2017年08月21日

時効の中断・停止から時効の完成猶予・更新へ


 民法の改正法が成立し、2020年4月から施行されることが決まりました。

 改正の内容解説についてはこれから公式見解に基づいた解説書が大量に出回るかと思いますので、このブログでは、私なりに気になるところだけを少しづつ切り出していこうと思います(以下、改正前民法を「現行法」、改正後民法を「改正法」ということにします)。

 今回は消滅時効についての改正のうち、「中断・停止」に関する改正を取り上げてみたいと思います。


 「時効制度」というのがあるのはご存知かと思いますが、たとえば誰かに対する権利をもってても10年で消えてしまう、とかいうあれのことです(刑事事件ででてくる時効もあるのですが、今回はあくまで民事事件での時効のお話しです)。

 ただ、一定期間経過したからといって自動的に権利が消えてしまうのはかわいそうな場合があるということで、時効期間が「ストップ」する制度も定められています。それが現行法でいう「中断」「停止」というものです。

 具体的にいうと、次のような例があります。

・時効の中断
 10年の時効期間が経過する前に裁判を起こせば時効の完成が「ストップ」し、勝訴したらそこから再び10年の時効期間が「再スタート」する。

・時効の停止
 10年の時効期間が経過する前に天災が起こり裁判提起などができなくなってしまった場合には、その障害がおさまってから2週間は時効の完成が「ストップ」する。

 改正法では、中断・停止にいう「ストップ」と「再スタート」の概念を分解し、

  ・ストップ  ⇒時効の完成猶予
  ・再スタート ⇒時効の更新

に整理されました。

 なので、現行法で時効の中断といわれている制度は、改正法では時効の完成猶予と時効の更新のふたつの制度に分断されたことになります。

  ・中断 ⇒ 時効の完成猶予+時効の更新
  ・停止 ⇒ 時効の完成猶予

 ちなみに、ちまたの解説本では、

  ・中断 ⇒ 更新
  ・停止 ⇒ 完成猶予

に言い換えた、みたいな書き方してるのがほとんどですが、中断のほう、不正確な記述じゃないかと思います。

 このような因数分解的な概念整理、かつて会社法改正の際にも見た気がするのですが、そのときも「国民に分かりやすい」というフレーズが改正理由に用いられていました。

 確かに、民法の改正に携わるような頭の良い方々には理解しやすいのかもしれませんが、そうでない人にとっては、一つの概念(中断)の中に一通りのセット(ストップと再スタート)が含まれていたほうが分かりやすいのではないでしょうか。
 たまにしか行かないサブウェイで、おすすめのセットメニューしか頼めない人間の気持ちが分かっていないのではないでしょうか。

 ただ、今回言いたいことのメインは、私がサブウェイ苦手派であることや、スターバックスで「普通サイズの普通のコーヒー」としか頼めないといった恥の告白ではなく、用語の言い換えのほうです。


 まず「更新」といった場合、我々に馴染みがあるのは、マンション・アパートの賃貸借期間の更新や、パソコンソフトのライセンス期間の更新、自動車免許の更新とかだと思います。

 この場合、たとえば賃貸借期間が3年だとしたら、更新すると3年+3年の6年になります。先走って期間終了の1年前に更新したからといって、2年+3年=5年ということにはなりません。つまり、更新というのは期間満了から同じ期間継続する、という意味合いで使われることが多いかと思います。

  ・3年期間の更新、といった場合
   × 2年+3年
   ○ 3年+3年

 これに対して「時効の更新」なのですが、上記例でいうと、勝訴(厳密にいうと判決確定)したのが当初の時効期間8年目だとすると、8年+10年=18年となりますし、12年目だとすると、12年+10年=22年となって、当初の時効期間(10年)はもはや何の起算点にもなっていません。
 しかも、後ろの10年もその後の展開次第で、実際に10年となるかどうかはまだ分かりませんし。

 これでは、我々が日常的に使う「更新」という言葉とは、意味合いが違うのではないかと思います。

 もちろん、日本語として間違っている、ということではなくって、「国民に分かりやすい」というフレーズを謳っておきながら、一般的に使われる意味とは違う意味で使うのは、いかにも専門家チックな発想だと感じてしまいます。

 文句言うならじゃあ何がいいんだ、と言われるととても困るのですが、たとえば『時効の再起算』とかだとどうでしょうか。でも、本当は立案担当者も『リセット』ってカタカナ使いたかったんじゃないかと邪推します。


 「完成猶予」のほうも、やはり違和感が強いです。

 というのも「猶予」という言葉が使われるのは、たとえば「(裁判官が)刑の執行を猶予する」とか「(債権者が)支払いを猶予する」というように、誰かが何かの期限を延ばしてあげる、という意味で使われることが多いからです。

 他方で「時効の完成猶予」のほうは、上記例でいう天災であったり、何か一定の事由が生じた場合に時効の完成がストップする、というのであり、誰かが時効の完成をストップしてくれているわけではありません。
 「(◯◯が)時効の完成を猶予する」の◯◯には何も入れることができないわけです。

 ちなみに、改正法では、当事者間で「協議」に入る場合に時効の完成猶予の合意ができる制度が新設されましたが、これも両当事者の合意によるのであって、「債務者が時効の完成を猶予してくれる」というのとは意味合いが異なります(しかしこの合意、債務者側にはどういうインセンティブが働くんでしょうか)。

 ということで、こちらのほうは『停止』のままでもいい気がしますし、あくまで一時的だというなら『一時停止』とすればいいんじゃないですかね。


 基本法を改正するには「国民に分かりやすい改正をめざす」て一応の大義名分をかまさなきゃいけない決まりでもあるんですかね。
posted by ウロ at 15:13| Comment(0) | 民法
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