2022年11月21日

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後は、以下の現象をどのように説明できるか、という話です。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 イで、Bに消費税を納付させておきながら、Cが税額控除を受けられないのはなぜなのか。
 まさに、この現象が「転嫁する世界」と「転嫁される世界」の分断が生じているところになります。というか、この現象が生じるせいで、2つの世界を分断して理解せざるをえなくなったということです(手形行為を債務負担行為と権利移転行為に分解する的な?)

前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣 1983)

 実際の取引において、BCどちらが実際に税負担をすることになるかは、力関係次第でしょう。いずれにしても、BCの負担において国庫が過剰な税収入を得ていることになっています(損税問題)。
 現行制度の《益税》問題を敵視しておきながら、今後は、逆方向の《損税》問題を生み出してしまっています。このことを正当化することは可能でしょうか。

 インボイスがあろうがなかろうが、Bが課税事業者である以上、売上に対する消費税を納付しなければなりません。
 この原資はCが支払った金額そのもののはずです。なのに、「Bからみると(売上)消費税だがCからみると(支払)消費税でない」という《二枚舌現象》が生じてしまっています(ここでいう消費税は、控除対象になるものを指しています)。

【税法二枚舌概念】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」

 インボイス推進派が撲滅しようとしたはずの、「Cからみたら(支払)消費税だがA(免税事業者)からみたら(売上)消費税でない」という現象と、何が違うというのでしょうか。

 「Aが消費税をもらっておきながら納付しないのはけしからん!ネコババ!」
 「Cが消費税を払ったのに控除できないのは、まあどんまい。」

 バランス感覚が壊れてるとしか思えない。

 これをどうにか正当化しようとするならば、国が作った〈税転嫁連鎖システム〉に参加する意思のない反逆思想の持ち主を事業取引に闖入させた(C)、あるいは闖入した(B)ことに対するペナルティ、とでもいうしかないのでは。
 まともな課税根拠とは決して思えませんが。

 ちなみに、「簡易課税」を選択した事業者からの仕入が税額控除できるというのは、《疑似》とはいえ一応「転嫁される世界」に参加しているからギリセーフ、ということなのでしょう。


 よくよく考えると、〈税転嫁〉を実現するためだけだったら、税額控除の要件として「登録+帳簿+インボイス」の全てを要求するのは過剰だと思います。
 単に、仕入先が「課税事業者」でありさえすれば十分なはずです。

 仕入先が課税事業者かどうかは、現行の「届出・申請制度」を活用すれば、課税庁側で把握できますし、それを公開制度として転用すれば済みます。多少の手直しは必要でしょうが、少なくともインボイス制度のように大々的に新制度を構築するまでの必要はありません。「番号」も課税庁側で、勝手に課税事業者に付番していけばいいだけですし(「整理番号」的に)。

 にもかかわらず、わざわざコスト・負担をかけてまでインボイス制度を導入しようとするのは、「インボイス漏れ」(登録もれ、発行もれ、記載もれなどなど)による課税ベースの拡大を図っているように邪推してしまいます。自販機の下が手が挟めないくらい空いているのは、そこに小銭を落としてもらうことを狙っている、的な(陰謀論)。
 性根のセコさの割に、事業者に多大な負担を掛けすぎです。

 さすがにこれは邪推だとして、税転嫁というお題目を前面にたてつつ、取引実態に加えてインボイスという形式を要求することによって、「調査実務」を楽にしたいという課税庁側の下心があるのは間違いないでしょう。
 効率化とかDXとかいいながら、調査のしやすさ主眼で帳簿書類の電子化を強行しようとするのと同じノリです。

 ここに、「諸外国」の真似っ子をしたい学者先生と、新規システムを売り込みたいベンダーの〈悪魔合体〉の結果生まれたのが、日本版インボイス制度ではないのかと。

【時間泥棒】


真・女神転生V(アトラス2021)

 課税庁・ベンダーについては、己の立場に素直に従っただけでしょうから理解はできます。が、学者先生の〈諸外国倣い癖〉については、まるで共感ができません。


 以上、インボイス後の消費税、表向きは、円滑な税転嫁をすすめることで消費に対する課税を強化するものであるように見えます。が、実際は、仕入側にだけ厳格な形式要件を設けることで、売上側の譲渡課税の側面を強める結果となっています。
 売上側の絶対的な実体課税と仕入側の絶対的な形式控除と、性質のかけ離れたものが組み合わされたことで、もはや「付加価値」のような実体のあるものに対する課税ではなくなっています。

 このような実態をどう評価するかはさておき、少なくとも、仕入税額控除の「権利」性を強調しておきながら、インボイス制度を手放しで褒め称えるという錯乱した態度だけは、決して許されるものではないことは分かります。厳格な形式を要求することによって、ちゃんと実体があっても控除できなくなるわけで。
 かの教科書が、それを学習段階で植え付けようとしているのだとしたら、極めて悪質。

 インボイス制度は、それ単体を取り出してあれこれ評価すべきものではなく。売上側の規律とのセットで評価すべきものだと思います。
posted by ウロ at 11:36| Comment(0) | 消費税法

2022年11月14日

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後の消費税、もはや事業者に対する「付加価値税」として位置づけることは無理なんでしょうね。
 では、名称どおり「消費」に対する課税といってもよいでしょうか。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 インボイス後に生じる以下の現象を通して考えてみます。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 これまでにも示唆したとおり、売上(転嫁する)側と仕入(転嫁される)側とで作動する理屈が違うと理解するしかないのではないかと思っています。

 例の「■消費税の負担と納付の流れ」の図のように、綺麗に税転嫁が流れていくというのは現実にそぐわない。

消費税のあらまし(令和4年6月)
 第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1

 イメージとしては、

  生産業者−製造業者−卸売業者−小売業者−消費者

という単線ではなく。

 ・転嫁する世界線(売上):  生産業者→製造業者→卸売業者→小売業者→消費者
 ・転嫁される世界線(仕入): 生産業者←製造業者←卸売業者←小売業者←消費者

と2つの別々のラインがあって、これが最終的に申告書上で重なるだけ、というのがしっくりきます(以下、便宜的に生産者側を「上流」、消費者側を「下流」といいますが貴賤の区別はありません)。


 まず、転嫁する世界線(売上)について。

 請求書に消費税を記載しなかったとしても、あるいは、経済的な意味で下流に税額を転嫁できなかったとしても、問答無用で売上×10/110(便宜的に地方税含む)の消費税をもらったことにされてしまいます。
 事業取引に参加して売上をあげた以上は、強制的に売上に課税されてしまうということです。

 自社で負担したくなければ下流に転嫁することになるわけですが、強制的に転嫁できるものでもありません。法人税などと同じで、税負担を考慮して価格設定を上増しできるか、という話です。
 あえて法人税との違いがあるとしたら、税目が「消費税」という名称なので、最終的に消費者負担となることに対して、法人税ほどの心理的抵抗が少ない、という程度でしょうか。お気持ちの問題。

 実際、条文の書きぶりも、事業者の「譲渡」に課税することになっていて。その先、消費者に転嫁することについて何某かの保証を消費税法が担保してくれているわけではありません。
 これが「源泉税」であれば、もともと受領者の所得に対する課税負担があり、それを支払者が先行して徴収している、と説明をすることができます。ところが、消費税については、消費者の消費に対する課税負担というものが消費税法に規定されていません。
 とすると、やはり事業者の譲渡に対する課税といわざるをえません。

 上記引用の「あらまし」(P.1)には、

[2]消費税の負担者
 消費税は、事業者に負担を求めるものではありません。税金分は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて、次々と転嫁され、最終的に商品を消費し又はサービスの提供を受ける消費者が負担することとなります。


などと書かれていますが、常にそうだったらいいのにねレベルの与太話です。
 しかも、例の「Q&A」では、財務省は、他の官庁のご機嫌を伺ってかどうか知りませんが、他の官庁と一緒になって「(転嫁の連鎖に参加しない)免税事業者を不利益に扱うことが独禁法・下請法違反になりうる」などと脅しをかけているわけで。矛盾にもほどがある。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

 このように、消費税は、事業者が事業取引の世界において売上をあげたことに対して課税するものであり、消費者が最終的に負担してくれるかどうかは企業努力次第、ということができると思います。

 そして、上記のBがインボイスを発行していないにもかかわらず消費税を納付しなければならないことについては、「事業で売上をあげたから、ただそれだけ。」という説明をすることになります。インボイス云々といった「転嫁される世界」の話は無関係なんだと。
 というか、インボイスを絡めた説明はおよそ不可能ですよね。


 では、A(免税事業者)が税額控除を受けられないことはどのように説明できるでしょうか。

 この点は、免税選択した(課税選択しなかった)ことにより、上記「転嫁する世界線」にも「転嫁される世界線」にも参加しないことを事業者自らが選択したから、という説明できるかと思います。
 免税制度というのは、税転嫁の連鎖に加わらないことを選択する制度なんだと。

 ちなみに、「簡易課税」の場合は、「転嫁する世界」に参加しつつ、「転嫁される世界」に《疑似》参加するものだということができるでしょう。

 一旦区切って、次回に続けます。

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:55| Comment(0) | 消費税法

2022年11月07日

合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 「二重課税」どころの話じゃないと思うんですよ。
(以下、慣用的に「二重課税」と表現しますが、2つ以上の税目を視野に入れています)

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)


 「二重課税」問題について、教科書レベルだと、せいぜい「法人税と所得税」に関する古色蒼然とした議論とか、あるいは「長崎年金二重課税訴訟」などの局所的な判決後追いな記述くらいしか展開されていないのがほとんど。

長崎年金二重課税訴訟の要件事実(と称するところのもの)

 各章ごとにつらつらと税目が陳列されているだけで、それら税目の中に(不当な)二重課税と評価されるものはないのか、より広い視点から検討したものが見当たらない。
 もちろん、学術論文レベルではちゃんとあるのかもしれません。が、学習段階で無造作に税目ラッシュを浴びせるのが適切な教育といえるのか、疑問ありです。


 ここでは「法人」に課税される主な税目を、何に対する課税かという視角から分類してみます(地方税は「割」で分解)。

ア 所得に課税するもの
 ・法人税
 ・地方法人税
 ・法人税割(法人住民税)
 ・所得割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

 地方法人税、法人税割の課税標準は法人税額ですが、所得課税といってよいでしょう。
 というか、税金に税金をかけるって、よくよく考えると変ですよね。

イ 収入に課税するもの
 ・収入割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

ウ 付加価値に課税するもの
 ・消費税(?)
 ・譲渡割、貨物割(地方消費税)(?)
 ・付加価値割(法人事業税)

 消費税(地方消費税)は「控除法」、付加価値割は「加算法」と計算方式は違いますが、付加価値に課税したいという目論見は同じでしょう。
 ただし、インボイス方式の消費税を付加価値税と呼んでよいかについては、前回までで論じたところです。私は、今回の整理でいうと、ウ(付加価値税)からイ(収入税)にはみ出していっているイメージを持っています。

エ 企業規模に課税するもの
 ・均等割(法人住民税)
 ・資本割(法人事業税)
 ・資産割(事業所税)
 ・従業者割(事業所税)

オ 取引規模に課税するもの
 ・印紙税

 おまけで印紙税も入れてみましたが、これもある種の「外形標準課税」ですよね。

 このような簡単な整理だけからでも、あらゆる視角から企業の事業活動を切り出して、あの手この手で課税しようとしている様が見て取れるかと思います。
 それぞれの税目は、それなりの正当化根拠をもって課税されているわけですが、すべてを合成してもなお、正当化できるようなものなのかどうか。

 ちなみに、「税効果会計」ではア(所得課税)が考慮対象となっており、その他は無視されます。これは会計基準側が中途半端というよりも、税法側が込み入りすぎで付き合いきれない、ということなんでしょう。


 また、これらの中でも、「損金算入」できるものとできないものとがあります。

【損金算入できるもの】
 事業税、特別法人事業税、事業所税、消費税・地方消費税(税込経理、控除対象外消費税)、印紙税

 そのせいで、「表面税率」のほかに「実効税率」なるものを計算しなければならないこととなっています。
 それはともかく、そもそも、なぜ税金の中に損金算入できるものとできないものがあるのか。

 特に、法人税と所得割のように、同じ分類に入っているにもかかわらず、そのような違いがある理由が不明です。
 事業者にとっては、どちらにしても事業コストとして計算するだけの話であって。もちろん、税率が同じなら損金算入のほうがうれしいわけですが、だったら、損金不算入で実効税率相当に税率を下げてもらうほうが、計算が簡単ですみます。
 しかも、事業税などは損金算入時期が「申告時」なので、所得等と税額が年度対応しません。「中間申告」のことも考慮するとさらに厄介。
 他方で、消費税等(税込経理)は、対応する年度に未払計上することも選択できるという謎仕様(一応、「期間税」ではないから、という理由付けが考えられますが、だとしたらなぜこちらが原則でないのか、という疑問が残ります。)

 おそらくですが、「事業税の本質は○○だ!」などといった性質決定が先にあって、それに従って取り扱いを決め打ちしてしまったのでしょう。ので、実際の課税方式と一致しないことになったと。
 この手の、実際の規定を脇において、立法趣旨や性質論から何某かの結論を導く手法については、本ブログにて再三警戒を呼びかけているところです。


 二重課税問題にかぎらず、こういった各種税目間の異同について、きちんと議論が展開されたものがないものか。

 租税法なんて、大多数の教科書が複数税目の寄り合い所帯なくせに、こういう税目間インターフェイスを正面から扱った記述がほとんどない。
 「総論」が総論として機能していない、というのは、どの法分野でも大して変わりがないのかもしれませんが。

【総論・各論問題】
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)


 消費税法本体からだいぶ脱線してきましたが、そろそろまとめられるでしょうか。

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:38| Comment(0) | 消費税法