一昔前は、法学分野の「研究書」をよく読んでいました。
たとえばこういう。
山本敬三「公序良俗論の再構成」(有斐閣2000)
大村敦志「公序良俗と契約正義」(有斐閣1995)
その本で扱われている研究対象に興味がある、というよりも、頭のいい人の、アプローチの仕方とか分析の仕方とか、そういったものを読んで、自分の頭もブラッシュアップする、という使い方です。
ので、特定の分野に偏らず、それぞれの分野での頭の良い人の著者買いすることが多かったです。
こういう研究書、前に紹介した森田宏樹先生の『契約責任の帰責構造』のような例外はあるにしても、基本的には実務に直接役立つことはありません。
森田宏樹『契約責任の帰責構造』(有斐閣2002) 〜印紙税法における「結果債務・手段債務論」の活用
Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法
で、私は難しい本は線を引きながらじゃないと読めないので、借りるのでなく買わざるをえない。
1頁あたり単価、とかいうのはなんですが、一般書にくらべて高いのでそうお気軽には買えないです。
○
最近は、こういう本ほぼ買わなくなりました。
というのも、昔は、その手の研究書が置いてある大きい書店とか、あるいは法律書専門の古書店とかによく行ってて、中身を確認することができてました。で、散々迷ってよければ買うと。
のに、最近はほぼ行かなくってしまって。法律書専門の古書店なんて、どんどん無くなっていくし。
ネット古書店 購入お作法(含、小トラブルご報告)
ネットでタイトルだけ見て、なんか良さそう、と思っても、中身が分からないんじゃ買えないじゃないですか、高いし。
じゃあってことで、ネットで情報収集しようと思っても、まあ情報がない。
著者名+書名で検索しても、Amazonを始めとするネットショップがまず出てきて、あとは出版社のページ、くらいでおしまい。
Amazonレビューなんて当然ついてないし、じゃあ、出版社のページでは、て思って見てみても、ほんのり紹介文と目次だけしか書いてない。
川柳みたく文字制限ルールでもあるんですか、と思いたくなるような短文。サーバー容量が数MBしかない、大昔の『○○のホームページ』みたいな。
あのころの雰囲気を思い出したい方は、下記サイトをご参照ください。
阿部 寛のホームページ
(背景の「ABE Hiroshi」とかグッときますよね。「あなたは○人目のお客様です」とか「無断リンク禁止」とあればもっといいんですけど。)
その出版社の紹介ページに「購入ボタン」が付いてたりするんですが、はじめから買う前提で見た人以外で、そのページ読んで買いたくなって押しちゃった(=お気ポチ=お気軽にポチる)、なんて人いないと思う。
○
でもまあ折角だし、ということで、一応その目次みて買う気になるかどうかを検討してみるんですが、こういう感じの目次だと一気に萎える。
【萎え目次】 (括弧内は私の想像)
序論 問題の所在 (短そう)
第1章 ドイツにおける○○ (長そう)
第2章 フランスにおける○○ (長そう)
結語 日本法への示唆 (短そう)
まあ、業界的にはそういうお作法で書かないとダメなんだろうな(特に若手の場合)、という気はしますが、読み物としてはつまらないです。
これが、ドイツ・フランスに限らずもっと複数の国での議論をシームレスに紹介するとか、対象を絞るにしても、もっと絡みを多めにするとかすれば面白くなりそうなんですけど。
たぶん、ドイツではこうです御仕舞い、フランスではこうです御仕舞い、日本ではドイツのこれが参考になるかも、フランスのこれが参考になるかも、くらいのご紹介論文で終わるんだろうな、と想像できるわけです。
○
また「はしがき」によく、
「出版状況の厳しい折、このような利益の見込めないものを出版していただいた出版社には感謝の言葉しかありません」
みたいな感じのことが書いてあったりします。
や、感謝とか本当に思ってるんだったら、ちゃんと自書アピールしなさいよ、て思う。昔ならともかく、今だったらブログでもツイッターでも媒体はいくらでもあるでしょうに。
出版社自身の公式ツイッターもあったりしますが、型通りの新刊案内なだけで、思わず興味が沸くような宣伝文句って書いてないんですよね。
研究者本人は、自分の研究書を出せただけで満足なのかもしれませんが、出版社にとってはできるだけ売れて利益出したほうがいいと思うんですけど、なんかやる気を感じられない。
○
この、対外的な売る気のなさを、出版業界ド素人の私が「邪推」するに、
・出版社の利益構造的には、自社で出してる教科書と小型六法を、大学の授業で指定してもらえることが重要である。それによって1年の収益が大きく変わるからである。
・授業に指定してもらうのは、授業を担当している教授次第である。
・とすると、研究書を出してあげる、あるいは研究書を出してもらえるかもという期待をもたせることが、指定してもらうためには重要である。
・ゆえに、研究書の出版は教科書・小型六法を指定してもらうための手段にすぎないのであって、そこに経営資源を投入してはならない。
ではないかと。
もしそうだとすると、研究書の出版は出版社にとってはある種の「交際費」みたいなもので、はじめからそれで利益を出すつもりはない、というのは理解できます。
手間ひまかけてまで、ネット上で販促しないというのも、極めて経済合理性があるわけです。顧客を、一般層ではなく大学の「授業」に絞るという戦略。
研究者側も、教科書指定してあげたじゃん、という気持ちなので、感謝の「言葉」をはしがきに書くことはしても、感謝の「販促活動」をしない、理由もよくわかります。
「教科書」の指定 ←等価交換→ 「研究書」の出版
でも本当に、教科書部門と研究書部門のそれぞれの部門別損益がどうなっているのか、興味あります。
教科書部門 研究書部門
出版売上 ○円 ○円
出版仕入 ○円 ○円
ではなく、
教科書部門
出版売上(教科書売上) ○円
出版仕入(教科書仕入) ○円
交際費(研究書仕入) ○円
雑収入(研究書売上) ○円
みたいな感じだったら笑える(泣ける)。
2018年07月23日
法学研究書考 〜部門別損益分析論
posted by ウロ at 13:48| Comment(0)
| 法律書マニアクス
この記事へのコメント
コメントを書く