2024年01月29日

みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱

 前回の記事の中で、倒産防の掛金の損金算入ルールの構造を次のとおり記述しました。

みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱

【倒産防】
 A 法人税法  (全額は?)できない。
 B 措置法   できる。
 C 措置法通達 前納1年まで

 今回は、この構造についてもう少し掘り下げます。


 まず、損金算入の大原則は、法人税法22条3項に定めるとおりです(以下では、損金算入できることを「費用性あり」などと表現します)。

法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 この原則によらない場合には、同項にいう「別段の定め」が必要となります。


 若干まわり道をして、他の費用の扱いについて触れます。

【寄付金】
 A 法人税法 できる(22条)
 B 法人税法 制限される(37条)

 寄付金は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、同法37条により制限されます。

【交際費】
 A 法人税法 できる(22条)
 B 措置法  制限される(61条の4)

 交際費は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、措置法61条の4により制限されます。

 寄付金と交際費、法人税法の解説書の類では損金不算入モノとして並べて記述されることが多い。ですが、不算入の根拠法が本法か措置法かで異なっています。
 いずれにしても、法律レベルで「別段の定め」を設けることにより、一部損金不算入になるということです。

【保険料】
 A 法人税法  できるものとできないものがある(22条)
 B 法人税通達 できる/できないを形式で振り分ける(9-3-1〜)

 保険料(定期保険・養老保険等)については、ご存知「法人税基本通達」にびっしり規定されているところです。

法人税基本通達 第3節 保険料等

 保険料の中には、費用性のあるものと資産性のあるものとでごちゃまぜになっているものがあります(というか保険会社が意図的にそうしている)。これを割り振るにあたって、個別の保険契約ごとに判定なんてしていられないわけです。
 そこで、通達で「割り切り(決めつけ)」をしているということです。

 もちろん、所詮通達なので、納得のいかない納税者の皆さんは訴訟で争うことが可能です。が、裁判所が「明確性・安定性」といったマジックワードで保険通達を全肯定するであろうことは、火を見るよりも明らかです。

【マジックワード租税判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 なぜ、寄付金・交際費は法律レベルで「別段の定め」が設けられているというのに、保険料は通達レベルで差配しているのかというと。
 寄付金・交際費の損金不算入は、そもそも費用性が備わっているものにつき損金算入を否定することから、法律レベルで規定することが必須です。に対して、保険料は資産性/費用性の区分を通達使って解釈入れている、という位置づけになります。
 費用性があるのに通達で資産として扱う、ではなく、通達が資産としているものは最初から資産なんだと。で、多少のズレがあったとしても「明確性・安定性」を言い訳にもってくればセーフになると。


 で、倒産防に戻ってきます。上記を踏まえて表現を少し修正します。

【倒産防(改正前)】
 A 法人税法  できる部分とできない部分がある(22条)。
 B 措置法   できる(66条の11)。
 C 措置法通達 前納1年まで(66の11-2)。

 倒産防についても「解約返戻金」があることから、費用の部分と資産の部分の両方があることになるはずです。これを措置法では政策的考慮を入れて、損金側に全振りしています(なお、法文上は損金算入「する」ですが、便宜上「できる」と表現します)。
 寄付金・交際費については、費用を損金不算入とするための「別段の定め」だったのに対し。倒産防は、費用でないものを損金算入とするための「別段の定め」だということです。

 ところが、通達では前納1年までに限定してしまっています。
 措置法が全額損金算入するとしているのに、通達が勝手に限定してよいのか、ということが一番最初の記事で検討した論点となります。そこでは、「充てるため」の読み方を工夫することで、通達を拡張規定と捉えることができるのでは、というアイディアを示しました。
 
 今回、ABCと並べてみて、
  A 費用性のあるものだけを損金算入する。
  B 資産部分も含めて全額損金算入できる。
  C Bで広げすぎたのでA方向に微調整。
と通達を位置づけることができるかも、と思いました。
 B・Cだけ見ていると、CがBに反すると思いきや。Aまで視野に入れれば、必ずしも違法ということにはならないのではないかと。

 が、A・Bとの関係は「前法/後法」あるいは「一般法/特別法」であって。法解釈のお作法どおりの理解からすれば、Bが優先適用されることになります。
 ので、CがAに適合しているからといって、やはりBに反することは許されないはずです。何かしら、Bに反しないようにCを位置づける必要があります。

  B>A≒C


 さて、今回の改正事項である、解約後2年間は損金算入できないというルールについてですが。

 措置法第66条の11に、単純に制限規定を追加することになるでしょうか。もしそうだとすると、通達の書きぶりも、若干修正を入れることになりそうです。

【倒産防(改正後?)】 
 A 法人税法  できる部分とできない部分がある。
 B 措置法   できる。ただし解約後2年はできない。
 C 措置法通達 前納1年まで


 2年という期間で区切るということは、掛金のうち資産の部分にとどまらず費用の部分も損金算入が否定されることになります。
 交際費や寄付金は、それぞれ損金算入を制限する実質的な根拠があったわけですが。倒産防の2年ルールにはそのような実質的な根拠が見いだせるでしょうか。「損益調整は許さない。」という、どちらかというと「役員報酬」のルールに近い理由つけが採用されることになるのかもしれません。

 もし、掛金がそもそも費用性を有しないものであったならば、措置法が損金でないものを特例で損金算入できるようにしているだけ、原則は損金不算入なのだから2年制限したとしても問題ない、といえたところです。

【費用性がないとしたら】
 A 法人税法  できない。
 B 措置法   できる。ただし解約後2年はできない。

 が、一部とはいえ損金性も有しているものの損金算入を否定するには、何某かの実質的な根拠が必要になるはずです。まあ、40ヶ月分たまれば返戻率100%になるということで、もともと費用性は極めて弱い、ということなのかもしれませんが。


 なにか思い違いをしているような気もしますが。私が理解するところの、改正後措置法の構造。

倒産防2年ルール.png


 通常の場合、費用部分は法人税法の原則どおり、資産部分は拡張規定。解約後2年間については、費用部分は制限規定、資産部分は原則どおり。
 というように、原則・拡張・制限が入り乱れたキマイラ感溢れる規定になってしまうのでしょうか。

【キマイラ税法】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に

みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:30| Comment(0) | 法人税法

2024年01月22日

みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱

 みんな大好き!!倒産防。ですが、ちょっと嫌いになる人が増えるかも、というお話。
 
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い

 令和6年度税制改正において、「解約したら2年は再加入できないよ。」という規定が入ることになるようで。
 正しくは「加入するのは勝手だが、損金算入させねえよ。」ですが、現実世界においては、哀しいかな同義でしょう。

5 その他の租税特別措置等
(国 税)
〔廃止・縮減等〕
(13)特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例における独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済事業に係る措置について、中小企業倒産防止共済法の共済契約の解除があった後同法の共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については、本特例の適用ができないこととする(所得税についても同様とする。)。
(注)上記の改正は、令和6年10月1日以後の共済契約の解除について適用する。


 単なる繰り延べだし、個々の金額も可愛いものだし、わざわざ改正するほどのものかと感じるところ。機構の側からしても余計なことしやがって、ということでしょうし。

 改正いれるぐらいだから、相当な金額が実施されていたのでしょうか。改正されたとして、機構への金員流入がごっそり減るのか、それとも解約のほうが減ることになるのか。

 お国の方針としては、抜けて入ってで益金調整に使うのは認めないんだと。そうだとして、同期中に限らず、2年も制限されるのはよく分かりませんが。
 解約したけど事情が変わって翌期には再加入したい、という場合もあるだろうに(最初に述べた通り、再加入自体が禁止されるわけではないでしょうが)。

経営セーフティ共済(独立行政法人中小企業基盤整備機構)


 なお、大綱の読み方ですが、「本特例の適用ができない」と書いてあることから、『前納が損金算入できないだけで毎月分は損金算入できるはず』みたいな読み方をされる方がいるかもしれません。

 が、倒産防の掛金の損金算入ルールは、

 A 法人税法:(全額は?)できない。
 B 措置法:できる。
 C 措置法通達:前納1年まで

という構成になっています。
 「前納1年」というのは、措置法本体ではなく通達が勝手にそう言っているだけで。損金算入できること自体が「特例」にあたるので、これが適用されないのであれば、掛金は損金算入できない、ということになります(「全額は?」と書いたのは、疑問を留保している点があるからです)。

 もちろん、今後できあがる実際の条文がどうなるか次第ではあります。が、大綱の記載に従うかぎりは、前納だろうが毎月分だろうが2年間は損金算入できないという意味になるはずです。


 ここまでは、そのへんの《税務お役立ち記事》と同じ、単なる大綱のご紹介です。
 当ブログにおける関心事は、「法令/通達の規律範囲」の問題です。

 上述したとおり、前納による損金算入の範囲が「1年」であることについては、法律ではなく通達に記載されています。
 この通達が、法を「拡張」しているのか「制限」しているのか、いずれの読み方も可能ということを、上記記事では示しました。

 で、今回の改正にあたって、通達に外出しされていた「1年前納ルール」を法律に取り込むのかどうか、ということが、私の個人的な関心事となります。

 法令/通達の規律範囲の変更に関しては、以前、《インボイスいらない特例》でも検討したところです。通達に規定されっぱなしだった《いらない》場合を、政令・省令に取り込む改正が行われたと。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 余談ですが、税務においては、通達が相当幅を効かせているというのに。法令/通達の規律範囲について、それ自体を題材とした研究というのが見受けられない(私が知らないだけですか)。

【労務における法令/通達】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)

 それはさておき。このような規律範囲の見直しが、倒産防に対しても行われるのかどうか。

 私の見立てでは、おそらく何も触れられず、単に「2年不算入ルール」だけが法律に付け加わるのだと思います。「1年前納ルール」を法律に取り込もうとすると、では、なぜ今まで通達で勝手に1年に限定していたのか、ということの問題が可視化されてしまうからです。
 もちろん、通達を《拡張ルール》と読むことで問題は回避できます。が、そういう議論が巻き起こること自体を回避しようとするのが、運営側の生態(と私が邪推している)。

 ということで、自販機特例における氏名省略と同様、法令には取り込まないままにするのではないでしょうか(というか、そういう意思決定すらせずガン無視を決め込む)。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 もう一つ検討したい論点があるのですが(「全額は?」と書いたところ)、余裕があれば次回以降で。

みんな大好き!倒産防(その3)。 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:46| Comment(0) | 法人税法

2024年01月15日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 前回の記事で、自販機特例につき「住所」省略は改正事項とするのに「氏名」省略は『差し支えありません』で済まそうとするの、気持ち悪いと評しました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 なぜ、「氏名」も改正事項としないのかについては、おおよそアタリは付いていて。
 その理由は『古物商等を異常に優遇しているから』だと思われます。

 突飛すぎてよく分からないかもしれませんので、以下説明を加えます(入場券特例については記述を省略)。


 氏名省略規定の条文構造については、以下の記事で分析をしたところです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 長くなりますが、政令と告示を貼り付けてみると次のとおり。

令第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
 一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
  イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
  ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
   (1) 古物営業法第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
   (2) 質屋営業法第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
   (3) 宅地建物取引業法第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
   (4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、請求書等(法第三十条第七項に規定する請求書等をいう。)の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの

2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。

○国税庁告示第26号
2 令第四十九条第一項第一号に規定する国税庁長官が指定する者は、次に掲げる者とする。
四 令第四十九条第一項第一号ハ(1)から(4)までに掲げる資産に係る課税仕入れ(同号ハ(1)から(3)までに掲げる資産に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、同号ハ(4)に掲げる資産に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方


 令49条2項によれば、氏名省略できるのは、告示に列挙されているもののうち「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る」ものとされています。
 決して、特定業種に限定しているわけではなく。中立的な装いの書きぶりとなっています。が、(その2)(その3)で検討したとおり、結果的には「古物商等」だけに限定されることになります。

 これ、改正前は政令自体に業種が書き込まれていたところであり。インボイス後は政令だけ読んでも特定業種を優遇していることが見えにくくなっています。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)

 『結果的に古物商等だけが氏名省略できることになっているだけで、政令レベルでは決して特定業種のみを優遇する意図があったわけではない』という言い訳も可能っちゃ可能。もちろんヤラセでしょうが(以下、同項を「すっとぼけ条項」と呼びます)。


 さて、このような「すっとぼけ条項」に自販機を追加するには、どのような条文とすべきでしょうか。

 正面から「自販機」とは書かずに、「不特定かつ多数の者から」のような、すっとぼけた書きぶりで限定しなければならないとしたら、どのように記述すればよいのか。うまい遣り口が思いつきません。
 そうだとすると、令49条2項を修正して、正面から「古物商等」「自販機」と謳うことにせざるをえないでしょうか。あるいは、委任先が省令/告示と別れていることをこれ幸いとばかりに、別々の書きぶりで共存させることにするかどうか。

 といったように、自販機を氏名省略できるようにするためには、単に49条2項に自販機を追加すれば済むのではなく。「古物商等」の書きぶりについても再検討しなければならなくなります。


 運営側の往生際の悪さについて、「8割控除」を題材に指摘したことがありますが。
 
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 なぜだかよく分かりませんが、一度アウトプットしたものを修正することに対しては、異常な抵抗があるように見受けられます。ここでも、令49条2項に追加するだけなら許せても、現行の規定を修正するのは避けたいという態度が透けて見えます。

 といった検討の結果として、住所の扱いとの不整合を受け入れてでも、氏名については『差し支え有りません』で乗り切ることにしよう、としたのではないでしょうか。


 以上、前回も書いたとおり『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』と言えばすむところを、あらぬ方向に話を広げるだけの虚無な記事です。
 が、私個人としては、条文イジりのトレーニングとなるので、全く無益ではないはず(と自分に言い聞かせる)。
posted by ウロ at 11:44| Comment(0) | 消費税法

2024年01月08日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 以下、マトモな実務家ならば『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』の一言で終わることを、あれこれ難癖つけるだけのやつです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)


 令和6年度税制改正大綱にて、自販機特例を使う場合に「住所」を記載しなくてよいとの改正案が示された、ということを以下の記事で書きました。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 要綱に「令和5年10月1日からも書かなくて構わんよ。」と謳われているせいで、Q&Aが爆速で公表されました。

令和6年度税制改正の大綱について(インボイス関連) 令和5年12月22日

 「定額減税」あたりと違って、こんな改正案、誰も反対しないでしょうから、これがそのまま本体の『インボイスQ&A』に組み込まれることになるのでしょう。

 そんな程度のものですら、引っかかりを覚えてしまうのが、ひねくれ者の哀しい性(サガ)。


 下記(その2)に記載したとおり、「住所」がいらない場合が列挙されているのは、「国税庁告示」(R5第26号)です。
 インボイス前は基本通達内に編成されていたものが、改正に伴って単独の告示として括りだされました。

 なので、「住所」を省略するというのであれば、国会審議を待つまでもなく国税庁告示をいじくれば済むだけの話です(もちろん「委任立法」の問題はありますが)。とすると、その他の改正事項よりも先行して改正が反映されることになるのでしょうか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)


 ちなみに、令和5年10月1日より前は住所書かなきゃいけないのか、というと、こちらは旧法時代の「3万円特例」でカバーされています。

 「住所」の記載は、請求書等の保存とのバーターで要求されているものです。その上で、通達・告示に列挙されることによってその要求が解除される、という構造となっています。
 ところが、「3万円特例」だけは、はじめから「住所」の記載が要求されていないという、他の特例とは毛並みが異なるものとなっていました。

 ワナビー達の解説だと、単に「住所いらない」だけで括られがちなところ。ですが、条文構造上は全く異なっていたということです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)


 改正対象である「住所」は、実はどうでもよくって。今回のQ&Aで私が「気持ち悪い」と感じたのが以下のもの。

問.自動販売機で飲料を購入した場合、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」はどのように記帳すればよいでしょうか。

 帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。


 先日の記事でも(ゴリゴリの建前を語っています)と仄めかしておいたところであって、結論自体は全く問題ないです。

 ですが、「住所」は改正を入れるというのに、「氏名」はなぜ『差し支えありません』で済まそうとするのか。
 「住所」は、政令で請求書等とのバーターで要求されているものにすぎません。他方で、「氏名」は法律レベルで要求されていることであって。「氏名」を省略するというならば、氏名省略規定である令49条2項も改正するのが筋なんじゃないんですか。

 この、住所と氏名に対するアンバランス感が、どうにも気持ち悪いわけです。

 なお、国税庁が『前からそういう扱いでしたけど?』みたいな言い回しをするの。そういう運用していたことを表立って明言していなかったときに言いがちなセリフな気がします。氏名を省略しても『差し支えありません』と明言しているの、私は今回初めて見ました。
 

 また、氏名記載については運用レベルで無視するくせに、「◯コインランドリー/×コインパーキング」みたいな区別は厳密に運用しようとしているのも気持ち悪いです。

(自動販売機及び自動サービス機の範囲)
1−8−14 規則第26条の6第1号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する「自動販売機又は自動サービス機」とは、課税資産の譲渡等及び代金の収受が自動で行われる機械装置であって、当該機械装置のみにより課税資産の譲渡等が完結するものをいい、例えば、飲食料品の自動販売機のほか、コインロッカーやコインランドリー等がこれに該当する。
(注) 小売店内に設置されたセルフレジなどのように単に代金の精算のみを行うものは、これに該当しないことに留意する。


 確かに、「自動販売機又は自動サービス機」という文言からすれば、「機械のみで資産の譲渡が完結するもの」と理解するのが素直に思えます。
 が、「氏名」ルールをガン無視するという前科をおかしておきながら、なぜ「完結」ルールだけは忠実に文言に従おうとするのか。

 そもそもの話、コインランドリーとコインパーキングとで、インボイス発行の「困難さ」にどのような有意差があるというのでしょうか。コインランドリーが困難だというならば、コインパーキングだって困難でしょうよ。

 また、たとえばですけど、コインランドリーで洗濯・乾燥するのに、利用者が洗濯機から乾燥機に洗濯物を移さなければならない場合は「完結」ルールを満たさないということになりはしないでしょうか。利用者の行為は資産の譲渡に組み込まれないというならば、コインパーキングにおける駐車行為も組み込まれないことになるのでは。
 あるいは、コインパーキングも、ゲートを上げるための料金だけをもらっているということにすれば、「完結」ルールを満たすということでいいんですか(これらはもちろん難癖です)。

 この区別を支えているのは、唯一文言のみですよね。実質的な根拠は何もない。
 もし何かしら区別をするのだとしたら「売手がその場にいない(のでインボイス出せない)」くらいじゃないですかね。

 いずれにしても、「氏名」ルールをガン無視できる度胸を、「完結」ルールでも発揮してくれればいいじゃないですか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
posted by ウロ at 10:25| Comment(0) | 消費税法

2024年01月01日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)

 インボイスの前後に渡って、《請求書いらない特例》の条文イジりをしたことには、それなりの意図がありまして。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 一般的には、「請求書等」として要求されるものが、区分記載請求書から適格請求書に変更されたことにより、仕入税額控除が認められる範囲が限定されたと理解されています。し、当ブログにおいてもそのように表現をしている箇所があります。

 が、仕入税額控除厳格化の本体は、表向きの《原則ルール》にあるのではなく。《例外ルール》である「やむを得ない理由」が「困難な場合」に変更されたことにある、というのが私の見立てです。

 インボイス制度に対する評価として、「単に登録番号と税額を追加するだけなのに、騒ぎすぎ!ウケる〜!」みたいな意見を聞くこともあります。
 それは《原則ルール》のかぎりではそのとおりです。「区分記載請求書方式」が、インボイス移行ツールとして優れていたと評価することができるでしょうか。


 ですが、《例外ルール》まで視野に入れると、そんなお気楽なものではないことが分かります。

 というか、今まで我々実務家は、あまりにも「やむを得ない理由」に依存しきっていたのかもしれません。せっかく運営が「区分記載請求書方式」を挟んでくれたというのに、「やむを得ない理由」に甘えることで請求書の保存を真面目に実施していなかったと。

 レベル0 請求書いらない(超ゆるい)
 レベル1 請求書(ゆるい)     orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル2 区分記載請求書(きつい) orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル10 適格請求書(かなりきつい)or困難な場合(超きつい)


 だらけきった実務家により生み出されていた益税を、困難な場合の限定列挙化により撲滅できてめでたしめでたし(皮肉)。原則ルールのほうは「区分記載請求書」という移行ツールを挟んでくれたのに、例外ルールについては移行ツールを挟まずにいきなり厳格化したせいで、ついていけなくなっているだけの話だと。


 税法学者からしても、通達に規定されっぱなしの「やむを得ない理由」を、政令・省令で「困難な場合」として明確化したことは『租税法律主義』『課税法規の明確性』『法的安定性』の観点から正しい、とか言い出しそうですし。
 特に件の教科書の著者あたりが、「仕入税額控除が『請求権』として明確化された!」とか言いそう(冷笑)。

 もちろん、税法ルールを明確化すること、それ自体は望ましいことです。が、消費税法における仕入税額控除制度を厳格化することには、他の制度とは異なる特有の問題があります。

 それは、本ブログでも再三指摘してきた「損税」発生問題。

 件の教科書をはじめとして、現実の消費税法の仕組みを無視した論者がよくいうのが『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言。
 
 免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 しかしながら、現実には売上側は問答無用の譲渡課税、他方で仕入側は厳格化したインボイス控除と、まったく異なる原理で作動しています。

  売上課税:問答無用の譲渡課税    (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 or困難な場合(超狭い)


 課税側は譲渡があれば問答無用で課税されるくせに、仕入側は限定的にしか控除されません。
 相互の連動ということでいうと、

  ◯ 課税されないなら控除されない(=控除するなら必ず課税されるべき)

と、控除が課税よりもはみ出さない方向でのみ連動し、

  × 控除されないなら課税されない(=課税するなら必ず控除されるべき)

と、課税が控除よりもはみ出さない方向では連動しません。
 控除縮小(課税拡大)の方向でのみ、一方通行で連動することになっています。その結果、インボイス制度のもとではひたすら「損税」が生じることとなります。

 これがインボイス前であれば、

  売上課税:問答無用の譲渡課税       (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 orやむを得ない理由(わりと緩い)


と、売上側と仕入側とがほどよくバランスが取れていました。インボイス前の制度は、損税が大量発生するくらいなら一部益税の発生を受け入れるものだったと評価することができます。

 これに対してインボイス後は、「売手:免税事業者」の益税を撲滅できるならば、それ以外の場面でどれだけ損税が発生してもお構いなし、という制度に仕上がっています。
 ここで、益税をわざわざ「売手:免税事業者の場合の」と限定するのは、《インボイスいらない特例》によって、特定業種の益税は積極的に容認しているからです。現行制度は、同じ益税の中でも、許せない益税と許せる益税とがあるという価値判断を前提に組み立てられてしまっています。インボイス推進派の方々がノセられてしまっている「益税絶許!!」というプロパガンダとは、まるで様相が異なる。

 現行制度は、特定場面の益税だけを撲滅しただけであり、かつ新たな損税を生み出しているわけで。真面目に《課税=控除》を実現するつもりがあるとは、とても思えません。


 こういった制度全体の構造理解というもの、税法分野では正面切って展開されていません。憲法論から始まる抽象概念論と、裁判で問題となった個別論点に関心が集中しがちで。その真ん中が手薄すぎる。

 そのせいで、『課税と控除は一致させるべき』という抽象的なお題目から、一気に仕入税額控除を厳格化するという個別制度の実現へと到達してしまう有様なのでしょう。
 仕入側だけを厳格化するだけで《課税=控除》を実現できたつもりになってしまい、売上側との規律に不整合が生じないかといったことを検討しないで済ませてしまっています。

 このような検討作業、件の教科書のような消費税法全体を記述した書籍などでこそ展開すべきものだと思うのですが。残念ながら『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言をのたまうだけで、現実に両輪駆動が機能しているかを検証することもありません。

 現実には、一方のタイヤはスポンジ製、他方のタイヤは鉄製でできていて、およそ真っ直ぐ進まない出来上がりですよ。


 なお、《例外ルール》のほうを本体とみることに対しては、違和感のある方もいるかもしれません。が、法学における《原則/例外モデル》の欺瞞っぷりについては、すでに何度か指摘してきたとおりです。

【原則/例外モデル批判】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 「例外は文字通り例外的に考慮するだけですよ。」と言いながら、バックグラウンドでは常に例外ルールを走らせている例の所作のことです。

 実務への現実的な影響のデカさという観点からすると、表向きの「区分記載請求書→適格請求書」の変更は単なる目眩ましで。実体(実態)は《請求書いらない特例》を厳格化・特権化することに主眼があったのではないか、と思わざるをえません。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 消費税法