今回は、目地埋め系の小ネタ記事です。
「公売特例」については、下記記事で、《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として取り上げました。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
インボイス絡みの特例の中では、損税も益税も生じない、ずいぶんとまともな制度だなあと。
ではこの公売特例と、「8割控除」(という条文設計に失敗した特例)との関係はどうなっているでしょうか。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
公売特例は「公売」のみに適用されるものではありませんが、以下では「公売」を念頭において記述します。
【登場人物】
A 滞納者
B 執行機関(媒介者)
C 買受人
◯
まず、公売特例は「売手側」の交付特例、8割控除は「買手側」の保存特例という位置づけであることを理解する必要があります。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
ので、適用範囲がバッティングしてどちらかが優先適用される、という関係にはありません。
【少額特例と8割控除】
少額特例と電気通信利用役務の提供 〜消費税法の理論構造(種蒔き編49)
・
で、公売特例の要件についてですが。
公売特例は、媒介者交付特例と異なり、滞納者が執行機関に適格者であることを「通知」する必要はありません。が、実体要件としてAが「適格者」であることは要求されています。
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。
そのため、執行機関は、買受人にインボイスを交付するにあたり、滞納者が「適格者」かどうかを調査しなければなりません。
で、滞納者が適格者であることが確認できたら、執行機関は買受人にインボイスを交付します。このインボイスには「執行機関の名称+公売特例を適用する旨」を記載するだけでよく、「滞納者の氏名・住所、インボイス番号」を記載する必要はありません。
この「公売インボイス」は、正規のインボイスとして扱われるため、滞納者が適格者の場合には、「8割控除」の出番はないということになります。
・
では、滞納者が「非適格者」の場合はどうかというと。執行機関はインボイスを交付しないこととなります。
この場面において、買受人が「8割控除」の適用を受けられるか、というかたちで「8割控除」の適否を検討する必要が出てくるわけです。
8割控除の条文については、下記記事を参照いただくとして。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
8割控除の要件のうち、公売の場面で問題となるのが、滞納者に「区分記載請求書」を発行してもらえるかどうか、です。
公売特例の条文の書きぶりからすると、滞納者は「執行機関を介して」課税資産の譲渡を行っているという建付けとなっているため、滞納者が区分記載請求書を発行してもよいことになりそうです。
が、「できる」のはいいとして、その先、滞納者には「区分記載請求書」を発行する義務があるのでしょうか。
適格者にはインボイスを交付する義務が課せられているのに対し(法57条の4)。非適格者には「区分記載請求書」を発行する義務は課せられていません。
したがって、買受人が運良く滞納者から「区分記載請求書」を発行してもらえた場合には「8割控除」が適用できるのに対し。発行してもらえない場合には、買受人はそれ以上どうすることもできないため、適用を受けられない、という帰結になります。
・
金額的にも相当でかくなると思うのですが。「売手側」の公売特例はあるのに、「買手側」の公売特例はないわけです。
このあたりは、通常の取引と異なり。滞納者が「非適格者」だというならば、そのことを織り込んで「入札価格」を調整すればいいだけだろ、ということで正当化できるでしょうか。
そうだとして、運良く区分記載請求書をもらえたら「8割控除」を受けられる、というのも不公平な気もしますが。
また、これまでの記事でさんざん述べてきたところですが。
「課税事業者である非適格者」というカテゴリが存在することによる「損税」につき、公売の場面でも何らの手当もされていません。特に、公売においては対象物件にかかる消費税が優先で掻っ攫われてしまうのであって。お国の側では取りっぱぐれが生じない。
インボイス施行後の消費税法が、
・課税側は、課税事業者/免税事業者・消費者
で区分しているにもかかわらず、
・控除側は、適格者(課税事業者)/非適格者(課税事業者・免税事業者・消費者)
で区分していることのミスマッチによる損税が、ここでも生じてしまっているわけです。
◯
ちなみに、「通常の取引」の場面でも、売手は「区分記載請求書」を発行する義務があるか、という点は問題となりえます。
もちろん、普通は任意に発行してくれるものでしょうし、また、契約上の義務として明記しておけば請求可能でしょう。そうじゃない場合にどうなるか、というお話しです。
たとえば、民法486条に「契約当事者は相手方の損害軽減に協力しなければならない」という契約規範をプラスすることで、「区分記載請求書交付義務」を導出することができるでしょうか。
まあ、税率が複数にならないかぎり、普通に領収書を書いてくれれば、区分記載請求書の記載事項を満たせるはずですけども。
民法 第四百八十六条(受取証書の交付請求等)
1 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
2 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。
キャッシュレス決済と印紙税法 〜第17号文書(領収書)該当性について
◯
以上、消費税法から直接導くことができる結論を記載しただけで。運用レベルでどのように扱われるかは考慮外です。
2024年10月28日
公売特例と8割控除 〜消費税法の理論構造(種蒔き編52)
posted by ウロ at 09:26| 消費税法
2024年10月24日
中川一郎「税法学巻頭言集」(清文社2013)
中川一郎先生執筆にかかる、『税法学』1〜200号までの巻頭言を一冊にまとめたもの。
中川一郎「税法学巻頭言集」(清文社2013) Amazon
機関誌「税法学」
当時は毎月刊行されていたため、要するに、創刊号の昭和26年1月から昭和42年8月までの200ヶ月分が収録されているということです。
昭和42年に出版されたものを、清文社様が復刊されたとのことで。大変よいお仕事をされておられますね(偉そうに)。
私自身、あまり「史」に関する記述は好みではなく。教科書に書かれている「租税法の歴史」「租税法の展開」みたいな箇所は読み飛ばしがち。
なのに対し、本書は大変興味深く読み進められました。
おそらくですが、教科書に書かれているような、要領よく後知恵的にまとめられた記述とは異なり。その時々ごとの出来事を、臨場感をもって読めるから、ではないかと思います。
シャウプ勧告からはや3年とか、これから国際連合に加盟するとか、さらっと書いてあって。まさにそのとき起こっていることが書かれていて、その時代を追体験できているように感じました。
・
「巻頭言」ゆえ、論点の深堀りは本論文に譲られているわけですが。その時々の税法上の重要問題に触れられていて。
大きめのイベントに絞っても、
・国税通則法の制定
・所得税法、法人税法の全文改正
・相続税財産評価基本通達の制定
などがこの期間に行われています。
・
で、中川先生ご自身が、本書の中で繰り返し主張されている主なものとして、
・税法が複雑になりすぎ。シンプルにすべき。
・税法で経済政策を実現しようとするのやめろ。
・措置法を縮小、整理しろ。
・通達行政やめろ。
といったものがあります。
これを見ていただいて分かると思うのですが。現代においてもほとんど解消されていない、どころか、むしろ悪化していますよね。
「組織再編税制」絡みの条文なんてお見せしたら、どういう反応をされたでしょうか。
本書には、現代だったら《検閲》に引っかかって掲載されないであろう、不穏当な表現もそのまま残されているのですが、相当キツめの表現で批判されていたのではないでしょうか。
措置法ならまだしも、法人税法本法に突っ込まれているわけで。
また、「通達行政」に対する批判があるのは、現代も同じはありますが。
本書の中に、かつて通達は『国税速報』(大蔵財務協会)でしか公表されていなかったのが、官報に掲載されるようになってちょっと早く入手できるようになった、みたいなエピソードがでてきて。
同じく「通達行政」とはいっても、紛いなりにも公式サイトに一通り掲載されている現代とは、酷さの度合いが違っていたのではないでしょうか。
法令解釈通達(国税庁)
とはいえ現代では、通達ですらない「Q&A」や、公式ですらない「民間の業界誌」を経由して運営の見解が公表されるという、新たなステージに突入しているところであり。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
「税務DX」がどうこうとか、そういうハイカラな問題に飛びつくよりも前に、もっと根本的な部分の見直しが必要ではないのか、と思っております。
・
200号どまりで、続刊が出ていないのは残念。
まとめて一気読みできることに意味があるのであって。ひたすら丹念に「税法学」を1号ずつ追っていくのとは、GROOVE感が全く異なる。
中川一郎「税法学巻頭言集」(清文社2013) Amazon
機関誌「税法学」
当時は毎月刊行されていたため、要するに、創刊号の昭和26年1月から昭和42年8月までの200ヶ月分が収録されているということです。
昭和42年に出版されたものを、清文社様が復刊されたとのことで。大変よいお仕事をされておられますね(偉そうに)。
私自身、あまり「史」に関する記述は好みではなく。教科書に書かれている「租税法の歴史」「租税法の展開」みたいな箇所は読み飛ばしがち。
なのに対し、本書は大変興味深く読み進められました。
おそらくですが、教科書に書かれているような、要領よく後知恵的にまとめられた記述とは異なり。その時々ごとの出来事を、臨場感をもって読めるから、ではないかと思います。
シャウプ勧告からはや3年とか、これから国際連合に加盟するとか、さらっと書いてあって。まさにそのとき起こっていることが書かれていて、その時代を追体験できているように感じました。
・
「巻頭言」ゆえ、論点の深堀りは本論文に譲られているわけですが。その時々の税法上の重要問題に触れられていて。
大きめのイベントに絞っても、
・国税通則法の制定
・所得税法、法人税法の全文改正
・相続税財産評価基本通達の制定
などがこの期間に行われています。
・
で、中川先生ご自身が、本書の中で繰り返し主張されている主なものとして、
・税法が複雑になりすぎ。シンプルにすべき。
・税法で経済政策を実現しようとするのやめろ。
・措置法を縮小、整理しろ。
・通達行政やめろ。
といったものがあります。
これを見ていただいて分かると思うのですが。現代においてもほとんど解消されていない、どころか、むしろ悪化していますよね。
「組織再編税制」絡みの条文なんてお見せしたら、どういう反応をされたでしょうか。
本書には、現代だったら《検閲》に引っかかって掲載されないであろう、不穏当な表現もそのまま残されているのですが、相当キツめの表現で批判されていたのではないでしょうか。
措置法ならまだしも、法人税法本法に突っ込まれているわけで。
また、「通達行政」に対する批判があるのは、現代も同じはありますが。
本書の中に、かつて通達は『国税速報』(大蔵財務協会)でしか公表されていなかったのが、官報に掲載されるようになってちょっと早く入手できるようになった、みたいなエピソードがでてきて。
同じく「通達行政」とはいっても、紛いなりにも公式サイトに一通り掲載されている現代とは、酷さの度合いが違っていたのではないでしょうか。
法令解釈通達(国税庁)
とはいえ現代では、通達ですらない「Q&A」や、公式ですらない「民間の業界誌」を経由して運営の見解が公表されるという、新たなステージに突入しているところであり。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
「税務DX」がどうこうとか、そういうハイカラな問題に飛びつくよりも前に、もっと根本的な部分の見直しが必要ではないのか、と思っております。
・
200号どまりで、続刊が出ていないのは残念。
まとめて一気読みできることに意味があるのであって。ひたすら丹念に「税法学」を1号ずつ追っていくのとは、GROOVE感が全く異なる。
posted by ウロ at 16:43| Comment(0)
| 租税法の教科書
2024年10月21日
印紙税法における手続論的展開 〜印紙税法レクイエム
もちろん、いまさら印紙税法の記事を書くなんて、ただの事前追悼記事にすぎません(本ブログにおける《手形法レクイエム》と同じポジションです)。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣1983)
◯
印紙税法の解説書、最近どの程度出版されているのか寡聞にして存じ上げませんが。
たとえば、下記のような弁護士が書かれた書籍においてすら、印紙税法の《手続的側面》はほとんど省略されてしまっています。
鳥飼重和「実務に役立つ印紙税の考え方と実践」(新日本法規2017) Amazon
鳥飼重和「実務に活かす印紙税の実践と応用」(新日本法規2018) Amazon
もっぱら、「課税文書に該当するか」という《実体的側面》ばかりに議論が集中していて。
税務調査のところまでは触れられているのですが。その先、納税者と課税庁とで意見が物別れに終わったあと、どのように手続きが進んでいって最終的に訴訟にまで至るのか、そのことが書かれていません。
・
では、「国税通則法」の解説書のほうで扱われているかというと。
印紙税法が正面から扱われることは、まあない。個別税目でいうと、「源泉所得税」がやたと幅を効かせているものばかり。
木山泰嗣「国税通則法の読み方」(弘文堂2022) Amazon
ということで、仕方がないので、以下、軽く整理をしておきます。
なおこれは、印紙税法そのものについてどうこう、ということではなく。将来的に、同じような建付けの税目が新設されたとき用の備えとしてです。
◯
まず、印紙税を納付する義務は、課税文書作成の時に「成立」し、それと同時に「確定」します(なお、「納税義務の成立」という概念には胡散臭さを感じていますが、それはまた別の機会に)。
つまり、印紙税の納税義務は、いわゆる「自動確定方式」によるということです(以下では「特例」の扱いは省略します)。
国税通則法 第十五条(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)
1 国税を納付する義務(源泉徴収等による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第十三号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。
十二 印紙税 課税文書の作成の時
3 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする。
五 印紙税(印紙税法(昭和四十二年法律第二十三号)第十一条(書式表示による申告及び納付の特例)及び第十二条(預貯金通帳等に係る申告及び納付等の特例)の規定の適用を受ける印紙税及び過怠税を除く。)
そうすると、国税通則法の解説書でド派手に展開されている「源泉所得税」(自動確定方式)の議論を横流しできるのかといえば、全くそうではなく。
印紙税法 第二十条(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
1 第八条第一項の規定により印紙税を納付すべき課税文書の作成者が同項の規定により納付すべき印紙税を当該課税文書の作成の時までに納付しなかつた場合には、当該印紙税の納税地の所轄税務署長は、当該課税文書の作成者から、当該納付しなかつた印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収する。
7 第一項又は第三項の過怠税の税目は、印紙税とする。
納税者が印紙税を納付しなかった場合、課税庁は「過怠税」(=印紙税+印紙税×2)を徴収することとしています。そして過怠税は「賦課課税方式」に従うことになっています。
国税通則法 第十六条(国税についての納付すべき税額の確定の方式)
1 国税についての納付すべき税額の確定の手続については、次の各号に掲げるいずれかの方式によるものとし、これらの方式の内容は、当該各号に掲げるところによる。
二 賦課課税方式 納付すべき税額がもつぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。
2 国税(前条第三項各号に掲げるものを除く。)についての納付すべき税額の確定が前項各号に掲げる方式のうちいずれの方式によりされるかは、次に定めるところによる。
一 納税義務が成立する場合において、納税者が、国税に関する法律の規定により、納付すべき税額を申告すべきものとされている国税申告納税方式
二 前号に掲げる国税以外の国税賦課課税方式
国税通則法 三十二条(賦課決定)
1 税務署長は、賦課課税方式による国税については、その調査により、課税標準申告書を提出すべき期限(課税標準申告書の提出を要しない国税については、その納税義務の成立の時)後に、次の各号の区分に応じ、当該各号に掲げる事項を決定する。
三 課税標準申告書の提出を要しないとき。 課税標準(第六十九条(加算税の税目)に規定する加算税及び過怠税については、その計算の基礎となる税額。以下この条において同じ。)及び納付すべき税額
3 第一項の規定による決定は、税務署長がその決定に係る課税標準及び納付すべき税額を記載した賦課決定通知書(第一項第一号に掲げる場合にあつては、納税告知書)を送達して行なう。
印紙税法 第二十条(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
6 税務署長は、国税通則法第三十二条第三項(賦課決定通知)の規定により第一項又は第三項の過怠税に係る賦課決定通知書を送達する場合には、当該賦課決定通知書に課税文書の種類その他の政令で定める事項を附記しなければならない。
では、自動確定方式で発生・確定したはずの「印紙税」の納税義務はどこに行ってしまうのか。
印紙税法20条1項に基づいて、「印紙税」の納税義務(自動確定方式)が消滅して、「過怠税」の納税義務(賦課課税方式)に置き換わる、と理解すればよいのでしょうか。
・印紙税(自動確定) ←過怠税に吸収される?
・過怠税(賦課課税)
もちろん、結論は誰もが分かっているわけですが。それを条文からどのように導くか、ということです。
はっきりしませんが、さしあたり上記のとおり理解しておきます。
・
ここまでくれば、あとは国税通則法の解説書に書かれている「賦課課税方式」についての記述に従って、不服申立てをするなり、訴訟を提起するなりすることになります。
裁決や判決をみていて、なぜ印紙税法上の争いは、「過怠税」の賦課決定処分を争うものばかりで「印紙税」本体を争うものがないのか、という疑問をもたれた方がいるかもしれません。
その理由は、「印紙税」本体の納税義務はいつの間にかどこかへ消えてしまうから、です。法人税・所得税などのように、本税が本体であるのとは、建付けが全く異なるわけです。
では、なぜこういう建付けにしたのでしょうか。
「自動確定の印紙税のままだと争いにくかろう」という親切心、なわけはないですよね。
それこそ「源泉所得税」も、不納付加算税と合算して賦課課税するという建付けでもよいと思うのですが。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣1983)
◯
印紙税法の解説書、最近どの程度出版されているのか寡聞にして存じ上げませんが。
たとえば、下記のような弁護士が書かれた書籍においてすら、印紙税法の《手続的側面》はほとんど省略されてしまっています。
鳥飼重和「実務に役立つ印紙税の考え方と実践」(新日本法規2017) Amazon
鳥飼重和「実務に活かす印紙税の実践と応用」(新日本法規2018) Amazon
もっぱら、「課税文書に該当するか」という《実体的側面》ばかりに議論が集中していて。
税務調査のところまでは触れられているのですが。その先、納税者と課税庁とで意見が物別れに終わったあと、どのように手続きが進んでいって最終的に訴訟にまで至るのか、そのことが書かれていません。
・
では、「国税通則法」の解説書のほうで扱われているかというと。
印紙税法が正面から扱われることは、まあない。個別税目でいうと、「源泉所得税」がやたと幅を効かせているものばかり。
木山泰嗣「国税通則法の読み方」(弘文堂2022) Amazon
ということで、仕方がないので、以下、軽く整理をしておきます。
なおこれは、印紙税法そのものについてどうこう、ということではなく。将来的に、同じような建付けの税目が新設されたとき用の備えとしてです。
◯
まず、印紙税を納付する義務は、課税文書作成の時に「成立」し、それと同時に「確定」します(なお、「納税義務の成立」という概念には胡散臭さを感じていますが、それはまた別の機会に)。
つまり、印紙税の納税義務は、いわゆる「自動確定方式」によるということです(以下では「特例」の扱いは省略します)。
国税通則法 第十五条(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)
1 国税を納付する義務(源泉徴収等による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第十三号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。
十二 印紙税 課税文書の作成の時
3 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする。
五 印紙税(印紙税法(昭和四十二年法律第二十三号)第十一条(書式表示による申告及び納付の特例)及び第十二条(預貯金通帳等に係る申告及び納付等の特例)の規定の適用を受ける印紙税及び過怠税を除く。)
そうすると、国税通則法の解説書でド派手に展開されている「源泉所得税」(自動確定方式)の議論を横流しできるのかといえば、全くそうではなく。
印紙税法 第二十条(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
1 第八条第一項の規定により印紙税を納付すべき課税文書の作成者が同項の規定により納付すべき印紙税を当該課税文書の作成の時までに納付しなかつた場合には、当該印紙税の納税地の所轄税務署長は、当該課税文書の作成者から、当該納付しなかつた印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収する。
7 第一項又は第三項の過怠税の税目は、印紙税とする。
納税者が印紙税を納付しなかった場合、課税庁は「過怠税」(=印紙税+印紙税×2)を徴収することとしています。そして過怠税は「賦課課税方式」に従うことになっています。
国税通則法 第十六条(国税についての納付すべき税額の確定の方式)
1 国税についての納付すべき税額の確定の手続については、次の各号に掲げるいずれかの方式によるものとし、これらの方式の内容は、当該各号に掲げるところによる。
二 賦課課税方式 納付すべき税額がもつぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。
2 国税(前条第三項各号に掲げるものを除く。)についての納付すべき税額の確定が前項各号に掲げる方式のうちいずれの方式によりされるかは、次に定めるところによる。
一 納税義務が成立する場合において、納税者が、国税に関する法律の規定により、納付すべき税額を申告すべきものとされている国税申告納税方式
二 前号に掲げる国税以外の国税賦課課税方式
国税通則法 三十二条(賦課決定)
1 税務署長は、賦課課税方式による国税については、その調査により、課税標準申告書を提出すべき期限(課税標準申告書の提出を要しない国税については、その納税義務の成立の時)後に、次の各号の区分に応じ、当該各号に掲げる事項を決定する。
三 課税標準申告書の提出を要しないとき。 課税標準(第六十九条(加算税の税目)に規定する加算税及び過怠税については、その計算の基礎となる税額。以下この条において同じ。)及び納付すべき税額
3 第一項の規定による決定は、税務署長がその決定に係る課税標準及び納付すべき税額を記載した賦課決定通知書(第一項第一号に掲げる場合にあつては、納税告知書)を送達して行なう。
印紙税法 第二十条(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
6 税務署長は、国税通則法第三十二条第三項(賦課決定通知)の規定により第一項又は第三項の過怠税に係る賦課決定通知書を送達する場合には、当該賦課決定通知書に課税文書の種類その他の政令で定める事項を附記しなければならない。
では、自動確定方式で発生・確定したはずの「印紙税」の納税義務はどこに行ってしまうのか。
印紙税法20条1項に基づいて、「印紙税」の納税義務(自動確定方式)が消滅して、「過怠税」の納税義務(賦課課税方式)に置き換わる、と理解すればよいのでしょうか。
・印紙税(自動確定) ←過怠税に吸収される?
・過怠税(賦課課税)
もちろん、結論は誰もが分かっているわけですが。それを条文からどのように導くか、ということです。
はっきりしませんが、さしあたり上記のとおり理解しておきます。
・
ここまでくれば、あとは国税通則法の解説書に書かれている「賦課課税方式」についての記述に従って、不服申立てをするなり、訴訟を提起するなりすることになります。
裁決や判決をみていて、なぜ印紙税法上の争いは、「過怠税」の賦課決定処分を争うものばかりで「印紙税」本体を争うものがないのか、という疑問をもたれた方がいるかもしれません。
その理由は、「印紙税」本体の納税義務はいつの間にかどこかへ消えてしまうから、です。法人税・所得税などのように、本税が本体であるのとは、建付けが全く異なるわけです。
では、なぜこういう建付けにしたのでしょうか。
「自動確定の印紙税のままだと争いにくかろう」という親切心、なわけはないですよね。
それこそ「源泉所得税」も、不納付加算税と合算して賦課課税するという建付けでもよいと思うのですが。
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| 印紙税法
2024年10月14日
平等権と、課税公平主義のあいだ 〜最高裁令和4年4月19日判決における「平等原則」とは?
最高裁令和4年4月19日判決のいうところの『租税法上の一般原則としての平等原則』を深堀りできないかと思いまして。
だから巡ってないってば! 〜最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(財産評価)
『租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。』
以下は、憲法教科書の「法の下の平等」の箇所を斜め読みしてみたものの、結果としてあまり参考にならなかった、という失敗談です。
◯
その要因を端的にいえば、憲法教科書が「平等」に関して論じていることの大部分が、私人の『主観的権利としての平等』(平等権)に集中してしまっていることにあります。
以下、用語を次のように使い分けます。
・平等権 主観的権利としての平等
・平等原則 客観的法原則としての平等
なぜ「平等権」に議論が集中してしまうかというと。
毎度のことながら、学説の議論が集中するのは「裁判例」周りばかりであり。そしてその裁判例は、訴訟法の都合上、基本的に「主観訴訟」です。
そうすると、裁判で平等というものが現れるのは、「平等権」としての側面ばかりになってしまいます。結果、学者の議論も「平等権」中心になってしまうと(「統治機構」の領域が周回遅れみたいになるのも、同様の事情でしょうか)。
【主観訴訟における平等の現れ】
・原告は、国家に不平等に扱われることで不利益を受けている。
・そこで、平等に扱われる権利があると主張して、不利益の回復を訴える。
⇒不平等:原告に不利益
平等:原告に利益
◯
ところが、本判決で問題となったように、国家から平等扱いされることが、必ずしも私人にとって「利益」になるとは限りません。
すなわち、
「鑑定評価額>通達評価額」という事案においては、
・平等原則T(通達評価額) 納税者に有利 ア
・平等原則U(鑑定評価額) 納税者に不利 イ
となるのであり、逆に、
「通達評価額>鑑定評価額」という事案においては
・平等原則T(通達評価額) 納税者に不利 ウ
・平等原則U(鑑定評価額) 納税者に有利 エ
となります。
事案により、そしてどちらの平等原則が適用されるかにより、有利/不利が入れ替わってしまいます(以下、「有利/不利」を「不課税/課税」と表現することがあります)。
憲法学説における平等権まわりの議論を租税訴訟に持ち込もうとしても、直接役に立つのは「不平等:課税/平等:不課税」(ア、エ)の事案に限られることになります。他方で、「不平等:不課税/平等:課税」(イ、ウ)の事案で、課税庁側が平等扱いを志向する局面については、この局面を表す言葉すら存在しないのではないでしょうか。
後者を無理やり《権利構成》するならば、「国家の課税権侵害を回復するために平等権違反を主張する」とでも表現し、平等権まわりの議論を応用していく(裏表ひっくり返す?)ことになるでしょうか(もちろん、現行憲法の座組みからは出てこない、無理やりな表現です)。
◯
憲法学説がこのような状態だというのに。
租税法の教科書が、どれもこれも「課税公平主義は憲法14条に由来する」などと呑気に記述しているのは、違和感しかないです。憲法学説が展開している「平等権」中心の憲法14条解釈では、「課税公平主義」で論ずるべき領域の「半分」しかカバーできていないはずです。
・A1が課税されないなら、A2も課税すべきでない(平等に不課税) 《平等権》
・A1が課税されるなら、A2も課税すべき(平等に課税) 《???》
・
私個人としては、憲法14条は、もっぱら客観的法原則としての「平等原則」として理解すればよく。わざわざ「平等権」などと権利構成する必要はないと考えています。
そもそも、憲法の条文では、他の自由権条項とは異なり「権利」とも「自由」とも記述されていないのであって。
日本国憲法 第十四条
1 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
国家に向けられた義務として「私人にとって有利/不利いずれであるかにかかわらず等しく扱え」と言っているだけだと理解すれば十分なのではないでしょうか。
で、国の平等原則違反により、私人が何某かの不利益を被ったというならば、それを根拠に主観訴訟を提起すればよいだけです。
× 平等権侵害
◯ 平等原則違反+利益侵害
民事訴訟法上の「上告理由」にしても、憲法違反とあるだけで。憲法上の権利侵害であることまで求められていませんし。
民事訴訟法 第三百十二条(上告の理由)
1 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
憲法14条はもっぱら客観的法原則としての「平等原則」を採用している、と理解してはじめて、「課税公平主義は憲法14条に由来している」といえるはずです。
△平等権 ⇒課税公平主義
◯平等原則 ⇒課税公平主義
「平等」とか「公平」というワードが出てきたからといって、なんでもかんでも憲法を持ち出せばよいというものではない、というのが現実。
◯
以上、本判決のいう「平等原則」は、
・平等に課税とする
・平等に不課税とする
の両方向に機能するものであって。
憲法学説が夢中になっている「平等に不課税とする」側の議論だけでは、その中身を詰めきれない。あるいは、憲法学説側から攻めていくのは遠回りっぽい、と感じました。
ので、また別の方向から攻めていって、少なくとも補助線でも引けないか、検討を進めてみます。
だから巡ってないってば! 〜最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(財産評価)
『租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。』
以下は、憲法教科書の「法の下の平等」の箇所を斜め読みしてみたものの、結果としてあまり参考にならなかった、という失敗談です。
◯
その要因を端的にいえば、憲法教科書が「平等」に関して論じていることの大部分が、私人の『主観的権利としての平等』(平等権)に集中してしまっていることにあります。
以下、用語を次のように使い分けます。
・平等権 主観的権利としての平等
・平等原則 客観的法原則としての平等
なぜ「平等権」に議論が集中してしまうかというと。
毎度のことながら、学説の議論が集中するのは「裁判例」周りばかりであり。そしてその裁判例は、訴訟法の都合上、基本的に「主観訴訟」です。
そうすると、裁判で平等というものが現れるのは、「平等権」としての側面ばかりになってしまいます。結果、学者の議論も「平等権」中心になってしまうと(「統治機構」の領域が周回遅れみたいになるのも、同様の事情でしょうか)。
【主観訴訟における平等の現れ】
・原告は、国家に不平等に扱われることで不利益を受けている。
・そこで、平等に扱われる権利があると主張して、不利益の回復を訴える。
⇒不平等:原告に不利益
平等:原告に利益
◯
ところが、本判決で問題となったように、国家から平等扱いされることが、必ずしも私人にとって「利益」になるとは限りません。
すなわち、
「鑑定評価額>通達評価額」という事案においては、
・平等原則T(通達評価額) 納税者に有利 ア
・平等原則U(鑑定評価額) 納税者に不利 イ
となるのであり、逆に、
「通達評価額>鑑定評価額」という事案においては
・平等原則T(通達評価額) 納税者に不利 ウ
・平等原則U(鑑定評価額) 納税者に有利 エ
となります。
事案により、そしてどちらの平等原則が適用されるかにより、有利/不利が入れ替わってしまいます(以下、「有利/不利」を「不課税/課税」と表現することがあります)。
憲法学説における平等権まわりの議論を租税訴訟に持ち込もうとしても、直接役に立つのは「不平等:課税/平等:不課税」(ア、エ)の事案に限られることになります。他方で、「不平等:不課税/平等:課税」(イ、ウ)の事案で、課税庁側が平等扱いを志向する局面については、この局面を表す言葉すら存在しないのではないでしょうか。
後者を無理やり《権利構成》するならば、「国家の課税権侵害を回復するために平等権違反を主張する」とでも表現し、平等権まわりの議論を応用していく(裏表ひっくり返す?)ことになるでしょうか(もちろん、現行憲法の座組みからは出てこない、無理やりな表現です)。
◯
憲法学説がこのような状態だというのに。
租税法の教科書が、どれもこれも「課税公平主義は憲法14条に由来する」などと呑気に記述しているのは、違和感しかないです。憲法学説が展開している「平等権」中心の憲法14条解釈では、「課税公平主義」で論ずるべき領域の「半分」しかカバーできていないはずです。
・A1が課税されないなら、A2も課税すべきでない(平等に不課税) 《平等権》
・A1が課税されるなら、A2も課税すべき(平等に課税) 《???》
・
私個人としては、憲法14条は、もっぱら客観的法原則としての「平等原則」として理解すればよく。わざわざ「平等権」などと権利構成する必要はないと考えています。
そもそも、憲法の条文では、他の自由権条項とは異なり「権利」とも「自由」とも記述されていないのであって。
日本国憲法 第十四条
1 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
国家に向けられた義務として「私人にとって有利/不利いずれであるかにかかわらず等しく扱え」と言っているだけだと理解すれば十分なのではないでしょうか。
で、国の平等原則違反により、私人が何某かの不利益を被ったというならば、それを根拠に主観訴訟を提起すればよいだけです。
× 平等権侵害
◯ 平等原則違反+利益侵害
民事訴訟法上の「上告理由」にしても、憲法違反とあるだけで。憲法上の権利侵害であることまで求められていませんし。
民事訴訟法 第三百十二条(上告の理由)
1 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
憲法14条はもっぱら客観的法原則としての「平等原則」を採用している、と理解してはじめて、「課税公平主義は憲法14条に由来している」といえるはずです。
△平等権 ⇒課税公平主義
◯平等原則 ⇒課税公平主義
「平等」とか「公平」というワードが出てきたからといって、なんでもかんでも憲法を持ち出せばよいというものではない、というのが現実。
◯
以上、本判決のいう「平等原則」は、
・平等に課税とする
・平等に不課税とする
の両方向に機能するものであって。
憲法学説が夢中になっている「平等に不課税とする」側の議論だけでは、その中身を詰めきれない。あるいは、憲法学説側から攻めていくのは遠回りっぽい、と感じました。
ので、また別の方向から攻めていって、少なくとも補助線でも引けないか、検討を進めてみます。
posted by ウロ at 09:32| Comment(0)
| 判例イジり
2024年10月07日
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
前回は、交付特例と保存特例を一気通貫で整理しました。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
今回は、全体の概観をします。
前回述べたとおり、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については正面から扱いません。また、古物商等特例は古物商を念頭におき「再生資源」に関する記述は省略します。

◯
先に指摘しておきたいのが、例外ルールのない取引についてです。
・ATM手数料
・ETC
などのように、「少額・大量・どう考えても売手適格者に決まってんだろ」な取引が、なぜここに入ってこなかったのか。
公共交通機関、郵便ポストあたりと近いはずですが、「アレがよくてコレがだめ」の理由が謎です(そのせいで、Q&Aがみっともない緩和運用を示さざるをえなくなっている)。
同様に、「自動販売機はよくてコインパーキングはだめ」というのもよくわかりません。機械で完結するかどうかというのが、インボイスの要否にどう影響してくるのでしょうか。
「自販機や郵便ポストにはインボイス発行機能を仕込まなくてよいが、コインパーキングには仕込まなければならない」なんて、どういう根拠による職業差別なんでしょうか。
いっそのこと、駐車料ではなく「ゲート上げ下げ料」として徴収すればいいんですか(当然ふざけて言っていますが、お役所の有料駐車場問題も、この手の屁理屈じゃないかと私は思うのですが)。
さて、では中身に触れていきます。
◯
まず「売手の属性」について。
公共交通機関と郵便ポストに〈適格者〉とあるのは、法令上は要件とされていないものの、これらのサービス提供者はどう考えても適格者に決まってんだろ、という意味合いです。
他方で、入場券等は、一旦は簡易インボイス(の記載事項のうち取引年月日以外が書かれたもの)を発行することが要件となっているため、売手は「適格者」である必要があります。
自販機には売手の属性要件はないため、「適格者/非適格者」いずれの場合もあります。が、この特例のおかげで、買手は売手の属性を気にせずに取引ができることになります。
出張旅費等は、直接の売手は「従業員」ですが、実際の支払先には「適格者/非適格者」が混ざってくることになるでしょう(自販機と同様「不特定」にあたる)。
実費精算の場合でもこれを使えるのは、もっぱら事業主の便宜に阿った結果だとは思いますが。「出張旅費等」かどうかで扱いを区別する、という手間は増えることになります。
卸売市場・農協等は、元の売手の属性要件はありません。が、「媒介者」が適格者である必要があります。
なお、媒介者が適格者であることが益税撲滅に何の意味もないことについては、《媒介者交付特例》で論じたものをご参照ください。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
突出してイカれてるのが古物商等です。売手が「非適格者」である場合だけに限定されています。
なぜこれをイカれてると評価するのかといえば、
【売手の属性】
・適格者 →益税なし 《課税=控除》
・不特定 →益税かもしれないし、ないかもしれない 《課税=控除》or《課税<控除》
・非適格者 →絶対に益税が発生する! 《課税<控除》
ということであり、どう考えても益税が発生するからです。
自販機などが売手の属性を「不特定」とするのは、『適格チェックする事務負担を軽減してあげる』という大義名分があるわけです。ところが、古物商等の場合は『適格チェックした上で「非適格者」であることが確認できたら税額控除してよい』という、よりによって倒錯した控除要件になっています。
自販機などが「適格者か非適格者かなんて、面倒くさくて区別してらんないよ〜」なんて軟弱な理由なのに対し。「非適格者からの仕入であることが明らかなら税額控除させろ!!」という、ド正面からの、理不尽な益税要求(それぞれ、発言をのび太とジャイアンで脳内再生すると、イメージしやすいでしょうか)。
あれだけ益税を蛇蝎のごとく憎んでいたはずのインボイス推進派の方々が、なぜ古物商等特例についてはダンマリを決め込んでいるのか、謎すぎる。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
「氏名」については、古物商等で業務帳簿が不要な場合だけ、会計帳簿も記載不要とされています。バーターとして何かが要求されている、ですらなく。この場合、代わりの何も要求されてない。
古物商等だけがやたら優遇されていると。
自販機については、Q&Aによって記載しないでも「差し支えない」とされています。それ以外のものも、このノリでずるずると「差し支えない」扱いが増えていくのでしょうか。
◯
「住所」についてですが、必要とされているのが古物商等で業務帳簿が必要な場合だけです。
とはいえ、この場合も、業務帳簿に書いておけば会計帳簿には記載不要という古(いにしえ)からの取り扱いがあります。
R6の告示改正で自販機と入場券等が追加された結果、令49条1項1号柱書の括弧内の「インボイス保存しないかわりに帳簿に住所書けや」要件は、実質死文化したといってよいのでは。
そして、全滅させるというならば、「省令:必要→告示:不要」なんて回りくどいことをせず。省令内できっちり介錯してあげるべきではないでしょうか(解釈の誤字ではない)。
【現行法】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。代わりに住所書け。(+規則:保存いらない場合追加)
告示:住所いらない(いるのは古物商等で業務帳簿に書くときだけ)
⇒
【再構成案】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。ただし古物商等で業務帳簿に書く場合だけ住所書いておいて。
◯
以上、交付特例と保存特例を整理してみたのですが。
結局のところ、古物商等特例の異常さを再認識させられただけな気がします。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
今回は、全体の概観をします。
前回述べたとおり、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については正面から扱いません。また、古物商等特例は古物商を念頭におき「再生資源」に関する記述は省略します。

◯
先に指摘しておきたいのが、例外ルールのない取引についてです。
・ATM手数料
・ETC
などのように、「少額・大量・どう考えても売手適格者に決まってんだろ」な取引が、なぜここに入ってこなかったのか。
公共交通機関、郵便ポストあたりと近いはずですが、「アレがよくてコレがだめ」の理由が謎です(そのせいで、Q&Aがみっともない緩和運用を示さざるをえなくなっている)。
同様に、「自動販売機はよくてコインパーキングはだめ」というのもよくわかりません。機械で完結するかどうかというのが、インボイスの要否にどう影響してくるのでしょうか。
「自販機や郵便ポストにはインボイス発行機能を仕込まなくてよいが、コインパーキングには仕込まなければならない」なんて、どういう根拠による職業差別なんでしょうか。
いっそのこと、駐車料ではなく「ゲート上げ下げ料」として徴収すればいいんですか(当然ふざけて言っていますが、お役所の有料駐車場問題も、この手の屁理屈じゃないかと私は思うのですが)。
さて、では中身に触れていきます。
◯
まず「売手の属性」について。
公共交通機関と郵便ポストに〈適格者〉とあるのは、法令上は要件とされていないものの、これらのサービス提供者はどう考えても適格者に決まってんだろ、という意味合いです。
他方で、入場券等は、一旦は簡易インボイス(の記載事項のうち取引年月日以外が書かれたもの)を発行することが要件となっているため、売手は「適格者」である必要があります。
自販機には売手の属性要件はないため、「適格者/非適格者」いずれの場合もあります。が、この特例のおかげで、買手は売手の属性を気にせずに取引ができることになります。
出張旅費等は、直接の売手は「従業員」ですが、実際の支払先には「適格者/非適格者」が混ざってくることになるでしょう(自販機と同様「不特定」にあたる)。
実費精算の場合でもこれを使えるのは、もっぱら事業主の便宜に阿った結果だとは思いますが。「出張旅費等」かどうかで扱いを区別する、という手間は増えることになります。
卸売市場・農協等は、元の売手の属性要件はありません。が、「媒介者」が適格者である必要があります。
なお、媒介者が適格者であることが益税撲滅に何の意味もないことについては、《媒介者交付特例》で論じたものをご参照ください。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
突出してイカれてるのが古物商等です。売手が「非適格者」である場合だけに限定されています。
なぜこれをイカれてると評価するのかといえば、
【売手の属性】
・適格者 →益税なし 《課税=控除》
・不特定 →益税かもしれないし、ないかもしれない 《課税=控除》or《課税<控除》
・非適格者 →絶対に益税が発生する! 《課税<控除》
ということであり、どう考えても益税が発生するからです。
自販機などが売手の属性を「不特定」とするのは、『適格チェックする事務負担を軽減してあげる』という大義名分があるわけです。ところが、古物商等の場合は『適格チェックした上で「非適格者」であることが確認できたら税額控除してよい』という、よりによって倒錯した控除要件になっています。
自販機などが「適格者か非適格者かなんて、面倒くさくて区別してらんないよ〜」なんて軟弱な理由なのに対し。「非適格者からの仕入であることが明らかなら税額控除させろ!!」という、ド正面からの、理不尽な益税要求(それぞれ、発言をのび太とジャイアンで脳内再生すると、イメージしやすいでしょうか)。
あれだけ益税を蛇蝎のごとく憎んでいたはずのインボイス推進派の方々が、なぜ古物商等特例についてはダンマリを決め込んでいるのか、謎すぎる。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
「氏名」については、古物商等で業務帳簿が不要な場合だけ、会計帳簿も記載不要とされています。バーターとして何かが要求されている、ですらなく。この場合、代わりの何も要求されてない。
古物商等だけがやたら優遇されていると。
自販機については、Q&Aによって記載しないでも「差し支えない」とされています。それ以外のものも、このノリでずるずると「差し支えない」扱いが増えていくのでしょうか。
◯
「住所」についてですが、必要とされているのが古物商等で業務帳簿が必要な場合だけです。
とはいえ、この場合も、業務帳簿に書いておけば会計帳簿には記載不要という古(いにしえ)からの取り扱いがあります。
R6の告示改正で自販機と入場券等が追加された結果、令49条1項1号柱書の括弧内の「インボイス保存しないかわりに帳簿に住所書けや」要件は、実質死文化したといってよいのでは。
そして、全滅させるというならば、「省令:必要→告示:不要」なんて回りくどいことをせず。省令内できっちり介錯してあげるべきではないでしょうか(解釈の誤字ではない)。
【現行法】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。代わりに住所書け。(+規則:保存いらない場合追加)
告示:住所いらない(いるのは古物商等で業務帳簿に書くときだけ)
⇒
【再構成案】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。ただし古物商等で業務帳簿に書く場合だけ住所書いておいて。
◯
以上、交付特例と保存特例を整理してみたのですが。
結局のところ、古物商等特例の異常さを再認識させられただけな気がします。
posted by ウロ at 09:02| Comment(0)
| 消費税法