タイトルはもちろん、広中俊雄先生にあやかって、です。
広中俊雄「民法解釈方法に関する十二講」(有斐閣1997) Amazon
本ブログは、あくまでも「法令の」条文イジりを旨としております。ので、通達やらQ&Aがどう変わろうが、基本的には無関係です。
が、ド派手な条文ガン無視「反制定法解釈」をカマされると、とてもそのままの内容では維持しがたい、ということが生じます。
それが、今回のQ&Aの「古物商等特例」に対する「差し支えありません」ラッシュ。条文ガン無視の運用が乱舞しています。
令和6年4月以降版 お問合せの多いご質問(令和6年6月26日)
P.6(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)問d
下記記事における「古物商等特例」の姿と比べて、本当に同じ制度の説明だろうかと、書いた自分でも疑念を抱いてしまうほど。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
あまりにもあまりにも、なので、Q&Aの中身について説明する気もありません。し、Q&Aに合わせて、当ブログの記事を個別に修正するつもりはありません。法令上、間違ったことを書いているわけではないですし。
が、さすがに運用と差が出すぎ、なので、法令と違って「運用ゆるいよ!」という《注意書き》のかぎりで、本記事を作成しておきました。
◯
しかしまあ、「8割控除」のときもそうでしたが、Q&Aが、条文とは別世界に行ってしまっている。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 確定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
「適格請求書発行事業者を除く」とある以上、適格請求書発行事業者である限り、消費者としての取引であっても除外しなければならないのが、文言解釈からの帰結であり。また、そのことは「事業として」と「事業者」を用語として区分している、消費税法の基本構造にも関わるものでもあるはずです。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
だというのに、そんなことお構いなし。いくら納税者有利だからといって、条文ガン無視な運用を、安易に認めてしまってよいものかどうか。
ここまでド派手な「反制定法的解釈」、さすがに公式で謳うことはできない、ので、(民間の)業界誌経由でリークする、という遣り口で公表していくものだと思っていました。表向きとはいえ、最低限の遵法意識はあるぞ、という姿勢を崩すことはないだろうと。
が、そんなものは単なる買いかぶり、にすぎませんでした。
◯
なお、Q&Aの「差し支えありません」が、「フリマアプリ等」の行きずり感のある取引の場でのみ通用するものなのか、それともがっつり店舗を構えているような大手買取業者も含めた全ての古物商等に通用するものなのか。
大手なんて、すでに法令通りにシステム構築していたはずで。今さら緩められても遅せーよ、という感じかもしれませんが。
私はもう知らんので、ご不安な方は各自、管轄税務署までお問い合わせされたらよろしい。
2024年06月27日
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
posted by ウロ at 16:50| Comment(0)
| 消費税法
2024年06月24日
大法廷判決をHACKしよう!! 〜最高裁令和6年5月7日判決における《面従腹背》システム
過去4回も、だらだらと記事を書き連ねてきたのは、本判決の多数意見/補足意見の座組みの気持ち悪さのせいです。どれだけ書いても、どうにもすっきりしない。
最高裁令和6年5月7日・第三小法廷判決 速感
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
規範がない。あんなの飾りです。 〜最高裁令和6年5月7日判決の法的構造
法廷意見をHACKしよう!! 〜最高裁令和6年5月7日判決の多数意見vs補足意見
【ひとりでは解けないパズル】
・多数意見は《照らす式》にしたがっており、《総合較量》を明示していない。
・だというのに、大法廷判決の「趣旨に徴して明らか」とか、大法廷判決に従ったふりをしている。
・補足意見も、多数意見は大法廷判決の「総合較量に基づいて」いるとか、うそぶいている。
・補足意見では、多数意見の《総合較量》の中身を明らかにしないまま、独自の考慮要素を勝手に追加している。
・しかも、「事情の変化」のほうは、多数意見も「念頭に置いた」とか、勝手に多数意見を代弁している。
小法廷ごときでは、どんなに古いものであっても大法廷判決を勝手に「判例変更」することはできないはず。なんですが、大法廷判決が要求している《総合較量》を明示していない以上、大法廷判決に素直に従っているとはいいがたい。
そこで、本判決を、大法廷判決に反していないものと理解しつつ、多数意見/補足意見の座組みの気持ち悪さを解きほぐせる筋道がないものかどうか。
以下では、この点にチャレンジしてみます。
最高裁令和6年5月7日第三小法廷判決
法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。本件処分に所論の違憲はなく、論旨は、採用することができない。
渡辺補足意見
多数意見が言及する平成4年大法廷判決は、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である旨判示している。多数意見は、このような枠組みの下での総合較量に基づいており、特定の考慮要素のみに基づくものではないが、私において特に明確にしておきたい2点を補足することとする。
最高裁平成4年7月1日大法廷判決(成田新法事件)
A 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
B しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
C 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、本法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは、前記のとおりである。
◯
ここで取っ掛かりになりそうなのが、補足意見でかかげられている追加要素の中身。
まず、「審査請求手続が充実している」という点について。
「何の根拠もなしに適当なこと吹かしてやがんな、こいつ」というのは別として。この理由付けは、本件で問題となった「青色申告の承認の取消処分」だけでなく、国税不服審判所の審査請求手続を経由する全ての処分に使いまわしができるものです。
また、もうひとつの「事情の変化」云々についても。
こちらについては、国税絡みの処分どころか、行政手続法で適用除外とされている全ての処分に、そのまま使いまわしすることができます。
なんか、やたらと射程の広い追加要素を開陳しているわけです。
本件事案: 青色申告の承認の取消処分
拡張パック1:審判所の審査請求を経由する全ての処分
拡張パック2:行政手続法で適用除外されている全ての処分
・
《総合較量》なんだから、まあそんなことも考慮するんだろうな、と一瞬思ったのですが。
あらためて大法廷判決を読んでみると、大法廷判決はそんなこと言っていない。
大法廷判決の掲げている考慮要素は次のとおりです。
【大法廷判決の考慮要素】
・行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度
・行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等
大法廷判決では、あくまでも、当該行政処分のプラスとマイナスを比較することとしています。で、実際にCでそれら要素を較量しています。
ところが、上記追加要素は、当該行政処分だけに関わるものではない、薄ぼんやりした要素であり。これらのうちのどれにもあたらない。「等」に含まれているなんていうのだとしたら、牽強付会すぎる。
・
なぜ、これら追加要素をかかげるのが、多数意見ではなく補足意見なのか。
その理由は、大法廷判決が掲げていない考慮要素を、小法廷判決ごときが勝手に追加することはできないからでしょう。
一人の判事が勝手に追加しただけであって、多数意見はあくまでも大法廷判決様の枠内で判断したのですよと。
では、大法廷判決が掲げていない考慮要素を、しかもむやみやたらと射程の広い考慮要素を、補足意見とはいえわざわざ追加することとしたのか。
これは、下級審の裁判官に対して、一定の《メッセージ》を送っているものと思われます。
・
その《メッセージ》の中身ですが、以下のようなものではないでしょうか。すなわち、「事前手続きがないのは違憲!」だとか大騒ぎする納税者がやってきた場合に、
・事前手続が必要かどうかは全部最高裁で判断するから、お前らごときが大法廷きどりで《総合較量》なんかせんでよい。《照らす式》で軽くあしらってよし。
・国税絡みの処分なら「審査請求手続充実してる」って言っとけ。
・それ以外の処分も「事情の変化」云々を使ってどうぞ。
という感じかと。
納税者にとっても、下級審レベルの憲法解釈でモタモタするくらいなら、最高裁で一気にかたをつけてくれたほうが、効率的なのかもしれません。「憲法解釈すんのに三審制が必要か」というのは、議論としてあるわけだし。
もちろん、補足意見には、多数意見のような「判例」としての効力はないはずです。が、実務家、特に下級審の裁判官に対しては、補足意見とはいえ絶大な感染力があります(テックジャパン事件・櫻井補足意見が起こした乱痴気騒ぎを想起せよ)。
しかも、古の大法廷判決の多数意見なんかより、直近の小法廷判決の補足意見のほうが強力だというのが、悲しいかな現実。
◯
ということで、多数意見/補足意見の座組みの気持ち悪さの正体。
多数意見はいかにも大法廷判決に従った風を装っているのに対して。補足意見は下級審に向けて大法廷判決に従うなと暗にメッセージを送っているあたり。
この、上にはヘコヘコ、下にはいばり散らす感じの「二枚舌」仕草を、多数意見と補足意見とが手をとりあってやっている感じが、気持ち悪いのかなあと。
【最高裁・面従腹背システム】
大法廷判決
↑ 総合較量やってまっせ! (面従)
本判決/多数意見 《照らす式》
本判決/補足意見 《追加要素》
↓ お前らは総合較量すんな! (腹背)
下級審
【税法に潜む二枚舌】
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
現行法の枠組みの中で、憲法訴訟を効果的にまわしていくための知恵として、合理的な遣り口なのかもしれません。が、外野からすれば、どうしたって「キマイラ感」が強くて気持ち悪い。
【税法に潜むキマイラ】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
・
前回は、「補足意見が多数意見をHACKしているのでは」という見立てをしました。が、そうではなく。多数意見と補足意見が握り合って、大法廷判決をHACKしているのではないかというのが、今回の見立て。
大法廷判決をかいくぐって、下級審に指揮命令をするための遣り口なんじゃないかと。
まあ、我々納税者は、裁判所内部のタテの関係なんか、知ったこっちゃないわけで。本判決(の補足意見)に臆することなく、他の行政処分でも「事前手続必要チャレンジ」をかましていったらよろしいのではないでしょうか(櫻井補足意見に対するビビリ散らしの教訓)。
どれかしらは、大法廷判決流の《総合較量》をしてくれるかもよ(ただし、違憲判断が出るとまでは言っていない)。
・
多数意見・補足意見がこんなことをやっているというのに。宇賀反対意見は、高裁判決を仮想敵に仕立て上げて叩きまくっているだけ。
同級生にはハブられているので、近所の低学年の子たちを集めて、無双している感じのアレ。
大法廷判決には何らの論証も無しに立ち向かっているくせに。多数意見+補足意見の「面従腹背」にはダンマリ。どう考えても逆だと思うのですが。
大法廷判決 ←論証なしに反逆
本判決(多数意見・補足意見) ←ダンマリ
高裁判決 ←ボロクソ
古の大法廷判決に逆らうのは怖くないが、身近な同僚を批判するのは、躊躇いがあるとでもいうのか。正面から、多数意見+補足意見を批判尽くして欲しかったところです。
まあ、早々に合議からハブられていて、反対意見執筆にあたって多数意見・補足意見を事前に見せてもらえなかった、というイジメが発生していたというのならば、致し方ない。というか、そう思わないと不自然なくらい、多数意見・補足意見が反対意見内に出てこない。宇賀反対意見が叩き潰さなければならないのは、仮想の高裁判決ではなく、眼の前の多数意見・補足意見だというのに。
ということで、宇賀反対意見に対するむやみな言いがかりは保留しておきます。
◯
以上、こんなものは、私なりの「レトリック流」判決読みこなし術(または激しい妄想)であり。一般に通用するものとは思えません。
【あくまで参考】
フリチョフ・ハフト「レトリック流法律学習法」(木鐸社1993) Amazon
フリチョフ・ハフト「法律家のレトリック」(木鐸社1992) Amazon
フリチョフ・ハフト「レトリック流交渉術」(木鐸社1993) Amazon
が、本判決における多数意見/補足意見の座組みのキモさを整合的に説明するには、こういったアクロバティックな読み方によらないと、無理ですよね。
・
いずれにしても、あらためて、「最高裁判例」というものについて、勉強しなおしが必要だなと感じました。
池田眞朗ほか「判例学習のAtoZ」(有斐閣2010)Amazon
藤田宙靖「最高裁回想録 学者判事の七年半」(有斐閣2012)Amazon
藤田宙靖「裁判と法律学 「最高裁回想録」補遺」(有斐閣2016)Amazon
奥田昌道「紛争解決と規範創造」(有斐閣2009)Amazon
とはいえ、上記の藤田先生にしても奥田先生にしても、(自分は学者出身だけど)「一般法理を提示するよりも、当該事案の適切な解決を志向していた」とお書きになっていた記憶(違っていたら失礼)。本判決における「事案ガン無視」の姿勢とは、様相がまるで異なるように思います。
「最高裁は常に当該事案の適切な解決を第一とすべし」と考えること自体が、むしろ学者チックなドグマなのかもしれません。「射程を広げたければ広くいう、狭めたければ狭くいう」というのが、いいかどうかは別として、より実務家仕草として相応しいのでしょう。
最高裁令和6年5月7日・第三小法廷判決 速感
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
規範がない。あんなの飾りです。 〜最高裁令和6年5月7日判決の法的構造
法廷意見をHACKしよう!! 〜最高裁令和6年5月7日判決の多数意見vs補足意見
【ひとりでは解けないパズル】
・多数意見は《照らす式》にしたがっており、《総合較量》を明示していない。
・だというのに、大法廷判決の「趣旨に徴して明らか」とか、大法廷判決に従ったふりをしている。
・補足意見も、多数意見は大法廷判決の「総合較量に基づいて」いるとか、うそぶいている。
・補足意見では、多数意見の《総合較量》の中身を明らかにしないまま、独自の考慮要素を勝手に追加している。
・しかも、「事情の変化」のほうは、多数意見も「念頭に置いた」とか、勝手に多数意見を代弁している。
小法廷ごときでは、どんなに古いものであっても大法廷判決を勝手に「判例変更」することはできないはず。なんですが、大法廷判決が要求している《総合較量》を明示していない以上、大法廷判決に素直に従っているとはいいがたい。
そこで、本判決を、大法廷判決に反していないものと理解しつつ、多数意見/補足意見の座組みの気持ち悪さを解きほぐせる筋道がないものかどうか。
以下では、この点にチャレンジしてみます。
最高裁令和6年5月7日第三小法廷判決
法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。本件処分に所論の違憲はなく、論旨は、採用することができない。
渡辺補足意見
多数意見が言及する平成4年大法廷判決は、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である旨判示している。多数意見は、このような枠組みの下での総合較量に基づいており、特定の考慮要素のみに基づくものではないが、私において特に明確にしておきたい2点を補足することとする。
最高裁平成4年7月1日大法廷判決(成田新法事件)
A 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
B しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
C 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、本法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは、前記のとおりである。
◯
ここで取っ掛かりになりそうなのが、補足意見でかかげられている追加要素の中身。
まず、「審査請求手続が充実している」という点について。
「何の根拠もなしに適当なこと吹かしてやがんな、こいつ」というのは別として。この理由付けは、本件で問題となった「青色申告の承認の取消処分」だけでなく、国税不服審判所の審査請求手続を経由する全ての処分に使いまわしができるものです。
また、もうひとつの「事情の変化」云々についても。
こちらについては、国税絡みの処分どころか、行政手続法で適用除外とされている全ての処分に、そのまま使いまわしすることができます。
なんか、やたらと射程の広い追加要素を開陳しているわけです。
本件事案: 青色申告の承認の取消処分
拡張パック1:審判所の審査請求を経由する全ての処分
拡張パック2:行政手続法で適用除外されている全ての処分
・
《総合較量》なんだから、まあそんなことも考慮するんだろうな、と一瞬思ったのですが。
あらためて大法廷判決を読んでみると、大法廷判決はそんなこと言っていない。
大法廷判決の掲げている考慮要素は次のとおりです。
【大法廷判決の考慮要素】
・行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度
・行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等
大法廷判決では、あくまでも、当該行政処分のプラスとマイナスを比較することとしています。で、実際にCでそれら要素を較量しています。
ところが、上記追加要素は、当該行政処分だけに関わるものではない、薄ぼんやりした要素であり。これらのうちのどれにもあたらない。「等」に含まれているなんていうのだとしたら、牽強付会すぎる。
・
なぜ、これら追加要素をかかげるのが、多数意見ではなく補足意見なのか。
その理由は、大法廷判決が掲げていない考慮要素を、小法廷判決ごときが勝手に追加することはできないからでしょう。
一人の判事が勝手に追加しただけであって、多数意見はあくまでも大法廷判決様の枠内で判断したのですよと。
では、大法廷判決が掲げていない考慮要素を、しかもむやみやたらと射程の広い考慮要素を、補足意見とはいえわざわざ追加することとしたのか。
これは、下級審の裁判官に対して、一定の《メッセージ》を送っているものと思われます。
・
その《メッセージ》の中身ですが、以下のようなものではないでしょうか。すなわち、「事前手続きがないのは違憲!」だとか大騒ぎする納税者がやってきた場合に、
・事前手続が必要かどうかは全部最高裁で判断するから、お前らごときが大法廷きどりで《総合較量》なんかせんでよい。《照らす式》で軽くあしらってよし。
・国税絡みの処分なら「審査請求手続充実してる」って言っとけ。
・それ以外の処分も「事情の変化」云々を使ってどうぞ。
という感じかと。
納税者にとっても、下級審レベルの憲法解釈でモタモタするくらいなら、最高裁で一気にかたをつけてくれたほうが、効率的なのかもしれません。「憲法解釈すんのに三審制が必要か」というのは、議論としてあるわけだし。
もちろん、補足意見には、多数意見のような「判例」としての効力はないはずです。が、実務家、特に下級審の裁判官に対しては、補足意見とはいえ絶大な感染力があります(テックジャパン事件・櫻井補足意見が起こした乱痴気騒ぎを想起せよ)。
しかも、古の大法廷判決の多数意見なんかより、直近の小法廷判決の補足意見のほうが強力だというのが、悲しいかな現実。
◯
ということで、多数意見/補足意見の座組みの気持ち悪さの正体。
多数意見はいかにも大法廷判決に従った風を装っているのに対して。補足意見は下級審に向けて大法廷判決に従うなと暗にメッセージを送っているあたり。
この、上にはヘコヘコ、下にはいばり散らす感じの「二枚舌」仕草を、多数意見と補足意見とが手をとりあってやっている感じが、気持ち悪いのかなあと。
【最高裁・面従腹背システム】
大法廷判決
↑ 総合較量やってまっせ! (面従)
本判決/多数意見 《照らす式》
本判決/補足意見 《追加要素》
↓ お前らは総合較量すんな! (腹背)
下級審
【税法に潜む二枚舌】
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
現行法の枠組みの中で、憲法訴訟を効果的にまわしていくための知恵として、合理的な遣り口なのかもしれません。が、外野からすれば、どうしたって「キマイラ感」が強くて気持ち悪い。
【税法に潜むキマイラ】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
・
前回は、「補足意見が多数意見をHACKしているのでは」という見立てをしました。が、そうではなく。多数意見と補足意見が握り合って、大法廷判決をHACKしているのではないかというのが、今回の見立て。
大法廷判決をかいくぐって、下級審に指揮命令をするための遣り口なんじゃないかと。
まあ、我々納税者は、裁判所内部のタテの関係なんか、知ったこっちゃないわけで。本判決(の補足意見)に臆することなく、他の行政処分でも「事前手続必要チャレンジ」をかましていったらよろしいのではないでしょうか(櫻井補足意見に対するビビリ散らしの教訓)。
どれかしらは、大法廷判決流の《総合較量》をしてくれるかもよ(ただし、違憲判断が出るとまでは言っていない)。
・
多数意見・補足意見がこんなことをやっているというのに。宇賀反対意見は、高裁判決を仮想敵に仕立て上げて叩きまくっているだけ。
同級生にはハブられているので、近所の低学年の子たちを集めて、無双している感じのアレ。
大法廷判決には何らの論証も無しに立ち向かっているくせに。多数意見+補足意見の「面従腹背」にはダンマリ。どう考えても逆だと思うのですが。
大法廷判決 ←論証なしに反逆
本判決(多数意見・補足意見) ←ダンマリ
高裁判決 ←ボロクソ
古の大法廷判決に逆らうのは怖くないが、身近な同僚を批判するのは、躊躇いがあるとでもいうのか。正面から、多数意見+補足意見を批判尽くして欲しかったところです。
まあ、早々に合議からハブられていて、反対意見執筆にあたって多数意見・補足意見を事前に見せてもらえなかった、というイジメが発生していたというのならば、致し方ない。というか、そう思わないと不自然なくらい、多数意見・補足意見が反対意見内に出てこない。宇賀反対意見が叩き潰さなければならないのは、仮想の高裁判決ではなく、眼の前の多数意見・補足意見だというのに。
ということで、宇賀反対意見に対するむやみな言いがかりは保留しておきます。
◯
以上、こんなものは、私なりの「レトリック流」判決読みこなし術(または激しい妄想)であり。一般に通用するものとは思えません。
【あくまで参考】
フリチョフ・ハフト「レトリック流法律学習法」(木鐸社1993) Amazon
フリチョフ・ハフト「法律家のレトリック」(木鐸社1992) Amazon
フリチョフ・ハフト「レトリック流交渉術」(木鐸社1993) Amazon
が、本判決における多数意見/補足意見の座組みのキモさを整合的に説明するには、こういったアクロバティックな読み方によらないと、無理ですよね。
・
いずれにしても、あらためて、「最高裁判例」というものについて、勉強しなおしが必要だなと感じました。
池田眞朗ほか「判例学習のAtoZ」(有斐閣2010)Amazon
藤田宙靖「最高裁回想録 学者判事の七年半」(有斐閣2012)Amazon
藤田宙靖「裁判と法律学 「最高裁回想録」補遺」(有斐閣2016)Amazon
奥田昌道「紛争解決と規範創造」(有斐閣2009)Amazon
とはいえ、上記の藤田先生にしても奥田先生にしても、(自分は学者出身だけど)「一般法理を提示するよりも、当該事案の適切な解決を志向していた」とお書きになっていた記憶(違っていたら失礼)。本判決における「事案ガン無視」の姿勢とは、様相がまるで異なるように思います。
「最高裁は常に当該事案の適切な解決を第一とすべし」と考えること自体が、むしろ学者チックなドグマなのかもしれません。「射程を広げたければ広くいう、狭めたければ狭くいう」というのが、いいかどうかは別として、より実務家仕草として相応しいのでしょう。
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| 判例イジり
2024年06月20日
積読のあゆみ 〜基本書編(2024年前半戦)
閑話休題。
実務書は、当然のように積読ループが終わることはありません。
他方で、基本書・教科書・体系書・研究書の類についても、実務書とは別ラインで、相変わらず積読が続いています。
それなりに抑制はしているつもりなので、以前に比べれば相当少なくなっています。
が、「有益なものだけを厳選して読もう」と「ブログネタになりそうなものを読もう」のせめぎ合いがあり、かつ、積読病と通読病の極悪コンボのせいで、いつまでも終わらない。
で、どうしても、イジリ代(しろ)のあるものばかり、記事化されがち。ので、今回は、よかったもの・よさそうなものにつき、まとめて触れておきます。
◯
まずは、最近読了したもの。
・
水町勇一郎「労働法 第10版」(有斐閣2024) Amazon
2年毎に改訂してくれるので、その間の法改正・新判例の振り返りができます。あえて教科書を読むことで、従前の知識の再確認もできますし。
定期的に改訂してくれるおかげで、「改訂チキンレース」に陥ることもないです。
【改訂チキンレースとは】
土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)
※土田先生の体系書は、少し前に、改訂される情報を見かけた覚えがあるので、皆さんは今から改訂チキンレースに参加されなくてよいのではないでしょうか。
上記の教科書は574頁の薄い本です。
分厚い体系書も当然購入しています。が、体系書に対しては「通読病」が発症しなくなったので、素直に本棚へお供えできています。
水町勇一郎「詳解 労働法 第3版」(東京大学出版会2023) Amazon
ところが、「公式読本」が「第3版」にあわせてリニューアルされてしまいました。ので、こちらは積読ラインナップに加わってしまいました。
水町勇一郎「水町詳解労働法第3版公式読本」(日本法令2024) Amazon
・
興津征雄「行政法I 行政法総論」(新世社2023) Amazon
行政法総論だけで864頁。が体系書ではなく教科書の部類です。
情報量が多いというのもありますが、それよりも、ひたすら行間を埋めてくれているおかげでそうなっている、といえるでしょうか。
今どきの教科書が、むやみやたらと「薄いが正義」みたいな風潮になっていて。これに抗う本書は、独学者にとって導きの星となってくれる存在です。
・
野村剛司,森智幸「倒産法講義」(日本加除出版2022) Amazon
私のような素人でも、非常に読みやすい本でした。
私が勝手に思うに、倒産法の入門書は、学者ではなく実務家が書いたものを読んだほうがいいと思います。学者の書く手続の説明とか、あまりに無味乾燥すぎませんか(入ってこない)。
徳田 和幸「プレップ破産法 第7版」(弘文堂2019)
学者本は、難しい論点を勉強する段階で読めばよいのではないでしょうか。
◯
今読み途中のもの。
・
佐藤英明「スタンダード所得税法 第4版」(弘文堂2024) Amazon
相変わらず読みやすい。
技術的な側面を大胆に省略しているというのに、584頁もある。のですが、説明がやたらと丁寧なだけなので、負担にはならないと思う。
しかしまあ、同じシリーズの消費税法があんな有り様になってしまったの、分担執筆の残酷さを感じる。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)
◯
これから読む予定のもの。
小西國友「労働法」(三省堂2008) Amazon
「社会保障法」の教科書が良かったので。
小西國友「社会保障法」(有斐閣2001)
労働法に関しても、法改正・新判例ラッシュのせいで、古い本を実務に直接活かすのは、もはや厳しいわけですが。
そもそも、実務に直接活かすことだけを考えるならば、学者先生の教科書類なんて、読む必要はないでしょう。しかも、税理士が税法以外の法分野の教科書を読むなんて、遠回りにもほどがある。
それでも読む、ことに意義があるのですが。今回の記事はただの余技であって。ここで詳論するには気合が足りない。
・
田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon
さらに「特許法」の教科書なんて、労働法以上に、野良税理士にとっては、さしあたり必要がない。
ですが、田村善之先生の、お久しぶり待望の教科書、ということで読まざるをえない。
田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)
◯
これから出版されるものなのに、すでに積読ラインナップに組み込まれているもの。
渕圭吾「租税法講義」(有斐閣2024) Amazon
7月下旬発売とのこと。まあ、読むしかないですよね。
佐藤英明先生の教科書をようやく読み始めたのも、積読ラインナップの租税法ラインを開けるためだったりしますし。
本書によって、例の「旅」が終わってくれるでしょうか。
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
・
山口厚「刑法各論 第3版」(有斐閣2024) Amazon
8月下旬に出版だそうです。
一昔前は、やたらと刑法の教科書・体系書を買い込むという時期(しかも総論に偏る)がありました。が、最近はすっかり落ち着きました。
とはいえ、山口厚先生の教科書(体系書?)となると、買わざるをえない。
謎なのが、14年ぶりの改訂だというのに、10頁しか増えていないというところ。長々と判決文を引用してかさ増しする系の本ではないぞ、ということでしょうか。
ただ、『総論』における、「問題探究」からの徐々に角が取れていく様を見ている古参(理論刑法学ガチ勢)からすると、どこか心配がないわけではない(余計なお世話)。
山口厚「問題探究 刑法総論」(有斐閣1998) Amazon
山口厚「刑法総論 第3版」(有斐閣2016) Amazon
山口厚「問題探究 刑法各論」(有斐閣1999) Amazon
実務書は、当然のように積読ループが終わることはありません。
他方で、基本書・教科書・体系書・研究書の類についても、実務書とは別ラインで、相変わらず積読が続いています。
それなりに抑制はしているつもりなので、以前に比べれば相当少なくなっています。
が、「有益なものだけを厳選して読もう」と「ブログネタになりそうなものを読もう」のせめぎ合いがあり、かつ、積読病と通読病の極悪コンボのせいで、いつまでも終わらない。
で、どうしても、イジリ代(しろ)のあるものばかり、記事化されがち。ので、今回は、よかったもの・よさそうなものにつき、まとめて触れておきます。
◯
まずは、最近読了したもの。
・
水町勇一郎「労働法 第10版」(有斐閣2024) Amazon
2年毎に改訂してくれるので、その間の法改正・新判例の振り返りができます。あえて教科書を読むことで、従前の知識の再確認もできますし。
定期的に改訂してくれるおかげで、「改訂チキンレース」に陥ることもないです。
【改訂チキンレースとは】
土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)
※土田先生の体系書は、少し前に、改訂される情報を見かけた覚えがあるので、皆さんは今から改訂チキンレースに参加されなくてよいのではないでしょうか。
上記の教科書は574頁の薄い本です。
分厚い体系書も当然購入しています。が、体系書に対しては「通読病」が発症しなくなったので、素直に本棚へお供えできています。
水町勇一郎「詳解 労働法 第3版」(東京大学出版会2023) Amazon
ところが、「公式読本」が「第3版」にあわせてリニューアルされてしまいました。ので、こちらは積読ラインナップに加わってしまいました。
水町勇一郎「水町詳解労働法第3版公式読本」(日本法令2024) Amazon
・
興津征雄「行政法I 行政法総論」(新世社2023) Amazon
行政法総論だけで864頁。が体系書ではなく教科書の部類です。
情報量が多いというのもありますが、それよりも、ひたすら行間を埋めてくれているおかげでそうなっている、といえるでしょうか。
今どきの教科書が、むやみやたらと「薄いが正義」みたいな風潮になっていて。これに抗う本書は、独学者にとって導きの星となってくれる存在です。
・
野村剛司,森智幸「倒産法講義」(日本加除出版2022) Amazon
私のような素人でも、非常に読みやすい本でした。
私が勝手に思うに、倒産法の入門書は、学者ではなく実務家が書いたものを読んだほうがいいと思います。学者の書く手続の説明とか、あまりに無味乾燥すぎませんか(入ってこない)。
徳田 和幸「プレップ破産法 第7版」(弘文堂2019)
学者本は、難しい論点を勉強する段階で読めばよいのではないでしょうか。
◯
今読み途中のもの。
・
佐藤英明「スタンダード所得税法 第4版」(弘文堂2024) Amazon
相変わらず読みやすい。
技術的な側面を大胆に省略しているというのに、584頁もある。のですが、説明がやたらと丁寧なだけなので、負担にはならないと思う。
しかしまあ、同じシリーズの消費税法があんな有り様になってしまったの、分担執筆の残酷さを感じる。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)
◯
これから読む予定のもの。
小西國友「労働法」(三省堂2008) Amazon
「社会保障法」の教科書が良かったので。
小西國友「社会保障法」(有斐閣2001)
労働法に関しても、法改正・新判例ラッシュのせいで、古い本を実務に直接活かすのは、もはや厳しいわけですが。
そもそも、実務に直接活かすことだけを考えるならば、学者先生の教科書類なんて、読む必要はないでしょう。しかも、税理士が税法以外の法分野の教科書を読むなんて、遠回りにもほどがある。
それでも読む、ことに意義があるのですが。今回の記事はただの余技であって。ここで詳論するには気合が足りない。
・
田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon
さらに「特許法」の教科書なんて、労働法以上に、野良税理士にとっては、さしあたり必要がない。
ですが、田村善之先生の、お久しぶり待望の教科書、ということで読まざるをえない。
田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)
◯
これから出版されるものなのに、すでに積読ラインナップに組み込まれているもの。
渕圭吾「租税法講義」(有斐閣2024) Amazon
7月下旬発売とのこと。まあ、読むしかないですよね。
佐藤英明先生の教科書をようやく読み始めたのも、積読ラインナップの租税法ラインを開けるためだったりしますし。
本書によって、例の「旅」が終わってくれるでしょうか。
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
・
山口厚「刑法各論 第3版」(有斐閣2024) Amazon
8月下旬に出版だそうです。
一昔前は、やたらと刑法の教科書・体系書を買い込むという時期(しかも総論に偏る)がありました。が、最近はすっかり落ち着きました。
とはいえ、山口厚先生の教科書(体系書?)となると、買わざるをえない。
謎なのが、14年ぶりの改訂だというのに、10頁しか増えていないというところ。長々と判決文を引用してかさ増しする系の本ではないぞ、ということでしょうか。
ただ、『総論』における、「問題探究」からの徐々に角が取れていく様を見ている古参(理論刑法学ガチ勢)からすると、どこか心配がないわけではない(余計なお世話)。
山口厚「問題探究 刑法総論」(有斐閣1998) Amazon
山口厚「刑法総論 第3版」(有斐閣2016) Amazon
山口厚「問題探究 刑法各論」(有斐閣1999) Amazon
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| 法律書マニアクス
2024年06月17日
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
手取り同額の計算対象に含まれるものは、前回整理したとおりです。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その1)
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
一般に役員報酬が変動するのは、(当たり前ですが)自社で意図的に金額を改定したときのみです。ところが、「手取り同額型」を採用した場合には、それに加えて上記金額が変動した場合にも、それにあわせて額面を変更しなければなりません。
《額面変動するのは》
手取り額を改定したとき
に加えて、
ア 所得税
・税額表の税額が変更になったとき
・年末調整で徴収・還付があったとき
・定額減税が適用されたとき
イ 住民税
・6月と7月以降
・定額減税が適用されたとき
ウ 社保
・標準報酬が改定されたとき(定時、随時)
・保険料率が変更されたとき
にも額面が変動することになります。
頻繁に額面が変動するため、なかなか面倒です。
市販の給与計算ソフトで、手取り額を設定しておけば、これらを反映して額面を自動計算してくれるものってありますかね?
◯
気になるのが、額面の変動にあわせて、社保の「随時改定」をしなければならないのかどうか、です。
「手取り額を改定したとき」が月変対象なのは分かるのですが。それ以外の事由で額面が変動した場合も、固定的賃金の変動があったとして、逐一月変判定しなければならないのでしょうか。
公式見解はないと思うので、個別に年金事務所へ問い合わせが必要な事項でしょうね。
余談ですが、役員が当たり前のように社保の「被保険者」として扱われていて。社会保障法の教科書類でも、ろくな論証もされていない、ということは以前触れました。
黒田有志弥ほか「社会保障法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣2019)
◯
また、年末調整の対象者に「手取り同額」を採用すると、大変なことになりそうです。
年末調整時の手取り同額の計算の仕方、次のようになるかと思います(畳の上の水練)。
【手取り同額と年末調整】
1 一旦11月と同額を12月の役員報酬として、年末調整の徴収・還付額を試算してみる。
2 試算した徴収・還付額を反映して、役員報酬を調整する。
3 調整した役員報酬をもとに、再度年末調整を試算する。
(以降、収束するまで繰り返し)
通常月であれば、単純な一次方程式で算出できますが、年末調整の場合も、どうにかして計算式が組めるのでしょうか。
・
じゃあってことで、徴収・還付を「翌年1月」にまわせば、繰り返し計算回避できるじゃん、と思われるかもしれません。
が、このやりかたは、条文上アウトです。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
通常の場合であれば、年調精算を1月にまわしても、源泉税の月ズレの問題にとどまります。特に他の社員含めて「還付」が多い場合がほとんどでしょうから、事実上あまり問題視されることはない。
が、「手取り同額」の場合には、「額面同額」の場合とは異なり、
所法190条どおりに徴収・還付しない
⇒法令69条に規定された「源泉税等の額」と違う金額で計算していることになる
⇒「同額」でないことになるから、法法34条により損金不算入
と、法人税法の側にまで影響が及んでしまいます。
それでも、1月精算チャレンジをかましますか、という話です。「額面同額型」と同じように、一番低いところまでは損金算入できるのかも、よくわかりませんし。
なお、「年末調整の対象者なのに、年末調整やらない」という遣り口でも、法律どおりの徴収・還付額ではなくなるため、同様の帰結となります。
◯
ここに「定額減税」が絡むと、さらに錯綜します。
まず、通常月の月次減税。たぶんですけど、次のような手順で計算するんですよね。
【通常月】
1 一旦、いつもどおり役員報酬と所得税を算出する。
2 月次減税を適用する。
3 月次減税を反映して役員報酬・所得税を調整する。
(以下、繰り返し)
こちらも、どうにか計算式が組めるのでしょうか。
・
年調減税については、さらに悲惨です。
もはや手順は書きません。が、対象者がそれぞれ、
年末調整 給与収入2000万円以下
年調減税 合計所得金額1805万円以下
となっており。
額面が動くことで、計算するたびに対象/対象外が動いてしまい、《無限ループ》に陥ることにはならないでしょうか(もちろん私は未検証)。
◯
ちなみに、「従業員」の年末調整を1月精算にまわした場合、労基法24条(全額払)違反になります。還付の場合は12月が、徴収の場合は1月が、それぞれ法より多く徴収することになりますので。
とはいえ、こんなもの、今まで問題視されてこなかったはずです。
ところが「定額減税」については、厚労省が通達まで出して、「月次でやらんと労基法24条(全額払)違反」だと言い出しました。
それはまあそのとおりなんですが、なぜ「定額減税」の場合だけそんな通達出したのか、という疑問はあるかと思います。
国税庁の定額減税に対する取り組みなども見ていてそうですが、「定額減税」に対しては、お国をあげて異例の体制をとっているように感じます(財務省、総務省、厚労省にまたがる)。
ので、実務家が、インボイスとかと同じノリで「そんな細かいことまでチェックするわけないじゃん」と言っているの、「定額減税」については危うい、というのが私の実感。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(労務編)
◯
と、面倒なことになっているため、「役員の場合は労基法関係ねえから、定額減税無視してもいいんじゃね。」と思われるかもしれません。
それはそれで各自の税務判断なのでしょうが。「手取り同額型」を適用している場合には、法人税法上の定期同額の要件を満たさなくなってしまう、という点は理解しておくべきでしょう。
◯
以上のとおり、「手取り同額」は、大変しんどいやつであって。
・年末調整対象外
・定額減税対象外
・住民税を特別徴収しない
・社保対象外
と変動要素が少なければ、余計な悩みは少なくて済みます。が、変動要素がたくさんあるからこそ、「手取り同額」にしたいという要望なのでしょうし。
外部の役員に要求されてしかたなく、なら分かります。が、わざわざ自分から採用するようなものではないと思うのですが、どうなんでしょうか。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その1)
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
一般に役員報酬が変動するのは、(当たり前ですが)自社で意図的に金額を改定したときのみです。ところが、「手取り同額型」を採用した場合には、それに加えて上記金額が変動した場合にも、それにあわせて額面を変更しなければなりません。
《額面変動するのは》
手取り額を改定したとき
に加えて、
ア 所得税
・税額表の税額が変更になったとき
・年末調整で徴収・還付があったとき
・定額減税が適用されたとき
イ 住民税
・6月と7月以降
・定額減税が適用されたとき
ウ 社保
・標準報酬が改定されたとき(定時、随時)
・保険料率が変更されたとき
にも額面が変動することになります。
頻繁に額面が変動するため、なかなか面倒です。
市販の給与計算ソフトで、手取り額を設定しておけば、これらを反映して額面を自動計算してくれるものってありますかね?
◯
気になるのが、額面の変動にあわせて、社保の「随時改定」をしなければならないのかどうか、です。
「手取り額を改定したとき」が月変対象なのは分かるのですが。それ以外の事由で額面が変動した場合も、固定的賃金の変動があったとして、逐一月変判定しなければならないのでしょうか。
公式見解はないと思うので、個別に年金事務所へ問い合わせが必要な事項でしょうね。
余談ですが、役員が当たり前のように社保の「被保険者」として扱われていて。社会保障法の教科書類でも、ろくな論証もされていない、ということは以前触れました。
黒田有志弥ほか「社会保障法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣2019)
◯
また、年末調整の対象者に「手取り同額」を採用すると、大変なことになりそうです。
年末調整時の手取り同額の計算の仕方、次のようになるかと思います(畳の上の水練)。
【手取り同額と年末調整】
1 一旦11月と同額を12月の役員報酬として、年末調整の徴収・還付額を試算してみる。
2 試算した徴収・還付額を反映して、役員報酬を調整する。
3 調整した役員報酬をもとに、再度年末調整を試算する。
(以降、収束するまで繰り返し)
通常月であれば、単純な一次方程式で算出できますが、年末調整の場合も、どうにかして計算式が組めるのでしょうか。
・
じゃあってことで、徴収・還付を「翌年1月」にまわせば、繰り返し計算回避できるじゃん、と思われるかもしれません。
が、このやりかたは、条文上アウトです。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
通常の場合であれば、年調精算を1月にまわしても、源泉税の月ズレの問題にとどまります。特に他の社員含めて「還付」が多い場合がほとんどでしょうから、事実上あまり問題視されることはない。
が、「手取り同額」の場合には、「額面同額」の場合とは異なり、
所法190条どおりに徴収・還付しない
⇒法令69条に規定された「源泉税等の額」と違う金額で計算していることになる
⇒「同額」でないことになるから、法法34条により損金不算入
と、法人税法の側にまで影響が及んでしまいます。
それでも、1月精算チャレンジをかましますか、という話です。「額面同額型」と同じように、一番低いところまでは損金算入できるのかも、よくわかりませんし。
なお、「年末調整の対象者なのに、年末調整やらない」という遣り口でも、法律どおりの徴収・還付額ではなくなるため、同様の帰結となります。
◯
ここに「定額減税」が絡むと、さらに錯綜します。
まず、通常月の月次減税。たぶんですけど、次のような手順で計算するんですよね。
【通常月】
1 一旦、いつもどおり役員報酬と所得税を算出する。
2 月次減税を適用する。
3 月次減税を反映して役員報酬・所得税を調整する。
(以下、繰り返し)
こちらも、どうにか計算式が組めるのでしょうか。
・
年調減税については、さらに悲惨です。
もはや手順は書きません。が、対象者がそれぞれ、
年末調整 給与収入2000万円以下
年調減税 合計所得金額1805万円以下
となっており。
額面が動くことで、計算するたびに対象/対象外が動いてしまい、《無限ループ》に陥ることにはならないでしょうか(もちろん私は未検証)。
◯
ちなみに、「従業員」の年末調整を1月精算にまわした場合、労基法24条(全額払)違反になります。還付の場合は12月が、徴収の場合は1月が、それぞれ法より多く徴収することになりますので。
とはいえ、こんなもの、今まで問題視されてこなかったはずです。
ところが「定額減税」については、厚労省が通達まで出して、「月次でやらんと労基法24条(全額払)違反」だと言い出しました。
それはまあそのとおりなんですが、なぜ「定額減税」の場合だけそんな通達出したのか、という疑問はあるかと思います。
国税庁の定額減税に対する取り組みなども見ていてそうですが、「定額減税」に対しては、お国をあげて異例の体制をとっているように感じます(財務省、総務省、厚労省にまたがる)。
ので、実務家が、インボイスとかと同じノリで「そんな細かいことまでチェックするわけないじゃん」と言っているの、「定額減税」については危うい、というのが私の実感。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(労務編)
◯
と、面倒なことになっているため、「役員の場合は労基法関係ねえから、定額減税無視してもいいんじゃね。」と思われるかもしれません。
それはそれで各自の税務判断なのでしょうが。「手取り同額型」を適用している場合には、法人税法上の定期同額の要件を満たさなくなってしまう、という点は理解しておくべきでしょう。
◯
以上のとおり、「手取り同額」は、大変しんどいやつであって。
・年末調整対象外
・定額減税対象外
・住民税を特別徴収しない
・社保対象外
と変動要素が少なければ、余計な悩みは少なくて済みます。が、変動要素がたくさんあるからこそ、「手取り同額」にしたいという要望なのでしょうし。
外部の役員に要求されてしかたなく、なら分かります。が、わざわざ自分から採用するようなものではないと思うのですが、どうなんでしょうか。
posted by ウロ at 09:25| Comment(0)
| 法人税法
2024年06月10日
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その1)
定額減税の対象となるような役員に対して、「手取り同額型」を採用しているところが実在しているのか、私は寡聞にして存じ上げませんが。
以下では、「定額減税」との関係にかぎらず、「手取り同額型」の条文の中身を整理しておきます。以前整理した「3ヶ月以内改定」よりはシンプルなはずです。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
◯
まずは大元の法人税法から。例によって大胆に省略入れていきます(以下同様)。
法法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与()のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)
法律レベルでは「額面同額型」のみが規定されていて。「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」として、政令に委任されています。
で、法人税施行令。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ (通常改定) ロ (臨時改定) ハ (業績悪化改定)
「改定前後のそれぞれで同額であるもの」が「当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」に「準ずる」といえるのか。文言上の違和感はありますが、これらも損金算入できるんだと。
では、「手取り同額」はどこに書いてあるかというと。同条第2項に規定されています。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
2 法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については、定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額(当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額、当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額、健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす。
1項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は」となっているので、法律の委任によるものであることは明らかです。
他方で、2項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については」などとなっていて。委任されてもいないのに、勝手に「同額」の意味を拡張しているように読めるのですが、どうなんでしょう。
と疑問はありますが、これも委任の範囲内だと理解しておきます。
・
では、何が「手取り」保証の対象になっているかというと。
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
と規定されています。
なんでもかんでも対象になるのではなく、限定列挙されています。
以下、それぞれ個別に検討します。
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
通常月は問題ありません。条文は以下のとおり。
所法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四十五 源泉徴収 第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収し及び納付することをいう。
所法 第百八十三条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
・
では、「年末調整」による徴収・還付があった場合は反映されるでしょうか。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
ここからすると、「徴収」の場合は、年末調整の結果、実際に徴収することとなった額を反映することになるのでしょう。
「還付」の場合はどうかというと。
アでは「源泉徴収をされる所得税の額」とあることから、徴収しない以上、徴収額0円と扱うことになるのでしょう。還付額がいくらであっても、その額は反映されないと。
・
では、タイトルにあげた「定額減税」についてはどうかというと。
条文の検討は、すでに下記記事で終えています。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
措法 第四十一条の三の七(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)
4 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。
これによれば、「定額減税後の金額」を所得税法における徴収税額とみなすこととしています。それゆえ、「手取り同額」においても「定額減税を反映した所得税」をもとに計算することになるのでしょう。
給与明細書上は、所得税と定額減税は別々の欄に記載することになっています(所規100)。が、両方とも含めて計算をする必要があると。
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
特に面白みもありませんが、一応条文をあげておきます。
地法 第一条(用語)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 地方税 道府県税又は市町村税をいう。
九 特別徴収 地方税の徴収について便宜を有する者にこれを徴収させ、且つ、その徴収すべき税金を納入させることをいう。
定額減税については「附則」の中に入り込んでいるし、さらに面白くもないので、「所得割から定額減税する⇒減税後の税額を特別徴収する」という構造になっているということだけ記述しておきます。
ということで、6月分の住民税が0円なら、0円を前提に計算することになります。
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
所得税法74条のほうから引用すると。
所法 第七十四条(社会保険料控除)
2 前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるもの(第九条第一項第七号(在勤手当の非課税)に掲げる給与に係るものを除く。)をいう。
一 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定により被保険者として負担する健康保険の保険料
二 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)の規定による国民健康保険の保険料又は地方税法の規定による国民健康保険税
二の二 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定による保険料
三 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護保険の保険料
四 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の規定により雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金
六 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
七 厚生年金保険法の規定により被保険者として負担する厚生年金保険の保険料
八 船員保険法の規定により被保険者として負担する船員保険の保険料
九 国家公務員共済組合法の規定による掛金
十 地方公務員等共済組合法の規定による掛金(特別掛金を含む。)
十一 私立学校教職員共済法の規定により加入者として負担する掛金
十二 恩給法第五十九条(恩給納金)(他の法律において準用する場合を含む。)の規定による納金
で、なんで一つだけ頭出ししたか分からない、健康保険法。どれか一つは頭出ししておく、という法制執務お作法でしょうか。
健保法 第百六十七条(保険料の源泉控除)
1 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
これをみると、当月の給与から控除できるのは、あくまでも「前月分」(当月納付)の保険料だけとなっています。それゆえ、手取り同額の対象となるのも、前月分の保険料だけです。
それ以前に徴収漏れだったものを(本人同意のもと)控除した場合は、その分は手取り同額の対象とはならない、というのが《文言解釈》の帰結となります。
ここで気味が悪いのが、エです。
エ その他これらに類するものの額
一体何がエに該当するのか、未だに謎です。
もしかしたら、上述した過去分の保険料がここに含まれるのかもしれません。
が、含まれる前提で計算していたところ、含まれないと判断されて超過部分を否認されてしまっても困る。
◯
気になる論点がいくつかあるので、次回検討します。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
以下では、「定額減税」との関係にかぎらず、「手取り同額型」の条文の中身を整理しておきます。以前整理した「3ヶ月以内改定」よりはシンプルなはずです。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
◯
まずは大元の法人税法から。例によって大胆に省略入れていきます(以下同様)。
法法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与()のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)
法律レベルでは「額面同額型」のみが規定されていて。「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」として、政令に委任されています。
で、法人税施行令。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ (通常改定) ロ (臨時改定) ハ (業績悪化改定)
「改定前後のそれぞれで同額であるもの」が「当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」に「準ずる」といえるのか。文言上の違和感はありますが、これらも損金算入できるんだと。
では、「手取り同額」はどこに書いてあるかというと。同条第2項に規定されています。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
2 法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については、定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額(当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額、当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額、健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす。
1項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は」となっているので、法律の委任によるものであることは明らかです。
他方で、2項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については」などとなっていて。委任されてもいないのに、勝手に「同額」の意味を拡張しているように読めるのですが、どうなんでしょう。
と疑問はありますが、これも委任の範囲内だと理解しておきます。
・
では、何が「手取り」保証の対象になっているかというと。
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
と規定されています。
なんでもかんでも対象になるのではなく、限定列挙されています。
以下、それぞれ個別に検討します。
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
通常月は問題ありません。条文は以下のとおり。
所法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四十五 源泉徴収 第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収し及び納付することをいう。
所法 第百八十三条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
・
では、「年末調整」による徴収・還付があった場合は反映されるでしょうか。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
ここからすると、「徴収」の場合は、年末調整の結果、実際に徴収することとなった額を反映することになるのでしょう。
「還付」の場合はどうかというと。
アでは「源泉徴収をされる所得税の額」とあることから、徴収しない以上、徴収額0円と扱うことになるのでしょう。還付額がいくらであっても、その額は反映されないと。
・
では、タイトルにあげた「定額減税」についてはどうかというと。
条文の検討は、すでに下記記事で終えています。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
措法 第四十一条の三の七(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)
4 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。
これによれば、「定額減税後の金額」を所得税法における徴収税額とみなすこととしています。それゆえ、「手取り同額」においても「定額減税を反映した所得税」をもとに計算することになるのでしょう。
給与明細書上は、所得税と定額減税は別々の欄に記載することになっています(所規100)。が、両方とも含めて計算をする必要があると。
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
特に面白みもありませんが、一応条文をあげておきます。
地法 第一条(用語)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 地方税 道府県税又は市町村税をいう。
九 特別徴収 地方税の徴収について便宜を有する者にこれを徴収させ、且つ、その徴収すべき税金を納入させることをいう。
定額減税については「附則」の中に入り込んでいるし、さらに面白くもないので、「所得割から定額減税する⇒減税後の税額を特別徴収する」という構造になっているということだけ記述しておきます。
ということで、6月分の住民税が0円なら、0円を前提に計算することになります。
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
所得税法74条のほうから引用すると。
所法 第七十四条(社会保険料控除)
2 前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるもの(第九条第一項第七号(在勤手当の非課税)に掲げる給与に係るものを除く。)をいう。
一 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定により被保険者として負担する健康保険の保険料
二 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)の規定による国民健康保険の保険料又は地方税法の規定による国民健康保険税
二の二 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定による保険料
三 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護保険の保険料
四 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の規定により雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金
六 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
七 厚生年金保険法の規定により被保険者として負担する厚生年金保険の保険料
八 船員保険法の規定により被保険者として負担する船員保険の保険料
九 国家公務員共済組合法の規定による掛金
十 地方公務員等共済組合法の規定による掛金(特別掛金を含む。)
十一 私立学校教職員共済法の規定により加入者として負担する掛金
十二 恩給法第五十九条(恩給納金)(他の法律において準用する場合を含む。)の規定による納金
で、なんで一つだけ頭出ししたか分からない、健康保険法。どれか一つは頭出ししておく、という法制執務お作法でしょうか。
健保法 第百六十七条(保険料の源泉控除)
1 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
これをみると、当月の給与から控除できるのは、あくまでも「前月分」(当月納付)の保険料だけとなっています。それゆえ、手取り同額の対象となるのも、前月分の保険料だけです。
それ以前に徴収漏れだったものを(本人同意のもと)控除した場合は、その分は手取り同額の対象とはならない、というのが《文言解釈》の帰結となります。
ここで気味が悪いのが、エです。
エ その他これらに類するものの額
一体何がエに該当するのか、未だに謎です。
もしかしたら、上述した過去分の保険料がここに含まれるのかもしれません。
が、含まれる前提で計算していたところ、含まれないと判断されて超過部分を否認されてしまっても困る。
◯
気になる論点がいくつかあるので、次回検討します。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
posted by ウロ at 09:36| Comment(0)
| 法人税法
2024年06月03日
法廷意見をHACKしよう!! 〜最高裁令和6年5月7日判決における多数意見vs補足意見
過去3回の記事では、多数意見は、大法廷判決の《総合較量説》に依拠して結論を導いている、という前提でイジってきました。で、《総合較量》と言っておきながら、その較量の中身を開示していないことに対する批判をしました。
最高裁令和6年5月7日・第三小法廷判決 速感
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
規範がない。あんなの飾りです。 〜最高裁令和6年5月7日判決の法的構造
が、よくよく読んでみると、多数意見自身は《総合較量説》を採用しているなどということは一言もいっていません。「その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし」て結論を導いているだけです(以下、これを半笑い気味に《照らす式》といいます)。
大法廷判決の引用の仕方も、「の趣旨に徴して明らか」という(例の)書きぶりであって。ダイレクトな引用ではなく、「の趣旨」と一段階ぼやかした表現になっています。
最高裁令和6年5月7日第三小法廷判決
法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。本件処分に所論の違憲はなく、論旨は、採用することができない。
最高裁平成4年7月1日大法廷判決(成田新法事件)
A 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
B しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
C 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、本法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは、前記のとおりである。
◯
一体いつから、(多数意見が総合較量説を採用していると)錯覚していた?
それは、渡辺補足意見の下記記述を目にした瞬間からです。
渡辺補足意見
多数意見が言及する平成4年大法廷判決は、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である旨判示している。多数意見は、このような枠組みの下での総合較量に基づいており、特定の考慮要素のみに基づくものではないが、私において特に明確にしておきたい2点を補足することとする。
「補足意見」については、一般に、以下のように定義づけされています。
補足意見とは:
裁判書に個別に表示される意見のうち、多数意見に加わった裁判官がそれに付加して自己の意見を述べるもの
中野次雄ほか「判例とその読み方」(有斐閣2009)
で、上記補足意見中の「多数意見は、このような枠組みの下での総合較量に基づいており」という記述を鵜呑みにして、「多数意見は《総合較量説》を採用しているんだなあ」と思ってしまったわけです。
が、多数意見の中には《総合較量》なんて文言は一切でてきません。ですし、大法廷判決のCにあたる部分がなく、表向き《総合較量》なんかやっていないわけです。
「補足意見」を名乗っておきながら、多数意見にそのまま自分の意見を付け足したのではなく。多数意見で明示されていないことを奇貨として、自分の見解に引き寄せて読み替えた、というのが渡辺補足意見の遣り口なのではないでしょうか。
過去3回の記事では、「《総合較量説》のくせになんで総合衡量のプロセスを開示しないんだ!」と批判めいたことを書いてしまいました。が、そもそも《総合較量説》を採用していないのであれば、とんだ言いがかりをつけてしまったことになります。
ですが、悪いのは、多数意見を勝手に《総合較量説》呼ばわりした渡辺補足意見であって。文句があるならそちらへどうぞ。
もしかしたら、実際の合議では《総合較量》ベースで検討していたのかもしれません。が、多数意見が《照らす式》でしか書かれていない以上、そんなことは外野からは分かり得ないわけです。
「多数意見を勝手に《総合較量説》に読み替えるな!」という批判は甘んじて受け入れるべきでしょうよ。
とはいえ、最高裁判事が「個別意見」で何を書くかについては、なんら制度上の規制はなく。あたかも自分が多数意見を代表しているかのような書きぶりをしようが、誰も制御することはできません(なお、政治的な圧力については、また別のお話し)。
「補足意見/意見」の区別にしても、法律上の区分ではなく。「なんかそういうふうに言われている」レベルのものであって(最高裁内部での口伝があるのかもしれませんが、外野には伺いしれない)。
「意見」で書くべきことを「補足意見」で書いたとしても、是正手段があるわけでもない。
◯
しかし、渡辺補足意見による鏡花水月から脱して。多数意見を、あるがままに読み取って《照らす式》だと捉えたとして。
《総合較量》をしないで事前手続必要/不要を判断することは、大法廷判決に真っ向から違反することになってしまうのではないでしょうか。
この点、考えられる一つの逃げ道(distinguish)として、次のようなものがありえます。
すなわち、大法廷判決も、あらゆる行政処分すべての場合に《総合較量》を要求しているわけではない、「どう考えても事前手続いらんやろ」という場合には、《総合較量》をすっ飛ばしていきなり結論だしてもよいと考えていたんだと。
《総合較量》する必要があるのは、グレーゾーンのときだけで。白黒はっきりしているときにまで、いちいち《総合較量》しなくたっていいんだと。
大法廷判決「の趣旨に徴して明らか」という書きぶりからも、大法廷判決だって本音ではたいして事前手続に積極的ではなかったやろ、本判決ではその本音の汲んで判断したんだよ、という意味が含意されていると読むことができるでしょうか。
この考えによれば「青色申告の承認の取消処分」については、「どう考えても事前手続いらんやろ」な場合として、《総合較量》抜きで事前手続不要という結論まで突っ走ってよいことになります。
・
もちろん、このような、大法廷判決の核の部分をざっくり刈り取る限定解釈が適切なものかは疑問があるでしょう。
が、《総合衡量》をすっ飛ばして結論を出している本判決を、それでも大法廷判決に違反していないというためには、このような理解をせざるをえないのではないでしょうか。
少なくとも、渡辺補足意見のごとく、書かれてもいない《総合較量》をやっているんだと、『見えないものを見ようとする』強弁をするよりは、マシだと思います。
・
渡辺判事自身は合議に参加しているのだから、多数意見の中身を誤解している、なんてことはなく。あえてでやっているはずです。
補足意見なるものを、無理やり両極端に分けると、
1 多数意見には書けないが、今後はこれでいくぞと意思表明をするために出すもの
2 最高裁判事個人の、文字通りのご意見・ご感想にすぎないもの
のふたつの方向があるように思います。
似たようなものでいうと、国税庁が公式でいえないから業界誌にイタコ的に語らせるのが1、業界誌独自の記事が2、にそれぞれ対応するでしょうか。
渡辺補足意見については、書いてあることからすると2っぽくみえるものの、今後、ちゃんと《総合較量》してから事前手続不要という結論を出したい行政処分があがってきたときには、多数意見に取り込んで使いまわししそうな気もするんですよね。
・
言渡をした最高裁が、自分の判決の、判例としての射程をどのように自己規程するか、それは自由です。が、それと同時に、後続の最高裁が、当該判決の射程をどのように理解するか、これもまた後続の最高裁の自由です。
大法廷判決が《総合較量》しろといっているのに、勝手に「趣旨」レベルにまで薄めて《照らす式》で結論だそうが、本判決の自由だということになります。
そしてまた、後続の最高裁が、本判決の補足意見につき、あれは単なる補足意見だから判例には含まれないとするか、多数意見と一体として判例だと読み取るか、こちらも自由です。
さすがに射程を広げたり・狭めたりの限界を超えたならば、「判例変更」を検討することなるのでしょう。だとしても「判例変更」をするかどうか、それ自体もそのときの最高裁の自由です。
◯
今回は、「補足意見が多数意見をHACKしているのでは」という見立てからスタートしました。が、補足意見を名乗っている以上、多数意見とうまく噛み合わせることができる、別の筋道がありそうな気がしてきました。
鏡花水月から脱した気になっているけども、もう一段先があるのでないかと。
ということで、次回はそちらの線を記事にしてみます。いい加減、締めることができるでしょうか。
大法廷判決をHACKしよう!! 〜最高裁令和6年5月7日判決における《面従腹背》システム
最高裁令和6年5月7日・第三小法廷判決 速感
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
規範がない。あんなの飾りです。 〜最高裁令和6年5月7日判決の法的構造
が、よくよく読んでみると、多数意見自身は《総合較量説》を採用しているなどということは一言もいっていません。「その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし」て結論を導いているだけです(以下、これを半笑い気味に《照らす式》といいます)。
大法廷判決の引用の仕方も、「の趣旨に徴して明らか」という(例の)書きぶりであって。ダイレクトな引用ではなく、「の趣旨」と一段階ぼやかした表現になっています。
最高裁令和6年5月7日第三小法廷判決
法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。本件処分に所論の違憲はなく、論旨は、採用することができない。
最高裁平成4年7月1日大法廷判決(成田新法事件)
A 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。
B しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
C 本法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、本法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは、前記のとおりである。
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一体いつから、(多数意見が総合較量説を採用していると)錯覚していた?
それは、渡辺補足意見の下記記述を目にした瞬間からです。
渡辺補足意見
多数意見が言及する平成4年大法廷判決は、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である旨判示している。多数意見は、このような枠組みの下での総合較量に基づいており、特定の考慮要素のみに基づくものではないが、私において特に明確にしておきたい2点を補足することとする。
「補足意見」については、一般に、以下のように定義づけされています。
補足意見とは:
裁判書に個別に表示される意見のうち、多数意見に加わった裁判官がそれに付加して自己の意見を述べるもの
中野次雄ほか「判例とその読み方」(有斐閣2009)
で、上記補足意見中の「多数意見は、このような枠組みの下での総合較量に基づいており」という記述を鵜呑みにして、「多数意見は《総合較量説》を採用しているんだなあ」と思ってしまったわけです。
が、多数意見の中には《総合較量》なんて文言は一切でてきません。ですし、大法廷判決のCにあたる部分がなく、表向き《総合較量》なんかやっていないわけです。
「補足意見」を名乗っておきながら、多数意見にそのまま自分の意見を付け足したのではなく。多数意見で明示されていないことを奇貨として、自分の見解に引き寄せて読み替えた、というのが渡辺補足意見の遣り口なのではないでしょうか。
過去3回の記事では、「《総合較量説》のくせになんで総合衡量のプロセスを開示しないんだ!」と批判めいたことを書いてしまいました。が、そもそも《総合較量説》を採用していないのであれば、とんだ言いがかりをつけてしまったことになります。
ですが、悪いのは、多数意見を勝手に《総合較量説》呼ばわりした渡辺補足意見であって。文句があるならそちらへどうぞ。
もしかしたら、実際の合議では《総合較量》ベースで検討していたのかもしれません。が、多数意見が《照らす式》でしか書かれていない以上、そんなことは外野からは分かり得ないわけです。
「多数意見を勝手に《総合較量説》に読み替えるな!」という批判は甘んじて受け入れるべきでしょうよ。
とはいえ、最高裁判事が「個別意見」で何を書くかについては、なんら制度上の規制はなく。あたかも自分が多数意見を代表しているかのような書きぶりをしようが、誰も制御することはできません(なお、政治的な圧力については、また別のお話し)。
「補足意見/意見」の区別にしても、法律上の区分ではなく。「なんかそういうふうに言われている」レベルのものであって(最高裁内部での口伝があるのかもしれませんが、外野には伺いしれない)。
「意見」で書くべきことを「補足意見」で書いたとしても、是正手段があるわけでもない。
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しかし、渡辺補足意見による鏡花水月から脱して。多数意見を、あるがままに読み取って《照らす式》だと捉えたとして。
《総合較量》をしないで事前手続必要/不要を判断することは、大法廷判決に真っ向から違反することになってしまうのではないでしょうか。
この点、考えられる一つの逃げ道(distinguish)として、次のようなものがありえます。
すなわち、大法廷判決も、あらゆる行政処分すべての場合に《総合較量》を要求しているわけではない、「どう考えても事前手続いらんやろ」という場合には、《総合較量》をすっ飛ばしていきなり結論だしてもよいと考えていたんだと。
《総合較量》する必要があるのは、グレーゾーンのときだけで。白黒はっきりしているときにまで、いちいち《総合較量》しなくたっていいんだと。
大法廷判決「の趣旨に徴して明らか」という書きぶりからも、大法廷判決だって本音ではたいして事前手続に積極的ではなかったやろ、本判決ではその本音の汲んで判断したんだよ、という意味が含意されていると読むことができるでしょうか。
この考えによれば「青色申告の承認の取消処分」については、「どう考えても事前手続いらんやろ」な場合として、《総合較量》抜きで事前手続不要という結論まで突っ走ってよいことになります。
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もちろん、このような、大法廷判決の核の部分をざっくり刈り取る限定解釈が適切なものかは疑問があるでしょう。
が、《総合衡量》をすっ飛ばして結論を出している本判決を、それでも大法廷判決に違反していないというためには、このような理解をせざるをえないのではないでしょうか。
少なくとも、渡辺補足意見のごとく、書かれてもいない《総合較量》をやっているんだと、『見えないものを見ようとする』強弁をするよりは、マシだと思います。
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渡辺判事自身は合議に参加しているのだから、多数意見の中身を誤解している、なんてことはなく。あえてでやっているはずです。
補足意見なるものを、無理やり両極端に分けると、
1 多数意見には書けないが、今後はこれでいくぞと意思表明をするために出すもの
2 最高裁判事個人の、文字通りのご意見・ご感想にすぎないもの
のふたつの方向があるように思います。
似たようなものでいうと、国税庁が公式でいえないから業界誌にイタコ的に語らせるのが1、業界誌独自の記事が2、にそれぞれ対応するでしょうか。
渡辺補足意見については、書いてあることからすると2っぽくみえるものの、今後、ちゃんと《総合較量》してから事前手続不要という結論を出したい行政処分があがってきたときには、多数意見に取り込んで使いまわししそうな気もするんですよね。
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言渡をした最高裁が、自分の判決の、判例としての射程をどのように自己規程するか、それは自由です。が、それと同時に、後続の最高裁が、当該判決の射程をどのように理解するか、これもまた後続の最高裁の自由です。
大法廷判決が《総合較量》しろといっているのに、勝手に「趣旨」レベルにまで薄めて《照らす式》で結論だそうが、本判決の自由だということになります。
そしてまた、後続の最高裁が、本判決の補足意見につき、あれは単なる補足意見だから判例には含まれないとするか、多数意見と一体として判例だと読み取るか、こちらも自由です。
さすがに射程を広げたり・狭めたりの限界を超えたならば、「判例変更」を検討することなるのでしょう。だとしても「判例変更」をするかどうか、それ自体もそのときの最高裁の自由です。
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今回は、「補足意見が多数意見をHACKしているのでは」という見立てからスタートしました。が、補足意見を名乗っている以上、多数意見とうまく噛み合わせることができる、別の筋道がありそうな気がしてきました。
鏡花水月から脱した気になっているけども、もう一段先があるのでないかと。
ということで、次回はそちらの線を記事にしてみます。いい加減、締めることができるでしょうか。
大法廷判決をHACKしよう!! 〜最高裁令和6年5月7日判決における《面従腹背》システム
posted by ウロ at 09:03| Comment(0)
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