若手ボイラー技士
と、自分のこと売り出すってことは、その業種にとって若手であることが強みになる、という認識だからなんですよね(ボイラー技士をチョイスしたのはあくまで一例です。差し支えあるなら、イヤホンコードほぐし士に差し替えます)。
が、専門業だったら、知識と経験が豊富であることが強みになるのが普通なはず。わざわざ自分から、知識も経験も不十分な若手ですよ、とアピールする必要性がよく分からないです。
資格証とかバッジをわざと汚して、ベテラン感を出そうとするほうがまだ理解できます。
(ここで、アピールする意味のない例として、わざわざ「人間」であることをアピールする人いないでしょ、ということを書こうと思ったんですが、今後のAIの発達具合からすると「人間がやってます」が弱みになったり強みになったりする場合がでてくるんでしょうね。)
あ、決して否定してるのではなくって、自分には理由が分からない、というだけです。
同じように、
女性臭気判定士
みたいなアピールも、女性であることが男性と比較してその業種にとって強みになる、ということなんですよね(こちらのチョイスも特に意図はありません)。
が、性差で仕事のやり方に違いが出る、というのも、血液型診断とかと同じレベルであまり信用していません。少なくとも、男女の2つだけというのは類型として大雑把すぎ。
そもそも、この手の「ざっくり範疇」(ざっくりはんちゅう)があまり好きではないようです。100個ぐらい属性アピールしてくれたら、納得するのかもしれませんが。
○
本題にもどって、以前の記事で破産法の本を読んだときに、破産手続において租税債権がどのように扱われているか、改めて整理してみようと思って、手持ちの本を調べてみました。
(参考)
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
小林秀之先生の本は、わざわざ一講使って「租税債権」について書いているのに、そのへんの整理が全然されていません。なんていうか、部分部分の説明って感じで。
ので、手持ちの破産法の本やら条文読み込んで、どうにか整理してみました。が、もう大変(全然自信ないので、各自条文にてご確認ください)。
○破産手続における租税債権の処遇
T 債権間の優劣について
1 本税
ア 破産手続開始前の原因に基づく
納期限未到来または納期限から1年未経過 ⇒財団債権
それ以外 ⇒優先的破産債権
イ 破産手続開始後の原因に基づく
破産財団の管理、換価及び配当に関する費用 ⇒財団債権
それ以外 ⇒劣後的破産債権
2 延滞税等
ア 本税が財団債権 ⇒財団債権
イ 本税が優先的破産債権 破産手続開始前 ⇒ 優先的破産債権
ウ 本税が優先的破産債権 破産手続開始後 ⇒ 劣後的破産債権
エ 本税が劣後的破産債権 破産手続開始後 ⇒ 劣後的破産債権
3 加算税等
⇒全て劣後的破産債権
U 手続間の優劣について
・破産手続開始前の滞納処分は続行可
・破産手続開始後は滞納処分できない
V 否認権との関係について
破産者が破産手続開始前に納付してたら破産管財人は否認権を行使できない
W 免責(個人)との関係
1 優劣的破産債権 非免責債権にあたる
2 劣後的破産債権 非免責債権にあたる
3 財団債権 免責とは関係ない。が、請求できるかは争いあり。
X その他
届出・調査・確定関係について特則あり。
○
まとめてしまえばこんな感じなんですが、特にTなんて、条文だけ読んでここまで読み取れますか、という話。特に延滞税、お前ですよ。
条文引用したので、一読していただくとして、どうしてこうなるのかすんなり分かる人がいたら、逆にヤバいです。
「国民にわかりやすく」なんてことは気にしてなくって、完全にプロ向けの書き分け方。
まあ、条文自体はどうしてもひとつの体系で整理しなきゃいけないので、別の括りからみたときには、あちこちに散らばってしまうことになるのは仕方ない。ピボットテーブルみたく、括りを取っ替え引っ替えできるわけではないし。
が、教科書の類でも、駄目な教科書だと、何も気にせず条文の編列どおりに記述するもんだから、上のT〜Xが、バラバラの章に書いてあるわけです。
で、クロスリファレンスもないから、つながりが全然見えてこない。
○
いちばんひどいと思ったのが、否認権の例外を定める163条についての、とある教科書の記述。
条文みてもらえば分かるんですけど、163条の1項・2項は「手形」と否認権の関係について、3項は「租税債権」と否認権の関係について定めたもので、内容物が全く別物なんです。
勘の鋭い方は、163条の見出しが(手形債務支払の場合等の例外)となっていて、そこに『等』が入っていることに気づくと思います。このブログでも『等』のインフィニティ感をイジってきたので、条文における『等』を舐めてはいけないことはご理解いただいているかと。
(参考)
特定新規設立法人のインフィニティ感
が、その教科書では「手形支払と否認の特則」という見出しの中で手形について記述したあと、脚注で3項の租税債権について記述する、という意味不明な書き方をしています。
この条文の解説をするならば、租税債権については別項とするか、あるいは、見出しを「手形及び租税債権」として租税債権についても本文で書くか、だと思うんですが、そのような書き方にした意味が全く分かりません。
○
こうやってまとめてみて、はじめて疑問に思うんですが、破産者(個人)の立場からすると、租税債権は非免責債権だし否認されないし、てことで破産開始前にできる限り納付しておきたくなるんじゃないか、という疑問。
財団債権が優先されるのは仕方ないとして、優先的・劣後的破産債権についても、免責されない租税債権から先に納付しておいたほうが、破産者的にはお得なわけですよね。
たとえば、
・破産財団 100
A 租税債権(優先的破産債権) 80
B 租税債権(劣後的破産債権) 40
C その他債権(優先的破産債権)40
こういう事例があったとして、
そのまま破産手続開始した場合は、
A 租税債権(優先的破産債権) 80配当受けられる
C その他債権(優先的破産債権)20配当受けられる。20免責で消滅。
B 租税債権(劣後的破産債権) 「40」非免責で残る。
(※優先的破産債権同士ACでは租税債権が優先)
となって、他方で破産手続開始前に納付した場合は、
A 租税債権(優先的破産債権) 80納付により消滅
B 租税債権(劣後的破産債権) 20納付により消滅。「20」非免責で残る。
C その他債権(優先的破産債権)40免責で消滅。
となる??
租税債権から先に納付しちゃっておいて、Bが20だけ残る後者の世界線のほうがお得になるはずです。
そうではなくって、163条3項は、納付しても否認権の対象にならないってだけで、265条以下の罰則の適用までは逃れられない(国が共犯ですか?)、とか、あるいは配当を受けられなくなったことによる損害賠償請求権が253条1項2号の非免責債権に該当することになる、とかって理屈で抑止されるんですかね。
これ、非免責債権のある個人の場合を想定してますけど、法人の場合でも「第二次納税義務」のことまで考えると、同じような誘惑が働くような気がします。とにかく租税債権強いから。
○
といった、開始前から終了後も含めた破産手続全体の中で、租税債権がどう扱われるかをまとめて書いてくれてる本が見当たらない。私が気づいていないだけかもしれませんが。
以前の記事のとおり、民法学に「手続法的視点」が欠けている、とさんざんディスっておきながら、破産法学に「租税法的視点」が欠けている、という悲しい一例。
【破産法の租税債権絡みの条文】(括弧書きとか省略してる部分あります)
第二条(定義)
5 この法律において「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第九十七条各号に掲げる債権を含む。)であって、財団債権に該当しないものをいう。
7 この法律において「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。
第九十七条(破産債権に含まれる請求権)
次に掲げる債権(財団債権であるものを除く。)は、破産債権に含まれるものとする。
三 破産手続開始後の延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権
四 国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの
五 加算税(国税通則法第二条第四号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。)若しくは加算金(地方税法第一条第一項第十四号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金をいう。)の請求権
第九十八条(優先的破産債権)
破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(次条第一項に規定する劣後的破産債権及び同条第二項に規定する約定劣後破産債権を除く。以下「優先的破産債権」という。)は、他の破産債権に優先する。
第九十九条(劣後的破産債権等)
次に掲げる債権(以下「劣後的破産債権」という。)は、他の破産債権(次項に規定する約定劣後破産債権を除く。)に後れる。
一 第九十七条第一号から第七号までに掲げる請求権
第百四十八条(財団債権となる請求権)
次に掲げる請求権は、財団債権とする。
二 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権
三 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの
四 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
第四十三条(国税滞納処分等の取扱い)
破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分(外国租税滞納処分を除く。次項において同じ。)は、することができない。
2 破産財団に属する財産に対して国税滞納処分が既にされている場合には、破産手続開始の決定は、その国税滞納処分の続行を妨げない。
第百条(破産債権の行使)
破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
2 前項の規定は、次に掲げる行為によって破産債権である租税等の請求権を行使する場合については、適用しない。
一 破産手続開始の時に破産財団に属する財産に対して既にされている国税滞納処分
二 徴収の権限を有する者による還付金又は過誤納金の充当
第百十四条(租税等の請求権等の届出)
次に掲げる請求権を有する者は、遅滞なく、当該請求権の額及び原因その他最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならない。この場合において、当該請求権を有する者が別除権者又は準別除権者であるときは、第百十一条第二項の規定を準用する。
一 租税等の請求権であって、財団債権に該当しないもの
二 罰金等の請求権であって、財団債権に該当しないもの
第百三十四条(租税等の請求権等についての特例)
租税等の請求権及び罰金等の請求権については、第一款(第百十五条を除く。)から前款までの規定は、適用しない。
2 第百十四条の規定による届出があった請求権(罰金、科料及び刑事訴訟費用の請求権を除く。)の原因が審査請求、訴訟(刑事訴訟を除く。次項において同じ。)その他の不服の申立てをすることができる処分である場合には、破産管財人は、当該届出があった請求権について、当該不服の申立てをする方法で、異議を主張することができる。
3 前項の場合において、当該届出があった請求権に関し破産手続開始当時訴訟が係属するときは、同項に規定する異議を主張しようとする破産管財人は、当該届出があった請求権を有する破産債権者を相手方とする訴訟手続を受け継がなければならない。当該届出があった請求権に関し破産手続開始当時破産財団に関する事件が行政庁に係属するときも、同様とする。
4 第二項の規定による異議の主張又は前項の規定による受継は、破産管財人が第二項に規定する届出があったことを知った日から一月の不変期間内にしなければならない。
5 第百二十四条第二項の規定は第百十四条の規定による届出があった請求権について、第百二十八条、第百三十条、第百三十一条第一項及び前条第三項の規定は第二項の規定による異議又は第三項の規定による受継があった場合について準用する。
第百五十二条(破産財団不足の場合の弁済方法等)
破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における財団債権は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合により弁済する。ただし、財団債権を被担保債権とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権の効力を妨げない。
2 前項の規定にかかわらず、同項本文に規定する場合における第百四十八条第一項第一号及び第二号に掲げる財団債権(債務者の財産の管理及び換価に関する費用の請求権であって、同条第四項に規定するものを含む。)は、他の財団債権に先立って、弁済する
第百六十二条(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
第百六十三条(手形債務支払の場合等の例外)
前条第一項第一号の規定は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない。
2 前項の場合において、最終の償還義務者又は手形の振出しを委託した者が振出しの当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったときは、破産管財人は、これらの者に破産者が支払った金額を償還させることができる。
3 前条第一項の規定は、破産者が租税等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。
第二百五十三条(免責許可の決定の効力等)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
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