2018年08月27日

さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ

 や、今回でひととおり出し尽くしたので、これ以上の続編はないはずです(当時のスタッフもそう思ってたのかも)。

 平成30年改正の所得拡大促進税制について、要件のうち『継続雇用者』の判定をメインに絞ってイジってきましたが、まだ積み残した論点があります。

【措置法イジり(所得拡大促進税制編)】
 税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
 武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
 ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ

1 賞与は何月分?

 継続雇用者の判定では『賞与』はいつの月分として集計するんでしょうか。

 というのも、『給与』については、「○月分」というのは「○月勤務分」と理解できるので、集計のズレは気持ち悪いとして、まあやればいいと。

 では『賞与』でいう「○月分」はどう理解したらいいのか。賞与の場合、必ずしも特定の月に紐付いているわけではないので。

 賞与の計算対象期間で判定するのか、支給日で判定するのか。
 あるいは、各月分に紐付いてないから継続雇用者の判定の際には賞与は使わない、ということなのか。

 もしこの「使わない説」だとすると、CとDEで集計すべき項目が、さらにズレるってことになりますよね。

  C  発生した給与(賞与は集計しない)
  DE 損金算入した給与+賞与

 現実的には、「一般被保険者でありつつ、○月分の給与はないのに賞与はある」という事例が起こりえない、から、給与と別に賞与単独で判定する場面がない、ということかもしれませんが。

2 退職後に支給したら

 また、継続雇用者の判定を「発生」ベースでやるとして、支給を受けた時点で一般被保険者である必要があるのかどうか。

  ・前年度: x1.01.01〜X1.12.31
  ・適用年度:x2.01.01〜X2.12.31
  ・給与は当月末〆翌月末払
  ・X2.12.31退職

 この例では、X2.12月分まで給与が発生しているものの、最後の給与を受けるX3.1.31の時点ではその会社の一般被保険者ではないわけです。この場合でも継続雇用者に該当するかどうか。

 政令では

  ・国内雇用者(一般被保険者)として
  ・給与等の支給を受けた者

とあるので、支給を受けた時点でも一般被保険者である必要がある、とも読めるわけです。

 が、これに関しては、発生した給与が一般被保険者としてのものならよくて、あげる/もらう時点で一般被保険者である必要はない、と理解すればいいはず。おそらく。

 誤解を招く書き方ではありますが。

3 1日分でも該当するか?

 では、上の例で、もし「X2.12.01」に退職した場合は、「12月分」の給与の支給を受けたといえるのかどうか。 
 つまり、1日分でもその月分の給与を受けたといえるのかどうか、ということです。

 「各月分」という言葉だけみると、1日分だけでもその月分の給与の支給を受けたといえそうです(1日説)。

 ただ、法律・政令では、適用年度と前事業年度の「期間内の」という言葉もでてくるので、前事業年度の初日から適用年度の最終日の全期間分(365日間×2)の給与を受ける必要がある、とも読めなくもないです(全期間説)。
 
 が、「各月分」と「期間内」をあわせて読めば、その期間のうちの月分ということで、1日分でもいいとも読むこともできそうですし(1日説に戻る)。

 この点、中小企業庁作成の『中小企業向け所得拡大促進税制 よくあるご質問Q&A集』の「29」をみると、支給については「全ての月分の」とありながら、他方で、一般被保険者であることについては「全ての期間において」という言葉を使っているので、どうも「全期間説」を前提にしてるように読めるのですが、このへんのことをしっかり詰めた上での記述かどうかは不明。

 積極的な賃上げに取り組む企業を応援します(中小企業向け所得拡大促進税制)
 中小企業向け所得拡大促進税制 よくあるご質問Q&A集(PDF)


 継続雇用者の要件の厄介なのが、

  該当するのが納税者有利
  該当しないと納税者不利

とは限らないということ。

 0人だとそもそも適用受けられないので、誰もいないよりはいたほうがいいのは確かです。

 が、前年比で給与増やした人が該当するならいいんですけど、減らした人が該当しちゃうと困るわけです。
 前年比増要件が満たせなくなってしまうので。

 あるいは、上の論点3で、1日分支給でも継続雇用者に該当するとした場合、前年度は12ヶ月分、適用年度は11ヶ月と1日分となって、前年比減となる要因が増えてしまいます。

 こんな要件、珍しい。


 ここまで書いてきて、継続雇用者の判定要件、結局のところ分からないことだらけです。

 単純に、一般被保険者としての「勤務期間」だけで判定すればよかったと思うんですが、わざわざ「期間内の各月分の給与もらってる」といった厄介な要件を付け加えることで、どんな事例を排除しようとしたのか、よく分かりません。

 小規模宅地等の特例を検討したときと共通してますが、『制度趣旨』からそれぞれの適用要件の位置づけや意味を導くことができないのがネックになっています。

【措置法イジり(小規模宅地の特例編)】
 パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
 イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正

 今回の論点にしても、前回の支給か発生かという論点にしても、とにかくどっちかに決めといてくれ、というレベルの話であって、どちらかが正しい、という類のものではないです。
 当期と前期で同じ基準に揃えるべき、まではいえるとして、じゃあ「社員の所得増やそうぜ」という制度趣旨から、支給で判定すべきとか発生で判定すべき、なんて導けないですよね。

 措置法の要件て、この制度の他の要件でもあるように、前年比で「百分の一・五以上」増えたら、とか、はっきり基準が決まっているのが本来なはず。「所得増やそうぜ」の趣旨だけから、1.5が相応しいのか、あるいは2.0が相応しいのか、なんて解釈しようがないわけで。
 これが「前年比で相当割合増えたら」なんて書かれてたら、どうしようもないですよね。
 
 といったことで、ここまでの私の記述も「こう解すべき」という書き方はほとんどできていません。「実務的には、たぶんこっちの扱いのほうになるんじゃない?」くらいのふんわりニュアンス。

 「税務リーガルマインド」とかいってますけど、本来、この領域ではそんなもの発揮する場面ないですからね。決まった制度を粛々と当てはめていけば済んでたはずなんです。
 それがどういうわけか、ブログで長々とイジり倒す羽目になっている。

【参照条文】(はげしく省略要約してます)

○租税特別措置法42条の15の5第3項

四 雇用者給与等支給額
 法人の各事業年度(「適用年度」)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。

五 比較雇用者給与等支給額
 法人の適用年度開始の日の前日を含む事業年度(「前事業年度」)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。

六 継続雇用者給与等支給額
 継続雇用者(法人の適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度(「前事業年度等」)の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者として政令で定めるものをいう。)に対する当該適用年度の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。

七 継続雇用者比較給与等支給額
 前号の法人の継続雇用者に対する前事業年度等の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。

○租税特別措置法施行令27条の12の5

第13項
 法6号に規定する政令で定める『もの』は、法人の国内雇用者のうち、
 当該法人の国内雇用者として当該適用年度及び当該前事業年度等の期間内の各月分の当該法人の給与等の支給を受けた者

第14項
 法6号に規定する政令で定める『金額』は、法4号に規定する雇用者給与等支給額のうち法6号に規定する継続雇用者に係る金額とする。
posted by ウロ at 09:04| Comment(0) | 法人税法
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