2022年06月27日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2

 前回の原則要件2の場面は、「相続開始〜申告期限(or死亡日)」の間の問題でした。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1

 今回の「除×除」要件の場合は、相続開始前3年以内の領域において「死んだらどうなる?」ということが問題となります。


 (相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、

【除外要件】 × (除1と呼びます)
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)

「特定貸付事業」とは
   ○不動産貸付業
   ○駐車場業、自転車駐車場業
   ×準事業はダメ


 以下、事例で検討します。

除除(相次相続).png


【表の説明】
・甲→乙→丙の順で相続があったとします(他に相続人はいない)。
・事業は継続しているものとします。
・その他に貸付物件はないものとします。

 乙及び丙がそれぞれ貸付事業用宅地の適用を受けられるかを検討します。

【事例1】
 甲が物件を新規購入し、特定貸付事業を開始してから1年経過後に死亡
 乙が甲の特定貸付事業を相続により承継してから1年経過後に死亡
 丙が乙の特定貸付事業を相続により承継
 (以下の事例も同様の読み方となります。)


 甲が相続開始前3年以内取得のため、除1が発動して適用不可。
 甲の特定貸付事業は1年のため除2は機能しません。


 相続開始前3年以内取得ではありますが、令20,9により、Bが「相続」で取得した物件は新規取得に該当しなくなるため、除1は発動せずに、適用できることになります。

令9
 被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令20
 第九項の規定は、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等について準用する。この場合において、同項中「第三項第一号」とあるのは、「第三項第四号」と読み替えるものとする。


 なお、この令20,9にいう「法第三項第四号に規定する事業の用に供されていた宅地等」については、下記《で》の前までを指しているのか(で前説)、《で》の後も含めるのか(で後も説)、二通りの読み方がありうるかもしれません。

四 貸付事業用宅地等
 被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地等《で》、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。


 が、この書き方であれば「で前説」で読むべきだと思います。
 「で後も説」で読んでしまうと、適用場面がすべて除2と被ってしまい、独自の機能がないことになってしまいます。また、「新規取得に該当しない」という効果からすれば、令20,9は「除1⇒除2」ルートに流れていく手前の段階で機能するものでしょう。

【事例2】
 事例1の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合でも、事例1と同じ結論となります。

 丙については、新規取得に該当しないことになるため、新規取得の場合に発動する除1とそれを否定する除2はそもそも出番がありません。ので、特定か準かを云々する必要がないということです。

【事例3】
 事例3は、事例1より期間が長くなっています。結論は事例1と同じです。

 紛らわしいのは、以下の規定の存在。

令21
 特定貸付事業を行つていた被相続人(「第一次相続人」)が、当該第一次相続人の死亡に係る相続開始前三年以内に相続(「第一次相続」)により当該第一次相続に係る被相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していた場合には、当該第一次相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等に係る法第三項第四号の規定の適用については、当該第一次相続に係る被相続人が当該第一次相続があつた日まで引き続き特定貸付事業を行つていた期間は、当該第一次相続人が特定貸付事業を行つていた期間に該当するものとみなす。


 特定貸付事業の期間を算定するのに、甲の1.5年と乙の1.6年を足してもいいんだと。
 事例3でも、この規定のおかげで3年超になるから、除2が機能するんじゃないかと思ってしまうかもしれません。

 が、相続による取得の場合は、令20,9により「新規取得」に該当しないこととなるので、除1が発動せず、除2とそのサブルールである令21も発動することはありません。

 結論同じならどっちでもよいのでは、と思われるかもしれません。が、条文構造に従った正確な理解を抑えておくことが、込み入った事例を解くのに必要な素養かと思います。

【事例4】
 事例3の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合です。

 こちらは「準事業」なので除2,令21は機能しないことは明らかです。すんなり、令20,9が適用されることが理解できるかと思います。

 事例3と4を統一的に理解するためには、やはり事例3も除2,令21ルートではなく令9,20ルートで適用OKになると理解しておくべきでしょう。

 では、令21が機能するのはどういう場合かというと。

 たとえば、事例3で、乙が別途新たに物件を購入したような場合です。
 甲からの相続物件をA、新規購入物件をBとすると、丙は、物件Aについては令9,20で適用を受けられます。他方で、物件Bについては、もしB取得が乙の相続開始前3年以内だったとしても、除2,令21で甲乙の特定期間を合算することができることになります。
 結果、特定期間3年超となるため。物件Bについても丙は適用を受けられるということになります。

 他方で、事例4の場合は準事業なので、物件Aは令9,20で適用できても、物件Bについては令21は発動せず適用不可となるということです。

【事例5】
 事例3の甲→乙を相続ではなく「売買」とした場合です。

 乙がそもそも相続対象外なのは当然として、丙についても、「売買」の場合は令9,20も除2,令21も起動しないので、除1により適用不可です。


 以上、「令9,20」と「除2,令21」の適用関係については、《規範論的アプローチ》からは「令9,20」が優先的に適用されること、《類型論的アプローチ》からは、それぞれの規定がどのような場面で機能するかが整理できたかと思います。

貸付事業用宅地(適用関係).png


 思考ルートとしては次の通り。
1 3年より前事業供用ならOK
2 3年以内の場合は、「相続」による取得ならば令9,20によりOK
3 それ以外の場合は、「3年超特定貸付事業者」ならば除2によりOK
4 いずれにも該当しなければ適用不可

 「除2,令21」は「3年超特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらうのが、理解しやすいかと思います。

 両アプローチが相まって条文理解が進むという、よい関係性が発揮できた好例。

 『年末調整のしかた』、なおさらお前はダメだ。

リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:02| Comment(0) | 相続税法

2022年06月20日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1

 以前、年末調整とか住宅ローン控除について、「死んだらどうなる?」ということを検討しました。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除

 他方で、貸付事業用宅地の場面では、「被相続人」が死ぬのは必然(『被相続人、いつも死んでんな。』)。ですが、その後に当該宅地を取得した「相続人」のほうが(申告前に)死んだらどうなる?、ということは問題になりえます。

 これを想定した規定があるので、今回はそれらをイジりの対象としてみます。
 ただし、前回までのメインどころ、「除×除」要件については今回は考慮外とします(その他、お約束事項は前回・前々回と同じです)。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論


 まずは条文の引用から。

法3
 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む。イ及び第四号(ロを除く。)において同じ。)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地を自己の事業の用に供していること。


 貸付事業用の話だっつってんのに、なに1号(特定事業用宅地)引用しちゃってんの、と思われるかもしれません。
 が、下線部分の「において同じ」というのがあるせいで、1号の引用から始めなければならないのです。


 法3項の編成は次の通りとなっています。

【法3項の編成】
 一イ 特定事業用宅地(被相続人の事業)
  ロ 特定事業用宅地(生計一親族の事業)
 二イ 特定居住用宅地(同居親族)
  ロ 特定居住用宅地(家なき子)
  ハ 特定居住用宅地(生計一親族)
 三 特定同族会社事業用宅地
 四イ 貸付事業用宅地(被相続人の貸付事業)
  ロ 貸付事業用宅地(生計一親族の貸付事業)

 1号柱書によると、「当該被相続人の親族」に「当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人」が含まれるというのは、1号イと4号イも同じだと。
 また、1号ロによると、当該親族が申告期限前に死亡した場合には「申告期限」が「死亡の日」になるというのは、2号イロハ、3号、4号ロも同じだと。

 このように、4号に関する規律が1号の中に混入されてしまっています。

 他方で、4号の側には「1号を見てね」などといった指示が何もありません。ので、4号を見ただけでは「貸付事業用宅地」の正確な定義を把握することができないことになっています。

四 貸付事業用宅地等
 被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。



 当ブログでは、条文イジりを敢行する際には、検討対象外の部分を大胆に削っているところです。

 プレーン条文はいろんな場合を想定して枝葉をつけがち。「相続又は遺贈」とか。
 が、そのまま頭から読んでいっても意味が取りにくいので、検討にあたってノイズとなる箇所は切り落としてしまっています。

 この手法の弱点、大事な箇所をうっかり切り落としてしまうおそれがあるという点です。
 今回も、1号は特定事業用宅地の定義規定だからといって読み飛ばしてしまうと、その中の4号に関する規律を見落としてしまうことになります。 

 つまり、この手法を採用するには邪魔かどうかを判断できる素養が求められるということです。が、その素養を身につけるにはあらかじめ条文を理解していなければならないわけで。
 どうしろっていうんですか、て感じですよね。しんどいですが、とにかく一読はしないといけないんでしょう。

 ここではまだ同じ条項内だからましですけど、この振る舞いを条数飛び越えてやられるときつい。
 幸い、租税特別措置法は個別特例の寄せ集めで、それぞれが一国一城の主感強めなので、跨ぎは少なめかと思います。42条の6(設備投資優遇税制)が「中小企業者」の定義を42条の4(研究開発税制)からお借りしている、というのがあったりしますが、42条の6にはちゃんとどこからお借りするかが書かれていますし。

  読み手の目→ 42条の6「借りますね」 ⇒42条の4

 他方で、69条の4の3項の1号・4号間は、貸す側にしか書いてないせいで、借りる側の条文しか読まない人には認識しえない。

  1号「貸しますね」 ⇒4号 ←読み手の目

 このような《サイレント押し貸し》、条文作成お作法としてはかなり最悪の部類に属すると思うのですが。
 こんなお作法があるかぎり、「納税者の予測可能性」の確保なんて夢のまた夢よ。


 さて、本筋に戻って。

【原則要件】
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
    事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
    保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
    事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

 上記下線部は、原則要件2に関わるものです。
 下線部を4号にねじ込むと次のようになります。

四 貸付事業用宅地等 イ
 被相続人の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。

四 貸付事業用宅地等 ロ
 被相続人と生計を一にしていた親族の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含まない)が相続により取得したもの()をいう。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。


 ロには、1号柱書の拡張デバイスは「含まない」ことを注意的に記載しておきました。正統な条文作成お作法ならば、両面から書くなんて絶対にやらないでしょうけど。

 結果、甲⇒乙⇒丙の順で順次相続が発生した場合の要件は次の通りとなります。

2イ 被相続人甲の貸付事業の場合
    事業承継要件 丙が相続開始時から申告期限までの間に事業を承継し継続
    保有継続要件 丙が申告期限まで保有
2ロ 生計一親族乙の貸付事業の場合
    事業継続要件 乙が相続開始前から死亡日まで事業を継続
    保有継続要件 乙が死亡日まで保有

 イについては、以下の「ご説明通達」があります。
 これは「解釈通達」というよりは、条文の作りがよろしくないので、噛み砕いて説明してくれているという類のものでしょう。

(宅地等を取得した親族が申告期限までに死亡した場合)
69の4-15 被相続人の事業用宅地等を相続により取得した被相続人の親族が当該相続に係る相続税の申告期限までに死亡した場合には、当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人が法第3項第4号イの要件を満たせば、当該宅地等は同項第4号に規定する貸付事業用宅地等に当たるのであるから留意する。
(注) 当該相続人について法第3項第4号イの要件に該当するかどうかを判定する場合において、第4号の申告期限は、相続税法第27条第2項((相続税の申告書))の規定による申告期限をいい、また、被相続人の事業(令第1項に規定する事業を含む。)を引き継ぐとは、当該相続人が被相続人の事業を直接引き継ぐ場合も含まれるのであるから留意する。



 なぜロの場合に「死亡日」に繰り上がるのでしょうか。

 「イは丙が承継してから日が浅いが、ロは乙の事業が甲の生前から継続していたから」という説明をしているものを見かけたことがあります。が、現行法上は、除×除要件のせいで、甲にしても乙にしても相続開始前3年超の事業継続が求められているところです。
 また、相続開始後は、申告期限までとするのと死亡日までとするのとで、せいぜい数ヶ月の違いしかないでしょう。イとロとで、事業継続期間に類型差があるようには思えないのですが。

 おそらくですが、イの場合は、甲⇒乙も乙⇒丙も同じイとして連続扱いができるけども、ロの場合は、甲⇒乙はロ、乙⇒丙はイとカテゴリが変わってしまうから、乙死亡日で区切って別々に要件を検討するのだと理解すればよいでしょうか。


 ここまでが前座で、次回、死んだら「除×除」要件どうなる?を検討します。

 原則要件2は、せいぜい「相続開始〜申告期限」の間の問題でしたが、これが相続開始前3年前までトキが広がることになります。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:20| Comment(0) | 相続税法

2022年06月13日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論

 貸付事業用宅地の「3年縛り」ルールについて、事例ごとの当てはめをしてみます。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論

 条文は、除く・除くの箇所だけ引用。

 (相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、

【除外要件】 × (除1と呼びます)
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)

「特定貸付事業」とは
   ○不動産貸付業
   ○駐車場業、自転車駐車場業
   ×準事業はダメ


 以下、事例検討をするにあたってのお約束ごと。あれこれうるさいですが、まあ措置法上の特例なので諦めてください。

【事例検討のお約束事項】
・除1・除2の適用関係のみの検討で、それ以外の要件は満たすものとします。
・A〜D物件は、いずれもマンションの部屋で数字は部屋数を表します。
・購入時には借主居住ずみで以降退去なしとします(購入即事業供用開始・継続)。
・従前の貸付事業があれば、購入によりそれに組み込まれるものとします。
・10室以上保有・貸付で「特定貸付事業」に該当することとします。

3年縛り(貸付事業用宅地).png


【事例1】
 事例1は、相続開始から3年より前にA1室を購入した、3年以内にB1室を購入した、相続開始時にはA1室、B1室を保有していた、という意味です(以下の事例も同じ読み方です)。

・Aは1室のみですが、3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので、除1が機能して適用外となります。
・3年超特定貸付事業がないので、除2は機能しません。

【事例2】
・Cは3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので除1が機能しますが、Cによる3年超特定貸付事業があるため、除2が機能して適用できることになります。

【事例3】
 事例3は、相続直前にD10室を購入したということです。

・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。10室なので「特定貸付事業」には該当しますが、「3年超」ではないため除2は機能しません。

【事例4】
 事例4は、D購入前にCを売却したことで、一度保有物件なし状態が挟まっているということです。

・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。
 そして、Cによる「特定貸付事業」がありましたが、一度途切れてしまっているため、除2は機能しません。

 一日でも空いたらダメなのか、という問題提起はありうるかとは思います。が、それはいわゆる「チャレンジ案件」ということで、フロンティアスピリッツ溢れる納税者にお任せいたします。
 「措置法解釈は厳格に」という裁判所の志向からすると、厳しい戦いになりそうですが。

 なお、措置法通達69の4-24の3では、事業継続が途切れた場合について一定の手当がされていますが、「売却⇒0⇒購入」パターンについては触れられていません。


 これら事例から分かることは、3年より前スタートなら「準事業」でもよいということです。
 除1がやたらと幅を効かせているし、除2は「特定貸付事業」じゃないとだめとか言っているせいで、うっかり「準事業」じゃダメだと思ってしまいがち。
 が、除×除はあくまでも3年以内スタートの場合に出張ってくるものです。3年より前の領域では、原則要件の「準事業でもいいよ」という優しさが汚されずに残っている。

 他方で、3年以内の領域では、取得したものが何部屋だろうが除1により適用外とされてしまいます。
 これに抗う除2を機能させるには、被相続人が3年超の「特定貸付事業」を継続している必要があります。どんなにでかい物件を購入しても、3年以内ではもはやどうにもならない。


 「3年縛り」ルールがすんなり理解できないの、同じ「事業」概念を、広げる(原則要件)・狭める(除1)、戻す(除2)の、3つの局面で使いまわしているせいではないかと感じます。

 そこで、「特定貸付事業」を土地(モノ)の属性としてでなく、「特定貸付事業者」というヒトの属性として再構成したほうが理解がしやすそうです。

 トキ:相続開始前 3年以内/3年超
 ヒト:3年超特定貸付事業者/それ以外の者
 モノ:貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業)に供していた土地

特定貸付事業.png


 だいぶシンプルにまとめられました。
 何部屋持っているかは「特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらって、表の項目としては出さないのが、混乱しないですみそう。

 条文の座組みからは離れますが、正確な理解ができるのならば、それに越したことはない。

 が「年末調整のしかた」、お前はダメだ。

リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克


 本当はこの先によりややこしい問題があるのですが、記事化するかは思案中。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 相続税法

2022年06月06日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論

 小規模宅地の特例については過去散々ネタにしてきましたが、特定居住用の、しかも「二世帯住宅」と「家なき子」だけをピンポイントでイジってきました。

 条文イジりの対象となるのがそこぐらいかと思って。
 なのですが、ふと予感がして「貸付事業用宅地」の条文を眺めていたら、どうもすんなり理解しにくいところがありまして。

 「貸付事業用宅地」については、実務解説本の類でも記述が手薄なことが多いです。
 特に、昔からの継ぎ足し継ぎ足しで改訂している本だとその気が強い。

 我らがタックスアンサーでも、あっさりめ。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 という感じで、よそ様の解説があまり頼りにならないので、自力でどうにか検討してみます。

【お約束事項】
・租税特別措置法の「69条の4」、同施行令の「40条の2」は省略して項数以降で引用します。
・遺贈は除いて相続のみとします。
・借地権等は除いて土地のみとします。
・要件の検討のみで効果のほうは考慮外とします。
・経過措置はもはや無視します。


 まずは条文。例によって大胆に省略入れています。正確には原文をお読みください。

法1
 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等(土地【又は土地の上に存する権利】)で財務省令で定める建物【又は構築物】の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(貸付事業用宅地等に限る。「特例対象宅地等」)がある場合には、(略)

令1
 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。

法3
 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 貸付事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものに限る。「貸付事業」)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(22,10)で定める部分に限る。)をいう。
 イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
 ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。

令7
 法第三項第四号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令19
 法第三項第四号に規定する政令で定める貸付事業は、同号に規定する貸付事業(「貸付事業」)のうち準事業以外のもの(「特定貸付事業」)とする。
令10
 法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする
令22
 第十項の規定は、法第三項第四号に規定する政令で定める部分について準用する。


 ここから要件を抽出すると次の通り。

【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地

「貸付事業」とは
 ・不動産貸付業
 ・駐車場業、自転車駐車場業
 ・準事業

「準事業」とは
 事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの

2イ 被相続人の貸付事業の場合
    事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
    事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

 「準事業」でもいいという、謎の優しさが発揮されています。過去、お亡くなりになったこともあるようですが、今は元気にやっています(ただし下記)。

 そして、(事業+保有)継続要件も「申告期限」まででよくって、いわゆる「事業承継」保護とは言い難い。
 上記2イで「事業承継要件」とは書いたのは、タックスアンサーに倣っただけ。「承継とはいったが継続とはいっていない」ということのようで。
 長期間に渡って事業継続、株式・資産保有を要求される『事業承継税制』とは、まるで毛並みが異なる。

法人版事業承継税制(国税庁)
個人版事業承継税制(国税庁)

 「家なき子」特例の制度趣旨を『出戻り保護』っていうのと同じように、こちらを『貸付事業の継続保護』というのだとしたら、的外れも甚だしい。


 要件がこれだけだったら、特にネタにするようなこともないです。
 勝手に制度趣旨を『貸付事業の継続保護』だと勘違いして、要件を読み間違えさえしなければ十分です(解説本の類の記述が未だに手薄なのは、シンプル要件時代のノリを引きずってのことでしょうか)。

 ところが、2018年度改正により、次のような「除外要件」「除外要件の除外要件」が入りました。

【除外要件】 ×
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)

「特定貸付事業」とは
 ○不動産貸付業
 ○駐車場業、自転車駐車場業
 ×準事業はダメ

 いわゆる「3年縛り」。
 特定居住用や特定事業用にも「3年縛り」がありますが、それぞれ規律内容は違います。

 カッコ書き内での除く×除くの二重掛けなので(いわゆるジョジョ掛け)、一読して理解しがたい。
 ではありますが、要するに、
  ・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(除1)。
  ・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(除2)。
ということかと。

 3年超なら準事業レベルでもいい一方で、3年以内に始めた場合はガチ貸付業でもダメだという。
 駆け込みを徹底的に拒絶する、「3年縛り」ルールらしい所作。

 他方で、もともとガチ貸付業やってたなら追加し放題という、奇妙な抜け道。

 まあ、物件追加し放題とはいえ、「限度面積」が特定貸付用だけで「200u」までなので、限界はあるでしょう。追加するなら坪単価高め・収益性高めの物件にしておけ、ということでしょうか。


 以上、条文ベースに制度理解をしてみましたが、「3年縛り」ルールがいまいちしっくりきていません。

 ということで、次回は《類型論的アプローチ》により検討をすすめてみます。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論

【規範論×類型論】
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
posted by ウロ at 19:57| Comment(0) | 相続税法