2018年06月18日

小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)

『人は、他人を見るとき自分が見えない』×『人は、他人を見るとき自分を見ている』

一見矛盾するような言明ですが、

 ・人が他人を批判する部分は、自分が抱えている欠点である。
 ・しかし本人はそれに気づいていない。

と補助線入れると意味が繋がります。

他人を批判したくなるのは、他人の中に自分の嫌な部分を見つけてしまうから、ということ。


小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社2018)

 で、本題に戻って、小林先生のこの本、民法の教科書で記述されている「債権者平等の原則」とか「担保物権の効力」というものが、倒産の場面でどのように実現されるかを知ることで、それら民法上の概念を立体的に理解できるようになる、というコンセプトの本。

 コンセプトはとても素晴らしい、いや本当に(予防線)。


 初版は平成9年に出版されたんですが、当時は『○○法×○○法』といった感じの、違う分野の法律の絡みを題材にした本てほとんどなかった気がします。

 ちなみに、『○○法×○○法』系の本での最高峰(だと私が思ってるの)は、佐伯仁志先生と道垣内弘人先生の『刑法と民法の対話』です。
 いつかちゃんと読み返したい。

佐伯仁志、道垣内弘人「刑法と民法の対話」(有斐閣2001)


 で、小林先生の本に戻りますが、構成が、

・民法の中での議論は『手続法的視点』が欠けているとディスる。
・でも破産法の議論を理解すれば、民法でモヤモヤしていたことが一気に理解できるよ。

という流れになっています。
 明らかに破産法が『攻め』で民法が『受け』。民法って何かと攻められてばっかしですね。

(参考)
 私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法

 その後、破産法が改正されたり、民法が改正されたりする都度、改訂されてきました。今回の改訂は、平成29年民法改正を反映したものです。
 ので、タイトルに入っているのも「新民法」(平成29年改正)。「新破産法」(平成16年改正)となってるのは旧版なので、間違えないように。

【法律書タイトルにおける「新」問題について】
ユーのネームは。 〜「新注釈民法」と私


 確かに、法改正は反映されてるんですが、扱っている題材が初版からあまりアップデートされていないように思えます。

 たとえば、『判例索引』をみてみると、初版がでた平成9年以降の判例が7件しか追加されてません。

 また、扱っている判例の中で税理士的に気になるのは、「予納清算法人税」の破産手続内での処遇について述べた昭和62年判例。
 「清算所得」とか「予納法人税」とか、用語解説も無しに何気なくでてくるんですが、清算所得課税制度が適用されるのは、平成22年9月30日までの解散の場合です。
 もちろん、当時の判例を理解する、という趣旨ならこれでいいのかもですが、現行法ならどうなるか、ということもあわせて記述するべきですよね。

 民法のことを『手続法的視点』が欠けてるってディスっておきながら、ここでは『税法的視点』が欠けてるという皮肉。

  民法(受け)←(攻め)破産法(受け)←(攻め)法人税法


 また、参照されている『文献』が古いままな気がします(以下、リンクは更新)。

 伊藤眞先生の『破産法・民事再生法』の最新版は平成26年にでてるんですが、なぜか、平成18年に出版された、(民事再生法の記述が追加される前の)『破産法』のほうが参照されていたりします。
 もちろん、旧破産法下の議論を引用するのであれば、改正前に出版された本を参照するのはわかるんですけども、どちらも改正後の出版だし。なんか削除された記述でもあるんですかね。

伊藤眞「破産法・民事再生法 第5版」(有斐閣2022)

 他方で民法の教科書・体系書の参照ですが、こちらもそんな感じ。

 私のみたかぎり、一番最新が中田裕康先生の『契約法』と道垣内弘人先生の『担保物権法』を一箇所だけ参照しているほかは、その前が四宮和夫先生・能見善久先生の『民法総則』(平成22年出版の第8版のほう)。あとは改正民法の解説本以外で、最近出版された教科書・体系書の参照がない気がします。
 最近の教科書・体系書の記述も、古い本とどっこいどっこい、ということなんでしょうかね。

中田裕康「契約法 新版」(有斐閣2021)
道垣内弘人「担保物権法 第4版」(有斐閣2017)
四宮和夫、能見善久「民法総則 第9版」(弘文堂2018)

 道垣内弘人先生の『担保物権法』は、三省堂時代の古い版も参照されているんですが、古い版にしかない記述とかあるんでしょうか。
 また、生熊長幸先生の『担保物権法』のように、手続法にも目配りの効いた本が出てるんですが、こういう本の参照がないです。森田修先生の『債権回収法講義』なんて、まさに実体法と手続法の融合を極めて高いレベルでやってるのに、全くでてきません。

生熊長幸「担保物権法 第2版」(三省堂2018)
森田修「債権回収法講義 第2版」(有斐閣2011)

 なんか、ストーリーの流れ的に、民法がいつまでも『出来ない子』でいてくれないと困る、みたいなことですか。


 と、さんざん批判めいたことを書きましたが、異なる法律間の議論の隙間を埋めていく、という視点に気づかせてくれたのはこの本が初めてで、そういう気付きを与えてくれたということでは、いい本なのは間違いないです。
 このブログの『日常系税務リーガルマインド』の記事の源流にある思考法であることは間違いないし。

内面重視 〜ブログタイトル変更しましたのお知らせ

 自分を成長させてくれた本が、あの頃から成長していないという悲しみ。ほんと、亀仙人のじっちゃんは、うまくソフトランディングしたと思いますよ。

 そして、冒頭の記述は自分に還ってくるであろうという戒め。

ここまで判明している当ブログの源流
1 もしもシリーズ(もしもアントニオ猪木がコンビニの店員だったら等)
2 破産から民法がみえる
posted by ウロ at 15:51| Comment(0) | 倒産法
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