2018年10月30日

井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)

 ツイッターで、読むぞ宣言したら、井田良先生ご本人から後押しいただきました。




 ので、張り切って一気読みしました。

 本気の「刑法総論」本は久しぶりなもので、かなり脳が発熱しましたが、その分活性化された気がします。

 ということで、書評的なものを書こうと思うのですが、私には井田先生のご高説についてどうこう意見できる能力もないので、説の当否には立ち入らず、アウトボクサーよろしく、外側からあれこれ語ってみます。
 撮って出し感強いので、見直してから手直しするかもしれません。

 自分で書いておいてなんですが、ボクシングをやったこともない人間がボクシングで喩えがちですけど、どうなんですかね。
 「ボディーブローのように効いてくる」とか、あとからジワジワ効いてくる喩えみたいに使ってますけど、素人がボディーブローなんか受けたら、一発で倒れちゃいますよ。

 それはさておき。

○刑法総論⇔刑法各論

 刑法学って、「刑法総論」と「刑法各論」に分かれています。
 「各論」は、傷害罪とか窃盗罪とか個別の犯罪類型について論じるもの。
 「総論」は、それら犯罪類型に共通する要素について論じるもの。

 この本は総論の本なんですが、各論の知識がないと理解できないところが多数。
 もちろん、私自身は各論含めて一通り勉強しているので、一応理解はできるのですが、はじめて総論から勉強する人にとっては厳しいはず。
 それを補うための各論本とのクロスリファレンスなんでしょうけども、各論ヴァージンにとっては、前提知識なしに参照ページだけ読んでも十分理解できないわけで。
 あ、総論改訂したから「クロス」じゃなくなったのか(でも、クロスを実現するには同時出版か通し番号をつけるかしないといけないので大変そう)。

 総論の議論って、実際のところ「共通する要素」といいつつも、特定の犯罪類型を念頭に置いた議論がされることがしばしば。

 なので、理想的には、
1 総論の全体像にかるく触れる
2 各論の個別の犯罪類型ごとの論点を論じる
3 そこに総論の個別論点を随時差し込んでいく
4 最後に共通要素を抽出する

という順番でやるのが学習効果高いと、個人的には思っています。

 たとえば、井田先生は、故意は違法要素だと主張されています。
 この説の当否って、もちろんそれ自体の理論的根拠はあるのですが、むしろ体系全体の中の納まりぐあいのほうが大事な気がします。
 故意そのものに本質が備わっているのではなく、体系全体の中でどのような役割をもたせるかによって、中身が変わってくるはずなので。その役割もあくまで他の要素との役割分担によって決まるわけですし。
 そうだとすると、窃盗罪なら窃盗罪の中で、構成要件・違法性・責任と体系をコンパクトに論じたものを一通りみた上で考えたほうが、検討しやすいと思うんです。

 これ、「民法」でも同じことがいえます。
 通常は「民法総則」から順番に勉強していくので、契約法のルールも知らないまま、契約の無効・取消しとか代理みたいなパーツから勉強していくことになります。
 が、契約法の全体像が分からないのに、そんなパーツだけを学んでも、いまいち理解できないんですよね。

 それよりも、売買とか賃貸借とか、個別の契約類型ごとに勉強していったほうが理解しやすいと思うんです。
 たとえば、売買の中で「解除」を論ずる、賃貸借の中で「解除」を論ずる、最後に共通する「解除」ルールを抽出する、といったように。

 「危険負担」とかも、初学者がいまいち理解しにくいのは、債権者主義とか債務者主義とかいっているけど、どっちがどっちだよ、という点にあると思います。
 これも、売主負担/買主負担とか賃貸人負担/賃借人負担とか、契約類型ごとに具体的に書いてくれれば理解しやすいと思うんです。

 話が逸れたので、刑法に戻します。

 現状では、総論と各論を融合した本て無いと思います。一冊本でも結局のところ、「第1編 総論」「第2編 各論」とかって別れているはず。

 ので、現実的な対応策は、井田先生の総論・各論の入門書のような薄い本を一気読みする、というのをおすすめしておきます。



※総論は11月に第2版が発売だそうです。

以下は、個別の頁ごとの感想。

○260頁

 この本、内容的には結構難しいことが書いてあるんですが、それでも読みやすかったりします。
 なんでだろうな、と考えて、おそらく次のような記述のおかげではないかと。

 たとえば、因果的行為論と目的的行為論の対立を論ずる箇所で、

 「違法性判断の対象たる行為をどのように捉えるかをめぐり、基本的な見解の対立がある。」

と書いたあと、普通の教科書なら、いきなり因果的行為論と目的的行為論の主張内容とそれに対する批判に入っていきがちですが、この本はそうではなく、その前に次のような記述が挟まります。

 「行為の概念は、違法評価の対象(ないし事実的基礎)がどのようなものかを統一的に明らかにできる上位概念でなければならない(基本要素としての機能)。したがって、その中にはそのすべての可罰的行為態様が(したがって、行為行為も過失行為も、そして作為も不作為も)等しく含まれなければならない。同時に、行為概念は、およそはじめから違法評価の対象となりえないもの(およそ刑事責任追及の対象となりえないもの)を排除して、処罰範囲の外枠を限界づけることができるものでなくてはならない(限界要素としての機能)。」

 「さらに、犯罪成立要件のすべては、同一の行為に対する評価であることによって、相互に結びつけられ、また内容的に関連づけられる。構成要件に該当する行為について、その違法性が問題とされ、構成要件に該当しかつ違法な行為について、その責任が問題とされる。これを行為概念の結合要素としての機能という。」

 こういう記述を先に書いてくれることで、なぜこのようなことを検討する必要があるのか、検討するにあたってどういう点を考慮すればよいか、などといったことが分かります。
 ので、その先の記述もこれに従って、自分で考えながら読み進めていくことができます。

 初学者にとっては、そもそも何が妥当な結論かすら自分で判断できないことが多いわけで、説の当否を判断するための「ものさし」を明示してくれるの、とても助かると思います。

【ものさしと言えば】


藤田宙靖 新版 行政法総論 上巻(青林書院2020)
藤田宙靖 新版 行政法総論 下巻(青林書院2020)

 『法律による行政の原理』というものさし一本で、行政法理論を測定する超名著。


○354頁

 法益放棄による価値の実現に錯誤があった場合として、山中敬一先生があげている《炎上する自家用車の中に子どもが閉じ込められていると欺罔されて怪我を覚悟で助けたけど、子犬がいただけ》というケースを引用されています。
 
 もちろん刑法理論としては、この場合に同意が無効になる、というのは分かる、分かりますよ。
 刑法的には、動物は財物であり、そして生命>身体>>>財物という序列ですものね。

 が、ですよ。
 ここは犬派の皆さんに対するフォローが必要ではないでしょうか。

 今回の書評、ほかは単なる個人の感想ですが、ここだけは、強く訴えたい。


○451頁

 「具体的危険説」のところだけは、何回か読んだけれども理解できませんでした。
 判断方法について、かなり詳しく書いてくれているんですが、「一般通常人に認識可能だったか」というのがどうにも。

 空ベッド事例では、その一般通常人はどこから見てるのか。
 これが布団ではなく、衝立の向こうに被害者がいると思って、という事例の場合、衝立のこっち側から見るのかあっち側からみるのか。

 リボルバーだったら、角度によっては弾が装填されているか外から見えるわけで、『リボルバー、横から見るか?後ろから見るか?』問題が発生します。

 そもそも「見る」という視覚的な認識だけで判断するのかどうか。臭覚とかは?

 たとえば、被害者がベッドの中にいれば一般通常人なら臭いで気づくところ、行為時に臭いはしなかったので一般通常人には被害者がベッドの中にいないことは認識できた(が行為者は鼻づまりでわからなかった)場合はどう判断するのか。
 被害者の体臭の強さ自体も認識できる/できないの対象とするのかどうか。

 ここはもう少し考えてみます。


○479頁

 間接正犯で、他人の犯罪行為を利用して自己の犯罪を実現する例として、ハウルの動く城(建造物)からカルシファーを盗むように教唆する、という例をあげてて、おもいっきりファンタジーなのに、なんかすんなり理解できました。

 ジブリってすごいんですね。

○事項索引

 「事項索引」に外国の学者の名前がのっているんですが、のっている人とのっていない人がいて、これどういう選抜基準なんですかね。

 あと、「ま」の項目に「マックス・エルンスト・マイヤー」とあるんですが、フランツ・リストは「リスト」だし、ジョン・スチュアート・ミルは「ミル」なわけで、なぜマイヤー先生だけ?

 その辺のお作法は私が無知なだけなんでしょうけども。


 以上、おかしな感想ばかりで真面目なツッコミがありませんが、それは私の読み方が変わっているだけで、本自体はとてもいい内容なので、是非ともチャレンジしてほしいです。

posted by ウロ at 09:40| Comment(0) | 刑法
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