インボイス解説本に関しては、「雨後の筍!!」って感じで大量発生しているわけですが。
消費税法全体を解説したものがまあ少ない。件の教科書はあんな有様ですし。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
なお、運営のQ&Aが「雨」に相当しますが、解説本のほうは「筍」なんて上等なものとは思えず。各自、雨の後に大量発生する何かでご想像ください。
熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)
本書は令和元年に初版がでてから、もう第4版。いい加減ちゃんと読まないと、と思い立ってどうにか通読しました。
・
これだけのボリュームがある法令の実務書だというのに、判決の引用がただの1件もない、というのは、揉め事の領域には触れないという執筆方針なのか。
本書には「ちゃんと条文を読め」的なことが書かれていて、それは仰るとおりなんですが。法律の実務書だというのに「法解釈論」にまでは及んでいない。「文理解釈」一本でどうにか乗り切れ、みたいなことか。
まあ、それはそれで潔いと思います。法解釈論を展開するのは実務家よりも学者が率先してやるべきことですし(だというのに、件の教科書は(以下略))。
・
制度に対し批判的に検討しているのも、平成22年改正の旧3年縛りのところだけ。そこだけ裁決まで持ち出してやたらと詳しく検討しています。
それ以外のところは、通達ベースの解説が基本となっています。
個人的には、旧3年縛りをそこまで批判するんだったら、そもそも、なぜ非課税対応の課税仕入が控除対象外となるのか、とか、居住用賃貸建物の課税仕入を全面的に控除対象外としてもよいのか、といった点についても、深掘りしてほしいところでした。
が、残念ながら、控除対象外となることは前提とした上での検討なので、どうにも肩透かし。
・
本ブログにおける一連のインボイスの記事、個々の運用よりも、消費税法全体の中でインボイス制度がどのように組み込まれるか、ということに対する関心からスタートしています。
本書を読もうとした動機も、インボイスのみの解説本では分からない、消費税法全体の中におけるインボイス制度の位置づけを知りたいと思ったからです。
が、本書におけるインボイス制度の位置づけ、「第5章 課税標準(対価の額)・税率」と「第7章 税額控除」の間に「第6章 インボイス制度」として挟み込まれているだけで、おおむね同章の中で説明が終わってしまっています。
たとえばですが、「電気通信利用役務の提供」とインボイス制度との関係がどうなるかとか、そういった論点に触れられることもなく。
・
法人税法では確定申告期限の延長の制度があるが、消費税法にはない(P690)と書いておきながら、そのすぐ後(P693)に令和2年改正の延長制度の説明があるのは、まあご愛嬌。
というか、令和2年改正ということは「第2版」で反映されたわけで、その後誰も指摘してあげなかったのか。どこかのドマイナーな税理士が書いた本ならともかく、消費税界のスーパースターが書いた本ですら、誰も指摘してあげないとか。なかなか世知辛い感じですね。
・
と、批判的な観点からあれこれ論難してますが、私の個人的な関心事が、本書のメイン読者とはズレているというだけでしょう。
個々の制度について、図表や具体的な数字を使って説明してくれているので、とても分かりやすくなっています。私自身も「日常系」の税理士という立場から読めば、オススメできる内容となっています。
変則的な角度からみると、徹底的にイジりの対象となってしまう、というだけの話です。悲しいかな、そういう読み癖がついてしまっている。
ページ数が多いのも、かなり細かいところまで、具体例を使って説明をしてくれているからです。本書を通読しないまでも、他著で理解できなかった箇所を本書で補うという使い方でいいと思います。
・
ただ、本書の致命的な欠陥が、具体例で「しか」説明しない箇所がある点です。定義付けがすっ飛ばされている。通常の法律書を読んでいる人間からすると、ものすごい違和感を感じます。
たとえば、特定新規設立法人における「非支配特殊関係法人」については、具体例の中で出てくるだけで(P230)、定義なり規範命題なりが記述されていません。ので、他の事例ではどうか、という応用が全く効かない。
まあ、ちゃんと記述しようとすると、どうしても条文引き写しになってしまうので「自分で条文読んどけや」ということなのかもしれません。が、難解な条文ほど解きほぐしが必要だと思いますが。
このように、レガシーな税制とは違って、今どきの税制は込み入っていて柔らかく表現することが困難になっています。このことが、巷の節税本クリエイターの方々が、今どきの制度を記述しきれていないことの原因でもあります。
昔の感覚で「税法条文読め」と言ってしまうのは、現代っ子にとってはなかなかハードルが高い。
ということで、これだけ分厚い(&お高い)本でありながら、本書1冊では消費税法を理解するには及ばず。やはり、他著の抽象的な記述をイメージ化するための補助デバイスという位置づけがいいのかもしれません。
・
なお、最後に、本書に対する故山本守之先生の書評が載せられています。
私には、本書が消費税を「預かり」として説明していることに対して、暗に批判をしているように読めるのですが、そのことへの応答は特になく。そのまま載せている。
以下、本書から離れた余談。
消費税は「預かりもの」だから、ということで「納税なき控除」をインボイスで潰すことには賛成しておきながら、「控除なき納税」に対しては無批判に受け入れていることとか、およそ一貫していないと私は思っています。
消費税法全体をもって、消費者に税負担を転嫁する仕組みだと捉えるならば、賃貸住宅のオーナーが消費税を負担するような制度(居住用賃貸建物の特例)なんて、おかしいはずです。どうやって正当化するというのか。
消費税を「預かりもの」とするかどうかは、所詮決め事の問題なので、立法論レベルの話となるわけですが、「預かりもの」として性質決定したならば、制度全体をそれに沿った設計として構築すべきでしょう。
「(極端な)手形取引の安全保護」という命題から一貫した理論構築がされている『前田手形法理論』の洗礼を受けた法学徒からすると、「消費税は消費者が負担すべき」といいながら、それと矛盾する制度が堂々と組み込まれている消費税法の理論構造には、違和感しかないのですが。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)
そういった問題意識をもった書籍が現れることを期待しておきます。
2023年08月28日
熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)
posted by ウロ at 10:07| Comment(0)
| 消費税法
2023年08月21日
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
前回に引き続いて《媒介者交付特例》の話ではあるのですが。以下、少し助走距離をとります。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
◯
税制の基本型について、通常は《国×納税者》の二項対立で捉えておけば足ります。
たとえば「法人税」において、売手の売上計上基準と買手と仕入計上基準が異なっていたとしても、どちらかにあわせなければならない、などということはなく。国×売手、国×買手のそれぞれの課税関係が別々に問題になるだけです。
また、二項対立の税制で「特例」といえば、国が損して納税者が得する制度ということになります。売手が特例によって得をしたからといって、それによって買手が損することにはなりません。
他方で、税制の中には《三つ巴》のものがあって。
典型例が「源泉徴収」絡みです。表向きは《国×徴収される者》との間は無関係で、《国×徴収する者》だけに課税関係があることになっています。が、《国×徴収する者》のしわ寄せが《徴収する者×徴収される者》に及ぶことがあり。徴収される者も安穏とはしていられません(なお、そのとき国は高みの見物をしています)。
「消費税法」も同じく三つ巴、というのが私の見立て。
ですが、そこでいう三者は《国×課税事業者×消費者》では決してなく。《国×売手事業者×買手事業者》というのが実相で、インボイスの正式導入によって、その度合はさらに深まったように思います。
「消費者」は、消費税法の世界においては売手事業者の向こう側にいる人で、外部の人どまりです。
◯
さて、なぜこのような助走をとったかというと。
上述したとおり、通常、税制における「特例」と呼ばれるもの、何かしら納税者側に有利なもののはずです。が、これは二項対立系の税制であればそのとおりなのですが、三つ巴系の税制においては、必ずしもそうとは限りません。
たとえば、《公共交通機関特例》であれば、
・交通機関は少額の旅費にまでインボイスを発行しなくてもすむ(発行義務の免除)
・利用者は少額の旅費にまでインボイスをもらわなくてもすむ(仕入税額控除の緩和)
と、売手・買手双方にとってメリットがあります。
他方で、国はインボイスがないものについても税額控除を認めないといけないので、(ある意味)損をすると。
では《媒介者交付特例》においてはどうなっているでしょうか。
以下、プレーヤーごとにみていきます。
◯
《想定事例》
A 貸主(委託者)
B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
C 借主 10社
事業用の賃貸ビル(オフィスビル)1棟で、借主が10社いると想定してください。
A 貸主(委託者)
原則:C1〜C10に対し、A番号のインボイスを発行しなければならない。
特例:BだけにA番号を通知すればいい。
特例によって圧倒的に楽になります。
B 不動産管理会社(媒介者)
原則:なし
特例:AからA番号の通知を受ける。
B番号のインボイスをCに発行する。
インボイス控えをAに交付し、保存する。
Aが自分でインボイスを発行する場合と比べると、当然手間は増えます。
が、B番号で済むので、自社発行の請求書(仲介手数料とか更新手数料を請求しているやつ)と同じ書式で済ませることができます。
ここまではいいとして、問題は借主Cです。
C 借主
原則:AからA番号のインボイスをもらう。
特例:BからB番号のインボイスをもらう。
これだけ書くと、インボイスをもらう人が入れ替わるだけじゃん、と思うかもしれません。
が、実際にCが税額控除を取るためには、次の確認が必要となります。
原則:
ア Aからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時も有効かを確認
特例:
ア Bからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
ウ Bの番号が支払時に有効かを確認
エ AがBに通知をしていたかを確認
実務的に、ここまで実際にやるかどうかは別として。
Aの番号は、インボイスに記載しなくてもいいというだけで、それが有効であることは媒介者交付特例によって仕入税額控除を受けるためには必要な要件です。
媒介者交付特例を受けるかどうかは、売手側(媒介者主導?)によって勝手に決められてしまうことで、買手側で原則どおりAが発行せよと強制できるものではないでしょう。
特例イエについては管理会社Bがきちんとやってくれているはずだ、なんていうのは、まるで保証のない空手形。もちろん、要件満たさず税額控除がとれなかった場合に、ABに損害賠償請求をすることは考えられるでしょうが、対税務署対応ということでいえば、やはりCが自分で確認しなければなりません。
このように、売手・媒介者が楽になるのと引き換えに、そのしわ寄せがもれなく買手側に押し付けられています。
特例といいながら、買手にとっては税額控除の要件が加重されてしまっています。
◯
また、《公売特例》と比べてみても、《媒介者交付特例》の異様さが際立ちます。
C 買受人
原則:
ア A(債務者)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
特例:
ア B(執行機関)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
《公売特例》の場合には、原則/特例とで、負担が増えることにはなっていません。ただ、A番号を自分で調べないといけないのか、B(執行機関)が教えてくれるのか、実務的には気になるところ。
というか、Aが適格者かどうかが事前にわからなければ、入札価額も決められないんじゃないかと思いますが。
◯
ちなみに、お国の機関を通した執行手続なんだから、税関で「輸入消費税」を掠め取られるのと同じように、執行機関が消費税を掠め取ることにしちゃってもおかしくないのでは、とも思います。
現行法上、消費税以外の「消費税等」はそういう感じになっているのですが(国税通則法39条、国税徴収法11条)、肝心の消費税については対象から除外されています。随分慎ましいなあと(なお、喩えとして「◯◯と△△ズ」から◯◯が脱退したみたいな、と言おうとしましたが、実名だと差し障りがありそうなので、各自で思い浮かべていただければ)。
【仕入税額控除の要件】
輸入取引:税関が発行した輸入許可書を保存すればよい。
執行手続:執行機関が発行した買受証明書を保存すればよい(ありうる制度構想)。
さすがに、輸入消費税のごとく、売手が消費者・免税事業者であっても構わず徴収する、というわけにはいかないでしょう。なので、執行機関において売手が適格者かどうか確認し、適格者ならインボイス発行、非適格者ならインボイス不発行とすればよいのではないでしょうか。で、インボイス発行したら最優先で消費税を頂いてしまうと。
◯
このように、消費税法上における各種の「特例」、売手側・買手側双方にとっての優遇措置であるものと、そうでないものが混在していることになっています。
だというのに、巷のインボイス解説本の中には、これら特例を無造作に横並びで扱っているものが大半。実際に使ってみたら(使われてみたら)どうなる?ということを具体的に考えてもいないんでしょう。運営の情報をコピペしているだけ、というのがよく分かります。
インボイス制度の施行が目前に迫っていて、私の個人的な関心事からすれば、大量発生している《インボイス本》に対して何かしらの総括をしておきたいところ。ですが、いまいちまとめきれない。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
◯
税制の基本型について、通常は《国×納税者》の二項対立で捉えておけば足ります。
たとえば「法人税」において、売手の売上計上基準と買手と仕入計上基準が異なっていたとしても、どちらかにあわせなければならない、などということはなく。国×売手、国×買手のそれぞれの課税関係が別々に問題になるだけです。
また、二項対立の税制で「特例」といえば、国が損して納税者が得する制度ということになります。売手が特例によって得をしたからといって、それによって買手が損することにはなりません。
他方で、税制の中には《三つ巴》のものがあって。
典型例が「源泉徴収」絡みです。表向きは《国×徴収される者》との間は無関係で、《国×徴収する者》だけに課税関係があることになっています。が、《国×徴収する者》のしわ寄せが《徴収する者×徴収される者》に及ぶことがあり。徴収される者も安穏とはしていられません(なお、そのとき国は高みの見物をしています)。
「消費税法」も同じく三つ巴、というのが私の見立て。
ですが、そこでいう三者は《国×課税事業者×消費者》では決してなく。《国×売手事業者×買手事業者》というのが実相で、インボイスの正式導入によって、その度合はさらに深まったように思います。
「消費者」は、消費税法の世界においては売手事業者の向こう側にいる人で、外部の人どまりです。
◯
さて、なぜこのような助走をとったかというと。
上述したとおり、通常、税制における「特例」と呼ばれるもの、何かしら納税者側に有利なもののはずです。が、これは二項対立系の税制であればそのとおりなのですが、三つ巴系の税制においては、必ずしもそうとは限りません。
たとえば、《公共交通機関特例》であれば、
・交通機関は少額の旅費にまでインボイスを発行しなくてもすむ(発行義務の免除)
・利用者は少額の旅費にまでインボイスをもらわなくてもすむ(仕入税額控除の緩和)
と、売手・買手双方にとってメリットがあります。
他方で、国はインボイスがないものについても税額控除を認めないといけないので、(ある意味)損をすると。
では《媒介者交付特例》においてはどうなっているでしょうか。
以下、プレーヤーごとにみていきます。
◯
《想定事例》
A 貸主(委託者)
B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
C 借主 10社
事業用の賃貸ビル(オフィスビル)1棟で、借主が10社いると想定してください。
A 貸主(委託者)
原則:C1〜C10に対し、A番号のインボイスを発行しなければならない。
特例:BだけにA番号を通知すればいい。
特例によって圧倒的に楽になります。
B 不動産管理会社(媒介者)
原則:なし
特例:AからA番号の通知を受ける。
B番号のインボイスをCに発行する。
インボイス控えをAに交付し、保存する。
Aが自分でインボイスを発行する場合と比べると、当然手間は増えます。
が、B番号で済むので、自社発行の請求書(仲介手数料とか更新手数料を請求しているやつ)と同じ書式で済ませることができます。
ここまではいいとして、問題は借主Cです。
C 借主
原則:AからA番号のインボイスをもらう。
特例:BからB番号のインボイスをもらう。
これだけ書くと、インボイスをもらう人が入れ替わるだけじゃん、と思うかもしれません。
が、実際にCが税額控除を取るためには、次の確認が必要となります。
原則:
ア Aからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時も有効かを確認
特例:
ア Bからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
ウ Bの番号が支払時に有効かを確認
エ AがBに通知をしていたかを確認
実務的に、ここまで実際にやるかどうかは別として。
Aの番号は、インボイスに記載しなくてもいいというだけで、それが有効であることは媒介者交付特例によって仕入税額控除を受けるためには必要な要件です。
媒介者交付特例を受けるかどうかは、売手側(媒介者主導?)によって勝手に決められてしまうことで、買手側で原則どおりAが発行せよと強制できるものではないでしょう。
特例イエについては管理会社Bがきちんとやってくれているはずだ、なんていうのは、まるで保証のない空手形。もちろん、要件満たさず税額控除がとれなかった場合に、ABに損害賠償請求をすることは考えられるでしょうが、対税務署対応ということでいえば、やはりCが自分で確認しなければなりません。
このように、売手・媒介者が楽になるのと引き換えに、そのしわ寄せがもれなく買手側に押し付けられています。
特例といいながら、買手にとっては税額控除の要件が加重されてしまっています。
◯
また、《公売特例》と比べてみても、《媒介者交付特例》の異様さが際立ちます。
C 買受人
原則:
ア A(債務者)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
特例:
ア B(執行機関)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
《公売特例》の場合には、原則/特例とで、負担が増えることにはなっていません。ただ、A番号を自分で調べないといけないのか、B(執行機関)が教えてくれるのか、実務的には気になるところ。
というか、Aが適格者かどうかが事前にわからなければ、入札価額も決められないんじゃないかと思いますが。
◯
ちなみに、お国の機関を通した執行手続なんだから、税関で「輸入消費税」を掠め取られるのと同じように、執行機関が消費税を掠め取ることにしちゃってもおかしくないのでは、とも思います。
現行法上、消費税以外の「消費税等」はそういう感じになっているのですが(国税通則法39条、国税徴収法11条)、肝心の消費税については対象から除外されています。随分慎ましいなあと(なお、喩えとして「◯◯と△△ズ」から◯◯が脱退したみたいな、と言おうとしましたが、実名だと差し障りがありそうなので、各自で思い浮かべていただければ)。
【仕入税額控除の要件】
輸入取引:税関が発行した輸入許可書を保存すればよい。
執行手続:執行機関が発行した買受証明書を保存すればよい(ありうる制度構想)。
さすがに、輸入消費税のごとく、売手が消費者・免税事業者であっても構わず徴収する、というわけにはいかないでしょう。なので、執行機関において売手が適格者かどうか確認し、適格者ならインボイス発行、非適格者ならインボイス不発行とすればよいのではないでしょうか。で、インボイス発行したら最優先で消費税を頂いてしまうと。
◯
このように、消費税法上における各種の「特例」、売手側・買手側双方にとっての優遇措置であるものと、そうでないものが混在していることになっています。
だというのに、巷のインボイス解説本の中には、これら特例を無造作に横並びで扱っているものが大半。実際に使ってみたら(使われてみたら)どうなる?ということを具体的に考えてもいないんでしょう。運営の情報をコピペしているだけ、というのがよく分かります。
インボイス制度の施行が目前に迫っていて、私の個人的な関心事からすれば、大量発生している《インボイス本》に対して何かしらの総括をしておきたいところ。ですが、いまいちまとめきれない。
posted by ウロ at 12:49| Comment(0)
| 消費税法
2023年08月14日
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
前回の記事では、媒介者Bの番号をインボイスに記載させるのは「おかしい」というところまで説明しました。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
今回は「キモい」の核心に迫ります。
◯
《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として、同じ条数に収まっている《公売特例》に登場してもらいます。
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。
《公売特例》
A 滞納者
B 執行機関(媒介者)
C 買受人
原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
特例:BがCに対し、「B名称+公売特例適用」が書かれたインボイスを発行すればよい。
【要件】
・Aが適格者
執行機関が適格者である必要はなく、またAからBへの通知も不要となっています。
《公売特例》についても要素を分解しておくと、次のとおりとなります。
ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
エ Bは適格者でなくてもいい ⇒わかる
こちらのほうが、媒介者特例としてのあるべき姿に近いです。Bが適格者であることとかBの番号をインボイスに記載するとか、買手Cにとって余計なものを要求していませんので。
そしてまた、Aが適格者でありさえすればインボイスにAの番号を記載しなくていい、というのも《実体課税》としての望ましい姿ということができます。
◯
では、同じ条数の中に収まっていながら、なぜ媒介者交付特例と公売特例とでこのような差があるのか(以下、媒介者交付特例の媒介者Bを「一般媒介者」と呼びます)。
ふと思ったのが、一般媒介者が適格者であることを要求しているのは、決して家賃にかかる消費税に対する何かしらの証明を求めているのではなく。単に、「適格者なら信用できるはず」という根拠薄弱な想い入れに基づいたものなのではないでしょうか。
一般媒介者Bが「適格者」だということは、お国の課税制度に素直に従ってくれている良い人なんだから、Aが適格者であることをきちんと確認した上でCにインボイスを発行してくれるはずだと(なお、非適格者に対する酷い扱いは、これまでの記事で検討したとおり)。
これとの対比で、「執行機関」はお国の組織なので、まあ適格者でなくても大丈夫だろうと(国が登録しないなんてことはないでしょうが、要件として明示されていない以上はこういう理解になるかと)。
めちゃくちゃ変なことを言っている自覚はあります。が、そもそも「媒介者Bの番号を記載すればいい」なんてストレンジな制度を理屈付けしようと思ったら、説明のほうもストレンジ不可避でしょうよ。
◯
これでどうにか説明できそう、と思ったのですが。5項(以下、令70条の12は略します)で引用されている国税徴収法2条12号の取り込み方に、若干の疑問。
「国税徴収法」から定義をお借りしているということから、てっきり、公売特例が適用されるのは「租税債権」に基づく執行手続に限られるのかと思っていました。もしそうだとすると、公売特例の趣旨を『たとえお国(の組織)であろうとも、非適格者ならば信用できない。が、税徴収の場面に限っては処理をスムースにすすめるためルールを緩めよう。』と捉える必要があります。
が、よくよく読んでみると、5項でいう強制換価手続には「租税債権」を回収する以外の執行手続も含まれているのではないかと思うようになりました。
国税徴収法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十二 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。
国税徴収法の中に「強制執行」(担保権実行等は略します)という用語がでてくるのは、すでに私債権に基づき強制執行が開始されているところに、徴収当局が乱入してくる場面を規律する必要があるからです。
ただ、5項は強制換価手続の定義だけを取り出してお借りしているので、単に「強制執行」という用語だけが5項に取り込まれることになります。「租税債権」が絡む場面だという限定は、国税徴収法の中に収まっているかぎりで事実上そうなるというだけであって。国税徴収法から外に取り出した時点で外れてしまいます。
そうすると、5項は「租税債権」が絡む場面にかぎらず、純粋な「私債権」だけが回収対象となっている強制執行の場面にも適用されることになります。
運営発行の資料含め、5項を《公売特例》呼ばわりしているわけですが、この読み方が正しいとすると《競売特例》でもあるということになります。
しかしまあ、お国の側も、インボイスが取引の阻害要因であることは、十分自覚があるようです。だからこそ、お国が運営する執行手続がスムースに進められるよう、特例を設けているわけですよね。
なお、毎度おなじみ『税制改正の解説』では、「滞納者」としか書かれていないことから、「租税債権」が絡む場面に限定されているかのような書きぶりになっています(P.697)。
令和4年度 税制改正の解説(財務省)
が、上記の通り、条文上はそのような限定はされていないのであって。
運営が「俺はこういうつもりで作った」(立案者意思)なんて言っているのは、プロット段階でちょろっと口出しをした《自称》共同制作者のアレオレ詐欺みたいなものです。税法解釈においては、オリジナル(条文)から読み取れる趣旨に限定すべき、というのがこれまで本ブログで再三述べてきたところです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
◯
さて、媒介者交付特例のキモさの根源。この適格者に対する根拠のない信頼感を感じ取ったからだというのが、私自身の分析結果。
適格者であるというだけでお国の組織と同格扱いしちゃうなんて、その感覚キモい!ということかと。
しかも、お国が勝手に信頼しちゃっているだけならともかく。媒介者Bの番号が書かれたインボイスなんて不完全なものでもよいと扱うことで、買手側にも適格者に対する信頼を強要しているわけですよね。
『俺の愛した適格者を、お前も愛せよ。』みたいな話。
ただ、これはあくまでも私の感じたことであって。皆様方もそれぞれキモいとお感じになったポイントがあるのではないでしょうか。
それぞれ、その感覚をお大事になさってください(《感情税法》の世界)。
キモいに関しては以上のとおりですが、この特例についてはもうちょい引っかかる部分があるので、次週に続けます。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
今回は「キモい」の核心に迫ります。
◯
《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として、同じ条数に収まっている《公売特例》に登場してもらいます。
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。
《公売特例》
A 滞納者
B 執行機関(媒介者)
C 買受人
原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
特例:BがCに対し、「B名称+公売特例適用」が書かれたインボイスを発行すればよい。
【要件】
・Aが適格者
執行機関が適格者である必要はなく、またAからBへの通知も不要となっています。
《公売特例》についても要素を分解しておくと、次のとおりとなります。
ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
エ Bは適格者でなくてもいい ⇒わかる
こちらのほうが、媒介者特例としてのあるべき姿に近いです。Bが適格者であることとかBの番号をインボイスに記載するとか、買手Cにとって余計なものを要求していませんので。
そしてまた、Aが適格者でありさえすればインボイスにAの番号を記載しなくていい、というのも《実体課税》としての望ましい姿ということができます。
◯
では、同じ条数の中に収まっていながら、なぜ媒介者交付特例と公売特例とでこのような差があるのか(以下、媒介者交付特例の媒介者Bを「一般媒介者」と呼びます)。
ふと思ったのが、一般媒介者が適格者であることを要求しているのは、決して家賃にかかる消費税に対する何かしらの証明を求めているのではなく。単に、「適格者なら信用できるはず」という根拠薄弱な想い入れに基づいたものなのではないでしょうか。
一般媒介者Bが「適格者」だということは、お国の課税制度に素直に従ってくれている良い人なんだから、Aが適格者であることをきちんと確認した上でCにインボイスを発行してくれるはずだと(なお、非適格者に対する酷い扱いは、これまでの記事で検討したとおり)。
これとの対比で、「執行機関」はお国の組織なので、まあ適格者でなくても大丈夫だろうと(国が登録しないなんてことはないでしょうが、要件として明示されていない以上はこういう理解になるかと)。
めちゃくちゃ変なことを言っている自覚はあります。が、そもそも「媒介者Bの番号を記載すればいい」なんてストレンジな制度を理屈付けしようと思ったら、説明のほうもストレンジ不可避でしょうよ。
◯
これでどうにか説明できそう、と思ったのですが。5項(以下、令70条の12は略します)で引用されている国税徴収法2条12号の取り込み方に、若干の疑問。
「国税徴収法」から定義をお借りしているということから、てっきり、公売特例が適用されるのは「租税債権」に基づく執行手続に限られるのかと思っていました。もしそうだとすると、公売特例の趣旨を『たとえお国(の組織)であろうとも、非適格者ならば信用できない。が、税徴収の場面に限っては処理をスムースにすすめるためルールを緩めよう。』と捉える必要があります。
が、よくよく読んでみると、5項でいう強制換価手続には「租税債権」を回収する以外の執行手続も含まれているのではないかと思うようになりました。
国税徴収法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十二 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。
国税徴収法の中に「強制執行」(担保権実行等は略します)という用語がでてくるのは、すでに私債権に基づき強制執行が開始されているところに、徴収当局が乱入してくる場面を規律する必要があるからです。
ただ、5項は強制換価手続の定義だけを取り出してお借りしているので、単に「強制執行」という用語だけが5項に取り込まれることになります。「租税債権」が絡む場面だという限定は、国税徴収法の中に収まっているかぎりで事実上そうなるというだけであって。国税徴収法から外に取り出した時点で外れてしまいます。
そうすると、5項は「租税債権」が絡む場面にかぎらず、純粋な「私債権」だけが回収対象となっている強制執行の場面にも適用されることになります。
運営発行の資料含め、5項を《公売特例》呼ばわりしているわけですが、この読み方が正しいとすると《競売特例》でもあるということになります。
しかしまあ、お国の側も、インボイスが取引の阻害要因であることは、十分自覚があるようです。だからこそ、お国が運営する執行手続がスムースに進められるよう、特例を設けているわけですよね。
なお、毎度おなじみ『税制改正の解説』では、「滞納者」としか書かれていないことから、「租税債権」が絡む場面に限定されているかのような書きぶりになっています(P.697)。
令和4年度 税制改正の解説(財務省)
が、上記の通り、条文上はそのような限定はされていないのであって。
運営が「俺はこういうつもりで作った」(立案者意思)なんて言っているのは、プロット段階でちょろっと口出しをした《自称》共同制作者のアレオレ詐欺みたいなものです。税法解釈においては、オリジナル(条文)から読み取れる趣旨に限定すべき、というのがこれまで本ブログで再三述べてきたところです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
◯
さて、媒介者交付特例のキモさの根源。この適格者に対する根拠のない信頼感を感じ取ったからだというのが、私自身の分析結果。
適格者であるというだけでお国の組織と同格扱いしちゃうなんて、その感覚キモい!ということかと。
しかも、お国が勝手に信頼しちゃっているだけならともかく。媒介者Bの番号が書かれたインボイスなんて不完全なものでもよいと扱うことで、買手側にも適格者に対する信頼を強要しているわけですよね。
『俺の愛した適格者を、お前も愛せよ。』みたいな話。
ただ、これはあくまでも私の感じたことであって。皆様方もそれぞれキモいとお感じになったポイントがあるのではないでしょうか。
それぞれ、その感覚をお大事になさってください(《感情税法》の世界)。
キモいに関しては以上のとおりですが、この特例についてはもうちょい引っかかる部分があるので、次週に続けます。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
posted by ウロ at 09:32| Comment(0)
| 消費税法
2023年08月07日
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
媒介者交付特例を「キモい」呼ばわりしたのは、人類史上、私が初めてではないかと自負しております。
が、だからといって《先行者利益》を貪るつもりはなく。この気持ち、以下の説明をもって皆さんにも共有していただきます。
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
◯
「媒介者交付特例」について説明しておくと、次のようなものです。
《媒介者交付特例》
A 売手(委託者)
B 媒介者(受託者)
C 買手
原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
特例:BがCに対し、Bの番号が書かれたインボイスを発行すればよい。
【要件】
ア ABとも適格者(適格請求書発行事業者)
イ AがBに対し、取引前までに自分が適格者であることを通知
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
1 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者(適格請求書発行事業者に限る。以下この条において「媒介者等」という。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合において、当該媒介者等が当該課税資産の譲渡等の時までに当該事業者から登録を受けている旨の通知を受けているときは、当該媒介者等は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項、同条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項又は同条第三項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該媒介者等の氏名又は名称及び法第五十七条の二第四項の登録番号を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書、適格簡易請求書若しくは適格返還請求書(以下第七十条の十四までにおいて「適格請求書等」という。)又は適格請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(法第五十七条の四第五項に規定する電磁的記録をいう。以下この条及び次条において同じ。)を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。
どういう意味で特例なのかというと、
・発行義務者:発行するのは売手Aではなく媒介者Bでよい。
・記載事項:売手Aの番号でなく媒介者Bの番号でよい。
ということになります。
この時点で「キモっ!」って感じていただけたならば、私と感覚が近い方だと思われます。
まだいまいちピンとこないという方のために、もう少し踏み込みます。
以下、イメージしやすい例として、事業用賃貸物件(オフィスビル)の「不動産管理」を想定します。家賃のやり取りをするにあたって、どのようなインボイスが必要となるか、という問題です。
《不動産管理(事業用賃貸物件)》
A 貸主(委託者)
B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
C 借主
なお、不動産管理において、AがBを「介して」Cに貸付けをしていると言われると、違和感があります。が、運営の見解では、請求書発行とか集金の代行程度でも「媒介者交付特例」の適用あり、としているので、不動産管理にも適用されるという理解を前提としておきます。
◯
これまでの一連の記事でも検討したとおり、インボイス後の消費税法の基本構造は次のようになりました。
売上:問答無用の実体課税ルール
仕入:実体+厳格な形式による税額控除ルール
売上側の課税ルールは、形式は気にせず課税資産の譲渡という実体があるかぎりは課税されます。こちらは従前どおりです。
他方で、仕入側の税額控除ルールについては、実体があるだけでは足りず、インボイスという厳格な形式がないかぎりは控除されないこととなりました。
このハイブリッドぶりが奇妙なのはさておき。控除側に厳格な形式要件が課せられていることを正当化する根拠として、「インボイスは売手側の『課税証明書』だからだ」といったことが言われることがあります。
もちろんこの理由付けに対して私が否定的なのは置いておくとして。
この根拠を頭の片隅においた上で「媒介者交付特例」の中身を分解してみていくと、
ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
エ BはインボイスにBの番号を書けばいい ⇒キモっ!
エがキモいんですよ。
Cにとって、自分が家賃に含めて支払った消費税がきちんと納税されているかどうかは、Aが適格者であるかどうかにかかってきます。Bが適格者かどうかなんて全く全然何にも関係ないです。
「Aの番号を省略してもいい」というのは、たとえば「旅費特例」のような発行義務免除系の特例もあることからすれば、理解できます。が、なぜここでBの番号が出てくるのか。Cにしてみれば、Bから「俺は消費税を納税してるぜ!」なんてアピールされたところで、「いらない情報」でしょう。
なお厳密には、「課税証明」と言うならばAが適格者である必要もなく。課税事業者でありさえすれば非適格者でもいいわけで。
この「非適格である課税事業者」の存在についても、本ブログで散々イジってきたところ。ですが、今回は触れません。
◯
「インボイス本来の目的からすればBの番号はいらないはずだ」というのは、制度設計として「おかしい」というだけであって。これだけでは決して「キモい」という感情にまでは到達しません。
では、私が「キモい」と思う正体は何でしょうか。
すでに共感いただいている方もいらっしゃるかもしれませんが、次週に続けます。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
が、だからといって《先行者利益》を貪るつもりはなく。この気持ち、以下の説明をもって皆さんにも共有していただきます。
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
◯
「媒介者交付特例」について説明しておくと、次のようなものです。
《媒介者交付特例》
A 売手(委託者)
B 媒介者(受託者)
C 買手
原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
特例:BがCに対し、Bの番号が書かれたインボイスを発行すればよい。
【要件】
ア ABとも適格者(適格請求書発行事業者)
イ AがBに対し、取引前までに自分が適格者であることを通知
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
1 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者(適格請求書発行事業者に限る。以下この条において「媒介者等」という。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合において、当該媒介者等が当該課税資産の譲渡等の時までに当該事業者から登録を受けている旨の通知を受けているときは、当該媒介者等は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項、同条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項又は同条第三項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該媒介者等の氏名又は名称及び法第五十七条の二第四項の登録番号を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書、適格簡易請求書若しくは適格返還請求書(以下第七十条の十四までにおいて「適格請求書等」という。)又は適格請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(法第五十七条の四第五項に規定する電磁的記録をいう。以下この条及び次条において同じ。)を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。
どういう意味で特例なのかというと、
・発行義務者:発行するのは売手Aではなく媒介者Bでよい。
・記載事項:売手Aの番号でなく媒介者Bの番号でよい。
ということになります。
この時点で「キモっ!」って感じていただけたならば、私と感覚が近い方だと思われます。
まだいまいちピンとこないという方のために、もう少し踏み込みます。
以下、イメージしやすい例として、事業用賃貸物件(オフィスビル)の「不動産管理」を想定します。家賃のやり取りをするにあたって、どのようなインボイスが必要となるか、という問題です。
《不動産管理(事業用賃貸物件)》
A 貸主(委託者)
B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
C 借主
なお、不動産管理において、AがBを「介して」Cに貸付けをしていると言われると、違和感があります。が、運営の見解では、請求書発行とか集金の代行程度でも「媒介者交付特例」の適用あり、としているので、不動産管理にも適用されるという理解を前提としておきます。
◯
これまでの一連の記事でも検討したとおり、インボイス後の消費税法の基本構造は次のようになりました。
売上:問答無用の実体課税ルール
仕入:実体+厳格な形式による税額控除ルール
売上側の課税ルールは、形式は気にせず課税資産の譲渡という実体があるかぎりは課税されます。こちらは従前どおりです。
他方で、仕入側の税額控除ルールについては、実体があるだけでは足りず、インボイスという厳格な形式がないかぎりは控除されないこととなりました。
このハイブリッドぶりが奇妙なのはさておき。控除側に厳格な形式要件が課せられていることを正当化する根拠として、「インボイスは売手側の『課税証明書』だからだ」といったことが言われることがあります。
もちろんこの理由付けに対して私が否定的なのは置いておくとして。
この根拠を頭の片隅においた上で「媒介者交付特例」の中身を分解してみていくと、
ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
エ BはインボイスにBの番号を書けばいい ⇒キモっ!
エがキモいんですよ。
Cにとって、自分が家賃に含めて支払った消費税がきちんと納税されているかどうかは、Aが適格者であるかどうかにかかってきます。Bが適格者かどうかなんて全く全然何にも関係ないです。
「Aの番号を省略してもいい」というのは、たとえば「旅費特例」のような発行義務免除系の特例もあることからすれば、理解できます。が、なぜここでBの番号が出てくるのか。Cにしてみれば、Bから「俺は消費税を納税してるぜ!」なんてアピールされたところで、「いらない情報」でしょう。
なお厳密には、「課税証明」と言うならばAが適格者である必要もなく。課税事業者でありさえすれば非適格者でもいいわけで。
この「非適格である課税事業者」の存在についても、本ブログで散々イジってきたところ。ですが、今回は触れません。
◯
「インボイス本来の目的からすればBの番号はいらないはずだ」というのは、制度設計として「おかしい」というだけであって。これだけでは決して「キモい」という感情にまでは到達しません。
では、私が「キモい」と思う正体は何でしょうか。
すでに共感いただいている方もいらっしゃるかもしれませんが、次週に続けます。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
posted by ウロ at 10:13| Comment(0)
| 消費税法