2022年08月08日

さよなら小規模宅地等の特例の趣旨探訪

 「家なき子特例の趣旨は出戻り保護だ」に対する疑問から始まって、利用区分ごとに各特例の趣旨が何なのか探ってきました。

 が、結局のところよくわからない、というのが最終的な結論です。
 ので、実務家としては各要件を正確に理解することに努めることとし、《趣旨から考える》とかいって、現実の要件から導かれないような趣旨を勝手に祭り上げて、正確な要件理解を阻害しないようにすることとします。

 ということで、ここまでのまとめにかえて、各要件を縦方向で対比してみようと思います。

小規模まとめ.png

 この表は、対比用に並べたものなので、正確性は若干犠牲にはなっていますのでご留意ください。
 また、二世帯住宅や老人ホームの扱いは「居住」のサブルール扱いということで、省略します。


 もっとも特徴的なのが、表の右端が「申告期限」で終わっているということです。「申告期限」以降の継続は求められていません。

 表の中でもいくつか「継続」という言葉を使っていますが、これはあくまでも申告期限までの継続という意味にとどまります。
 巷で言われるとおりに、真面目に「居住・事業の継続」というものを保護するつもりがあるのであれば、申告期限以降の居住・事業の継続も要件になっているはずです。
 設備投資を促進したいなら設備投資してくれれば優遇するし、雇用を増やしたいなら雇用を増やしてくれれば優遇すると、同語反復な物言いですが、優遇税制というものは本来そういうものです。

 ところが、本特例は申告期限後の継続を要求していないわけで、居住・事業の継続の保護を目的としているとは言い難い。
 申告期限までの継続を要求しているものの、こんな中途半端なタイミングまで継続させることにどんな意味があるでしょうか。これは、申告期限までの継続それ自体をしてほしいのではなく、それ以外の何かを判定するための指標として流用しているのではないでしょうか。

 たとえば、事業用@であれば、被相続人の事業が決して特例狙いの仮初めモノではないことを証明するものとして、相続前は3年超or一定規模以上の事業を要求し、相続後は申告期限までの継続を要求すると。
 こういう説明ならば、なぜ申告期限までなどという中途半端なタイミングまでの継続にとどめているのか、一応理解は可能です。


 おおむね、相続前(左側)は被相続人の領域、相続後(右側)は相続人の領域と区分できます。
 左側にでてくる「生計一親族」と「同族会社」は、被相続人と一体のものとして理解すればよいかと。というか、被相続人と一体として評価できるからこそ、被相続人と同列に保護されているのでしょう。

 この区分を領域侵犯しているのが「家なき親族」。相続後は保有継続だけで居住継続が要求されていない一方で、相続前はあれやこれやの条件が課せられています。

 このうちの「×家屋所有」と「×過去所有」。表に収めるために言葉を省略していますが、次のような要件です。

 ア 相続前の3年間に「自分、配偶者、三親等内の親族、特別の関係がある法人」の持ち家に住んでいない
 イ 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない

 表作成の都合上「〜相続開始時」の欄に収めていますが、これら要件を「行為規範」として捉えるならば、相当広範囲に機能していることが分かります。

【行為規範としての税法】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)

 というのも、いつ相続が開始するかは事前には分からないわけです。仮に未来を「予知」できる能力があったとしても、その未来は変わってしまう可能性もあるわけですし。

【オカルティック通則法(「予知」と税法)】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)

 子が、将来親の自宅につき居住用Dの適用を受けられるようにしたい、と考えたとして、上記要件アイはどのように機能するかというと。

 ア「いつ親が亡くなるか分からないのだから、自分や関係者所有の家屋に住むのは止めておこう」
 イ「いつ親が亡くなるか分からないのだから、自分が過去所有していた家屋に住むのは止めておこう」

 アはイと違い「3年限定」となっているので、一見射程範囲が狭そうに思えます。が、「行為規範」の観点からすれば無意味な限定です。
 というのも、いつ亡くなるかが分からない以上、「亡くなってからさかのぼって3年」とか言われても、およそ期間が限定されていることにはなりません。

 「人はいつか必ず死ぬ」として、事前にいつ死ぬかが決まっていない以上、不確定であることに変わりはありません。「相続後3年」と「相続前3年」は、言葉の上では一文字違いですが、「行為規範(事前規範)」の観点からは全く性質の異なるものです。

 もしかするとですが、「見込み」に法的安定性があるとか言っちゃう例の教科書ならば、「期間を限定しているという意味で、法的安定性を重視した結果として評価できる」とか言い出しかねない。

【「見込み」には法的安定性がある?】
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)

 なお、上記の表、事後規範としての要件整理にとどまっているため、行為規範としての広大無辺さを表現できておりません。


 「行為規範」という観点からすると、事業用・貸付用の「3年縛り」にも同様の問題があります。

 事業用でいうと、「事業開始してから3年経てばいい」とか言われても、これから事業を始めようとする時点では、自分があと3年生きるのかどうか知らないわけです。
 そうすると、これから事業を始める人が、自分が亡くなったら相続人に事業用を適用を受けてもらいたいと思ったならば、常に一定規模以上の設備投資をし、かつ無事3年間生き延びられるまでの間、15%を下回らないようにキープし続けなければなりません。

 貸付用はさらに俗悪です。
 事業用の場合は「3年以内に死ぬかも」という運命に対して、自分でたくさん設備投資をすれば抗うことができました。他方で、貸付用の場合は、自分の力ではどうにもできません。
 先代から多数の貸付物件を引き継いできた場合はそのまま維持するだけでいいのに対して、これから貸付事業を始めようとする人は、自分で沢山貸付物件を買っただけではどうにもならず、なんとか3年生き延びることを天に祈るしかない。

 貸付用の3年縛りは《格差拡大税制》だと評価しましたが、行為規範という観点からみると、その俗悪さがさらに引き立ちます。


 「生計一親族」供用の場合は、生計一親族がそのまま継続することを要求しています(事業用A、貸付用A、居住用D)。

 この例外が、同族用と居住用C。

 居住用Cでは、取得者を生計一親族に限定することなく「配偶者」でもよいとされています。これは、本特例が相続人である生計一親族の居住継続を保護するものではなく、(生計一親族と一体として評価される)被相続人の生前の利用を保護しようとするものだからでしょう。
 そして、被相続人に対する保護について、配偶者は要保護性が高いから無条件でそのまま享受ができると。

 同族用では、生計一親族の事業は相続開始時までで打ち切りOKとなっています。前回述べたとおり、同族用にとって、この要件は文字通りの供用要件ではなく、被相続人側の受益要件にすぎないからでしょう。


 各要件の検討を経て、暫定的な私の見立て。

 本特例は取得者側の何らかの利益を保護しようとするものではなく、被相続人の生前の活動によって相続人に迷惑がかからないようにするためのもの、だと捉えています(《立つ鳥跡を濁さず税制》)。

 取得者側が保護されているようにみえますが、あくまでも被相続人の活動の自由を保障したことの付随的効果にすぎないと。
posted by ウロ at 17:49| Comment(0) | 相続税法