以前のブログで印紙税法における請負/委任の扱いについて書きました。
森田宏樹『契約責任の帰責構造』(有斐閣2002) 〜印紙税法における「結果債務・手段債務論」の活用
そのときは気にしてなかったんですが、2017年改正民法で、次のような規定が新設されてるんですよね。
(成果等に対する報酬)
第648条の2 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
2 第634条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第634条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
これは「成果報酬型委任」というもので、今までそういう類型の委任が実務上存在していたのを、明文化したものです(ので、新しい類型を創作したわけではないです)。
つまり、成果を得られないと報酬がもらえないけども成果を得る義務まで負っているわけではない、という契約類型がある、ということです。
【A (従来型)委任】
債務の負担内容 成果を得ることは義務ではない(手段債務)
報酬の支払条件 成果が得られなくてももらえる
【B 成果報酬型委任】
債務の負担内容 成果を得ることは義務ではない(手段債務)
報酬の支払条件 成果が得られないともらえない
【C 請負】
債務の負担内容 成果を得ることが義務である(結果債務)
報酬の支払条件 成果が得られないともらえない
これ、並べてみて明らかな通り、AB(委任)とC(請負)との違いは、報酬の支払条件にはなくって債務の負担内容のほうにあるんですよね。
印紙税の調査において、調査官はよく「仕事の完成と報酬の支払が対価関係にあれば請負だ」みたいなことを主張してくるんですが、それは論理的に成り立っていないということが条文上も明らかになったわけです。
今まで大々的に論じていた「結果債務・手段債務論」に、条文上の味方が登場。
対価関係がなければ請負でないことは明らかですが、その逆は成立しません。
○成立する :仕事の完成と報酬の支払が対価関係にない ⇒ 請負ではない
×成立しない:仕事の完成と報酬の支払が対価関係にある ⇒ 請負である
対価関係があっても、それはAの委任でないことが分かっただけです。Bの成果報酬型委任なのかCの請負なのか、それをどう判断するかといえば、あくまでも契約上債務者が成果を渡す義務を負担しているかどうかによる、ということです。
【成果がでなかったら】
・請負: 債務を履行していないと評価される
・委任: そのこと自体では債務を履行していないとは評価されない
ので、委任の場合、きちんと頑張っていれば成果がでなくても責任追及されないし、逆に、成果はでたけど実現過程に問題があったら、場合によっては責任追及されることもありうると。
○
以上、あまりイジると「じゃあ書けばいいんだろ」と、成果報酬型委任を印紙税法に取り込む改正がされても藪蛇なので、あまり騒がないようにします。
ちなみに、税理士のための改正民法(改正民法×税理士)みたいな解説本、いくつか見かけるようになりましたけど、こういう本当に実務で頻出するような論点(足元系税務)に及ぼす影響について、きちんと論じた本がないように思います(個人の観測範囲)。
2018年11月05日
Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法
posted by ウロ at 11:19| Comment(0)
| 印紙税法
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