いやまさか、節税ライターの方々が噛んで噛んで、味のしなくなっている倒産防ネタについて、ここまで続くとは思っていませんでした。
ので、タイトルも「続」「続々」なんてつけていたのですが。足りなくなって、あとから「その◯」に変えることとしました。
みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習
何を論じていたかを整理すると次のとおり。当初は法人想定だったのが、小規模との対比のため個人へ移りました。そのまま中退共も個人前提で対比をしました。
その1 倒産防(法人) 損金、前納
その2 倒産防(法人) R6税制改正大綱
その3 倒産防(法人) 条文構造、費用性
その4 倒産防(法人) 益金/損金
その5 倒産防(法人) R6改正法律案
その6 倒産防(個人) 小規模(個人)との対比
その7 倒産防(個人) 中退共(個人)との対比
その8 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
その9 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
その9までで漏れているのが「中退共(法人)」。なので、今回はこの条文を貼り付けるところから始めます。
その10 倒産防(法人) 中退共(法人)との対比
◯
損金算入できることについては、中退共(個人)と同様、政令に規定されています。
法人税法施行令 第百三十五条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入)
1 内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は信託金等若しくは預入金等の払込みに充てるための金銭を支出した場合には、その支出した金額(第二号に掲げる掛金又は保険料の支出を金銭に代えて株式をもつて行つた場合として財務省令で定める場合には、財務省令で定める金額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は所得税法施行令第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者(事業主が退職金共済事業を行う団体に掛金を納付し、その団体がその事業主の雇用する使用人の退職について退職給付金を支給することを約する退職金共済契約に基づき、その退職給付金の支給を受けるべき者をいう。)のために支出した掛金(同令第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付する金額を含む。)
中退共(個人)は「給与所得」のおまけと規定されていました。が、中退共(法人)は、きちんと損金のところに規定されています。
法令レベルではこれだけ。では、通達はどうなっているかというと。
法人税基本通達 9−3−1(退職金共済掛金等の損金算入の時期)
法人が支出する令第135条各号《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は預入金等の額は、現実に納付(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)又は払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができないことに留意する。
専用の通達はこれだけ。現実の納付が必要で未払は不可だと。
当然といえば当然ですが、中退共(個人)にあった「確定申告期限までに納付したら未払でもOK」というイカれた例外ルールは、中退共(法人)には存在しません。
前納については専用規定がありません。ので、中退共(個人)同様、汎用規定である「短期前払費用の特例」が使えるものと捉えておきます。
法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
◯
中退共(個人)との比較で特徴的なのが、月割規定が存在しないことです。
所得税基本通達 37−30(前納掛金等の必要経費算入)
37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)
月割規定の有無について、その他制度を含めて並べてみると次のとおりとなっています。
【月割規定の有無】
倒産防(法人) ×
倒産防(個人) ×
中退共(法人) ×
中退共(個人) ◯
小規模(個人) ◯
そうすると、法人が中退共を前納した場合、月割で算入することはできないということでしょうか。
◯
前座として、月割規定がないからといって当然に「月割はできない」と解釈されるわけではない、ということを説明しておきます。
ここまでの記事では、通達を丸呑みにした上で、法にも通達に月割規定がないということは、法の趣旨として月割をしないという意味だという前提で記述してきました。
が、規定がない場合に「文言解釈」から導かれることは「規定がない」というだけです。「月割りをする」とか「しない」という結論までいくには、文言解釈以外の解釈操作が必要となります。
結論として「月割しない」というのであれば、それは「月割をすべきでない」という価値判断のもと反対解釈をしていることになります。規定がない、というただそれだけから結論を導いているわけではありません。
ただの邪推ですが、中途半端に「要件事実論的思考」が頭に入っていると、『不明な場合は不適用に決め打ちしてもよい』と誤解してしまうような気がします。
が、要件事実論で決め打ちできるのは、あくまでも事実認定レベルで真偽不明となった場合の話であって。法解釈レベルにおいては、解釈権限を有する裁判官が、自己の責任において一定の結論を出さなければなりません。
近時の民法の教科書の中には、やたらと要件事実論に阿った記述をしているものがあり。そのせいで、実体法レベルの要件と、訴訟で使う用に改変された要件事実とを混同してしまうのかもしれません。
一緒くたにしてしまうの、短期間で民法も要件事実論も学習するには効率的なやり方かもしれません。が、別々のレベルの問題であることは、最初の学習段階でしっかり叩き込んでおいたほうがよいと思います。
なんでこんな余計なことを言うかというに。
下記のような、実体法上の要件についての議論をきちんと詰めないまま、要件事実論に手を出すことで悲惨な事態に陥ってしまう状況が、見るに耐えないからです。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
実体法上の要件がふんわりしたまま、それを要件事実に翻訳するなんてできない、という基本的なお作法がどうも理解されていないように感じるわけです。
余談ついでに。
「租税法律主義」を根拠として『文言解釈が原則』という方々がいるのですが。ここで月割すべきかどうかを導くにあたって「文言解釈」だけではどうにもなりません。書いてないんだから。
租税法で法解釈が問題となる場面において、「文言解釈」一本でどうにかなる領域なんてほとんどないと思うのですが。やたらと文言解釈を過大評価しているように感じます。
◯
盛大に話がズレたので、元に戻ります。
結論としては、月割規定がなくても月割できると考えます。
というのも、中退共は、一度充当されたら支払った法人・事業主に戻ってこないという点で費用性が高いといえます。そのため、原則規定である法人税法22条3項2号が適用されて、「期間対応」ルールに従うことになると思われるからです。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
ただ、その理屈でいうと、中退共(個人)も所得税法37条1項により「期間対応」が適用されるのに、なぜ通達に「月割規定」があるのか疑問が出てきます。
所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
この点は、「中退共(個人)は未払計上に関するイカれた例外ルールがあるので、原則である月割を明記しておいた。」と説明できるでしょうか。
月割規定がなくても法の「期間対応」ルールで対応できるものの。イカれた例外ルールが使える範囲を明確にしておくため、通達にも月割規定を盛り込んでおいたと。
もちろん、こんなものはただの後付けにすぎません。法人・個人それぞれの通達立案者がそんなことを意識して、書き分けをしたわけではないでしょう。
が、それらしい説明にはなっていると思うので、何かで困ったらこの説明を使って、凌いでいただければ。
◯
では翻って、同じく月割規定のない倒産防(法人)・倒産防(個人)も、月割算入できるでしょうか。
中退共が月割算入できることの根拠は、費用性の高いものなので法の規定する「期間対応」が適用されることによるものでした。他方で、倒産防は極めて資産性の高いものであり、措置法により無理やり損金・必要経費にしているにすぎないといえます。
そうすると、倒産防には「期間対応」が適用されず、支払ったときに全額算入できるか全額算入できないかのどちらかしかないことになるのではないでしょうか。
このような解釈を前提としているのかどうかよく分かりませんが、「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」「別表10(7)」では、「当期・当年に支出したもの」だけが損金・必要経費に算入できる書きぶりとなっています。
ので、翌期・翌年になって充当されたタイミングでは、損金・必要経費に算入することはできないということになるかと。
◯
小規模共済(個人)については、「所得控除」のカテゴリに入っているので、あえて倒産防・中退共との整合性を求める必要はそれほど高いとは思いません。
が、現行の所得税法が本当に《包括的所得概念》を採用しているというならば、いずれも所得の減少事由として共通するはずであり、同一の理由付けによる必要があるでしょう。
ということで、《包括的所得概念》の支持者の方々は、今回の月割の問題にかぎらず、前納ルールや2年制限ルールなど、各制度で不揃いになっていることについて、『純資産の増加+消費』という公式から統一的な説明をしていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
2024年03月25日
みんな大好き!倒産防(その10) 〜月割できる奴は誰だ!
posted by ウロ at 12:14| Comment(0)
| 法人税法
2024年03月18日
みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習編
倒産防、小規模共済、中退共の、それぞれの通達の書きぶりの違いを、事例演習を通して整理しておきます。
みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き
以下では「法令・通達に記載のないものはおよそ否定される」という《ラディカル文言解釈+反対解釈》に基づいたあてはめをしていきます。
もちろん、通達を文言解釈・反対解釈するなんてのは、法解釈のお作法を知らない阿呆のやることですが。あえてそれをやってみます。
◯
以下の事例では「個人が令和6年12月に掛金を納付する」という点のみ共通で、納付月数をずらしていきます。なお、現実世界の「前納上限」は無視して、あくまでも仮想例として検討します。
【事例1】
2024年12月分(1ヶ月分)を納付した。
12月分を必要経費算入・所得控除できるか?(以下では「算入・控除」と略します)
A 倒産防 必要経費に算入する
B 小規模 所得控除する
C 中退共 必要経費に算入する
これは当たり前じゃん、と思うかもしれません。通達によるまでもなく、法律レベルで算入・控除できるものだろうと。
確かに、法律の《文言解釈》によるかぎりはそのとおりです。が、そもそもこれらの掛金が算入・控除できる実質的な根拠がよく分からないわけです。どのような根拠かによって、前納した場合や収入の扱いをどうやって説明するかも変わってくるはずです。
中退共については、一度納付したら、その後解約してももはや事業主の元に戻ってくることはないので、算入されるのはまだ分かります。
他方で、退職金の積立である小規模共済や、納付40ヶ月で返戻率100%に達する倒産防が、なぜ全額算入・控除できるのかがよく分かりません。
みんな大好き《包括的所得概念》に従えば、いずれも「純資産の減少」として統一的に説明できるはずです ので、支持者の方々は、ぜひご説明いただければと思います。
といった問題があるわけですが、以下では当月分は当然に算入・控除できる前提で進めます。
【事例2】
2024年12月分〜2025年11月分(1年分)を納付した。
12月分のみを算入・控除できるか?
A 倒産防 できない(?)
B 小規模 できる
C 中退共 できる
倒産防通達には月割規定がないため、12月分のみ算入するということはできません。倒産防の場合は、納付した分全額算入する/全額算入しないのいずれかになると。
のはずなんですが。「明細書」に12月分だけを記載したらどうなるでしょうか。
倒産防通達の書きぶりからすれば一部算入は不可能なはずです。が、運営が出している明細書によると、「当年に支出した負担金等の額C」と「同上のうち必要経費に算入した額D」を別々に記入することになっています。
特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書(国税庁)
そこで、上に1年分の金額、下に1ヶ月分の金額だけ記載すれば、12月分だけ算入することができそうです。これは、国税庁ですら、ここまで馬鹿正直に通達を文言解釈していないということなのでしょうか。
ただ問題は、2025年に残りの11ヶ月分(2025年1月分〜11月分)を算入できるかです。
この点は「当年」に支出していない以上、明細書に記載できる額がないので、算入できないとなるのでしょう。
これ、月割規定がないと分かった上であえて二段に分けているとしたら、罠みたいなものでかなり性格が悪い。
【事例3】
2024年12月分〜2025年11月分(1年分)を納付した。
1年分全額を算入・控除できるか?
A 倒産防 する
B 小規模 差し支えない
C 中退共 認める(継続適用)
それぞれ言い回しが異なります。倒産防については「できる」ではなく「する」と書かれています。
もし算入したくないのであれば、「明細書」を添付しないことによって形式要件を外すことになるでしょうか。が、支出年度である2024年に算入しなかったら、2025年には算入できなくなります。
また、明細書を添付しないことによって算入しなかったとして、これに対応する「解約手当金」は当然に収入に算入しなくてよいことになるでしょうか。
「収入金額/必要経費」の判定を、単純な《オセロ思考》によってよいのか、についてはすでに検討したところです。「明細書を添付しない」という形式要件を満たすかどうかによって、解約手当金の収入該当性という実質要件の帰結が左右される、なんてことがあるでしょうか。
【事例4】
2024年12月分〜2026年11月分(2年分)を納付した。
12月分を算入・控除できるか?
A 倒産防 できない(?)
B 小規模 できる
C 中退共 できる
【事例2】と同じ帰結になります。
倒産防通達では、「前納1年以内」以外は掛金に該当しないと書かれているため、本事例では措置法上の掛金を支払っていないと扱われることになります。とすると、「当年に支出した負担金等の額C」が存在しないとして、明細書Dに12月分だけ記載するというテクニックが使えないことになりそうです。
【事例5】
2024年12月分〜2026年11月分(2年分)を納付した。
うち1年分を算入・控除できるか?
A 倒産防 できない
B 小規模 できない
C 中退共 できない
いずれも、通達の書きぶりからは、前納した掛金が「1年以内」のものでないかぎりは前納規定が適用されないと読めます。
ただ、小規模共済、中退共は月割規定があることで充当年度が到来すれば算入・控除できるのに対し。倒産防は月割規定がないため、いつになっても算入できることにはならない、ということになります。
◯
以上、通達の文言解釈+反対解釈から導かれる帰結を、馬鹿正直に記述しただけのものとなります。
それぞれの帰結が妥当なのか、特にAとBCで違いがあることはどのように説明ができるか、などよく分からないところが残ったままです。
みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き
以下では「法令・通達に記載のないものはおよそ否定される」という《ラディカル文言解釈+反対解釈》に基づいたあてはめをしていきます。
もちろん、通達を文言解釈・反対解釈するなんてのは、法解釈のお作法を知らない阿呆のやることですが。あえてそれをやってみます。
◯
以下の事例では「個人が令和6年12月に掛金を納付する」という点のみ共通で、納付月数をずらしていきます。なお、現実世界の「前納上限」は無視して、あくまでも仮想例として検討します。
【事例1】
2024年12月分(1ヶ月分)を納付した。
12月分を必要経費算入・所得控除できるか?(以下では「算入・控除」と略します)
A 倒産防 必要経費に算入する
B 小規模 所得控除する
C 中退共 必要経費に算入する
これは当たり前じゃん、と思うかもしれません。通達によるまでもなく、法律レベルで算入・控除できるものだろうと。
確かに、法律の《文言解釈》によるかぎりはそのとおりです。が、そもそもこれらの掛金が算入・控除できる実質的な根拠がよく分からないわけです。どのような根拠かによって、前納した場合や収入の扱いをどうやって説明するかも変わってくるはずです。
中退共については、一度納付したら、その後解約してももはや事業主の元に戻ってくることはないので、算入されるのはまだ分かります。
他方で、退職金の積立である小規模共済や、納付40ヶ月で返戻率100%に達する倒産防が、なぜ全額算入・控除できるのかがよく分かりません。
みんな大好き《包括的所得概念》に従えば、いずれも「純資産の減少」として統一的に説明できるはずです ので、支持者の方々は、ぜひご説明いただければと思います。
といった問題があるわけですが、以下では当月分は当然に算入・控除できる前提で進めます。
【事例2】
2024年12月分〜2025年11月分(1年分)を納付した。
12月分のみを算入・控除できるか?
A 倒産防 できない(?)
B 小規模 できる
C 中退共 できる
倒産防通達には月割規定がないため、12月分のみ算入するということはできません。倒産防の場合は、納付した分全額算入する/全額算入しないのいずれかになると。
のはずなんですが。「明細書」に12月分だけを記載したらどうなるでしょうか。
倒産防通達の書きぶりからすれば一部算入は不可能なはずです。が、運営が出している明細書によると、「当年に支出した負担金等の額C」と「同上のうち必要経費に算入した額D」を別々に記入することになっています。
特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書(国税庁)
そこで、上に1年分の金額、下に1ヶ月分の金額だけ記載すれば、12月分だけ算入することができそうです。これは、国税庁ですら、ここまで馬鹿正直に通達を文言解釈していないということなのでしょうか。
ただ問題は、2025年に残りの11ヶ月分(2025年1月分〜11月分)を算入できるかです。
この点は「当年」に支出していない以上、明細書に記載できる額がないので、算入できないとなるのでしょう。
これ、月割規定がないと分かった上であえて二段に分けているとしたら、罠みたいなものでかなり性格が悪い。
【事例3】
2024年12月分〜2025年11月分(1年分)を納付した。
1年分全額を算入・控除できるか?
A 倒産防 する
B 小規模 差し支えない
C 中退共 認める(継続適用)
それぞれ言い回しが異なります。倒産防については「できる」ではなく「する」と書かれています。
もし算入したくないのであれば、「明細書」を添付しないことによって形式要件を外すことになるでしょうか。が、支出年度である2024年に算入しなかったら、2025年には算入できなくなります。
また、明細書を添付しないことによって算入しなかったとして、これに対応する「解約手当金」は当然に収入に算入しなくてよいことになるでしょうか。
「収入金額/必要経費」の判定を、単純な《オセロ思考》によってよいのか、についてはすでに検討したところです。「明細書を添付しない」という形式要件を満たすかどうかによって、解約手当金の収入該当性という実質要件の帰結が左右される、なんてことがあるでしょうか。
【事例4】
2024年12月分〜2026年11月分(2年分)を納付した。
12月分を算入・控除できるか?
A 倒産防 できない(?)
B 小規模 できる
C 中退共 できる
【事例2】と同じ帰結になります。
倒産防通達では、「前納1年以内」以外は掛金に該当しないと書かれているため、本事例では措置法上の掛金を支払っていないと扱われることになります。とすると、「当年に支出した負担金等の額C」が存在しないとして、明細書Dに12月分だけ記載するというテクニックが使えないことになりそうです。
【事例5】
2024年12月分〜2026年11月分(2年分)を納付した。
うち1年分を算入・控除できるか?
A 倒産防 できない
B 小規模 できない
C 中退共 できない
いずれも、通達の書きぶりからは、前納した掛金が「1年以内」のものでないかぎりは前納規定が適用されないと読めます。
ただ、小規模共済、中退共は月割規定があることで充当年度が到来すれば算入・控除できるのに対し。倒産防は月割規定がないため、いつになっても算入できることにはならない、ということになります。
◯
以上、通達の文言解釈+反対解釈から導かれる帰結を、馬鹿正直に記述しただけのものとなります。
それぞれの帰結が妥当なのか、特にAとBCで違いがあることはどのように説明ができるか、などよく分からないところが残ったままです。
posted by ウロ at 12:58| Comment(0)
| 所得税法
2024年03月11日
みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き
前回までの記事で、倒産防、小規模共済、中退共とで、通達の座組みが異なることを記述しました。
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
みんな大好き!倒産防(その7) 〜中退共もお好きでしょ
整理すると次のとおり(比較のため、個人で揃えます)。
A 倒産防
措置法 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2
通達3 1年以内を除いて「掛金」に該当しない。
B 小規模共済
所法 掛金を支払った場合、所得から控除する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2 前納は到来分のみ控除できる。
通達3 1年以内であれば支払った金額としても差し支えない。
C 中退共
所令 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 現実に支払ったら。確定申告期限までに支払ったら未払計上でもよい。
通達2 前納は到来分のみ必要経費に算入できる。
通達3 1年以内であればこれを認める(短期前払費用の特例)。
(以下、2023年12月に、2023年12月分〜2024年11月分を前納したという事例を想定しながら記述します。)
◯
前納1年ルールについて以前検討したときは、A倒産防通達が、法律で認められている経費算入を制限しているのか、それとも法律を超えて経費算入を拡張しているのかが分からない、ということを述べました。
この点につき、B小規模共済通達・C中退共通達の書きぶりと比べると、次のことがいえそうです。
すなわち、BCとも、通達2によって、法律上はあくまでも充当分だけを控除・算入できると解釈しています。そのうえで、通達3により1年分の控除・算入も認めてあげる、となっています。
他方で、Aでは通達2に相当するものがなく。通達3で、措置法上の掛金が「前納1年以内」なんだと解釈している、という書きぶりとなっています。
つまり、法律で認められていないものを通達で広げているのではなく。措置法の「掛金」そのものが「前納1年以内」だと解釈していることになっています。
この解釈が正しいかどうかは別として。A通達3は、その書きぶりからして緩和通達でも制限通達でもなく。ただの「解釈通達」だと自認しているものといえます。
・法令レベルのルール
A 倒産防 1年以内(措置法+A通達3による解釈)
B 小規模共済 充当分のみ(所得税法+B通達2による解釈)
C 中退共 充当分のみ(所得税法施行令+C通達2による解釈)
・通達による拡張ルール
A 倒産防 なし
B 小規模共済 1年以内(B通達3による拡張)
C 中退共 1年以内(C通達3による拡張)
◯
以上の交通整理を前提とすると、たとえば「2年分前納」した場合の取り扱い、それぞれの結論は次のとおりとなります(現実の「前納上限」はさしあたり無視します)。
A 倒産防
1年超は掛金に該当しないので、全額必要経費算入できない。
B 小規模共済
B通達2により、充当分のみ所得控除できる。
C 中退共
C通達2により、充当分のみ必要経費算入できる。
BCは、通達2があることにより、充当分だけ控除・算入できることになります。他方で、Aでは、1年超はそもそも掛金に該当しないとされてしまっており、通達2に対応するものがないので、全額損金算入が否定されるということになります。
このような違いが妥当かどうかは議論の余地がありますが、通達を丸呑みするならば、このような結論となるはずです。
◯
倒産防通達がこのようなものだとして。今回の改正で追加される「2年制限ルール」と現行の倒産防通達との関係も気になるところ。
次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
解約から1年11ヶ月後に1年分前納した。前納した1年分のうち11ヶ月分は必要経費算入できるか。
改正法では、2年経過までに「支出する」と書いてあるので、解約〜支出までが2年空いているかどうかによって判定されることになると思われます。
この事例では、納付月の1ヶ月分を除く11ヶ月分は、解約から2年経過後に毎月充当されていくものです。とすると、充当された各時点で「支出した」ことになり、それぞれの月ごとに必要経費算入できるでしょうか。
この点、倒産防にはBC通達2に相当するものがありません。そのため、現実に支出した前納時にすべて「支出した」ことになります。
結果、1年分全額が2年以内に支払ったものとなるため、必要経費算入できないとなるかと思われます。
【改正後の構造】
措置法1 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2 無し。
通達3 1年以内を除いて「掛金」に該当しない。
措置法2 解約後2年以内の支出は必要経費に算入しない。
現実に支払っているし(通達1)、前納1年以内なので(通達3)、措置法1により必要経費に算入できるかと思いきや。通達2がないせいで2年以内に1年分すべてを支出していることになるため、必要経費に算入できない(措置法2)ということになります。
◯
以上は、あくまでも現行のABC通達のそれぞれの書き分けを前提として、経路依存的に辿っていったらどういう帰結になるか、を検討したものにすぎません。
これらの書き分けが本当に正当性のあるものなのかについては、何らの評価も入れていません。
例によって、この手の地に足のついた議論を頭のいい学者先生が展開してくれることは望めません。
だからといって、場末の税理士が畢竟独自の見解を唱えたところで虚無でしょう。なので、我々野良税理士は、適度な落とし所を探りつつ、有りモノでどうにか遣り繰りしていくしかないのが現状です。
しかしまあ、法解釈の権限も責務も有する裁判所が「通達の文言解釈」なんかやり出すのは、どう考えても職務放棄(だった)でしょうよ。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
みんな大好き!倒産防(その7) 〜中退共もお好きでしょ
整理すると次のとおり(比較のため、個人で揃えます)。
A 倒産防
措置法 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2
通達3 1年以内を除いて「掛金」に該当しない。
B 小規模共済
所法 掛金を支払った場合、所得から控除する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2 前納は到来分のみ控除できる。
通達3 1年以内であれば支払った金額としても差し支えない。
C 中退共
所令 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 現実に支払ったら。確定申告期限までに支払ったら未払計上でもよい。
通達2 前納は到来分のみ必要経費に算入できる。
通達3 1年以内であればこれを認める(短期前払費用の特例)。
(以下、2023年12月に、2023年12月分〜2024年11月分を前納したという事例を想定しながら記述します。)
◯
前納1年ルールについて以前検討したときは、A倒産防通達が、法律で認められている経費算入を制限しているのか、それとも法律を超えて経費算入を拡張しているのかが分からない、ということを述べました。
この点につき、B小規模共済通達・C中退共通達の書きぶりと比べると、次のことがいえそうです。
すなわち、BCとも、通達2によって、法律上はあくまでも充当分だけを控除・算入できると解釈しています。そのうえで、通達3により1年分の控除・算入も認めてあげる、となっています。
他方で、Aでは通達2に相当するものがなく。通達3で、措置法上の掛金が「前納1年以内」なんだと解釈している、という書きぶりとなっています。
つまり、法律で認められていないものを通達で広げているのではなく。措置法の「掛金」そのものが「前納1年以内」だと解釈していることになっています。
この解釈が正しいかどうかは別として。A通達3は、その書きぶりからして緩和通達でも制限通達でもなく。ただの「解釈通達」だと自認しているものといえます。
・法令レベルのルール
A 倒産防 1年以内(措置法+A通達3による解釈)
B 小規模共済 充当分のみ(所得税法+B通達2による解釈)
C 中退共 充当分のみ(所得税法施行令+C通達2による解釈)
・通達による拡張ルール
A 倒産防 なし
B 小規模共済 1年以内(B通達3による拡張)
C 中退共 1年以内(C通達3による拡張)
◯
以上の交通整理を前提とすると、たとえば「2年分前納」した場合の取り扱い、それぞれの結論は次のとおりとなります(現実の「前納上限」はさしあたり無視します)。
A 倒産防
1年超は掛金に該当しないので、全額必要経費算入できない。
B 小規模共済
B通達2により、充当分のみ所得控除できる。
C 中退共
C通達2により、充当分のみ必要経費算入できる。
BCは、通達2があることにより、充当分だけ控除・算入できることになります。他方で、Aでは、1年超はそもそも掛金に該当しないとされてしまっており、通達2に対応するものがないので、全額損金算入が否定されるということになります。
このような違いが妥当かどうかは議論の余地がありますが、通達を丸呑みするならば、このような結論となるはずです。
◯
倒産防通達がこのようなものだとして。今回の改正で追加される「2年制限ルール」と現行の倒産防通達との関係も気になるところ。
次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
解約から1年11ヶ月後に1年分前納した。前納した1年分のうち11ヶ月分は必要経費算入できるか。
改正法では、2年経過までに「支出する」と書いてあるので、解約〜支出までが2年空いているかどうかによって判定されることになると思われます。
この事例では、納付月の1ヶ月分を除く11ヶ月分は、解約から2年経過後に毎月充当されていくものです。とすると、充当された各時点で「支出した」ことになり、それぞれの月ごとに必要経費算入できるでしょうか。
この点、倒産防にはBC通達2に相当するものがありません。そのため、現実に支出した前納時にすべて「支出した」ことになります。
結果、1年分全額が2年以内に支払ったものとなるため、必要経費算入できないとなるかと思われます。
【改正後の構造】
措置法1 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2 無し。
通達3 1年以内を除いて「掛金」に該当しない。
措置法2 解約後2年以内の支出は必要経費に算入しない。
現実に支払っているし(通達1)、前納1年以内なので(通達3)、措置法1により必要経費に算入できるかと思いきや。通達2がないせいで2年以内に1年分すべてを支出していることになるため、必要経費に算入できない(措置法2)ということになります。
◯
以上は、あくまでも現行のABC通達のそれぞれの書き分けを前提として、経路依存的に辿っていったらどういう帰結になるか、を検討したものにすぎません。
これらの書き分けが本当に正当性のあるものなのかについては、何らの評価も入れていません。
例によって、この手の地に足のついた議論を頭のいい学者先生が展開してくれることは望めません。
だからといって、場末の税理士が畢竟独自の見解を唱えたところで虚無でしょう。なので、我々野良税理士は、適度な落とし所を探りつつ、有りモノでどうにか遣り繰りしていくしかないのが現状です。
しかしまあ、法解釈の権限も責務も有する裁判所が「通達の文言解釈」なんかやり出すのは、どう考えても職務放棄(だった)でしょうよ。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
posted by ウロ at 10:07| Comment(0)
| 所得税法
2024年03月04日
みんな大好き!倒産防(その7) 〜中退共もお好きでしょ
前回は所得控除である「小規模共済」と比較しました。
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
今回は、同じ必要経費グループである「中退共」と比較します。
◯
まずは、前座(失礼)としての所得税法。
・所得税法 第二十七条(事業所得)
1 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
・所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
法律レベルでは、中退共専用の規定があるわけではなく。
政令に、それ用の規定がでてきます。
・所得税法施行令 第六十四条(確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い)
1 事業を営む個人又は法人が支出した次の各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等は、当該各号に規定する被共済者、加入者、受益者等、企業型年金加入者、個人型年金加入者又は信託の受益者等に対する給与所得に係る収入金額に含まれないものとする。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者のために支出した掛金(第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法(昭和三十四年法律第百六十号)第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付した金額を含む。)
2 事業を営む個人が、前項各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等を支出した場合には、その支出した金額(略)は、その支出した日の属する年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
規定が納められている場所からも分かるとおり、これは「給与所得」に関する規定です。コピペ元間違えたわけではなく。2項までお読みください。
1項の「掛金は給与所得の収入金額としない」というのがメインです。2項はオマケみたいな扱いです。
倒産防が、措置法様によって特別に必要経費扱いして頂いている感丸出しなのに対して。
中退共の場合、もともと必要経費であるものを政令で確認しただけなのか(確認規定)、それとも、必要経費でないものを政令によって特別に必要経費扱いして頂いているのか(創設規定)。この規定の位置づけや書きぶりだけでは、読み取ることが困難です。
それはともかく、政令によって中退共掛金は必要経費に算入することになっています。
では、通達にはどのような規定があるかというと。
・所得税基本通達 法第37条((必要経費))関係〔その他の共通費用〕
37−29(退職金共済掛金等の必要経費算入の時期)
令第64条第1項第1号から第6号まで《確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等(以下この項において「掛金等」という。)は、翌年分以後の掛金等を前納した場合を除き、現実に支払(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については、共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)をした日の属する年分の必要経費に算入する。ただし、その年中において支払期限の到来した掛金等を未払金として計上している場合において、その年分の確定申告期限までに当該掛金等の支払をしたときは、当該支払期限の到来した日の属する年分の必要経費に算入することができる。
(注) これらの掛金等について現実に支払をするまで必要経費に算入しないこととするのは、これらの掛金等を所定の期日までに支払わない場合には、その契約が解除され、未払掛金等の支払を要しないこととなるからである。
37−30(前納掛金等の必要経費算入)
37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)
37-29は、小規模共済通達の74・75-1の(1)に対応するものです。
・現実に支払ったときに必要経費算入
・前納した場合は除く
・納期到来分は、確定申告期限までに支払えば未払計上でも算入してよい
となっています。
未払の扱いが、小規模共済、倒産防にはない特有の規定です。同時に、法人とも異なる、個人特有の規定でもあります。
37-30が、小規模共済通達の74・75-1の(2)に対応するものです。
こちらは小規模共済と同様で、納付期限が到来したものだけ必要経費になるとしています。
◯
さて、前納1年はどうなっているかというと。
37−30の2(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。
明記はされていないのですが、置き場所からするとこれを使えということなのでしょう。節税ライターの皆さんが大好きな「短期前払費用の特例」が、こんなところに出てきました。
中退共専用の規定は用意されておらず。中退共が「一定の契約」云々にあたるのかどうかよく分かりません。運営のサイトでも、前納の税務上の扱いについては何も触れていないですし。
9-2-1.掛金は税法上どのように取り扱われますか?(独立行政法人勤労者退職金共済機構)
が、一応これが使えると捉えておきます。
◯
前回の小規模共済は「所得控除」であったことから、倒産防とは違う規律であったとしても、それなりに理屈づけることはできそうな感じではありました。他方で、中退共は倒産防と同じ必要経費グループだというのに、通達の書きぶりが異なるわけです。
単に書きぶりが異なるだけならまだいいのですが、前納1年を算入するには、倒産防は無条件なのに、中退共は「短期前払費用の特例」の条件に従い継続性などが要求されることになっています。
このような違いを説明するとしたら、倒産防と中退共とで同じ必要経費扱いとされるものの、そもそもの算入できる根拠が異なる、というしかないような気がします。
が、通達ではそれぞれの場所にそれぞれのルールが書いてあるだけで、その根拠を何も語ってはくれません。し、頭のいい学者先生がこのような地に足のついた議論を展開してくれることなど、期待してはいけないのでしょう。
みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
今回は、同じ必要経費グループである「中退共」と比較します。
◯
まずは、前座(失礼)としての所得税法。
・所得税法 第二十七条(事業所得)
1 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。
・所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
法律レベルでは、中退共専用の規定があるわけではなく。
政令に、それ用の規定がでてきます。
・所得税法施行令 第六十四条(確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い)
1 事業を営む個人又は法人が支出した次の各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等は、当該各号に規定する被共済者、加入者、受益者等、企業型年金加入者、個人型年金加入者又は信託の受益者等に対する給与所得に係る収入金額に含まれないものとする。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者のために支出した掛金(第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法(昭和三十四年法律第百六十号)第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付した金額を含む。)
2 事業を営む個人が、前項各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等を支出した場合には、その支出した金額(略)は、その支出した日の属する年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
規定が納められている場所からも分かるとおり、これは「給与所得」に関する規定です。コピペ元間違えたわけではなく。2項までお読みください。
1項の「掛金は給与所得の収入金額としない」というのがメインです。2項はオマケみたいな扱いです。
倒産防が、措置法様によって特別に必要経費扱いして頂いている感丸出しなのに対して。
中退共の場合、もともと必要経費であるものを政令で確認しただけなのか(確認規定)、それとも、必要経費でないものを政令によって特別に必要経費扱いして頂いているのか(創設規定)。この規定の位置づけや書きぶりだけでは、読み取ることが困難です。
それはともかく、政令によって中退共掛金は必要経費に算入することになっています。
では、通達にはどのような規定があるかというと。
・所得税基本通達 法第37条((必要経費))関係〔その他の共通費用〕
37−29(退職金共済掛金等の必要経費算入の時期)
令第64条第1項第1号から第6号まで《確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等(以下この項において「掛金等」という。)は、翌年分以後の掛金等を前納した場合を除き、現実に支払(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については、共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)をした日の属する年分の必要経費に算入する。ただし、その年中において支払期限の到来した掛金等を未払金として計上している場合において、その年分の確定申告期限までに当該掛金等の支払をしたときは、当該支払期限の到来した日の属する年分の必要経費に算入することができる。
(注) これらの掛金等について現実に支払をするまで必要経費に算入しないこととするのは、これらの掛金等を所定の期日までに支払わない場合には、その契約が解除され、未払掛金等の支払を要しないこととなるからである。
37−30(前納掛金等の必要経費算入)
37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)
37-29は、小規模共済通達の74・75-1の(1)に対応するものです。
・現実に支払ったときに必要経費算入
・前納した場合は除く
・納期到来分は、確定申告期限までに支払えば未払計上でも算入してよい
となっています。
未払の扱いが、小規模共済、倒産防にはない特有の規定です。同時に、法人とも異なる、個人特有の規定でもあります。
37-30が、小規模共済通達の74・75-1の(2)に対応するものです。
こちらは小規模共済と同様で、納付期限が到来したものだけ必要経費になるとしています。
◯
さて、前納1年はどうなっているかというと。
37−30の2(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。
明記はされていないのですが、置き場所からするとこれを使えということなのでしょう。節税ライターの皆さんが大好きな「短期前払費用の特例」が、こんなところに出てきました。
中退共専用の規定は用意されておらず。中退共が「一定の契約」云々にあたるのかどうかよく分かりません。運営のサイトでも、前納の税務上の扱いについては何も触れていないですし。
9-2-1.掛金は税法上どのように取り扱われますか?(独立行政法人勤労者退職金共済機構)
が、一応これが使えると捉えておきます。
◯
前回の小規模共済は「所得控除」であったことから、倒産防とは違う規律であったとしても、それなりに理屈づけることはできそうな感じではありました。他方で、中退共は倒産防と同じ必要経費グループだというのに、通達の書きぶりが異なるわけです。
単に書きぶりが異なるだけならまだいいのですが、前納1年を算入するには、倒産防は無条件なのに、中退共は「短期前払費用の特例」の条件に従い継続性などが要求されることになっています。
このような違いを説明するとしたら、倒産防と中退共とで同じ必要経費扱いとされるものの、そもそもの算入できる根拠が異なる、というしかないような気がします。
が、通達ではそれぞれの場所にそれぞれのルールが書いてあるだけで、その根拠を何も語ってはくれません。し、頭のいい学者先生がこのような地に足のついた議論を展開してくれることなど、期待してはいけないのでしょう。
みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き
posted by ウロ at 12:07| Comment(0)
| 所得税法