぽい事情を評価障害事実として納税者に、なんとなく割り振れば、なんか要件事実の分配をしたかのように見せかけることができてしまいます。
 が、このようなものは、学部生が聞きかじりの要件事実論の真似事をしてみたレベルの話。実体法の勉強があやふやな段階で、要件事実論に手を出そうとするとやりがちな間違い。

 上記の抗弁・再抗弁(1〜4)で分配されているのは要件事実などではなく、単にA説(二重課税否定説)の理由付けとB説(二重課税肯定説)の理由付けが並んでいるだけです。当事者の主張責任・立証責任の対象となる事実として純化されていません。
 確かに、「当該見解の根拠はその主張者が主張すべきである」という言い方をするならば、主張責任・立証責任《風》な表現は可能です。が、すくなくともそれは要件事実論とは別の何かです。


 「税法」領域で要件事実論を展開しているせいで理解しにくくなっているのかもしれません。そこで、次のような「民法」領域での例をあげれば、上記引用にかかる記述のビザール感が理解できるでしょうか。

 たとえば、2017年改正前民法で、「動機の錯誤」が民法95条の錯誤に該当するかが争われていた状況を前提とします。
 原告が、動機レベルの思い違いも錯誤にあたるから契約は無効だとして代金返還請求をしてきたとしましょう。これに対して、被告が、動機は意思表示の要素とならないから錯誤にあたらないと反論したとします。

 この場合に、次のような要件事実の分配をしたらどうでしょうか(本論と関わりない要件は省略します)。

  請求原因
   1 動機は表示されているから意思表示に含まれ要素の錯誤となる。
  抗弁
   2 動機は意思表示の内容でないから要素の錯誤とならない。

 「阿呆ですか」と突っ込まれますよね。
 ひとつのブロックダイアグラムの中で、A説、B説が同居するなんてことはおよそありえません。A説に基づくブロックダイアグラム、B説に基づくブロックダイアグラムがそれぞれ別々に存在するものです。

 もちろん、裁判所が事前にA説・B説いずれを採用するかは、中間判決を出してくれるなり心証開示でもしてくれない限りは、事前にわかるものではありません。ので、どちらの説がでてもよいような主張・立証活動をすることになります。
 が、だからといって、A説に基づく請求原因の後ろにB説に基づく抗弁を連結させる、などということはしません。

 法解釈論レベルの争いを請求原因⇒抗弁として直列させるなどという愚挙、要件事実論というものをまるで理解していないということを如実に表しています。

 これは予備校のテキストによくある、次のような《論点学説陳列》にすぎません。

 A説(肯定説)
  理由:動機は表示されることで要素になる。
 B説(否定説)
  理由:動機は意思表示の内容に含まれない。

 別の例もあげておきます。
 たとえば、未成年者側が、未成年を理由とする契約取消しに基づき代金返還請求をしたとしましょう。これに対して相手方が、未成年であることを黙っていたことが「詐術」にあたるとして反論したとしましょう。

 抗弁
  1 未成年であることを黙っていたから「詐術」にあたる。
 再抗弁
  2 単なる沈黙は「詐術」にあたらない。

 これも、A説×B説の法解釈論レベルの争いであって、要件事実の問題ではありません。


 と、民法領域でカマしたら阿呆呼ばわりされるようなことが、税法領域だと公刊物において幅を利かせることができてしまっているわけです。
 これ、「税法」の要件事実論だから誰からも突っ込まれずに流されているんでしょう。けども、同じことを「民法」で展開したら、しばらく要件事実論出入り禁止になるレベルではないでしょうか。

 要件事実論というのは、単に事実っぽい何かを原告被告に割り付けるようなものではなく。
 その大前提として、実体法上の要件が何であるかを見極めた上で、評価と事実、主要事実と間接事実、事実と証拠、それぞれを混同することなく、主張責任・立証責任の対象となる主要事実を取り出す必要があります。
 要件事実の分配なんてのは、そこまでしっかりやった上で最後に原告被告のどっちに振るかの問題にすぎません。実体法上の要件を取りこぼしたり、実体法にない要件を勝手に付け加えたり、などといった所作に比べれば、そこまで致命的な問題とはなりません(念のため、重要でないということではなく比較の問題です)。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 ちなみに、本件最高裁の結論は「原判決破棄+控訴棄却」となっていて、控訴審の結論をひっくり返しつつも事実審に差戻しをしていません。これができるのは、事実関係が原審までですべて出揃っていて、新たな事実認定を必要としなかったからです。
 このことからすれば、本件の論点が事実レベルの問題ではなく、もっぱら法解釈レベルの問題だったということは、容易に推測できたはずなんですけども。


 本書の出版社、どちらかといえば「税務本」が多く、「税法」のしかも「要件事実論」を扱った本などというのは、同社の蓄積が及ばないジャンルなのでしょうか。

【税法本と税務本】
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 が、同出版社でも、次のようなとても優れた判決分析本も出版されていたりします。



 高橋貴美子 税務判例に強くなる本 (中央経済社2016)
 高橋貴美子 税務頭を鍛える本 (中央経済社2018)
 
 このことからすると、品質についてはもっぱら著者依存となっており、「出版社買い」はあまりおすすめできない、ということになりますかね。


 さて、結構なお値段のする本書ですが、私としては、ただ2箇所の要件事実の分配(と自称するところのもの)を見ただけで、これ以上読みすすめる気力が撃滅してしまったため、残念ながら終了。

 もう少し「アクティブ・ラーニング」が展開できそうですが、この記事を仕上げるだけでも相当しんどかったため、これ以上は進めなそうです。
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 所得税法

2022年03月21日

リーガルマインド事業場外労働のみなし労働時間制

 制度自体は皆さんご存知、ということで特に論点らしい論点もないのでしょうが。

 労働基準法の条文を読む練習ということで。


労働基準法 第三十八条の二(事業場外労働)
1 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。


○1項本文

【事例1】
 ・所定労働時間7時間 /法定労働時間8時間

 労働時間を算定し難いときは、
  全部外勤:外勤 →7時間とみなす
  一部外勤:外勤+内勤 →あわせて7時間とみなす

 「全部又は一部」とあることから、全部外勤の場合に外勤7時間とみなすだけでなく、一部外勤の場合に外勤+内勤で7時間とみなすことになります。

○1項但書

【事例2】
 ・所定労働時間7時間 /法定労働時間8時間 /通常必要時間8時間(外勤)

 所定労働時間を超えることが必要なときは、
  外勤 →8時間(通常必要時間)とみなす

 この場合、みなされるのは「当該業務」(=外勤)だけで、内勤は対象になっていません。1項本文のように外勤+内勤あわせてみなされるわけではありません。

 それゆえ、内勤については別途、「実労働時間」を把握する必要があります。

  全部外勤:外勤8時間(みなし労働時間)
  一部外勤:外勤8時間(みなし労働時間)+内勤○時間(実労働時間)

○2項、3項

 「当該業務」(=外勤)とあるので、協定で定めることができるのは外勤のみとなります。
 そして「前項の協定」とあるので、届出書に記載するのも「外勤」のみです。

 1項但書とは別に2項の労使協定があるのは、通常必要時間を決め打ちすることで安定的な運用ができるようにしよう、ということなのでしょう。労働者側の同意もあるならば正統性・妥当性も担保できるでしょうと。

 届出書の提出範囲については、施行規則に規定があります。

労働基準法施行規則 第二十四条の二
1 法第三十八条の二第一項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する。
2 法第三十八条の二第二項の協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)には、有効期間の定めをするものとする。
3 法第三十八条の二第三項の規定による届出は、様式第十二号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。ただし、同条第二項の協定で定める時間が法第三十二条又は第四十条に規定する労働時間以下である場合には、当該協定を届け出ることを要しない。
4 使用者は、法第三十八条の二第二項の協定の内容を法第三十六条第一項の規定による届出(労使委員会の決議の届出及び労働時間等設定改善委員会の決議の届出を除く。)に付記して所轄労働基準監督署長に届け出ることによつて、前項の届出に代えることができる。


○規3項

 法定労働時間(法32条)を超えなければ提出不要とありますが、「協定で定める時間」とあることから外勤のみで判定することになります。

【事例3】
 ・外勤協定時間9時間 →提出必要
 ・外勤協定時間8時間+内勤時間2時間 →提出不要

 もちろん、あわせて法定外の時間外労働が生じれば、別途36協定の締結・提出が必要となります。


 このように、1項本文とそれ以降のみなしの対象がずれていることから、次のような疑問が生じます。

 たとえば、内勤時間に合わせて外勤時間を調整するような運用をしている場合はどうなるのでしょうか。内勤がなければ1日中外勤だが、内勤があればその分外勤を減らすといったような場合です。
 もちろん、外勤時間の把握はできない前提なので、あくまでも目安としての時間です。

 これが所定労働時間内に収まっていれば、内訳がどうであろうと所定労働時間とみなされるだけですみます。

【事例4】
 所定労働時間内に収まる
 ・外勤7時間
 ・内勤1時間+外勤6時間
 ・内勤4時間+外勤3時間
 →いずれも7時間とみなす(外勤の時間は目安であって実労働時間ではない)

 では、所定労働時間を超える運用をしている場合はどうでしょうか。

【事例5】
 ・外勤8時間
 ・内勤1時間+外勤7時間
 ・内勤4時間+外勤4時間

 常に超えるなら、その所定労働時間なんなの、というのはさておき。
 内勤時間に応じて、みなされる外勤の通常必要時間も可変するということになるでしょうか。

 また、労使協定をするならば、内勤時間に応じた外勤時間の書き分けが必要ということでしょうか。そして、書き分けた協定書のうち、外勤のみで法定労働時間を超える部分だけを提出するんだと。

 以上はあくまで条文を読んだ限りで思いついた疑問にすぎません。
 実務的にはつつがなく運用がなされているところなのでしょう。
posted by ウロ at 12:15| Comment(0) | 労働法

2022年03月14日

水町勇一郎「集団の再生」(有斐閣2005)

 一体いつ・どこで・なぜ購入したのか、自分でもまるで記憶のない書籍というものが、いくつかありまして。



水町勇一郎「集団の再生 アメリカ労働法制の歴史と理論」(有斐閣2005)

 本書についても、おそらく労働法について特に関心があったわけでもない時期に購入しているはずです。
 教科書・体系書ならともかく、よくもまあ研究書にまで手を出していたなあと。

 しかも、サブタイトルを見る限り、私の好みでない「おける論文」ぽいですし。
 
法学研究書考 〜部門別損益分析論

 なお、「おける論文」それ自体が悪いということではなく。
 私のようなド素人が読みものとして嗜むには「つまんない」というだけの話です。

 おそらくメインタイトルだけをみて「なんか格好良さそう」という印象だけで購入したのではないでしょうか。

 残念ながら、現時点では「まともな」値段では購入できなくなっています。
 やはり感じ入るものがあったら、「出版即購入積読」仕草をとっておくべきなのでしょう。
 
【クレイジープライス集】
金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 本来であれば、「感じ入る」なんてスピリチュアルな理由ではなく、ちゃんと中身を確認してから購入したいところ。
 が、ゴリゴリの研究書が一般的なリアル書店に入荷されることなんておよそなく、ネット上でも試し読みができるものはほとんどない。

 http://yuhikaku.co.jp/books/detail/4641143536

 ということでやはり、出版社のサイトの数少ない情報から「感じ取る」しかない。


 さて、ここまで前置きを書いておきながら、中身の評価は例によって致しません。
 偉そうに評価できるほどのモノが、私には備わっていませんので。

 ただ一言だけ。

 標準的な書籍では、「アメリカ労働法は解雇自由!」みたいな一面的な理解がされがち。
 ですが、歴史を辿っていくと、「自由」一辺倒ではなく、そのときどきの政治・経済状況により「集団」の側からの挑戦を受け続けてきた、ということが、本書を読むと分かります。

 「おける論文」とともに「史モノ」も苦手は私ですが、本書は特に苦痛なく読めました。
 水町先生の歴史の書き方が非常にうまい、ということかもしれません(偉そうに)。

 日本法への示唆が薄いのはいつものことですが、ここは他著を読め、ということでしょうか。
 最近になって体系書を出版されたところですし。



 水町勇一郎「詳解 労働法 第2版」(東京大学出版会2021)

 そして教科書でも、歴史の記述がしっかりされていますし。



 水町勇一郎「労働法 第9版」(有斐閣2022)
posted by ウロ at 11:11| Comment(0) | 労働法

2022年03月07日

リーガルマインド年次有給休暇 〜原則付与と比例付与

 年次有給休暇の原則付与と比例付与の対象者の切り分けについて。

 結論自体は各種手引、リーフレットなどで自明でしょうが、それが条文上どのように規律されているか、確認をしてみます。


 まずは条文から。原則付与/例外付与の切り分けに関する箇所だけ抜粋します。
 施行規則24条の3で規定されている時間・日数は【 】で組み込んでおきます。

 オリジナルはこちらでご確認ください。

労働基準法(e-Gov)
労働基準法施行規則(e-Gov)

労働基準法 第三十九条(年次有給休暇)
1 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
2 (略)
3 次に掲げる労働者(一週間の所定労働時間が【30時間】以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前二項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の一週間の所定労働日数【5.2日】(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令Bで定める日数とする。
一 一週間の所定労働日数が【4日】以下の労働者
二 週以外の期間によつて所定労働日数が定められている労働者については、一年間の所定労働日数が【216日】以下の労働者
(以下略)



 よくある《労務お役立ちブログ》だと、次のような感じでまとめられています。

1 通常の労働者(週5.2日) 原則付与
2 週30時間未満で週4日以下 比例付与
3 週30時間未満で年216日以下 比例付与

 如何にも条文どおりを装っていますが、出来損ない。
 時間/週、日数/週、日数/年が無秩序に列挙されているだけで全く整理がされていない。

 非専門家向けに分かりやすく、といっても漏れや被りがあるのでは使いものにならない、ということを以前、年末調整の対象者や源泉徴収票の提出範囲に関して論じました。

リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

 ここでも同じ事態が生じているのではないか、と思うわけです。
 ということで、条文構造を順に追ってみましょう。

【お約束事項】
・「時間」「日数」は、いずれも「所定労働時間」「所定労働日数」のことです。
・3項の1号・2号は、単に「1号」「2号」といいます。


 まず1項・2項では、比例付与云々にかかわらず、一旦、全労働者を原則付与の対象に入れています。

 次に3項で、比例付与の対象者を列挙し、それら労働者は1項・2項とは異なる年休日数が付与されることが規定されています。
 ただし、3項はあくまでも「付与日数」に関する例外規定なので、1項・2項で全労働者に要求されている「継続勤務」や「8割以上出勤」は、比例付与の対象者にも要求されたままとなります。

 さらに3項では、「週30時間以上の労働者」が比例付与の対象者から除外されています。比例付与の対象者から除外されることで、1項・2項の原則付与に戻るということです。

 このように、条文構造上は原則としての1項・2項があり、3項で日数が比例付与になる例外を定めています。よくある解説モノで書かれているように、フルタイム用の年休制度とパートタイム用の年金制度が別々に存在しているわけではないということです。


 これらを踏まえた上で、時間/週、日数/週、日数/年の違いを意識して整理をすると、次のようになります。
年休比例付与1.png

・分かりやすさを重視して「通常の労働者(週5.2日)」を盛り込んでみましたが、これは1号の裏返しである「週4日超」に包含されるため、この列は削除してもよいです。

・条文裏返しを慎重に行うために「週4日超」と表現していますが、これは要するに「週5日以上」のことです。
 ではありますが、1時間でも8時間でも1日は1日とカウントするので、「4日超」のほうがしっくりくるかもしれません。

・週4日であっても週30時間以上であれば原則付与の対象となります(たとえば、8時間×4日=32時間)。
 また、1日あたりの所定労働時間が短くても週5日であれば原則付与の対象となります(たとえば、4時間×5日=20時間)。
 その結果、1号で比例付与の対象となるのは、「週30時間未満・不特定」かつ「週4日以下」の場合となります。

・単に「週30時間未満」ではなく「週30時間未満・不特定」と書いているのは、次のような考慮からです。
 すなわち、「日数/週」「日数/月」「日数/年」などと所定労働日数の定めがされている場合であっても、必ずしも「時間/週」まで特定されているとは限りません。のに、もし「週30時間以上」の裏返しを「週30時間未満」と記述してしまうと、「時間/週」が特定されていない場合にあてはめが不能になってしまいます。
 条文上も、「週30時間以上」を比例付与から除外しているのであって「週30時間未満」を残しているのではありません。
 以上のことを正確に表現するため、週時間が「不特定」な場合も明示することにしました。

 なお、「時間/週」が不特定でも、たとえば「時間/年」が特定されていればこれを52週で割ることで週あたりの時間を算出する、という考えもありうるかもしれません。
 が、1号・2号が「日数/週」「日数/年」それぞれに別ルールを適用していることからすると、「時間/年」を割って「時間/週」に均してしまうのは正しくないように思えます。

・週以外の期間で日数が定められている場合は、「日数/年」で判定します。
 他方で、週による日数の定めがあるかぎりは表Aで判定します。同じ労働者につき「日数/週」と「日数/年」を併用して判定することはありえません。
 規則3項の表では「日数/週」と「日数/年」が横並びで記述されてしまっていますが、本来は別々の表にしたほうが望ましいです。

・3項は、条文構造上、「週4日以下の労働者」(1号)・「週以外の期間で日数が定められている労働者」(2号)から「週30時間以上の者」を除外しています。
 上述のとおり、「日数/週」「日数/月」「日数/年」といった所定労働日数の定めがあるからといって、「時間/週」まで特定できるとは限りません。とすると、「週30時間以上の者」を除いて残った労働者には、「週30日未満の労働者」だけでなく「週時間不特定の労働者」もいるはずです。
 特に、2号の場合には「時間/週」が特定できるような定めは現実的には考えにくいように思われます。


 上記の表は、1号(A)と2号(B)とでそれぞれ分けたものです。
 そうではなく、「週30時間以上ならば所定労働日数を問わず原則付与」という3項本文の除外規定を頭にもってくるならば、次のようになるでしょうか。

年休比例付与2.png

 「週30時間以上」の場合は原則付与一択なので、もはや表にする必要がないです。
 bの見出しに「週時間不特定」を入れている理由は上述のとおりです。

 前の表とどちらでもよいのですが、3項の条文構造と馴染むのは前の表のほうです。
 ですが個人的には、週30時間以上なら問答無用で原則付与であることが分かりやすく表現されており、かつ表1つですませられるこちらのほうが好みです。


 以上を、《労務お役立ちブログ》風に横並びで整理するならば、次のようになります。

1 週30時間以上(日数は問わない) 原則付与
2 週5日以上(時間は問わない) 原則付与
3 年216日超(日数/週設定ない場合) 原則付与

4 週30時間未満・不特定で週4日以下 比例付与
5 週30時間未満・不特定で年216日以下(日数/週設定ない場合) 比例付与

 やはり表形式のほうが理解しやすいですね。


 なお、最初に書いた【お約束事項】のとおり、本記事では言葉を省略してしまっていますが、原則付与/比例付与の判定につかう時間・日数は、いずれも「所定」労働時間・日数です。

 仮に、年休発生日を少なくするために、予想される実労働時間・日数を下回る「所定」労働時間・日数を意図的に設定した場合(法定内・所定外労働時間が恒常的に発生する)、どのように評価されるでしょうか。
 所定外労働分の賃金(割増なし)が別途発生するものの、当初の賃金設定で調整はできるでしょうし。

 「労働契約書には週4日と書いてあるが本当の意思は週5日だ」などと、書かれざる当事者の意思を認定するといった手法で穴埋めされることになるのかどうか。
posted by ウロ at 11:05| Comment(0) | 労働法