前回に続き、今回は「仕入控除ルール」についてです。
今回も前回と同じく、『相当する額』がパンチラインとなっております。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
◯
まずはお馴染み法30条1項からスタート。リバースチャージと輸入取引はまるごと省略しました。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者が、国内において行う課税仕入れについては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。)を控除する。
令第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れの区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
仕入控除ルールの原則である「請求書積上げ計算」においても、積み上げるのは『相当する額』だということになります。
・
また、帳簿に記載するのも『相当する額』となっております。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ちなみに、リバースチャージ(2号)に関しては消費税額に関する記載は(当然ながら)無し、輸入取引(3号)については(相当する額ではなく)消費税そのものを記載することとなっています。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
三 課税仕入れ等の税額が第一項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物に係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ハ課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額又はその合計額
輸入取引に関しては、保税地域からの引取時にダイレクトにお国に消費税を納税済みのため、控除できるのも、帳簿に記載するのも、消費税そのものとなるということです。
◯
では、売上課税ルールと同じように、確定申告時に(控除)消費税が顕現することになるのでしょうか。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
三 前章の規定によりその課税期間において前号に掲げる消費税額から控除をされるべき次に掲げる消費税額の合計額
イ 第三十二条第一項第一号に規定する仕入れに係る消費税額
法第三十二条(仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
1
一 当該事業者の当該課税期間における第三十条第一項の規定により控除される課税仕入れ等の税額の合計額(以下この章において「仕入れに係る消費税額」という。) (略)
法45条1項3号イが、「対価の返還」を受けた場合のルールである法32条1項1号からお借りしているのは、単に「仕入れに係る消費税額」の定義規定がそこにあるからであって、深い意味はないです。
で、これらの書きぶりからすると、(控除)消費税については、どこかの時点で消費税そのものになる、ということはなく。『相当する額』から「控除される税額」になって税額計算に反映される、という建付けになっているように思われます。
いずれにしても、買手が支払っているのは売買代金に含まれた『相当する額』であって。消費税そのものを支払っているわけではないことになります。
◯
念のため、例外としての「割戻し計算」については、次のとおり。
第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等に係る部分については百十分の七・八を乗じて算出した金額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
対価の額からダイレクトに控除する額を抽出するのであり。もはや、対価の額から『相当する額』を一旦取り分けるということすらしていません。
◯
このように、売上課税ルールと仕入控除ルールとは、ダイレクトに連結されておらず。むしろ『相当する額』という概念を間にかますことで、あえて連動しないように仕組んでいるようにみえます。
ではなぜ消費税法は、「消費税そのものを納税する/消費税そのものを控除する」という建付け(以下「そのものテーゼ」といいます。)を採用せずに、『相当する額』という概念を導入することとしたのでしょうか。
立案担当者の《主観的》なつもりはさておき。実際の機能から邪推するに、「そのものルール」を採用してしまうと、
・買手が消費税を支払ったら、売手は必ず納税すべき。
を根拠付けることができるものの、それと同時に、
・売手が消費税を納税したら、(消費者以外の)買手は必ず控除できるようにすべき。
という主張がでてきてしまうことになります。
ところが、現行法では、
・売手が課税事業者でも未登録なら、買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、適式なインボイスがなければ買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、買手にとって非課税対応なら買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、居住用賃貸建物なら買手は控除できない。
などなど、売手が課税されるにもかかわらず、買手が控除できない場面が、そこかしこにあります。
このような制度になっているにもかかわらず、「そのものテーゼ」を採用してしまうと、「売手が課税されるのに、買手が控除できない」ことの問題が表面化してしまいます。そうすると、売上課税ルールと仕入控除ルールは、分断された別世界のものとして位置づけておかなければなりません。
そのために採用されたのが『相当する額』という概念なのではないか、と私は思うわけです。消費税そのものではなく『相当する額』にすぎないことから、売上課税ルール内での扱いと仕入控除ルール内での扱いを異ならせても、問題がないかのように見せかけることが可能となります。
◯
このように、消費税法は売上課税ルールと仕入控除ルールを分断する《二元的構成》を採用しているにもかかわらず。インボイス導入を正当化する際は「免税事業者の益税撲滅」ばかりが盛んに喧伝されていました。
「益税」という意味では全く同じであるはずの「古物商特例」などは、ほぼ変わらずに残されているというのに。同じ熱量で攻撃する人が、まるでいない。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
なぜここまで扱いが違うのか、原因ははっきりしていて。
要するに「ネコババ」というレトリックが馴染むかどうか、という点のみにあります。
カイム・ペレルマン「法律家の論理−新しいレトリック−」(木鐸社1986) Amazon
・私が本体代金のほかに消費税を払ったのに、免税事業者はお国にそれを納めていない。
⇒益税ネコババ野郎!許せない!
・私が古物商に中古品を売ったが、古物商は消費税を控除しているらしい。
⇒ちょっとよくわかんないや
「もらったものを納めない」のはネコババといえるとして、「払っていないのに減らす」をネコババというのは、いまいちしっくりこないですよね。
このように、本来ならば「益税」が生じているかどうかで議論すべきところを、「ネコババ」と感じるかどうかに論点ずらしをしたことで、古物商特例にまで攻撃が及ばずに済んだわけです。
誰かがはじめからそういう効果を狙って「ネコババ」と言い出した、などとは思いません。が、結果としてそうなっている、というお話です。
◯
免税事業者を《ネコババ》呼ばわりされる方々の消費税イメージ。おそらく次のようなものだったのでしょう。
【ネコババ思考からアプローチする消費税】(インボイス前)
1 消費者は、本体代金10,000円とは別に「消費税」と書かれた封筒に1,000円を入れて事業者にお預けする。この封筒は、事業者がお国にそのまま献上するよう、信じて託したものである。
2 ただし例外として、事業者は、自分が受け取った区分記載請求書記載の消費税を支払うときだけ、封筒内の1,000円を使うことができる。
3 課税期間終了時に封筒内に残っていた残額は、そのままお国に納めなければならない。のに、納付しないで自分のポッケに入れてしまうのは「ネコババ」だ!
いかにもそれらしい喩え。
【卑近な喩え】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
が、このイメージどおりの事例ならば、免税事業者が消費税と表示して消費者から代金を受け取った時点で、「詐欺罪」の構成要件に該当してしまうのではないでしょうか。
受け取った時点では納税するつもりだった、というパターンは免税事業者の場合には通常ありえないですし(例外は設立年度)。他方で、もし消費者が、当該事業者が免税事業者であることを知っていたとしたら、納税しないことに「同意」があることになり、何ら犯罪は成立しません。
そうだとすると、横領系を意味する「ネコババ」というレトリックは、免税事業者には馴染まないことになるはずです(益税詐欺野郎?)。
本事例において、「封緘物」の占有が委託者・受託者どちらにあるかを論じて、3の行為を「窃盗罪」or「横領罪」と結論づけてしまった方は、出題者の誤導にまんまと引っかかってしまったというわけです(不可罰的事後行為)。
【法における比喩の利用は、用法用量を守って】
松浦好治「法と比喩」(弘文堂1992) Amazon
なお、「封筒」イメージが、免税事業者の悪辣さを印象づけることにしか機能しておらず。輸出免税、還付、控除対象外消費税などなど、他の現象を記述できないことは、もはや説明するまでもないでしょう。
◯
以上、現行法が現実に果たしている機能から《客観的》な立案者意思を邪推する、ということを試みました。
が、皆様方はこんな横着をせず。きちんと立法資料にあたって、《主観的》な立案者意思から解釈をスタートされることをお勧めいたします。
2024年12月30日
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
posted by ウロ at 11:01| Comment(0)
| 消費税法
2024年12月23日
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
本ブログにおいて「消費税法の理論構造」というサブタイトルの記事を、長々と展開しているのですが。
公売特例と8割控除 〜消費税法の理論構造(種蒔き編52)
私が言いたいことの主論は、インボイス推進派の人が「売上消費税と仕入消費税を一致させるべき!」と声高に言っておきながら、実際には益税方向の不一致を(一部)潰しただけで、損税方向の不一致はむしろ拡大してるじゃねえか、という点にあります。
このような課税拡大志向、近時の最高裁判決にみられる「過少課税になるくらいなら過剰課税を許容する」という方向性と、軌を一にしているわけです。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
最高裁令和6年7月18日・第一小法廷判決(外国子会社合算税制) 雑感
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
国家ぐるみでスクラム組まれてしまったら、《疑わしきは納税者の利益に》なんて、か細いスローガンを掲げたところで、どうにも太刀打ちできないでしょう。憲法論も、あまりあてにできるものでもないですし。
平等権と、課税公平主義のあいだ 〜最高裁令和4年4月19日判決における「平等原則」とは?
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
◯
さて、今回の記事は、これまでの記事が「機能面」から過剰課税(損税)を眺めてきたのに対し、この機能を条文がどのように表現しているかを見るものとなります。
あるいは、条文から読み取れる立案担当者の《客観的》意思をプロファイルする、ということができるでしょうか。
先に予告しておくと、『相当する額』というのがパンチラインとなっております。
以下、条文は適宜省略を入れておりますので、各自原文をご確認ください。また、本来であれば消費税と地方消費税を区別しなければならないのですが、文脈上必要な場面でのみ区別することとします。
事例としては、以下のものを想定しながら説明していきます(リバースチャージと輸入取引は考慮外)。
A(売手)
↓ 110 物の売買(国内・課税資産)
B(買手)
◯
まず、「売上課税ルール」について。
法第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする。
ここででてくる「課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額」というのが、以下でこすり倒す最重要用語であり。以下では『相当する額』と省略することとします。
消費税の課税標準は、対価の額から『相当する額』を除いた額だと言っています。
なぜ『相当する額』という言い方をしているかといえば、Bからもらうのはあくまでも売買代金(=対価の額)だけであって、消費税そのものを別途お預かりするわけではないからでしょう。
・
ちなみに、免税事業者の基準期間における課税売上高から消費税(に相当する額)を除かないのは、免税事業者にとっては『相当する額』すら存在しないから、ということになります。
法第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。
一 個人事業者及び基準期間が一年である法人基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額
法28条1項から定義をお借りしているにもかかわらず。こちらでは税込価額で判定するの、単にそう解釈しないと不都合だから、というのではなく。免税事業者にとっては、課されるべき消費税に『相当する額』がないから、と説明するのが筋が通っているでしょう。
免税事業者Requiem(第1曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編27)
免税事業者Requiem(第2曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編28)
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
このあたりの解釈に絡み、免税事業者擁護の方々が「免税事業者は対価をもらっているだけで消費税をもらっていないんだから、消費税をネコババしているわけではない!」と主張されているのを見かけたことがあります。
確かに、「免税事業者が消費税をネコババしている」というインボイス推進派の方々のいうレトリックが、実際の消費税法の建付けから導かれない空論であることは事実ではあります。が、本来、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるはずのところを免除していただいている、という意味では恩恵を受けていることも事実です。
あとはそれが妥当か不当かという立法政策上の価値判断レベルの問題であって。「ネコババ」というレトリックを巡って議論をすることに、全く意味はないでしょう。
・
余談ついでに。
輸出免税につき「免税事業者制度と違って、国内で消費されないから免除されるのは当然」というような物言いをされる方がいます。
法第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
が、「用途区分」制度を見れば分かるように、現行消費税法は、消費者の消費以外の場面で税負担が生じることを容認してしまっているところです。
なので、単に「消費がない」というだけでは免除制度を正当化することはできないのであり。「国際競争上どうしても免除制度が必要」という競争政策レベルで議論すべきものだと思います。
・
話を戻して。
売上課税ルールにおいては、課税標準算出にあたって対価の額から『相当する額』を除いているにすぎず、消費税そのものを控除しているわけではない、ということです。
未登録である課税事業者が納税義務を負担しなければならないのも、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるからであって。買手が消費税をお預けしてない(ので税額控除できない)のに、売手が消費税の納税義務を負担させられるのも、そもそも消費税を「お預けした/お預かりした」という建付けを、消費税法が採用していないことによるものです。
・
ちなみに、価格の表示ルールに関しても、『相当する額』を含めた金額を価格として表示せよとあり。消費税額そのものを取り分けて表示せよとはなっていません。
法第六十三条(価格の表示)
事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。
なお、括弧書きで「免税事業者」が除かれているのは。上述のとおり、免税事業者には『相当する額』すらないからでしょう。
◯
では、どの段階で消費税そのものが発生することになるのでしょうか。
それは、「確定申告」をしたときです。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
一 その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等に係る税率の異なるごとに区分した課税標準である金額の合計額及びその課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額並びにそれらの合計額(次号において「課税標準額」という。)
二 税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額
確定申告するまでは『相当する額』という仮想消費税(なんちゃって消費税)にすぎず。確定申告をしてはじめて消費税が顕現することになります(なお、租税債務の「成立/確定」という概念がありますが、あまり有意性のある区別とは思えないので、本記事では「確定」のみを念頭において記述しています)。
◯
ここまでの検討で、消費税法上、個々の売上代金には消費税そのものは含まれておらず、確定申告によって消費税額が顕現する、という建付けになっていることが分かりました。
この建付けは、個々の売上代金には法人税は含まれておらず、確定申告をしてはじめて法人税が登場する、というのに近いと言えるでしょうか。
「全く違う!」と思うのだとしたら、それは「お預かりする/お預けする」というお国の作り出した消費税のイメージに引っ張られているだけのように思えます。
消費税を、条文構造を無視して「お預かりする/お預けする」で説明できるというならば、法人税を、「益金法人税−損金法人税=法人税額」で説明することもできるはずです。ここに違和感をもってしまうのは、単に我々の心の中にある法人税の「イメージ」とズレているだけ、だからではないでしょうか(もちろん、私自身は条文構造を崩して誤導することには反対です)。
・
ここで、売上課税ルールの原則である「割戻し計算」だからそうなのであって。「積上げ計算」なら消費税そのものを集計するのではないか、という疑問を持たれる方がいるかもしれません。
そこで、「積上げ方式」の条文を見てみましょう。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
5 第一項の規定による申告書を提出する事業者が、当該申告書に係る課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき交付した適格請求書又は適格簡易請求書の写しを第五十七条の四第六項の規定により保存している場合には、当該課税資産の譲渡等に係る第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額については、同号の規定にかかわらず、当該適格請求書に記載した同条第一項第五号に掲げる消費税額等その他の政令で定める金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とすることができる。
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
令第六十二条(課税標準額に対する消費税額の算出方法の特例)
1 法第四十五条第五項に規定する政令で定める金額は、次の各号に掲げる課税資産の譲渡等の区分に応じ当該各号に定める金額とし、法第四十五条第五項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書を交付した課税資産の譲渡等 当該適格請求書に記載した法第五十七条の四第一項第五号に掲げる消費税額等
ここにもでてくる『相当する額』。
そのへんの《税務お役立ち記事》だと、インボイスの記載事項として「消費税額」が要求されているとだけ書かれていることがほとんどです。そのせいで、積上げ計算では消費税そのものを集計するのだと勘違いしてしまうのかもしれません。
が、条文では「消費税額等」とあり。そしてこれは『相当する額』だとされています。
そうすると、インボイスに記載するのはあくまでも『相当する額』であって、消費税そのものではないことになります。なので、インボイス記載の『相当する額』を積上げていって確定申告してはじめて、消費税そのものが登場する、というのが「積上げ計算」の正確な表現となります。
◯
最初に書いたとおり、本記事では、消費税と地方消費税の違いを意識せずに書いているところです。
が、税額計算では消費税(7.8%)を算出してからそれを課税標準として地方消費税(2.2%)を算出する、というプロセスになっているのであり。
どうあっても、税抜価格に10%をかけたものは消費税(+地方消費税)そのものにはなりえないわけです。
上記の「積上げ計算」の表現についても、より正確には地方消費税の扱いをきちんと記述しなければならないところです(が面倒なので省略)。
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長くなったので、一旦区切って、次回は「仕入控除ルール」について整理します。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
公売特例と8割控除 〜消費税法の理論構造(種蒔き編52)
私が言いたいことの主論は、インボイス推進派の人が「売上消費税と仕入消費税を一致させるべき!」と声高に言っておきながら、実際には益税方向の不一致を(一部)潰しただけで、損税方向の不一致はむしろ拡大してるじゃねえか、という点にあります。
このような課税拡大志向、近時の最高裁判決にみられる「過少課税になるくらいなら過剰課税を許容する」という方向性と、軌を一にしているわけです。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
最高裁令和6年7月18日・第一小法廷判決(外国子会社合算税制) 雑感
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
国家ぐるみでスクラム組まれてしまったら、《疑わしきは納税者の利益に》なんて、か細いスローガンを掲げたところで、どうにも太刀打ちできないでしょう。憲法論も、あまりあてにできるものでもないですし。
平等権と、課税公平主義のあいだ 〜最高裁令和4年4月19日判決における「平等原則」とは?
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
◯
さて、今回の記事は、これまでの記事が「機能面」から過剰課税(損税)を眺めてきたのに対し、この機能を条文がどのように表現しているかを見るものとなります。
あるいは、条文から読み取れる立案担当者の《客観的》意思をプロファイルする、ということができるでしょうか。
先に予告しておくと、『相当する額』というのがパンチラインとなっております。
以下、条文は適宜省略を入れておりますので、各自原文をご確認ください。また、本来であれば消費税と地方消費税を区別しなければならないのですが、文脈上必要な場面でのみ区別することとします。
事例としては、以下のものを想定しながら説明していきます(リバースチャージと輸入取引は考慮外)。
A(売手)
↓ 110 物の売買(国内・課税資産)
B(買手)
◯
まず、「売上課税ルール」について。
法第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする。
ここででてくる「課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額」というのが、以下でこすり倒す最重要用語であり。以下では『相当する額』と省略することとします。
消費税の課税標準は、対価の額から『相当する額』を除いた額だと言っています。
なぜ『相当する額』という言い方をしているかといえば、Bからもらうのはあくまでも売買代金(=対価の額)だけであって、消費税そのものを別途お預かりするわけではないからでしょう。
・
ちなみに、免税事業者の基準期間における課税売上高から消費税(に相当する額)を除かないのは、免税事業者にとっては『相当する額』すら存在しないから、ということになります。
法第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。
一 個人事業者及び基準期間が一年である法人基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額
法28条1項から定義をお借りしているにもかかわらず。こちらでは税込価額で判定するの、単にそう解釈しないと不都合だから、というのではなく。免税事業者にとっては、課されるべき消費税に『相当する額』がないから、と説明するのが筋が通っているでしょう。
免税事業者Requiem(第1曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編27)
免税事業者Requiem(第2曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編28)
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
このあたりの解釈に絡み、免税事業者擁護の方々が「免税事業者は対価をもらっているだけで消費税をもらっていないんだから、消費税をネコババしているわけではない!」と主張されているのを見かけたことがあります。
確かに、「免税事業者が消費税をネコババしている」というインボイス推進派の方々のいうレトリックが、実際の消費税法の建付けから導かれない空論であることは事実ではあります。が、本来、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるはずのところを免除していただいている、という意味では恩恵を受けていることも事実です。
あとはそれが妥当か不当かという立法政策上の価値判断レベルの問題であって。「ネコババ」というレトリックを巡って議論をすることに、全く意味はないでしょう。
・
余談ついでに。
輸出免税につき「免税事業者制度と違って、国内で消費されないから免除されるのは当然」というような物言いをされる方がいます。
法第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
が、「用途区分」制度を見れば分かるように、現行消費税法は、消費者の消費以外の場面で税負担が生じることを容認してしまっているところです。
なので、単に「消費がない」というだけでは免除制度を正当化することはできないのであり。「国際競争上どうしても免除制度が必要」という競争政策レベルで議論すべきものだと思います。
・
話を戻して。
売上課税ルールにおいては、課税標準算出にあたって対価の額から『相当する額』を除いているにすぎず、消費税そのものを控除しているわけではない、ということです。
未登録である課税事業者が納税義務を負担しなければならないのも、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるからであって。買手が消費税をお預けしてない(ので税額控除できない)のに、売手が消費税の納税義務を負担させられるのも、そもそも消費税を「お預けした/お預かりした」という建付けを、消費税法が採用していないことによるものです。
・
ちなみに、価格の表示ルールに関しても、『相当する額』を含めた金額を価格として表示せよとあり。消費税額そのものを取り分けて表示せよとはなっていません。
法第六十三条(価格の表示)
事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。
なお、括弧書きで「免税事業者」が除かれているのは。上述のとおり、免税事業者には『相当する額』すらないからでしょう。
◯
では、どの段階で消費税そのものが発生することになるのでしょうか。
それは、「確定申告」をしたときです。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
一 その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等に係る税率の異なるごとに区分した課税標準である金額の合計額及びその課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額並びにそれらの合計額(次号において「課税標準額」という。)
二 税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額
確定申告するまでは『相当する額』という仮想消費税(なんちゃって消費税)にすぎず。確定申告をしてはじめて消費税が顕現することになります(なお、租税債務の「成立/確定」という概念がありますが、あまり有意性のある区別とは思えないので、本記事では「確定」のみを念頭において記述しています)。
◯
ここまでの検討で、消費税法上、個々の売上代金には消費税そのものは含まれておらず、確定申告によって消費税額が顕現する、という建付けになっていることが分かりました。
この建付けは、個々の売上代金には法人税は含まれておらず、確定申告をしてはじめて法人税が登場する、というのに近いと言えるでしょうか。
「全く違う!」と思うのだとしたら、それは「お預かりする/お預けする」というお国の作り出した消費税のイメージに引っ張られているだけのように思えます。
消費税を、条文構造を無視して「お預かりする/お預けする」で説明できるというならば、法人税を、「益金法人税−損金法人税=法人税額」で説明することもできるはずです。ここに違和感をもってしまうのは、単に我々の心の中にある法人税の「イメージ」とズレているだけ、だからではないでしょうか(もちろん、私自身は条文構造を崩して誤導することには反対です)。
・
ここで、売上課税ルールの原則である「割戻し計算」だからそうなのであって。「積上げ計算」なら消費税そのものを集計するのではないか、という疑問を持たれる方がいるかもしれません。
そこで、「積上げ方式」の条文を見てみましょう。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
5 第一項の規定による申告書を提出する事業者が、当該申告書に係る課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき交付した適格請求書又は適格簡易請求書の写しを第五十七条の四第六項の規定により保存している場合には、当該課税資産の譲渡等に係る第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額については、同号の規定にかかわらず、当該適格請求書に記載した同条第一項第五号に掲げる消費税額等その他の政令で定める金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とすることができる。
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
令第六十二条(課税標準額に対する消費税額の算出方法の特例)
1 法第四十五条第五項に規定する政令で定める金額は、次の各号に掲げる課税資産の譲渡等の区分に応じ当該各号に定める金額とし、法第四十五条第五項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書を交付した課税資産の譲渡等 当該適格請求書に記載した法第五十七条の四第一項第五号に掲げる消費税額等
ここにもでてくる『相当する額』。
そのへんの《税務お役立ち記事》だと、インボイスの記載事項として「消費税額」が要求されているとだけ書かれていることがほとんどです。そのせいで、積上げ計算では消費税そのものを集計するのだと勘違いしてしまうのかもしれません。
が、条文では「消費税額等」とあり。そしてこれは『相当する額』だとされています。
そうすると、インボイスに記載するのはあくまでも『相当する額』であって、消費税そのものではないことになります。なので、インボイス記載の『相当する額』を積上げていって確定申告してはじめて、消費税そのものが登場する、というのが「積上げ計算」の正確な表現となります。
◯
最初に書いたとおり、本記事では、消費税と地方消費税の違いを意識せずに書いているところです。
が、税額計算では消費税(7.8%)を算出してからそれを課税標準として地方消費税(2.2%)を算出する、というプロセスになっているのであり。
どうあっても、税抜価格に10%をかけたものは消費税(+地方消費税)そのものにはなりえないわけです。
上記の「積上げ計算」の表現についても、より正確には地方消費税の扱いをきちんと記述しなければならないところです(が面倒なので省略)。
◯
長くなったので、一旦区切って、次回は「仕入控除ルール」について整理します。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
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| 消費税法
2024年12月16日
納税者有利とて。 〜社宅に係る仕入税額控除(質疑応答事例)
いくら納税者有利とて、さすがに文理と離れすぎで納得感がない、という国税庁見解に出くわすことがあります。
たとえばこれ。
社宅に係る仕入税額控除(質疑応答事例)
この中の以下の記述。
1 自己において取得した社宅や従業員寮の取得費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けることがその取得の時点で客観的に明らかな社宅や従業員寮は居住用賃貸建物に該当しない
3 社宅や従業員寮の維持費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けている場合は、原則として課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに(略)該当します
◯
まずは、後者の「無償でも共通仕入」から検討します。
「無償でも共通仕入」というのは、以下の通達を根拠としているのでしょう。
消基通11−2−16(資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの取扱い)
法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。
資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの税額控除(質疑応答事例)
が、消費税法30条2項では、「共通仕入」の定義は次のようになっています。
【共通仕入】
課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの
(その他の資産の譲渡等=課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等)
ここでいう「資産の譲渡等」の定義は、同法2条1項8号にあります。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
つまり、消費税法で「資産の譲渡等」というときは、(みなし規定でもないかぎり)有償取引を指していることになります。とすると、共通仕入に該当するためには、有償取引に対応するものである必要があります。
にもかかわらず、通達によって、無償取引に対応するものでも共通仕入として扱うことにしてしまっているわけです。
よくよく通達をみてみると、語尾が「該当するものとして取り扱う。」となっていて。「本当は違うけど、そういうことにしといてやるよ」という場面で出てくるやつですよね。
そもそも消費税法の書きぶりが、課のみ/非のみ/共通いずれにも「資産の譲渡等」に対応するものであることを要求してしまっています。そのせいで、無償取引に対応する課税仕入の行き場がない、という事態が生じてしまっているわけです。
このような不都合を、通達がカバーしてくれている、と理解すればよろしいのでしょうか。
◯
次に、前者の「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」について。
消費税法における「居住用賃貸建物」の書きぶりは次のとおり。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
10 第一項の規定は、事業者が国内において行う別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この項において同じ。)以外の建物(第十二条の四第一項に規定する高額特定資産又は同条第二項に規定する調整対象自己建設高額資産に該当するものに限る。第三十五条の二において「居住用賃貸建物」という。)に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
別表第二
十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)
国税庁の見解によれは、ここでいう「住宅の貸付け」は有償の貸付け(賃貸借)に限定され、無償の貸付け(使用貸借)は含まれない、と解釈していることになります。
このような解釈、消費税法の文言に適合するものでしょうか。
・
「貸付け」に関する消費税法の規定は、次のとおり。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
2 この法律において「資産の貸付け」には、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為(当該行為のうち、電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)を含むものとする。
これをみると、「対価を得て行われる」は、貸付けに《外付け》されていることが分かります。
要するに、「貸付け」という用語自体には、有償に限定するという意味が含まれていないことになります。
とすると、居住用賃貸建物における「貸付け」も、《外付け》パーツのないむき出しの「貸付け」であるため、有償/無償いずれも含まれる、と解釈せざるをえないはずです。
よって、無償であっても、居住用として貸す以上は「居住用賃貸建物」に該当してしまうことになりそうです。
◯
「無償でも共通仕入」のほうは、紛いなりにも緩和通達があったわけです。他方で「無償でも居住用賃貸建物」については、なんの説明もなく、急に質疑応答事例で示されたものです(どこかに個別通達でもあるのでしょうか)。
・資産の譲渡等=有償に限定される →無償も含める!(通達)
・住宅の貸付け=有償に限定されない →無償は含めない!(??)
消費税法が採用している用語の使い分けを無視して、ご都合主義的に無償を含めるといったり含めないといったり、節操がなさすぎでしょうよ。
【事業/事業者】
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
もちろん、結論において、非課税売上が立たないのに問答無用で仕入税額控除を全額否定されるのは理不尽、というのはそのとおりです。そもそも私個人としては、用途区分を始めとする、「損税」を生み出す全ての制度が理不尽だと思っているところですし。
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、条文上、有償/無償とか、実際に非課税売上が立つかどうかといった事情を考慮しない書きぶりになっているというのに、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」なんて条文ガン無視の見解を、しれっと混入してもいいのかよと思うわけです。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
頑張って国税庁見解を擁護するならば、次のような読み方ができるでしょうか。
すなわち、別表第二にいう「住宅の貸付け」は、それ単体で理解すべきではなく。6条1項にいう「資産の譲渡等のうち」と合わせて理解すべきだと。
第六条(非課税)
1 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
この読み方に従うならば、居住用賃貸建物にいう「住宅の貸付け」には無償貸付けは含まない、と解釈することができます。
・資産の譲渡等のうち住宅の貸付け →無償は含めない!
この読み方、「いい線いっているね」と思われるかもしれません。
が、6条1項には「国内において行われる」とも書いてあります。これをそのまま30条10項に代入すると、
第一項の規定は、事業者が国内において行う国内において行われる資産の譲渡等のうち別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
と、キモい規定になってしまいます。
よって、6条1項と合わせて読む、という解釈は取れません。
まあ、近時の条文起案能力の劣化っぷりからすると、他の条項との関係など深く考えることもなく、当然に有償のつもりで「住宅の貸付け」と記述した、ということなのでしょうかね。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
◯
文言上の無理を押し通して、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という国税庁の見解を採用したとして。次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
・当課税期間終了間際に、転売目的で中古の居住用賃貸マンションを購入。
・売却は、次の課税期間の開始直後となる予定。
・そこで、売却まではフリーレントとする旨、借主全員に通知した。
国税庁見解及び下記通達を合わせるならば、この場合は居住用賃貸建物に該当しないということになるでしょうか(用途区分は共通仕入)。
消基通11−7−1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)
居住用賃貸建物は、住宅の貸付け(法別表第二第13号《住宅の貸付け》に掲げる住宅の貸付けをいう。以下この節において同じ。)の用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この節において同じ。)以外の建物であることが要件となるが、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、次に掲げるようなものがこれに該当する。
(3) 棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
もちろん、居住用賃貸建物に該当する場合でも、次の課税期間に売却すれば税額調整を受けられます。が、キャッシュフローの観点からすれば、できるだけ早めに控除を取りたい、と考えることは十分ありうるわけです。
そこで、もらえない家賃との損得を考慮して、フリーレントを実施することも合理的な判断となり得ます。
質疑応答事例の社宅事案と比べて、どこか違和感はあります。が、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という見解を採用してしまった以上、このような事例を排除することはできないことになります。
◯
今回は結論として「納税者有利」だからいいとして。趣旨解釈の名のもとに、条文をガン無視した解釈をカマしてくることに対して、我々はもっと警戒すべきではないでしょうか。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
(PGM事件については、いずれ)
たとえばこれ。
社宅に係る仕入税額控除(質疑応答事例)
この中の以下の記述。
1 自己において取得した社宅や従業員寮の取得費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けることがその取得の時点で客観的に明らかな社宅や従業員寮は居住用賃貸建物に該当しない
3 社宅や従業員寮の維持費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けている場合は、原則として課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに(略)該当します
◯
まずは、後者の「無償でも共通仕入」から検討します。
「無償でも共通仕入」というのは、以下の通達を根拠としているのでしょう。
消基通11−2−16(資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの取扱い)
法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。
資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの税額控除(質疑応答事例)
が、消費税法30条2項では、「共通仕入」の定義は次のようになっています。
【共通仕入】
課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの
(その他の資産の譲渡等=課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等)
ここでいう「資産の譲渡等」の定義は、同法2条1項8号にあります。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
つまり、消費税法で「資産の譲渡等」というときは、(みなし規定でもないかぎり)有償取引を指していることになります。とすると、共通仕入に該当するためには、有償取引に対応するものである必要があります。
にもかかわらず、通達によって、無償取引に対応するものでも共通仕入として扱うことにしてしまっているわけです。
よくよく通達をみてみると、語尾が「該当するものとして取り扱う。」となっていて。「本当は違うけど、そういうことにしといてやるよ」という場面で出てくるやつですよね。
そもそも消費税法の書きぶりが、課のみ/非のみ/共通いずれにも「資産の譲渡等」に対応するものであることを要求してしまっています。そのせいで、無償取引に対応する課税仕入の行き場がない、という事態が生じてしまっているわけです。
このような不都合を、通達がカバーしてくれている、と理解すればよろしいのでしょうか。
◯
次に、前者の「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」について。
消費税法における「居住用賃貸建物」の書きぶりは次のとおり。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
10 第一項の規定は、事業者が国内において行う別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この項において同じ。)以外の建物(第十二条の四第一項に規定する高額特定資産又は同条第二項に規定する調整対象自己建設高額資産に該当するものに限る。第三十五条の二において「居住用賃貸建物」という。)に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
別表第二
十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)
国税庁の見解によれは、ここでいう「住宅の貸付け」は有償の貸付け(賃貸借)に限定され、無償の貸付け(使用貸借)は含まれない、と解釈していることになります。
このような解釈、消費税法の文言に適合するものでしょうか。
・
「貸付け」に関する消費税法の規定は、次のとおり。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
2 この法律において「資産の貸付け」には、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為(当該行為のうち、電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)を含むものとする。
これをみると、「対価を得て行われる」は、貸付けに《外付け》されていることが分かります。
要するに、「貸付け」という用語自体には、有償に限定するという意味が含まれていないことになります。
とすると、居住用賃貸建物における「貸付け」も、《外付け》パーツのないむき出しの「貸付け」であるため、有償/無償いずれも含まれる、と解釈せざるをえないはずです。
よって、無償であっても、居住用として貸す以上は「居住用賃貸建物」に該当してしまうことになりそうです。
◯
「無償でも共通仕入」のほうは、紛いなりにも緩和通達があったわけです。他方で「無償でも居住用賃貸建物」については、なんの説明もなく、急に質疑応答事例で示されたものです(どこかに個別通達でもあるのでしょうか)。
・資産の譲渡等=有償に限定される →無償も含める!(通達)
・住宅の貸付け=有償に限定されない →無償は含めない!(??)
消費税法が採用している用語の使い分けを無視して、ご都合主義的に無償を含めるといったり含めないといったり、節操がなさすぎでしょうよ。
【事業/事業者】
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
もちろん、結論において、非課税売上が立たないのに問答無用で仕入税額控除を全額否定されるのは理不尽、というのはそのとおりです。そもそも私個人としては、用途区分を始めとする、「損税」を生み出す全ての制度が理不尽だと思っているところですし。
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、条文上、有償/無償とか、実際に非課税売上が立つかどうかといった事情を考慮しない書きぶりになっているというのに、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」なんて条文ガン無視の見解を、しれっと混入してもいいのかよと思うわけです。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
頑張って国税庁見解を擁護するならば、次のような読み方ができるでしょうか。
すなわち、別表第二にいう「住宅の貸付け」は、それ単体で理解すべきではなく。6条1項にいう「資産の譲渡等のうち」と合わせて理解すべきだと。
第六条(非課税)
1 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
この読み方に従うならば、居住用賃貸建物にいう「住宅の貸付け」には無償貸付けは含まない、と解釈することができます。
・資産の譲渡等のうち住宅の貸付け →無償は含めない!
この読み方、「いい線いっているね」と思われるかもしれません。
が、6条1項には「国内において行われる」とも書いてあります。これをそのまま30条10項に代入すると、
第一項の規定は、事業者が国内において行う国内において行われる資産の譲渡等のうち別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
と、キモい規定になってしまいます。
よって、6条1項と合わせて読む、という解釈は取れません。
まあ、近時の条文起案能力の劣化っぷりからすると、他の条項との関係など深く考えることもなく、当然に有償のつもりで「住宅の貸付け」と記述した、ということなのでしょうかね。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
◯
文言上の無理を押し通して、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という国税庁の見解を採用したとして。次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
・当課税期間終了間際に、転売目的で中古の居住用賃貸マンションを購入。
・売却は、次の課税期間の開始直後となる予定。
・そこで、売却まではフリーレントとする旨、借主全員に通知した。
国税庁見解及び下記通達を合わせるならば、この場合は居住用賃貸建物に該当しないということになるでしょうか(用途区分は共通仕入)。
消基通11−7−1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)
居住用賃貸建物は、住宅の貸付け(法別表第二第13号《住宅の貸付け》に掲げる住宅の貸付けをいう。以下この節において同じ。)の用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この節において同じ。)以外の建物であることが要件となるが、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、次に掲げるようなものがこれに該当する。
(3) 棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
もちろん、居住用賃貸建物に該当する場合でも、次の課税期間に売却すれば税額調整を受けられます。が、キャッシュフローの観点からすれば、できるだけ早めに控除を取りたい、と考えることは十分ありうるわけです。
そこで、もらえない家賃との損得を考慮して、フリーレントを実施することも合理的な判断となり得ます。
質疑応答事例の社宅事案と比べて、どこか違和感はあります。が、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という見解を採用してしまった以上、このような事例を排除することはできないことになります。
◯
今回は結論として「納税者有利」だからいいとして。趣旨解釈の名のもとに、条文をガン無視した解釈をカマしてくることに対して、我々はもっと警戒すべきではないでしょうか。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
(PGM事件については、いずれ)
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| 消費税法
2024年12月09日
リーガルマインド年末調整 〜休職者と年末調整
年末調整、色んな人が関わっているせいか、各人独自の運用ルールに結構な確率で出くわします。あるいは、「しかた」に書かれていることが大正義、という人(以下《しかた系》の人といいます。)に出くわしたり。
令和6年分 年末調整のしかた(国税庁)
年末調整のようなものすら、いちいち条文から意味をとろうとする私とは、相互に理解しあえない壁があるわけです(どちらかといえば、私のほうがおかしい)。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
が、年末調整なんて、必ずしも税に明るくない企業の皆さんに、お国に変わって年1回やっていただくものであって。法令の建前なんかより、運用しやすさを優先すべきものなのでしょう。
法令から導かれる解釈だけ主張していても、現場の実務家としてはやっていけないというのが現実。
最近でも、インボイスの「古物商特例」につき、正面から法令に反する運用が、民間の業界誌経由で公表されたりして。真面目に条文解釈することの無意味さを、思い知らされたところです。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
それでもなお、懲りずに愚直な条文解釈を、以下展開してみます。
◯
今回の素材は「休職者」の年末調整における扱い。
休職者でも、年中に給与の支払があった人は年末調整の対象になる、というところまでは、一般に理解されているところかと思います。が、いつ実施すべきかについては、特に根拠もなく、通常の在職者と一緒に12月(or翌年1月)で処理してしまっているのではないでしょうか。
が、法律上、年末調整の実施時期は「その年最後に給与等の支払をする」ときとされています(所法190)。休職者の場合、これがいつなのかといえば、休職するまで働いた分のお給料を最後にもらうとき、になるはずです。
が、休職の場合、休職期間を定めていたとしても、早期復帰したり延長されたりすることがありえます。つまり、休職開始時点では、年内最後の支払になるかどうかは分かりません。年内最後の締日が到来するまで、年内支払があるかないかが確定しません。
この点、所基通190-1(3)では、著しい心身の障害で「退職」した場合は、その時点で年末調整を実施すると書かれています。
所基通190-1(中途退職者等について年末調整を行う場合)
次に掲げる場合には、それぞれの場合に該当することとなった時において法第190条の規定を適用するものとする。
(3)給与等の支払を受ける者が著しい心身の障害のため退職した場合で、その退職の時期からみてその年中において再就職することが明らかに不可能と認められ、かつ、退職後その年中に給与等の支払を受けることとなっていないとき。
想像するに、これは「働けないなら当然退職する」という時代のルールであって。「在職しながら休職する」という昨今の休職制度の存在は想定されていないのではないでしょうか。
そうだとすると、休職制度のもとで年内復帰が見込めない場合にも、休職時に年末調整を実施すべきと解釈されることになるのではないでしょうか。逆に、見込みがあるならば、年末調整を先送りにすることになると(ちなみに、「死亡」した場合は通常復活しないので、こういった見込み判定が不要となります)。
◯
なお、「年末調整」という用語のせいで、「年末調整」は年末だけに実施するものだと思われがちです。ベンダー各社も、10月、11月ころになってようやく当年分の年調システムをリリースしだすところですし(で、バグが発生して業務が止まる)。
が、正確に表現するならば「年内最後の支払時調整」というべきでしょう。
【年内最後の支払時調整】
・年末調整
・死亡時年調
・出国時年調
・退職時年調
・休職時年調
◯
「休職時年調」を実施する場合の帰結は、出国時年調の処理と平仄をあわせるならば、次のとおりとなるはずです。
No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収
【休職時年調】
1 配偶者控除などの扶養の状況は、休職前最後の給与支払時の現況で判定する。
2 配偶者控除の配偶者の所得などは、休職前最後の給与支払時点での年内見込みで判定する。
3 社会保険料控除などは、休職前最後の給与支払時まで納付したものが対象となる。
4(令和6年限り)休職前最後の給与支払が2024/6/1より前の場合、月次減税はもちろん年調減税の対象にもならない。
以下、補足です。
3につき、休職中で社保免除されるのは現行法上「産休・育休」の場合だけであり、「私傷病休業」は対象となっていません。休業中に相当な保険料を負担していたとしても、年内復帰できなければ、休職中の自己負担分は年末調整してもらえません。
4は、措置法本体には記述されず、施行時期の問題として附則に記述されています。
附則(令和6年3月30日 法律第8号)
第一条(施行期日)
この法律は、令和六年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
二 次に掲げる規定 令和六年六月一日
イ 第十三条中租税特別措置法の目次の改正規定(「第六節 その他の特例(第四十一条の三の三−第四十二条の三)」を「第五節の二 令和六年分における特別税額控除(第四十一条の三の三−第四十一条の三の十) 第六節 その他の特例(第四十一条の三の十一−第四十二条の三)」に改める部分に限る。)
第三十四条(令和六年分における特別税額控除に関する経過措置)
5 新租税特別措置法第四十一条の三の八第一項から第三項までの規定は、令和六年中に支払うべき同条第一項に規定する給与等でその最後に支払をする日が同年六月一日以後であるものについて適用する。
5/31までは定額減税制度が存在しない世界で年末調整をしなければならないので、1条2号だけでもカバーできそうなんですが。
「月次減税はだめでも年調減税はイケるはず!」という勘違いにフタをするためか、34条5項でダメ押し的に規定されています(が、そういう勘違いをする人は附則まで読まないというパラドックス)。
所得税法については、遡及課税を合憲とした例の判例があるせいで、誤解している人がいるかもしれませんが。法のデフォルトは遡及適用不可です。
「条文は大事!」と強調する人でも、なかなか附則までたどり着かないように思います。が、附則に重大なことが書かれていることがあり。決しておろそかにできないのが怖い。
少額特例と電気通信利用役務の提供 〜消費税法の理論構造(種蒔き編49)
◯
以上はあくまでも年末調整内での扱いであり。12月までの実績とのズレは「確定申告」で反映してくれや、ということになります。
とはいえ、現場ではおそらく他の在職者と合わせて、12月までの控除を取り込んで年末調整しているのがほとんどではないでしょうか。
「年調減税」については、上記附則の存在により、年内復帰の見込みがあろうがなかろうが、年末調整をいつ実施しようが、6/1以降に給与支払いがないかぎり、問答無用で適用ができません。
では、休職時点では年内復帰の見込みがあった(が復帰できなかった)として、年末調整を他の在職者と一緒に実施した場合、12月までの控除を取り込むことは許されるのでしょうか。
そもそも、最後の支払時に年末調整をしないで終わった以上、その後年内に支払がないのであれば、12月の年末調整の対象者には該当しない、という解釈もありえます。
また、12月の年末調整の対象者に該当するのだとしても、所得税法の書きぶり(「その年最後に給与等の支払をする時の現況」)からすれば、計算期間としては、あくまでも「その年最後に給与等の支払をする時」までしか取り込めないように読めてしまいます。
実施時期:年内最後の支払時+見込み判定
計算期間:年内最後の支払時まで vs 年末調整実施時まで
が、さすがに結論において不当すぎるゆえ、運用レベルで許容してもらえるものでしょうか。
お国が育休をやたらと推進していたり、あるいは私傷病休業(メンタル系)の利用者が増えてきているのが現状であり。休職まわりのルールをきちんと整備しておいてほしいところ。
◯
今までは、なんとなく12月年調で処理していたであろう休職者の扱いにつき、定額減税の闖入により、真面目に考えなければならなくなったということです。まあ、定額減税さえ終われば、また運用レベルでなんとなく処理できる状態に戻れるでしょうか。
令和6年分 年末調整のしかた(国税庁)
年末調整のようなものすら、いちいち条文から意味をとろうとする私とは、相互に理解しあえない壁があるわけです(どちらかといえば、私のほうがおかしい)。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
が、年末調整なんて、必ずしも税に明るくない企業の皆さんに、お国に変わって年1回やっていただくものであって。法令の建前なんかより、運用しやすさを優先すべきものなのでしょう。
法令から導かれる解釈だけ主張していても、現場の実務家としてはやっていけないというのが現実。
最近でも、インボイスの「古物商特例」につき、正面から法令に反する運用が、民間の業界誌経由で公表されたりして。真面目に条文解釈することの無意味さを、思い知らされたところです。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
それでもなお、懲りずに愚直な条文解釈を、以下展開してみます。
◯
今回の素材は「休職者」の年末調整における扱い。
休職者でも、年中に給与の支払があった人は年末調整の対象になる、というところまでは、一般に理解されているところかと思います。が、いつ実施すべきかについては、特に根拠もなく、通常の在職者と一緒に12月(or翌年1月)で処理してしまっているのではないでしょうか。
が、法律上、年末調整の実施時期は「その年最後に給与等の支払をする」ときとされています(所法190)。休職者の場合、これがいつなのかといえば、休職するまで働いた分のお給料を最後にもらうとき、になるはずです。
が、休職の場合、休職期間を定めていたとしても、早期復帰したり延長されたりすることがありえます。つまり、休職開始時点では、年内最後の支払になるかどうかは分かりません。年内最後の締日が到来するまで、年内支払があるかないかが確定しません。
この点、所基通190-1(3)では、著しい心身の障害で「退職」した場合は、その時点で年末調整を実施すると書かれています。
所基通190-1(中途退職者等について年末調整を行う場合)
次に掲げる場合には、それぞれの場合に該当することとなった時において法第190条の規定を適用するものとする。
(3)給与等の支払を受ける者が著しい心身の障害のため退職した場合で、その退職の時期からみてその年中において再就職することが明らかに不可能と認められ、かつ、退職後その年中に給与等の支払を受けることとなっていないとき。
想像するに、これは「働けないなら当然退職する」という時代のルールであって。「在職しながら休職する」という昨今の休職制度の存在は想定されていないのではないでしょうか。
そうだとすると、休職制度のもとで年内復帰が見込めない場合にも、休職時に年末調整を実施すべきと解釈されることになるのではないでしょうか。逆に、見込みがあるならば、年末調整を先送りにすることになると(ちなみに、「死亡」した場合は通常復活しないので、こういった見込み判定が不要となります)。
◯
なお、「年末調整」という用語のせいで、「年末調整」は年末だけに実施するものだと思われがちです。ベンダー各社も、10月、11月ころになってようやく当年分の年調システムをリリースしだすところですし(で、バグが発生して業務が止まる)。
が、正確に表現するならば「年内最後の支払時調整」というべきでしょう。
【年内最後の支払時調整】
・年末調整
・死亡時年調
・出国時年調
・退職時年調
・休職時年調
◯
「休職時年調」を実施する場合の帰結は、出国時年調の処理と平仄をあわせるならば、次のとおりとなるはずです。
No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収
【休職時年調】
1 配偶者控除などの扶養の状況は、休職前最後の給与支払時の現況で判定する。
2 配偶者控除の配偶者の所得などは、休職前最後の給与支払時点での年内見込みで判定する。
3 社会保険料控除などは、休職前最後の給与支払時まで納付したものが対象となる。
4(令和6年限り)休職前最後の給与支払が2024/6/1より前の場合、月次減税はもちろん年調減税の対象にもならない。
以下、補足です。
3につき、休職中で社保免除されるのは現行法上「産休・育休」の場合だけであり、「私傷病休業」は対象となっていません。休業中に相当な保険料を負担していたとしても、年内復帰できなければ、休職中の自己負担分は年末調整してもらえません。
4は、措置法本体には記述されず、施行時期の問題として附則に記述されています。
附則(令和6年3月30日 法律第8号)
第一条(施行期日)
この法律は、令和六年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
二 次に掲げる規定 令和六年六月一日
イ 第十三条中租税特別措置法の目次の改正規定(「第六節 その他の特例(第四十一条の三の三−第四十二条の三)」を「第五節の二 令和六年分における特別税額控除(第四十一条の三の三−第四十一条の三の十) 第六節 その他の特例(第四十一条の三の十一−第四十二条の三)」に改める部分に限る。)
第三十四条(令和六年分における特別税額控除に関する経過措置)
5 新租税特別措置法第四十一条の三の八第一項から第三項までの規定は、令和六年中に支払うべき同条第一項に規定する給与等でその最後に支払をする日が同年六月一日以後であるものについて適用する。
5/31までは定額減税制度が存在しない世界で年末調整をしなければならないので、1条2号だけでもカバーできそうなんですが。
「月次減税はだめでも年調減税はイケるはず!」という勘違いにフタをするためか、34条5項でダメ押し的に規定されています(が、そういう勘違いをする人は附則まで読まないというパラドックス)。
所得税法については、遡及課税を合憲とした例の判例があるせいで、誤解している人がいるかもしれませんが。法のデフォルトは遡及適用不可です。
「条文は大事!」と強調する人でも、なかなか附則までたどり着かないように思います。が、附則に重大なことが書かれていることがあり。決しておろそかにできないのが怖い。
少額特例と電気通信利用役務の提供 〜消費税法の理論構造(種蒔き編49)
◯
以上はあくまでも年末調整内での扱いであり。12月までの実績とのズレは「確定申告」で反映してくれや、ということになります。
とはいえ、現場ではおそらく他の在職者と合わせて、12月までの控除を取り込んで年末調整しているのがほとんどではないでしょうか。
「年調減税」については、上記附則の存在により、年内復帰の見込みがあろうがなかろうが、年末調整をいつ実施しようが、6/1以降に給与支払いがないかぎり、問答無用で適用ができません。
では、休職時点では年内復帰の見込みがあった(が復帰できなかった)として、年末調整を他の在職者と一緒に実施した場合、12月までの控除を取り込むことは許されるのでしょうか。
そもそも、最後の支払時に年末調整をしないで終わった以上、その後年内に支払がないのであれば、12月の年末調整の対象者には該当しない、という解釈もありえます。
また、12月の年末調整の対象者に該当するのだとしても、所得税法の書きぶり(「その年最後に給与等の支払をする時の現況」)からすれば、計算期間としては、あくまでも「その年最後に給与等の支払をする時」までしか取り込めないように読めてしまいます。
実施時期:年内最後の支払時+見込み判定
計算期間:年内最後の支払時まで vs 年末調整実施時まで
が、さすがに結論において不当すぎるゆえ、運用レベルで許容してもらえるものでしょうか。
お国が育休をやたらと推進していたり、あるいは私傷病休業(メンタル系)の利用者が増えてきているのが現状であり。休職まわりのルールをきちんと整備しておいてほしいところ。
◯
今までは、なんとなく12月年調で処理していたであろう休職者の扱いにつき、定額減税の闖入により、真面目に考えなければならなくなったということです。まあ、定額減税さえ終われば、また運用レベルでなんとなく処理できる状態に戻れるでしょうか。
posted by ウロ at 09:27| Comment(0)
| 年末調整
2024年12月02日
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022)
法制度を何でもかんでもフローチャート化することに対して、私自身は極めて懐疑的。
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022) Amazon
下記記事では、専門家なのだから平文で書けば間違えなかったであろうことを、(共著の執筆方針に従ってか)無理にフローチャート化しようとしたことで間違ったチャートとなってしまった例と、その改善案を示しました。
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
下記記事になると、完全におふざけモード(フローチャートイジり)に入っています。
フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論
消費税法も、ご多分にもれず複雑怪奇化しているのであり。余すことなくフローチャート化するには、もはや無理がある、というのが私の見立て。
◯
というあたりを意識しながら、本書を眺めてみたのですが・・。
たとえば、「特定新規設立法人」の特定要件や判定対象者につき、どのようにフローチャート化されているかを確認してみると。すでに「特定新規設立法人」に該当することの検討が終わったところから、チャートがスタートしてしまっています(P.20)。
肝心の特定要件・判定対象者については、「用語解説」(P.300)などというかたちで、巻末に平文で書いてあるだけ(ですし、分かりやすく表現しようとしたせいか、不正確な記述になっている)。意図的なのかどうか、難解な部分はフローチャートの外に出されてしまっているわけです。
また、「調整対象固定資産・高額特定資産」のフローチャートについて、ゴールが「3年縛り」が発動するかしないか、で終わってしまっています(P.26,27)。
が、これは途中経過にすぎず。3年縛りが発動するとして、当該3年度において、それぞれ本則/簡易/免税のいずれとなるのかという、肝心の結論部分が書かれていません。
【作用と帰結を取り違えている】
法律解釈のフローチャート(助走編)
・
私が何を意識しているかというと。
本書では、「3年縛り」が発動した場合の効果として、フローチャート外の解説部分に、免税事業者となれないほか「簡易課税制度の適用を受けることもできません」と書かれています(P.25)。が、同制度の(簡易に対する)効果は、簡易届出の提出制限であって、簡易不適用ではありません(厳密にいうと「3年縛り」ではなく「2年提出制限」ということ)。
これが「調整対象固定資産」の場合には、結果的に3年簡易不適用となりますが、それはあくまでも結果論です。「調整対象固定資産」が想定しているパターンだと、ちょうど結論が一致するというだけです。
他方で、「高額特定資産」の場合は、対象資産を限定する一方で、適用パターンを無制限に広げてしまったため、2年の提出制限を受けても、3年度中に簡易が発動する隙が生まれてしまっています。
これが立法の過誤なのか意図的にそうしているのか分かりませんが、そういう構成になっているということです。
ゆえに、「調整対象固定資産・高額特定資産」のルールをフローチャート化するというならば。適用されるパターンを細かく場合分けして、3年度それぞれが本則/簡易/免税のいずれとなるのかを潰していかなければ、正確な理解をすることはできないはずです。
本書のフローチャートは、スタートが遅い、または、ゴールが早いものとなっており。肝心の、難しい部分が省かれてしまっているということです。
・
もし、本書が非専門家向けの「学習書」だというなら、枝葉を切り落とした基本部分だけをチャート化するだけでも十分でしょう。が、本書の「まえがき」には税賠の件数・金額が載せられていて、これら事故の対策本のつもりで執筆したとあります。
基本を知らないなんてのはさておき。こういう枝葉の部分に潜む落とし穴に嵌まり込むのを防ぐことのほうが、税賠回避のためには必要なのではないでしょうか。
本書の記述を信じて、縛り期間中はおよそ簡易の適用なしと思い込んで本則で申告してしまったとしたら、どう対応されるのか。
◯
と、偉そうにいっていますが。
本件に関しては、私がたまたま「特定新規設立法人」「高額特定資産」あたりについて、微に入り細に入り条文を読み込んだ経験があったから気付いたにすぎません。
もし、今から手持ちの知識で消費税法の解説書を書けと言われたら、間違って理解している箇所が、いくつも出てくるのではないかと思います。
・
現行消費税法のような複雑な制度に対して、(手続的側面に限定したとしても)フローチャート単騎で突撃するのは無謀な試みであって。どうしても分かりやすく説明したいというならば、あの手この手の手法でアプローチしていかなければならないのだと、思います。
しかも、「ロジカルシンキング」など他所の道具立てを使うにしても、直輸入するのではなく。法学の特性に合わせて微調整する必要があるでしょう。
いずれにしても、出発点は条文にあるのであって。非効率とのそしりを受けようが、私は今後もひたすら条文読みに勤しむことにします。
・
なお、私が本書のような書籍に目を通すの。決して何か新しいことを学ぼうといったつもりからではなく。
表紙の「→」2つを見て(お気付きだろうか?)、「もしかして・・。」と思ってしまったから、です。
【表紙で気づく系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
橋内武・堀田秀吾「法と言語 改訂版」(くろしお出版2024)
「表紙から何かを受信する」なんて、およそ無意味な特殊能力ですが。これも含めて自分ゆえ、付き合っていかざるをえない。
・
あらためて、自分の条文知識を再確認するかぎりでは、まあよかったかなあと思います(強引にフォローする)。
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022) Amazon
下記記事では、専門家なのだから平文で書けば間違えなかったであろうことを、(共著の執筆方針に従ってか)無理にフローチャート化しようとしたことで間違ったチャートとなってしまった例と、その改善案を示しました。
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
下記記事になると、完全におふざけモード(フローチャートイジり)に入っています。
フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論
消費税法も、ご多分にもれず複雑怪奇化しているのであり。余すことなくフローチャート化するには、もはや無理がある、というのが私の見立て。
◯
というあたりを意識しながら、本書を眺めてみたのですが・・。
たとえば、「特定新規設立法人」の特定要件や判定対象者につき、どのようにフローチャート化されているかを確認してみると。すでに「特定新規設立法人」に該当することの検討が終わったところから、チャートがスタートしてしまっています(P.20)。
肝心の特定要件・判定対象者については、「用語解説」(P.300)などというかたちで、巻末に平文で書いてあるだけ(ですし、分かりやすく表現しようとしたせいか、不正確な記述になっている)。意図的なのかどうか、難解な部分はフローチャートの外に出されてしまっているわけです。
また、「調整対象固定資産・高額特定資産」のフローチャートについて、ゴールが「3年縛り」が発動するかしないか、で終わってしまっています(P.26,27)。
が、これは途中経過にすぎず。3年縛りが発動するとして、当該3年度において、それぞれ本則/簡易/免税のいずれとなるのかという、肝心の結論部分が書かれていません。
【作用と帰結を取り違えている】
法律解釈のフローチャート(助走編)
・
私が何を意識しているかというと。
本書では、「3年縛り」が発動した場合の効果として、フローチャート外の解説部分に、免税事業者となれないほか「簡易課税制度の適用を受けることもできません」と書かれています(P.25)。が、同制度の(簡易に対する)効果は、簡易届出の提出制限であって、簡易不適用ではありません(厳密にいうと「3年縛り」ではなく「2年提出制限」ということ)。
これが「調整対象固定資産」の場合には、結果的に3年簡易不適用となりますが、それはあくまでも結果論です。「調整対象固定資産」が想定しているパターンだと、ちょうど結論が一致するというだけです。
他方で、「高額特定資産」の場合は、対象資産を限定する一方で、適用パターンを無制限に広げてしまったため、2年の提出制限を受けても、3年度中に簡易が発動する隙が生まれてしまっています。
これが立法の過誤なのか意図的にそうしているのか分かりませんが、そういう構成になっているということです。
ゆえに、「調整対象固定資産・高額特定資産」のルールをフローチャート化するというならば。適用されるパターンを細かく場合分けして、3年度それぞれが本則/簡易/免税のいずれとなるのかを潰していかなければ、正確な理解をすることはできないはずです。
本書のフローチャートは、スタートが遅い、または、ゴールが早いものとなっており。肝心の、難しい部分が省かれてしまっているということです。
・
もし、本書が非専門家向けの「学習書」だというなら、枝葉を切り落とした基本部分だけをチャート化するだけでも十分でしょう。が、本書の「まえがき」には税賠の件数・金額が載せられていて、これら事故の対策本のつもりで執筆したとあります。
基本を知らないなんてのはさておき。こういう枝葉の部分に潜む落とし穴に嵌まり込むのを防ぐことのほうが、税賠回避のためには必要なのではないでしょうか。
本書の記述を信じて、縛り期間中はおよそ簡易の適用なしと思い込んで本則で申告してしまったとしたら、どう対応されるのか。
◯
と、偉そうにいっていますが。
本件に関しては、私がたまたま「特定新規設立法人」「高額特定資産」あたりについて、微に入り細に入り条文を読み込んだ経験があったから気付いたにすぎません。
もし、今から手持ちの知識で消費税法の解説書を書けと言われたら、間違って理解している箇所が、いくつも出てくるのではないかと思います。
・
現行消費税法のような複雑な制度に対して、(手続的側面に限定したとしても)フローチャート単騎で突撃するのは無謀な試みであって。どうしても分かりやすく説明したいというならば、あの手この手の手法でアプローチしていかなければならないのだと、思います。
しかも、「ロジカルシンキング」など他所の道具立てを使うにしても、直輸入するのではなく。法学の特性に合わせて微調整する必要があるでしょう。
いずれにしても、出発点は条文にあるのであって。非効率とのそしりを受けようが、私は今後もひたすら条文読みに勤しむことにします。
・
なお、私が本書のような書籍に目を通すの。決して何か新しいことを学ぼうといったつもりからではなく。
表紙の「→」2つを見て(お気付きだろうか?)、「もしかして・・。」と思ってしまったから、です。
【表紙で気づく系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
橋内武・堀田秀吾「法と言語 改訂版」(くろしお出版2024)
「表紙から何かを受信する」なんて、およそ無意味な特殊能力ですが。これも含めて自分ゆえ、付き合っていかざるをえない。
・
あらためて、自分の条文知識を再確認するかぎりでは、まあよかったかなあと思います(強引にフォローする)。
posted by ウロ at 10:15| Comment(0)
| 消費税法