2025年02月03日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編58)

 前回の記事では、売手が「消費者」である場合を念頭において、古物商等特例の制度趣旨は「二重課税の排除」にあるのでは、という畢竟独自の見解を展開しました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編57)

 が、古物商等特例が適用されるのは、売手:消費者の場合だけに限られず。「適格請求書発行事業者」以外の全ての者に適用があります。

 そこで、売手:消費者以外の場合にも特例を正当化できるのか、検討をしてみます。


 前回同様、以下の事例を想定しながら記述をします。

 A ⇒ B ⇒ C
  33   110

 ・古物商Bが消費者Aから33で買う。
 ・古物商Bが消費者Cへ110で売る。

古物・売手.png

1 A:適格・課税事業者・事業として
 ⇒適格者なので、特例の適用はありません。

 原則通り、インボイスを発行することで控除できることになります。

5 A:非適格・課税事業者・家事として
  A:非適格・免税事業者・家事として
  A:非適格・消費者・家事として
 ⇒非適格者なので、特例の適用があります。

 これらの場合は、Aのもとですでに消費課税ずみということで、「二重課税の排除」の趣旨がそのままあてはまるパターンです。なので、特例適用ありで問題ありません。

4 A:適格・課税事業者・家事として
 ⇒適格者なので、特例の適用はありません。

 「家事として」なので、インボイス発行できませんし、買手Bが仕入明細書を発行することもできません。

 この場合も一度Aのもとで消費課税ずみなので、二重課税を排除すべき場面のはずです。が、文言上は特例の適用なしと解さざるをえません。
 輸入控除で「事業として」がすっぽ抜けているのと同様で、条文作成者の勘違いなのでしょうか。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)

 なお、『週刊税務通信』及びそれに倣った(とあえて言う)運営の『FAQ』によれば、運営側は特例適用「あり」でいくようです。

「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)

 その帰結にもっていきたい場合、「適格請求書発行事業者」の中に「事業として」を組み込むという読み方をしなければなりません。が、そのような読み方で、他の箇所ででてくる「適格請求書発行事業者」との整合性は保てるのか、きちんと検証ずみなのでしょうか。

3 A:非適格・免税事業者・事業として
 ⇒非適格者なので、特例の適用があります。

 Aは課税事業者として課税されないし、消費課税もされていないので、この場合に特例を適用するのは不当なように思えます。
 が、免税事業者は、「事業として」であっても、「課税もされないが控除もできない」消費者と同じポジションに置かれています。この点からすれば、消費者と同じ扱いをしたとしても、必ずしも不当ということにはならないでしょう。

 主体を「事業者/消費者」で二分すると、免税事業者は事業者側にカテゴライズされると思ってしまうかもしれません。が、法的効果の側からみると、免税事業者は消費者と同じ帰結となっています。

              控除 課税 買手控除
  適格・課税事業者・事業 ◯  ◯  ◯
 非適格・課税事業者・事業 ◯  ◯  ×
 非適格・免税事業者・事業 ×  ×  ×
 非適格・消費者  ・家事 ×  ×  ×

 一般通念からすれば、全くの別物と思われる消費者と(免税)事業者ですが。消費税法を通してみれば同じ法的地位にあるということです。
 それゆえ、免税事業者のもとでは、消費していないのに消費課税が生じていることになり。これとの二重課税を排除するためには、特例を適用すべきだということになります。

2 A:非適格・課税事業者・事業として
 ⇒非適格者なので、特例の適用があります。

 Aのもとではまだ消費課税されていないので、「二重課税の排除」という趣旨があてはまりません。
 が、Aは「課税事業者」として、Bからお預かりした消費税を納税することになります。ゆえに、結果として《課税=控除》が実現できることになります。

 狙ってそうしたのかがよく分かりませんが、結果としては妥当だということです。
 そもそも、売手が「課税事業者」なのに、インボイスがないというだけで控除ができない《原則ルール》のほうが不合理、ということがよく分かります。

 が、問題は、特例を適用するのに、なぜBにとっての「棚卸資産」であることが要求されるのか、ということです。
 Aが消費者の場合には、ごもっともな限定だったわけですが。Aが課税事業者の場合には、Bにとって「棚卸資産」かどうかにかかわらず、Aが納税しなければならないことに変わらないわけで。

 この点は、「適格者/非適格者」で区別したせいで、たまたま適用範囲に入りこんじゃっただけにすぎず。「非適格の課税事業者」なんて徒花(あだばな)を正面から保護するつもりはなかった、ということでしょうか。
 本当は5(と3)だけを保護しようとしたけど、2を外すための書き分けが面倒だったから、そのままにしておいたと。


 これらをまとめると、

1 適用なし:原則どおり
5 適用あり:消費課税ずみなので
4 適用なし:条文作成ミスか? 
3 適用あり:消費者に準ずるので
2 適用あり:ついで?(棚卸資産だけ)

となります。

 「二重課税の排除」という趣旨がそのままあてはまるのは5(と3)だけですが、4はどうやら条文ミスっぽい、2は行きがかり上適用範囲に入っちゃっただけ。ということで、「二重課税の排除」を制度趣旨として掲げておいても支障はなさそうです。
 『業界デマゴーグ誌&運営FAQ』によれば、4も適用範囲に含めることとするようですし。

 ではありますが、やはり「適格者/それ以外」で切り分けをするの、うまく噛み合っていないとは思います。


 以上、まだまだ生煮えのところもありますが。あとは各業界の関係者各位において、より洗練された形に仕上げていっていただければと思います。
posted by ウロ at 11:15| Comment(0) | 消費税法