《古物商等特例》なんて、ただの益税ネコババ野郎(byインボイス推進派)としか思えないのに。インボイス推進派の方々がガン無視決め込んでいる態度に対して、散々批判をしてきました。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編56)
批判といっても、古物商等が益税を貪り尽くしていることに対してではなく。インボイス推進派の方々が、「滅せよ免税事業者!」と唱えているのと同じ熱量を、なぜ古物商等にも向けないのか、という点に対しての批判でした。
ではあるのですが、消費税法のメインシステムについて検討する中で、益税ネコババという謂れのない濡れ衣を払拭できそうな筋道が思いついたので、整理をしてみます。
以下では、「古物商」が「消費者」から買い取りをした場合を念頭に置きながら記述します。
◯
とりあえず条文をあげておきます。が、今回は《制度趣旨》の探求がメインなので、条文イジりはやりません。
令 第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
(1) 古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
(2) 質屋営業法(昭和二十五年法律第百五十八号)第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
(3) 宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
(4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律(平成三年法律第四十八号)第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等
【メインシステム(国内取引)】
売手 買手 課税 控除
1 事業者‐事業者 ◯ ◯
2 消費者‐消費者 × ×
3 消費者‐事業者 × ×
4 事業者‐消費者 ◯ ×
消費税法は、1〜3を「課税=控除」としつつ、4のみ「課税>控除」とすることで、消費支出分の税負担が生じるように仕組んでいます。事業の世界から消費の世界に飛び出したタイミングで、税負担が生じることが確定することになっています。
今回問題となっているのが3で、
原則:消費者×‐事業者×
特例:消費者×‐事業者◯ (益税!)
と、消費者が課税されないのに、事業者が控除できることの根拠は何か、ということです。
◯
これを正当化する根拠として思いついたのが、「二重課税を排除するため」ではないかと。
すなわち、すでに一度消費者のもとで消費されたモノにつき、再度そのまま課税すると《過剰課税》となってしまう、そこで一旦消費されたという事実を反映すべきだと。
具体的にいうと、
A ⇒ B ⇒ C
33 110
・古物商Bが消費者Aから33で買う。
・古物商Bが消費者Cへ110で売る。
この場合に、原則どおり110に課税するだけだとすると(税額10)、Aのもとですでに消費課税ずみという事実が抜け落ちてしまい、課税しすぎになるのではないか、ということです。
では、一度消費課税ずみだとして、いくら控除すれば二重課税を排除できるでしょうか。
この点、Bが33で買い取りしている以上、Aのもとで全て消費しつくされたわけではないでしょう。ので、Aが買ったときに発生した課税額を、そのまま控除するのはやりすぎです。かといって、減価償却的な計算をやらせるのは、現実的ではないでしょう。
そこで、Bが、《消費の世界から事業の世界へ戻し、再度消費の世界へ移したこと》を評価して課税することが考えられます。そのままでは33の価値しかないものを、Bが付加価値を付与して110で売ったということで、差額の77が、Bが新たに生み出した価値だと評価すると。
「付加価値」という観点から説明していますが、これは結果として、仕入税額控除を肯定することと同じ結果となります。
◯
この説明、何ら隙のない完璧な理論というほどのものではなく。いくつか疑問が残ります。
・
そもそも現行の消費税法は、「付加価値」型では設計されていません。
「Bが付与した付加価値に課税」というのは、古物商等特例を正当化するのに説明しやすいからそのように表現している、というに留まり。「問答無用の譲渡課税」と「インボイスあるときだけ税額控除」という、売上課税ルールと仕入控除ルールが分断された現行法に寄せた表現になるよう、もう少し工夫が必要な気がします。
とはいえ、たとえば現行の消費税法を理解しやすくするために、「利益+人件費等=付加価値に課税している」と表現しても、近からず遠からずといった具合で。何が何でも排斥しなければならないほど、おかしな説明でもないのであって。
暫定的な説明としては、それなりにいい線いっているのではないかと思っています。
なお、免税事業者を益税ネコババ野郎呼ばわりするときに好んで用いられる「消費税をお預かりしている(売上)・お預けしている(仕入))」という物言いからは、およそ古物商等特例を正当化することは不可能でしょう。
Aにお預けしていないことが明らかである以上、控除できる根拠は何一つありませんので。
・
なぜ「棚卸資産」に限られているのか。
この点は、Bが自社で使ってしまうと、Aからの買い取りとCへの販売の差額をもって「付加価値」を測定する、という前提が崩れてしまうからではないかと。
もちろん、自社で使うことで、別のかたちで付加価値を生み出すことにはなるでしょう。が、そこで生み出された付加価値は、「110-33=77」のような明確な紐づけが想定できるものではありません。
ゆえに、「買う⇒売る」という紐づけが要求されている、と説明することが可能です。
・
公共交通機関特例などと異なり、「金額上限無し」となっているのはなぜか。
そこいらのインボイス解説書では、「インボイスいらない特例」として横並びで記述されているだけで。各特例ごとの制度趣旨を説明してくれることなんて、まあない。
ので、各特例ごとに要件が異なる根拠については、自力で考えなければなりません。
「交通機関特例」については、いちいちインボイスもらってらんねえという「必要性」と、どうせ登録してるに決まっているだろという「許容性」に基づいているものと思われます。が、高額なものまで全て不要とするのはインボイス制度を骨抜きにしてしまう。ので、金額上限を定めたと考えられます。
他方で、「古物商等特例」は、付加価値のないところに課税すべきでない、という実体レベルでの根拠に基づいていると思われます。単なる事務処理の煩雑さからの要請ではなく。
ゆえに、《過剰課税》を生み出さないためには金額上限を設けてはいけない、ということになるでしょう。
・
なぜ、業法上の「許可」を受けた者だけが、特例の適用を受けられるのでしょうか。
上記のとおり、業法上の許可を受けていようがいまいが、Bの付与した「付加価値」に違いはないはずです。また、税法学ではおなじみの「違法所得」まわりで議論されていることからしても、たとえ業法上違法な取引であっても、付加価値という「実体」に即して課税(控除肯定)すべきはずです。
が、このあたり「違法なプラスは『事実』をもって肯定するが、違法なマイナスは『法秩序』をもって否定する」という、アンバランスな解釈態度が支配的な税法学からすれば、なんの問題もないのでしょう。
また、件の教科書における「仕入税額控除は計算要素ではなく請求権だ!」とかいう物言いからすれば、無許可でも控除肯定すべきとなりそうなんですが。
残念ながら、「請求権だ!」という性質決定は、どうやら課税を拡大する方向にしか働かせる気がないっぽいんですよね。「法的権利である以上、それを主張するに相応しい資格を有していなければならない!」とか言いそう。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
◯
以上、売手が「消費者」である場合を念頭において、古物商等特例の正当化根拠をどうにか捻り出してみました。
が、古物商等特例は、売手:消費者の場合だけに適用されるものではありません。では、売手:消費者以外の場合にも正当化できるものなのかどうか、次回検討してみたいと思います。
※注意書き
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編58)
2025年01月27日
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)
posted by ウロ at 11:22| Comment(0)
| 消費税法
2025年01月20日
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編56)
インボイスなんて、もはや関心の彼方かとは思いますが。
そもそも消費税法の条文イジりなんて、世間一般の需要からは全く無価値の所作であって。お構いなしに、引き続き無価値な文章を作成していきます。
◯
《古物商等特例》に関して、いくつか記事を書いてきました。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
そこでは、主として「古物商」を念頭において記述をしてきました。
が、「再生資源」については、国税庁告示の書きぶりが微妙に異なります。のに、面倒くさがって記述を省略してきました。
ので、今回、その違いを確認しておきます。
◯
R6国税庁告示第10号 2項2号 (住所いらない特例)
ア 古物営業、質屋営業、宅地建物取引業
これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り
イ 再生資源卸売業
事業者以外の者から受けるものに限る
消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件(いい加減、溶け込ませたらどうなのか。)
古物等は「業務帳簿」に記載が必要かという、それぞれの業法の規律に従っています。他方で、再生資源は「事業者」かどうかという売手の属性によっています。
このことを「保存特例」とあわせて整理すると以下の通りとなります。
なお「氏名特例」は、古物等においては「住所特例」と抱き合わせになっているので、区別せずに「住所・氏名特例」として扱います。
まずは古物等から。

× インボイスの保存が必要で、帳簿に氏名の記載が必要(原則)
◯ インボイスの保存は不要で、帳簿に住所・氏名の記載も不要
△ インボイスの保存は不要だが、帳簿に住所・氏名の記載は必要
「個人」と「個人事業主」とで分けたのは、保存特例では、売手が「適格者」であるかぎり「消費者として」売却した場合でも適用不可とされているからです。個人の「適格者」からの課税仕入は、家事用資産だろうが事業用資産だろうが、特例は適用できません。
ので、「消費者として」と「事業者として」を区別する必要はないのですが、いずれであっても適用不可ということをあえて表すため、分けておきました。
他方で、個人事業主以外の個人は「消費者」としての属性しか有していないことになるため、適格者にはなりえず「‐」としました。
「保存特例」が適用できないとしても、事業用資産ならインボイスを交付してもらえば税額控除を受けられます(買手の支払明細書でも可)。これが家事用資産だとインボイスの交付が受けられず、税額控除はできません。
全体として、なんとも不思議な規律になっています。
が、家事用資産なのに税額控除できるほうがイカれてるのであって。益税の範囲をどうにかして狭めようとした結果、消費者としての個人事業主だけは特例の適用を除外しておいた、ということなのかもしれません。
・
住所・氏名については、完全に各業法に丸投げ。
業務帳簿に書く義務あるならいるけど、義務ないならいらないよと。消費税法側で追加で必要なのは、会計帳簿に「特例受けるよ」と追記するだけ。
で、告示レベルでは「業務帳簿に書くなら会計帳簿にも書いてね」とあるのに。運用上はさらに後退して、「業務帳簿の記載をもって会計帳簿の記載に代えてもいいよ」と、めちゃくちゃ弱腰。
◯
では、再生資源はどうかというと。

× インボイスの保存が必要で、帳簿に氏名の記載が必要(原則)
◯ インボイスの保存は不要で、帳簿に住所・氏名の記載も不要
△ インボイスの保存は不要だが、帳簿に住所・氏名の記載は必要
こちらも、保存特例については「適格者/非適格者」で区別する点は同じです。
違いは、住所・氏名特例のほうです。
表で「?」としたところ。告示にいう「事業者以外の者」はどのように読めばいいかが問題となります。
個人事業主が「消費者として」家事用資産を売却した場合であれば、住所・氏名を省略できるのか。それとも、令49条1項1号ハでいう「他の者(適格請求書発行事業者を除く。)」と同様の読み方で、個人事業をやっている以上、家事用資産を売却しても「事業者」に該当してしまい、特例の適用不可となるのかどうか。
この点、消費税法2条1項列挙の定義規定を組み合わせて解釈するかぎり、後者の結論になるものと思われます。
すなわち、「事業として」という限定は「事業者」というヒトの定義の中にはビルトインされておらず。「課税資産の譲渡等」というコトの定義のほうに含まれています。ので、事業をやっている個人は、いかなる場面でも消費税法上は「事業者」でしかありえない、ということになります。
個人事業主が
家事用資産を売却 ⇒事業者が、プライベートで資産を売却した。
事業用資産を売却 ⇒事業者が、事業として資産を売却した。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
・
このあたりの読み方、消費税法は売手側のルールと買手側のルールをそれぞれ分断して規定している、ということが頭に入っていないと理解しにくいところです。
買手側からみて「課税仕入れ」に該当する場合であっても、売手である事業者が家事用資産を売却したのであれば「課税資産の譲渡等」には該当しないというように、「課税資産の譲渡等」と「課税仕入れ」は裏表の関係にありません。
「課税資産の譲渡」該当性は売手からみて判断、「課税仕入れ」該当性は買手からみて判断、とそれぞれ別々に判定する必要があります。
もちろん、このズレを利用して消費者のところで税負担が生じるように仕向けているわけで。ズレていることそれ自体に、消費税法の妙味があります。
『両輪駆動』とかなんとか宣って、売上課税ルールと仕入控除ルールとを整理しないまま頭に突っ込んでいると、消費税法の正確な理解から遠ざかるという一例。
一旦、それぞれのルールを正確に理解した上で、それらをあわせたときに、消費者にきちんと負担させているか、消費者以外のところで負担が生じていないかなどを検証する、というのが消費税法の正しい学習方法だと、私は思っています。
のに、件の教科書をはじめとして、スローガンでは『両輪駆動』云々を謳っておきながら、実際の制度説明は分断させたままの記述で終わっている、という残念な仕上がりのものばかり。
【参考:連動と非連動】
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
・
ちなみに、本ブログにおいては、《通達の文言解釈》なんて間抜けな所作を開陳した高裁判決を、散々馬鹿にしてきました。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決
「お前も告示を文言解釈してんじゃん!人を呪わば穴二つ!」と思われる方がいるかもしれません。
が、本告示は省令様から正式に委任を受けたものです。ので、法令の一部を形成しているのであって。法令解釈のお作法どおりの解釈が可能なものとなっています。
そのへんの野良告示とは血統が違う。
・
話は戻って。
非事業者と事業者とで、いずれも「プライベート」で売却したものなのに、事業者だけは住所・氏名が要求されるという根拠はどこにあるのでしょうか。
形式論としては、「事業として」という限定がビルトインされていない「事業者」という用語を裸のまま使ってしまったから、ではありますが。では、実質的な根拠はどこにあるのか、よくわかりません。
まあ、保存特例は「非適格者」であるかぎり適用されるのだから、せめて住所・氏名くらいは記載しておきなさいよ、とは思いますが。
◯
以上、◯△×とか表を使って、保存特例と住所・氏名特例を整理してみたわけですが。
これだけ見れば「ふーんそうなんだ」ぐらいの感想かもしれません。が、「適格者×、非適格者◯△」となっている時点で、《益税撲滅システム》としてのインボイス制度が破綻しているのであって。特例としてはファンキーが過ぎる。
氏名・住所が省略できるとかできないとか、もはや真面目に分析するだけ空虚すぎる。
愚直に条文解釈したところで、「Q&A」によって灰燼に帰してしまうだけですし。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)
そもそも消費税法の条文イジりなんて、世間一般の需要からは全く無価値の所作であって。お構いなしに、引き続き無価値な文章を作成していきます。
◯
《古物商等特例》に関して、いくつか記事を書いてきました。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
そこでは、主として「古物商」を念頭において記述をしてきました。
が、「再生資源」については、国税庁告示の書きぶりが微妙に異なります。のに、面倒くさがって記述を省略してきました。
ので、今回、その違いを確認しておきます。
◯
R6国税庁告示第10号 2項2号 (住所いらない特例)
ア 古物営業、質屋営業、宅地建物取引業
これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り
イ 再生資源卸売業
事業者以外の者から受けるものに限る
消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件(いい加減、溶け込ませたらどうなのか。)
古物等は「業務帳簿」に記載が必要かという、それぞれの業法の規律に従っています。他方で、再生資源は「事業者」かどうかという売手の属性によっています。
このことを「保存特例」とあわせて整理すると以下の通りとなります。
なお「氏名特例」は、古物等においては「住所特例」と抱き合わせになっているので、区別せずに「住所・氏名特例」として扱います。
まずは古物等から。

× インボイスの保存が必要で、帳簿に氏名の記載が必要(原則)
◯ インボイスの保存は不要で、帳簿に住所・氏名の記載も不要
△ インボイスの保存は不要だが、帳簿に住所・氏名の記載は必要
「個人」と「個人事業主」とで分けたのは、保存特例では、売手が「適格者」であるかぎり「消費者として」売却した場合でも適用不可とされているからです。個人の「適格者」からの課税仕入は、家事用資産だろうが事業用資産だろうが、特例は適用できません。
ので、「消費者として」と「事業者として」を区別する必要はないのですが、いずれであっても適用不可ということをあえて表すため、分けておきました。
他方で、個人事業主以外の個人は「消費者」としての属性しか有していないことになるため、適格者にはなりえず「‐」としました。
「保存特例」が適用できないとしても、事業用資産ならインボイスを交付してもらえば税額控除を受けられます(買手の支払明細書でも可)。これが家事用資産だとインボイスの交付が受けられず、税額控除はできません。
全体として、なんとも不思議な規律になっています。
が、家事用資産なのに税額控除できるほうがイカれてるのであって。益税の範囲をどうにかして狭めようとした結果、消費者としての個人事業主だけは特例の適用を除外しておいた、ということなのかもしれません。
・
住所・氏名については、完全に各業法に丸投げ。
業務帳簿に書く義務あるならいるけど、義務ないならいらないよと。消費税法側で追加で必要なのは、会計帳簿に「特例受けるよ」と追記するだけ。
で、告示レベルでは「業務帳簿に書くなら会計帳簿にも書いてね」とあるのに。運用上はさらに後退して、「業務帳簿の記載をもって会計帳簿の記載に代えてもいいよ」と、めちゃくちゃ弱腰。
◯
では、再生資源はどうかというと。

× インボイスの保存が必要で、帳簿に氏名の記載が必要(原則)
◯ インボイスの保存は不要で、帳簿に住所・氏名の記載も不要
△ インボイスの保存は不要だが、帳簿に住所・氏名の記載は必要
こちらも、保存特例については「適格者/非適格者」で区別する点は同じです。
違いは、住所・氏名特例のほうです。
表で「?」としたところ。告示にいう「事業者以外の者」はどのように読めばいいかが問題となります。
個人事業主が「消費者として」家事用資産を売却した場合であれば、住所・氏名を省略できるのか。それとも、令49条1項1号ハでいう「他の者(適格請求書発行事業者を除く。)」と同様の読み方で、個人事業をやっている以上、家事用資産を売却しても「事業者」に該当してしまい、特例の適用不可となるのかどうか。
この点、消費税法2条1項列挙の定義規定を組み合わせて解釈するかぎり、後者の結論になるものと思われます。
すなわち、「事業として」という限定は「事業者」というヒトの定義の中にはビルトインされておらず。「課税資産の譲渡等」というコトの定義のほうに含まれています。ので、事業をやっている個人は、いかなる場面でも消費税法上は「事業者」でしかありえない、ということになります。
個人事業主が
家事用資産を売却 ⇒事業者が、プライベートで資産を売却した。
事業用資産を売却 ⇒事業者が、事業として資産を売却した。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
・
このあたりの読み方、消費税法は売手側のルールと買手側のルールをそれぞれ分断して規定している、ということが頭に入っていないと理解しにくいところです。
買手側からみて「課税仕入れ」に該当する場合であっても、売手である事業者が家事用資産を売却したのであれば「課税資産の譲渡等」には該当しないというように、「課税資産の譲渡等」と「課税仕入れ」は裏表の関係にありません。
「課税資産の譲渡」該当性は売手からみて判断、「課税仕入れ」該当性は買手からみて判断、とそれぞれ別々に判定する必要があります。
もちろん、このズレを利用して消費者のところで税負担が生じるように仕向けているわけで。ズレていることそれ自体に、消費税法の妙味があります。
『両輪駆動』とかなんとか宣って、売上課税ルールと仕入控除ルールとを整理しないまま頭に突っ込んでいると、消費税法の正確な理解から遠ざかるという一例。
一旦、それぞれのルールを正確に理解した上で、それらをあわせたときに、消費者にきちんと負担させているか、消費者以外のところで負担が生じていないかなどを検証する、というのが消費税法の正しい学習方法だと、私は思っています。
のに、件の教科書をはじめとして、スローガンでは『両輪駆動』云々を謳っておきながら、実際の制度説明は分断させたままの記述で終わっている、という残念な仕上がりのものばかり。
【参考:連動と非連動】
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
・
ちなみに、本ブログにおいては、《通達の文言解釈》なんて間抜けな所作を開陳した高裁判決を、散々馬鹿にしてきました。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決
「お前も告示を文言解釈してんじゃん!人を呪わば穴二つ!」と思われる方がいるかもしれません。
が、本告示は省令様から正式に委任を受けたものです。ので、法令の一部を形成しているのであって。法令解釈のお作法どおりの解釈が可能なものとなっています。
そのへんの野良告示とは血統が違う。
・
話は戻って。
非事業者と事業者とで、いずれも「プライベート」で売却したものなのに、事業者だけは住所・氏名が要求されるという根拠はどこにあるのでしょうか。
形式論としては、「事業として」という限定がビルトインされていない「事業者」という用語を裸のまま使ってしまったから、ではありますが。では、実質的な根拠はどこにあるのか、よくわかりません。
まあ、保存特例は「非適格者」であるかぎり適用されるのだから、せめて住所・氏名くらいは記載しておきなさいよ、とは思いますが。
◯
以上、◯△×とか表を使って、保存特例と住所・氏名特例を整理してみたわけですが。
これだけ見れば「ふーんそうなんだ」ぐらいの感想かもしれません。が、「適格者×、非適格者◯△」となっている時点で、《益税撲滅システム》としてのインボイス制度が破綻しているのであって。特例としてはファンキーが過ぎる。
氏名・住所が省略できるとかできないとか、もはや真面目に分析するだけ空虚すぎる。
愚直に条文解釈したところで、「Q&A」によって灰燼に帰してしまうだけですし。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)
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| 消費税法
2025年01月13日
みんな大好き!倒産防(その11) 〜益金ルール不存在
倒産防について、損金ルールはあるのに益金ルールが明記されていない、ということを、以前指摘しました。
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
掛金:損金算入 ⇒解約手当金:益金算入
掛金:損金不算入 ⇒解約手当金:益金不算入
という素朴な《オセロ思考》が、法人税法22条の解釈論から導くことができるのだろうかと。
※《オセロ思考》とは
「表が白なら裏は黒に決まっている」という、省エネ・節約系の思考方法のことをいう
そこで今回は、パターン分けをして、問題の所在を整理するところまで手をつけてみます。
なお、実務家としては、上記の《オセロ思考》で処理しておけばさしあたり問題はないのでしょう。以下はただの《お戯れ》です。
◯
掛金の処理として考えられるパターンは、以下の通りになるかと思います。

表の説明をくわえると。
・掛金、実体要件
条文上は、掛金を納付したら「損金とする」となっており、「損金算入できる」ではありません。
ので、条文の書きぶりに忠実にしたがって《文言解釈》するならば、掛金を納付した以上、問答無用で損金算入するのであり。納税者が自由に選択できるものではないはずです。
なお、納付しなければ損金算入するものがないので、こちらははじめからパターンには組み込んでいません。
・会計
「費用」が損金経理をした場合、「資産」が損金経理をしなかった場合です。
・申告調整
「費用」としておきながらあえて加算する、とか、資産としたうえで申告調整しない、というパターンも組み込んでおきました。
なぜ、わざわざ課税所得を増やすようなことをするのか、といえば、繰越欠損金の問題とか税額控除の上限の問題とか、まあ、そういう事情があるわけです(当然、行為計算否認規定の発動はありうる)。
・明細添付、手続要件
明細書を添付しなければ、損金算入できません。
かつて、とある特例の手続要件が省令だけに規定されていたことが違法とされた判決がありましたが、ここでは、きちんと法律レベルで実体要件と並べて記述されています。
・課税所得
マイナスというのが損金算入した場合、0がしなかった場合です。
◯
さて、このような掛金処理パターンがあるなかで、《オセロ思考》によれば、解約手当金の処理は次の帰結となります。
・1、5の場合 ⇒益金算入する
・それ以外の場合 ⇒益金算入しない
1,5の場合に益金算入するのは、さしあたりよいということにして。それ以外の場合の全てが益金算入しないということでよいのかどうか。
どういう問題意識があるのかというと。
上述のとおり、掛金を納付した以上は損金算入するものであり、納税者が任意に損金算入を選択できるものではないはずです。にもかかわらず、
・あえて明細添付せずに損金算入しない(2,4,6,8)
・費用処理しておきながら、わざわざ加算する(3,4)
・資産処理をした上で、きちんと減算していない(7,8)
といったやり口で損金算入しなかった場合、解約手当金を益金算入しなくてもよいのか、という疑問があるわけです。
そもそもの話、解約手当金の性質は、掛金につきどの処理を行おうが変わるわけでもないのであって。益金性が左右される根拠は、どこにもないわけです。
◯
最初に述べたとおり、これは単なる《お戯れ》であって。実務家の方が深入りするようなものではないです(が、研究者はきちんと理論づけをしておいてください)。
なお、パターンが複雑になるので省略しましたが、ここに「2年ルール」が絡んでくると、さらに面倒なことになります(あえて2年以内に納付したので保護しなくてよい、と評価するのか、損金算入できないのは本人のせいじゃない、と評価するのか)。
やはり、実務家的には《オセロ思考》で済ませてしまうのが、楽になれてよいのでしょう。
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
掛金:損金算入 ⇒解約手当金:益金算入
掛金:損金不算入 ⇒解約手当金:益金不算入
という素朴な《オセロ思考》が、法人税法22条の解釈論から導くことができるのだろうかと。
※《オセロ思考》とは
「表が白なら裏は黒に決まっている」という、省エネ・節約系の思考方法のことをいう
そこで今回は、パターン分けをして、問題の所在を整理するところまで手をつけてみます。
なお、実務家としては、上記の《オセロ思考》で処理しておけばさしあたり問題はないのでしょう。以下はただの《お戯れ》です。
◯
掛金の処理として考えられるパターンは、以下の通りになるかと思います。

表の説明をくわえると。
・掛金、実体要件
条文上は、掛金を納付したら「損金とする」となっており、「損金算入できる」ではありません。
ので、条文の書きぶりに忠実にしたがって《文言解釈》するならば、掛金を納付した以上、問答無用で損金算入するのであり。納税者が自由に選択できるものではないはずです。
なお、納付しなければ損金算入するものがないので、こちらははじめからパターンには組み込んでいません。
・会計
「費用」が損金経理をした場合、「資産」が損金経理をしなかった場合です。
・申告調整
「費用」としておきながらあえて加算する、とか、資産としたうえで申告調整しない、というパターンも組み込んでおきました。
なぜ、わざわざ課税所得を増やすようなことをするのか、といえば、繰越欠損金の問題とか税額控除の上限の問題とか、まあ、そういう事情があるわけです(当然、行為計算否認規定の発動はありうる)。
・明細添付、手続要件
明細書を添付しなければ、損金算入できません。
かつて、とある特例の手続要件が省令だけに規定されていたことが違法とされた判決がありましたが、ここでは、きちんと法律レベルで実体要件と並べて記述されています。
・課税所得
マイナスというのが損金算入した場合、0がしなかった場合です。
◯
さて、このような掛金処理パターンがあるなかで、《オセロ思考》によれば、解約手当金の処理は次の帰結となります。
・1、5の場合 ⇒益金算入する
・それ以外の場合 ⇒益金算入しない
1,5の場合に益金算入するのは、さしあたりよいということにして。それ以外の場合の全てが益金算入しないということでよいのかどうか。
どういう問題意識があるのかというと。
上述のとおり、掛金を納付した以上は損金算入するものであり、納税者が任意に損金算入を選択できるものではないはずです。にもかかわらず、
・あえて明細添付せずに損金算入しない(2,4,6,8)
・費用処理しておきながら、わざわざ加算する(3,4)
・資産処理をした上で、きちんと減算していない(7,8)
といったやり口で損金算入しなかった場合、解約手当金を益金算入しなくてもよいのか、という疑問があるわけです。
そもそもの話、解約手当金の性質は、掛金につきどの処理を行おうが変わるわけでもないのであって。益金性が左右される根拠は、どこにもないわけです。
◯
最初に述べたとおり、これは単なる《お戯れ》であって。実務家の方が深入りするようなものではないです(が、研究者はきちんと理論づけをしておいてください)。
なお、パターンが複雑になるので省略しましたが、ここに「2年ルール」が絡んでくると、さらに面倒なことになります(あえて2年以内に納付したので保護しなくてよい、と評価するのか、損金算入できないのは本人のせいじゃない、と評価するのか)。
やはり、実務家的には《オセロ思考》で済ませてしまうのが、楽になれてよいのでしょう。
posted by ウロ at 10:40| Comment(0)
| 法人税法
2025年01月06日
「ゼロ税率」という誤導 〜消費税法の理論構造(種蒔き編55)
輸出免税について、『非課税とは違うのだよ、非課税とは!』と言わんばかりに、「ゼロ税率」呼ばわりされることがあります。
が、私には、いまいち正確性を欠く表現ではないかと感じられるところです。
そこで以下、その感覚を敷衍してみます。
《輸出免税を見たら脱税だと思え》思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編23)
◯
例によって、条文から(モノの輸出に関わる箇所のみ抜粋します)。
消費税法 第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所
国内にあるモノを譲渡するかぎり、その先、国内にとどまるか海外に出ていくかにかかわらず、課税されます(以下、有償とか課税資産とかの要件は当然に満たすものとします)。
消費税法 第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
しかし、「輸出」に該当すれば、免除していただけます。
が、モノの場合は実態として輸出しただけではだめで。「輸出許可書」を保存していなければなりません。
消費税法 第七条(輸出免税等)
2 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。
消費税法施行規則 第五条(輸出取引等の証明)
1 法第七条第二項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものは、同条第一項に規定する課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行つた事業者が、当該課税資産の譲渡等につき、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める書類又は帳簿を整理し、当該課税資産の譲渡等を行つた日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(第一号イにおいて「事務所等」という。)の所在地に保存することにより証明がされたものとする。
一 法第七条第一項第一号に掲げる輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け(船舶及び航空機の貸付けを除く。)である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該資産の輸出に係る税関長から交付を受ける輸出の許可(関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸出の許可をいう。)若しくは積込みの承認(同法第二十三条第二項(船用品又は機用品の積込み等)の規定により同項に規定する船舶又は航空機(本邦の船舶又は航空機を除く。)に当該資産を積み込むことについての同項の承認をいう。)があつたことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類で、次に掲げる事項が記載されたもの
イ 当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地(以下この項において「住所等」という。)
ロ 当該資産の輸出の年月日
ハ 当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
ニ 当該資産の仕向地
◯
消費税法の仕組みについて、『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというレトリックが、およそ現行法の説明として不適切だということは、これまで散々述べてきたところです。
現行法の構造をあるがままに記述するならば、
・売上側は、実体があれば問答無用で課税される
・仕入側は、実体+形式が揃わないかぎり控除されない
と記述するのが正確です。
では、「輸出免税」は売上側のルールがあてはまるかというと。上述した条文からもわかるとおり、むしろ「仕入側」のルールと軌を一にしています。
すなわち、実態として輸出した(ので輸出先で消費税負担が発生している)場合であっても、「輸出許可書」という形式がないかぎりは免除されないと。
・売上課税 問答無用の実体課税
・輸出免税 実体+形式がなければ免除されない
・仕入控除 実体+形式がなければ控除されない
・
「ゼロ税率」というと、あたかも、輸出という実態がありさえすれば、当然に課税されないかのように思ってしまいます。が、インボイス制度と同様、形式も揃ってはじめて免除していただけるにすぎません。
輸出免税の制度趣旨は、各国が「仕向地主義」を採用しているなかで、輸出先で発生する消費税との二重課税を排除するため、だと言われているものの。形式が整っていなければ排除してもらえない程度の、弱い制度にとどまるわけです。
『仕入税額控除は請求権だ!』といいながら、控除範囲を狭める方向にしか作用させていない、件の教科書の記述が、ここでも想起されます。
「請求権だから、実態があるかぎり保護する!」 ←ですよね。
「請求権だから、実態があっても形式がなければ保護しない!」 ←何なのこいつ?
◯
以上のことを、簡単な事例で確認しておきましょう。
実態は全く同じで、形式を満たすかどうかが違うだけの事例で比較します(税率は10%で揃えます)。
A 課税事業者
↓ 88 仕入
B 課税事業者
↓ 100 輸出
C X国消費者
この事例で、輸出許可書のある/なしと、インボイスのある/なしでBの課税関係がどう変わるでしょうか。
【輸出許可書あり/インボイスあり】
・Bの損益 20(100-80)
・日本国の消費税収入 0(8-8)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
国内で消費されていないことから、日本国の消費税収入は0になります。「消費者の消費に課税する」テーゼに忠実な帰結となっています。
【輸出許可書なし/インボイスなし】
・Bの損益 3(91-88)
・日本国の消費税収入 17(8+9)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
輸出免税の適用がない場合、BはCから消費税をお預かりしていなくても、自分の売上の一部を消費税としてお国に献上しなければなりません。
「インボイスなし」は、Aが非適格者の場合と、適格者だが有効なインボイスがない場合がありえます。いずれにしても、お国はAから消費税8を献上してもらえます。
◯
「あり/あり」と「なし/なし」を比較すると、Bの損益20のうち17がお国に奪われているのが、後者の事例ということです。
当然のことながら、両事例で実態は何一つかわりません。
違うのは形式が整っているかどうかのみです。その点のみを理由として、Bの損益は20から3に激減するということです。
消費税の目的は「消費者の消費に課税する」であるという説明が破綻していることは、再三述べてきたところです。
【用途区分の最高裁判決に即して】
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
判例が、言っていることいないこと。 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、それにしても、これほどの利益減少を正当化するだけの説明は、どのようにできるのでしょうか。
「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」というマジックワードだけで正当化するには、荷が重すぎるように思います。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
が、ここでも「課税回避可能性」概念を使うことで、このような《過剰課税》も許容されてしまうのでしょうか。
◯
というように、「仕向地主義」「ゼロ税率」といったレトリックから受ける印象とは異なり。形式が整ってはじめて免除していただけるにすぎない、という輸出免税の規律が、最初に述べた違和感の中身ではないか、と思った次第です。
が、私には、いまいち正確性を欠く表現ではないかと感じられるところです。
そこで以下、その感覚を敷衍してみます。
《輸出免税を見たら脱税だと思え》思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編23)
◯
例によって、条文から(モノの輸出に関わる箇所のみ抜粋します)。
消費税法 第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所
国内にあるモノを譲渡するかぎり、その先、国内にとどまるか海外に出ていくかにかかわらず、課税されます(以下、有償とか課税資産とかの要件は当然に満たすものとします)。
消費税法 第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
しかし、「輸出」に該当すれば、免除していただけます。
が、モノの場合は実態として輸出しただけではだめで。「輸出許可書」を保存していなければなりません。
消費税法 第七条(輸出免税等)
2 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。
消費税法施行規則 第五条(輸出取引等の証明)
1 法第七条第二項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものは、同条第一項に規定する課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行つた事業者が、当該課税資産の譲渡等につき、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める書類又は帳簿を整理し、当該課税資産の譲渡等を行つた日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(第一号イにおいて「事務所等」という。)の所在地に保存することにより証明がされたものとする。
一 法第七条第一項第一号に掲げる輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け(船舶及び航空機の貸付けを除く。)である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該資産の輸出に係る税関長から交付を受ける輸出の許可(関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸出の許可をいう。)若しくは積込みの承認(同法第二十三条第二項(船用品又は機用品の積込み等)の規定により同項に規定する船舶又は航空機(本邦の船舶又は航空機を除く。)に当該資産を積み込むことについての同項の承認をいう。)があつたことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類で、次に掲げる事項が記載されたもの
イ 当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地(以下この項において「住所等」という。)
ロ 当該資産の輸出の年月日
ハ 当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
ニ 当該資産の仕向地
◯
消費税法の仕組みについて、『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというレトリックが、およそ現行法の説明として不適切だということは、これまで散々述べてきたところです。
現行法の構造をあるがままに記述するならば、
・売上側は、実体があれば問答無用で課税される
・仕入側は、実体+形式が揃わないかぎり控除されない
と記述するのが正確です。
では、「輸出免税」は売上側のルールがあてはまるかというと。上述した条文からもわかるとおり、むしろ「仕入側」のルールと軌を一にしています。
すなわち、実態として輸出した(ので輸出先で消費税負担が発生している)場合であっても、「輸出許可書」という形式がないかぎりは免除されないと。
・売上課税 問答無用の実体課税
・輸出免税 実体+形式がなければ免除されない
・仕入控除 実体+形式がなければ控除されない
・
「ゼロ税率」というと、あたかも、輸出という実態がありさえすれば、当然に課税されないかのように思ってしまいます。が、インボイス制度と同様、形式も揃ってはじめて免除していただけるにすぎません。
輸出免税の制度趣旨は、各国が「仕向地主義」を採用しているなかで、輸出先で発生する消費税との二重課税を排除するため、だと言われているものの。形式が整っていなければ排除してもらえない程度の、弱い制度にとどまるわけです。
『仕入税額控除は請求権だ!』といいながら、控除範囲を狭める方向にしか作用させていない、件の教科書の記述が、ここでも想起されます。
「請求権だから、実態があるかぎり保護する!」 ←ですよね。
「請求権だから、実態があっても形式がなければ保護しない!」 ←何なのこいつ?
◯
以上のことを、簡単な事例で確認しておきましょう。
実態は全く同じで、形式を満たすかどうかが違うだけの事例で比較します(税率は10%で揃えます)。
A 課税事業者
↓ 88 仕入
B 課税事業者
↓ 100 輸出
C X国消費者
この事例で、輸出許可書のある/なしと、インボイスのある/なしでBの課税関係がどう変わるでしょうか。
【輸出許可書あり/インボイスあり】
・Bの損益 20(100-80)
・日本国の消費税収入 0(8-8)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
国内で消費されていないことから、日本国の消費税収入は0になります。「消費者の消費に課税する」テーゼに忠実な帰結となっています。
【輸出許可書なし/インボイスなし】
・Bの損益 3(91-88)
・日本国の消費税収入 17(8+9)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
輸出免税の適用がない場合、BはCから消費税をお預かりしていなくても、自分の売上の一部を消費税としてお国に献上しなければなりません。
「インボイスなし」は、Aが非適格者の場合と、適格者だが有効なインボイスがない場合がありえます。いずれにしても、お国はAから消費税8を献上してもらえます。
◯
「あり/あり」と「なし/なし」を比較すると、Bの損益20のうち17がお国に奪われているのが、後者の事例ということです。
当然のことながら、両事例で実態は何一つかわりません。
違うのは形式が整っているかどうかのみです。その点のみを理由として、Bの損益は20から3に激減するということです。
消費税の目的は「消費者の消費に課税する」であるという説明が破綻していることは、再三述べてきたところです。
【用途区分の最高裁判決に即して】
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
判例が、言っていることいないこと。 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、それにしても、これほどの利益減少を正当化するだけの説明は、どのようにできるのでしょうか。
「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」というマジックワードだけで正当化するには、荷が重すぎるように思います。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
が、ここでも「課税回避可能性」概念を使うことで、このような《過剰課税》も許容されてしまうのでしょうか。
◯
というように、「仕向地主義」「ゼロ税率」といったレトリックから受ける印象とは異なり。形式が整ってはじめて免除していただけるにすぎない、という輸出免税の規律が、最初に述べた違和感の中身ではないか、と思った次第です。
posted by ウロ at 09:29| Comment(0)
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