先週からの続き。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
インボイス導入後の消費税法、売上と仕入で二元的に理解するしかないのではないかと感じています。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
というのも、
・売上側は、実際に消費税分を転嫁できたかどうかにかかわらず、問答無用で「売上×10/110」分の消費税を掠め取られてしまう。
・仕入側は、課税事業者からの課税仕入であっても、インボイスがないかぎり税額控除できない。さらにインボイスがあっても、用途区分により控除額が制限される(特定収入とかは略)。
と売上側と仕入側とで全く別世界が展開されているようにみえるからです(積上・割戻といった枝葉の問題は省略)。
「税額転嫁」というマジックワードで、あたかも商流を一本につなげているように見せかけています。が、実際のところ、売上側を向いたときと仕入側を向いたときとで、異なるルールが適用されることになっています。
法人税における益金/損金だって、不算入にする場合は個別に規定されているのであって。ここまでド派手な違いではないと思います。
インボイスがなければ税額控除できないので、理念型の付加価値税のように「課税売上−課税仕入=付加価値」と、ストレートに表現することはできません。
同じ課税仕入なのにインボイスがなければ付加価値が減らない、などというのはどう考えても現実とあわない。形式の整ったインボイスでないかぎり、登録事業者からの課税仕入ですら控除できないですし。
登録制度とインボイス制度とが抱き合わせで導入されることになっていますが、益税を撲滅するためであれば、登録制度単体だけでも十分足りたはずです(登録事業者からの課税仕入であれば、インボイスがなくても税額控除できることとする)。
もはや、インボイス導入後の仕入税額控除は、付加価値という実態に課税するために控除しているのではなく。むしろ措置法上の税額控除制度のように、何某かの政策目的に協力したことによる恩恵として控除していただいているもの、と捉えたほうが落ち着きがよいかもしれません。
少なくとも、この程度のものを「権利」だなどというのは、なにかの冗談としか思えません。インボイスがあれば引けるしなければ引けない、ただそれだけのことです。
このことをあるがままに理解しようとするならば、
・売上側は売上に対する課税制度(売上税) 《激強》
・仕入側はインボイスによる税額控除制度 《激弱》
と、それぞれ別の理屈で作動している制度と捉えることになるかと。
両者を連動させて累積を徹底排除しよう、という気概はもはやない。「疑わしきは課税者の利益に。」に政策転換したということでしょう。
このような課税ベース拡大に偏った、アンバランスな制度に課税制度として合理性があるかといえば、私にはとてもあるとは思えません。が、現実にはこのような制度に仕上がっているわけです。
賛成するにしても反対するにしても、正確に制度理解をするべきでしょう。少なくとも、財務省・課税庁による誤導的なイメージに何の疑いもなく倣うのは愚か。
・
ところが、税理士執筆にかかるインボイス解説書ですら、「売上にかかる消費税は国の税金の預かり物」「益税はネコババ」などといった表現をしたものが見受けられます。
税理士にもかかわらず、よく考えもせず当局のプロパガンダにノセられているとは、率直にいって虫酸が走る。
税額転嫁できない事業者への対応として、従前のように国の負担で補填するか、それともインボイス導入によって当該事業者自身に負担させるか、といった政策決定の問題であって。免税事業者が本来貰えないはずのものを着服している、というのは決めつけの角度がきつすぎる。
また、特別法は無くなってしまいましたが、今後も転嫁対策に国のリソースを費やすというのであれば、国・事業者のコストアップが、インボイス導入による税収アップを凌駕することにならないか。よくよく検証すべきかと思います。
続きます。
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
2022年10月31日
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
posted by ウロ at 10:12| Comment(0)
| 消費税法
2022年10月24日
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
先週からの続き。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
○
どうしても、消費税法の入門書に「諸外国は〜」を入れたいと言うならば、次のような形にしてみてはどうでしょうか。
1 消費に対する課税をするにはどのような課税モデルがありうるか、ゼロベースで制度構築をしてみる
2 それらモデルは、消費活動を歪ませないか、効率的に運用できるか(事業者、課税庁とも)を検討する
3 各国の制度はどの課税モデルに当てはまるか、あるいはどのくらい偏差があるかを検討する
こういった検討をしてみることで、「諸外国が」みんなインボイス推しだからといって、それが唯一の正解とは限らない、あくまでも一つのモデルだ、といったことが分かるのではないでしょうか。
・
また、「消費税は預かりものなんだから納付して当然、益税絶許!」という主張も、本体・消費税を分断するモデルを採用した場合にそういえるだけであって。理念型の付加価値税からすれば、あくまでも利益の一部にすぎず、「法人税」などと特段大きな違いはないことになります。
というか、別税に見せかけているだけで、実態は法人税との「二重課税」のようにも思えます。
消費税は「間接税」であって負担者は消費者に決まってんじゃん、事業者に対する「直接税」である法人税と「二重課税」だとか、何を阿呆なことを言っているのか、と思うかもしれません。
が、生産者から消費者までの流れの中で、常に消費者だけが丸々税負担をしていると思っているのならば、それは大きな勘違いであって、必ずしもそうではない実態があります。
消費税のあらまし(令和4年6月)
第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1
上記の「■消費税の負担と納付の流れ」の図だと、生産者から消費者まで綺麗に税額転嫁が流れていく様が描かれています。あたかも、各段階の売上・仕入金額が事前に決まっていて、そこに消費税がそっと乗っかっているかのように。
が、消費者の立場で考えたときに、そのモノを買うのに100,000円以上は出したくないとして、別途10,000円のっかるのが消費税なら許す(が本体なら許さない)、などということにはなりませんよね。本体だろうが消費税だろうが、トータルいくら出せるかで考えるはずです。
トータルの支払額が大事、ということで、対消費者には「総額表示」が義務付けられていますし、極端な話「110,000円」と税額を明記しないことすら許容されているところです。
No.6902「総額表示」の義務付け
そうすると、小売業者としては、自社で税抜100,000円の売上(=30,000円の粗利)を確保したいと思っても、対消費者との値決めの問題で税込100,000円にせざるをえない、という事態が生じます。すなわち、本来消費者に負担させたい消費税相当額の一部を、小売業者が負担することになると。
販売価格決定のプロセスは、税抜で値決めをしてからおもむろに消費税をのっける、などというものではなく。消費税を含めた税込価格で決めることになります。
図式的にいえば、「税抜価格+消費税10%」という《外付け型》ではなく「税込価格うち10/110が消費税」という《内蔵型》で表現するほうが実態にあっています。
・
反対の仕入側の取引については、これまでですと、自社が課税事業者であるかぎりは、仕入先が課税事業者かどうかを気にすることなく、価格決定をすることができていました。
ところが、インボイス導入によって、途中に未登録者が挟まると税額転嫁の流れが分断されてしまうことになりました。そして、値決めをするにあたっては、仕入先の属性に応じて場合分けをしなければなりません(卑近な例でいえば、同じ値段でコーヒー飲むならインボイスもらえるところで飲む、みたいな話)。
力関係によって本体価格へ及ぼす影響が大きくなるはずです。
このあたりが、「財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省」といった錚々たる官庁が雁首揃えて「Q&A」を公表しておきながら、結局のところ「当事者同士でよく話し合って決めてね。」とぶん投げてしまっている、例の『価格交渉』の問題に繋がります。
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
・
小売業者にとっての最悪なパターンを数値例で整理しておきます。
【理想】 税込売上11000 税込仕入7700(インボイス有)
→粗利3000(10000-7000)
消費税300(1000-700)
理想は、粗利3000を確保するために、消費者に消費税分をちゃんと転嫁できることです。
【最悪】 税込売上10000 税込仕入7700(インボイス無)
→粗利1390(9090-7700)
消費税910(910-0)
最悪のパターンは、仕入先がインボイス未登録な一方、消費者には消費税を転嫁できなかった場合です。
仕入先は未登録のくせに値下げしないのは何なんだ、と思うかもしれません。が、未登録でも課税事業者である場合もあるわけで、必ずしもお値段据え置きが不当ということにはなりません。また、そこからしか仕入れられないという関係性によって、受け入れざるをえない場合もあるでしょう。さらに、上述したとおり、独禁法等による圧力もありますし。
結果、粗利が53.6%(3000→1390)削られるという酷い結果に(本当に計算合ってます?)。
インボイス導入により、商流の中の一番の弱者に不利益が集中的に流れ込むことになります。当然に消費者が消費税を全て負担するなどというの、夢想にもほどがある(控除対象外消費税→損金で、トータルの税負担はいくらかは軽減されますが)。
・
このように上流でも、税額転嫁できないこととなった痛みを誰が負担するか、という問題が生じることになります。
生産者から消費者まで商流が繋がっている現実のもとで、消費者だけが税負担をする課税モデルを構築したいのならば、少なくとも、インボイスの有無によって税額転嫁の流れを分断しようとする仕組みでは実現困難でしょう。それこそ、未登録者を事業取引の世界から排除するしかない(弱者を排除することで結果残った者たちが公平になるという、グロテスクな世界)。
と、消費から離れたところで事業者にしわ寄せが生じてくるとなると、事業者の事業活動に課税しているのと変わりないことになってきます。課税対象を所得とするのか、付加価値とするのか、それ以外の何かとするのか、活動成果の切り出し方の違いにすぎません。法人事業税付加価値割なんて、思いっきり付加価値に対する課税だし。
法人税にしても、力関係に応じて税負担を相手方に転嫁させることは可能です。制度の仕組みが税額転嫁を予定している/していない、などということは、現実に税額転嫁できるかどうかにとって決定的なものではありません。
強制力のある特別法をつくってはじめて、無理矢理にでも税額転嫁を機能させることができるにすぎません。
・
念のため、私自身は「二重課税」それ自体が悪だとは捉えているわけではありません。
浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)
また、上記では「インボイスが税額転嫁を分断している」と悪し様に表現しましたが、これは「消費税の最終負担者は消費者である」というお題目を前提としての評価にすぎません。
消費税法には消費に課税するとも消費者が税負担するとも一言も書いていないのだから、必ずしも消費者に税額転嫁させる必要はない、というならば、それはそれでひとつの立場でしょう。
であるならば、詐言を弄して実態とかけ離れた物言いをするのはやめて、現実の課税実態に正面から向き合いましょう、ということです。
次週へ続きます。
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
○
どうしても、消費税法の入門書に「諸外国は〜」を入れたいと言うならば、次のような形にしてみてはどうでしょうか。
1 消費に対する課税をするにはどのような課税モデルがありうるか、ゼロベースで制度構築をしてみる
2 それらモデルは、消費活動を歪ませないか、効率的に運用できるか(事業者、課税庁とも)を検討する
3 各国の制度はどの課税モデルに当てはまるか、あるいはどのくらい偏差があるかを検討する
こういった検討をしてみることで、「諸外国が」みんなインボイス推しだからといって、それが唯一の正解とは限らない、あくまでも一つのモデルだ、といったことが分かるのではないでしょうか。
・
また、「消費税は預かりものなんだから納付して当然、益税絶許!」という主張も、本体・消費税を分断するモデルを採用した場合にそういえるだけであって。理念型の付加価値税からすれば、あくまでも利益の一部にすぎず、「法人税」などと特段大きな違いはないことになります。
というか、別税に見せかけているだけで、実態は法人税との「二重課税」のようにも思えます。
消費税は「間接税」であって負担者は消費者に決まってんじゃん、事業者に対する「直接税」である法人税と「二重課税」だとか、何を阿呆なことを言っているのか、と思うかもしれません。
が、生産者から消費者までの流れの中で、常に消費者だけが丸々税負担をしていると思っているのならば、それは大きな勘違いであって、必ずしもそうではない実態があります。
消費税のあらまし(令和4年6月)
第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1
上記の「■消費税の負担と納付の流れ」の図だと、生産者から消費者まで綺麗に税額転嫁が流れていく様が描かれています。あたかも、各段階の売上・仕入金額が事前に決まっていて、そこに消費税がそっと乗っかっているかのように。
が、消費者の立場で考えたときに、そのモノを買うのに100,000円以上は出したくないとして、別途10,000円のっかるのが消費税なら許す(が本体なら許さない)、などということにはなりませんよね。本体だろうが消費税だろうが、トータルいくら出せるかで考えるはずです。
トータルの支払額が大事、ということで、対消費者には「総額表示」が義務付けられていますし、極端な話「110,000円」と税額を明記しないことすら許容されているところです。
No.6902「総額表示」の義務付け
そうすると、小売業者としては、自社で税抜100,000円の売上(=30,000円の粗利)を確保したいと思っても、対消費者との値決めの問題で税込100,000円にせざるをえない、という事態が生じます。すなわち、本来消費者に負担させたい消費税相当額の一部を、小売業者が負担することになると。
販売価格決定のプロセスは、税抜で値決めをしてからおもむろに消費税をのっける、などというものではなく。消費税を含めた税込価格で決めることになります。
図式的にいえば、「税抜価格+消費税10%」という《外付け型》ではなく「税込価格うち10/110が消費税」という《内蔵型》で表現するほうが実態にあっています。
・
反対の仕入側の取引については、これまでですと、自社が課税事業者であるかぎりは、仕入先が課税事業者かどうかを気にすることなく、価格決定をすることができていました。
ところが、インボイス導入によって、途中に未登録者が挟まると税額転嫁の流れが分断されてしまうことになりました。そして、値決めをするにあたっては、仕入先の属性に応じて場合分けをしなければなりません(卑近な例でいえば、同じ値段でコーヒー飲むならインボイスもらえるところで飲む、みたいな話)。
力関係によって本体価格へ及ぼす影響が大きくなるはずです。
このあたりが、「財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省」といった錚々たる官庁が雁首揃えて「Q&A」を公表しておきながら、結局のところ「当事者同士でよく話し合って決めてね。」とぶん投げてしまっている、例の『価格交渉』の問題に繋がります。
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
・
小売業者にとっての最悪なパターンを数値例で整理しておきます。
【理想】 税込売上11000 税込仕入7700(インボイス有)
→粗利3000(10000-7000)
消費税300(1000-700)
理想は、粗利3000を確保するために、消費者に消費税分をちゃんと転嫁できることです。
【最悪】 税込売上10000 税込仕入7700(インボイス無)
→粗利1390(9090-7700)
消費税910(910-0)
最悪のパターンは、仕入先がインボイス未登録な一方、消費者には消費税を転嫁できなかった場合です。
仕入先は未登録のくせに値下げしないのは何なんだ、と思うかもしれません。が、未登録でも課税事業者である場合もあるわけで、必ずしもお値段据え置きが不当ということにはなりません。また、そこからしか仕入れられないという関係性によって、受け入れざるをえない場合もあるでしょう。さらに、上述したとおり、独禁法等による圧力もありますし。
結果、粗利が53.6%(3000→1390)削られるという酷い結果に(本当に計算合ってます?)。
インボイス導入により、商流の中の一番の弱者に不利益が集中的に流れ込むことになります。当然に消費者が消費税を全て負担するなどというの、夢想にもほどがある(控除対象外消費税→損金で、トータルの税負担はいくらかは軽減されますが)。
・
このように上流でも、税額転嫁できないこととなった痛みを誰が負担するか、という問題が生じることになります。
生産者から消費者まで商流が繋がっている現実のもとで、消費者だけが税負担をする課税モデルを構築したいのならば、少なくとも、インボイスの有無によって税額転嫁の流れを分断しようとする仕組みでは実現困難でしょう。それこそ、未登録者を事業取引の世界から排除するしかない(弱者を排除することで結果残った者たちが公平になるという、グロテスクな世界)。
と、消費から離れたところで事業者にしわ寄せが生じてくるとなると、事業者の事業活動に課税しているのと変わりないことになってきます。課税対象を所得とするのか、付加価値とするのか、それ以外の何かとするのか、活動成果の切り出し方の違いにすぎません。法人事業税付加価値割なんて、思いっきり付加価値に対する課税だし。
法人税にしても、力関係に応じて税負担を相手方に転嫁させることは可能です。制度の仕組みが税額転嫁を予定している/していない、などということは、現実に税額転嫁できるかどうかにとって決定的なものではありません。
強制力のある特別法をつくってはじめて、無理矢理にでも税額転嫁を機能させることができるにすぎません。
・
念のため、私自身は「二重課税」それ自体が悪だとは捉えているわけではありません。
浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)
また、上記では「インボイスが税額転嫁を分断している」と悪し様に表現しましたが、これは「消費税の最終負担者は消費者である」というお題目を前提としての評価にすぎません。
消費税法には消費に課税するとも消費者が税負担するとも一言も書いていないのだから、必ずしも消費者に税額転嫁させる必要はない、というならば、それはそれでひとつの立場でしょう。
であるならば、詐言を弄して実態とかけ離れた物言いをするのはやめて、現実の課税実態に正面から向き合いましょう、ということです。
次週へ続きます。
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
posted by ウロ at 11:56| Comment(0)
| 消費税法
2022年10月17日
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
先週からの続き。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
○
「課税選択」なんて制度がなぜあるのかに関する以下の記述(P.191)。
「つまり、小規模事業者は、売上げについては納税が免除される一方で、その仕入れにおいて負担した仕入税額は控除できない(取り戻せない)ことになります。そこで、売上高に占める仕入高が大きい事業、たとえば生鮮野菜販売などの薄利多売の事業を営んでいる場合、納税事務負担をしても課税事業者になるインセンティブが働くわけです。」
「多売」であることがおよそ課税選択と無関係なのはもちろんのこと、いくら「薄利」であっても利益がでる(課税売上>課税仕入)想定ならばわざわざ課税選択なんてしません。
設備投資とか輸出以外で課税選択をするとしたら、あえて赤字を作り出したい的な、特殊な事情がある場合に限られるでしょう。
もしかして、税率10%で仕入れたものを軽減税率8%で売る場合のことを言っていますか?(食用でないものを仕入れて食用で売る的な)あるいは、仕入は1本、売上はひたすら1円未満切捨によって売上側の消費税が仕入側の消費税を下回るようになるとか?
いずれにしても、そんな特殊な例を課税選択の代表例とするのは望ましいとは思えません。
なお、なぜ薄利多売の代表が「生鮮野菜」であり、かつ、わざわざ「生鮮」をつけたのか、謎が過ぎる。全く脈絡はありませんが、例の「牛乳販売業者」と似たような空気を感じる。
岡村忠生ほか「租税法 第3版(有斐閣アルマ) 」(有斐閣2021)
この類の「なにか事実誤認してね?」と思われる記述をちらほら見かけます。
が、私自身しっかり読み込めているわけではないので、これ以上個別の指摘はせず「皆さんも気をつけて読んでね。」という注意喚起にとどめておきます。
(頭のいい学者先生が、我々学の弱い者向けに分かりやすく記述しようとして卑近な例をあげると、不適切な例をあげがちという現象、他著でも見かけた覚えがあります。)
○
P240〜の「脱税・節税スキーム」の記述は、初学者にとっては極めて難解。本書だけではおそらく理解しがたい。
たとえばCase4-15(P.248)では「高額特定資産」の特例ができるきっかけとなった事例が書かれているのですが、これをちゃんと理解するには、前座としての「調整対象固定資産」の特例を理解する必要があります。
P250には「高額特定資産と調整対象固定資産」という項目があるので、ここで両制度の関係が説明されているのかと思いきや。調整対象固定資産は、単に高額特定資産の定義の中に含まれているせいで、行きがかり上定義が記述されているだけでした。しかも、調整対象固定資産は100万円以上とあるのに高額特定資産は1000万円以上とあって、いやどっちなんだよ、と思ってしまうのでは。
あれやこれやの難解スキームアラカルトを無節操に陳列するよりも、事例を絞って、租税回避⇔法改正のイタチごっこを順番に説明していったほうが面白いと思う。
・
また、Case4-16(P.249)では、居住用(賃貸)建物の仕入税額控除に関する事例(ムゲンエステート事件、エーディーワークス事件)を扱っていますが、あたかも、多額の還付が生じること自体が悪であるかのような記述になっています。
が、素朴に考えれば、実際に消費税を支払っているんだから、その分還付されないほうがおかしい、と思うのではないでしょうか。特に、本件のような事例では、仕入れた後に売るわけですし。
そもそもこの事例が「密輸」から始まる一連の節税・脱税スキームの並びに無邪気に置かれていること自体がおかしい(一応、項は分かれていますが)。
真正面から「用途区分」ルールの意義が問題となった事例なわけで、この事案をスキーム呼ばわりして悪し様にいうのは、いかにも課税庁の発想。通常の法解釈・事実認定の枠内で争われたものであって、制度濫用みたいな評価をするのだとしたら、違和感しかないです。
この事例で納税者を悪者に仕立て上げたいならば、「何らかの手法で売却時の消費税を免れた」という事情を付け加える必要があるでしょう。まさにここが「スキーム」部分であって、これが抜けているのに「スキーム」呼ばわりするのはどう考えてもおかしい。
また、Caseに対する回答では、「仕入税額控除は請求権→用途区分は取得時に確定→共通仕入」といった論旨の運びが披露されているのですが、これ理屈つながっています?
『権利は発生時点で内容が固定され、それ以降のいかなる事情によってもおよそ変動しない』という、特定の激狭な権利概念を採用してはじめて言えることですよね。
令和2年改正で、居住用賃貸不動産の仕入税額控除が制限されたことについてはさらっと触れている程度。
仕入税額控除が「権利」だというならば、3年以内に売却できなければ永遠に控除できなくなる点とか、問題視すべきことなんじゃないですか。
権利性を強調しておきながら、控除を制限する側になるととたんに大人しくなってしまうの、なんなのか。
○
仕入税額控除の「権利」性を明確にすべきと主張しつつ、他方では、インボイス推しとか、ムゲンエステート事件・エーディーワークス事件での還付を悪し様にいうところとかを見るにつけ、運営側(課税庁・財務省)の課税ベース拡大狙いが正しいものとして、初学者向けにサブリミナル的に受け入れさせようとしているのではないか、と邪推してしまいます。
総論レベルでは仕入税額控除を「権利」として明確にすべき、的な主張をされているので、てっきり納税者の権利の側から制度評価をしていくのかと思いきや。各論レベルでは、むしろ仕入税額控除の対象を狭める側に向かっていっていませんか。
下手すると、仕入税額控除は「権利」だから、納税者が「全面的に」立証責任を負わなければならない、などと立証レベルでも弱体化する方向に進めだすかもしれない。
現行の日本の仕入税額控除はあまりに緩すぎてとても権利などと呼べる代物ではない、インボイス導入によってはじめて、どこ(諸外国)に出しても恥ずかしくない権利として主張できるのだ、ということなのか。
「○○は権利だ!」という主張、結局のところ、論者が中身に何を詰め込もうとしているかが肝心であって、権利ということそれ自体には何か特別な力があるわけではない、と捉えておくべきなのでしょう。
私が、性質決定から演繹的に何某かを導こうとする思考を眉唾もの扱いするのは、こういうところにあります。
○
仕入税額控除の「権利」性というものを有効活用するならば、たとえば「簡易課税制度」について、決して小規模事業者の事務負担を軽減するなどといった卑近なものではなく、仕入税額控除の権利としての最低限度を保障するものとして再構築する、といったことができるのではないでしょうか。
もちろん、現行制度がそうだといっているのではなく。インボイス推し勢の次の標的であろう簡易課税制度を擁護するための錦の御旗としての利用です。
○
次週に続きます。
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
○
「課税選択」なんて制度がなぜあるのかに関する以下の記述(P.191)。
「つまり、小規模事業者は、売上げについては納税が免除される一方で、その仕入れにおいて負担した仕入税額は控除できない(取り戻せない)ことになります。そこで、売上高に占める仕入高が大きい事業、たとえば生鮮野菜販売などの薄利多売の事業を営んでいる場合、納税事務負担をしても課税事業者になるインセンティブが働くわけです。」
「多売」であることがおよそ課税選択と無関係なのはもちろんのこと、いくら「薄利」であっても利益がでる(課税売上>課税仕入)想定ならばわざわざ課税選択なんてしません。
設備投資とか輸出以外で課税選択をするとしたら、あえて赤字を作り出したい的な、特殊な事情がある場合に限られるでしょう。
もしかして、税率10%で仕入れたものを軽減税率8%で売る場合のことを言っていますか?(食用でないものを仕入れて食用で売る的な)あるいは、仕入は1本、売上はひたすら1円未満切捨によって売上側の消費税が仕入側の消費税を下回るようになるとか?
いずれにしても、そんな特殊な例を課税選択の代表例とするのは望ましいとは思えません。
なお、なぜ薄利多売の代表が「生鮮野菜」であり、かつ、わざわざ「生鮮」をつけたのか、謎が過ぎる。全く脈絡はありませんが、例の「牛乳販売業者」と似たような空気を感じる。
岡村忠生ほか「租税法 第3版(有斐閣アルマ) 」(有斐閣2021)
この類の「なにか事実誤認してね?」と思われる記述をちらほら見かけます。
が、私自身しっかり読み込めているわけではないので、これ以上個別の指摘はせず「皆さんも気をつけて読んでね。」という注意喚起にとどめておきます。
(頭のいい学者先生が、我々学の弱い者向けに分かりやすく記述しようとして卑近な例をあげると、不適切な例をあげがちという現象、他著でも見かけた覚えがあります。)
○
P240〜の「脱税・節税スキーム」の記述は、初学者にとっては極めて難解。本書だけではおそらく理解しがたい。
たとえばCase4-15(P.248)では「高額特定資産」の特例ができるきっかけとなった事例が書かれているのですが、これをちゃんと理解するには、前座としての「調整対象固定資産」の特例を理解する必要があります。
P250には「高額特定資産と調整対象固定資産」という項目があるので、ここで両制度の関係が説明されているのかと思いきや。調整対象固定資産は、単に高額特定資産の定義の中に含まれているせいで、行きがかり上定義が記述されているだけでした。しかも、調整対象固定資産は100万円以上とあるのに高額特定資産は1000万円以上とあって、いやどっちなんだよ、と思ってしまうのでは。
あれやこれやの難解スキームアラカルトを無節操に陳列するよりも、事例を絞って、租税回避⇔法改正のイタチごっこを順番に説明していったほうが面白いと思う。
・
また、Case4-16(P.249)では、居住用(賃貸)建物の仕入税額控除に関する事例(ムゲンエステート事件、エーディーワークス事件)を扱っていますが、あたかも、多額の還付が生じること自体が悪であるかのような記述になっています。
が、素朴に考えれば、実際に消費税を支払っているんだから、その分還付されないほうがおかしい、と思うのではないでしょうか。特に、本件のような事例では、仕入れた後に売るわけですし。
そもそもこの事例が「密輸」から始まる一連の節税・脱税スキームの並びに無邪気に置かれていること自体がおかしい(一応、項は分かれていますが)。
真正面から「用途区分」ルールの意義が問題となった事例なわけで、この事案をスキーム呼ばわりして悪し様にいうのは、いかにも課税庁の発想。通常の法解釈・事実認定の枠内で争われたものであって、制度濫用みたいな評価をするのだとしたら、違和感しかないです。
この事例で納税者を悪者に仕立て上げたいならば、「何らかの手法で売却時の消費税を免れた」という事情を付け加える必要があるでしょう。まさにここが「スキーム」部分であって、これが抜けているのに「スキーム」呼ばわりするのはどう考えてもおかしい。
また、Caseに対する回答では、「仕入税額控除は請求権→用途区分は取得時に確定→共通仕入」といった論旨の運びが披露されているのですが、これ理屈つながっています?
『権利は発生時点で内容が固定され、それ以降のいかなる事情によってもおよそ変動しない』という、特定の激狭な権利概念を採用してはじめて言えることですよね。
令和2年改正で、居住用賃貸不動産の仕入税額控除が制限されたことについてはさらっと触れている程度。
仕入税額控除が「権利」だというならば、3年以内に売却できなければ永遠に控除できなくなる点とか、問題視すべきことなんじゃないですか。
権利性を強調しておきながら、控除を制限する側になるととたんに大人しくなってしまうの、なんなのか。
○
仕入税額控除の「権利」性を明確にすべきと主張しつつ、他方では、インボイス推しとか、ムゲンエステート事件・エーディーワークス事件での還付を悪し様にいうところとかを見るにつけ、運営側(課税庁・財務省)の課税ベース拡大狙いが正しいものとして、初学者向けにサブリミナル的に受け入れさせようとしているのではないか、と邪推してしまいます。
総論レベルでは仕入税額控除を「権利」として明確にすべき、的な主張をされているので、てっきり納税者の権利の側から制度評価をしていくのかと思いきや。各論レベルでは、むしろ仕入税額控除の対象を狭める側に向かっていっていませんか。
下手すると、仕入税額控除は「権利」だから、納税者が「全面的に」立証責任を負わなければならない、などと立証レベルでも弱体化する方向に進めだすかもしれない。
現行の日本の仕入税額控除はあまりに緩すぎてとても権利などと呼べる代物ではない、インボイス導入によってはじめて、どこ(諸外国)に出しても恥ずかしくない権利として主張できるのだ、ということなのか。
「○○は権利だ!」という主張、結局のところ、論者が中身に何を詰め込もうとしているかが肝心であって、権利ということそれ自体には何か特別な力があるわけではない、と捉えておくべきなのでしょう。
私が、性質決定から演繹的に何某かを導こうとする思考を眉唾もの扱いするのは、こういうところにあります。
○
仕入税額控除の「権利」性というものを有効活用するならば、たとえば「簡易課税制度」について、決して小規模事業者の事務負担を軽減するなどといった卑近なものではなく、仕入税額控除の権利としての最低限度を保障するものとして再構築する、といったことができるのではないでしょうか。
もちろん、現行制度がそうだといっているのではなく。インボイス推し勢の次の標的であろう簡易課税制度を擁護するための錦の御旗としての利用です。
○
次週に続きます。
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
posted by ウロ at 09:48| Comment(0)
| 消費税法
2022年10月10日
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
先週からの続き。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
以下、本書をきっかけとして思い浮かんだことを書き連ねていますので、しばしば、本書それ自体の記述からは離れているところがあります。本書に対する評価とは別物としてご理解いただけると。
○
諸外国に倣って本書がインボイス推し、なのはいいとして、その他の既存制度との不整合はないのかどうか、検証すべきなのではないか。
先週頭出しした「リバースチャージ」のほかに私が疑問に思うのが、仕入税額控除の「用途区分」によって控除対象外消費税が生じることとの整合性です。
インボイス未登録者からの課税仕入は税額控除できない、とすることで「益税」を絶滅させたいのだとして。控除対象外消費税が生じることによる「損税」はそのまま放置されるのか。
たとえば、非課税売上に対応する課税仕入で支払った消費税について、もらった側は納付するのに、支払った側は控除(還付)されないわけです(損税)。インボイス導入後も「用途区分」制度がそのままだとすると、この帰結は変わりません。
そもそも、なぜ非課税売上対応の課税仕入(非のみ仕入)は仕入税額控除の対象とならないのか、「条文にそう書いてある」以上の理論的な根拠がよく分かっていません。
ありうる説明としては、消費税は「付加価値税」であり非課税取引には付加価値を観念できないから消費税法の世界では無視する、といったものでしょうか。説得力があるかどうかはさておき、説明としては一応成り立っているかと。
が、インボイス導入によって、免税事業者だけでなく、未登録の課税事業者、さらには登録していてもインボイスに不備があった場合には、ことごとく仕入税額控除が否定されることになります。
「付加価値」の測定という観点からすると、インボイスの有無は何の関係もない事情なはずです。そんなものに税額控除の可否が左右されるのだとすれば、もはや消費税を「付加価値」に対する課税と位置づけるのは無理があると思います。
『付加価値がなくてもインボイスがなければ課税する』のならば、それは付加価値以外の何かに課税しているということでしょう。
【付加価値税(理念型)】
課税売上110−課税仕入88=付加価値22
付加価値22×10/110=消費税2
【インボイス税(理念型)】
売上消費税10−仕入消費税8=消費税2
インボイス導入後は、付加価値とは無関係にインボイス記載の消費税そのものを控除の対象としている、とでも言わざるをえないのではないでしょうか。
そうだとすると、なおさら、インボイスに記載されているにもかかわらず、なぜ非のみ仕入は控除できないのか、という疑問に対する強い正当化根拠が求められることになるはずです。付加価値と切り離した以上、売上との対応関係を求めることの意味が問われます。
では、非課税売上では消費税をもらっていないんだから、「税額転嫁」という仕入税額控除の趣旨にあてはまらない、という説明ではどうでしょうか。
「用途区分」制度単体の根拠としては、これで説明がつきそうです。ある意味、非課税売上に関しては事業者を消費者(転嫁の先頭)の位置に繰り上げる(下げる?)ようなものです。
が、インボイス導入によって、インボイスがなければ課税事業者からの課税仕入でも税額控除できなくなります。しかも、登録・未登録にかかわらずです。「税額転嫁」に相応しい実態があっても、インボイスがなければ、さらにインボイスがあっても記載が間違っていたら、控除ができないと。
どうせお前ら、インボイス記載の登録番号が「丁0000....」と、頭文字が漢字の「てい」になっていたら、インボイスの記載要件を満たさないから仕入税額控除できない、とか言うんだろ(藤田二コル氏、木村力工ラ氏問題)。
このことは、仕入税額控除の「税額転嫁」という機能を大幅に減殺することになるのではないか。それこそ、仕入税額控除を「権利」と性質決定する立場からすれば、このような事態は許されない、となりそうなものですけども。
確かに、現行法でも「帳簿記載+請求書等」が要求されているところです。が、その程度のものと、仕入先がインボイス登録しているか、ミスらずインボイスを作成しているか、などといった、こちらでコントロールのし難いものとはおよそ要求レベルが違う。どうにか登録させようとしても、独禁法・下請法による脅しが待っているわけですし。
また、理論的な説明がついたとして、(消費者と同じように)丸々消費税を負担させてもよいのか、という結論の妥当性はやはり検討すべきことでしょう。損金経由で法人税が減るから一部カバーできているはず、とでもいうのでしょうか。
というか、控除できない消費税がなぜ法人税法で損金になるのか、その理屈もよく分かりません(法人税法施行令に書いてある、という形式論ではなく理屈の話)。実務的には淡々と処理していますが、あらためて顧問先から理由を説明してくれと言われたら、多分うまく説明できないと思う。
理念型の付加価値税からすれば、本体と消費税は区別されないので、本体⇔税間がシームレスなのは理解できます。が、インボイスは本体と税を厳格に区別するのであって、そう簡単に「消費税、あぶれたものは損金へ」というわけにはいかないはずです。
損税は損金になるからドンマイ、というなら、益税は益金となっているわけで、決して丸儲けになっているのではありません。
インボイス推し勢の、益税絶許・損税ドンマイのバランス感覚、よく理解できません。
また用途区分制度、仕入税額控除の趣旨を「付加価値」だとか「税額転嫁」だとか高らかに謳っておきながら、「共通仕入」が税額控除できる範囲は「課税売上割合」で決め打ちすることになっています。
これまでならともかく、インボイス導入によって控除できる範囲を厳格に限定することになるというのに、共通仕入については課税売上割合でざっくり割り切ってしまうことに、落ち着きの悪さを感じてしまいます。
インボイス(の建前)と「用途区分」制度、食い合わせが悪いと感じるのは私だけでしょうか。
○
先週頭出しした、インボイスと「電気通信利用役務の提供」との関係も、サイレントでどこかの国の制度を混入させて説明するのではなく、正面から日本法のインボイスと日本法の「電気通信利用役務の提供」との関係を説明してほしい。
○
インボイスの詳細な運用が、お役所のQ&A頼みで法的根拠がないことに対して、今後はルール作りが必要だ、的なことが書いてあります(P.235)。もう目前に迫っているのに、ずいぶん悠長な態度だなと感じました。
インボイスを推すんだったら、そういうところこそ諸外国を参考に「事前に」制度を練り込んでおくべきことなんじゃないですかね。
○
次週に続きます。
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
以下、本書をきっかけとして思い浮かんだことを書き連ねていますので、しばしば、本書それ自体の記述からは離れているところがあります。本書に対する評価とは別物としてご理解いただけると。
○
諸外国に倣って本書がインボイス推し、なのはいいとして、その他の既存制度との不整合はないのかどうか、検証すべきなのではないか。
先週頭出しした「リバースチャージ」のほかに私が疑問に思うのが、仕入税額控除の「用途区分」によって控除対象外消費税が生じることとの整合性です。
インボイス未登録者からの課税仕入は税額控除できない、とすることで「益税」を絶滅させたいのだとして。控除対象外消費税が生じることによる「損税」はそのまま放置されるのか。
たとえば、非課税売上に対応する課税仕入で支払った消費税について、もらった側は納付するのに、支払った側は控除(還付)されないわけです(損税)。インボイス導入後も「用途区分」制度がそのままだとすると、この帰結は変わりません。
そもそも、なぜ非課税売上対応の課税仕入(非のみ仕入)は仕入税額控除の対象とならないのか、「条文にそう書いてある」以上の理論的な根拠がよく分かっていません。
ありうる説明としては、消費税は「付加価値税」であり非課税取引には付加価値を観念できないから消費税法の世界では無視する、といったものでしょうか。説得力があるかどうかはさておき、説明としては一応成り立っているかと。
が、インボイス導入によって、免税事業者だけでなく、未登録の課税事業者、さらには登録していてもインボイスに不備があった場合には、ことごとく仕入税額控除が否定されることになります。
「付加価値」の測定という観点からすると、インボイスの有無は何の関係もない事情なはずです。そんなものに税額控除の可否が左右されるのだとすれば、もはや消費税を「付加価値」に対する課税と位置づけるのは無理があると思います。
『付加価値がなくてもインボイスがなければ課税する』のならば、それは付加価値以外の何かに課税しているということでしょう。
【付加価値税(理念型)】
課税売上110−課税仕入88=付加価値22
付加価値22×10/110=消費税2
【インボイス税(理念型)】
売上消費税10−仕入消費税8=消費税2
インボイス導入後は、付加価値とは無関係にインボイス記載の消費税そのものを控除の対象としている、とでも言わざるをえないのではないでしょうか。
そうだとすると、なおさら、インボイスに記載されているにもかかわらず、なぜ非のみ仕入は控除できないのか、という疑問に対する強い正当化根拠が求められることになるはずです。付加価値と切り離した以上、売上との対応関係を求めることの意味が問われます。
では、非課税売上では消費税をもらっていないんだから、「税額転嫁」という仕入税額控除の趣旨にあてはまらない、という説明ではどうでしょうか。
「用途区分」制度単体の根拠としては、これで説明がつきそうです。ある意味、非課税売上に関しては事業者を消費者(転嫁の先頭)の位置に繰り上げる(下げる?)ようなものです。
が、インボイス導入によって、インボイスがなければ課税事業者からの課税仕入でも税額控除できなくなります。しかも、登録・未登録にかかわらずです。「税額転嫁」に相応しい実態があっても、インボイスがなければ、さらにインボイスがあっても記載が間違っていたら、控除ができないと。
どうせお前ら、インボイス記載の登録番号が「丁0000....」と、頭文字が漢字の「てい」になっていたら、インボイスの記載要件を満たさないから仕入税額控除できない、とか言うんだろ(藤田二コル氏、木村力工ラ氏問題)。
このことは、仕入税額控除の「税額転嫁」という機能を大幅に減殺することになるのではないか。それこそ、仕入税額控除を「権利」と性質決定する立場からすれば、このような事態は許されない、となりそうなものですけども。
確かに、現行法でも「帳簿記載+請求書等」が要求されているところです。が、その程度のものと、仕入先がインボイス登録しているか、ミスらずインボイスを作成しているか、などといった、こちらでコントロールのし難いものとはおよそ要求レベルが違う。どうにか登録させようとしても、独禁法・下請法による脅しが待っているわけですし。
また、理論的な説明がついたとして、(消費者と同じように)丸々消費税を負担させてもよいのか、という結論の妥当性はやはり検討すべきことでしょう。損金経由で法人税が減るから一部カバーできているはず、とでもいうのでしょうか。
というか、控除できない消費税がなぜ法人税法で損金になるのか、その理屈もよく分かりません(法人税法施行令に書いてある、という形式論ではなく理屈の話)。実務的には淡々と処理していますが、あらためて顧問先から理由を説明してくれと言われたら、多分うまく説明できないと思う。
理念型の付加価値税からすれば、本体と消費税は区別されないので、本体⇔税間がシームレスなのは理解できます。が、インボイスは本体と税を厳格に区別するのであって、そう簡単に「消費税、あぶれたものは損金へ」というわけにはいかないはずです。
損税は損金になるからドンマイ、というなら、益税は益金となっているわけで、決して丸儲けになっているのではありません。
インボイス推し勢の、益税絶許・損税ドンマイのバランス感覚、よく理解できません。
また用途区分制度、仕入税額控除の趣旨を「付加価値」だとか「税額転嫁」だとか高らかに謳っておきながら、「共通仕入」が税額控除できる範囲は「課税売上割合」で決め打ちすることになっています。
これまでならともかく、インボイス導入によって控除できる範囲を厳格に限定することになるというのに、共通仕入については課税売上割合でざっくり割り切ってしまうことに、落ち着きの悪さを感じてしまいます。
インボイス(の建前)と「用途区分」制度、食い合わせが悪いと感じるのは私だけでしょうか。
○
先週頭出しした、インボイスと「電気通信利用役務の提供」との関係も、サイレントでどこかの国の制度を混入させて説明するのではなく、正面から日本法のインボイスと日本法の「電気通信利用役務の提供」との関係を説明してほしい。
○
インボイスの詳細な運用が、お役所のQ&A頼みで法的根拠がないことに対して、今後はルール作りが必要だ、的なことが書いてあります(P.235)。もう目前に迫っているのに、ずいぶん悠長な態度だなと感じました。
インボイスを推すんだったら、そういうところこそ諸外国を参考に「事前に」制度を練り込んでおくべきことなんじゃないですかね。
○
次週に続きます。
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
posted by ウロ at 10:14| Comment(0)
| 消費税法
2022年10月03日
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
消費税法、はじめの「学習書」としては、これ一択になるんじゃないですかね。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
が、手放しで評価するには躊躇するところがあり・・。
佐藤英明 スタンダード所得税法 第3版(弘文堂2022)
渡辺徹也 スタンダード法人税法 第3版(弘文堂2023)
○
本書の構成は以下の通り。
Chapter1・4が西山先生、Chapter2・3が佐藤先生という分担になっています。
Chapter1 消費税法の基礎理論
Chapter2 消費税法の基本構造
Chapter3 国境を越える取引と消費税
Chapter4 消費税法の個別問題
佐藤先生執筆部分は、記述が、学習者へのわかり易さ全振りとなっていて、とても読みやすいです。
抽象的な記述がでてきても、どういう意味だろうと思った瞬間に具体例が差し込まれるので、思考を止めずに読み続けることができます。
それなりに知識・経験のある税理士が読んでも、知識・経験のスキマを言葉を尽くして埋めてくれるので、よりスピード感をもって読み進めることができます。
また、条文の解きほぐしもやってくれているので、法人税法・所得税法に比べてサボりがちな消費税法の条文読みの助けにもなります。
○
他方で、西山先生執筆部分、パッと見の印象でも文章固めだな、と感じるのですが、たびたびつっかえる(たぶんですけど、税法の専門家としてはこちらがスタンダードで、逆に佐藤先生がおかしい・・)。
たとえば、インボイス導入すんの当然だろ、という文脈で書かれている次の記述(P226)。
「電気通信利用役務の提供についてリバースチャージ方式で課税をする際に(p.172)、その電気通信利用役務の提供について、「事業者向けの役務提供」と「消費者向けの役務提供」に分けなければならないのに、役務提供先が事業者かどうか識別できる手段がない状況では、制度がうまく機能しません。そこで、消費税の納税義務のある事業者を識別するための手段として、適格請求書発行事業者登録制度を設け、これをもって課税事業者登録制度としたのです。」
これ、意味とれますか?
佐藤先生がきちんと書かれているとおり(P178)、現行法の「電気通信利用役務の提供」は、個別の役務提供先ごとに事業者向けかどうかを判定するのではなく、サービスの属性によって判定することになっています。ので、インボイス登録しているかどうかは「事業者向け」かどうかの判定とは関係ありません。このことはインボイス導入後も改正されることにはなっていません(今のところ)。
インボイス導入により変更となるのは、サービスの属性により「消費者向け」と判定された場合に、提供元がインボイスを発行しなければならなくなるという点です(現登録制度がスライドする)。
もし提供元がインボイスを発行してきたとしても、当該サービスの属性が事業者向け/消費者向けのいずれに該当するかは、提供先自身の責任において判断しなければなりません。
仮に、「事業者向け」判定をインボイスと結びつけようとしても、日本法においては〈インボイス未登録者である課税事業者〉というカテゴリーも存在するため、この扱いをどうするかも検討しなければなりません。
というか、インボイスって、「提供元」が登録してれば仕入税額控除できるという制度であって、「提供先」の属性判定のために使うようなものではないはずです。
下記記事でも書きましたが、このような記述、日本法ではないどこかのリバースチャージ方式を想定して書いているのでしょうか。
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
それならそうとちゃんと明記すべきだし、そもそも、日本法の制度理解が不十分な状態な初学者に、ここではないどこかの制度を前提に話をすべきかは疑問です。
本書のChapter3を真面目に読み込んでいる初学者ほど、混乱させられる罠。
頭のいい学者先生がこういう感じなのだとしたら、我々野良税理士なんかが、正確に理解できるような代物ではないのでしょう。
完全な邪推ですが、頭のいい人が庶民向けに分かりやすく書こうとすると、こういうバグが発生するのかもしれません。本人の中では当然正しく理解していることでも、レベルを落として説明する術をもっていないせいで、こういう記述になってしまうと(ここが、佐藤先生の記述がわかり易すぎて逆におかしい、という評価につながる)。
インボイス絡みで「電気通信利用役務の提供」を持ち出すならば、インボイス導入ばかりが先走ってこれら既存の制度との整合性が検証されていない、といった点を指摘すべきではないでしょうか。
○
以下、その他本書それ自体の、というよりも、本書を読んでいて思い浮かんだことを箇条書きで列挙しておきます。ただ、消費税法について実務を離れて真面目に考える、ということをしたのが、恥ずかしながら今回初めてなので、色々思い違いをしている点があるかと思います。
なお、以下の指摘が西山先生執筆部分に偏っているのは、佐藤先生執筆部分が(良くも悪くも)学習者向けに消費税法の基本を丁寧に説明する、という入門書としてのラインを徹底しているせいで、褒めちぎるしかないのに対して、西山先生執筆部分は、そのラインを踏み越えた記述に及んでしまっているせいかと思います。
・
クロスリファレンスが充実しているのに対して「事項索引」が貧弱なんですが、消費税法だけの入門書だとこんなもんですか?(類書を読んだことがないので分からないだけです)
・
一般的な用語である「免税事業者」を使わずに、すべて「小規模事業者」という用語に置き換えて記述がされています。
理論的に免税じゃないということと9条の見出しにそう書いてあるから、ということのようで。
が、文字通りの小規模な事業者であっても、課税選択をすれば課税事業者になるわけで、消費税が課税されない事業者のことを指して「小規模事業者」と呼ぶのは違和感があります。一般用語っぽい言葉に、特定の法的意味をもたせるのがおかしいんでしょうね。
そもそも『入門書』だというならば、一般的な用法に対する反逆は、(本書でいうと)「Next Step」で疑問を呈しておく程度にとどめておくことであって、本文を全面的に書き換えるようなものだとは思えません。条文本体で定義づけされた用語ではなく、ただの見出しだし。
どうしても良心が許さないのならば、「私は疑問だが仕方なく一般用例に従っておく」とでも留保しておけばいいわけで。
全くの余談ですが、『契約社員』という用語、常々気に食わないと思っています。
一般的には「有期雇用」の労働者をさして使われるのですが、「無期雇用」だって雇用契約(労働契約)を締結しているわけで、なぜ有期雇用だけが契約社員と呼ばれるのか。
といった疑問がありながらも、一般に倣って「契約社員」(心の中で有期雇用社員に変換)と言うことにしています。
・
日本法の仕入税額控除の性質が「権利」なのか単なる「計算要素」なのかはっきりしない、権利だと性質決定すれば様々な帰結が導きだせる、的なことが書いてあるのですが、こういう性質論から演繹的に何某かの解釈を導くことって、スタンダードな解釈なんですか?
下記記事などでも展開しているとおり、私自身は個別の条文を踏まえずに「趣旨」や「性質」から何某かの帰結を導こうとすることに対しては懐疑的です。
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
が、私のような考えのほうが、マイナーなんでしょうね。
・
「諸外国では〜」「EUでは〜」という記述、頻繁に出てくるのですが、初学者向けの書籍において必要なのかどうか。
もちろん、知識として不要ということを言っているのではなく、限られた紙幅の中ではもっと日本法の記述を手厚くすべきなのでは、という趣旨の疑問です。
○
当初、これ以下にもかなりのツッコミを書き連ねていたのですが、異常に長くなりすぎたので、一旦ここで区切って次週に続きます。書評に擬態して書くには、相応くない気がしますので。
【このあたりと同じノリ】
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
消費税における《後のせサクサク vs 先入れドロドロ》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編8)
《インボイスをもって益税を割く》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
が、手放しで評価するには躊躇するところがあり・・。
佐藤英明 スタンダード所得税法 第3版(弘文堂2022)
渡辺徹也 スタンダード法人税法 第3版(弘文堂2023)
○
本書の構成は以下の通り。
Chapter1・4が西山先生、Chapter2・3が佐藤先生という分担になっています。
Chapter1 消費税法の基礎理論
Chapter2 消費税法の基本構造
Chapter3 国境を越える取引と消費税
Chapter4 消費税法の個別問題
佐藤先生執筆部分は、記述が、学習者へのわかり易さ全振りとなっていて、とても読みやすいです。
抽象的な記述がでてきても、どういう意味だろうと思った瞬間に具体例が差し込まれるので、思考を止めずに読み続けることができます。
それなりに知識・経験のある税理士が読んでも、知識・経験のスキマを言葉を尽くして埋めてくれるので、よりスピード感をもって読み進めることができます。
また、条文の解きほぐしもやってくれているので、法人税法・所得税法に比べてサボりがちな消費税法の条文読みの助けにもなります。
○
他方で、西山先生執筆部分、パッと見の印象でも文章固めだな、と感じるのですが、たびたびつっかえる(たぶんですけど、税法の専門家としてはこちらがスタンダードで、逆に佐藤先生がおかしい・・)。
たとえば、インボイス導入すんの当然だろ、という文脈で書かれている次の記述(P226)。
「電気通信利用役務の提供についてリバースチャージ方式で課税をする際に(p.172)、その電気通信利用役務の提供について、「事業者向けの役務提供」と「消費者向けの役務提供」に分けなければならないのに、役務提供先が事業者かどうか識別できる手段がない状況では、制度がうまく機能しません。そこで、消費税の納税義務のある事業者を識別するための手段として、適格請求書発行事業者登録制度を設け、これをもって課税事業者登録制度としたのです。」
これ、意味とれますか?
佐藤先生がきちんと書かれているとおり(P178)、現行法の「電気通信利用役務の提供」は、個別の役務提供先ごとに事業者向けかどうかを判定するのではなく、サービスの属性によって判定することになっています。ので、インボイス登録しているかどうかは「事業者向け」かどうかの判定とは関係ありません。このことはインボイス導入後も改正されることにはなっていません(今のところ)。
インボイス導入により変更となるのは、サービスの属性により「消費者向け」と判定された場合に、提供元がインボイスを発行しなければならなくなるという点です(現登録制度がスライドする)。
もし提供元がインボイスを発行してきたとしても、当該サービスの属性が事業者向け/消費者向けのいずれに該当するかは、提供先自身の責任において判断しなければなりません。
仮に、「事業者向け」判定をインボイスと結びつけようとしても、日本法においては〈インボイス未登録者である課税事業者〉というカテゴリーも存在するため、この扱いをどうするかも検討しなければなりません。
というか、インボイスって、「提供元」が登録してれば仕入税額控除できるという制度であって、「提供先」の属性判定のために使うようなものではないはずです。
下記記事でも書きましたが、このような記述、日本法ではないどこかのリバースチャージ方式を想定して書いているのでしょうか。
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
それならそうとちゃんと明記すべきだし、そもそも、日本法の制度理解が不十分な状態な初学者に、ここではないどこかの制度を前提に話をすべきかは疑問です。
本書のChapter3を真面目に読み込んでいる初学者ほど、混乱させられる罠。
頭のいい学者先生がこういう感じなのだとしたら、我々野良税理士なんかが、正確に理解できるような代物ではないのでしょう。
完全な邪推ですが、頭のいい人が庶民向けに分かりやすく書こうとすると、こういうバグが発生するのかもしれません。本人の中では当然正しく理解していることでも、レベルを落として説明する術をもっていないせいで、こういう記述になってしまうと(ここが、佐藤先生の記述がわかり易すぎて逆におかしい、という評価につながる)。
インボイス絡みで「電気通信利用役務の提供」を持ち出すならば、インボイス導入ばかりが先走ってこれら既存の制度との整合性が検証されていない、といった点を指摘すべきではないでしょうか。
○
以下、その他本書それ自体の、というよりも、本書を読んでいて思い浮かんだことを箇条書きで列挙しておきます。ただ、消費税法について実務を離れて真面目に考える、ということをしたのが、恥ずかしながら今回初めてなので、色々思い違いをしている点があるかと思います。
なお、以下の指摘が西山先生執筆部分に偏っているのは、佐藤先生執筆部分が(良くも悪くも)学習者向けに消費税法の基本を丁寧に説明する、という入門書としてのラインを徹底しているせいで、褒めちぎるしかないのに対して、西山先生執筆部分は、そのラインを踏み越えた記述に及んでしまっているせいかと思います。
・
クロスリファレンスが充実しているのに対して「事項索引」が貧弱なんですが、消費税法だけの入門書だとこんなもんですか?(類書を読んだことがないので分からないだけです)
・
一般的な用語である「免税事業者」を使わずに、すべて「小規模事業者」という用語に置き換えて記述がされています。
理論的に免税じゃないということと9条の見出しにそう書いてあるから、ということのようで。
が、文字通りの小規模な事業者であっても、課税選択をすれば課税事業者になるわけで、消費税が課税されない事業者のことを指して「小規模事業者」と呼ぶのは違和感があります。一般用語っぽい言葉に、特定の法的意味をもたせるのがおかしいんでしょうね。
そもそも『入門書』だというならば、一般的な用法に対する反逆は、(本書でいうと)「Next Step」で疑問を呈しておく程度にとどめておくことであって、本文を全面的に書き換えるようなものだとは思えません。条文本体で定義づけされた用語ではなく、ただの見出しだし。
どうしても良心が許さないのならば、「私は疑問だが仕方なく一般用例に従っておく」とでも留保しておけばいいわけで。
全くの余談ですが、『契約社員』という用語、常々気に食わないと思っています。
一般的には「有期雇用」の労働者をさして使われるのですが、「無期雇用」だって雇用契約(労働契約)を締結しているわけで、なぜ有期雇用だけが契約社員と呼ばれるのか。
といった疑問がありながらも、一般に倣って「契約社員」(心の中で有期雇用社員に変換)と言うことにしています。
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日本法の仕入税額控除の性質が「権利」なのか単なる「計算要素」なのかはっきりしない、権利だと性質決定すれば様々な帰結が導きだせる、的なことが書いてあるのですが、こういう性質論から演繹的に何某かの解釈を導くことって、スタンダードな解釈なんですか?
下記記事などでも展開しているとおり、私自身は個別の条文を踏まえずに「趣旨」や「性質」から何某かの帰結を導こうとすることに対しては懐疑的です。
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
が、私のような考えのほうが、マイナーなんでしょうね。
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「諸外国では〜」「EUでは〜」という記述、頻繁に出てくるのですが、初学者向けの書籍において必要なのかどうか。
もちろん、知識として不要ということを言っているのではなく、限られた紙幅の中ではもっと日本法の記述を手厚くすべきなのでは、という趣旨の疑問です。
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当初、これ以下にもかなりのツッコミを書き連ねていたのですが、異常に長くなりすぎたので、一旦ここで区切って次週に続きます。書評に擬態して書くには、相応くない気がしますので。
【このあたりと同じノリ】
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
消費税における《後のせサクサク vs 先入れドロドロ》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編8)
《インボイスをもって益税を割く》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)
posted by ウロ at 09:42| Comment(0)
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