2024年09月23日

使途不明金と使途秘匿金 〜だから違うっつんてんだろ!!

 各種解説書のたぐいで、横並びで説明されがちなこの二人。
 税制上は全くの別レベルのものだというのに。いまいち理解がされていない(上田晋也氏「加藤あいと阿藤快くらい違うよ!」)。

 先日イジった書籍も、(税理士を法律ド素人扱いしているくせに)どうも正確に理解していないっぽい書きぶりでしたよね。

眞鍋淳也「税務調査は弁護士に相談しなさい」(ディスカバー2024)

 ということで、条文レベルでの整理をしておきます。
 なお、国税庁の「指示」により、使途秘匿金課税については慎重に対応することとされています。が、以下はあくまでも条文に書かれているかぎりでの整理にとどまります。


 余談ですが、本論点のほかに、税法世界でその位置付けが正確に理解されていないものの代表例が、総則6項。
 最高裁判決により釘を刺されたはずなのに、議論枠組みを頑なに変えない、一定の勢力が存在する。

だから巡ってないってば! 〜最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(財産評価)


 (遺憾ながら)いきなり通達から。

法人税基本通達9−7−20(費途不明の交際費等)
 法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。


 通達が勝手に「損金不算入規定」を新設するのおかしくない?というのはごもっともな疑問。

 説明の仕方としてはいくつかありますが。ここでは、次のとおり理解しておきます。
・「費途」が不明な場合、「費用性」が認められないことを明記した(法22条3項2号の解釈として)。
・「交際費等」に限定しているのは、「物を買う」場合のように、対価として見合いのものが入ってこない場合だから。

法人税法 第二十二条
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 ということで、「費途不明金」なる概念は、費用性が認められない(と国税庁が考える)支出のうちの一部を、グループ化しただけの概念であって。法律上の制度ではないということです。

 素直に「費用として認められない」といえばいいところを、「費途不明金に該当するから費用として認められない」とかいうの、どうにも回りくどく感じられ。講学上の概念としても使うべきではない、と個人的には思います(櫻井和寿氏のことを「Bank Bandのボーカルの人」というみたいなもの、という例が思い浮かびましたが、なんか違う気がする)。

【卑近な例】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)

 なお、「使途不明金」という書き方をされることもあります(タイトルはあえてこちら)。が、これだと、法令はおろか通達にすらとっかかりのない用語となってしまいます。
 また、「使途秘匿金」と同レベルの制度だと誤解される元凶のひとつではないかとも思います。
 ので、「使途不明金」という用語は使いません。

 と、気に入らないと思いつつ、以下では「使途秘匿金」と対比するものとして「費途不明金」という用語を用います。


 で、「使途秘匿金」について。4、6、7、8項は省略します。

租税特別措置法 第六十二条
1 法人(公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法第六十六条第一項から第三項まで及び第六項、第六十九条第十九項(同条第二十三項又は第二十四項において準用する場合を含む。)並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の四第八項第六号ロ及び第七号(これらの規定を同条第十八項において準用する場合を含む。)、第四十二条の十四第一項及び第四項、第六十二条の三第一項及び第九項、第六十三条第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。

2 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。

3 税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を第一項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる。

5 法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載しているかどうかの判定の時期その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

9 第一項の規定は、法人がした金銭の支出について同項の規定の適用がある場合において、その相手方の氏名等に関して、国税通則法第七十四条の二(第一項第二号に係る部分に限る。)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求をすることを妨げるものではない。


 これを簡単にまとめると次のとおり。

1項
 使途秘匿金の支出額に40%課税する
2項
 使途秘匿金の支出とは
 ア 金銭の支出+金銭以外の資産の引渡し
 イ 相手方の氏名名称、住所所在地、その事由を帳簿書類に記載していない
 ウ 記載していないことに相当の理由がない
 エ 取引の対価(金額相当)の支払は除外
3項
 税務署長が、記載していないことが秘匿するためでないと認めるときは秘匿金課税しない
5項
 記載の判定時期は事業年度終了日(令38条1項)
9項
 秘匿金課税をする場合でも、重ねて質問検査権を行使してもよい


 こんなピーキーな制度を「費途不明金」と横並びにできる税法感覚、よく理解できません。

 使途秘匿金の特徴は以下のとおり。

・「支出額」にダイレクトに課税する。損金不算入⇒課税所得UP経由で課税するのとは、わけが違う(赤字でも課税)。
 未だに措置法に置かれっぱなしで本法に編入されないの、ダテじゃない。

・「未記載」がメインの要件となっている。費用性のような実質判定ではなく、形式判定によるということ。系統でいうと、消費税法における「仕入税額控除」に近い。

・「使途」秘匿金というが、記載の対象は使い道だけでなく。氏名住所の記載も要求されている。

・事業年度が終了するまでに記載していなければアウト。事後的に明らかにしたところで挽回できない(優良帳簿なら完全に詰みか)。

・「相当な理由」は、記載しなかったことに対するもの。
 たとえば「いろんな人にビール券配った」など、相手方を特定しようがない場合などが想定されている。それ以上に、「刑事責任を追及されるおそれがある」とか「今後取引が打ち切られてしまう」などの理由が該当するかは、今のところはっきりしない(おそらく消極)。

・「秘匿するためでないこと」が要件のひとつになっているが、「相当な理由」とは違って、ストレートに実体要件として記述されていない。税務署長の判断に委ねられてしまっている(裁判所による裁量統制はあるでしょうが)。

・「使途秘匿金課税を受け入れます」と白旗あげても、質問検査権の追及から逃げられるわけではない。
 ましてや、例の著書がいうみたいに「納税者には立証責任ないから、秘匿したまま税務署が立証するのを待っていればよい」などという対応で、安穏としていられるわけがない。
 むしろ、そんな対応、質問調査権の「必要性・相当性」を爆上げさせるだけで。どぎつい調査権行使を呼び込むだけなんじゃないですかね。


 このように、使途秘匿金を費途不明金と地続きで記述するには、あまりにノリが違うわけです。
 使途秘匿金から放たれる禍々しいオーラを感じ取れるなら、とても費途不明金を隣に置いておけるものではないことに、気づくはずです。

 使途秘匿金の置き場所で、私が一番しっくりきたのは、「図解 法人税」での配置。

 馬場光徳「図解 法人税(令和6年版)」(大蔵財務協会2024)

 (よくある教科書類で対応するものでいうと)「第4章 費用の税務」の中に配置されがちなところを。「第15章 税額計算、申告、納付」の中で、留保金課税との並びで、使途秘匿金課税が解説されています。

 他方で、置き場としてダメなものの代表として、「金子租税法」。

 金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021) Amazon

 「法人所得の意義と計算」⇒「損金の額の計算」⇒「使途秘匿金(使途不明金)」と、損金ルールの中で記述されてしまっています。

 あらためて。
 「金子租税法」は、壮大な金子租税法学を仰ぎ見るためと、関連判決・論文を網羅的に拾い上げるためのエンサイクロペディアとして利用するものであって。
 現行税制をあるがままに理解するためには、必ずしも適合的でないところがある、ということは意識しておくべきだなあと。


 費途不明金のほうは、他の課税要件と同様「実質重視」の判定をします。ところが、使途秘匿金については、帳簿未記載という「形式要件」が前面に出てきます。

 この点、私の肌感覚として、「消費税法の仕入税額控除が、適格者からの課税仕入であることが明らかであっても、インボイス無しor帳簿記載なしという形式のみで控除が否定されるの、理不尽すぎる」と思うのに対して。「使途秘匿金」については、そこまでの理不尽さは感じません。

 この感覚の違いが何に基づくものなのか、さしあたりよく分かりません。


 「課税要件事実論」の信奉者の方々は、ぜひとも費途不明金と使途秘匿金の、それぞれの要件事実を展開してみてください。

【課税要件事実論の展開】
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 そこらの《税務お役立ち記事》だと、あたかも「a+b」の関係にあるかのような記述になっているのですが。全く別物であることがお分かりになるかと思います。
(誤導的な書き方をしていますが、書き出しから「費途不明金の要件事実」とかやりだしたら、その時点でアウトですからね。)
posted by ウロ at 09:00| Comment(0) | 法人税法