2018年09月03日

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

「株式譲渡に係る譲渡所得の収入金額を配当還元方式によって算定した金額(譲渡対価も同額)は低額譲渡に当たるとした課税庁の主張を認めた地裁判決を取り消した事例」(東京高裁平成30年7月19日判決)

 税理士事務所が定期購読しがちな税務絡みの週刊誌として『週刊税務通信』(税務研究会)というのがあるんですが、私はなぜか『国税速報』(大蔵財務協会)のほうをとっています。


 大蔵財務協会発行の書籍を20%引きで買えたり、『改正税法のすべて』をもらえたりといった特典もいいんですが、解説が条文ベースで正確だったり、改正通達が付録でついてきたりするので、「税法イジり芸」を展開中の当ブログには、芸の肥やしになるんじゃないかと思いまして。

 とはいえ、今までは直接ブログネタになりそうな記事というのは無かったんですが、6522号(平成30年8月20日)にのってた判例速報を読んで、初めて「判例イジり」の食指が動きました。

 まだ、判決文そのものを確認できてないので、あくまで『国税速報』の記事ベースでのイジりになります。

 以下、

  所得税基本通達59-6を「59-6」
  財産評価基本通達188を「188」

と省略します。

 また、59-6は(1)、188は(1)と(3)に絞って検討します(「中心的な」の188(2)(4)は省略)。

 この事案で問題となったのは、個人が法人に譲渡した非上場株式の売買価額が「低額譲渡」にあたるか、という点。

 所得税法のルールでは、個人が法人に時価(「その時における価額に相当する金額」)の「1/2未満」の価額で譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなすことになっています(みなし譲渡)。

 【例】
  個人Aは、C社株を10万円で買った。
  個人AはBに、C社株を30万円で売った。その時点のC社株の時価は100万円

 ⇒Bが「個人」の場合、Aには20万円(30-10)の譲渡所得が生じます。
 ⇒Bが「法人」の場合、Aには90万円(100-10)の譲渡所得が生じます。

 つまり、個人間で流通してる間はいいけど、法人に移った時点でなるべく含み益を実現させよう、ということ。
 1/2未満というのが控えめではありますけど。

 で、この「時価」をどうやって出すのかについて、「株式」の場合には条件付きで「財産評価基本通達」を使っていいよとなっています(59-6)。

 この財産評価基本通達というのは、かつてのタイトルが「相続税財産評価に関する基本通達」だったとおり、本来は「相続税」(+贈与税)における財産の評価方法を定めるものです。

 そして「非上場株式」については、ざっくりいうと、支配力が強い株主なら高く、弱い株主なら安く評価しますということになっています。

強い株主原則評価(純資産価額方式+類似業種比準方式)←普通高い
弱い株主特例評価(配当還元方式)          ←普通安い
         
 この「強い/弱い」の判定の仕方については、188に定められています。
 弱い株主扱いしてもらえるラインを、単純化して0.1%きざみでいうと、

(1) 50%超の株主グループいる49.9%までもってていい
(1)30%超の株主グループいる29.9%までもってていい
(3)30%超の株主グループいない14.9%までもってていい

となっています。

 要するに、他に強いグループがいればいるほど、それ以外の株主は多く持ってても安く評価してもらえる、ということです。

 また、株式の場合、譲渡することで株主の構成割合が変わってしまうので、「強い/弱い」をどの時点で判定するのか、ということが問題になります。

 この点、相続税・贈与税というのは、もらった人に課税するものなので、もらった人にとっての価値に課税されます。
 なので、強いグループがいるか(会社区分)、自分がどれだけ持ってるか(株主区分)は、もらった「後」の株数で判定することになっています。

個人A→個人B 相続贈与 Bの評価額
 ア会社区分イ株主区分
(1)
(3)

 【例】
  個人Aは個人Bに、C社株を贈与した。

   A 99% →98%  (1%贈与)
     B   1% → 2%
  ⇒贈与後もAが強いグループのままなので、Bは特例評価

   A  1% →  0% (1%贈与)
   B 99% →100%
  ⇒贈与後もBが強いグループのままなので、Bは原則評価

   A 99% →  0%(99%贈与)
   B   1% →100%
  ⇒贈与後はBが強いグループになるので、Bは原則評価

 このように、贈与後にBが強いかどうかで評価方法が変わるわけです。

 で、この188のルールが「法人」への「売買」の場合にどう適用されるか、というのが本題です。
 売主である個人Aにとっての「時価」をどう評価するか。

 以下、実際の事案の割合とは変えて単純化した割合にします(実際の事案もなかなかチャレンジングだと思いますが)。

【事例】 (A'はAの株主グループという意味です。)
 1 譲渡前
    A   15% (8%をBに売却)
    A'      5%
    その他  80% (1グループで30%超いない)

 2 譲渡後
    A     7%
    A'      5%
    B     8%
    その他 80% (1グループで30%超いない)

 この点、59-6(1)は、188(1)の「同族株主」の判定は譲渡「前」で判定するとしています。
 下記表でいう、(1)アが「前」になると。

個人A→法人B 売買 Aの評価額
 ア会社区分イ株主区分
(1) 
(3)  


 譲渡「前」では30%超グループがいないので、(1)の「同族株主のいる会社」にはあたりません。

 そして、判決によれば、(3)の「同族株主のいない会社」は(1)の「同族株主のいる会社」の『対概念』だから、同じく譲渡「前」で判定し、「同族株主のいない会社」にあたるとしています。

個人A→法人B 売買 Aの評価額
 ア会社区分イ株主区分
(1) 
(3) 

 では、15%未満にあたるかどうかの判定についてはどうかというと、判決によれば、59-6(1)は188(1)の「同族株主」の読み替えしか書いてないから、188(3)の株主区分については「取得した株式」と書いてあるとおり、譲渡「後」の取得者側で判定すると。
 これが通達の『文理解釈』なんだと言ってます。

個人A→法人B 売買 Aの評価額
 ア会社区分イ株主区分
(1) 
(3)

 これによると、譲渡「後」のBは15%未満なので、Aは特例評価でいけることになります。

 判決がこのような結論をとる理由付けとしては、

・通達も、法令と同じく文理解釈によるのが原則で、みだりに拡張解釈・類推解釈するのは許されない。

・会社区分と株主区分で判定時点がズレるけど、両者は関連するものではなく同じ時点にする必然性はない。

・株主区分のほうも譲渡前で判定したいなら、通達にそう書いておくべき。

といった感じ。

 これ、納税者有利な判決(この事例では、ですが)だから、税理士的には喜ばしいはずなんですけど、なんか違和感あるんですよね。

 通達を「文理解釈」するとあるんですが、通達はあくまで国税庁による税法解釈なので、その解釈を文理解釈するという言い方がいまいち理解しにくいです。

 本来であれば、法59条1項の「その時における価額に相当する金額」について、裁判所としての解釈を示すべきなのに、国税庁の法解釈である通達に丸々乗っかった上で、その文理のみで結論を出してしまっているところが何とも。

・本来のルート
 法令 → 国税庁 → 通達
 法令 → 裁判所 → 判決

・本判決のルート
 法令 → 国税庁 → 通達 → 判決
(裁判所の主体的な判断がでてこない) 

 また、文理解釈によれば譲渡後と書いてあると読める、と言ってるんですが、そうすんなり読めるとも思えません。

 188(3)の記述は次のとおり。

 「同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」

 本判決では、「同族株主のいない会社」は、(1)の「同族会社のいる会社」の『対概念』だからってことで、譲渡前で判定と言ってるんですが、本判決のやってる『文理解釈』からすれば、『対概念』といった論理から解釈を導くのは文理を超えてしまっている気がします(ただし、本件では譲渡前後で結論変わらず)。

 「同族株主のいない会社」を譲渡前で判定するとして、そこから後ろの記述を売買の場合として読むの、難しくないですか。

 Aにとっての時価が問題なんだから、ここでいう「株主」は売主Aである必要があるんですけど、最後の「株主の取得した株式」のくだりを書いてあるとおりに理解しようとすると、買主Bのこととして読まないといけなくなります。
 また、所得税では「課税時期」という言い方しないんですが、本判決の結論を導くには、これを「売買後」と読み替える必要があります。

 ちなみに、本事例を少し変えて、Bがもともと7%持っていたとしたら、譲渡後のBは15%となってAは原則評価になってしまいます。

    A     7%
    A'      5%
    B    15%
    その他 73% (1グループで30%超いない)

 Aの含み益の精算を目的としているはずなのに、買主側の割合によってその金額がかわってしまうという不思議。
 もしこの結論を避けたいのであれば、株主(B)の「有する議決権」が15%、ではなく、「取得した議決権」が15%と読み替えなければなりません。

 このように、188(3)を売買の場合にあてはめるには、何らかの「読み替え」が必要になるのであって、判決がいうように、文理解釈すれば当然に譲渡後と読める、とは単純にいえないと思うんです。

 所通ちゃん(所得税基本通達の愛称)的には、(1)アを譲渡前に読み替えたんだから、自動的に(1)イも、(3)アイも譲渡前にひっくり返るはず、というつもりだったと思うんです。

個人A→法人B 売買 Aの評価額
 ア会社区分イ株主区分
(1)
(3)

 この解釈でいくと、本事例ではAが譲渡前で15%もっているので、(3)イに引っかかって、原則評価でいくことになります。

 実際、判決でも(1)ア⇒(3)アは『対概念』ということで「前」にひっくり返しています。
 また、(1)ア⇒イは、「同族株主以外」と書いていることからすれば、文言上も「前」になるはずです。

 問題は(3)ア⇒イですが、上に書いたとおり、他の株主グループがどれだけ強いか(会社区分)によって、自分が少数株主でいられるライン(株主区分)が変わるわけなので、同じ時点で判定しないと意味がないはずなんです。

 判決では、会社区分と株主区分は「関連するものではない」と言ってしまってるんですが、さすがにこれは結論ありきの強弁ではないかと。

 ちなみに、財産評価基本通達6には、通達による評価が「著しく不適当」な場合には国税庁長官の指示によって評価するとあります。
 なので、相続税法における評価の場面では、形式的に通達に従ってさえいれば必ず適正、ってことにはなりません。

 ところが、本事例の判決では、通達の文理に従って評価してるから問題なし、で済ませてしまっています。

 おそらくですけど、判決の理屈でいえば、所得税基本通達が財産評価基本通達6を適用するとは書いてないから、この規定は適用されない、ということになるんでしょうね。

 このように、判決に書かれている理由付け、あまり筋の良いものと思えません。
 税法は文理解釈が大原則、という近時の一連の判例の流れにのっかったつもりかもしれませんが、言うほど文理どおりでもないですし。そもそも「法」じゃないですし。

 文理解釈だからといって、立法趣旨や論理を『ガン無視』して、部分的な言葉尻だけから結論導くって、無理があります。

 通達がバグっているというなら、半端な通達の文理解釈なんかやらないで、裁判所自身が所得税法における「その時における価額」の解釈を示すべきだと思います。

 もし、この判決の結論を正当化するのであれば、「信頼の原則」とか「禁反言の原則」を持ってこざるをえないと思います。
 つまり、すんなり理解できない通達を書いた以上は、その記述に明らかに反するわけではない納税者の行動を不利に扱うなということ。


※この事件、最高裁で弁論が開かれることに(2020/3/3 PM1:30)。

【最高裁のサイト】

※最高裁判決でました。

○所得税法

(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

○所得税法施行令

(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
第百六十九条 法第五十九条第一項第二号に規定する政令で定める額は、同項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。

○所得税基本通達

(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
59−6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23〜35共−9に準じて算定した価額による。

この場合、23〜35共−9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、「財産評価基本通達」の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。

(1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

○財産評価基本通達

(同族株主以外の株主等が取得した株式)
188 178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。

(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
 この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式

 この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。

(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式

(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式

 この場合における「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいう。

(この通達の定めにより難い場合の評価)
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。


posted by ウロ at 09:32| Comment(0) | 判例イジり
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