取りこぼしていた、厚生年金保険法の「養育期間標準報酬月額の特例」について拾っておきます。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
「出産手当金支給申請書」違法論
厚生年金法 第二十六条(三歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例)
1 三歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出(被保険者にあつては、その使用される事業所の事業主を経由して行うものとする。)をしたときは、当該子を養育することとなつた日(厚生労働省令で定める事実が生じた日にあつては、その日)の属する月から次の各号のいずれかに該当するに至つた日の翌日の属する月の前月までの各月のうち、その標準報酬月額が当該子を養育することとなつた日の属する月の前月(当該月において被保険者でない場合にあつては、当該月前一年以内における被保険者であつた月のうち直近の月。以下この条において「基準月」という。)の標準報酬月額(この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、当該みなされた基準月の標準報酬月額。以下この項において「従前標準報酬月額」という。)を下回る月(当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの二年間のうちにあるものに限る。)については、従前標準報酬月額を当該下回る月の第四十三条第一項に規定する平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。
一 当該子が三歳に達したとき。
二 第十四条各号のいずれかに該当するに至つたとき。
三 当該子以外の子についてこの条の規定の適用を受ける場合における当該子以外の子を養育することとなつたときその他これに準ずる事実として厚生労働省令で定めるものが生じたとき。
四 当該子が死亡したときその他当該被保険者が当該子を養育しないこととなつたとき。
五 当該被保険者に係る第八十一条の二第一項の規定の適用を受ける育児休業等を開始したとき。
六 当該被保険者に係る第八十一条の二の二第一項の規定の適用を受ける産前産後休業を開始したとき。
(略)
ここで求められていることは、3歳未満の子を養育している・していたことと標準報酬月額が基準月を下回っている月があることで、その下回った原因が養育にあることは求められていません。
申出書には「勤務時間短縮等の措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合」などと書かれていますが、そのような因果関係は条文上は要求されていませんし、何がしかの特別な措置をとることすら要求されていません。
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
随分緩すぎる気もしますが、条文を読む限りはそういうことのようです。
前回までで検討したもののなかでいうと、出産手当金の系列に属します。
出産手当金:対象期間中に休業していれば休業原因を問わず受けられる。
標準報酬月額特例:対象期間中に下回っていれば下回った原因を問わず受けられる。
社保免除、終了時改定:理由が限定されている
出産手当金、標準報酬月額特例:理由が限定されていない
○
ただし、標準報酬月額特例の対象期間の終了事由の中に「産前産後休業」が出てきます。
こちらは、終了時改定・社保免除の「産前産後休業」と同じ意味です。ので、産前産後期間の休業であっても「妊娠・出産」を理由とするものでなければ終了事由には該当しないということです。
というか、「第八十一条の二の二第一項の規定の適用を受ける」とあるので、社保免除を受けたら終了ということですね(2人目に移る)。
○
以上、今回検討した各制度を、なんとなく「産前産後休業」に関する制度と一括りで理解していると、思わぬ間違いを起こす可能性があるということがわかりました。
お役所のリーフレットの類が、分かりやすさ優先で正確性を犠牲にしがちなのはしばしば観測されますが、書式すら不正確というのはなかなかにしんどい。
面倒ではありますが、やはり一度は条文を見ておかないといけないということでしょう。
厚生年金法 第二十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 実施機関は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に従事しないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に従事しない場合に限る。)をいい、船員(国家公務員共済組合の組合員たる船員及び地方公務員共済組合の組合員たる船員を除く。以下同じ。)たる被保険者にあつては、船員法第八十七条第一項又は第二項の規定により職務に服さないことをいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、第二十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となつた日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
(略)
厚生年金法 第八十一条の二の二(産前産後休業期間中の保険料の徴収の特例)
1 産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、第八十一条第二項の規定にかかわらず、当該被保険者に係る保険料であつてその産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間に係るものの徴収は行わない。
(略)
健康保険法 第四十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 保険者等は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)をいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
(略)
健康保険法 第百五十九条の三
産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
2 第九十九条第二項及び第三項の規定は、出産手当金の支給について準用する。
【事例演習】育休期間中の社保免除
2022年04月25日
養育期間標準報酬月額の特例はどっち?
posted by ウロ at 09:43| Comment(0)
| 社会保障法
2022年04月18日
「出産手当金支給申請書」違法論
前回の記事の中で、産休の社保免除・終了時改定では休業理由が「出産・妊娠」に限定されているのに対し、出産手当金ではそのような限定がされていない、ということを書きました。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
ところが、運営の「健康保険出産手当金支給申請書」の書式には、「3 出産のため休んだ期間(申請期間)」という欄があります。
健康保険出産手当金支給申請書
出産手当金を申請できるのは「出産のため」に休んだ場合に限られるというのが、運営の立場のようです。
が、法律が認めているものを、運営レベルで勝手に制限してしまってよいものなのでしょうか。
○
この点、「傷病手当金」の規律をみてみると、
健康保険法 第九十九条(傷病手当金)
1 被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
と、「療養のため労務に服することができないとき」と休業理由が限定されています。怪我の療養とは別の理由で休んだら対象外になるんだと。
ので、傷病手当金支給申請書が「4 療養のため休んだ期間(申請期間)」となっているのは、法律の定めどおりで正しいわけです。
健康保険傷病手当金支給申請書
これに対し、「出産手当金」では、
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
と、期間の限定はあるものの、休業理由には限定がないことが分かります。
もしかして省令レベルで限定が付されているのかと思いきや、単に「労務に服さなかった期間」としか書かれていません。
健康保険法施行規則 第八十七条(出産手当金の支給の申請)
1 法第百二条第一項の規定により出産手当金の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を保険者に提出しなければならない。
一 被保険者等記号・番号又は個人番号
二 出産前の場合においては出産の予定年月日、出産後の場合においては出産の年月日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定年月日及び出産の年月日)
三 多胎妊娠の場合にあっては、その旨
四 労務に服さなかった期間
五 出産手当金が法第百八条第二項ただし書の規定によるものであるときは、その報酬の額及び期間
六 出産手当金が法第百九条の規定によるものであるときは、受けることができるはずであった報酬の額及び期間、受けることができなかった報酬の額及び期間、法第百八条第二項ただし書の規定により受けた出産手当金の額並びに報酬を受けることができなかった理由
ちなみに、社保免除の申出書には、「産前産後休業期間とは、出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)〜出産日後56日の間に、妊娠または出産を理由として労務に従事しない期間のことです。」との注意書きがあって、こちらはこれで正しいわけです。
産前産後休業を取得し、保険料の免除を受けようとするとき
○
ということで、「健康保険出産手当金支給申請書」は、法律上申請できるはずの休業まで勝手に制限してしまっている点で違法だと、私は思うのですが、誰も騒ぎ立てていないことからすると、私の条文の読み方がおかしいだけなのでしょうか。
もしくは、分かっている人は分かっている、ということで、しれっと別理由の休業期間も申請期間に含めて申請しているのでしょうか。
養育期間標準報酬月額の特例はどっち?
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
ところが、運営の「健康保険出産手当金支給申請書」の書式には、「3 出産のため休んだ期間(申請期間)」という欄があります。
健康保険出産手当金支給申請書
出産手当金を申請できるのは「出産のため」に休んだ場合に限られるというのが、運営の立場のようです。
が、法律が認めているものを、運営レベルで勝手に制限してしまってよいものなのでしょうか。
○
この点、「傷病手当金」の規律をみてみると、
健康保険法 第九十九条(傷病手当金)
1 被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
と、「療養のため労務に服することができないとき」と休業理由が限定されています。怪我の療養とは別の理由で休んだら対象外になるんだと。
ので、傷病手当金支給申請書が「4 療養のため休んだ期間(申請期間)」となっているのは、法律の定めどおりで正しいわけです。
健康保険傷病手当金支給申請書
これに対し、「出産手当金」では、
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
と、期間の限定はあるものの、休業理由には限定がないことが分かります。
もしかして省令レベルで限定が付されているのかと思いきや、単に「労務に服さなかった期間」としか書かれていません。
健康保険法施行規則 第八十七条(出産手当金の支給の申請)
1 法第百二条第一項の規定により出産手当金の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を保険者に提出しなければならない。
一 被保険者等記号・番号又は個人番号
二 出産前の場合においては出産の予定年月日、出産後の場合においては出産の年月日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定年月日及び出産の年月日)
三 多胎妊娠の場合にあっては、その旨
四 労務に服さなかった期間
五 出産手当金が法第百八条第二項ただし書の規定によるものであるときは、その報酬の額及び期間
六 出産手当金が法第百九条の規定によるものであるときは、受けることができるはずであった報酬の額及び期間、受けることができなかった報酬の額及び期間、法第百八条第二項ただし書の規定により受けた出産手当金の額並びに報酬を受けることができなかった理由
ちなみに、社保免除の申出書には、「産前産後休業期間とは、出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)〜出産日後56日の間に、妊娠または出産を理由として労務に従事しない期間のことです。」との注意書きがあって、こちらはこれで正しいわけです。
産前産後休業を取得し、保険料の免除を受けようとするとき
○
ということで、「健康保険出産手当金支給申請書」は、法律上申請できるはずの休業まで勝手に制限してしまっている点で違法だと、私は思うのですが、誰も騒ぎ立てていないことからすると、私の条文の読み方がおかしいだけなのでしょうか。
もしくは、分かっている人は分かっている、ということで、しれっと別理由の休業期間も申請期間に含めて申請しているのでしょうか。
養育期間標準報酬月額の特例はどっち?
posted by ウロ at 11:43| Comment(0)
| 社会保障法
2022年04月11日
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
産休・育休まわりの制度ですが、主なものだけでも、
・労働基準法
・育児介護休業法
・厚生年金保険法、健康保険法
・雇用保険法
に散らばって存在しています。
代表的な制度を整理すると次のとおり(あと入れるとしたら厚年法26条の「標準報酬月額の特例」でしょうか)。雇用保険料については支給のあるなしで決まるので、特に制度としては設けられていません。

本ブログでよくテーマとなる《法間インターフェイス》という観点からネタになりそうなので、検討してみます。
なお、2022/10/1から改正法が施行されますが、本テーマには直接影響しないので、本記事では改正前の条文を引用します。また、厚生年金保険法と健康保険法は規律内容が同じなので健康保険法の条文で代表させます。
○
まず「産休」から。
労働基準法の規定は次のとおり。
労働基準法 第六十五条(産前産後)
1 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
他方で健康保険法。
健康保険法 第四十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 保険者等は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)をいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、産前産後休業終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
終了時改定のところに「産前産後休業」の定義が書かれていて、それを社保免除(159条の3)に流用しています。
健康保険法 第百五十九条の三
産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。
出産手当金については、流用しないで直接書き込んでいます。
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
2 第九十九条第二項及び第三項の規定は、出産手当金の支給について準用する。
なぜ流用していないのかといえば、おそらく出産手当金の場合は(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)という限定をつけないということかと思われます。
いずれにしても独自の定義によっており、労基法からお借りしているわけではありません。
で、労基法と健保法の違いですが、産後は実際の出産日から起算で一致しています。
他方、産前は、
労基法 出産予定日から起算で固定
健保法 出産日が、予定日どおりor予定日より後 →労基法と同じ
出産日が、予定日より前 →出産日から起算
とズレる場合があります。
労基法ではいつから休む権利があるかが事前に決まっている必要があるので産前休業が固定なのに対し、健保法では出産日が早まると産後休業が前倒しになってしまうので、その分優遇を受けられる産前の期間も前倒しにしてあげよう、ということなのでしょう。
また、終了時改定・社保免除は「妊娠・出産」を理由とする休業であることが要求されているので、
労基法 産前産後休業 休業理由限定なし
健保法 出産手当金 休業理由限定なし
健保法 改定・社保免除 休業理由限定あり
と、健保法の中でもズレがあることになります。
このようなズレがあることにより、
・労働者でない役員であっても、健保法の優遇を受けることができる。
・労基法の産前休業より前の期間でも、健保法の優遇を受けることができる。
・社保免除は受けられないが出産手当金は受けることができる期間がある。
といった事態が生じてきます。
なんとなく「産休で一緒だろ」と思っていると、取りこぼしをしている可能性があるということです。健保法内でもズレがあるというのは、なかなかの落とし穴。
厚年法の標準報酬月額特例も含めて整理しておきます。

○
次に「育休」について。
健保法と雇保法が育介法からお借りしているかどうか。
健康保険法 第四十三条の二(育児休業等を終了した際の改定)
1 保険者等は、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業、同法第二十三条第二項の育児休業に関する制度に準ずる措置若しくは同法第二十四条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定により同項第二号に規定する育児休業に関する制度に準じて講ずる措置による休業又は政令で定める法令に基づく育児休業(以下「育児休業等」という。)を終了した被保険者が、当該育児休業等を終了した日(以下この条において「育児休業等終了日」という。)において当該育児休業等に係る三歳に満たない子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後三月間(育児休業等終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、育児休業等終了日の翌日に次条第一項に規定する産前産後休業を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
終了時改定のところに「育児休業等」の定義を育介法からお借りすることが書かれていて、その定義を社保免除(159条)に流用しています。
健康保険法 第百五十九条
育児休業等をしている被保険者(第百五十九条の三の規定の適用を受けている被保険者を除く。)が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。
他方、「給付」については健保法ではなく雇保法にいきます。
雇用保険法 第六十一条の七(育児休業給付金)
育児休業給付金は、被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。以下この条において同じ。)が、厚生労働省令(101の22)で定めるところにより、その一歳に満たない子(民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二第一項の規定により被保険者が当該被保険者との間における同項に規定する特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求した者(当該請求に係る家事審判事件が裁判所に係属している場合に限る。)であつて、当該被保険者が現に監護するもの、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四第二号に規定する養子縁組里親である被保険者に委託されている児童及びその他これらに準ずる者として厚生労働省令(101の23)で定める者に、厚生労働省令(101の24)で定めるところにより委託されている者を含む。以下この章において同じ。)(その子が一歳に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令(101の25)で定める場合に該当する場合にあつては、一歳六か月に満たない子(その子が一歳六か月に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令(101の26)で定める場合に該当する場合にあつては、二歳に満たない子))を養育するための休業をした場合において、当該休業を開始した日前二年間(当該休業を開始した日前二年間に疾病、負傷その他厚生労働省令(101の29)で定める理由により引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた被保険者については、当該理由により賃金の支払を受けることができなかつた日数を二年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは、四年間))に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたときに、支給単位期間について支給する。
省令を貼り付けると長くなりすぎるので省略しました。条数を挿入しておきましたので各自ご確認ください。
雇用保険法施行規則 | e-Gov法令検索
要するに、雇保法+省令では、育介法からお借りせずに独自に定義を書き込んでいるということです。
が、内容見る限り、どうやら育介法とそっくりなことが書いてあります。
わざわざそっくりなことを書き込むくらいなら、健保法のように素直に育介法から借りてくればいいのでは、と思うのですが、何かそうすべき理由があるのでしょう。
もし、育介法と雇保法とでズレがある(育介法の育児休業にあたらないのに雇保法の育児休業にあたる)ところを見つけた方はお知らせいただけると幸いです。
○
以上をまとめると次の通りとなります。

どうにも統一感が見いだせないのですが、それぞれの立案担当者による深遠な配慮があっての結果なのでしょう。
いずれにしても、お借りするのかしないのか、しっかり法律に書き込まれているわけです。複雑ながらも、条文読めばちゃんと書いてある。
「租税法律主義」とかを偉そうに掲げているくせに、《借用概念論》なる解釈論を無邪気に展開している税法(学)とは大違い。
「出産手当金支給申請書」違法論
・労働基準法
・育児介護休業法
・厚生年金保険法、健康保険法
・雇用保険法
に散らばって存在しています。
代表的な制度を整理すると次のとおり(あと入れるとしたら厚年法26条の「標準報酬月額の特例」でしょうか)。雇用保険料については支給のあるなしで決まるので、特に制度としては設けられていません。

本ブログでよくテーマとなる《法間インターフェイス》という観点からネタになりそうなので、検討してみます。
なお、2022/10/1から改正法が施行されますが、本テーマには直接影響しないので、本記事では改正前の条文を引用します。また、厚生年金保険法と健康保険法は規律内容が同じなので健康保険法の条文で代表させます。
○
まず「産休」から。
労働基準法の規定は次のとおり。
労働基準法 第六十五条(産前産後)
1 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
他方で健康保険法。
健康保険法 第四十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 保険者等は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)をいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、産前産後休業終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
終了時改定のところに「産前産後休業」の定義が書かれていて、それを社保免除(159条の3)に流用しています。
健康保険法 第百五十九条の三
産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。
出産手当金については、流用しないで直接書き込んでいます。
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
2 第九十九条第二項及び第三項の規定は、出産手当金の支給について準用する。
なぜ流用していないのかといえば、おそらく出産手当金の場合は(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)という限定をつけないということかと思われます。
いずれにしても独自の定義によっており、労基法からお借りしているわけではありません。
で、労基法と健保法の違いですが、産後は実際の出産日から起算で一致しています。
他方、産前は、
労基法 出産予定日から起算で固定
健保法 出産日が、予定日どおりor予定日より後 →労基法と同じ
出産日が、予定日より前 →出産日から起算
とズレる場合があります。
労基法ではいつから休む権利があるかが事前に決まっている必要があるので産前休業が固定なのに対し、健保法では出産日が早まると産後休業が前倒しになってしまうので、その分優遇を受けられる産前の期間も前倒しにしてあげよう、ということなのでしょう。
また、終了時改定・社保免除は「妊娠・出産」を理由とする休業であることが要求されているので、
労基法 産前産後休業 休業理由限定なし
健保法 出産手当金 休業理由限定なし
健保法 改定・社保免除 休業理由限定あり
と、健保法の中でもズレがあることになります。
このようなズレがあることにより、
・労働者でない役員であっても、健保法の優遇を受けることができる。
・労基法の産前休業より前の期間でも、健保法の優遇を受けることができる。
・社保免除は受けられないが出産手当金は受けることができる期間がある。
といった事態が生じてきます。
なんとなく「産休で一緒だろ」と思っていると、取りこぼしをしている可能性があるということです。健保法内でもズレがあるというのは、なかなかの落とし穴。
厚年法の標準報酬月額特例も含めて整理しておきます。

○
次に「育休」について。
健保法と雇保法が育介法からお借りしているかどうか。
健康保険法 第四十三条の二(育児休業等を終了した際の改定)
1 保険者等は、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業、同法第二十三条第二項の育児休業に関する制度に準ずる措置若しくは同法第二十四条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定により同項第二号に規定する育児休業に関する制度に準じて講ずる措置による休業又は政令で定める法令に基づく育児休業(以下「育児休業等」という。)を終了した被保険者が、当該育児休業等を終了した日(以下この条において「育児休業等終了日」という。)において当該育児休業等に係る三歳に満たない子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後三月間(育児休業等終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、育児休業等終了日の翌日に次条第一項に規定する産前産後休業を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。
終了時改定のところに「育児休業等」の定義を育介法からお借りすることが書かれていて、その定義を社保免除(159条)に流用しています。
健康保険法 第百五十九条
育児休業等をしている被保険者(第百五十九条の三の規定の適用を受けている被保険者を除く。)が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。
他方、「給付」については健保法ではなく雇保法にいきます。
雇用保険法 第六十一条の七(育児休業給付金)
育児休業給付金は、被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。以下この条において同じ。)が、厚生労働省令(101の22)で定めるところにより、その一歳に満たない子(民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二第一項の規定により被保険者が当該被保険者との間における同項に規定する特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求した者(当該請求に係る家事審判事件が裁判所に係属している場合に限る。)であつて、当該被保険者が現に監護するもの、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四第二号に規定する養子縁組里親である被保険者に委託されている児童及びその他これらに準ずる者として厚生労働省令(101の23)で定める者に、厚生労働省令(101の24)で定めるところにより委託されている者を含む。以下この章において同じ。)(その子が一歳に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令(101の25)で定める場合に該当する場合にあつては、一歳六か月に満たない子(その子が一歳六か月に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令(101の26)で定める場合に該当する場合にあつては、二歳に満たない子))を養育するための休業をした場合において、当該休業を開始した日前二年間(当該休業を開始した日前二年間に疾病、負傷その他厚生労働省令(101の29)で定める理由により引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた被保険者については、当該理由により賃金の支払を受けることができなかつた日数を二年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは、四年間))に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたときに、支給単位期間について支給する。
省令を貼り付けると長くなりすぎるので省略しました。条数を挿入しておきましたので各自ご確認ください。
雇用保険法施行規則 | e-Gov法令検索
要するに、雇保法+省令では、育介法からお借りせずに独自に定義を書き込んでいるということです。
が、内容見る限り、どうやら育介法とそっくりなことが書いてあります。
わざわざそっくりなことを書き込むくらいなら、健保法のように素直に育介法から借りてくればいいのでは、と思うのですが、何かそうすべき理由があるのでしょう。
もし、育介法と雇保法とでズレがある(育介法の育児休業にあたらないのに雇保法の育児休業にあたる)ところを見つけた方はお知らせいただけると幸いです。
○
以上をまとめると次の通りとなります。

どうにも統一感が見いだせないのですが、それぞれの立案担当者による深遠な配慮があっての結果なのでしょう。
いずれにしても、お借りするのかしないのか、しっかり法律に書き込まれているわけです。複雑ながらも、条文読めばちゃんと書いてある。
「租税法律主義」とかを偉そうに掲げているくせに、《借用概念論》なる解釈論を無邪気に展開している税法(学)とは大違い。
「出産手当金支給申請書」違法論
posted by ウロ at 00:00| Comment(0)
| 社会保障法
2022年04月04日
社会保険適用拡大について(2022年10月〜) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
2022年10月から厚生年金・健康保険の適用対象者が拡大されるわけですが。
社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省)
《日常系労務》としては、さしあたり上記サイトにあるような、運営作成の「公式ガイドブック」を見て内容を理解しておけばいいのでしょう。
社会保険適用拡大ガイドブック
当ブログにおいては、例によって「条文イジリ」という観点から検討の対象となります。
【お約束事項】
・「週所定労働時間」を「時/週」、月所定労働日数を「日/月」と省略します。
・健康保険法は省略して厚生年金保険法だけを検討対象とします。適用除外者が若干増えているだけで枠組みは同じです。
○
公式ガイドブックはじめ、一般的な解説だと次のような説明がされがち。
適用対象者
1 フルタイム従業員
2 パート・アルバイト(時/週4分の3以上かつ日/月4分の3以上)
3 パート・アルバイト(ア〜オをすべてみたす者)
ア 時/週20時間以上
イ 月額賃金8.8万円以上
ウ 継続勤務1年以上
エ 学生でない
オ 従業員数501人以上
(以下、ア〜オを「5要件」といいます)
他方で、被保険者にならない者として次の場合があると。
4 日々雇い入れられる者
ただし、1か月を超え引き続き雇用されるに至った場合は除く
5 2か月以内の期間を定めて使用される者
ただし、その期間を超え引き続き雇用されるに至った場合は除く
6 所在地が一定しない事業所に使用される者
7 季節的業務に使用される者
ただし、継続して4か月を超えて雇用されるべき場合は除く
8 臨時的事業の事業所に使用される者
ただし、継続して6か月を超えて雇用されるべき場合は除く
そして改正により、
・「501人」が「101人」になる
・3ウの「1年」が「2か月」になる
といった感じで説明されます。
このような書きぶりだと、1〜3と4〜8の関係性がよく分かりません。
4〜8に該当しない場合に、当然に被保険者になるのか、それとも1〜3の判定が別途必要なのか。
また、従業員501人というのは、1だけで判定するのか、それとも2や3も含むのかどうか。
○
では、条文ではどのように書かれているかみてみましょう(現行法から)。
・厚生年金保険法
(被保険者)
第九条 適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
(適用除外)
第十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、第九条及び第十条第一項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。
一 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であつて、次に掲げるもの。ただし、イに掲げる者にあつては一月を超え、ロに掲げる者にあつては所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く。
イ 日々雇い入れられる者
ロ 二月以内の期間を定めて使用される者
二 所在地が一定しない事業所に使用される者
三 季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)。ただし、継続して四月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
四 臨時的事業の事業所に使用される者。ただし、継続して六月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
五 事業所に使用される者であつて、その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者(当該事業所に使用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に使用される者にあつては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該者と同種の業務に従事する当該通常の労働者。以下この号において単に「通常の労働者」という。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い者をいう。以下この号において同じ。)又はその一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者に該当し、かつ、イからニまでのいずれかの要件に該当するもの
イ 一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。
ロ 当該事業所に継続して一年以上使用されることが見込まれないこと。
ハ 報酬(最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)について、厚生労働省令で定めるところにより、第二十二条第一項の規定の例により算定した額が、八万八千円未満であること。
ニ 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校の生徒、同法第八十三条に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。
本則は大したことはないのですが、「附則」の経過措置がしんどい。
今回の検討対象に絞って引用すると、次の通り。
附則(平成二四年八月二二日法律第六二号)
(厚生年金保険の短時間労働者への適用に関する経過措置)
第十七条 当分の間、特定適用事業所以外の適用事業所(厚生年金保険法第六条の適用事業所をいう。以下この条及び附則第十七条の三において同じ。)(国又は地方公共団体の適用事業所を除く。以下この条において同じ。)に使用される第一号又は第二号に掲げる者であって同法第十二条各号のいずれにも該当しないもの(前条の規定により同法第十二条(第五号に係る部分に限る。)の規定が適用されない者を除く。以下この条及び附則第十七条の三において「特定四分の三未満短時間労働者」という。)については、同法第九条及び附則第四条の三第一項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。
一 その一週間の所定労働時間が同一の事業所又は事務所(以下単に「事業所」という。)に使用される通常の労働者(厚生年金保険法第十二条第五号に規定する通常の労働者をいう。次号において同じ。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(同条第五号に規定する短時間労働者をいう。次号において同じ。)
二 その一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者
(略)
12 この条において特定適用事業所とは、事業主が同一である一又は二以上の適用事業所であって、当該一又は二以上の適用事業所に使用される特定労働者(七十歳未満の者のうち、厚生年金保険法第十二条各号のいずれにも該当しないものであって、特定四分の三未満短時間労働者以外のものをいう。附則第四十六条第十二項において同じ。)の総数が常時五百人を超えるものの各適用事業所をいう。
これが2022年10月から次の通り改正されます。
変更箇所だけ抽出すると、
・12条5号ロの「当該事業所に継続して一年以上使用されることが見込まれないこと。」が削除されて、ハニがロハに繰り上がる。
・12条1号ロの「二月以内の期間を定めて使用される者」のうしろに「であって当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの」が追加される。
・附則17条12項の「五百人」が「百人」になる。
という改正となっております。
○
よくある説明を頭に入れてから条文を読むと、まったく違った構造になっていることが分かります。
・9条で70歳未満のすべての「使用される者」が被保険者になるとされ、12条で被保険者としない人が限定列挙されている。
・短時間労働者(2、3)と4〜8は別物ではなく、同じ除外者として並んでいる。
・2と3は同じ5号の中で規定されている。
よくある説明は、4〜8は条文通り「ならない」側から記載しているのに対し、2・3はわざわざ条文をひっくり返して「なる」側から記載しているわけです。なので、条文の「学生である」を「学生でない」と書き換えたり、5要件の「いずれかに」該当すれば「ならない」というのを「いずれにも」該当すれば「なる」と書き換える必要があります。
このような条文を組み替える所作、年末調整や法定調書合計表の手引を素材に検討したことがあります。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
漏れなく正確に組み替えてくれればよいのですが、残念ながらそうなっていないというのがそこでの検討結果でした。
そこで、こちらでも漏れなく正確にひっくり返せているかを検討する必要があります。特に、2、3はひっくり返しておきながら4〜8はそのまま、という中途半端なひっくり返しにより、間違った説明になっていないかが気がかりなところです。
○
条文構造からすると、12条各号のいずれかに該当すれば被保険者にならないことになります。
たとえば1号イの「日々雇い入れられる者」が1か月を超え引き続き雇用されるに至った場合でも、当然に被保険者となるわけではなく、他の号に該当しないかも検討する必要があります。
現実的に1号〜4号が重複することはなさそうですが、5号はそれらと重ねて検討が必要になるかと思います。
○
改正では、5号ロの「1年」を「2か月」に変更したわけではなく、5号ロを削除した上で、もともとあった1号ロに「見込み」を追加するという使い回しをしています。
改正後の1号ロ
ア 臨時に使用される者で
イ 二月以内の期間を定めて使用される者で
ウ 当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの ←New!
エ 所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く
なので、単に2か月以内であればさしあたり最初の2か月は被保険者にならない、というのではなく、「臨時」でないことと超える「見込み」がないことが要求されることになります。
「見込み」のほうは公式ガイドブックに書いてありますが、「臨時」については要件として明示されていません。確かに、「臨時なら見込みなし」と意味合いとしては連動するのかもしれませんが、条文上は別の要件として要求している以上、明記しておくべきことでしょう。
また、実際に超えたら除く(エ)とありますが、このルールについても公式ガイドブックには盛り込まれていません。
ちなみに、「二月以内の期間」「当該定めた期間」とあることからすれば、たとえば1.5か月で契約した場合、1.5か月を超える見込みがあれば(2か月を超えるかは不明でも)適用除外とならないということでしょうか。
法文上は「なる」という結論になってしまいそうですが、おそらく実務運用でいい具合に調整がされるのでしょう。
このように、よくある説明が法律上の要件を忠実に再現できていないの、2、3と4〜8を分断して説明していることによるものでしょう。
もともとは5号単体の説明で支障はなかったのでしょうが、1号ロ+5号の合わせ技で判定する必要がでてきてしまった以上、従前の説明では無理が生じてきます。
○
100人(改正前500人)判定の従業員については、附則(H24.8.22)17条に規定されています。
規律をざっくりまとめると次の通り。
特定適用事業所以外の適用事業所の「特定四分の三未満短時間労働者」は被保険者としない。
・特定適用事業所
特定労働者が常時100人超の事業所
・特定労働者
12条各号に非該当で特定四分の三未満短時間労働者以外のもの
・特定四分の三未満短時間労働者
12条各号に非該当で所定労働時間3/4未満の者
12条各号に非該当で所定労働日数3/4未満の者
条文の書きぶりはなかなか難解ですが、図式的にいうと、
使用される者(70歳未満)
−12条各号に該当する者(被保険者でない者)
−12号各号に該当しない週時間3/4未満の者(被保険者である者)
−12号各号に該当しない月日数3/4未満の者(被保険者である者)
と引き算で判定対象となる「特定労働者」を抽出しています。
結論としては、よくある説明1、2の者で100人超を判定するということになります。
そして、1、2が100人を超える場合に限り、3も被保険者になると。
条文上は、3の5要件も含めて「使用される者」全員が12条で被保険者になる/ならないを判定してから、3を除いた1、2が100人超になるかを判定する、という手順になっています。
が、ここは先に1、2で100人超かどうかを判定することでも支障はないでしょう。
ので、公式ガイドブックのように入口で企業規模を判定するやり方でも間違いではないです。
○
【お約束事項】に書いたとおり、本記事では「健康保険法」は考慮外としました。
が、100人判定にあたって、「厚生年金」の被保険者であるが「健康保険」の被保険者でない者は判定対象に含まれるか、ということが問題となります。健康保険は、厚生年金よりも適用除外が多いので(船員保険とか)、こういうズレが生じることになります。
この点、附則では「特定労働者」の定義を健康保険のほうにもそのまま使いまわしています。附則17条12項の「附則第四十六条第十二項において同じ。」というのが、その趣旨です。
それゆえ、船員保険の被保険者など健康保険の被保険者とならない者でも、厚年法側で特定労働者に該当するならば、100人判定に含めるということになります。
逆に、70歳以上(〜75歳)で健康保険の被保険者であったとしても、厚生年金の被保険者ではないことから、特定労働者には含めないことになります。
なお、特定労働者100人超となって短時間労働者が被保険者になることになったとしても、健保法3条1項各号に該当する者が健康保険の被保険者になることにはなりません。あくまでも100人判定をするのに厚年法を横流しするにとどまります。
e-Govなどで厚生年金保険法と健康保険法の条文をみると、それぞれに関する附則が分断されてしまっています。が、もともとは一本の改正法なので、こういう地続きな規律の仕方になっています。
附則 (平成二四年八月二二日法律第六二号)
(健康保険の短時間労働者への適用に関する経過措置)
第四十六条 当分の間、特定適用事業所以外の適用事業所(健康保険法第三条第三項に規定する適用事業所をいい、国又は地方公共団体の当該適用事業所を除く。以下この条において同じ。)に使用される第一号又は第二号に掲げる者であって同法第三条第一項各号のいずれにも該当しないもの(前条の規定により同項(第九号に係る部分に限る。)の規定が適用されない者を除く。以下この条において「特定四分の三未満短時間労働者」という。)については、同項の規定にかかわらず、健康保険の被保険者としない。
一 その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者(健康保険法第三条第一項第九号に規定する通常の労働者をいう。次号において同じ。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(同項第九号に規定する短時間労働者をいう。次号において同じ。)
二 その一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者
12 この条において特定適用事業所とは、事業主が同一である一又は二以上の適用事業所であって、当該一又は二以上の適用事業所に使用される特定労働者の総数が常時五百人を超えるものの各適用事業所をいう。
○
以上、年末調整や法定調書合計表のときのような不整合はないものの、やはり条文をひっくり返しているところ(2、3)としていないところ(4〜8)の間に、不穏な雰囲気が見受けられます。
ではありますが、条文通りに説明を直す、というのはもはや難しいのでしょうね。
というか、年金法絡みの「附則(経過措置)」の禍々しさを、あらためて思い知らされる結果となりました(まだまだ序の口でしょうが)。
社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省)
《日常系労務》としては、さしあたり上記サイトにあるような、運営作成の「公式ガイドブック」を見て内容を理解しておけばいいのでしょう。
社会保険適用拡大ガイドブック
当ブログにおいては、例によって「条文イジリ」という観点から検討の対象となります。
【お約束事項】
・「週所定労働時間」を「時/週」、月所定労働日数を「日/月」と省略します。
・健康保険法は省略して厚生年金保険法だけを検討対象とします。適用除外者が若干増えているだけで枠組みは同じです。
○
公式ガイドブックはじめ、一般的な解説だと次のような説明がされがち。
適用対象者
1 フルタイム従業員
2 パート・アルバイト(時/週4分の3以上かつ日/月4分の3以上)
3 パート・アルバイト(ア〜オをすべてみたす者)
ア 時/週20時間以上
イ 月額賃金8.8万円以上
ウ 継続勤務1年以上
エ 学生でない
オ 従業員数501人以上
(以下、ア〜オを「5要件」といいます)
他方で、被保険者にならない者として次の場合があると。
4 日々雇い入れられる者
ただし、1か月を超え引き続き雇用されるに至った場合は除く
5 2か月以内の期間を定めて使用される者
ただし、その期間を超え引き続き雇用されるに至った場合は除く
6 所在地が一定しない事業所に使用される者
7 季節的業務に使用される者
ただし、継続して4か月を超えて雇用されるべき場合は除く
8 臨時的事業の事業所に使用される者
ただし、継続して6か月を超えて雇用されるべき場合は除く
そして改正により、
・「501人」が「101人」になる
・3ウの「1年」が「2か月」になる
といった感じで説明されます。
このような書きぶりだと、1〜3と4〜8の関係性がよく分かりません。
4〜8に該当しない場合に、当然に被保険者になるのか、それとも1〜3の判定が別途必要なのか。
また、従業員501人というのは、1だけで判定するのか、それとも2や3も含むのかどうか。
○
では、条文ではどのように書かれているかみてみましょう(現行法から)。
・厚生年金保険法
(被保険者)
第九条 適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。
(適用除外)
第十二条 次の各号のいずれかに該当する者は、第九条及び第十条第一項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。
一 臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であつて、次に掲げるもの。ただし、イに掲げる者にあつては一月を超え、ロに掲げる者にあつては所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く。
イ 日々雇い入れられる者
ロ 二月以内の期間を定めて使用される者
二 所在地が一定しない事業所に使用される者
三 季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)。ただし、継続して四月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
四 臨時的事業の事業所に使用される者。ただし、継続して六月を超えて使用されるべき場合は、この限りでない。
五 事業所に使用される者であつて、その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者(当該事業所に使用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に使用される者にあつては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該者と同種の業務に従事する当該通常の労働者。以下この号において単に「通常の労働者」という。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い者をいう。以下この号において同じ。)又はその一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者に該当し、かつ、イからニまでのいずれかの要件に該当するもの
イ 一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。
ロ 当該事業所に継続して一年以上使用されることが見込まれないこと。
ハ 報酬(最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)について、厚生労働省令で定めるところにより、第二十二条第一項の規定の例により算定した額が、八万八千円未満であること。
ニ 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校の生徒、同法第八十三条に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。
本則は大したことはないのですが、「附則」の経過措置がしんどい。
今回の検討対象に絞って引用すると、次の通り。
附則(平成二四年八月二二日法律第六二号)
(厚生年金保険の短時間労働者への適用に関する経過措置)
第十七条 当分の間、特定適用事業所以外の適用事業所(厚生年金保険法第六条の適用事業所をいう。以下この条及び附則第十七条の三において同じ。)(国又は地方公共団体の適用事業所を除く。以下この条において同じ。)に使用される第一号又は第二号に掲げる者であって同法第十二条各号のいずれにも該当しないもの(前条の規定により同法第十二条(第五号に係る部分に限る。)の規定が適用されない者を除く。以下この条及び附則第十七条の三において「特定四分の三未満短時間労働者」という。)については、同法第九条及び附則第四条の三第一項の規定にかかわらず、厚生年金保険の被保険者としない。
一 その一週間の所定労働時間が同一の事業所又は事務所(以下単に「事業所」という。)に使用される通常の労働者(厚生年金保険法第十二条第五号に規定する通常の労働者をいう。次号において同じ。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(同条第五号に規定する短時間労働者をいう。次号において同じ。)
二 その一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者
(略)
12 この条において特定適用事業所とは、事業主が同一である一又は二以上の適用事業所であって、当該一又は二以上の適用事業所に使用される特定労働者(七十歳未満の者のうち、厚生年金保険法第十二条各号のいずれにも該当しないものであって、特定四分の三未満短時間労働者以外のものをいう。附則第四十六条第十二項において同じ。)の総数が常時五百人を超えるものの各適用事業所をいう。
これが2022年10月から次の通り改正されます。
変更箇所だけ抽出すると、
・12条5号ロの「当該事業所に継続して一年以上使用されることが見込まれないこと。」が削除されて、ハニがロハに繰り上がる。
・12条1号ロの「二月以内の期間を定めて使用される者」のうしろに「であって当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの」が追加される。
・附則17条12項の「五百人」が「百人」になる。
という改正となっております。
○
よくある説明を頭に入れてから条文を読むと、まったく違った構造になっていることが分かります。
・9条で70歳未満のすべての「使用される者」が被保険者になるとされ、12条で被保険者としない人が限定列挙されている。
・短時間労働者(2、3)と4〜8は別物ではなく、同じ除外者として並んでいる。
・2と3は同じ5号の中で規定されている。
よくある説明は、4〜8は条文通り「ならない」側から記載しているのに対し、2・3はわざわざ条文をひっくり返して「なる」側から記載しているわけです。なので、条文の「学生である」を「学生でない」と書き換えたり、5要件の「いずれかに」該当すれば「ならない」というのを「いずれにも」該当すれば「なる」と書き換える必要があります。
このような条文を組み替える所作、年末調整や法定調書合計表の手引を素材に検討したことがあります。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
漏れなく正確に組み替えてくれればよいのですが、残念ながらそうなっていないというのがそこでの検討結果でした。
そこで、こちらでも漏れなく正確にひっくり返せているかを検討する必要があります。特に、2、3はひっくり返しておきながら4〜8はそのまま、という中途半端なひっくり返しにより、間違った説明になっていないかが気がかりなところです。
○
条文構造からすると、12条各号のいずれかに該当すれば被保険者にならないことになります。
たとえば1号イの「日々雇い入れられる者」が1か月を超え引き続き雇用されるに至った場合でも、当然に被保険者となるわけではなく、他の号に該当しないかも検討する必要があります。
現実的に1号〜4号が重複することはなさそうですが、5号はそれらと重ねて検討が必要になるかと思います。
○
改正では、5号ロの「1年」を「2か月」に変更したわけではなく、5号ロを削除した上で、もともとあった1号ロに「見込み」を追加するという使い回しをしています。
改正後の1号ロ
ア 臨時に使用される者で
イ 二月以内の期間を定めて使用される者で
ウ 当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの ←New!
エ 所定の期間を超え、引き続き使用されるに至つた場合を除く
なので、単に2か月以内であればさしあたり最初の2か月は被保険者にならない、というのではなく、「臨時」でないことと超える「見込み」がないことが要求されることになります。
「見込み」のほうは公式ガイドブックに書いてありますが、「臨時」については要件として明示されていません。確かに、「臨時なら見込みなし」と意味合いとしては連動するのかもしれませんが、条文上は別の要件として要求している以上、明記しておくべきことでしょう。
また、実際に超えたら除く(エ)とありますが、このルールについても公式ガイドブックには盛り込まれていません。
ちなみに、「二月以内の期間」「当該定めた期間」とあることからすれば、たとえば1.5か月で契約した場合、1.5か月を超える見込みがあれば(2か月を超えるかは不明でも)適用除外とならないということでしょうか。
法文上は「なる」という結論になってしまいそうですが、おそらく実務運用でいい具合に調整がされるのでしょう。
このように、よくある説明が法律上の要件を忠実に再現できていないの、2、3と4〜8を分断して説明していることによるものでしょう。
もともとは5号単体の説明で支障はなかったのでしょうが、1号ロ+5号の合わせ技で判定する必要がでてきてしまった以上、従前の説明では無理が生じてきます。
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100人(改正前500人)判定の従業員については、附則(H24.8.22)17条に規定されています。
規律をざっくりまとめると次の通り。
特定適用事業所以外の適用事業所の「特定四分の三未満短時間労働者」は被保険者としない。
・特定適用事業所
特定労働者が常時100人超の事業所
・特定労働者
12条各号に非該当で特定四分の三未満短時間労働者以外のもの
・特定四分の三未満短時間労働者
12条各号に非該当で所定労働時間3/4未満の者
12条各号に非該当で所定労働日数3/4未満の者
条文の書きぶりはなかなか難解ですが、図式的にいうと、
使用される者(70歳未満)
−12条各号に該当する者(被保険者でない者)
−12号各号に該当しない週時間3/4未満の者(被保険者である者)
−12号各号に該当しない月日数3/4未満の者(被保険者である者)
と引き算で判定対象となる「特定労働者」を抽出しています。
結論としては、よくある説明1、2の者で100人超を判定するということになります。
そして、1、2が100人を超える場合に限り、3も被保険者になると。
条文上は、3の5要件も含めて「使用される者」全員が12条で被保険者になる/ならないを判定してから、3を除いた1、2が100人超になるかを判定する、という手順になっています。
が、ここは先に1、2で100人超かどうかを判定することでも支障はないでしょう。
ので、公式ガイドブックのように入口で企業規模を判定するやり方でも間違いではないです。
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【お約束事項】に書いたとおり、本記事では「健康保険法」は考慮外としました。
が、100人判定にあたって、「厚生年金」の被保険者であるが「健康保険」の被保険者でない者は判定対象に含まれるか、ということが問題となります。健康保険は、厚生年金よりも適用除外が多いので(船員保険とか)、こういうズレが生じることになります。
この点、附則では「特定労働者」の定義を健康保険のほうにもそのまま使いまわしています。附則17条12項の「附則第四十六条第十二項において同じ。」というのが、その趣旨です。
それゆえ、船員保険の被保険者など健康保険の被保険者とならない者でも、厚年法側で特定労働者に該当するならば、100人判定に含めるということになります。
逆に、70歳以上(〜75歳)で健康保険の被保険者であったとしても、厚生年金の被保険者ではないことから、特定労働者には含めないことになります。
なお、特定労働者100人超となって短時間労働者が被保険者になることになったとしても、健保法3条1項各号に該当する者が健康保険の被保険者になることにはなりません。あくまでも100人判定をするのに厚年法を横流しするにとどまります。
e-Govなどで厚生年金保険法と健康保険法の条文をみると、それぞれに関する附則が分断されてしまっています。が、もともとは一本の改正法なので、こういう地続きな規律の仕方になっています。
附則 (平成二四年八月二二日法律第六二号)
(健康保険の短時間労働者への適用に関する経過措置)
第四十六条 当分の間、特定適用事業所以外の適用事業所(健康保険法第三条第三項に規定する適用事業所をいい、国又は地方公共団体の当該適用事業所を除く。以下この条において同じ。)に使用される第一号又は第二号に掲げる者であって同法第三条第一項各号のいずれにも該当しないもの(前条の規定により同項(第九号に係る部分に限る。)の規定が適用されない者を除く。以下この条において「特定四分の三未満短時間労働者」という。)については、同項の規定にかかわらず、健康保険の被保険者としない。
一 その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者(健康保険法第三条第一項第九号に規定する通常の労働者をいう。次号において同じ。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(同項第九号に規定する短時間労働者をいう。次号において同じ。)
二 その一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者
12 この条において特定適用事業所とは、事業主が同一である一又は二以上の適用事業所であって、当該一又は二以上の適用事業所に使用される特定労働者の総数が常時五百人を超えるものの各適用事業所をいう。
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以上、年末調整や法定調書合計表のときのような不整合はないものの、やはり条文をひっくり返しているところ(2、3)としていないところ(4〜8)の間に、不穏な雰囲気が見受けられます。
ではありますが、条文通りに説明を直す、というのはもはや難しいのでしょうね。
というか、年金法絡みの「附則(経過措置)」の禍々しさを、あらためて思い知らされる結果となりました(まだまだ序の口でしょうが)。
posted by ウロ at 10:56| Comment(0)
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