2022年08月01日

特定同族会社事業用宅地は特定同族会社を保護しない

 全く全然その気はなかったのですが、小規模宅地等の特例につき、居住用・貸付用・事業用と検討してしまったので、「同族用」についても一応触れておきます。
 細かいテクニカルな論点には触れず、他の利用区分との対比を中心に検討します。

 タイトルにある「保護しない」というのは、言いすぎかもしれません。が、個々の要件をみるかぎり、結果として保護される場合もあるというにとどまり、直接保護の対象にはなっていないように思います。


 ということで、要件の抽出から。条文は関連箇所だけ抜粋して、最後にまとめておいておきます。

【相続直前要件】
1 被相続人or生計一親族 事業供用(同族会社へ貸付)
2 特定同族会社 事業供用(貸付事業除く)

【相続開始後要件】
3 特定同族会社 申告期限まで事業継続
4 取得親族 申告期限において役員であること
5 取得親族 申告期限まで保有

・特定同族会社:
 被相続人+親族+特別関係者で50%超支配
・特定同族会社の「事業」:
 不動産貸付業、駐車場、自転車駐車場、準事業は含まない(通達69の4-23注1)

 事業用・貸付用のバリエーションかと思いきや、要件の座組みがだいぶ違います。
 例の「原則・除外・除外の除外」といったリバーシ(オセロ)感が、ここには存在しない。

 タックスアンサーの「表」だと、要件2・4・5だけが要件のように読めてしまいます。が、「1 特例の概要」に要件1、「3特例の対象となる宅地等(2)」の本文に要件3が紛れ込んでいます。

No.4124相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 表の見出しに「要件」と書かれているんだから、ここに要件が網羅されていると思うじゃないですか。が、そうじゃないと。
 表の外には書いてあるから、間違ったことが書かれているわけではない。ですが、「誤読を誘っている」と言われても文句はいえないでしょう。


 次に、個々の要件について。


 要件1は、「同族用」を小規模宅地等の特例の枠組みの中にねじ込んだせいで、要求せざるをえなくなったものです。

 土地(被相続人所有)なり建物(被相続人or生計一親族所有)が有償/無償かで、事業性の有無が変わってきますが、その詳細はここでは触れません(通達69の4-23参照)。
 ここで指摘しておきたいことは、もし同族用の特例が、文字通り「同族会社の」事業継続を保護するものであるならば、「被相続人の」事業性を要求する必然性はないはずだということです(以下、「生計一親族」は記述を省略します)。
 ところが、小規模宅地等の特例は、すべての特例対象地に共通する要件として、「被相続人の」事業・居住供用地であることを要求しています。ので、同特例にねじ込むと、必然的に被相続人にとっての事業性を備えなければならなくなります。

 ではあるのですが、それが要求されるのは相続開始直前までで、相続開始後は「被相続人」の事業の承継・継続は求められていません。要件3で要求されている事業継続は「同族会社」にとってのそれであって、「被相続人」のではありません。

 相続直前の要件として要求しているくせに、相続が開始された途端、いらない子扱いするという。急に冷めるな、と突っ込みたくなる。


 要件2・3では、相続直前から申告期限まで、同族会社の事業継続が要求されています。

 上記の通り、要件1に対応する相続開始後の要件が存在しないわけです。

         相続開始前 相続開始後
 被相続人の事業 要件1   なし
 同族会社の事業 要件2   要件3

 このことを整合的に説明する視点として、「供用」と「受益」を区別してみたらどうでしょうか。
 たとえば、「事業用」では、被相続人が土地を自己の事業に供用し、かつそこから便益を得るというように、供用する人と受益する人は一致します。
 他方で「同族用」では、供用するのは同族会社ですが、要件1により被相続人がそこから受益することが要求されています。というように、制度上、供用する人と受益する人がずれます。
 
  供用 同族会社が事業供用する
  受益 被相続人が利益を得る

 そして、小規模宅地等の特例において承継・継続が要求されるのは、「供用」の側面であって「受益」の側面ではないのだと。
 法1項と同3項3号とで、同じ「事業供用」という言葉が使われてしまっているため紛らわしいのですが、それぞれ要求される意味合いが違うと考えれば、理解しやすくなります。

             相続開始前 相続開始後
 被相続人の事業(受益) 要件1   なし    ←承継不要
 同族会社の事業(供用) 要件2   要件3   ←承継必要

 上記で指摘したとおり、タックスアンサーの「同族用」の表には要件1が盛り込まれていません。
 「事業用」の場合には「被相続人の事業供用地」とだけ書けば供用・受益両面を記述したことになります。他方で「同族用」の場合は、「同族会社の事業供用地」とだけ書いても供用面しか記述できていないことになります。
 「事業用」と同じノリで表を作成してしまったため、要件1が表から省かれてしまったのでしょう。


 要件4では、申告期限時点で取得親族が「役員」であればよいことになっています。株主ではなく役員。申告期限までに役員に就任して、申告期限が過ぎたら退任でもいいんだと。

 また、要件5では、申告期限まで保有すればよく、それ以降の保有は求められていません。
 事業用・貸付用と同様、いずれも「申告期限」どまりでそれ以降の継続は求められていません。


 同族用では、事業用・貸付用にあったような、ややこしい「除外要件×除外要件の除外要件」は設定されていません。

 同族会社の事業を保護するかような雰囲気を醸し出しておきながら、被相続人にとっての事業性を要求するという、アンビバレントな要件設定をしたせいで、若干ややこしい話があります。が、事業用・貸付用ほど厄介なものではありません。

 要するに、被相続人がその土地から利益を受けられる供用形態であったことを要求していると理解すれば足ります。


 3年縛りがないため、「事業用」の逃げ場としては利用できそうです。
 『3年以内個人事業がダメなら法人化すればいいじゃない。』

 簡単に法人設立できなかった昔のノリを、未だに引きずっているんでしょうか(が、有限会社もあったわけで)。
 なお、「貸付事業」は同族会社の事業から除外されているので、「貸付用」の逃げ場としては使えないでしょう。


 事業用・貸付用と同様、要件が「申告期限」どまりとなっており、それ以降の事業継続が眼中にありません。被相続人の事業供用(要件1)に至っては、相続開始直前までしか要求されていませんし。

 そうすると、同族用についても被相続人の生前における活動の自由度を確保することに主眼があるのであって、相続人や同族会社の何らかの利益を保護しようとしているわけではないように思えます。


 以上、小規模宅地等の特例の「立法趣旨」が何であるのかを探りあてようとして、各要件をこねくりまわしてきました。

 その結果、要件の見通しはだいぶよくなったものの、本来の目的である「立法趣旨」の正体については、要件を正確に理解すればするほど分からなくなる、という結果になりました。ひとつひとつの要件の中身は分かったものの、それぞれが一体何のために要求されているのか、分からないもの多数。

 ここまで検討してきたかぎりでですが、おそらく小規模宅地等の特例は、いわば被相続人に向けられた《立つ鳥後を濁さず税制》であって、取得者側の要件は、被相続人に対する保護を享受することが許容されるかという限度で要求されるにすぎない、と理解するのがよいかもしれません。
 これだけで、建て増し建て増しの要件すべてを説明しきれるとは思えませんが、少なくとも『家なき子の立法趣旨は出戻り保護だ!』といったように、およそ現実の要件とはかけ離れた理解をするよりはまだましだと思います。
 
 が、要件理解についてはふんわりふわふわのまま『出戻り保護だ!』と言っていられたほうが、あるいは幸せだったのかもしれない。

法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)

法1 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合

令1 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4 法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。

規1 法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
 一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
 二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3 令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。

法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(「申告期限」)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。

令7 法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。

三 特定同族会社事業用宅地等
 相続開始の直前に被相続人【及び当該被相続人の親族その他当該被相続人と政令(16)で定める特別の関係がある者】が有する株式の総数が当該株式に係る法人の発行済株式の総数の十分の五を超える法人の事業の用に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続により取得した当該被相続人の親族(財務省令(5)で定める者に限る。)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続き当該法人の事業の用に供されているもの(政令(18)で定める部分に限る。)をいう。

令16 法第三項第三号に規定する政令で定める特別の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 被相続人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 被相続人の使用人
三 被相続人の親族及び前二号に掲げる者以外の者で被相続人から受けた金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの
四 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
五 次に掲げる法人
イ 被相続人(当該被相続人の親族及び当該被相続人に係る前各号に掲げる者を含む。以下この号において同じ。)が法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該法人
ロ 被相続人及びこれとイの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
ハ 被相続人及びこれとイ又はロの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
令17 法第三項第三号の規定の適用に当たつては、同号の株式又は発行済株式には、議決権に制限のある株式として財務省令(6)で定めるものは含まないものとする。
令18 法第三項第三号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する法人(同項第一号イに規定する申告期限において清算中の法人を除く。)の事業の用に供されていた宅地等のうち同項第三号に定める要件に該当する部分(同号に定める要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。

規5 法第三項第三号に規定する財務省令で定める者は、同号に規定する申告期限において同号に規定する法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員(清算人を除く。)である者とする。
規6 令第十七項に規定する議決権に制限のある株式として財務省令で定めるものは、相続の開始の時において、会社法第百八条第一項第三号に掲げる事項の全部について制限のある株式、同法第百五条第一項第三号に掲げる議決権の全部について制限のある株主が有する株式、同法第三百八条第一項又は第二項の規定により議決権を有しないものとされる者が有する株式その他議決権のない株式とする。

posted by ウロ at 17:16| Comment(0) | 相続税法