2022年11月28日

消費税法における《後乗せサクサク vs 先入れドロドロ》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編8)

 「売上側からは消費税なのに仕入側からは消費税でない」という現象、気持ち悪いと感じつつ。どこか既視感があるなあと思ったら、「違法所得・違法支出」の帰結と似ているのではないかと。
 払った側は損金不算入なのに、もらった側は益金算入になる例のやつ。

 なんだ、お馴染みの「違法所得・違法支出」と一緒か。だったらいいか一安心、とはならんだろ。

 以下、
  ・A 免税事業者
  ・B 非登録である課税事業者
  ・C ABから仕入をする課税事業者
として記述します。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)


 Bに対する支払いが、消費税法からみて「違法支出」に匹敵するようなものと評価できるのか。払う側と貰う側とで扱いを真逆にする以上、それ相応の根拠が必要となるはずです。

 この点、お国の側からすれば、課税事業者のくせに、お国が作った税転嫁システムに素直にのっからない輩などというのは、とんでもない反税思想の持ち主ということになるんでしょう。

  C → 反社会的勢力への支払い
  C → 非登録である課税事業者への支払い

 Bからしっかり召し上げておきながらなぜCには返さないのかというのも、召し上げは「没収」(刑法19条)みたいなもの、だと捉えておけばいいですか。
 なぜ登録しないB本人ではなくCが不利益を被るのか、という疑問についても、反社会的勢力に対する支払いみたいなものだから、といわれれば「なるほど!」って感じですよね。


 非インボイス屋に対する支払いがここまで悪辣なものなのだとしたら、「インボイス登録しないなら今後一切取引しない」という取引拒絶も正当性があることになりませんか。「反社会的勢力」を取引から排除するのと同じわけで。

 例のQ&A、他の官庁の顔色伺って及び腰になっている姿が想像できます。自分のところで出しているインボイス関連のプロパガンダとくらべると、あまりにも内弁慶すぎだろ。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A


 法人税の場合は、益金、損金それぞれの理屈から算入、不算入という帰結になっています。

 他方で、消費税における売上消費税・仕入消費税については、
  ・売上とは別に消費税を預かっているんだったら納付するのが当然だ。
  ・売上側で納付しない場合に仕入側で控除できるのはおかしい。
と、売上側がもらった消費税と仕入側が払った消費税を同じ一つのものとして位置づけることで、インボイス制度における免税事業者お取り潰しを正当化しています。

 だというのに、実際には、売上側と仕入側とで消費税の扱いを変えてしまっています。「同じ」であるべきだとして制度を導入しておきながら、結果「違う」扱いをしているという矛盾。
 「滅せよ益税」「滅せよ免税事業者」を唱えている方々は、このような事態については、どのように説明してくれるのでしょうか。


 と、法人税における益金算入/損金不算入を持ち出して、インボイス制度における《二枚舌現象》と並べてみました。
 が、消費税の場合、控除できないものが損金に流れ込む(控除対象外消費税)というオリジナルの規律が存在します。ので、単純に対比するわけにはいきません。

 では、消費税側で税額控除を否定しておきながら、法人税側の損金に押し付けることはどのように正当化できるのでしょうか。

 この点、A(免税事業者)からの仕入であれば、仮にAが消費税と謳って請求してきても、それはあくまでも仕入の一部だからだということができます。
 ところが、Bからの仕入は、Bの側ではあくまでも(売上)消費税であって、それをBは消費税として納付しなければなりません。なのに、Cの側ではなぜ消費税から損金に化けることになるのか。

 どういう理屈なのか、私には思いつきませんでした。


 法人税の課税ベースを拡大することと比較して、インボイス導入による消費税の課税ベース拡大には、寛容な人が多いような気がします。

 1 法人税の軽減税率無くすぜ!
 2 全事業者に外形標準課税適用するぜ!
 3 消費税にインボイス導入するぜ!

 1,2は許せないのに3は許せるとしたら、どういう価値基準によるものなのでしょうか。

 法人税は法人の獲得した所得に対して課税するものなのに対して、消費税は初めからお国のためにお預かりしているにすぎないもの、というイメージが先行しているからですか。消費税の課税ベースがどれだけ広がろうが、所詮預かり物だから自社の負担は増えないとでも思っているのか。

 もしそういうことだとしたら、課税当局によるプロパガンダの賜物といえるでしょう。

 そのようなイメージの持ち主たち、法人税の「計算式」を現行のアからイのように変えてみたら、どう感じるでしょうか(税率30%とする)。

 ア 計算式1
   売上 100
   仕入  70
   所得  30(100−70)
   税額 9(30×30%)

 イ 計算式2
   売上 100(100×30%) →30
   仕入  70(70×30%) →21
   税額 9(30-21)

 計算過程は異なりますが、当然のことながら税額は一致します。
 アは売上から仕入を引いた所得に税率をかける、イは売上に対するプラス税と仕入に対するマイナス税を出してから差し引きをする、というだけの違いです。

 イは、現行消費税と同じ発想の計算方式です(もちろん全く同じではありません)。

 このように、法人税と消費税の税額算出の仕方には互換性があるにもかかわらず、法人税と消費税とで、課税ベースに対する意識が反転する理由がわかりません。
 消費に対する課税を所得に対する課税と言い換えた上で、計算方式をそれに沿うように変えてみただけだというのに、急に拒絶反応を起こす謎。


 結局のところ、消費税も事業活動の税コストのうちのひとつであって。事業活動に対して「後乗せサクサク」なんてわけにはいかず、「先入れドロドロ」にならざるをえない。
 より厳密に表現するならば、インボイス制度というのは、売上側が「先入れドロドロ」のままなのにもかかわらず、仕入側だけを「後乗せサクサク」にすることで、課税ベースを拡大しているといえるでしょうか。

 いわゆる「実効税率」も、消費税を含めた税コスト全体をみなければ、正しい実態を把握できないのではないかと思います。

《インボイスをもって益税を割く》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)
posted by ウロ at 08:00| Comment(0) | 消費税法

2022年11月21日

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後は、以下の現象をどのように説明できるか、という話です。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 イで、Bに消費税を納付させておきながら、Cが税額控除を受けられないのはなぜなのか。
 まさに、この現象が「転嫁する世界」と「転嫁される世界」の分断が生じているところになります。というか、この現象が生じるせいで、2つの世界を分断して理解せざるをえなくなったということです(手形行為を債務負担行為と権利移転行為に分解する的な?)

前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣 1983)

 実際の取引において、BCどちらが実際に税負担をすることになるかは、力関係次第でしょう。いずれにしても、BCの負担において国庫が過剰な税収入を得ていることになっています(損税問題)。
 現行制度の《益税》問題を敵視しておきながら、今後は、逆方向の《損税》問題を生み出してしまっています。このことを正当化することは可能でしょうか。

 インボイスがあろうがなかろうが、Bが課税事業者である以上、売上に対する消費税を納付しなければなりません。
 この原資はCが支払った金額そのもののはずです。なのに、「Bからみると(売上)消費税だがCからみると(支払)消費税でない」という《二枚舌現象》が生じてしまっています(ここでいう消費税は、控除対象になるものを指しています)。

【税法二枚舌概念】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」

 インボイス推進派が撲滅しようとしたはずの、「Cからみたら(支払)消費税だがA(免税事業者)からみたら(売上)消費税でない」という現象と、何が違うというのでしょうか。

 「Aが消費税をもらっておきながら納付しないのはけしからん!ネコババ!」
 「Cが消費税を払ったのに控除できないのは、まあどんまい。」

 バランス感覚が壊れてるとしか思えない。

 これをどうにか正当化しようとするならば、国が作った〈税転嫁連鎖システム〉に参加する意思のない反逆思想の持ち主を事業取引に闖入させた(C)、あるいは闖入した(B)ことに対するペナルティ、とでもいうしかないのでは。
 まともな課税根拠とは決して思えませんが。

 ちなみに、「簡易課税」を選択した事業者からの仕入が税額控除できるというのは、《疑似》とはいえ一応「転嫁される世界」に参加しているからギリセーフ、ということなのでしょう。


 よくよく考えると、〈税転嫁〉を実現するためだけだったら、税額控除の要件として「登録+帳簿+インボイス」の全てを要求するのは過剰だと思います。
 単に、仕入先が「課税事業者」でありさえすれば十分なはずです。

 仕入先が課税事業者かどうかは、現行の「届出・申請制度」を活用すれば、課税庁側で把握できますし、それを公開制度として転用すれば済みます。多少の手直しは必要でしょうが、少なくともインボイス制度のように大々的に新制度を構築するまでの必要はありません。「番号」も課税庁側で、勝手に課税事業者に付番していけばいいだけですし(「整理番号」的に)。

 にもかかわらず、わざわざコスト・負担をかけてまでインボイス制度を導入しようとするのは、「インボイス漏れ」(登録もれ、発行もれ、記載もれなどなど)による課税ベースの拡大を図っているように邪推してしまいます。自販機の下が手が挟めないくらい空いているのは、そこに小銭を落としてもらうことを狙っている、的な(陰謀論)。
 性根のセコさの割に、事業者に多大な負担を掛けすぎです。

 さすがにこれは邪推だとして、税転嫁というお題目を前面にたてつつ、取引実態に加えてインボイスという形式を要求することによって、「調査実務」を楽にしたいという課税庁側の下心があるのは間違いないでしょう。
 効率化とかDXとかいいながら、調査のしやすさ主眼で帳簿書類の電子化を強行しようとするのと同じノリです。

 ここに、「諸外国」の真似っ子をしたい学者先生と、新規システムを売り込みたいベンダーの〈悪魔合体〉の結果生まれたのが、日本版インボイス制度ではないのかと。

【時間泥棒】


真・女神転生V(アトラス2021)

 課税庁・ベンダーについては、己の立場に素直に従っただけでしょうから理解はできます。が、学者先生の〈諸外国倣い癖〉については、まるで共感ができません。


 以上、インボイス後の消費税、表向きは、円滑な税転嫁をすすめることで消費に対する課税を強化するものであるように見えます。が、実際は、仕入側にだけ厳格な形式要件を設けることで、売上側の譲渡課税の側面を強める結果となっています。
 売上側の絶対的な実体課税と仕入側の絶対的な形式控除と、性質のかけ離れたものが組み合わされたことで、もはや「付加価値」のような実体のあるものに対する課税ではなくなっています。

 このような実態をどう評価するかはさておき、少なくとも、仕入税額控除の「権利」性を強調しておきながら、インボイス制度を手放しで褒め称えるという錯乱した態度だけは、決して許されるものではないことは分かります。厳格な形式を要求することによって、ちゃんと実体があっても控除できなくなるわけで。
 かの教科書が、それを学習段階で植え付けようとしているのだとしたら、極めて悪質。

 インボイス制度は、それ単体を取り出してあれこれ評価すべきものではなく。売上側の規律とのセットで評価すべきものだと思います。

消費税における《後のせサクサク vs 先入れドロドロ》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編8)
posted by ウロ at 11:36| Comment(0) | 消費税法

2022年11月14日

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後の消費税、もはや事業者に対する「付加価値税」として位置づけることは無理なんでしょうね。
 では、名称どおり「消費」に対する課税といってもよいでしょうか。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 インボイス後に生じる以下の現象を通して考えてみます。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 これまでにも示唆したとおり、売上(転嫁する)側と仕入(転嫁される)側とで作動する理屈が違うと理解するしかないのではないかと思っています。

 例の「■消費税の負担と納付の流れ」の図のように、綺麗に税転嫁が流れていくというのは現実にそぐわない。

消費税のあらまし(令和4年6月)
 第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1

 イメージとしては、

  生産業者−製造業者−卸売業者−小売業者−消費者

という単線ではなく。

 ・転嫁する世界線(売上):  生産業者→製造業者→卸売業者→小売業者→消費者
 ・転嫁される世界線(仕入): 生産業者←製造業者←卸売業者←小売業者←消費者

と2つの別々のラインがあって、これが最終的に申告書上で重なるだけ、というのがしっくりきます(以下、便宜的に生産者側を「上流」、消費者側を「下流」といいますが貴賤の区別はありません)。


 まず、転嫁する世界線(売上)について。

 請求書に消費税を記載しなかったとしても、あるいは、経済的な意味で下流に税額を転嫁できなかったとしても、問答無用で売上×10/110(便宜的に地方税含む)の消費税をもらったことにされてしまいます。
 事業取引に参加して売上をあげた以上は、強制的に売上に課税されてしまうということです。

 自社で負担したくなければ下流に転嫁することになるわけですが、強制的に転嫁できるものでもありません。法人税などと同じで、税負担を考慮して価格設定を上増しできるか、という話です。
 あえて法人税との違いがあるとしたら、税目が「消費税」という名称なので、最終的に消費者負担となることに対して、法人税ほどの心理的抵抗が少ない、という程度でしょうか。お気持ちの問題。

 実際、条文の書きぶりも、事業者の「譲渡」に課税することになっていて。その先、消費者に転嫁することについて何某かの保証を消費税法が担保してくれているわけではありません。
 これが「源泉税」であれば、もともと受領者の所得に対する課税負担があり、それを支払者が先行して徴収している、と説明をすることができます。ところが、消費税については、消費者の消費に対する課税負担というものが消費税法に規定されていません。
 とすると、やはり事業者の譲渡に対する課税といわざるをえません。

 上記引用の「あらまし」(P.1)には、

[2]消費税の負担者
 消費税は、事業者に負担を求めるものではありません。税金分は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて、次々と転嫁され、最終的に商品を消費し又はサービスの提供を受ける消費者が負担することとなります。


などと書かれていますが、常にそうだったらいいのにねレベルの与太話です。
 しかも、例の「Q&A」では、財務省は、他の官庁のご機嫌を伺ってかどうか知りませんが、他の官庁と一緒になって「(転嫁の連鎖に参加しない)免税事業者を不利益に扱うことが独禁法・下請法違反になりうる」などと脅しをかけているわけで。矛盾にもほどがある。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

 このように、消費税は、事業者が事業取引の世界において売上をあげたことに対して課税するものであり、消費者が最終的に負担してくれるかどうかは企業努力次第、ということができると思います。

 そして、上記のBがインボイスを発行していないにもかかわらず消費税を納付しなければならないことについては、「事業で売上をあげたから、ただそれだけ。」という説明をすることになります。インボイス云々といった「転嫁される世界」の話は無関係なんだと。
 というか、インボイスを絡めた説明はおよそ不可能ですよね。


 では、A(免税事業者)が税額控除を受けられないことはどのように説明できるでしょうか。

 この点は、免税選択した(課税選択しなかった)ことにより、上記「転嫁する世界線」にも「転嫁される世界線」にも参加しないことを事業者自らが選択したから、という説明できるかと思います。
 免税制度というのは、税転嫁の連鎖に加わらないことを選択する制度なんだと。

 ちなみに、「簡易課税」の場合は、「転嫁する世界」に参加しつつ、「転嫁される世界」に《疑似》参加するものだということができるでしょう。

 一旦区切って、次回に続けます。

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:55| Comment(0) | 消費税法

2022年11月07日

合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 「二重課税」どころの話じゃないと思うんですよ。
(以下、慣用的に「二重課税」と表現しますが、2つ以上の税目を視野に入れています)

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)


 「二重課税」問題について、教科書レベルだと、せいぜい「法人税と所得税」に関する古色蒼然とした議論とか、あるいは「長崎年金二重課税訴訟」などの局所的な判決後追いな記述くらいしか展開されていないのがほとんど。

長崎年金二重課税訴訟の要件事実(と称するところのもの)

 各章ごとにつらつらと税目が陳列されているだけで、それら税目の中に(不当な)二重課税と評価されるものはないのか、より広い視点から検討したものが見当たらない。
 もちろん、学術論文レベルではちゃんとあるのかもしれません。が、学習段階で無造作に税目ラッシュを浴びせるのが適切な教育といえるのか、疑問ありです。


 ここでは「法人」に課税される主な税目を、何に対する課税かという視角から分類してみます(地方税は「割」で分解)。

ア 所得に課税するもの
 ・法人税
 ・地方法人税
 ・法人税割(法人住民税)
 ・所得割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

 地方法人税、法人税割の課税標準は法人税額ですが、所得課税といってよいでしょう。
 というか、税金に税金をかけるって、よくよく考えると変ですよね。

イ 収入に課税するもの
 ・収入割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

ウ 付加価値に課税するもの
 ・消費税(?)
 ・譲渡割、貨物割(地方消費税)(?)
 ・付加価値割(法人事業税)

 消費税(地方消費税)は「控除法」、付加価値割は「加算法」と計算方式は違いますが、付加価値に課税したいという目論見は同じでしょう。
 ただし、インボイス方式の消費税を付加価値税と呼んでよいかについては、前回までで論じたところです。私は、今回の整理でいうと、ウ(付加価値税)からイ(収入税)にはみ出していっているイメージを持っています。

エ 企業規模に課税するもの
 ・均等割(法人住民税)
 ・資本割(法人事業税)
 ・資産割(事業所税)
 ・従業者割(事業所税)

オ 取引規模に課税するもの
 ・印紙税

 おまけで印紙税も入れてみましたが、これもある種の「外形標準課税」ですよね。

 このような簡単な整理だけからでも、あらゆる視角から企業の事業活動を切り出して、あの手この手で課税しようとしている様が見て取れるかと思います。
 それぞれの税目は、それなりの正当化根拠をもって課税されているわけですが、すべてを合成してもなお、正当化できるようなものなのかどうか。

 ちなみに、「税効果会計」ではア(所得課税)が考慮対象となっており、その他は無視されます。これは会計基準側が中途半端というよりも、税法側が込み入りすぎで付き合いきれない、ということなんでしょう。


 また、これらの中でも、「損金算入」できるものとできないものとがあります。

【損金算入できるもの】
 事業税、特別法人事業税、事業所税、消費税・地方消費税(税込経理、控除対象外消費税)、印紙税

 そのせいで、「表面税率」のほかに「実効税率」なるものを計算しなければならないこととなっています。
 それはともかく、そもそも、なぜ税金の中に損金算入できるものとできないものがあるのか。

 特に、法人税と所得割のように、同じ分類に入っているにもかかわらず、そのような違いがある理由が不明です。
 事業者にとっては、どちらにしても事業コストとして計算するだけの話であって。もちろん、税率が同じなら損金算入のほうがうれしいわけですが、だったら、損金不算入で実効税率相当に税率を下げてもらうほうが、計算が簡単ですみます。
 しかも、事業税などは損金算入時期が「申告時」なので、所得等と税額が年度対応しません。「中間申告」のことも考慮するとさらに厄介。
 他方で、消費税等(税込経理)は、対応する年度に未払計上することも選択できるという謎仕様(一応、「期間税」ではないから、という理由付けが考えられますが、だとしたらなぜこちらが原則でないのか、という疑問が残ります。)

 おそらくですが、「事業税の本質は○○だ!」などといった性質決定が先にあって、それに従って取り扱いを決め打ちしてしまったのでしょう。ので、実際の課税方式と一致しないことになったと。
 この手の、実際の規定を脇において、立法趣旨や性質論から何某かの結論を導く手法については、本ブログにて再三警戒を呼びかけているところです。


 二重課税問題にかぎらず、こういった各種税目間の異同について、きちんと議論が展開されたものがないものか。

 租税法なんて、大多数の教科書が複数税目の寄り合い所帯なくせに、こういう税目間インターフェイスを正面から扱った記述がほとんどない。
 「総論」が総論として機能していない、というのは、どの法分野でも大して変わりがないのかもしれませんが。

【総論・各論問題】
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)


 消費税法本体からだいぶ脱線してきましたが、そろそろまとめられるでしょうか。

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
posted by ウロ at 10:38| Comment(0) | 消費税法