2024年10月07日

交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)

 前回は、交付特例と保存特例を一気通貫で整理しました。

交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)

 今回は、全体の概観をします。
 前回述べたとおり、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については正面から扱いません。また、古物商等特例は古物商を念頭におき「再生資源」に関する記述は省略します。

交付特例・保存特例.png



 先に指摘しておきたいのが、例外ルールのない取引についてです。

 ・ATM手数料
 ・ETC
などのように、「少額・大量・どう考えても売手適格者に決まってんだろ」な取引が、なぜここに入ってこなかったのか。
 公共交通機関、郵便ポストあたりと近いはずですが、「アレがよくてコレがだめ」の理由が謎です(そのせいで、Q&Aがみっともない緩和運用を示さざるをえなくなっている)。

 同様に、「自動販売機はよくてコインパーキングはだめ」というのもよくわかりません。機械で完結するかどうかというのが、インボイスの要否にどう影響してくるのでしょうか。
 「自販機や郵便ポストにはインボイス発行機能を仕込まなくてよいが、コインパーキングには仕込まなければならない」なんて、どういう根拠による職業差別なんでしょうか。

 いっそのこと、駐車料ではなく「ゲート上げ下げ料」として徴収すればいいんですか(当然ふざけて言っていますが、お役所の有料駐車場問題も、この手の屁理屈じゃないかと私は思うのですが)。

 さて、では中身に触れていきます。


 まず「売手の属性」について。

 公共交通機関と郵便ポストに〈適格者〉とあるのは、法令上は要件とされていないものの、これらのサービス提供者はどう考えても適格者に決まってんだろ、という意味合いです。

 他方で、入場券等は、一旦は簡易インボイス(の記載事項のうち取引年月日以外が書かれたもの)を発行することが要件となっているため、売手は「適格者」である必要があります。

 自販機には売手の属性要件はないため、「適格者/非適格者」いずれの場合もあります。が、この特例のおかげで、買手は売手の属性を気にせずに取引ができることになります。

 出張旅費等は、直接の売手は「従業員」ですが、実際の支払先には「適格者/非適格者」が混ざってくることになるでしょう(自販機と同様「不特定」にあたる)。
 実費精算の場合でもこれを使えるのは、もっぱら事業主の便宜に阿った結果だとは思いますが。「出張旅費等」かどうかで扱いを区別する、という手間は増えることになります。

 卸売市場・農協等は、元の売手の属性要件はありません。が、「媒介者」が適格者である必要があります。
 なお、媒介者が適格者であることが益税撲滅に何の意味もないことについては、《媒介者交付特例》で論じたものをご参照ください。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)

 突出してイカれてるのが古物商等です。売手が「非適格者」である場合だけに限定されています。

 なぜこれをイカれてると評価するのかといえば、

 【売手の属性】
 ・適格者 →益税なし 《課税=控除》
 ・不特定 →益税かもしれないし、ないかもしれない 《課税=控除》or《課税<控除》
 ・非適格者 →絶対に益税が発生する! 《課税<控除》

ということであり、どう考えても益税が発生するからです。

 自販機などが売手の属性を「不特定」とするのは、『適格チェックする事務負担を軽減してあげる』という大義名分があるわけです。ところが、古物商等の場合は『適格チェックした上で「非適格者」であることが確認できたら税額控除してよい』という、よりによって倒錯した控除要件になっています。

 自販機などが「適格者か非適格者かなんて、面倒くさくて区別してらんないよ〜」なんて軟弱な理由なのに対し。「非適格者からの仕入であることが明らかなら税額控除させろ!!」という、ド正面からの、理不尽な益税要求(それぞれ、発言をのび太とジャイアンで脳内再生すると、イメージしやすいでしょうか)。

 あれだけ益税を蛇蝎のごとく憎んでいたはずのインボイス推進派の方々が、なぜ古物商等特例についてはダンマリを決め込んでいるのか、謎すぎる。

「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)


 「氏名」については、古物商等で業務帳簿が不要な場合だけ、会計帳簿も記載不要とされています。バーターとして何かが要求されている、ですらなく。この場合、代わりの何も要求されてない。
 古物商等だけがやたら優遇されていると。

 自販機については、Q&Aによって記載しないでも「差し支えない」とされています。それ以外のものも、このノリでずるずると「差し支えない」扱いが増えていくのでしょうか。


 「住所」についてですが、必要とされているのが古物商等で業務帳簿が必要な場合だけです。
 とはいえ、この場合も、業務帳簿に書いておけば会計帳簿には記載不要という古(いにしえ)からの取り扱いがあります。

 R6の告示改正で自販機と入場券等が追加された結果、令49条1項1号柱書の括弧内の「インボイス保存しないかわりに帳簿に住所書けや」要件は、実質死文化したといってよいのでは。

 そして、全滅させるというならば、「省令:必要→告示:不要」なんて回りくどいことをせず。省令内できっちり介錯してあげるべきではないでしょうか(解釈の誤字ではない)。

【現行法】
 法律:住所いらない。
  政令:保存いらない。代わりに住所書け。(+規則:保存いらない場合追加) 
   告示:住所いらない(いるのは古物商等で業務帳簿に書くときだけ)

【再構成案】
 法律:住所いらない。
  政令:保存いらない。ただし古物商等で業務帳簿に書く場合だけ住所書いておいて。


 以上、交付特例と保存特例を整理してみたのですが。
 結局のところ、古物商等特例の異常さを再認識させられただけな気がします。
posted by ウロ at 09:02| Comment(0) | 消費税法