2018年06月06日

イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正

 イタチ派陣営から怒られそう。

 前回の記事でスルーした「家なき子特例」の平成30年改正、さすがに気になるところがあったので、軽く触れておきます。
 一応条文読みながら事例の当てはめしてみたんですが、とても一貫性があるように読み取れませんでした。ので、以下は法令の文言の形式的な当てはめレベルのものとしてご理解いただいて、実際の当てはめは個別にご相談ください。


 「家なき子」の特例に特有の要件というのが、改正前は、

1 被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
2 相続人は相続前の3年間に自分と自分の配偶者の持ち家に住んでいない
3 相続から申告期限まで継続保有

でした(一般要件は省略)。

 このうち2の要件が厳しくなりました。具体的には、

2−1
 相続前の3年間に
  ・自分と自分の配偶者
  ・三親等内の親族
  ・特別の関係がある法人
 の持ち家に住んでいない

というのと、

2−2
 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない

というのが仲間に加わりました。

 このブログでも『ひ〜ろ〜す〜ぎ〜!』と散々いじってきた「親族」概念ですが、2−1ではさすがに「三親等内」に絞っています。

○当ブログにおける『親族』イジりの歴史
親族概念の、いてもいなくてもどっちでもいい奴感
特定新規設立法人のインフィニティ感
ふたりはプリキュア(後日テコ入れで増員) 〜グループ法人税制のおさらい〜

 また、2−1のほうは「3年」絞りがあるんですが、2−2のほうは、条文上期間制限ないので、理論上は0歳まで遡るってことに。


 この、いかにも租税回避行為防ぎました感満々の改正なわけですが、次のような事例を防ぐための改正でした(以下、各事例は2以外の小規模宅地等の要件満たす前提で)。

《基本条件》
 A 被相続人(配偶者なし)
 B 相続人(子)
 C Bの子(孫)

 甲土地建物(甲家) A所有でAが一人で居住
 乙土地建物(乙家) B所有でBCが居住

 AとBCは生計別

  甲家 所有 A
     居住 A
  乙家 所有 B
     居住 BC

 以下、甲家につきBなりCが家なき子特例を受けられるかを検討します。

《事例1》
  乙家 所有 B
     居住 B・C

  B相続:改正前×⇒改正後×
  C受贈:改正前○⇒改正後×

 Bは乙家を所有・居住しているため、特例の適用を受けられない。
 そこで、甲家をAからCに「遺贈」する。
 Cは持ち家ないので適用を受けられる(改正前)。

 これが改正後は、CはB(三親等内の親族)の持ち家に住んでいるからダメ、ということになるわけです(2−1)。
 が、Cが適用受けたければ、近所にアパート(丙家)でも借りて一人暮らしすればいい(でも生計はBと一緒)、てことでいいんですかね。

  乙家 所有 B
     居住 B ⇒Cは丙家へ引越
  丙家 所有 他人
     居住 C(3年超)

  C受贈:改正前○⇒改正後○

《事例2》
  乙家 所有 B⇒Cへ譲渡
     居住 BC 

  B相続:改正前○⇒改正後×
  C受贈:改正前×⇒改正後×

 Bは乙家を所有・居住しているため、特例の適用を受けられない。
 そこで、BはCに乙家を売るなりあげるなりしつつ、居住はそのままとする。
 Bは持ち家ないので適用を受けられる(改正前)。

 これが改正後は、BはC(三親等内の親族)の持ち家に住んでいるからダメ、ということになるわけです(2−1)。

《事例3》
  乙家 所有 B⇒他人へ譲渡
     居住 BC(3年超)

  B相続:改正前○⇒改正後×
  C受贈:改正前○⇒改正後○

 じゃあ、ってことで、Bは他人に乙家を売って、相場通りの家賃を払いつつ引き続き住んでいたらどうかですが、この場合のBは、2−2に引っかかってダメになりました。
 ちゃんと家賃払っていたらよさそうな気もしますが、少なくとも、措置法・施行令レベルでは有償/無償での区別はされていないです。
 しかも、相続発生よりも何十年も前で租税回避のつもりは全くなくって、当時まとまったお金が必要になったから売っただけ、という場合であっても、引っかかります。期間制限ないし、意図も要件じゃないし。

 が、Cにとっては自己所有ではなかったわけなので2−2には引っかからず、Bが売ってから3年超なら2−1もOKということになります。


 こういうイタチごっこ系の改正、だいたい巻き込み食らう事例がでてくるんですが、次のような事例は、適用受けるのが不適切な事例といえるんでしょうか。

《事例4》
  丙家 所有 A
     居住 BC 

  B相続:改正前○⇒改正後×
  C受贈:改正前○⇒改正後×

 BCはA所有の賃貸マンションの1室(丙家)を相場賃料払って借りていた。
 Aから、自分が亡くなっても実家(甲家)は残してほしい、と言われたので、A死亡後甲家に引っ越した。

⇒BCはA(三親等内の親族)所有の持ち家に住んでいたからダメ。
 被相続人であるAも、BCからしたら三親等内の親族なので、ダメってことになるんですよね。「三親等内の親族」から被相続人だけは除外する規定でもあるかと思ったんですけど、ちょっと見当たらない。

《事例5》
  丙家 所有 E社(D100%支配)
     居住 BC 

  B相続:改正前○⇒改正後×
  C受贈:改正前○⇒改正後○

 BCは、Bの叔父Dが100%支配している不動産会社Eから、同社所有マンションの1室(丙家)を相場賃料払って借りていた。

⇒Bは関係法人(三親等内の親族Dが50%超支配する法人)所有のマンションに住んでいるからダメ。
 でもCにとってはDは4親等なので、Eは関係法人にあたらずOK。

 「グループ法人税制」のときみたいに、『ピュア親族』ではなく「三親等内」絞りがあるから、実は知らない親戚がやっていた、みたいなことはないにしても、Bは叔父さんの不動産会社からは借りないほうがいい、てことになってしまうわけです。

 が、Cなら大丈夫だと。
 3親等の起点が、被相続人ではなく取得者側なもので、誰がもらうかで関係者の枠が動いてしまう。

 何この違い。

《事例6》
  丙家 所有 学校法人E
     居住 C

  C受贈:改正前○⇒改正後○

 Cは遠方の中高一貫校に通うため、Bから離れて学校寮(丙家)に住んだ(3年超)。

⇒Cは第三者E所有の寮に住んでいるからOK。
 
 これ、普通の家庭の事例を想定して「第三者」としましたけど、三親等内の親族が理事やっている学校法人とか、あるいは、学校ではなく同親族がやっている進学塾の寮だったりしたら、関係法人に該当してダメってことになるんですか?

 『コネ入寮防止法』ですか。

《事例7》
  丙家 所有 B⇒不動産業者E
     居住 他人      ⇒B 

  B相続:改正前○⇒改正後×

 Bは自己所有のワンルームマンション(丙家)を第三者に賃貸し、自分は別の賃貸マンションに住んでいた。
 その後、Bは海外勤務になったので、丙家を不動産業者に売却。
 海外勤務から戻ってきたら不動産業者が丙家を賃貸に出していたので、相場賃料払って住むことにした。

⇒Bは居住している丙家を所有したことがあるのでダメ。
 わざとBの所有時期と居住時期がかぶってない事例にしてみたんですが、この場合でも条文読む限り

  相続時居住+過去所有
であって、
  相続時居住+過去居住・所有

とは読めないので、ダメっぽい。


 あれこれ事例あげて、要件どおりに○×判定しましたけど、これどういうポリシーに沿って結論が導かれてるのか、一貫した説明ってできますかね。

 法学分野で各種答案を書く際には、法の『立法趣旨』が重要で、関連判例の規範とか忘れちゃっても、とりあえず『立証趣旨』からの解釈をしておけばどうにか形にはなる、と言われたことがあります。
 が、これら事例の○×から、家なき子特例の『立法趣旨』を読み取って、趣旨からの規範定立をすることは可能でしょうか。
 所詮措置法上の優遇措置なんだから、とにかく要件を暗記するものであって、立法趣旨なんて大事じゃない、ということですか。

 でも、小規模宅地の特例、結構裁判になってて、個々の要件の法解釈をする際に『この制度の立法趣旨は〜であるから、』て感じで規範導いたりしています。
 叔父さん(三親等)の持ち家はダメだけど従兄弟(四親等)の持ち家なら住んでてもいい、という結論を導くのに相応しい立法趣旨って何でしょうね。

 そもそも《事例1》とか《事例2》とか《事例3》というのは、制度趣旨に反する事例といえるものだったのかどうか。制度趣旨自体がよく分からなくなっているんだから、それに反するとか、あるいは制度の濫用だ、なんてことも言えない気がするんですけど。


 ちなみに、まだ改正後通達が確認できてないので、緩和通達みたいのがでてくれるかどうか、要確認です。

 家なき子ルートがここまで狭くなってくると、やはり『なんちゃって同居』ルートを最大限活用するのが望ましい、ということになりますか。「推し同居はなんちゃって同居です!」とか言うつもりは無いんですけど。

パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○


 いわゆる相続「税」対策、色々あるとは思うんですが、もうすぐ亡くなるとかじゃない限り、結構先のことになるはずです。で、措置法頼みの対策(特にギリギリを攻めるやつ)って、こういったモグラ叩き改正が入るので、あまり当てにならないです。少なくとも、後戻りができるような対策にしておかないと、後々取り返しがつかない、ということもあるわけで。

 この改正、平成30年4月1日以後の相続に適用されるんですが、平成32年3月31日までの相続なら、平成30年3月31日時点で改正前要件を満たすかどうかで判定してもいいよ、という「経過措置」があります。
 有り体に言えば、平成32年3月31日までに亡くなってくれればそのままでいいけど、それより長生きしそうだったら対策組み直さないといけない、ということになるわけです。
 なかなか残酷な経過措置だと思うんです。が、相続税法関係の改正、悲しいけどこれ、基本そういう話になります。

 今回はこういう経過措置あるからまだいいんですけど、3月ぎりぎりに成立して4月1日から施行する、ていうのやめてほしいです。
 なんせ、このブログ書いてる現時点(平成30年6月6日)で、e-Govの法令検索でも国税庁のタックスアンサーでも、平成30年改正まだ反映されてませんからね。法令はまあ探せばいいですけど、通達はまだ公表されてないですし。緩和通達みたいのが不意打ち的に出てこられると困る。

租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
posted by ウロ at 09:23| Comment(0) | 相続税法
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