輸出免税について、『非課税とは違うのだよ、非課税とは!』と言わんばかりに、「ゼロ税率」呼ばわりされることがあります。
が、私には、いまいち正確性を欠く表現ではないかと感じられるところです。
そこで以下、その感覚を敷衍してみます。
《輸出免税を見たら脱税だと思え》思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編23)
◯
例によって、条文から(モノの輸出に関わる箇所のみ抜粋します)。
消費税法 第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所
国内にあるモノを譲渡するかぎり、その先、国内にとどまるか海外に出ていくかにかかわらず、課税されます(以下、有償とか課税資産とかの要件は当然に満たすものとします)。
消費税法 第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
しかし、「輸出」に該当すれば、免除していただけます。
が、モノの場合は実態として輸出しただけではだめで。「輸出許可書」を保存していなければなりません。
消費税法 第七条(輸出免税等)
2 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。
消費税法施行規則 第五条(輸出取引等の証明)
1 法第七条第二項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものは、同条第一項に規定する課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行つた事業者が、当該課税資産の譲渡等につき、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める書類又は帳簿を整理し、当該課税資産の譲渡等を行つた日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(第一号イにおいて「事務所等」という。)の所在地に保存することにより証明がされたものとする。
一 法第七条第一項第一号に掲げる輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け(船舶及び航空機の貸付けを除く。)である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該資産の輸出に係る税関長から交付を受ける輸出の許可(関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸出の許可をいう。)若しくは積込みの承認(同法第二十三条第二項(船用品又は機用品の積込み等)の規定により同項に規定する船舶又は航空機(本邦の船舶又は航空機を除く。)に当該資産を積み込むことについての同項の承認をいう。)があつたことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類で、次に掲げる事項が記載されたもの
イ 当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地(以下この項において「住所等」という。)
ロ 当該資産の輸出の年月日
ハ 当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
ニ 当該資産の仕向地
◯
消費税法の仕組みについて、『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというレトリックが、およそ現行法の説明として不適切だということは、これまで散々述べてきたところです。
現行法の構造をあるがままに記述するならば、
・売上側は、実体があれば問答無用で課税される
・仕入側は、実体+形式が揃わないかぎり控除されない
と記述するのが正確です。
では、「輸出免税」は売上側のルールがあてはまるかというと。上述した条文からもわかるとおり、むしろ「仕入側」のルールと軌を一にしています。
すなわち、実態として輸出した(ので輸出先で消費税負担が発生している)場合であっても、「輸出許可書」という形式がないかぎりは免除されないと。
・売上課税 問答無用の実体課税
・輸出免税 実体+形式がなければ免除されない
・仕入控除 実体+形式がなければ控除されない
・
「ゼロ税率」というと、あたかも、輸出という実態がありさえすれば、当然に課税されないかのように思ってしまいます。が、インボイス制度と同様、形式も揃ってはじめて免除していただけるにすぎません。
輸出免税の制度趣旨は、各国が「仕向地主義」を採用しているなかで、輸出先で発生する消費税との二重課税を排除するため、だと言われているものの。形式が整っていなければ排除してもらえない程度の、弱い制度にとどまるわけです。
『仕入税額控除は請求権だ!』といいながら、控除範囲を狭める方向にしか作用させていない、件の教科書の記述が、ここでも想起されます。
「請求権だから、実態があるかぎり保護する!」 ←ですよね。
「請求権だから、実態があっても形式がなければ保護しない!」 ←何なのこいつ?
◯
以上のことを、簡単な事例で確認しておきましょう。
実態は全く同じで、形式を満たすかどうかが違うだけの事例で比較します(税率は10%で揃えます)。
A 課税事業者
↓ 88 仕入
B 課税事業者
↓ 100 輸出
C X国消費者
この事例で、輸出許可書のある/なしと、インボイスのある/なしでBの課税関係がどう変わるでしょうか。
【輸出許可書あり/インボイスあり】
・Bの損益 20(100-80)
・日本国の消費税収入 0(8-8)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
国内で消費されていないことから、日本国の消費税収入は0になります。「消費者の消費に課税する」テーゼに忠実な帰結となっています。
【輸出許可書なし/インボイスなし】
・Bの損益 3(91-88)
・日本国の消費税収入 17(8+9)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
輸出免税の適用がない場合、BはCから消費税をお預かりしていなくても、自分の売上の一部を消費税としてお国に献上しなければなりません。
「インボイスなし」は、Aが非適格者の場合と、適格者だが有効なインボイスがない場合がありえます。いずれにしても、お国はAから消費税8を献上してもらえます。
◯
「あり/あり」と「なし/なし」を比較すると、Bの損益20のうち17がお国に奪われているのが、後者の事例ということです。
当然のことながら、両事例で実態は何一つかわりません。
違うのは形式が整っているかどうかのみです。その点のみを理由として、Bの損益は20から3に激減するということです。
消費税の目的は「消費者の消費に課税する」であるという説明が破綻していることは、再三述べてきたところです。
【用途区分の最高裁判決に即して】
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
判例が、言っていることいないこと。 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、それにしても、これほどの利益減少を正当化するだけの説明は、どのようにできるのでしょうか。
「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」というマジックワードだけで正当化するには、荷が重すぎるように思います。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
が、ここでも「課税回避可能性」概念を使うことで、このような《過剰課税》も許容されてしまうのでしょうか。
◯
というように、「仕向地主義」「ゼロ税率」といったレトリックから受ける印象とは異なり。形式が整ってはじめて免除していただけるにすぎない、という輸出免税の規律が、最初に述べた違和感の中身ではないか、と思った次第です。
2025年01月06日
「ゼロ税率」という誤導 〜消費税法の理論構造(種蒔き編55)
posted by ウロ at 09:29| Comment(0)
| 消費税法