2018年10月22日

近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)

 ※以下の記事は「第7版」に対する評価でしたが、その後平成30年商法改正を織り込んだ「第8版」が出版されました。
 ので、下記の「時空間歪み問題」は解消されたわけで、この本単体としてはおすすめできるようになりました。
 が、数ヶ月しか通用しない本を出版しておきながら、フォローもなしに新版出すとか悲しみが半端ないので、内容修正せずに残しておきます。他の本でも同じことが起こりうるので、注意喚起として。

 いやあ、読み物の恨みは怖いですね。



近藤 光男 「商法総則・商行為法 第8版」 有斐閣2019


 昨今の教育的配慮を尽くした、みたいながちゃがちゃした教科書とは違って、極めてオーソドックスな記述なので、とても落ち着いて読めます。
 
 判例の引用も、長々と判決文をコピペしたりせず、ポイントを絞った説明にとどめているのがいいですね。

 特商法とか割販法の解説は条文引き写し感がきついんですが、法律の性質上、まあしょうがない。

【条文を見比べてみたまえ】
 商法
 特定商取引に関する法律
 割賦販売法

 話は脱線しますが、教科書に判決文の一部を切り取って長々引用するのって、あまり意味がないと思っています。
 というのも、判例をちゃんと理解しようと思ったら、当事者の主張や事実認定含む下級審の判決から読んでいかないとだめなわけで、最高裁判決の規範部分だけを長々と引用したところで、あんまり意味がないと思うんですよね。
 最近は判例集も充実しているんだから、教科書上はポイントだけ書いて、あとは判例集みてね、でいいんじゃないですかね(もっと言えば、裁判所によるフィルターのかかっていない、生の事件記録そのものを見るべき、なんでしょうけど)。


 話は戻って。

 がしかし、この本を手放しでオススメできない理由が。

 この本、2018年3月に出版されてて、まあ、2018年度の授業に間に合わせようとしたんでしょう。

 で、2017年の民法改正を反映したとあるんですが、改正法に関する記述のスタンスが潮見佳男先生の「民法(全)」と同じ方針で、改正後の内容に沿った記述になっています。
 改正前はどうだったか、ということが(ほぼ)書かれていない。

 潮見佳男『民法(全)第2版』(有斐閣 2018)

 私の見落としがなければですが、民法改正にあわせて廃止された「商事法定利率」(商法514条)とか「商事消滅時効」(商法522条)の記述がごっそり無くなっています。
 廃止されました、みたいな記述もなく。サイレント・デリート。


 改正民法の施行日(2020年4月1日)までまだ2年もあるのにちょっと気が早くない?、というのもあるんですが、「商行為法」の場合は本家民法よりももっと問題が深刻です。

 というのも、商法の運送・海商関係の規定が2018年5月に改正され、1年以内に施行されることが決まりました(2019年4月1日施行)。

 商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について


 成立自体はこの本の出版後ではありますが、法制審議会は2014年4月からスタートしてて、2016年1月には要綱案が提出されていました。

 法制審議会 - 商法(運送・海商関係)部会

 なので、こういう改正が検討されているよ、といったことは盛り込めるはずなんですが、そういった記述すら一切ありません。

 確かに、

  ・成立した法律はすでに施行されたものとして記述する。
  ・成立前の法律は改正案すら一切記述しない。

という意味では一貫した方針かもしれません。

 が、その方針のせいでありえない新世界が誕生する結果になっています。


 この本の法律世界の時間軸がどうなっているかというと、

  ・改正民法はすでに施行されている。
  ・改正商法はまだ存在すらしてない。

というものです。

 が、改正民法は2020年4月にならなければ施行されないのに、改正商法は2019年4月には施行されています。
 だから、改正民法が施行されているのに、改正商法が施行されていない世界は、民法と商法で時間の進み方が違うという新世界の常識を導入しないかぎり、存在不可能です。

 《2020年4月より後で2019年4月より前の世界???》
 ←この文章読むと頭がグルっとして酔いそうになるのですが、言葉の力ってすごいですね

 もしかしたら、改正民法本体と改正商法の経過措置の美しいハーモニーの結果、改正民法+旧商法のカップリングも、儚いひと夏の思い出のごとくありうるのかもしれません(ただし、少なくとも私にはそんな甘酸っぱい思い出は皆無)。

 2018.3時点 旧民法+旧商法
 2019.4〜  旧民法+新商法
 2020.4〜  新民法+新商法
 儚い夢?  新民法+旧商法(経過措置の魔法?)

 が、この本では、改正民法については経過措置を無視して改正後の世界だけを記述しているわけで、改正商法の経過措置だけを利用するなんて、ひと夏で終わらせようとするなんて、そんな都合よい話でいいのかってことです(ひがみが強い)。


 ところで、当ブログでは、さんざん租税特別措置法を「クリエイティビティ」だとかなんだとかいって揶揄してきました。

【措置法イジりの歴史】
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ
ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)

 他方で、実定法の教科書で、現実に存在しえない時空間を生み出したのを観測したのは、はじめて。
 今まで、そこまでちゃんと読み込んでなかっただけかもしれませんが。

 もちろん、出版時点ではその未来世界が存在していたわけですけど、たった2ヶ月で破壊されてしまったわけです。
 短命すぎやしませんか。

 素直に、

  1 改正されたものは改正前後を書く
  2 改正されそうなのは改正案を書く

でいいと思うんですけど。
 1が嫌なら2だけでも書いておけばいいのに。


 この本に限らず、法学の教科書って、「施行時期」とか「経過措置」が軽く扱われがちなんですが、そのあたりに関する配慮の弱さが、ここで問題として吹き出した感じ。

 最初にも書いたとおり、読み始めた最初のほうはとても良い本だと思っていて、全面的にほめるだけの内容になるかと思っていたんです。記述がすんなり頭に入ってくるし。

【全面的にほめるだけの内容になった例】
 川口恭弘『金融商品取引法への誘い』(有斐閣2018)

 が、全体読んだ後に違和感が残って、よくよく考えたら時間軸のねじれだったことに気づいてしまい、結果こういう書評になりました。

 同じジャンルですが全くコンセプトの違う、江頭憲治郎先生の『商取引法』というのが2018年10月に出版されているので、こちらだとどうなっているのか、今後確認してみたいと思います。



江頭 憲治郎 「商取引法 第8版」 弘文堂2018
posted by ウロ at 09:20| Comment(0) | 会社法・商法
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