これまでの記事では、法人税法における「益金/損金」を念頭において検討してきました。
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
「個人」の場合は、これが所得税法における事業所得の「収入金額/必要経費」に置き換わるわけですが、論ずべきことは法人と同じはずです。
一応、条文と通達を貼り付けておきます。
・所得税法 第二十七条(事業所得)
1 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
・所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
・租税特別措置法 第二十八条(特定の基金に対する負担金等の必要経費算入の特例)
1 個人が、各年において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、その支出した日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法(昭和五十二年法律第八十四号)の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
2 前項の規定は、確定申告書に同項に規定する金額の必要経費に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
・改正法案
第二十八条第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、個人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該個人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
・改正後措置法 第二十八条
1 個人が、各年において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、その支出した日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法(昭和五十二年法律第八十四号)の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、個人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該個人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
3 第一項の規定は、確定申告書に同項に規定する金額の必要経費に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
・租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて (措置法通達(所得税関係))
第28条((特定の基金に対する負担金等の必要経費算入の特例))関係
28−2(負担金等の必要経費算入時期)
措置法第28条に規定する負担金又は掛金(以下この項において「負担金等」という。)の必要経費算入時期は、個人が当該負担金等を現実に支払った日(財務大臣の指定前に支払ったものについては、その指定のあった日)の属する年分となることに留意する。
28−3(中小企業倒産防止共済事業の前払掛金)
中小企業倒産防止共済法(昭和52年法律第84号)の規定により共済契約を締結した者が独立行政法人中小企業基盤整備機構に前納した共済契約に係る掛金は、前納の期間が1年以内であるものを除き、措置法第28条第1項第2号に掲げる掛金に該当しない。
構造は法人と全く同じで。
通達で前納1年に制限しちゃっていいのかということと、解約手当金は必要経費の裏返しだからといって当然のごとく事業所得の収入金額として扱っていいのか、ということが、やはり問題となるわけです。
この点については、すでに法人について論じたところを参照してもらうとして。
ちなみに、現行の2項にいう「明細書」、今ではオフィシャルなものが出てますが。どういうわけか最近まで決まった書式がありませんでした。
特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書
◯
法人と同じなのに、わざわざ個人のほうまで持ち出した理由。所得税における節税ライターの皆さんの鉄板ネタ、「小規模企業共済」との対比をするためです。
法人 倒産防(益金/損金)
個人 倒産防(収入金額/必要経費)
個人 小規模共済(一時所得/所得控除)
「解約手当金」の扱いについては省略して、以下「掛金」のほうだけ検討します。
まず、御本尊である「所得控除」の規定から。
・所得税法 第七十五条(小規模企業共済等掛金控除)
1 居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払つた場合には、その支払つた金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
2 前項に規定する小規模企業共済等掛金とは、次に掲げる掛金をいう。
一 小規模企業共済法(昭和四十年法律第百二号)第二条第二項(定義)に規定する共済契約(政令で定めるものを除く。)に基づく掛金
倒産防と異なり、措置法様に所得マイナスしていただくのではなく。所得税法の中に規定されています。
節税商品としての節操のない使われ方からすれば、倒産防と同じくこちらにも「2年制限」が入ってもおかしくなさそうです、が、その場合は措置法ではなく所得税法本体に改正を入れなければならないことになります。
まあ、措置法より所得税法のほうが改正しにくい、なんてのは雰囲気だけでしょうから。改正しようと思えばいつでもできてしまうはずです。
◯
では、「前納」についてはどう定められているかというと。
倒産防と同じく、通達で規定されています。
・所得税法基本通達 法第74条《社会保険料控除》及び第75条《小規模企業共済等掛金控除》関係
74・75-1(その年に支払った社会保険料又は小規模企業共済等掛金)
法第74条第1項又は第75条第1項に規定する「支払った金額」については、次による。
(1) 納付期日が到来した社会保険料又は小規模企業共済等掛金(以下74・75-3までにおいてこれらを「社会保険料等」という。)であっても、現実に支払っていないものは含まれない。
(2) 前納した社会保険料等については、次の算式により計算した金額はその年において支払った金額とする。
(算式)
前納した社会保険料等の総額(前納により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した社会保険料等に係るその年中に到来する納付期日の回数)÷(前納した社会保険料等に係る納付期日の総回数)
(注) 前納した社会保険料等とは、各納付期日が到来するごとに社会保険料等に充当するものとしてあらかじめ納付した金額で、まだ充当されない残額があるうちに年金等の給付事由が生じたなどにより社会保険料等の納付を要しないこととなった場合に当該残額に相当する金額が返還されることとなっているものをいう。
74・75-2(前納した社会保険料等の特例)
前納した社会保険料等のうちその前納の期間が1年以内のもの及び法令に一定期間の社会保険料等を前納することができる旨の規定がある場合における当該規定に基づき前納したものについては、その前納をした者がその前納した社会保険料等の全額をその支払った年の社会保険料等として確定申告書又は給与所得者の保険料控除申告書に記載した場合には、74・75-1の(2)にかかわらず、その全額をその年において支払った社会保険料等の金額として差し支えない。
なお、この前納した社会保険料等の特例(以下この項において「特例」という。)を適用せずに確定申告書を提出した場合には、その後において更正の請求をするときにおいても、この特例を適用することはできないことに留意する。
倒産防には対応するものがない、前納した場合の按分算式が、75-1(2)(以下「74・」は省略)に規定されています。要するに、前納した場合は納付期日がきて充当されてはじめて「支払った」ことになるのだと。
「社会保険料」と「小規模共済等」とが抱き合わせ感まる出しで規定されていて。全く同じ扱いでいいのか、という疑問もあるものの、さしあたり正しいものとしておきます。
で、75-1を踏まえたうえで、75-2の『特例』によって、前納1年までなら所得控除しても「差し支えない。」こととしています。
同じく「前納1年にかぎる」というのに、なぜ倒産防とは言い回しを変えてきているのか。何かしらの意図があるのかどうか。
倒産防 「1年以内」以外は掛金に該当しない。
小規模共済 「1年以内」なら所得控除に入れても差し支えない。
◯
所得税法72条以下の一連の「所得控除」を見ていただければ分かるとおり、ここには種々雑多な政策的考慮が煮染められた控除項目が陳列されています。
「益金/損金」「収入金額/必要経費」のような、プラス/マイナスの対概念が想定しがたいところ。
益金⇔損金
収入金額⇔必要経費
????⇔所得控除
倒産防の場合は、費用性が(ほぼ)ないにもかかわらず、政策的な考慮から「損金・必要経費」扱いされているわけです。これと比べても、小規模共済の「所得控除」なんて、より強烈な政策的な考慮が働いているのでしょう。
確かに、所得税法/措置法という置き場所だけから対比すれば、措置法に規定されている倒産防のほうが政策的考慮が強そうにも思えます。が、退職金の積立にすぎない小規模共済掛金全額を、所得からそのまま控除してくれるなんて、倒産防以上の政策的考慮が働いているといえるのではないでしょうか。
◯
倒産防でははっきりしませんでしたが、小規模共済については充当されて所得控除できるという解釈が示されています。
と言ったすぐそばから、前納1年までOKだと勝手に広げてしまっています。通達自身はこれを『特例』だと自称していて、マッチポンプも甚だしい。
倒産防の場合は、措置法で損金算入できるとしたこと自体が、法人税法に対する特例という位置づけだったわけです。
他方で、小規模共済においては、通達で所得税法を狭めて解釈した上で、通達で特別に緩和してあげる、という遣り口となっています。自らのスペシャル感を出したいがために、法律を貶めるきたねえ手口ですね。
そして、法律を勝手に拡張しちゃっただけだから、後から「更正の請求」されても認めてあげられないよと。
これは通常の「当初申告要件」が、当初の適法な申告から適法な申告には直せない(適法申告⇒適法申告)というのとは違っていて。「充当した分」から「前納1年分」に直すのは適法申告から違法申告に直すことだから、当然法律上認めてあげることはできません、ということを言っているわけです。
当初申告なら違法なものも認めるが、更正段階では違法なものは認められない、という謎の中途半端な潔癖ぶりが発揮されています。
納税者有利だから誰も何も文句を言わないものの。《合法性の原則》からすれば、めちゃくちゃな実務運用と評価されるところでしょう。
◯
翻って。
倒産防についても、以上の小規模共済の通達を横流しすれば、「充当されたら必要経費に該当、前納1年は通達が勝手に拡張」といえるところです。
が、措置法通達と所得税通達とで書きぶりが異なっているわけで。単純にパラレルな理解をしてしまってよいものなのかどうか。
そもそもの話、通達にどう書いてあるかは参考にすぎず。法律上の「損金」「必要経費」「所得控除」それぞれの解釈から導き出すのが本筋なのでしょう。
が、例によって心の余裕ないので、ここでは以上の整理整頓までにとどめておきます。
みんな大好き!倒産防(その7) 〜中退共もお好きでしょ
2024年02月26日
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
posted by ウロ at 11:11| Comment(0)
| 所得税法
2024年02月19日
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
この時期になっても、税制改正ネタを税制改正大綱「のみ」を素材として記述している記事、信頼性は低いと決めつけてもらってもいいと思います。
というのも、この時期になると財務省から「法律案」が公表されます。そのため、制度の正確な理解をするためには、法律案を読み込むことが必須となります。
第213回国会における財務省関連法律(財務省)
所得税法等の一部を改正する法律案
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/213diet/st060202h.pdf
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309001.htm
もちろん、現時点ではまだ「案」だし。法律で全てカバーされているわけでもなく。これ以降に公表される政令・省令、通達もあわせて確認する必要はあります。
が、少なくとも、法律でカバーされる予定のものは、法律案から読み取るべきものでしょう。
とはいえ、成立後ですら条文を読まない節税ライターさんの記事が溢れかえっている現状で、法律案にまで目を通せというのは無茶な要求なのかもしれません。
インボイスの8割控除でデマの拡散に協力した、という前科があるにもかかわらず。更生が見込めないのが哀しい現実。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
今回、特にたちが悪いのが「定額減税」。
成立前だというのに、先走って「特設サイト」なんてものまで作られていて。
定額減税特設サイト(国税庁)
Q&Aワナビーの方々が大好きな「国税庁Q&A」もすでに出来上がってしまっています。
法律案を無視して、「Q&A」だけみてあーでもないこーでもないと言うだけの記事が、これから雨後の筍のように溢れかえるのでしょう。
理想:大綱→法律案→法律 (Q&A等は参考どまり)
現実:大綱→Q&A (法律案・法律は見ない)
◯
以上は単なる前置きです。
先日触れた「倒産防」の改正につき、法律案が公表されたのでフォローしておきます、というのが本論です。
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
法律案は次のとおり。
第六十六条の十一第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
これを現行法に溶け込ませると、以下のとおりとなります。
第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
3 第一項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
あわせて適用時期に関する経過措置は以下のとおり。
(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例に関する経過措置)
第五十三条 新租税特別措置法第六十六条の十一第二項の規定は、法人の締結していた同項に規定する共済契約につき令和六年十月一日以後に解除があった後同項に規定する共済契約を締結した当該法人が当該共済契約について支出する同項に規定する掛金について適用する。
まあ、特にサプライズもなく。大綱に規定されたとおりの条文となっています。
とはいえ、インボイスにおける「8割控除」のときのような例もあるわけで。立案者がヘンテコなオリジナリティを発揮していないか、きちんと確認しておく必要があります。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
倒産防に関しては、大綱に書かれたことを素直に条文化したものと評価できるでしょう。しかしまあ、8割控除はなんで勝手に内容変えちゃったんでしょうかね。
◯
それはさておき。
すでに記事にしたとおり、通達における前納1年限定ルールや、法人税法における益金ルールとの絡みが、相変わらずスッキリしないままです。
法律案の書きぶりからすると、たとえば、解約後すぐに再加入した場合、2年間は損金不算入ですが、そのまま払い続けていれば2年経過後からは損金算入できることになります。
別に解約後に即再加入することが禁止されているわけでなく。ただ単に損金算入ができないというだけですので。
で、この状態から40か月分納付後に解約した場合、結論だけでいうと、最初の2年に対応する解約手当金は益金不算入、残りは益金算入とするのが妥当だと思います。
が、このような区分を、法人税法22条2項の益金ルールだけから導くことが可能なのでしょうか。法人税法における益金ルールと損金ルールはそれぞれ別モノであって。《オセロ思考》によって結論を導くことはできない、ということはすでに論じたとおりです。
また、解約後2年以内に再加入して1年分前納した場合はどうなるか。文言どおりなら「支出」の時点が2年以内かどうかで判定することになるでしょうか。
このあたり、さすがに通達で何かしら触れるような気もしますが。さて、どうなるでしょう。
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
というのも、この時期になると財務省から「法律案」が公表されます。そのため、制度の正確な理解をするためには、法律案を読み込むことが必須となります。
第213回国会における財務省関連法律(財務省)
所得税法等の一部を改正する法律案
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/213diet/st060202h.pdf
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309001.htm
もちろん、現時点ではまだ「案」だし。法律で全てカバーされているわけでもなく。これ以降に公表される政令・省令、通達もあわせて確認する必要はあります。
が、少なくとも、法律でカバーされる予定のものは、法律案から読み取るべきものでしょう。
とはいえ、成立後ですら条文を読まない節税ライターさんの記事が溢れかえっている現状で、法律案にまで目を通せというのは無茶な要求なのかもしれません。
インボイスの8割控除でデマの拡散に協力した、という前科があるにもかかわらず。更生が見込めないのが哀しい現実。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
今回、特にたちが悪いのが「定額減税」。
成立前だというのに、先走って「特設サイト」なんてものまで作られていて。
定額減税特設サイト(国税庁)
Q&Aワナビーの方々が大好きな「国税庁Q&A」もすでに出来上がってしまっています。
法律案を無視して、「Q&A」だけみてあーでもないこーでもないと言うだけの記事が、これから雨後の筍のように溢れかえるのでしょう。
理想:大綱→法律案→法律 (Q&A等は参考どまり)
現実:大綱→Q&A (法律案・法律は見ない)
◯
以上は単なる前置きです。
先日触れた「倒産防」の改正につき、法律案が公表されたのでフォローしておきます、というのが本論です。
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
法律案は次のとおり。
第六十六条の十一第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
これを現行法に溶け込ませると、以下のとおりとなります。
第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
3 第一項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
あわせて適用時期に関する経過措置は以下のとおり。
(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例に関する経過措置)
第五十三条 新租税特別措置法第六十六条の十一第二項の規定は、法人の締結していた同項に規定する共済契約につき令和六年十月一日以後に解除があった後同項に規定する共済契約を締結した当該法人が当該共済契約について支出する同項に規定する掛金について適用する。
まあ、特にサプライズもなく。大綱に規定されたとおりの条文となっています。
とはいえ、インボイスにおける「8割控除」のときのような例もあるわけで。立案者がヘンテコなオリジナリティを発揮していないか、きちんと確認しておく必要があります。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
倒産防に関しては、大綱に書かれたことを素直に条文化したものと評価できるでしょう。しかしまあ、8割控除はなんで勝手に内容変えちゃったんでしょうかね。
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それはさておき。
すでに記事にしたとおり、通達における前納1年限定ルールや、法人税法における益金ルールとの絡みが、相変わらずスッキリしないままです。
法律案の書きぶりからすると、たとえば、解約後すぐに再加入した場合、2年間は損金不算入ですが、そのまま払い続けていれば2年経過後からは損金算入できることになります。
別に解約後に即再加入することが禁止されているわけでなく。ただ単に損金算入ができないというだけですので。
で、この状態から40か月分納付後に解約した場合、結論だけでいうと、最初の2年に対応する解約手当金は益金不算入、残りは益金算入とするのが妥当だと思います。
が、このような区分を、法人税法22条2項の益金ルールだけから導くことが可能なのでしょうか。法人税法における益金ルールと損金ルールはそれぞれ別モノであって。《オセロ思考》によって結論を導くことはできない、ということはすでに論じたとおりです。
また、解約後2年以内に再加入して1年分前納した場合はどうなるか。文言どおりなら「支出」の時点が2年以内かどうかで判定することになるでしょうか。
このあたり、さすがに通達で何かしら触れるような気もしますが。さて、どうなるでしょう。
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
posted by ウロ at 11:23| Comment(0)
| 法人税法
2024年02月12日
消費税法における実質と形式、そして計算へ 〜消費税法の理論構造(種蒔き編45)
法に定める要件として、しばしば「実質要件/形式要件」などと区別されることがあります。
たとえば、保証契約においては、意思表示の合致(実質要件)だけでは足りず書面の作成(形式要件)が必要とされる、といったように、実質と形式とを区別して記述されたりします。
税法においても、同様に実質要件/形式要件の区別が可能です。
が、それに加えて、税法に特徴的な規定として「計算規定」というものを観念することができます(もちろん、民法でも「相続編」のように計算要素強めな領域もあります)。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
◯
《インボイスいらない特例》の究極系と位置づけることができるのが、30条7項但書の「災害その他やむを得ない事情」のやつ(以下、これを「災害」と略することがあります)。
同条括弧書きの「困難である場合」のような、せせこましい限定列挙モノとはスケールが違います。
消費税法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
ここでいう「災害その他やむを得ない事情」というのが《実質要件》にあたります。で、このような事情があることにより、《形式要件》であるインボイスの保存がなくても税額控除できることになる、という構造になっています。
◯
さて、この場面における《計算規定》はどうなっているでしょうか。要するに「では控除額いくらだ?」ということです。
長くなるのですが、該当規定をそのまま貼り付けます。
消費税法施行令 第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この章において同じ。)の区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
二 適格簡易請求書(法第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格簡易請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等(当該適格簡易請求書に当該消費税額等の記載がないときは、当該消費税額等として第七十条の十に規定する方法に準じて算出した金額)のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
三 法第三十条第九項第二号に掲げる電磁的記録(同項に規定する電磁的記録をいう。以下この項、第四十九条及び第五十条において同じ。)の提供を受けた課税仕入れ 当該電磁的記録に記録されている法第五十七条の四第一項第五号又は第二項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
四 法第三十条第九項第三号に掲げる書類又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を作成した課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第四項第六号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
五 法第三十条第九項第四号に掲げる書類の交付又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録の提供を受けた課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第六項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
六 第四十九条第一項第一号イからニまでに掲げる課税仕入れ 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。以下この章において同じ。)に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)
2 事業者が、その課税期間に係る前項各号に掲げる課税仕入れについて、その課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)を法第三十条第七項に規定する帳簿に記載している場合には、前項の規定にかかわらず、当該金額を合計した金額に百分の七十八を乗じて算出した金額を、同条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等及び軽減対象課税資産の譲渡等に該当するものを除く。)に係る部分については百十分の七・八を、軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分については百八分の六・二四をそれぞれ乗じて算出した金額の合計額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
1項が「請求書積上げ」、2項が「帳簿積上げ」、3項が「割戻し」の規定となります。
売上を「積上げ」で処理した場合は仕入「割戻し」を選択できないわけですが、条文上は3項のような書きぶりで差配しているわけです。
◯
それはさておき。
どの処理方法による場合でも、税額控除の対象となるのは、「1項各号」に定める課税仕入れに限定されています。「災害」の場合もそれ用の計算規定が見当たらないため、この規定によって計算することになります。
では、実際にどのように計算されるでしょうか。
この点、『インボイスの交付を受けたが災害により紛失。仕入先が連絡不能で再発行不可』というような事案であれば、1号の「適格請求書の交付を受けた課税仕入れ」に該当します。一度「交付」を受けさえすれば「保存」がなくても「交付を受けた」と言えますので。
ゆえに、インボイスに記載してあったであろう税額をもとに、税額控除することが可能となるはずです。
交付を受けた ⇒ 災害で紛失した ⇒ 保存できない
問題は、『インボイスの交付を受ける前に被災。仕入先が連絡不能で発行不可』というような事案です。
災害で交付を受けられない ⇒ 保存できない
この場合、「交付」を受けていない以上は1号には該当せず、他の号にも該当しないため、税額控除できないことになりそうです。より正確にいうならば、『法30条7項但書に従い税額控除はできるが、施行令により算出される税額は0円』となるでしょうか。
いかにも不条理極まりない。
これに対して、『積上げではなく割戻しならいけるのでは』と思われる方がいるかもしれません。
が、「割戻し」規定である3項においても、その計算対象は「1項各号」列挙の課税仕入れに限定されてしまっています。なので、やはり控除額は0円となります。
◯
以前に検討した、自販機特例などのせせこましいほうの《インボイスいらない特例》については、1項6号に専用の計算規定が用意されています。
「入場券特例」以外は、そもそもインボイスが「交付」されていないことが前提となっています。それゆえ、計算方法は課税仕入れごとの「割戻し」でいくことが同号の中に記載されています。
「割戻し」というと紛らわしいのですが、3項の割戻しとは違って課税仕入れごとに割戻しをします。
ちなみに、「入場券特例」の場合は一度「交付」を受けているはずだから1項1号・2号も適用できるのか、という疑問もあります。が、ややこしくなるので深入りしません。
何にしても、1項6号のような専用の計算規定が「災害」の場合には用意されていないということです。《究極系》のはずなのに、計算規定における待遇が悪すぎる。
◯
計算規定がこのような状態であることを前提として。
翻って、法30条7項但書の《実質要件》としての適用範囲が問題となります。
もし救済を想定しているのが、『交付を受けたが保存できなかった場合』だけなのであれば、現状の計算規定でも問題はないわけです。
実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
計算規定: 交付を受けた場合
これに対して『そもそも交付を受けられなかった場合』も救済の対象として想定しているのであれば、現行の計算規定は明らかに足りていないわけです。
実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
+交付を受けられずに保存できない場合
計算規定: 交付を受けた場合
交付を受けていない場合は規定なし(?)
◯
法令上の規定がこのような構造であることを知ってか知らずか、運営の「よくあるお問い合わせ」では、《偽インボイス》を掴まされた場合も税額控除の適用を受けることが可能、という見解が開陳されています。
お問合せの多いご質問(令和6年1月26日更新)
【令和5年11月13日公表分】
問A (適格請求書発行事業者公表サイトの検索結果とレシート表記が異なる場合)
(注) 売手が適格請求書発行事業者以外の者であるにもかかわらず、自らの登録番号と誤認されるような英数字が記載されているような場合には、当該請求書等は適格請求書等に該当しないこととなりますが、適格請求書発行事業者以外の者がそうした適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することや、適格請求書発行事業者が偽りの記載をした適格請求書又は適格簡易請求書を交付すること、それらの書類の記載事項に係る電磁的記録を提供することは禁止されており、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)の適用対象となります。
また、そうした書類や電磁的記録を受領した事業者において、災害その他やむを得ない事情により、請求書等の保存をすることができなかったことを証明した場合には、帳簿や請求書等の保存がなくとも仕入税額控除の適用を受けることが可能です。
「偽インボイス記載の消費税額を控除してもよい」なんて計算規定は存在しないわけで。仕入税額控除の適用を受けたとて、偽インボイスからどうやって控除税額を算出するつもりなのでしょうか。
確かに、税額控除を受けることができると書いてあるだけで、控除税額がいくらとまでは書いていない。ので間違ったことは書いていない、と嘯くことは可能です。
が、当然のことながら、そんな物言いはただの詭弁でしょう。
そもそも、「非適格者」ならば、災害があろうがなかろうがインボイスを交付すること自体がはじめから不可能であって。《実質要件》レベルの問題として、このような場合まで、法30条7項但書がカバーしていると解釈できるのでしょうか。
もしかしてですが、『もしも非適格者が災害前に登録していてくれたならば』なんて妄想をベースにするってことですか。そうだとしても、租税法律主義の建前を遵守するならば、2割特例や8割控除のごとく『もしもシリーズ』の系譜にあることを明記すべきでしょう。
【もしもシリーズ】
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
調整対象固定資産と高額特定資産とインボイスと
◯
以上、法令上の文言をベースに読み取れたことを記述しているだけで、何らの裏付けを取っているものではありません。運営の見解とは真っ向から対立していますし。
ではありますが、実質/形式要件とは区別して「計算規定」を独自に検討することが、税法解釈上重要である、という限りでは間違いないものと思います。
「税額控除できる」だけで満足するのではなく、「ではいくら控除できるか」までフォローすべきだろうと。
にもかかわらず、学者先生の中には、「数式ではなく息吹」(租税息吹主義かよ!?)「仕入税額控除は計算要素でなく請求権」などという感じで、計算規定を軽視する傾向が見受けられるところです。
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
この点、民法学者が『効果を度外視して要件論だけ論じている。』とか『実体法レベルの議論に終始していて、その実現まで考えてない。』みたいな傾向、おそらくだいぶ昔に払拭されたもののはずです。税法学の世界ではそこまで及んでいないということなのかどうか。
一方で、課税要件レベルの議論が十分詰められているかといえば。税法分野での「要件事実論」の展開を見る限り、「う〜ん」て感じですよね。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
何にしても、一方で学者先生の計算軽視があり、他方で実務家の法解釈論軽視がある、という税法≒税務世界の不幸な取り合わせ、いい加減どうにかならないものでしょうか。
【税務本における法解釈のゼロ展開】
熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)
たとえば、保証契約においては、意思表示の合致(実質要件)だけでは足りず書面の作成(形式要件)が必要とされる、といったように、実質と形式とを区別して記述されたりします。
税法においても、同様に実質要件/形式要件の区別が可能です。
が、それに加えて、税法に特徴的な規定として「計算規定」というものを観念することができます(もちろん、民法でも「相続編」のように計算要素強めな領域もあります)。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
◯
《インボイスいらない特例》の究極系と位置づけることができるのが、30条7項但書の「災害その他やむを得ない事情」のやつ(以下、これを「災害」と略することがあります)。
同条括弧書きの「困難である場合」のような、せせこましい限定列挙モノとはスケールが違います。
消費税法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
ここでいう「災害その他やむを得ない事情」というのが《実質要件》にあたります。で、このような事情があることにより、《形式要件》であるインボイスの保存がなくても税額控除できることになる、という構造になっています。
◯
さて、この場面における《計算規定》はどうなっているでしょうか。要するに「では控除額いくらだ?」ということです。
長くなるのですが、該当規定をそのまま貼り付けます。
消費税法施行令 第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この章において同じ。)の区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
二 適格簡易請求書(法第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格簡易請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等(当該適格簡易請求書に当該消費税額等の記載がないときは、当該消費税額等として第七十条の十に規定する方法に準じて算出した金額)のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
三 法第三十条第九項第二号に掲げる電磁的記録(同項に規定する電磁的記録をいう。以下この項、第四十九条及び第五十条において同じ。)の提供を受けた課税仕入れ 当該電磁的記録に記録されている法第五十七条の四第一項第五号又は第二項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
四 法第三十条第九項第三号に掲げる書類又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を作成した課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第四項第六号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
五 法第三十条第九項第四号に掲げる書類の交付又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録の提供を受けた課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第六項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
六 第四十九条第一項第一号イからニまでに掲げる課税仕入れ 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。以下この章において同じ。)に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)
2 事業者が、その課税期間に係る前項各号に掲げる課税仕入れについて、その課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)を法第三十条第七項に規定する帳簿に記載している場合には、前項の規定にかかわらず、当該金額を合計した金額に百分の七十八を乗じて算出した金額を、同条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等及び軽減対象課税資産の譲渡等に該当するものを除く。)に係る部分については百十分の七・八を、軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分については百八分の六・二四をそれぞれ乗じて算出した金額の合計額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
1項が「請求書積上げ」、2項が「帳簿積上げ」、3項が「割戻し」の規定となります。
売上を「積上げ」で処理した場合は仕入「割戻し」を選択できないわけですが、条文上は3項のような書きぶりで差配しているわけです。
◯
それはさておき。
どの処理方法による場合でも、税額控除の対象となるのは、「1項各号」に定める課税仕入れに限定されています。「災害」の場合もそれ用の計算規定が見当たらないため、この規定によって計算することになります。
では、実際にどのように計算されるでしょうか。
この点、『インボイスの交付を受けたが災害により紛失。仕入先が連絡不能で再発行不可』というような事案であれば、1号の「適格請求書の交付を受けた課税仕入れ」に該当します。一度「交付」を受けさえすれば「保存」がなくても「交付を受けた」と言えますので。
ゆえに、インボイスに記載してあったであろう税額をもとに、税額控除することが可能となるはずです。
交付を受けた ⇒ 災害で紛失した ⇒ 保存できない
問題は、『インボイスの交付を受ける前に被災。仕入先が連絡不能で発行不可』というような事案です。
災害で交付を受けられない ⇒ 保存できない
この場合、「交付」を受けていない以上は1号には該当せず、他の号にも該当しないため、税額控除できないことになりそうです。より正確にいうならば、『法30条7項但書に従い税額控除はできるが、施行令により算出される税額は0円』となるでしょうか。
いかにも不条理極まりない。
これに対して、『積上げではなく割戻しならいけるのでは』と思われる方がいるかもしれません。
が、「割戻し」規定である3項においても、その計算対象は「1項各号」列挙の課税仕入れに限定されてしまっています。なので、やはり控除額は0円となります。
◯
以前に検討した、自販機特例などのせせこましいほうの《インボイスいらない特例》については、1項6号に専用の計算規定が用意されています。
「入場券特例」以外は、そもそもインボイスが「交付」されていないことが前提となっています。それゆえ、計算方法は課税仕入れごとの「割戻し」でいくことが同号の中に記載されています。
「割戻し」というと紛らわしいのですが、3項の割戻しとは違って課税仕入れごとに割戻しをします。
ちなみに、「入場券特例」の場合は一度「交付」を受けているはずだから1項1号・2号も適用できるのか、という疑問もあります。が、ややこしくなるので深入りしません。
何にしても、1項6号のような専用の計算規定が「災害」の場合には用意されていないということです。《究極系》のはずなのに、計算規定における待遇が悪すぎる。
◯
計算規定がこのような状態であることを前提として。
翻って、法30条7項但書の《実質要件》としての適用範囲が問題となります。
もし救済を想定しているのが、『交付を受けたが保存できなかった場合』だけなのであれば、現状の計算規定でも問題はないわけです。
実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
計算規定: 交付を受けた場合
これに対して『そもそも交付を受けられなかった場合』も救済の対象として想定しているのであれば、現行の計算規定は明らかに足りていないわけです。
実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
+交付を受けられずに保存できない場合
計算規定: 交付を受けた場合
交付を受けていない場合は規定なし(?)
◯
法令上の規定がこのような構造であることを知ってか知らずか、運営の「よくあるお問い合わせ」では、《偽インボイス》を掴まされた場合も税額控除の適用を受けることが可能、という見解が開陳されています。
お問合せの多いご質問(令和6年1月26日更新)
【令和5年11月13日公表分】
問A (適格請求書発行事業者公表サイトの検索結果とレシート表記が異なる場合)
(注) 売手が適格請求書発行事業者以外の者であるにもかかわらず、自らの登録番号と誤認されるような英数字が記載されているような場合には、当該請求書等は適格請求書等に該当しないこととなりますが、適格請求書発行事業者以外の者がそうした適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することや、適格請求書発行事業者が偽りの記載をした適格請求書又は適格簡易請求書を交付すること、それらの書類の記載事項に係る電磁的記録を提供することは禁止されており、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)の適用対象となります。
また、そうした書類や電磁的記録を受領した事業者において、災害その他やむを得ない事情により、請求書等の保存をすることができなかったことを証明した場合には、帳簿や請求書等の保存がなくとも仕入税額控除の適用を受けることが可能です。
「偽インボイス記載の消費税額を控除してもよい」なんて計算規定は存在しないわけで。仕入税額控除の適用を受けたとて、偽インボイスからどうやって控除税額を算出するつもりなのでしょうか。
確かに、税額控除を受けることができると書いてあるだけで、控除税額がいくらとまでは書いていない。ので間違ったことは書いていない、と嘯くことは可能です。
が、当然のことながら、そんな物言いはただの詭弁でしょう。
そもそも、「非適格者」ならば、災害があろうがなかろうがインボイスを交付すること自体がはじめから不可能であって。《実質要件》レベルの問題として、このような場合まで、法30条7項但書がカバーしていると解釈できるのでしょうか。
もしかしてですが、『もしも非適格者が災害前に登録していてくれたならば』なんて妄想をベースにするってことですか。そうだとしても、租税法律主義の建前を遵守するならば、2割特例や8割控除のごとく『もしもシリーズ』の系譜にあることを明記すべきでしょう。
【もしもシリーズ】
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
調整対象固定資産と高額特定資産とインボイスと
◯
以上、法令上の文言をベースに読み取れたことを記述しているだけで、何らの裏付けを取っているものではありません。運営の見解とは真っ向から対立していますし。
ではありますが、実質/形式要件とは区別して「計算規定」を独自に検討することが、税法解釈上重要である、という限りでは間違いないものと思います。
「税額控除できる」だけで満足するのではなく、「ではいくら控除できるか」までフォローすべきだろうと。
にもかかわらず、学者先生の中には、「数式ではなく息吹」(租税息吹主義かよ!?)「仕入税額控除は計算要素でなく請求権」などという感じで、計算規定を軽視する傾向が見受けられるところです。
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
この点、民法学者が『効果を度外視して要件論だけ論じている。』とか『実体法レベルの議論に終始していて、その実現まで考えてない。』みたいな傾向、おそらくだいぶ昔に払拭されたもののはずです。税法学の世界ではそこまで及んでいないということなのかどうか。
一方で、課税要件レベルの議論が十分詰められているかといえば。税法分野での「要件事実論」の展開を見る限り、「う〜ん」て感じですよね。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
何にしても、一方で学者先生の計算軽視があり、他方で実務家の法解釈論軽視がある、という税法≒税務世界の不幸な取り合わせ、いい加減どうにかならないものでしょうか。
【税務本における法解釈のゼロ展開】
熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)
posted by ウロ at 11:38| Comment(0)
| 消費税法
2024年02月05日
みんな大好き!倒産防(その4)。 〜令和6年度税制改正大綱
倒産防なんて、節税ライターの方々の鉄板ネタであって。
私のような条文イジり屋の出る幕など、何も無いと思っていたのですが。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
意識が低いとなかなか気づきにくいだけであって。何ごとにも、何かしらの「イジり代(しろ)」があるものですね。
◯
以下、いきなり余談。
近ごろは税制があまりにも複雑怪奇になりすぎて、節税ライターの方々の扱えるネタ、この倒産防と短期前払費用の特例くらいしかなくなっているんじゃないですかね。
研究開発税制・設備投資税制・所得拡大促進税制あたりは、使えるものならガンガン活用していくべきもののはずですが。節税ライターの皆さんが免罪符として宣う「一般の方にも分かりやすく記述する。」という執筆方針では「給与増やしたら税金減るよ(詳しくは税務署へ)」程度のことしか書けず、適用要件も減税額も、記述しきることができなくなっているのではないかと。
下手に単純化して書こうとすると、不正確極まりない内容になってしまうでしょうし。
その手の記事、最近はおよそ目にも入ってこないので、単なる邪推ですが。
◯
話は戻って。
上記一連の記事では、掛金納付の「損金」算入側をメインに扱っていました。
が、解約手当金の「益金」算入についても、いまいちしっくりこないところがあり。
素朴な《簿記脳》からすれば、次のような図式が思い浮かびます。
A 掛金納付:費用 ⇒ 解約手当金:収益
B 掛金納付:資産 ⇒ 解約手当金:△資産
掛金納付時に費用計上したなら解約手当金は収益となる(A)、掛金納付時に資産計上したなら解約手当金は資産のマイナスになる(B)、と。
が、税法の側ではストレートな「費用=損金」「収益=益金」という図式は成り立たず。それぞれ法令に定めるところに従います。
損金・益金についての原則ルールが「法人税法22条2項・3項」です。
法人税法第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
これだけで済めば、まだよいのですが。残念ながらそんな単純な話ではない。
各項にいう「別段の定め」によって原則ルールが歪められています。
◯
「歪められている」という言い方をしたのはなぜかというと。税法世界では、美しい簿記世界とは異なり、必ずしもプラス/マイナス、表/裏が一致するとは限らないからです。
たとえば、「交際費」の損金不算入ルール。
支払った側が損金不算入となるのに、もらった側(接待を受けた人ではなく利用店舗のほう)は普通に売上として益金算入しなければなりません。
支払側:損金不算入(措置法61条の4)
売上側:益金算入(原則)
「一方がマイナスなら他方はプラスのはず」という素朴な感覚が、税法世界では通用しません。表裏を揃える必要がある場合には、「グループ法人税制」の寄附金・受贈益ルールのように、
あげた側: 損金不算入(法人税法37条2項)
もらった側:益金不算入(法人税法25条の2)
と、両面から規定しなければなりません。
それぞれの条文の場所からも分かるとおり、「グループ法人税制における贈与/受贈ルール」という単体の制度があるわけではなく。益金ルールと損金ルールが別々に規定されています。
◯
ちなみに、グループ法人税制の寄附金・受贈益ルールが、条文編成において散らかってしまっている理由。
税法の構成が
本法; 恒久的・原則
措置法:一時的・例外
の二本立てとなっていることが要因かなあと。
というのも、グループ法人税制、「完全支配関係」にある法人間に関する制度という意味では、例外的な制度のはずです。なので、措置法に法人税法の特例としてまとめて規定してもよかったはずです。
が、恒久的な制度でもあるがゆえに、法人税法本法に組み込まざるをえなかったと。で、寄附金・受贈益については、法人税法の中に個別ルールが書かれているから、それぞれ切り出してその中に配置せざるをえなかったのではないかと。
◯
もうひとつ余談。
本ブログにおいて、『消費税法の理論構造』というサブタイトルのもとで長々と記事を書き連ねているやつ。あれこれ書いているものの、本当に言いたいことは唯一つ。
「消費税法の条文をあるがままに理解するかぎり、売上課税ルールと仕入控除ルールはそれぞれ別の原理で作動している」
ということです。売上側は譲渡すれば問答無用で課税されるのに、仕入側は、あれやこれやの制約により控除ができるとはかぎらないことになっています。
《両輪駆動》云々といった妄言は「だったらいいな」レベルの与太話であって。およそ現実の消費税法の構造を表す表現とはなっていません。
法人税法における「益金/損金」も、消費税法における「課税/控除」も、素朴な《オセロ思考》は通用せず。それぞれの規定に従って要件該当性を判断する必要があるということです。
※オセロ思考とは:表が白なら裏は当然黒だろ、と思い込む考えのこと。
◯
で、話は「倒産防」に戻ってきます。
まず掛金納付が「損金」となるかというに。
「納付月数40ヶ月で返戻率100%に到達し、その後目減りすることがない」なんてもの、保険通達のノリからすれば、100%資産だと言われてもおかしくないはずです。それを措置法が100%損金に全振りしているというのは、措置法の政策立法としての面目躍如、ということでしょう。
また、解約後2年は損金算入できないとしたり、通達レベルで前納1年までに制限しちゃっているのも、そもそも法人税法の原則からすればとても損金とはいえないものを、措置法様が損金にしてあげているだけのものだから、だとすれば納得がいきます。
「別表添付しなきゃ損金算入させねえよ」(措置法66条の11第2項)というところも、一見傲慢に感じますが。もともと損金じゃないものを特別に損金算入認めてやっている、という点からすれば正当化できるでしょうか。
◯
そのことを前提として。問題は「益金」のほうです。
もともと損金とならない掛金を措置法によって損金にしているだけ、ということを前提とするならば。その掛金の戻りである解約手当金も、何らかの規定がないかぎり益金とはなりえないのではないでしょうか。
掛金納付: 資産(原則) ⇒ 損金(措置法)
解約手当金:資産マイナス?(原則) ⇒(規定なし)
表裏を揃えるには、上述の「グループ法人税制」のとおり、両面から規定しなければなりません。が、(私の見落としがなければですが)、解約手当金を益金算入する旨の規定は見当たらないですよね。
「掛金納付が損金算入なら、解約手当金は当然に益金算入」というのは、文言上はいえないことになります。
では、法人税法22条の解釈論として「掛金納付は3項の損金にあたらないが、解約手当金は2項の益金にあたる」ということを導くことは可能でしょうか。
原則:掛金納付は本来は資産なので損金算入できない。
例外:措置法が特別に損金算入を認めている。
という損金側の構成を前提としつつ、解約手当金を益金と解釈するのは、極めて困難です。
掛金納付の資産性を根拠付けているのは解約手当金が戻ってくるからであり。預けた資産が戻ってきただけならば、益金とは言い難いでしょう。
措置法は、掛金納付が会計上の「費用」だと解釈しているのではなく。ダイレクトに税法上の「損金」と扱っているだけです。
この帰結を回避しようとして、解約手当金は預けた掛金がそのまま戻ってきたものではない、と性質が別だとして切り離そうとすると、今度は掛金の資産性を根拠付けるものがなくなってしまいます。
掛金納付が資産でないなら、わざわざ措置法によるまでもなく損金算入できることになってしまいます。
これらのことからすると、解約手当金が益金であることについて法令上の根拠は特にない、ということになりはしないでしょうか。
◯
解約手当金の益金算入を根拠付ける条文がない、などという畢竟独自の見解。一般の通念におもいっきり反することであり。
私がものすごい思い違いをしているだけのようにも思うので、実務において主張するつもりは全くありません。仮に裁判になったとして、裁判所が「アクロバティック趣旨解釈」に依拠して『益金算入当たり前!』みたいな判決を出すことも、容易に想像できるところ。
以下の高裁判決、私個人は、文言ガン無視の「アクロバティック趣旨解釈」の一味だと思っているのですが。残念ながら、一般には積極的に受け入れられているようですし。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
ということで、皆様方におかれましては、各自の信ずるところに従って税法解釈を展開されてみてください。
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
私のような条文イジり屋の出る幕など、何も無いと思っていたのですが。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
意識が低いとなかなか気づきにくいだけであって。何ごとにも、何かしらの「イジり代(しろ)」があるものですね。
◯
以下、いきなり余談。
近ごろは税制があまりにも複雑怪奇になりすぎて、節税ライターの方々の扱えるネタ、この倒産防と短期前払費用の特例くらいしかなくなっているんじゃないですかね。
研究開発税制・設備投資税制・所得拡大促進税制あたりは、使えるものならガンガン活用していくべきもののはずですが。節税ライターの皆さんが免罪符として宣う「一般の方にも分かりやすく記述する。」という執筆方針では「給与増やしたら税金減るよ(詳しくは税務署へ)」程度のことしか書けず、適用要件も減税額も、記述しきることができなくなっているのではないかと。
下手に単純化して書こうとすると、不正確極まりない内容になってしまうでしょうし。
その手の記事、最近はおよそ目にも入ってこないので、単なる邪推ですが。
◯
話は戻って。
上記一連の記事では、掛金納付の「損金」算入側をメインに扱っていました。
が、解約手当金の「益金」算入についても、いまいちしっくりこないところがあり。
素朴な《簿記脳》からすれば、次のような図式が思い浮かびます。
A 掛金納付:費用 ⇒ 解約手当金:収益
B 掛金納付:資産 ⇒ 解約手当金:△資産
掛金納付時に費用計上したなら解約手当金は収益となる(A)、掛金納付時に資産計上したなら解約手当金は資産のマイナスになる(B)、と。
が、税法の側ではストレートな「費用=損金」「収益=益金」という図式は成り立たず。それぞれ法令に定めるところに従います。
損金・益金についての原則ルールが「法人税法22条2項・3項」です。
法人税法第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
これだけで済めば、まだよいのですが。残念ながらそんな単純な話ではない。
各項にいう「別段の定め」によって原則ルールが歪められています。
◯
「歪められている」という言い方をしたのはなぜかというと。税法世界では、美しい簿記世界とは異なり、必ずしもプラス/マイナス、表/裏が一致するとは限らないからです。
たとえば、「交際費」の損金不算入ルール。
支払った側が損金不算入となるのに、もらった側(接待を受けた人ではなく利用店舗のほう)は普通に売上として益金算入しなければなりません。
支払側:損金不算入(措置法61条の4)
売上側:益金算入(原則)
「一方がマイナスなら他方はプラスのはず」という素朴な感覚が、税法世界では通用しません。表裏を揃える必要がある場合には、「グループ法人税制」の寄附金・受贈益ルールのように、
あげた側: 損金不算入(法人税法37条2項)
もらった側:益金不算入(法人税法25条の2)
と、両面から規定しなければなりません。
それぞれの条文の場所からも分かるとおり、「グループ法人税制における贈与/受贈ルール」という単体の制度があるわけではなく。益金ルールと損金ルールが別々に規定されています。
◯
ちなみに、グループ法人税制の寄附金・受贈益ルールが、条文編成において散らかってしまっている理由。
税法の構成が
本法; 恒久的・原則
措置法:一時的・例外
の二本立てとなっていることが要因かなあと。
というのも、グループ法人税制、「完全支配関係」にある法人間に関する制度という意味では、例外的な制度のはずです。なので、措置法に法人税法の特例としてまとめて規定してもよかったはずです。
が、恒久的な制度でもあるがゆえに、法人税法本法に組み込まざるをえなかったと。で、寄附金・受贈益については、法人税法の中に個別ルールが書かれているから、それぞれ切り出してその中に配置せざるをえなかったのではないかと。
◯
もうひとつ余談。
本ブログにおいて、『消費税法の理論構造』というサブタイトルのもとで長々と記事を書き連ねているやつ。あれこれ書いているものの、本当に言いたいことは唯一つ。
「消費税法の条文をあるがままに理解するかぎり、売上課税ルールと仕入控除ルールはそれぞれ別の原理で作動している」
ということです。売上側は譲渡すれば問答無用で課税されるのに、仕入側は、あれやこれやの制約により控除ができるとはかぎらないことになっています。
《両輪駆動》云々といった妄言は「だったらいいな」レベルの与太話であって。およそ現実の消費税法の構造を表す表現とはなっていません。
法人税法における「益金/損金」も、消費税法における「課税/控除」も、素朴な《オセロ思考》は通用せず。それぞれの規定に従って要件該当性を判断する必要があるということです。
※オセロ思考とは:表が白なら裏は当然黒だろ、と思い込む考えのこと。
◯
で、話は「倒産防」に戻ってきます。
まず掛金納付が「損金」となるかというに。
「納付月数40ヶ月で返戻率100%に到達し、その後目減りすることがない」なんてもの、保険通達のノリからすれば、100%資産だと言われてもおかしくないはずです。それを措置法が100%損金に全振りしているというのは、措置法の政策立法としての面目躍如、ということでしょう。
また、解約後2年は損金算入できないとしたり、通達レベルで前納1年までに制限しちゃっているのも、そもそも法人税法の原則からすればとても損金とはいえないものを、措置法様が損金にしてあげているだけのものだから、だとすれば納得がいきます。
「別表添付しなきゃ損金算入させねえよ」(措置法66条の11第2項)というところも、一見傲慢に感じますが。もともと損金じゃないものを特別に損金算入認めてやっている、という点からすれば正当化できるでしょうか。
◯
そのことを前提として。問題は「益金」のほうです。
もともと損金とならない掛金を措置法によって損金にしているだけ、ということを前提とするならば。その掛金の戻りである解約手当金も、何らかの規定がないかぎり益金とはなりえないのではないでしょうか。
掛金納付: 資産(原則) ⇒ 損金(措置法)
解約手当金:資産マイナス?(原則) ⇒(規定なし)
表裏を揃えるには、上述の「グループ法人税制」のとおり、両面から規定しなければなりません。が、(私の見落としがなければですが)、解約手当金を益金算入する旨の規定は見当たらないですよね。
「掛金納付が損金算入なら、解約手当金は当然に益金算入」というのは、文言上はいえないことになります。
では、法人税法22条の解釈論として「掛金納付は3項の損金にあたらないが、解約手当金は2項の益金にあたる」ということを導くことは可能でしょうか。
原則:掛金納付は本来は資産なので損金算入できない。
例外:措置法が特別に損金算入を認めている。
という損金側の構成を前提としつつ、解約手当金を益金と解釈するのは、極めて困難です。
掛金納付の資産性を根拠付けているのは解約手当金が戻ってくるからであり。預けた資産が戻ってきただけならば、益金とは言い難いでしょう。
措置法は、掛金納付が会計上の「費用」だと解釈しているのではなく。ダイレクトに税法上の「損金」と扱っているだけです。
この帰結を回避しようとして、解約手当金は預けた掛金がそのまま戻ってきたものではない、と性質が別だとして切り離そうとすると、今度は掛金の資産性を根拠付けるものがなくなってしまいます。
掛金納付が資産でないなら、わざわざ措置法によるまでもなく損金算入できることになってしまいます。
これらのことからすると、解約手当金が益金であることについて法令上の根拠は特にない、ということになりはしないでしょうか。
◯
解約手当金の益金算入を根拠付ける条文がない、などという畢竟独自の見解。一般の通念におもいっきり反することであり。
私がものすごい思い違いをしているだけのようにも思うので、実務において主張するつもりは全くありません。仮に裁判になったとして、裁判所が「アクロバティック趣旨解釈」に依拠して『益金算入当たり前!』みたいな判決を出すことも、容易に想像できるところ。
以下の高裁判決、私個人は、文言ガン無視の「アクロバティック趣旨解釈」の一味だと思っているのですが。残念ながら、一般には積極的に受け入れられているようですし。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
ということで、皆様方におかれましては、各自の信ずるところに従って税法解釈を展開されてみてください。
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
posted by ウロ at 11:54| Comment(0)
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