この消費税課否判定の記事、よく整理されてるので私も結構利用しています。
や、自分で書いた記事ではあるんですけど、そのときは一生懸命調べたけどすっかり忘れている、ということってよくありますよね。こうやってまとめ書いとくと、あとで便利です。
で、今回この記事をみた理由が、「特定新規設立法人」の当てはめやりたかったからなんですが、あらためて、この特例の適用範囲の広さにビビりました。
以下、具体例で。
○
A(自分)、B(配偶者)、C(Bの兄弟)
・Aは脱サラしてこれから甲社を設立しようとしている。
・一応いうとBとは生計一、Cとは生計別。
・BCの父親Dが乙社(課税売上高はずっと5億円超)の株を100%保有していた。
・Dが亡くなり、乙社株をCが99%、Bが1%相続している。
甲社(新設法人) ←100% A(他の者)
B(生計一) 1%→ 乙社(5億円超)
C(生計別) 99%→
甲社は「特定新規設立法人」に該当することになるか?
○
元記事の「条件」にそって検討すると、
ア 基準期間
⇒なし
イ 特定要件
⇒A(他の者)が50%超保有しているので満たす
ウ 他の者Aの課税売上高
⇒なし
特殊関係法人の課税売上高
⇒?
問題は最後の、乙社が「特殊関係法人」に該当するか、です。
※特殊関係法人とは
他の者(直接株主)と関係のある一定の者のうち、非支配特殊関係法人以外の法人
分解して当てはめていくと、
1 他の者(直接株主に限る)
⇒Aは直接甲社の株を保有
2 他の者と関係のある一定の者
⇒Aの親族B、C と、BCに完全支配されている乙社
3 非支配特殊関係法人
⇒生計一のBが乙社株もってるので該当しない
ので、乙社は「特殊関係法人」に該当しちゃって、甲はいきなり課税事業者からスタート、という結果に。
○
これ、Bが乙社株を相続してなければ、
甲社(新設法人) ←100% A(他の者)
B(生計一)
C(生計別) 100%→ 乙社(5億円超)
3 非支配特殊関係法人
⇒生計別のCが乙社株全部保有してるので該当する
となって、乙社は「特殊関係法人」にならない、となっていたわけです。
だから、自分なり生計一親族なりが、どこかの課税売上高5億円超な会社の株をうっかり保有していないか、事前に確認する必要があります。
こういうこと、ちゃんと遺産分割やってないと起こりえます。もちろん「名義株だ!」といって反論することもできるかもしれませんが、まあ揉めますよね、当局と。
※
一応「特殊関係法人」に該当する、とあてはめしてみましたが、条文の読み、本当にこういう理解でいいんですかね。
以下、条文を引用しつつ疑問を提示します。
消費税法施行令25条の3第1項《特殊関係法人》(省略入れてます)
一 当該他の者(新規設立法人の発行済株式を有する者に限り、当該他の者が個人である場合には、当該他の者の親族等を含む。)が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
・「他の者」は直接保有を要求されているが、「他の者」が直接保有してさえいれば「親族」のほうは直接保有してなくても含まれるのか?
甲社(新設法人) ←50%超 A(他の者) 100%→ 丙社
←0% B(親族等) 100%→ 丁社
⇒丙社が「特殊関係法人」にあたる典型例なわけですけど、丁社はどうなるのか?
・完全支配の判定は、「他の者だけ」は当然として、「親族だけ」「他の者+親族」「親族+親族」でも判定するのか?
「含む。」っていうのが「及び」の意味合いを持つのか、あくまでも単数形のままなのか?
1 他の者100%
2 親族100%
3 他の者50%+親族50%
4 親族50%+親族50%
1が該当するのは当然です。
で、1項と2項の書き分け方をみるに、生計別親族100%支配の法人を、一旦1項の「特殊関係法人」に含めた上で2項で除外しているわけです。とすると、2も1項に入っているのを前提にしているはずです。
問題は3と4。
二 当該他の者及びこれと前号に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
三 当該他の者及びこれと前二号に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
+法人の場合はこうやって「及び」で足してるんですが、+個人の場合はどうなのか。
同条第2項《非支配特殊関係法人》(省略入れてます)
一 当該他の者(新規設立法人の発行済株式を有する者に限る。)と生計を一にしない当該他の者の親族等が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
特殊関係法人から除外される「非支配特殊関係法人」はこういう書き方になっています。
たとえば、上記事例を少し変形して、BCE(CEはAと生計別)の三人兄弟で乙社株をC50%、E50%相続したとします(直接保有の疑問は置いておきます)。
甲社(新設法人) ←50%超 A(他の者)
B(生計一) 0%→ 乙社
C(生計別) 50%→ 乙社
E(生計別) 50%→ 乙社
この場合は「特殊関係法人」から除外されないとおかしいわけで、そうすると、こちらの完全支配の判定は「親族+親族」ですべき、となるはずです。
CまたはEが一人で100%持ってないから「非支配特殊関係法人」には該当しない、というのは変ですよね。
ので、第1項第1号のほうも「及び」として読むべきなんだろうな、と。
と、思うんですけど「含む。」の含みが引っかかる。「及び」でいくなら、『当該他の者が個人の場合は、当該他の者及びその親族等』という書き方になるのが普通だろうし。
あるいは、そもそも1項1号は「単数形」しか定めていない、てことで、この変形事例は2項1号の判定に進まないということになるのかどうか。
実はこういう疑問が残っているのですが、さしあたり保留にしておきます。
○
しかしまあ、ここででてくる「親族」概念てのが相当広範囲です。
消費税の課否判定に、民法の「親族」概念をそのままもってきてるもので。
民法725条
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
どれくらい広いかは「親族の範囲」とかでネット検索してでてくる図をご確認ください。
皆さん、自分の親戚どこまで把握してますか。
民法のお勉強をしてたときも相当広いなあとは思ってましたが、実際には、民法上の制度で「親族」概念がそのまま問題になるようなものってほとんどないので、現実的な問題はあまり生じてなかったかと思います。
ところが、消費税の課否判定では、広いままの親族概念をそのままもってきてしまってるわけです。お得意の「特定親族」とかで、もっと狭めに絞ればいいと思うんですけど。
「生計一」要件が一つの絞りなんでしょうけど、上記事例のように絞りきれてない事例もあると。
まあ、税法の議論のなかには、むやみに税法特有の概念を使わずに、なるべく他法の概念をそのまま使うべき、という議論もあったりしますので(借用概念/固有概念)、「特定○○」なんてのを徒に産み出すべきではない、という主張もありうるところでしょうが。
○
ここまで「親族」前提で話を書きましたが、正確には親族「等」です。
税法における「等」一文字の『INFINITY感』がここでも遺憾なく発揮されてます。
親族等とは
・他の者の「親族」
・他の者と「内縁関係」にある者
・他の者(個人)の「使用人」
・他の者(個人)からの資金援助で生計維持してる者
・上記の者と生計一の親族
ただでさえ広い「親族」を、「等」でさらに広げるという鬼感。
特に、最後の「の親族」の拡張っぷり。INFINITY×INFINITYですね(HUNTER×HUNTERぽくてかっこいい)。
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