2022年09月19日

デビッド・ガーバー「競争法ガイド」(東京大学出版会2021)

 複数の法地域の競争法を比較することで、競争法の「肝」の部分が分かるようになる本。



 デビッド・ガーバー「競争法ガイド」(東京大学出版会2021)

 売らんがな精神かどうか、宣伝目的中で「入門書」と謳っているのですが、それはさすがに無理がある。競争法について何の知識もない人がいきなり本書を読んで、何事かを理解できるかといえば、まあ厳しい。

 正しい位置づけは、日本の競争法制について一通り勉強したことのある人が、他国の競争法制に手を出す前のインターフェイスとして使う、というものだと思います。
 そういう意味での「ガイド」であって、これを「入門書」というには敷居が高い(擬態入門書警察)。

 最低でも、翻訳者である白石忠志先生の薄い本くらいは読んでおく必要があると思います。
 


 白石忠志「独禁法講義 第9版」(有斐閣2020)

 ちなみに、下記の薄い本も面白いのですが、こちらはより高度な学術書。



白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)

白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)


 で、(他国の)競争法に縁のない私がなぜ本書を読んだのかというと。

 本書は、単一の法分野につき、複数の法地域(法域)ごとの共通点・相違点を総覧するものになっています。競争法限定の「比較法」の本、といった趣です。

 通常の比較法の本だと、必ずしも著者の得意ではない分野まで含まれることがあります。そうすると、単なる制度陳列系の記述となってしまい、「比較」の視点がぼやけてしまうことになりがち。
 対して本書では、法分野が一つに限定されているので、共通点・相違点の抽出の仕方が非常にクリアになっています。しかも、単なる制度の表面をなぞるだけでなく、運用面も視野に入れた内容となっています。


 そして、この単一/複数を入れ替えると、〈単一の法地域につき複数の法分野ごとの共通点・相違点を総覧する〉となります。

  本書: 単一の法分野×複数の法地域
  応用: 単一の法地域×複数の法分野

 本ブログでは、複数の法分野の間に落っこちている問題につき、イジりの対象とすることがありますが、本書のアプローチ・分析方法が、こういうイジりに「応用」できるのでは、と思いました。

【税法×知的財産法×法適用通則法】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)

 もちろん、〈単一の法地域につき、複数の法分野ごとの共通点・相違点を総覧する〉本そのものがあればそれを読めばいいわけです。が、そういう本、残念ながらあまり見かけません。
 せいぜい「2法間」までです(対談はあっても鼎談がない)。

【2法間の最高峰(と私が思うもの)】


 佐伯仁志,道垣内弘人「刑法と民法の対話」(有斐閣2001)

【なお1法間?】


 安藤馨,大屋雄裕「法哲学と法哲学の対話」(有斐閣2017)


 本書で読んだことが本ブログに還元されるかどうか、今のところ、3つ以上の「法間インターフェイス」を素材とするネタが手元にないので、本領が発揮されるのはしばらく先になりそうです。
posted by ウロ at 09:49| Comment(0) | 競争法