2018年10月01日

ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

 以前、家なき子の特例についての記事を書きましたが、例によって、ややこしくなるってことで避けてたパターンがあります。

 イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
 パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○

 よくよく考えてみて、やっぱりパラドり具合パねえ、と思ったので整理しておきます。

 なお、以下は本法の説明で「経過措置」については考慮外としています。
 また、事例のAは被相続人(配偶者なし)、Bは法定相続人(子)とします。


 前回の記事では家なき子の要件を以下のように書きました(一般要件除く)。
 
1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
2−1 相続前の3年間に
   ・自分と自分の配偶者
   ・三親等内の親族
   ・特別の関係がある法人
   の持ち家に住んでいない
2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
3   相続から申告期限まで継続保有

 2の要件に絞りが入ったと。

 実は2−1には例外が括弧書きで書かれてて、「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除くことになっています。
(以下、2−1の本文のほうを「原則要件」、括弧書きの例外のほうを「除外要件」と呼びます。)

 これ、どういう事例を想定しているかというと、たとえば、

 《事例1》
  ・土地 A所有
  ・建物 B所有
  ・ABが同居していたがBは1年前に転勤で社宅住まい

といった場合。

 この場合、Bは3年以内に自分の持ち家に住んでいたので原則要件に引っかかると思いきや、Aが住んでいたってことで除外要件みたすことになります。


 で、思ったのが次のような事例。

 《事例2》
  ・土地 A所有
  ・建物 B所有(2世帯住宅・区分所有なし)
  ・1階にA居住、2階にB居住
  ・Bは1年前に転勤で社宅住まいで、2階は空家になった。

 まず、Bは3年以内に自己所有の持ち家(2階部分)に住んでいたので原則要件に抵触すると。
 では、これが「Aの居住の用に供されていた家屋」といえるのかどうか。
 1階部分にAが住んでいれば家屋全体がA居住となるのか、それとも、1階と2階は「独立部分」として、2階にはAは居住していないとなるのか。


 この検討は後回しにして、同様の事例で区分所有ありの場合はどうかというと、

 《事例3》
  ・土地 A所有
  ・建物 B所有(2世帯住宅・区分所有あり)
  ・1階にA居住、2階にB居住
  ・Bは1年前に転勤で社宅住まいで、2階は空家になった。

 まず、Bは3年以内に自己所有の持ち家(2階部分)に住んでいたので原則要件に抵触すると。
 そして、区分所有ありの場合は区分ごと別々に居住判定するので、Aは2階部分に住んでいなかったことになり、除外要件にあたらない。
 よって適用なし。

という結論になるんでしょう(ただし後述)。


 で、《事例2》に戻りますが、以前の記事でも書いたとおり、同居判定の二枚舌っぷりがここでどう発揮されるか、という話です。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)

b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)

c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)

d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 a〜cまでをわかりやすく「同居」で言葉揃えてますが、厳密にはそれぞれ言い回しが違いますので、二枚舌というのは言いすぎです。すみませんでした。

 が、紛らわしい表現で混乱させる気満々。書いてあるところも法・令・通とバラバラだし。

 結論的にはabの「一棟ルール」ではなくcの「独立ルール」で判定せざるをえない気がしますが、直接は書かれていないんですよね。

 ポジション的には、cの通達69の4-21が同じ条項のことについて書いていて、一番近いわけです。
 が、ここでは

  ア 「他の法定相続人」が被相続人居住の家屋に居住していたかどうか

の判定のことが書かれているのであって、今回問題としている、

  イ 「被相続人」が家なき子の持ち家に居住していたかどうか

の判定のことは書かれていないわけです。
 しかも、今回の改正前後でこの通達の文言変わってないので、イはそもそも想定していないはず。

 同じ居住なんだから同じ基準でいいだろ、といえないところが、措置法が二枚舌とかパラドキシカルとか揶揄される所以。

 こんな通達、解釈を解釈するでお馴染み、例の裁判体に見られたら、どう判断されるものか。

 解釈を解釈する解釈(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 実は、区分所有ありの《事例3》も結論ありきで書いているものの、こちらも直接の規定はなかったりします。
 さすがに区分所有あったら別々だろうな、というだけの理由です。

 で、《事例2》のあてはめですが、「独立ルール」で判定するのであれば、2階部分にAは住んでいないことになるので、除外要件は満たさないと。
 他方で、「一棟ルール」なら、Aが1階部分に住んでいれば2階部分含めてAが居住していたことになり、除外要件を満たすと。


 《事例2》《事例3》では、2−1を検討しやすくするため建物をB本人所有ってことにしましたけど、実際にはA所有のほうがありうるかと。

 《事例4》
  ・土地 A所有
  ・建物 A所有(2世帯住宅・区分所有なし)
  ・1階にA居住、2階にB居住
  ・Bは1年前に転勤で社宅住まいで、2階は空家になった。
 
 この場合、A所有でもBの「三親等内の親族」の持ち家となるので原則要件に抵触すると。
 で、除外要件は《事例2》と同じく「独立ルール」なら満たさない、「一棟ルール」なら満たすと。

 ちなみに、改正前だとA所有ならOKだったので、特例適用できてたんですよね。
 それが今回の改正で適用できなくなってしまったと。

 原則要件広げ過ぎちゃったもんだから、除外要件で救済しようとしたんじゃないかと思うんですが、これを「独立ルール」で判定してしまうと、こういう場合(つまり、なんちゃって同居)が救われない。


 居住cと居住dを同じ独立ルールで揃えようとすると、

  a 一棟 ⇒適用範囲広がる
  b 一棟 ⇒適用範囲広がる
  c 独立 ⇒適用範囲広がる
  d 独立 ⇒適用範囲狭まる

と、一人だけ逆方向なわけで、どうやらおかしい。

 abcまでは、二世帯住宅を保護しようぜ、てことで適用範囲を広げたせいでアパート・マンションまで優遇するところまでいっちゃってたわけですけど、dを独立ルールにしてしまうと、その方向性が一気に反転することになってしまうわけです。

 また、区分所有なしの《事例2》《事例4》は、転勤さえなければa+bルールで敷地全体に適用受けられたわけで、この結論の大きな違いはどうやって説明すればいいんでしょうか。


 とりあえず、被相続人Aにはどうにか3年頑張ってもらいますか。
 と、思ったんですが、「経過措置」のことまで考慮に入れると微妙な事態になりそう。

 具体例をあげるとなんか悲しくなるのでやめておきますが、経過措置の適用を受けるには「平成32年3月31日」までに相続が発生する必要があるわけです。
 他方で、新法の適用を受けるには転勤から「3年」経過する必要があるわけです。
 そうすると、経過措置の適用を受けたいのでお早めに、と強く願ってた相続人が、「平成32年3月31日」を境に、転勤から3年経過するまで頑張れ、と手のひら返す事例が想定できそう。

【恐るべき相続世界】
転勤
 ↓ ←旧法で○
平成30年3月31日
 ↓ ←経過措置で○ 「お早めに!」
平成32年3月31日
 ↓ ←3年以内なので× 「やっぱり頑張って!」
転勤から3年
 ↓ ←3年以上なので○ 「もういいよ!」

 措置法本人のみならず、経過措置によって相続人まで二枚舌化ってことですか?

【小規模宅地等の特例】
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関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
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【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2
posted by ウロ at 11:07| Comment(0) | 相続税法
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