2022年12月26日

幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)

 前々回・前回、条文を貼っ付けただけなので、一応整理をしておきます。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)


 私自身、消費税法は実務から入ったクチなので、最初のころは、

  仮受消費税−仮払消費税=納税額

という計算構造なのだと勝手に思っていました。
 そして、帳簿入力さえ正しく処理されていれば、申告書は数字飛ばすだけで完成できてしまうので、わざわざ条文を読む必要もありませんでした。

 「滅せよ益税!」を唱えている方々の脳内消費税法も、事業者は本体とは別にお国に代わって消費税をお預かりしている、というイメージを前提としているように思えます。

 が、条文に書かれていることとは全く違うわけで。


 ということで、条文の計算構造を抽出。
 「国内課税仕入」のみを想定して記述します。また、例外としての積上げ・割戻しの選択適用は考慮外とします。

 《インボイス前》
  ・売上税額
   税込金額から消費税額相当額を控除して課税標準を算出する
   課税標準に税率をかけて税額を算出する
  ・仕入税額
   税込金額から割り戻して算出する

 《インボイス後》
  ・売上税額
   税込金額から消費税額相当額を控除して課税標準を算出する
   課税標準に税率をかけて税額を算出する
  ・仕入税額
   インボイス記載の消費税額

 売上側は全く変更なしで、仕入側だけが変更されたということが分かりました。
 インボイス前は売上側・仕入側とで同種の計算方式だったものが、インボイス後は仕入側にだけ厳格な形式要件が課せられることになりました。

 売上側がそのままなのに、仕入側だけが限定されたせいで、「非登録である課税事業者は納税しなければならないが、同事業者から仕入れた課税事業者は控除できない」(控除なき納税)という事態が生じてしまったわけです。

 これをどのように正当化するかについて、条文を読んでも、そう書いてあるという以上のものは導きだすことはできませんでした。


 また、免税事業者が「益税」を得ているという風評に対しても、条文上は自分のところの譲渡に課税されないというだけで。お国のために預かった消費税をネコババしている、などということではないことが分かります。

 しかも、納税義務が免除されるとあわせて税額控除も受けられないことになっているわけで、一方的に利益だけを得ているとはかぎりません。
 むしろ、消費者と同様、消費税を負担する側にまわっているようにも思えます。


 条文の作りからすると、売上側の譲渡課税と仕入側の税額控除はそれぞれ別々の制度として機能しているようにみえます。免税事業者について、売上側・仕入側それぞれに除外規定があるのも(9条と30条)、制度して分かれていることが前提になっているからではないでしょうか。

 インボイス前はいずれも同種の計算方式によっていたことから、両制度が一体となって「付加価値」に課税している、と説明することも可能でした。
 ところが、インボイス後は、売上側は、インボイスとは全く無関係に、すべての課税取引に課税されたままです。他方で、仕入側は「もらった消費税と払った消費税は一致すべき!」というスローガンのもと、売上側からインボイスを貰わなければ控除ができないことになりました。
 売上側と仕入側とが別々に規定されているという隙を突かれた格好になります。

 法人税法における益金/損金であれば、ズラしたい場合は個別に算入・不算入ルールを設けるところです。が、消費税法の仕入税額控除については、課税仕入まるごとルールチェンジしてしまったわけです。「益金は発生主義、損金は現金主義」くらいのノリ。

 売上に課税する場面: 仕入側と一致しなくていい (控除なき課税はOK)
 仕入で控除する場面: 売上側と一致しなければならない! (課税なき控除は禁止!)

 「もらった消費税と払った消費税は一致すべき!」といいながら、課税拡大方向への片面適用で満足してしまうの、なぜなのか。
 もちろん、課税当局の立場からすれば、課税ベースが拡大することや課税処分がしやすくなる方向の改正を歓迎するのは当然の態度です。が、学者先生なり税理士までもが課税庁と一緒になって、なんの躊躇もなくインボイス導入に積極的でいられるのか、私にはどうにも理解が及びません。

 『インボイスがあれば電気通信利用役務における「事業者向け/消費者向け」の区別ができる!』とかいう例の主張、もしかしてですが、インボイスさえあればあらゆる場合で売上側と仕入側の消費税を一致させることができる、とでも思っているんですかね。
 もちろん、そういう制度を構想することはできるのかもしれません。が、少なくとも、日本の《片面適用型インボイス》とは似ても似つかない制度であることに違いはありません。


 ふと思ったのですが、「消費税はお国のための預かりモノ」という主張、条文の書きぶりとは反するが制定時の《立案者意思》がそうだった、とでもいうことなんですかね(歴史を辿るのは苦手なので、私自身は未確認です)。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 そうではないとしても、これほど条文に反していることを堂々と主張されているんだから、それなりの根拠があるはずです。
 まさかタイトルの「消費」という二文字だけから、本体である条文を無視した解釈を導き出している、なんてことはないですよね。

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
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2022年12月19日

条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)

※令和5年度税制改正大綱が発表されましたが、本ブログが問題としている「基本構造」自体には特に影響はないため、触れずに進めます。

 インボイス施行により、消費税法の基本構造がどのように変わるのかの確認です。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)


第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。
 九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
 十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡したとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもの)をいう。

第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
第六条(非課税)
 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
第五条(納税義務者)
1 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。


 このあたりは笑っちゃうくらい変わっていません。非課税取引の別表第一が第二に繰り下がったくらい。
 せめて「課税仕入」の定義くらい見直せばよさそうなものですが、これ自体は変更しないんだと。なので、インボイス無しだろうが消費者からの仕入だろうが、課税仕入の定義には含まれたままだということになります。


第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。
第二十九条(税率)
 消費税の税率は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める率とする。
一 課税資産の譲渡等(軽減対象課税資産の譲渡等を除く。)、特定課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物(軽減対象課税貨物を除く。) 百分の七・八
二 軽減対象課税資産の譲渡等及び保税地域から引き取られる軽減対象課税貨物 百分の六・二四


 もっと驚きなのが、「課税標準」の規定も変更がないことです。
 インボイス云々には全く影響されることなく、相当する額を控除してから税額を算出する、という税額算出過程はそのまま残されています。

 税率のほうは、軽減税率を本法に組み込んだせいで旧法のエレガンスさはお亡くなりになりまして、野暮ったい感じになりました。


 さて、ということで「仕入税額控除」の規定がどうなったかです。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

令第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れの区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額


 ここでも比較として、特定課税仕入、輸入仕入を並べてみます。

 ・国内課税仕入
  国内において行つた課税仕入れに係る消費税額
 (当該課税仕入れに係る適格請求書の記載事項を基礎として計算した金額
  その他の政令で定めるところにより計算した金額)
 ・特定課税仕入
  国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額
 (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額

 国内課税仕入のみ、算出方法が変更になりました。

 特定課税仕入にインボイスを導入しなかったのは、リバースチャージが仕入側の制度でありながら売上側の制度でもある性格が影響しているんじゃないですかね。
 国内課税仕入のほうは、そういった制約がないってことで、売上側とは似ても似つかない、全く次元の異なる制度を採用することができたと。


 リバースチャージは、仕入側が売上側の納税をしつつ同時に自分の側の控除もするというものです。ここで、納税はしなければならないが控除はインボイスがなければできない、なんてことを言い出したら、さすがにインボイス推進派の皆さんでも、なんかおかしいぞと思うはずです。

 国内事案では、B(非登録である課税事業者)とC(Bから仕入れた課税事業者)が別事業者であることから、「Bが納付するのにCが控除できない」という事態が生じていても、誤魔化せていたのかもしれません。
 が、リバースチャージの場面では「Cが(Bの代わりに)納付するのにCが控除できない」なんてことになったら、その理不尽さに気づかれてしまっていたはずです。Bがインボイスを発行できないことの不利益をなぜCが被らなければならないのかと。
(や、国内事案でも同じことなんですけど、インボイス推進派の人たち、なぜか益税しか見えていないから。)


 以下、帳簿・請求書絡みの条文も引用しておきますが(これでも網羅的ではない)、インボイスには「消費税額」そのものを記載する、ということだけ見ておいていただければ。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。第三十二条第一項において同じ。)

9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類及び電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律第二条第三号(定義)に規定する電磁的記録をいう。第二号において同じ。)をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。次号及び第三号において同じ。)を行う他の事業者(適格請求書発行事業者に限る。次号及び第三号において同じ。)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する適格請求書又は適格簡易請求書

(適格請求書発行事業者の義務)
第五十七条の四 適格請求書発行事業者は、国内において課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この条において同じ。)を行つた場合(第四条第五項の規定により資産の譲渡とみなされる場合、第十七条第一項又は第二項本文の規定により資産の譲渡等を行つたものとされる場合その他政令で定める場合を除く。)において、当該課税資産の譲渡等を受ける他の事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。以下この条において同じ。)から次に掲げる事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類(以下この条から第五十七条の六までにおいて「適格請求書」という。)の交付を求められたときは、当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書を当該他の事業者に交付しなければならない。ただし、当該適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な課税資産の譲渡等として政令で定めるものを行う場合は、この限りでない。
一 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号(第五十七条の二第四項の登録番号をいう。次項第一号及び第三項第一号において同じ。)
二 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
三 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
四 課税資産の譲渡等に係る税抜価額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。次項第四号及び第三項第四号において同じ。)又は税込価額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含むものとする。次項第四号及び第三項第四号において同じ。)を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率(第二十九条第一号又は第二号に規定する税率に七十八分の百を乗じて得た率をいう。次項第五号及び第三項第五号において同じ。)
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
六 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称



 なお、「免税事業者」については、適格請求書発行事業者を除外する規定が入っただけで、構造そのものは変わっていません。

第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)
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2022年12月12日

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)

 ここまで、条文を引用しないまま空中線を展開してしまったので、条文を確認しておきます。ただ、用途区分とかリバースチャージまで含めると込み入ってくるので、基本構造のみを見ていきます。

《インボイスをもって益税を割く》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)

 今回は、インボイス施行前のものを。例によって大胆に省略入れています。


 まずは定義規定。

第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。
 九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
 十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡したとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもの)をいう。


 課税仕入については、売る側からみて課税資産の譲渡にあたることになるか、という視点から定義づけがされています。しかも、事業として譲渡したならば、という仮定を使っているので、消費者から買う場合なども課税仕入に該当することになります。


第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
第六条(非課税)
 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。
第五条(納税義務者)
1 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。


 譲渡に課税となっており、消費に課税とはなっていません。


第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。
第二十九条(税率)
 消費税の税率は、百分の七・八とする。


 28条の読み方が肝になるところかと思います。数値で示すと

 ア 課税資産の譲渡の対価の額 11,000円
 イ 消費税額等に相当する額  1,000円
 ウ 課税標準額        10,000円
 エ 課税標準額に対する消費税額 780円

という感じで、まわりくどい計算になっています。
 これはおそらく、課税額というのは「課税標準×税率」で算出するもの、という形式を維持するためではないでしょうか。アにいきなり「7.8/110」を掛けるのは、この形式に反するんだと。
 なので、イもあくまで消費税額に「相当する額」であって、課税標準に税率を掛けた結果でてくる消費税額そのもの(エ)とは別物ということになります。

 この、イが消費税そのものではないという理屈により、課税事業者が実際に請求書に消費税を明記するかどうかにかかわらず、課税売上をあげた以上は問答無用で消費税が課税されてしまう、という帰結を導くことができます。


 さて、本丸の仕入税額控除です。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。


 ここでは対比のため、特定課税仕入と輸入仕入も省略せずに引用しておきました。
 それぞれ、控除できる額は次の通りとなっています。

 ・国内課税仕入
  課税仕入れに係る消費税額
  (当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・特定課税仕入
  特定課税仕入れに係る消費税額
  (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額

 仕入側は、売上側とは違い、いきなり「7.8/110」を掛けることになっています。
 これは、税額控除の場面では「課税標準×税率」ルールに従わなくてよい、ということなんでしょう。より一層、売上側の持ってまわった感が引き立ちます。
 ではありますが、税込金額からスタートする、という意味では売上側・仕入側ともその発想は同じだと評価することができます。

 課税仕入の定義で触れた通り、消費者から買った場合も(国内)課税仕入に含まれるので、それらも含めて「×7.8/110」した額を控除することになります
 ちなみに、特定課税仕入のほうは「特定」の定義の中に「事業者向け」がビルトインされているので、仕入先が限定されていることになります。また、仕入本体に税相当額が含まれていない前提なので、「7.8/100」掛けることになっています。


 仕入税額控除を受けるための「帳簿」「請求書」についても触れておきます。厳密には「附則」の経過措置も引用すべきなんでしょうが、長くなるので本法のみです。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
 一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
  イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  ロ 課税仕入れを行つた年月日
  ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
  ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
 一 事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているもの
  イ 書類の作成者の氏名又は名称
  ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
  ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
  ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
  ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称


 消費税額そのものを記載することは求められておらず、対価の額に「相当する額」を含めて書けとなっています。


 ついでに、「免税事業者」の扱いについて。

第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
1 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。


 この規定によって、第5条の納税義務が免除されることになります。
 では、税額控除だけ受けて「還付」を求めることができるかというと、30条の最初の括弧書きで免税事業者が除外されているので、還付も受けることができません。

 このように、免税事業者については、ご丁寧に、プラス側・マイナス側それぞれで除外規定が設けられています。免税事業者だから消費税法上無視する、という感じの雑な規律の仕方にはなっていないということです。


 さて、これら規律がインボイス施行後はどのように変容されているか、次回確認していきます。

条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)
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2022年12月05日

《インボイスをもって益税を滅す》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)

 インボイス制度について、これまでの記事では批判的な観点から検討をしてきました。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
消費税における《後のせサクサク vs 先入れドロドロ》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編8)

 が、インボイスのそもそもの発想としては、「もらった消費税と払った消費税を一致させよう」というもので、その目的自体は正当なものです。

 ところが、払った側の控除だけに厳格な形式要件を要求したせいで、益税を滅するだけでなく損税を生み出す結果となってしまっています。
 免税事業者の益税を潰すことに正当性があるとして、他の事業者が損税を押し付けられることに対する説明がなんらなされていない点が、本ブログにおける批判の対象だったわけです。
 インボイス推進派の方々は、さかんに制度目的の正当性を主張するものの、手段の相当性については触れるところがありません。
 私には、インボイスの導入で益税を滅しようとする所作、《牛刀をもって鶏を割く》もののように思えます。要するにやり過ぎ。

  インボイス前:
   消費者が負担した消費税 > 課税事業者が納付した消費税 《過小課税》

 建前上は、この符号を「=」にすべきと謳っているわけですが、実際には、

  インボイス後:
   消費者が負担した消費税 < 課税事業者が納付した消費税 《過大課税》

と逆向きにひっくり返してしまっています。

 過小課税と過大課税、どちらが望ましいかについては色々議論があるかもしれません。が、結局のところ「租税法律主義」というお題目によって、法律により決定されることになります。
 これが、ちゃんと「過小課税から過大課税に入れ替えるよ」とアナウンスした上での改正ならば、正統なプロセスだといえるでしょう。ではなく、「=にするためだよ」と欺いてインボイスを導入するの、極めて悪質ではないでしょうか。


 こういった問題だけでなく、従前の制度との整合性についても気になるところがちらほら。

 たとえば、「居住用賃貸建物」を取得した際に税額控除が否定されていることは、インボイス制度のもとではどのように正当化できるでしょうか。

消費税法改正のお知らせ(令和2年4月) - 国税庁
U.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化

 このルールのもとでは、売主側では消費税を納付しなければならないのに、買主側では税額控除ができないことになっています。
 この帰結、前回までに論じたB(非登録である課税事業者)への支払と同じですよね。

 Bはインボイス非登録者であったわけですが、居住用賃貸建物譲渡の場面では、インボイス登録者への支払いであっても買主側では税額控除ができません。
 インボイス導入によって、売上消費税と仕入消費税を一致させようとしているにもかかわらず、このような事態が生じることは放置していてもよいのでしょうか。

 この点は、居住用賃貸収入が「非課税売上」である以上は、買主(=貸主)が最終的な消費税負担者となるのは当然だということでしょうか。ここでの税額控除否定は、消費税の最終負担者が誰かを決定するものであって、インボイスによる税額控除否定とは別次元のものなのだと。

 あとは、家賃値上げによって経済的な負担を借主に転嫁ができるかどうか。

 それにしても、調整期間3年で打ち切りというのは、あまりにも短いように思います。実務家的には、あまり長期にされると管理が大変、ということにはなりますが。


 なお、経済的な意味で消費者に転嫁できるかどうかは市場における競争力の問題であって、課税商品か非課税商品かによって大きく変わるわけではないと思います。税というラベルをつけることで、値上げに対する消費者の心理的負担が減るくらいでは。

 この「非課税売上」というもの、何かを仕入れようとすれば税額控除が制限されるし、売る場面では結局値決めの問題だしで、誰にとってどういうメリットがあるのか、未だによく理解できません。
 同じ非課税売上の中でも、保険診療のように価格が決まっているほうがいいのか、家賃のように決まっていないほうがいいのかも、なんともいえない気がします。金額を自由に決められるからといって、実際に借主に転嫁できるかは力関係次第でしょうし。


 実務書でない、消費税法の教科書に期待することは、こういった各制度の背後の理屈を説明してくれるものであって。ただただ表層の部分を分かりやすく説明するだけでは、理解が深まることはないと思います。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 消費税法