タイトルはもちろん『法哲学と法哲学の対話』にあやかって、です。
安藤馨・大屋雄裕「法哲学と法哲学の対話」(有斐閣2017)
「《対話》が必要なのは異なる学問分野だからこそ」という、我々の通念を破壊してきやがる。
【普通はこう】
佐伯仁志・道垣内弘人「刑法と民法の対話」(有斐閣2001)
◯
さて、関連する複数の行政処分がある場合に、どのような影響があるのか。
論点ごとに検討されることはあるものの、総合的にまとめられたものが見当たらないように思われます。
どういう問題意識なのかというと。
(以下、生煮えの交通整理どまり。なので【事例】といいつつ、極めて抽象的に記述します。皆様方は、それぞれ心当たりのある「行政処分×行政処分」でお考えください。)
【事例】
・行政機関Aによる行政処分a
・行政機関Bによる行政処分b
・司法機関Cによる行政処分aに対する判決c
・司法機関Dによる行政処分bに対する判決d
(行政処分aとbは、何らかの関連がある処分で、時系列的にaが先行するものとします)
これら相互の影響力ということで、次のようなパターンを想定することができます。
(ありうるパターンを拾い上げただけで、現実にあるかどうかは考慮外としています)
【影響パターン】
《行政×行政》
1 処分aが出されたら、これから行う処分bにどのような影響があるか(行政A→行政B)
2 処分aの後に処分bが出されたら、処分aに影響があるか(行政B→行政A)
《行政×司法》
3 判決cが出されたら、処分aにどのような影響があるか(司法C→行政A)
4 判決cが出されたら、これから行う処分bにどのような影響があるか(司法C→行政B)
5 判決cが出されたら、すでに行われた処分bにどのような影響があるか(司法C→行政B)
6 判決dが出されたら、すでに行われた処分aにどのような影響があるか(司法D→行政A)
《司法×司法》
7 判決cが出されたら、これから行う判決dにどのような影響があるか(司法C→司法D)
8 判決cが出されたら、すでに行われた判決dにどのような影響があるか(司法C→司法D)
9 判決dが出されたら、これから行う判決cにどのような影響があるか(司法D→司法C)
10 判決dが出されたら、すでに行われた判決cにどのような影響があるか(司法D→司法C)
◯
《行政×行政》
主として「行政法総論」で論じられている領域です。
1は、「違法性の承継」などとして論じられていることが多いかと思いますが、影響は「違法」な場合には限られないのではないでしょうか。
2は、行政処分の「撤回」の問題が関わってくるでしょうか。
《行政×司法》
主として「行政救済法」で論じられている領域です。
3は、通常の「判決の効力」の問題かと思います。
456も「判決の効力」の問題ではあるのですが、直接の対象となっていない行政処分に対して、判決がどのようなが影響を及ぼすかという問題です。
(ちなみに、「実質的証拠法則」(行政→司法)なるものがありますが、レイヤーが異なる気がするので省略します。)
《司法×司法》
ここの論点の本拠がどこなのかよく分かりませんが。
別事件である以上、判決相互の影響力はないということでよいでしょうか。
もし最高裁の判決であったとしても、例の「主論/傍論」の区別により、判例としての拘束力は及ばないことになりそうです。
◯
ざっくり整理しただけですが、やはりまとまった議論がされているような状況ではなさそうです。
ちなみに、近時の「あんしん財団事件」は、都合上「原告適格」の問題として論じられていますが、上記でいうと1の、行政処分間の影響力の問題です。
最高裁令和6年7月4日第一小法廷判決(労災・メリット制)における「行政/司法」と「実体法/手続法」の交錯
保険給付処分が保険料認定処分に影響があるかどうか、という問題について、最高裁判決では影響を及ぼさないとして「原告適格」なしと判断されました。
この判決は、保険給付処分と保険料認定処分との間の影響力について述べただけで、それ以外の論点については(当然のことながら)触れられていません。上記パターンのうちごく一部について判断が示されただけで、全く見通しが良くなったわけではありません。
判例の射程を厳密に考える立場からすれば、本判決は「保険給付→保険料」は影響なしといっただけで、その逆の「保険料→保険給付」パターンは何も言っていない、ということになるでしょうし。
上記1〜10を視野に入れた、統一的な視座というものが必要となるはずです。が、もちろん私にはそんなものを打ち立てる能力があるはずもなく。
ただ、今後も論点ごとにバラついて論じられるであろう議論の見取り図として、記事をアップしておこう、というのが今回の記事の趣旨となります。
2025年06月09日
行政処分と行政処分の対話 〜処分間インターフェイス論序説
posted by ウロ at 10:57| Comment(0)
| 行政法