2018年08月14日

武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。

 タイトルに「労働者」って書いてるの、間違いではないです。

 税額控除なんだから会社側(+個人事業主)の武器なんじゃないの、というのが普通の反応なんでしょうが、ある特定の状況で特定のコマンドを入力することで、労働者側の武器になるかもよ、というお話(BUG、と書いたら怒られそう)。


 積極的な賃上げに取り組む企業を応援します(中小企業向け所得拡大促進税制)

 平成30年度税制改正の「所得拡大促進税制」について、中小企業庁作成のガイドブックが出たんです。

 ちなみに、2018/4/1以降開始事業年度に適用されるっていうのに、2018/8/8になってやっとでてくるの、どうなんでしょう。
 もちろん、我々税理士は、税制改正大綱が公表された時点から概要を把握しつつ、法律・政令・省令が公布された時点でしっかり条文を読み込むべし、という建前なんでしょうけども、プロ以外の人にとっては、こういう分かりやすい解説がないと、理解しづらいですよね。

 1の記事でも書いたとおり、継続雇用者の要件なんかは場合によっては事前に調整が必要なわけで、期首から数ヶ月ものんびり待ってられないはず。

【措置法イジり(所得拡大促進税制編)】
1 税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
2 武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
3 ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
4 さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ


 で、このガイドブック読んでみて、1の記事で懸念したとおり、やっぱり「継続雇用者」の判定が、適用年度の決算月まで確定しない、ということになるみたいです。

 その記事では、適用可否の判定時期が遅くなって困る、という「会社側」の立場からの指摘をしました。
 他方でこれ、「労働者側」からみると、適用の可否を自分が「辞める/辞めない」でコントロールできる場合がありそうだなと、思ったわけです。


 以下の事例で検証してみます。

  ・前年度: x1.1.1〜X1.12.31
  ・適用年度:x2.1.1〜X2.12.31
  ・給与は当月〆当月払ということにしておきます。

 前年度は、事務職員のAさんしか従業員がいませんでした。

  ・前年度: Aさんの給与 20万円×12ヶ月=240万円

 適用年度になって、ガンガン採用かけて営業社員がめちゃくちゃ増えました。
 でも、Aさんの給与は上がりませんでした。

 当期の年間給与は次のようになる予定。

  ・適用年度:営業社員の給与総額 5000万円(予定)
  ・適用年度:Aさんの給与 20万円×12ヶ月=240万円(予定)

 で、所得拡大促進税制の適用を受けるには、Aさんの給与を1.5%なり2.5%増やせばいいんだろ、ということで、決算月にAさんに賞与を6万円出すつもりでした。

 そのままAさんがx2.12月までいてくれれば、

  ・前年度: 継続雇用者給与 240万円
  ・適用年度:継続雇用者給与 246万円

と前年比2.5%増となるので、

  ・前年度: 給与総額  240万円
  ・適用年度:給与総額 5246万円
  ・増加額:     +5006万円
  ・税額控除15%(通常の場合)  750.9万円
  ・税額控除25%(上乗せの場合) 1251.5万円

の控除が受けられるはずでした(ただし法人税額の20%まで)。

 ここで仮に、Aさんが12月分給与・賞与を受ける前に辞めてしまった場合には、前年度と適用年度の全月分の給与支給受けた人がいなくなるので、

  ・前年度: 継続雇用者給与 0円
  ・適用年度:継続雇用者給与 0円

となり、税額控除は一切受けられなくなってしまいます。

 あるいは、12月給与はもらったが決算賞与はもらう前にやめた場合には(支給日に在籍が賞与の条件になっていた、とか)、

  ・前年度: 継続雇用者給与 240万円
  ・適用年度:継続雇用者給与 240万円

となり、やはり税額控除は一切受けられなくなってしまいます。
(上記いずれも、厳密には「もらえる地位を取得する前にやめた場合」という言い方になりますかね。)

 とすると、Aさんにとっては、自分が12月分の支給受ける前に辞めるかどうかで、会社が税額控除を受けられるかどうかをコントロールできるってことですよね。
 しかも、もし適用年度の1月分給与を受けた人が他にいなかった場合には、もう1年この地位引っ張れることになります。


 これ、会社にとってはなかなかの脅威だと思うんです。

 もちろん、ある程度人の出入りが安定した会社であれば、1人辞めただけでいきなり適用受けられなくなる、なんてことはないでしょうが、急成長中で人の出入りが激しい会社では、こういうことが起こりかねない。

 この制度、個人事業主にも適用されるので、人の出入りの激しい会計事務所なんて、特にあてはまりそう。
 「国内雇用者」からは、しっかり役員・個人事業主の「親族」が除かれてるし。

(ついでに参考)当ブログにおける「親族」イジりの歴史
 イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
 パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
 ふたりはプリキュア(後日テコ入れで増員) 〜グループ法人税制のおさらい〜
 親族概念の、いてもいなくてもどっちでもいい奴感
 特定新規設立法人のインフィニティ感
 消費税、免税とるって大変よ、という話(2018.1.11現在のルール)

 あらためて思いますが、今回の改正で継続雇用者の集計しやすくなったよかったね、とか、呑気に言ってる場合ではないと思うんです。

 でもやっぱり、ここまで変な要件だと、本当にこういう理解でいいのか全く自信がもてません。
posted by ウロ at 11:57| Comment(0) | 法人税法
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