2018年05月17日

ふたりはプリキュア(後日テコ入れで増員) 〜グループ法人税制のおさらい〜

 グループ法人税制、平成22年税制改正で創設された制度です。
 できた時点でひととおりお勉強したんですが、その後、正面切って使う事案にでくわしませんでした。

 ということで、改めておさらいしてみたので、備忘ついでに気になったポイントだけ。

1 適用範囲

 この制度、「完全支配関係」がある場合に適用されます。

 完全支配関係:
 一の者(法人または個人)が法人の発行済株式等の全部を直接または間接的に保有する場合における法人間の関係

 持株会がある場合とかの例外はあるんですけど、基本的に、100%支配の場合に適用されます。1%でも他人が持っていたら適用されないという(名義株とか持株会の話は別として)。

 で、定義の中にある「一の者」なんですけど、この者が「個人」の場合には、文字通りの同一人物だけではなく「特殊の関係にある個人」も含まれます。
 
 特殊の関係にある個人:
  ・その個人の「親族」
  ・その個人と「内縁関係」にある者
  ・その個人の「使用人」
  ・その個人からの資金援助で生計維持してる者
  ・上記の者と生計一の親族

なので、

  甲(自分)→A社(100%)
  乙(知らない親戚)→B社(100%)

という場合でもAB間には「完全支配関係」がある、てことになりえます(法人税法施行令の力で、知らない親戚のおじさんと一体化するイメージ)。

 で、グループ法人税制、知っていようが知っていまいが強制適用なので、たまたま取引したお相手の会社が遠い親戚がやってる会社だった場合、

「そうなんですか!奇遇ですね!」

という喜びの声ではなく、

「ふざけんな!お前のせいで面倒なことになってるじゃねえか!」

となることがあるかもしれません。

以前の記事、

特定新規設立法人のインフィニティ感

の中でも、親族の範囲の広さにドン引きしたところですが、あっちではまだ「生計一」でほんのり絞りをかけてました。ところがこっちではそういう限定がないので、もらい事故の確率が上がりますよね。

 とはいえ、税務署側にしたって、遠い親戚なんてそう簡単に把握できないわけで、事実上スルーされてるのもあるんでしょう。
 今後マイナンバーが戸籍のほうに入り込んできて、それを法人の調査でも使える、なんてことになったら、把握しやすくなるのかもしれませんが。

2 グループ内の資産譲渡

 グループ内で含み損益のある資産を移動させても、その含み損益実現させませんよ(譲渡損益を繰り延べる)、という制度です。

 これ、最初に制度趣旨をきいたときには、グループ内でどんだけグルグルさせても、グループ外にでるまでは実現させない、という制度かと思いました。

 ところが、よく読んでみると(ABCはグループ会社)、

  A→B Aの譲渡損益繰り延べる
  B→C Aの譲渡損益実現させる、Bの譲渡損益繰り延べる

となるとのことで、まだグループ内にあってもBが譲渡した時点で、Aの譲渡損益実現させちゃうんですよね。

 これが、

  A→B Aの譲渡損益繰り延べる
  B→A Aの譲渡損益実現させる、Bの譲渡損益繰り延べる

の場合でも、Aの譲渡損益実現させるということで。

 もちろん、そういう取引自体がおかしいということで、否認されるのかもしれませんが。

3 グループ内の寄付

 グループ内で寄付した場合、

  あげた側:寄付金の全額損金不算入
  もらった側:受贈益の全額益金不算入

となります。
 これは、グループ内でお金は自由に動かしてもいいけど、損益の付替えはできませんよ、ということですね。

 A 寄付金/現金 ⇒全額損金不算入
 B 現金/受贈益 ⇒全額益金不算入

 ABとも、損益はプラスマイナス0で、お金だけが動きます。

 お金を動かさないパターンもあって、たとえば、AがBにお金を貸した場合、利息をもらう/払うのであれば、

 A 現金/受取利息
 B 支払利息/現金

という仕訳がたつわけです。

 他方で、無利息の場合には、

 A 寄付金/受取利息
 B 支払利息/受贈益

となると。
 この場合、寄付金が全額損金算入、受贈益が全額益金算入なら、ABとも損益はプラスマイナス0ですんでしまいます。

 ところがこの制度が適用されると、Aは受取利息、Bは支払利息だけが損益として残るので、損益だけみると、利息をもらう/払う場合と同じになります。有利息か無利息かで、損益を調整することができないと。
 違うのは、現金がBからAに移動してないってところだけです。

 で、さらに、これ適用されると、Aが現金もらえてない/Bが現金払わないで済んだ、をそれぞれの株価に反映させようぜ、てことで、「税務上の帳簿価額」を調整しないといけなくなります(A株−/B株+)。

 そうすると、将来その株売るときの譲渡損益が、会計と税務でずれることになります。
 あと、純資産価額方式で株価算定するときにも「税務上の帳簿価額」を使うんで、そっちにも影響するわけですね。
 みなし配当ででてくるプロラタ計算も税務上の純資産でしたね。

 なお、この制度、法人支配の場合にかぎるので、親戚のおじさん事例の場合は適用なしです。
 個人間で、税負担なしで資産の移転されたら困る、ということですね。

4 グループ内の配当

 グループ内での受取配当は全額益金不算入になります。
 これも、グループ内での資金移動は自由ってことですかね。

5 グループ内での自己株式の取得、適格現物分配、解散

 このあたりは最初にお勉強したときにはよく意味が理解できていなかったのですが、組織再編税制とか資本等取引あたりにかかわるようになってから、ようやくまともに意味がわかるようになりました。

 234あたりは、普通の法人税法の理解の延長で理解できると思うんです。
 が、ここからは「ようこそ組織再編税制の森へ」という感じで、グループ法人税制やってたつもりが、いつの間にか組織再編税制のほうに足を踏み入れてしまっていると。
 あの要件がごちゃついた「繰越欠損金・含み損の引継・使用制限」様も、ちらっと出たり引っ込んだりしてますし。

 ではあるんですが、実務的にみると、グループ法人税制のようなどちらかというと「個別取引」の調整みたいな制度でどうにかしようとするよりも、正面から組織再編税制にのっかって処理をすすめたほうが、グループ内の整理はやりやすい気はします。
posted by ウロ at 12:46| Comment(0) | 法人税法
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