2024年07月08日

最高裁令和6年7月4日第一小法廷判決(労災・メリット制)における「行政/司法」と「実体法/手続法」の交錯

 結論だけみると、労働者に寄り添った感が出ていますが。どうにもそれだけではない感じがするんですよね。

最高裁令和6年7月4日・第一小法廷判決 雑感(労災・メリット制)

 ということで、違和感の出どころを探ってみます。


 私の理解するかぎりでの、保険給付/不支給処分と保険料認定処分の法的構造は次の通り。

メリット制.png

・矢印は、影響を及ぼすことを表しています。
・事業主/労働者は、判決については「原告」、行政処分については「名宛人」を表しています。
・あり/なしは、支給要件のあり/なしを表しています。
・厳密には、審査請求、再審査請求も考慮しないといけないのですが、「行政」レベルにまとめて含まれているとして扱います。

@A
 ここは、取消判決の拘束力により、当然の帰結です。

B
 本判決にて、影響がないと判断されました。その結果、事業主は保険給付処分に対する取消訴訟を提起することはできません(原告適格なし)。

C
 平成13年決定によると、ここは影響があると判断されています。具体的にどこまでの効力かは明記されていませんが、「法律上」の利害関係があるとされている以上、なにかしら法的な効力があるのでしょう。

D
 問題はここです。
 本判決は「事業主は保険料認定処分を争えや」といったわけですが、では、事業主が保険料認定処分の取消判決を得た場合に、保険料認定処分の効力が(増額分だけ)失われるのは当然として(@)。保険給付処分にも影響があるのでしょうか。


 本判決が言っているのは、メリット制の判定対象となる「保険給付の額」は、客観的に支給要件を満たすものだけだ、というものです(B)。

 徴収法の条文には「保険給付の額」とあるにもかかわらず。現実に支給された金額全てではなく、客観的な支給要件を満たしたものだけがメリット制の判定対象なのだという限定解釈をかましています。
 文言解釈からはかなり無理のある、このような大胆な限定解釈。さすがに下級審でとばすのは難しいでしょうよ。

 本判決のこの解釈、
ア 保険給付処分は保険料認定処分に影響を及ぼさない、という行政処分間の効力を問題としているのか
それとも、
イ 保険給付処分における「支給要件あり」という実体判断は、保険料認定処分における実体判断に影響を及ぼさない、という実体判断レベルの問題を論じているのか
はっきりわかりませんが。

 いずれにしても、従前の《違法性の承継》という枠組みだと、射程が狭すぎてうまくハマらないでしょう。
 というのも、影響を及ぼすのは「違法」な場合だけとはかぎらず、また、処分間だけでなく、処分の前提となった「実体判断」レベルでも、承継が問題となりうるからです。

 本判決のロジックによれば、保険給付処分の効力はそのままで、保険料認定処分で支給要件なしと判断することができます。
 このロジックならば、保険給付処分の《公定力》《排他的管轄》に抵触しないですみます。これは《公定力》の例外を認めるものではなく、そもそも実体法レベルの解釈によって、《公定力》の対象外とするものといえます。


 本判決のような解釈からすると、保険給付処分では「支給要件あり」とされていたものが、保険料認定処分の段階では「支給要件なし」と判断される可能性がありうることになります。

 仮に、両処分の名宛人が同一人物であれば、《禁反言》などを理由に、「あり→なし」に変更するのを制御できるのかもしれません。が、両処分の名宛人は別人であり、そのような制約をかけることは難しいでしょう。

 では、この《不整合》を解消する権限/義務が行政にあるのかどうか、保険給付処分を事後的に「職権取消し」できる/すべきかどうか。
 上記図でいうと、Bの矢印の逆向きがどうなるのか、ということです。

 労働者救済を強調するならば、「影響なし」とすべきなのでしょうが。保険給付処分における実体判断が、あくまでも早期救済のかぎりで、というならば、保険料認定処分の段階での判断を優先する、という解釈もありうるわけで。
 あるいは、間をとって、遡及はしないが将来の支給は認めないとか。

 最高裁の、近時の《理論的整合性》を軽く見るノリからすると、労働者救済推しで行っちゃいそうな気もしますが、どうなるでしょうか。


 では、Dの影響があるかどうかについては、どのように考えればよいのでしょうか。

 上述のとおり、本判決が扱っているのは、《実体法》レベルにおいて、保険給付処分での判断は保険料認定処分には影響がないというにとどまり(B)。保険料認定処分の取消判決が保険給付処分に対する拘束力を有するか、という《訴訟法》レベルの問題は触れていません。
 行政処分の相互関係という徴収法内部の問題と、司法が行政に口出しをする場面における問題とは、同列には扱えません。

 この点については、やはり平成13年決定の存在を無視できません。
 平成13年決定ではCの影響を認めているため、保険給付/不支給と保険料認定とが、どのレベルにおいても全く無関係、と解釈することはできません。

 保険不支給処分の取消判決で「支給要件あり」と判断されてしまうと、保険料認定処分でも「支給要件あり」と判断しなければならなくなる(C)、というならば、保険料認定処分の取消判決で「支給要件なし」と判断されてしまうと、保険給付処分も「支給要件なし」として、取消なり撤回をしなければならなくなる(D)、という帰結になるはずです。

 もし「Cは認めるがDは認めない」という結論を導きたいのであれば、《訴訟法》レベルでそれ専用の道具立てを用意しなければならないでしょう。
 たとえば、平成13年決定は、「補助参加の利益」レベルでの影響を認めたにすぎず、取消判決の拘束力が及ぶとまではいっていないとか何とか。

 この先に、保険料認定処分の取消訴訟に「労働者」が補助参加(あるいは訴訟参加)できるか、という論点があります。
 もし「保険料認定→保険給付」の方向には、およそいかなる意味でも何の影響もない、ということであれば、補助参加する必要もなく、労働者はご安心して給付受け続けてください、ということになります。

 そもそも「補助参加の利益」という概念自体、未だによく分からないもので。なぜ平成13年決定の事案では認められたのかも、しっくりきていない。
 とはいえ、決定としてまだ残っている以上、ガン無視するわけにはいかず、整合性をもった解釈を施す必要はあるでしょう。


 で、最初に書いた違和感の正体。

 おそらくですが、本判決が「事業主は保険料認定処分を争えや」とだけしか言わず。もし事業主が保険料認定処分の取消判決を得てしまった場合、保険給付処分がどうなるのか、について何も触れていないからだと思います。
 平成13年決定とあわせてみるかぎり、司法と行政の《上下関係》を、改めて確認しただけのようにも読めますし。

 もちろん、「当該事案の解決に必要なかぎりで判断を示す」というのは建前としてあるわけですが。そんなもの、傍論なり個別意見(補足意見・意見)なりで、ご指導いただければいいことでしょう。

 「傍論・個別意見は判例ではない」とか言ったって、どうせ我々実務家は、おもいっきりそれらに従って行動せざるをえないのであって。

 ということで、労働者・事業主どちらの立場に立ったとしても、さしあたり第1ラウンドが終わっただけの話で。
 保険料認定処分をめぐる第2ラウンド、及び保険料認定処分の取消判決が出た場合の第3ラウンドが控えており。「労働者勝ったね、よかったね。」とか言っている場合ではない。


 おもいっきり専門外がゆえ。私個人が何かしらの定見をもっているわけではないのですが。

 どのような見解をとるにしても、実体法レベルの解釈と訴訟法レベルの解釈とは、混同しないように論じてもらえればと。
 ちなみに、これらを区別しないまま、正義っ子気取りで判決しているのが「武富士事件」に関する最高裁判決(のうち特に須藤補足意見)、というのが私の見立て(とばっちり)。

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posted by ウロ at 09:17| Comment(0) | 判例イジり